第五話「聖十字軍の脅威」











アレが……クレイルの新型機。

まさか完成していたとはな……。

そして俺たちの基地が……。

……チクショウ。











照明の点いていない暗い部屋。

クレイルはそっとベッドから起き出し、フェイトを起こさないように静かに着替え、部屋を出ようとした。

……つもりだったが、どうやら起こしてしまったようで、ゴシゴシとフェイトは目を擦っている。

こんな時だけは勘が鋭い、とため息を吐きながら振り向くと、寝呆け眼のままのフェイトが話しかけてきた



「クレイル……こんな時間にどこに? 私たちには待機命令が出てるはずでしょう?」

「なに、慣らしに行くんだ」

「慣らしにって……アレを?」

「アイツ以外に何があるって言う」



そう言うとクレイルは部屋を後にしてしまった。

慌てて追いかけようとするフェイトだったが、自分が裸なことに気づき、慌てて着替えを行いクレイルの後を追った。



「何だ、着いてきたのか。まだ寝ててもいいんだぞ」

「はぁはぁはぁ……でも」



フェイトの心配そうな瞳。

その瞳にクレイルは答えてやった。



「俺はお前に『枷』を与えた。俺が生きている限りお前は生きる『義務』があると。それに、俺はそう簡単にくたばりゃしねーよ」

「でも、もしもってことが……。それに、今行っている任務って確か……」

「ああ、極東の……佐世保基地襲撃任務だ。この前までお前が居たところだな」



その言葉を聞いた瞬間に、フェイトの顔色は目に見えて悪くなる。



「……そんな顔をするな。そんな顔をさせない為に、俺はお前に枷を与えたんだ。……じゃあ、行ってくる」



そう言い残し、クレイルはタラップに乗り、直属の上司に当たるエルザムから与えられた新たな機体に乗り込む。

機体に火を入れると動力炉が温まり、駆動音がコクピット内に響く。

クレイルはタバコを一本取り出し、吸い終わったらコクピット内に捨て、呟いた。



「行くぞ
――――Mk−V!!」




















佐世保基地では、パーソナルトルーパー隊がDCの最新鋭戦闘機と戦っていたが、それは互角と言ってもいい戦いだった。

一般人はパーソナルトルーパーの方が戦闘機などより優れていると言うが、それは汎用性が高いという意味であり、実戦では実際大差はあまりない。

最も経験豊富であり技量の高いカイを中心にし、ジャーダ、ガーネット、ラトゥーニが続いているが、戦果は芳しくない。



「ゴースト1より各機へ。敵は最新鋭機だ。油断するなよ!」

『分かってますよ。ここは俺たちの家だ。好きにはやらせませんって』



ジャーダはそう言うと、量産型ゲシュペンストMk−Uに装備されたM950マシンガンを敵機に向かい発射するが、
相手は戦闘機、機動性はあちらの方が断然に上な為、中々当たらない。



『ちょっと! 全然当たってないじゃない。ラトゥーニを見習いなさいよ!』

『うるせぇ! 俺だって精一杯やってんだよ! なぁ、ラトゥーニもそう思うだろ?』

『…………』

『ラトゥーニ。返事くらいはしてくれ。悲しくなるから』

『……敵の増援を確認』

『シット! 何で佐世保基地(ここ)はよく狙われるんだろうなぁ!!』



そう言いながらマシンガンを斉射するが、当たらない……と思ったが敵機は爆発した。



『イヤッホー! やったぜ! 見たか、ガーネット!!』

『アレ、ラトゥーニが当てたんだけど』

『……今の俺を見るな。ダセぇ』

『お前ら! 無駄話をしている暇があるなら一機でもいいから、撃ち落とせ!!』



カイの雷が落ち、二人は迎撃任務に従事した。






カイは戦闘機にマシンガンを斉射しながら考えていた。

どう考えてもおかしい。

本当に基地を落としたいのならば、アーマードモジュール
――リオン――と投入してこないとはどういうことだ。

あの機動性はDCの戦闘機の比ではない。

もし今、基地を襲っている戦闘機が全てAMだったら当に壊滅しているはずである。

それなのに、襲来しているのは全て戦闘機のみ。

いくら最新鋭の戦闘機だとしても、戦闘機だけで基地を壊滅させるのは難しいはずである。



(いったい……何を考えている?)



敵の作戦が全く読めないことにイラ立ちを覚える。

と。



『こちら、ダスト2! ゲシュペンストのカスタム機と思われる敵機が一機、増援に現れました!!』

「何だと!?」



北側の守りについていた部隊からの通信。

ゲシュペンストのカスタム機……おそらくどこかで奪取された機体を改修したのだろうが、たった一機を投入したということはどういうことだろうか。

ましてや相手側にはリオンというAMがある。

長時間の空中戦闘が出来ないゲシュペンストを改修するとはいったい何を考えているのだろうか?



「こちら、ゴースト1。状況を知らせろ」



しかし、応える者はいなかった。



「どうした! 状況を知らせろ!!」



しかし、返ってくるのはザーっと言うノイズのみ。

いったい、何があったというのだ?

カイの脳裏に浮かぶのは、最悪の結果のみ。

つまり……全滅。



(だが、たった一機。しかも動きをよく知っているゲシュペンストだぞ?)



色々と検討してみるが、いかんせん情報が少なすぎる。

思考のスパイラルに陥ってしまいそうになったその時、通信が入った。



『こちらイングラム。これより援護に入る』

「援護だと? だったら、北側に行ってくれ。……嫌な予感がする」

『了解した。では、こちらの戦力を分散する。ここにはSRXチームを置いていく。聞いての通りだ、出撃しろ』

『了解』



応答に応えた声の中には、カイが良く知っている声が混じっていた。



(アイツらが来たのか)



こういう状況において、もっとも適任と言える人物たちがやって来た。

これならば、佐世保基地を防衛できるかもしれない。

カイの仄かな期待を乗せ、アキトたちはタウゼントフェスラーから出撃し、北側に向かった。




















アキトたちが北側に辿り着いた時には、すでに部隊と呼べるものは壊滅していた。

何機かは残っているが、そのどれもが戦闘できる状態ではない。

アキトは、この惨事を作り上げた機体を睨みつける。

その機体色には見覚えがあった。



蒼き獅子(ブラオ・レーヴェ)……」

『フンッ。来たか。命を無視された戦士(ゲシュペンスト・イェーガー)

「ああ、来た。貴様を消し去る為に」

『その台詞……そのまま貴様に返す』



一通り挨拶を済まし、アキトは改めてクレイルの機体を見つめる。

クレイルのパーソナルカラーにカラーリングされているゲシュペンストのカスタム機。

特徴的なのは、右腕に供えられた杭打ち機のような武装。

今さっきまで使用されていたのか、煙を吐き出している。

そして、左腕にはマシンキャノン。

両肩には、大型の特殊装備らしきもの。

ゲシュペンストの面影はあるにはあるが、およそゲシュペンストに似つかない機体。

これはまさか……。



「その機体。まさかとは思うが……ラングレーから奪取したのか?」

『良く分かったな。その通りだ。この機体はゲシュペンストMk−Vとして開発された機体。そして俺の新たな機体でもある』



やはり思った通りだった。

あの機体はラングレーでマリオン博士主導のもと開発が行なわれていたゲシュペンストの新たな形
――――通称『アルトアイゼン』。

まさかもう完成していたとは。

そして、ラングレーが落ちていたとは……。



『貴様も機体を乗り換えたようだな』

「……成り行きだ」

『そうか。ならば新たなゲシュペンスト同士、機体性能の慣らしを行うか』

「いいだろう……お前たちは手を出すな」



言われたとおりに、二人は機体を下がらせた。

この二人には因縁がある。

それを邪魔することは、できない。

二機は距離を取ったまま正対し、やがて相手の動きを探るようにゆっくりと動き出す。

機体の関節が軋む音がその場に響く。

ゆっくりと、ゆっくりと近づくと、額には汗がにじみ出してくる。

緊張の糸が切れたかのように、二人は同時に動き出した。

アキトはメガ・ビームライフルを発射し、クレイルは三連マシンキャノンを発射した。

三連マシンキャノンをかわすと、もう一度メガ・ビームライフルをクレイル機目掛けて発射したが、ビームはアルトアイゼンの手前で霧散した。



(ビームコート……か)



アルトアイゼンの装甲にビームコートがあると判断したアキトはメガ・ビームライフルを捨て、
破壊されその場に転がっていた量産型ゲシュペンストMk−Uが装備していたであろうM950マシンガンを右手に取り、アルトアイゼンに向けて発射。

しかし、アルトアイゼンはその駆体に似つかわない動きでそれを回避。

だがそれは、機体の運動性能が上がっているのではなく、単にクレイルの技術が高い為である。

運動性能は、動きを見た感じではゲシュペンストMk−UタイプTTとそう変わりはない。

こちらの武器は射撃攻撃の方が特化している。

それに比べて、アルトアイゼンの武装は近接格闘武器が主体。

ならば運動性能が同じな為、勝敗はいかに武器を巧く使うかが勝負の分かれ目に繋がる。

三連マシンキャノンで牽制しながら近づこうとするクレイルに対し、アキトは後退しながら攻撃するという戦法をとっていた。

だがしかし、ブースターの出力が違うのか、じりじりとその距離は縮まっている。

少しでも距離を取る為に、アキトはスプリットミサイルをクレイル機の足元に発射、爆発させる。

砂埃が舞い上がり、煙幕としての役割を果たす。

その隙に少しでも距離を取ろうとするが、砂埃の中から突き出してくる角があることに気がついた。

アルトアイゼンの頭部に供えられたヒートホーン。

通常推進器に加え、アフターバーナーの加速力も利用し突進してくる。



「ぐっ……!」



機体の腹部に直撃し、大きく揺れる。

さらに追撃として、右腕に装備された巨大な杭打ち機
――リボリビング・ステーク――を破損箇所に向け打ちつけてくる。

機体側面にあるスタスラーを使いなんとかズラしたがその威力は凄まじく、ステークはゲシュペンストMk−UタイプTTの右腕をもぎ取っていった。

スプリットミサイルを再度発射し、今度は全速力で後退し距離を取るが、アルトアイゼンはしつこく追いかけてくる。

あんなものをコクピットブロックに直撃を喰らったら、とてもではないが生きてはいないだろう。

それを分かっているからこそ、クレイルは執拗に狙っているのだ。

こちらの武器は、右腕に装備していたM950マシンガンがなくなった為スプリットミサイルのみ。

残った左腕で武器を拾おうにも、アルトアイゼンの猛攻によりそれはできない。

どうにかこの局面を切り抜ける手はないものかと思案するが、そんなものはない。

さらに、無理な動きをし過ぎた為か、それとも模擬戦でのダメージのせいか、右足の動きがぎこちなくどこかおかしい。

このまま動き続けては最悪、右足が不調を侵し、動けなくなってしまうだろう。



(ここまでか……)



諦観した瞳で、アルトアイゼンを眺める。

濃紺にカラーリングされ、その攻撃性はまさに蒼き獅子を彷彿とさせた。

自分は獅子に喰われて死ぬだけのエサ。

抗う術はもはや
――――ない。



(……納得できるか)



納得など、断じてできない。

ここで死んでしまったら、何の為に軍に入り、ここまで生きていたのかが分からなくなってしまう。

ふと、女の子がなぜ軍に入ることを止めたのかを理解した。

こういう目に遭って欲しくないから。

今さらになり気づくとは、あまりにも愚かだ。

……愚かすぎる。

ここで諦めて死んでしまったら、後ろに居るシックたちはどうなる?

間違いなく獅子の牙に喰らわれるだろう。

それだけは阻止しなければならない。

だったら諦観している暇など
――――ない。



「……T−LINKリッパー、セット」



模擬戦の時にケイスケを襲った武器を思い出し、起動させる。

ケイスケ曰く、アレは指向性を持った武器。

おそらく念動力を利用した武器だろう。

自分に念動力などあるか分からない。

だが、今使える武器はこれしかない。

現状を打破できる武器はこれしかない。

一縷の望みに賭け、T−LINKリッパーを起動させ、相手を視認する。

目標の敵は、もう眼前にまで来ている。

意地だった。

死にたくないと。

仲間を殺させたくないと。

それらの感情がない交ぜになり、ゲシュペンストMk−UタイプTTに内蔵されたある機関が起動を開始する。

コンソールモニターに移るのは
――――『T−LINKシステム』の文字。



「シュート!!」



背部に装備されたバックパックが開き、切り割く十字架が発射された。

それは回転し、回転を増しながら獅子に向かい駆ける。

T−LINKリッパーはアルトアイゼンの両腕の付け根辺りを目掛け飛び、リッパーの名の通り切り裂いた。



「何……!?」



予想もしていなかった攻撃にクレイルの対処は遅れ、アルトアイゼンの両腕は持っていかれてしまった。

これで、アルトアイゼンに残されている武装は頭部に装着されたヒートホーンのみとなる。

クレイルは歯噛みし、自分の機体を損傷させた機体を睨みつける。

どちらも手は一つのみしかないが、これでは分が悪すぎる。

どうするべきかと思案するクレイルに対し、一つの通信が入った。

フェイトだ。



『クレイル。すぐに避難して』

「……もうそんな時間か。分かった」



通信を切ると、クレイルはアキトに向け通信回線を開いた。



「聞こえるか。命を無視された戦士(ゲシュペンスト・イェーガー)

『……何のようだ』



よほど興奮しているのか、アキトの声は荒かった。



「これより、佐世保基地に向かいMAPWが発射される」

『な、に……!?』



MAPWとは、大量広域先制攻撃兵器の略であり、そんな物が発射されれば佐世保基地はおろか、基地一体が灰燼と帰してしまう。



「だから撤退しろ。……お前との決着を、こんな形で付けたくはない」

『待て、蒼き獅子(ブラオ・レーヴェ)!!』



だが、アキトの声が届く前に通信回線は切られ、アルトアイゼンはブースターを噴かせ去っていった。

クレイル機は背後を向き飛んでいる。

これではいい的だ。

しかし、クレイルは分かっていた。

アイツ(アキト)はこんなつまらない形で決着はつけない、と。

クレイルの思惑通り、アキトは攻撃を仕掛けなかった。

それよりも、すぐに通信回線を味方全機に繋ぎ、MAPWが発射されることを告げタウゼントフェスラーに戻った。




















タウゼントフェスラーにMAPWの攻撃範囲に入ると思われる民間人も乗せ、その場を急速離脱する。

そして、それはやってきた。

基地の中心部に辿り着くや否や爆発し、辺りを白光に染める。

閃光が治まると、基地は見るも無残な姿となっていた。



「俺たちの基地が……」



そう呟き、ケイスケは膝を着いた。

シックは茫然とし、ただ黙って基地だったものを眺めている。

止める術は誰にもなかった。

だが、もしあったとしたら……誰もがそう考えていた。

しかしそれはある筈がなく、皆はただ力なく項垂れるしかない。

そんな中、イングラムの変わらぬ声が艦内に響く。



『これよりミッド東部基地へ帰還する』



それは基地がなくったことに対し、何も感じていないような声色だった。

シックたちは焦燥した顔で基地を眺めているのにもかかわらず。

基地がなくなったことを、アキトは担架の上で聞いていた。

何の訓練もなしに無理やりT−LINKシステムを起動させたツケが回ってきたのか、タウゼントフェスラーに辿り着いた時に倒れたのだ。

眼を瞑り、基地での思い出を振り返る。

シックとの出会い、ケイスケとの再会、フェイトの裏切り、クレイルとの因縁……良くも悪くも色々あった。

それらがたった一瞬にしてなくなってしまったことに、何も言葉が出ない。

アキトはそのまま眠りに落ち忘れようとしたが、基地とは直接関係のないSRXチームの面々の辛そうな声を聞いてしまった。



「…………」

「そんなに落ち込まないで、リュウ」



アヤの励ましの言葉に応えず、リュウセイは黙っているだけ。



「気持ちは分かるわ。私だって辛い……。でも、これが戦争なのよ。そう……これが……」

「ゼロじゃなかったはずだ……」

「え?」

「俺が残って……ミサイルを迎え撃って……そりゃ九十九%は失敗したかも知れない。基地と一緒に吹っ飛んでたかもしれない……」



拳を握り「でも」と言い、



「俺たちが撤退して……佐世保には一%の望みすらなくなっちまったんだ」

「あなた……」

「……その一%にかけて俺たち全員を巻き添えにするつもりか?」

「何……?」



今まで黙っていたライディースが口を開く。



「少しは現実を理解しているかと思っていたが……勘違いだったようだな」



リュウセイの甘ったれた考えを打ち消すように、ライディースはあえて強い言葉を使う。



「大義を見失い、後先考えずに行動しようとする奴に……軍人の資格はない」

「てめえは……何にも分かっちゃいないのかよ……!?」



ライディースの言葉に、つい語気が荒くなるリュウセイ。

だが、ライディースはそのまま続ける。



「……事実を受け入れるしかない。それだけだ。お前もそうしろ」

「ふざけるな! こちとら機械じゃねぇ。人間なんだよ!!」



リュウセイはその場から立ち上がり、ライディースに向かい拳を振り上げた。

拳はライディースには届かず空を切る。



「……そういう台詞は、一人前の働きをするようになってから言え!」



ライディースは右手でリュウセイを殴り、殴られたリュウセイはお返しとばかりにまた殴りつける。

しかし、リュウセイの攻撃は全く当たらず、ライディースは涼しい顔で殴り返す。

さすがに見かねたアヤが止めに二人の間に入ろうとするが、二人の猛攻で中々間に入れず、その場で声を荒げた。



「二人とも何やっているの!? やめなさい、リュウ! ライも!」



その声で二人の動きが少し鈍り、その隙に二人の間に入り込むが、リュウセイの怒りは収まらない。

殴り合いをしていた時から感じていたライディースの態度も気に入らない。



「ライ! てめえ、何だって片手しか使わねえんだっ!?」



その言葉を聞き、ライディースの動きが止まる。

まるで触れられたくない古傷に触れられたかのように。



「また人をバカにしやがって!!」

「リュウ、やめなさい! ライの左手はね……」

「左手!? それがどうしたってんだ!!」

「ライの左手は……」

「フン……お前など、片手で充分だ」



そう言い残すと、ライディースはリュウセイの前から去っていってしまった。

残されたリュウセイはライディースの背中に向かい吠える。



「待てよ、この野郎!!」

「いい加減にしなさい!」



アヤの強い叱責。

普段あまり怒らないアヤだけあって、その迫力に委縮してしまう。

今度は静かに、諭すようにリュウセイに話しかける。



「リュウ。貴方たちが争っている場合じゃないのよ。こうしている間にも、連邦軍の基地が次々に制圧されていることを忘れないで」



何も言い返せない。

自分がここで幾ら吠えても、現状が覆るわけではないのは分かってたつもりだったが、リュウセイは分かっていなかった

ライディースが去った方を眺め、アヤは呟く。



「それに……ライもね。必死なのよ」



思い出したくない相手のことを言われ、リュウセイはまた頭に血が上ってしまった。



「アイツのどこが必死だってんだよッ。軍人だ、任務だ……何でもクールに割り切りやがって……!」

「聞いて、リュウ。ライはね……ライの左手は……」

「アイツの左手なんか知るか! 俺には関係ねえよ!」

「リュウ……」






誰も居ない格納庫にライディースは足を運び、立ち止まった。

壁に背を預け、いつも左手に付けている手袋を捲くる。



「…………」



そこにあるのは、手ではなかった。

いや、手の形はしているのだが、有機体ではない。

機械の腕。

過去の試作機機動実験により失った左腕の偽りの腕。

その為、左腕で殴らなかったのだ。

左腕を眺めながら、ライディースは誰に言うでもなく呟く。



「そのままでは……お前はいつか」




















「……報告は以上であります」



苦々しげにカイは事実を報告した。

それを聞いたサカエとレイカーもカイと同様の顔をしていた。



「佐世保基地は壊滅状態……我々は九州地区の拠点を失ってしまった」

「ウェーク島とは違い、敵はこちらの拠点を潰しにかかったか」

「我々に対する見せしめなのでしょうな」



ハンスの言葉に妙な違和感を覚えたが、レイカーは黙したままだ。

皆一様に沈痛な面持ちなのに対し、イングラムは淡々と現状を説明する。



「そして、我々はDCによって教えられた……現状の態勢では、エアロゲイターに対抗できないことを」

「授業料としては高すぎる。それに、今さらそんなことを言っても始まらん」



カイはそう言うが、イングラムはあくまで冷静だ。



「だが、予行演習は必要でしょう」

「どうやってDCに一矢報いるというのだ?」

「彼らが保有していない兵器を使うのです」



カイの顔色が変わる。



「もしや……スペースノア級の弐番艦か?」

「ええ」

「しかし、DC側にも……」

「あの武器を装備しているのはスペースノア級は、弐番艦だけです」

「だが、どうやって……」

「弐番艦を用いた反攻作戦は、現在検討中だ」

「司令……」

「そして、その作戦の現場指揮官として、ある男をこの基地へ呼び寄せてある」

「……誰です?」



ハンスの疑いを持った言葉に対し、レイカーはただ冷静に、



「元シロガネ艦長
――――ダイテツ・ミナセだ」




















 あとがき

次話でダイテツ艦長登場です、どうもシエンです。

今回登場したクレイルの新型機『アルトアイゼン・R』。

アキトとの戦いで両腕がなくなり、次に登場するときには……多少変わります。

そして!!

クレイル×フェイトを書きました、18禁小説(エロ)です。

もし読みたいという方が居られましたら、私宛てにメールをいただければ返信の際にお送りいたします。

では、また次回お会いしましょう。




作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。