第二話「海上の再開」










本当は、もう駄目だと思った。

だが、巧くいった。

……礼は言わないからな。











明朝三時。

まだ薄暗い中、二人は息を潜めながら哨戒用のライトを潜り抜け、一時間後に飛び立つタウゼントフェスラーに潜り込む。

ハッチは開かれており、既にアキトたちの量産型ゲシュペンストMK−Uと件のゲシュペンストMK−UタイプTTは搬入されていた。

コソコソと足音を出さないように歩き、もう一人が誰も居ないかを警戒する。

だが、そこに影が向かっていた。

確りとした足取りで歩き、その歩幅にブレはない。

アキトだ。

作戦時間まであと一時間もあるのに、もう来たようだ。

慌てて作業に移る。

しかし、小さな物音が立ってしまった。

途端、アキトの視線が向けられる。

時間が凍りついたかのような錯覚に捕らわれる。

しかし、そこですかさずもう一人が行動を起こす。



「お、おはようございます!」



スバルは大声で挨拶をしながらアキトに向かい敬礼をした。

アキトは面喰った表情をしたが、すぐに元に戻り敬礼をする。



「おはようスバル。早いな」

「ええと……目が覚めちゃって。暇だったから、怪しい奴でも居ないかなぁって見回りを……」



自分で言っていて何だが、とても苦しい言い訳だ。

しかし幸運なことにアキトはそれに気付かなかった。

微かに笑みを浮かべ褒めてさえくれる。

心が少し痛んだが、これも自分達の作戦の為だ、と自分に言い聞かす。

と、アキトが空を眺めていることに気づく。

アキトの視線を追って自分も視線を空に移すと、そこには幻想的な光景が広がっていた。



「うわぁ……」



思わず声が漏れる。

夜と朝が混じった空は、なんとも美しい。



「この時間帯はミラクルタイムと言うんだ」



空を眺めながらポツリと呟く。

ミラクルタイム。

確かにそこ名称はしっくりとくる。

夜と朝は互いに相容れるものではない。

だが、この時間だけは互いに手を取り合うことが出来る不思議な時間。

この光景を見て、スバルの心の中には不思議な想いが溢れていた。



「さて、俺もそろそろ準備をするか」



そう言うと、アキトはタウゼントフェスラーに足を向ける。

その足音で我に返り、スバルはアキトの前に立ちはだかる。

何をしているんだ? という顔をしているアキトを前にし、慌てて、



「あ、ああと! アタシがやっておきますから中尉は休んでいてください!」

「そうもいかんさ。機体の最終チェックは自分でやらないとな」

「でしたら、アタシも手伝います!」

「いや、チェックくらいなら俺独りでも」

「やらせてください!」



スバルの決死の勢いに呑まれ、アキトは戸惑いながらも頷いてしまう。

その瞬間、スバルの表情は華やいだ。

何をそんなに喜んでいるのだろうか? と考え、職務に真面目なんだと判断する。

二人がタウゼントフェスラーに近づくと、スバルは大声で話しかけてくる。



「き、機体のチェック頑張るぞー!」

「そんなに好きなのか? 機体」

「そりゃもう、大好きですよ!」

「そ、そうか」



スバルの声には覇気があった。

いや、覇気というよりも必死さだ。

時折周りをキョロキョロと見渡しながらアキトの顔を睨むように凝視している。

特別な操作をしている訳でもないのに、スバルは食い入るような視線を向ける。

不意にアキトが視線を外すと、その方向を必死に追いかけ、何もないことにホッと安堵のため息を吐く。



「……どうかしたのか?」

「え!? い、いえ、なんでもありませんよ……あはは」



明らかに挙動不審だ。

だが、スバルに気を取られ操作を誤りエラーを出してしまった。

慌てて修正していると、スバルはすまなそうな表情をしていた。

この原因はお前だと言ってやりたかったが、一応悪いのは自分だと言い聞かせる。

端末を閉じると、出発前の準備は全て終わってしまった。

時間は三時四十五分。

そろそろシックたちが来るころだ。

アキトは立ち上がり外に出て、空を眺める。

ミラクルタイムはすでに終わり、明るい太陽が顔を出していた。

機体チェックによって固まった身体を伸ばし、深呼吸。

すると、頭の中がスッキリとし何とも心地よい。

ついでに体操でもしようかと思ったが、スバルの手前流石に恥ずかしいのでやめる。

何気なく隊舎に目を向けると、眠そうな目を擦りながらシックが此方に歩いていた。



「おはよ……」



気だるげに挨拶をし、大きな欠伸をするシック。

苦笑し、頭を小突いてやる。



「機体の最終チェックは俺が終わらせておいた。後は乗組員が来るのを待つだけだ」

「あ、ごめん。自分のは俺がやらないといけないのに」

「いや、俺は目が覚めたからやっていただけだ。気にするな。ああ、でも一応確認しておいてくれ。
 お前の機体は汎用性を高めているから詳しいことまではよく分からん」

「了解っと」



略式の敬礼をし、シックは自分の機体へと足を向ける。

途中、まだ寝ぼけているのか足を縺れさせているが、任務時にまともならいい。



「さて、スバル。もうそろそろ作戦時間だ。お前は隊舎に戻れ」

「あ、はい……」



返事をすると踵を返し隊舎に足を向けるが、何度か振り返ってくる。

その表情は何やら心配なことがある子供のような顔だ。

スバルが去り暫くすると、今回同行するタウゼントフェイスラーのパイロットがやってきて、アキトとシックはそれぞれ自分の機体に乗り込み待機する。

機体チェックを終えたパイロットはエンジンを吹かし、タウゼントフェスラーは空へと飛び立った。

飛び立つタウゼントフェスラーを眺める二つの瞳。

スバル・ナカジマ。

スバルは心配そうな表情のままタウゼントフェスラーを眺めていた。



「どうかしたの?」

「あ……ティア。ううん、何でもないよ」



そう言うとスバルはティアナを残し自分の部屋へと戻って行く。

訝しげにスバルを見送ったティアナだが、きっとフェイトのことで悩んでいるのだろうと思い、追おうとはしなかった。

かく言うティアナもフェイトのことで悩み、こんな時間に起きていたのだ。



「まったく……これからどうなるのかしらね……」



ポツリと呟いたその言葉は、誰に聞かれることなく空気に霞んでいった。




















「こちらT29、目標航路を順調に航行中」



提示報告を終え、パイロットは身体をグゥッと伸ばした。

朝からずっと同じ姿勢で硬いシートに座っていたのだ、身体も鈍るだろう。

首をコキコキと鳴らしていると、通信が入る。

格納庫からだ。



『今はどこら辺を飛んでいるんだ?』

「航行予定空路の丁度真ん中辺りです。後、三時間ほどでミッド上空です」

『そうか……敵影は』

「今のところレーダーに反応なし」

『了解』



通信が切れると、パイロットはため息を吐いた。



「何で俺があんな奴等と一緒に、危ない物を輸送しなくちゃならないんだよ……あー、貧乏クジだ」



そうぼやくと、また通信が入る。

だがおかしい。

今度の通信は無人の筈のゲシュペンストMK−UタイプTTからだったからだ。

不審に思いながらも通信を繋げる。



「……こちらT29パイロット」



しかし、通信先からは何も声が聞こえてこない。

何度も問い掛けるが、声は一向に返ってこない。

少し怖くなり、通信を切る。



「まさかゲシュペンストだからって、本当の幽霊が……そんなわけないよな、ハハハ……」



恐怖を打ち消すように乾いた笑い声を洩らす。

とその時、レーダーに微かな熱源反応があった。

すぐさまそちらに目を向けると、まっすぐ此方に向っている。

熱反応からして軍の輸送船やPTではない。

では、導き出される答えは一つ。

通信回線を開き、秋人達に知らせる。



「こちら管制! こちらに向ってくる機体を感知、熱源パターンから敵の機体と断定。すぐさま出動を!」

『了解した。ロックの解除を』



機体を固定しているロックの解除をし、ハッチを開く。

パイロットは恐怖からか身体が震えていた。



「この際さっきの幽霊でもいいから助けてくれ……!」






機体を固定していたボルトが外れると、二人は開いたハッチに向い動き出し、ブースターを噴かせ海上に踊り出た。



「シック。ブースターの出力に注意しろ。落ちたら拾い上げられんぞ」

『分かってるって。にしてもあの敵機……この間のリオンって奴か。……厄介だな』



ノーマルカラーのリオンが五機。

そしてそれを追いかけるように飛行戦艦が存在していた。



蒼き獅子(ブラオ・レーヴェ)はいないか……)



知らずしらずに内に舌打ちをしていたことに驚く。

どうやら相当意識してしまっているようだ。

だが、今はそんな私情は関係ない。

まずは任務が最優先だ、と思考を切り替える。

スプリットミサイルを二発発射し、内一発が一機のリオンに命中した。

だが浅かったのか敵はまだ健在だ。

シックがM950マシンガンを斉射しているが、空中戦に特化しているリオンにはなかなか当たらない。

その中で、明らかに動きが鈍いものを発見する。



「シック! アイツを狙うぞ!」

『オーライ!』



二人のコンビネーション。

秋人はスプリットミサイルとM950マシンガンを斉射し、シックはアキト機の後ろに隠れる。

弾幕を掻い潜ろうと躍起になるリオンに向い、さらにM13ショットガンを発射。

仲間を守ろうと二機のリオンが援護防御に入るが、それが二人の狙いだ。

シックがブースターを噴かせ空高く跳びあがり、左腕のジェットマグナムを起動させる。

その間もマシンガン、ショットガンの散弾は続く。

ジェットマグナムが三機のリオン目掛けてその腕を振るう。

三機のうち一機はその攻撃から逃れたが、マシンガンとショットガンの嵐を受け、ジェットマグナムによって沈んだ二機と同じように海面に落ちた。



『ふぅ……っ! 残りの二機は!?』



周りを見渡すが、先程いた二機が見当たらない。

よもやと輸送機にカメラアイを向けると、輸送機にとり付き中に入ろうとしていた。

急いで向かおうとするが、この距離からだと間に合わないだろう。

「くそっ!」と吐き捨てる。

アキトはショットガンを構えるが、引き金を引いてもガキッという音がするだけだった。



「こんな時に弾切れ……ちぃ!」



二人はブースターを限界まで上げ近づこうとするが、此方の動きに気が付いたリオン一機がマシンキャノンとホーミングミサイルを発射してきた。

イラ立たしげに舌打ちをしそれを回避するが、そのせいで向かうのが遅くなる。

リオンが笑った気がした。

此方に攻撃してきたのとは別のリオンがハッチの中に入る。

……と。



『なっ!? 爆発……?』



突如としてリオンが爆発し、此方に攻撃を加えてたリオンが振り向くとそちらも爆発する。



「一体……」



何が起こった?

突然のリオンの爆発。

整備不良やマシントラブルなどではない。

明らかにあり得ない光景だった。

それは、この通信もあり得ないものだ。



『大丈夫か? 秋ちー、先輩』




















それはリオンが現れる少し前の格納庫内。

通信回線が開き、輸送機のパイロットの声が聞こえる。

この通信は、本来無人の筈のゲシュペンストMK−UタイプTT側から発せられたものだった。



(やばっ!)



間違えて押してしまった通信ボタンを慌てて切り、ケイスケは安堵のため息を吐いた。

ここで見つかってしまったら何の為にスバルに頼み、タイプTTに忍び込んだのか分からない。

快く頼みを聞いてくれた幼馴染のことを思い出し、ケイスケは苦笑した。



(それにしても、よくあの演技で秋ちー騙せたな)



思い起こすのは今朝のこと。

見つかりそうになったケイスケの為に囮になったスバルの大根演技のことだ。

自分の運の良さ、そしてアキトの普段の鈍感さに感謝する。

そんなことを考えていたが、あまりにも暇だ。

輸送機は何度も揺れ方向を変えているようだが、一体いつになれば目的地に着くのだろう?

ずっと同じ姿勢で硬いコクピットシートに座っていた為、尻がじんじんと痛い。

身体を動かしたいが、身体中に巻いてある包帯によって動きが抑制されており、それもできない。

暇すぎてうとうとしかかっていた時に、その音は届いた。



(ん……? ハッチが開いた?)



確かに今ハッチが開いた。

そしてアキトたちの量産型ゲシュペンストMk−Uの足音もする。

一体何が起こったのだろうか?



(……まさか)



そう思った時には、タイプTTを機動させる為に動作を開始していた。

起動準備はほどなく整ったが、完全に立ち上がるにはもう少し時間が掛かる。

それをイライラしながら待つ。

銃撃音が響く中ようやく起動が完了すると、ケイスケは操縦桿を握った。

だが、いつも乗っていた量産型ゲシュペンストMk−Uとは少し違い、操縦桿はいささか重い。

いつもと違うマニューバパターンなどが入力されている為にそう感じるのだ。

しかし、機体はスムーズに動く。

いつもとは違う機体の操作に戸惑いを覚えながらハッチ付近まで移動する。



「あ!? 何でリオンがここにいるんだよ!? 秋ちーたちは何してんだ!?」



リオンが二機輸送機にとり付き中に入ろうとしている。

狙いは言わずもがなこの機体だろう。

リオンたちは無人と思っていたのか、タイプTTが動いていることに驚きを見せている。

とっさに動き、輸送機に積んでいた予備のM950マシンガンを手に取る。

リオンに向い構えると、あちらは既に此方をロックオンしていた。

……動けない。

しかし、二機のうち一機が此方とは違う方を向き、マシンキャノンとホーミングミサイルと発射した。

タイプTTをロックしているリオンが少し顔を反らす。

今がチャンス!

操縦桿を握り締め、M950マシンガンをロックしているリオンに向い発射する。

攻撃されたリオンは避けようとするが、背後にいるリオンのせいでまともに身動きがとれない。

そして反撃しようにも、攻撃したらお目当てのタイプTTを破壊してしまう。

操縦者の苦悩が伝わるようだが、ケイスケはマシンガンを発射し続けた。

やがて耐久限界を超え、リオンは爆発炎上する。

今度はもう一機の方に攻撃を加える。

先程のリオンが避けた弾がいくらか当たっていたのか、すぐに機能停止へと追い込むことが出来た。

ため息を吐き、生きていることを実感する。

ケイスケは知らずしらずのうちにガッツポーズをとっていた。



「あっ、二人に連絡入れるか」



通信回線を開き、得意顔で二人に話しかける。



「大丈夫か? 秋ちー、先輩」




















敵の戦艦はリオンが破れたことにより撤退していった。

海上戦を終え、二人は輸送機の格納庫内に戻っていた。

リオンの爆発によって黒くくすんでいるが、飛行には大事ないようである。

コクピットから降りたところに、ケイスケが立っている。

アキトはツカツカと近づき、



「馬鹿かお前は!」



ケイスケの頭を殴った。

思い切りゲンコツで殴られたケイスケは頭を押さえ呻き、涙目になりながらアキトに向い吠えた。



「なにも叩くことないだろ!? 輸送機守ったんだからさ!」

「それとこれとは話が別だ! 何でお前がここにいるんだよ!」



その言葉にケイスケの目が泳ぐ。



「それは……アハハ」

「まさか……朝、輸送機の近くにいたスバルは……」



渋々といった感じでケイスケは頷く。

だが、慌てて口を開き、



「スバルは悪くないぞ? 俺が頼んだんだし」



アキトはため息を吐きながら、「分かっている」と呟いた。

自分の失態かケイスケの策に気がつかなかった愚かさにかは分からないが、アキトは頭を抱えている。

それをケイスケはバツが悪そうに見つめている。

そんな二人の間に苦笑しながらシックが入る。



「まあ、まあ。そのくらいにしとけよ。今回はケイスケが悪いけど、ケイスケがいなかったらコイツ(タイプTT)は奪われていたわけだし」

「だが……」

「お前は頭が硬過ぎるんだよ。もう少し軽く考えろよ? ケイスケが付いて来たのだって、俺らが心配だったからだし。そうだよな?」



シックの言葉にケイスケは首が取れんばかりに頷く。

アキトは何かを考えるように一度顔を伏せ、やがて顔を上げケイスケを見つめた。



「ケイスケ軍曹。今回は貴官の独断か?」



いつもとは違う口調。

それは軍人として聞いている証だった。

敬礼をし言う。



「はっ。今回の件は自分の独断であり、明らかな越権行為であります」

「……なら、この任務が終了次第始末書を書け。二百枚」

「え……? 半分にならない?」



アキトは嫌な笑みを浮かべ、ケイスケを見る。

その笑みに恐怖を覚え、ケイスケは「了解……」としか言えなかった。

そんな光景を見ながらシックは苦笑している。

今回の件が一件落着したと同時に、タウゼントフェスラー全体に響く艦内放送。



『窓の外を見てください。ミッドチルダが見えてきました』



三人は格納庫内にある窓に近づき、外を眺めた。

無限に広がるんじゃないかと思うほど巨大な都市。

ミッドチルダの首都クラナガン。

あまりの巨大さに、三人は声も出ない。

だが、ここが目的地ではない。

もう少し行った先にある、ミッドチルダ連邦軍クラナガン基地が目的地だ。

そこにゲシュペンストMk−UタイプTTを届けることが今回の任務。

三人はここに住まう闇に気がついてなどいない。

そう、これから始まる死闘(あくむ)
――――




















 あとがき

アイビスが好きです、どうもシエンです。

今回のSRWはいかがだったでしょうか?

やはり戦闘が難しいです……大丈夫か、この先?

ではまた次回。






拍手返信

※ケイスケ復活! 
ところで彼に体を貸したということは髪が青い教官モードもありですか?

>青い髪の教官モードは……ありません。
彼には別のポジションで頑張ってもらうつもりです。
それは
――――アッーーーーーーーーーーー!!(虚空の彼方に消えました)


追記

拍手はリョウさんの手によって分けれらています。
誰宛てに送ったのか、または作品名を明記して送ってくださると助かります。
宛先や作品名などが明記されていないと、どこに送っていいのかが分からなくなるそうです。
ご協力のほど、お願いいたします。





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