side謎の少女
 


「結構……物がないな…」
 

霞さんのガレージ兼自室に入った私はまず部屋の感想を言葉に出した……マシンディケイダーと言う黒いマシンに
作業用机の上に置かれたノートパソコン、スケッチブック、42色の色エンピツ…そして光弥さんが寝ているパイプベッド…これしかない。
 

「あ、これ……」
 

作業用机の上にはもう一つの物があった…其れはディケイドのカードホルダー兼武器の……
 

「ライド…ブッカー?」
 

……? 何で…私は名前を知っているんだろう? ………解らない――
 

「………このカード達を入れよう」
 

いくら考えても何も出てこない為、私はライドブッカーを手に取り中身を開いて…"一番最初に"収められているカードに目を奪われた
 

「DECADE……」
 

闇の様に黒い仮面に血の様に濃い赤い両目……何故だろう? 私は黒い仮面に黒い体は違和感が無いのに…
赤い両目に違和感を覚える…もっと…暗い青だった様な…?
 

"――よ…消えろ!!"
「ッ!?」
 

突然聞こえた男の声に私は思わず両手で耳を押さえてしまった…ライドブッカーが落ちた音が密室状態のガレージに鳴り響く……
ゆっくりと光弥さんの方に振り向くと……フゥッ…良かった…ぐっすり寝ている――
 

「――霞さん、助けてくれてありがとうございます」
 

私は海東さんから預けられたカード達をライドブッカーに収め…あの時には言えなかった御礼をお辞儀と共に言う……
ぐっすり寝ている時に言うのは失礼だと思うけど…私は御礼を言った…あの声の余存を少しでも振り払いたくて……
 

「う、ぅぅ…!!」
「……ゆっくり…休んでください」
 

霞さんは寝苦しそうに毛布から右腕を出した……
私は起こさない様に…ゆっくりと毛布を掛け直し、ライドブッカーを元の場所に戻し食堂の方に戻る――
 

「軽い料理でも…作ってみようかな?」
 

霞さん…起きたらお腹空かせてるだろうし……この思いのまま、私はよく解らないけど…悪い気分では無い状態で厨房に入った
 

 
 
 
 

side霞光弥
 



――BLADE!! KAMEN RIDE…KING!――
「く…ちきしょおお!!」
――FINAL ATTACK RIDE…B、B、B、BLADE!!――
 

黄金に輝くカードと紅蓮に輝くカード……ポーカーの最強クラスの役…"ロイヤルストレートフラッシュ"
スペードの10、J、Q、K、Aの2セットが俺に定められ召喚された"ブレイド・キングフォーム"と
ディケイド・コンプリートフォームが必殺技の準備態勢に入ったと同時に…左腕に力を集中……一気に駆ける!!
 

「ハァァァァァァァッ!! ハアッ!!」
「ライダアアアアア!! パアアアアアアンチ!!」
 

繰り出された黄金と紅蓮のエネルギー波はA、K、Q、J、10のカードを突き破ると凶悪な威力を上げている……
俺はブレーキと共に踏み込み、迫る二つの光に対し拳を突き出す!!
 

「ぬ…ぐぐぅ…!!」
 

押し負ける――二つの光はライダーパンチごと俺の体を飲み込もうとする……押し負ける事など解っていた…
しかし……こうしなければ……この一手が使えない!!
 

――ATTACK RIDE…ILLUSION!!――
「ハッ!!」
「ハァッ!!」
「ぐ…ぐぐぅ…トアアアアッ!!」
 

イリュージョンによって生み出された俺の分身は其々の意思を持ってディケイドに向かって行く……
ダブルロイヤルストレートフラッシュを耐え切り…俺は跳躍し落下様に拳を突き出すが――
 

「…くっ!?」
「ウオオオオオオオッ!!」
「トオオオッ!!」
「ぬ…むぅ!?」
 

ブレイド・キングフォームが消えた今、奴は一人…
俺が繰り出したジャンプパンチはライドブッカー・ソードモードで逸らされるも後ろから俺の分身が蹴りを繰り出し奴の体を蹴り飛ばす…
地面との摩擦音が聞こえる中もう一体の分身が追撃を開始し俺も続こうとするが……
体温が一気に下がるような寒気を感じ――其の場に踏み止まった
 

――HIBIKI!! KAMEN RIDE…ARMED!!――
「「!?」」
「チィッ…!! トオオッ!!」
「……………」 ――FINAL ATTACK RIDE…HI、HI、HI、HIBIKI!!――
 

俺の分身達が居る場所は確実に鬼神覚声・二連撃を確実に食らう位置……紅蓮と黄金の炎の刃が今…振るわれた!!
 

「「うおおおおおおおおおおおおおっ!?」」
「……………」
 

俺の分身は鬼神覚声・二連撃によって上と下が分かれ……消え去るが……貰った!!
 

――FAIZ!! KAMEN RIDE…BLASTER!!――
「遅い!!」
――FINAL ATTACK RIDE…KU、KU、KU、KUUGA!!――
「……くっ!!」 ――FINAL ATTACK RIDE…FA、FA、FA、FAIZ!!――
 

黒いオーラと黄金の稲妻を纏った両脚……俺は空中で開店しつつ落下……
奴は召喚したファイズと共にダブルフォトンバスターの発射体勢に――
 

「貴様の…最後だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ライダアアアァァ―!! キィィィィィィィィィィィィィィィック!!」
 

突き出した両脚は山吹色と紅蓮の閃光に激突する……俺と奴の距離は約1m…この近い距離で……
ダブルフォトンバスターと……ライダーキックのエネルギーが……凄まじい爆発を引き起こす
 

「うおおおおおおおおおお!?」
「ぐ…!! くぅ…!?」
 

何処まで弾き飛ばされたか? この事は一瞬で判断するには難しかった……
腕を見る限りではクウガへの再変身が解けディケイドに戻っている……
俺は空中で体勢を整え…何とか着地する
 

「――奴は…何処だ?」
 

気配が…殺気が…感じ取れない? あの全身が凍りつくかの様に突き刺さる殺気は完全に消えている……
俺は少しずつ暗闇の中を歩んで行く
 

「……………」
 

一歩、一歩と奇襲を警戒しつつ歩き続けるが……幾ら歩いても奴の気配を感じ取る事が出来ない。
俺が途方に暮れたその時……"あの会話が聞こえて来た"
 

「ふざけるな!! まだ…まだ決着はついていない!!」
"いいえ…貴方の役目は終りました……大人しく冥府の底へと帰るのです"
「女の…声?」
 

奴と聞いた事も無い女の声……俺は迂闊にも声を出してしまうが――二人?には聞こえていない様だ、
俺は湧き上がる敵対心と警戒心のまま会話に耳を傾ける
 

「何故だ!! お前は言った! 俺が霞光弥に勝てれば……俺を現世へと戻し――もう一度…俺と戦わせると!! あれは嘘だったのか!!」
"嘘ではありません……しかし私は言いました、光弥の実力が貴方を遥かに上回っていれば…勝負は即座に中止すると"
「ぐ…!!」
 

今の会話で二つの疑問が浮ぶ…一つは"俺と戦わせる" もう一つは…"嘘" 
一つ目は情報が無い為解らないが…二つ目は解る…
奴はこの女の声によって俺と戦い、勝てば自分の願いを叶えて貰える…そう――信じていた様だ
 

「しかし…!!」
"もう…帰りなさい――貴方には…あと一度の……チャンスがあります"
「くそぉ…くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 

――奴の声が聞こえなくなって……全身が震える様な声の主が…俺に語り掛けて来る
 

"さて、光弥…"
「待て…!! 其の前に…姿を見せろ!!」
"解りました…少し…お待ち下さい"
 

何時でも剣を振れるように…身構える……女の姿が現れるまで…一分…いや30分だろうか? 其れ程までに…時間が長く感じる
 

"待たせたわね…光弥"
「!? ……鳥?」
"フフッ…驚いたかしら?"
 

俺の目の前に現れたのは…鶴の様な頭に神秘的なまでに輝く炎の色をした体、
不死鳥のような黒い複数の羽のような尾にツヤのある紫色の二本の……
コホン、普通の人間ならば…この鳥に見惚れ、其の姿を目に焼き付けるか…写真にでも撮って永遠の家宝とするだろう――
しかし……俺は――この鳥には…自分でも解らないが……敵対心と警戒心しか湧かなかった
 

「お前には…色々と聞きたい事がある。構わないか?」
"ええ…構いません"
「一気に行こう…まず一つ、此処は俺の精神世界か? 二つ、何故あのディケイドを俺に差し向けた? 三つ、お前は…何者だ?」
"一つ目は当たりです、貴方の夢の中ならば世界に迷惑を掛ける事もありませんから"
 

一つ目の質問の答えが返される……その気遣いはありがたいが…俺に取っては迷惑その物だ――
 

"二つ目は…貴方の力を計る為……あの者ならば…貴方の全力を引き出せると思いましたので――"
「何故…俺の力を計る必要がある?」
"貴方が…闇に打ち勝てる力を持つか? 知りたかったからです"
「………三つ目を頼む」
 

二つ目の返答……此れは全ての答えを引き出せなかった――
 

"三つ目…此れは…何れ解ります"
「何…?」
"光弥…すいません"
「ッ!? うおおおおおおおお!!」
 

不死鳥…いや、火の鳥と言った方が正しいか? 火の鳥が謝罪した時、俺は何で火の鳥に警戒、敵対心を抱いたのか解った……
こいつは…"奪う"気だ……俺が築いて来た絆を!! しかし…心とは裏腹に…俺と火の鳥の距離は一向に縮まらない……
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
………何故ダァァァァァァァァァァァ!!
 

「ぐ…ぐぅ!!」
 

――動けない、自覚した…縮まらない筈だ……俺が動けなければ…縮まる筈が無い…火の鳥が目を瞑ると……
"ライドブッカーが勝手に開いた"
 

「やめろ…!! やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 

ライドブッカーからカードが…勝手に出て行き……火の鳥に吸い込まれていく……消える…消えていく…力が……俺が歩み――
繋いで来た絆が…消えていく……
 

「何故だ!! 何故俺から力を…絆を奪う!?」
"光弥…貴方は強い……神界の者達が恐れる程に――しかし…あの者の力は何れ…貴方を…神を超えてしまう"
「それが…それがぁ!! 何の関係があるんだ!!」
"時には力を失う事で…成長する事があるのですよ"
 

あと1分もすれば…全ての力が消え去るだろう……しかし…最後に……一矢報いる!!
 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
"ッ!? お見事……最後の一つを…奪う事が…できませんでした"
「ハァ、ハァ、ハァ――」
 

動けた――俺が振るった剣は火の鳥の首を撥ねた
 

"光弥…また…会いましょう"
「待て!! お前の目的は――う!?」
 

突如放たれた閃光に俺は思わず両目を隠す……体の感覚が無くなり…意識が……堕ちた
 

 
 
 

「!? 此処は…?」
「あ、光弥さん!! おはようございます!!」
「あ、ああ…おはよう――」
 

どうやら…此処は俺の部屋で…ベッドに寝ていたらしい……そして…不恰好で沢山あるおにぎりを皿とトレイに乗せ、
トレイを両手で持つ…あの空間で助けた彼女が目に入った
 

「スマナイが…色々と事態が飛んでいる様に思える……説明、頼めるか?」
「はい…まずは――」
 

彼女はトレイを机に置き、俺が寝ていた間の事を簡略的に説明する――
あの空間が晴れた後坊やがお嬢ちゃんを警察病院に連れて行った後、
俺を担ぎ上げこの子を松へと案内し松のおやっさんにこの子世話を頼んだ後、旅に出たらしい……
 

「成る程な…………………………」
「? どうしたんですか?」
 

俺の沈黙にこの子は可愛らしい仕草を取る……
 

「いや、その…何て呼んだらいい?」
「えーと…ナナシちゃん……ですかね?」
「其れが…名前か?」
「いえ…私…自分に関する記憶が無くて……海東さんは…光弥さんに決めてもらえって言ってたんですけど――」
 

この子は困ったような視線を俺に向ける……坊やめ…厄介な事を押し付けやがったな――
 

「俺が…決めていいのか?」
「はい…光弥さんが宜しければ…ですけど」
「そうだな……何て名前にするか――」
 

どうするかな……人様の名前を決めるのは始めてだしなぁ……うーむ…………
 

「沙那……霞…沙耶……どうだ?」
「は、はい…構い…ませんけど……苗字は…?」
「君の戸籍が見つからなかった場合の予備対策だ…俺の義理の娘と言う事にしておけば…簡単に戸籍は作れる」
「は、はぁ…ありがとうございます」
「其れと…このおにぎりは……」
 

俺が机に置かれたおにぎりを指差すとこの子…沙耶は説明を始める
 

「光弥さんが起きたら…お腹空いてるかな? と思いまして…作ったんですけど…中々上手く行かなくて……」
「そうか…じゃ、ありがたく頂くよ」
「起きて…大丈夫なんですか?」
 

ベッドから出て直に立ち上がると沙耶が心配そうにしている
 

「大丈夫さ…あの程度で駄目に成る程…俺は弱くない」
「そう…ですか」
「それじゃ…頂きます」
「あ、えっと……召し上がれ」
 

良い笑顔だ……俺はおにぎりを手に取って口に運ぶ……ふむ…丁度良く塩が効いている…
ご飯も見た目の割にはしっかりと握られているし――
 

「どう…ですか?」
「………美味いよ」
 

三つのおにぎりを平らげ、コップを手に取り冷たい水道水を喉に流し…俺は正直な感想を言葉に出す
 

「……………」
「沙耶?」
 

正直な気持ちを表したつもりなんだが……沙耶は両手で顔を隠している――何故だ……うん?
 

「…………やれやれ」
「? 光弥さん?」
 

俺の雰囲気が変わったのか沙耶が両手を顔から下ろす……俺はガレージのシャッターを開けてディケイダーに乗りヘルメットを被る
 

「……怪人…ですか?」
「ああ…少し行って来る……留守番、頼むよ」
「はい!!」
 

沙耶の元気が良い声と共に俺はアクセルを回し、ガレージから……少し出て――止まる
 

「光弥さん?」
「沙耶……戸籍が見つかるまでで良いんだが――父さんって…呼んでくれないか?」
「え、えっと……」
 

急にこんな事を言われれば誰だって困惑する……現に沙耶が困惑している……俺はスマナイと呟きアクセルを回――
 

「――お父さん!! 行ってらっしゃい!!」
「フッ…行って来ます!!」
 

し、怪人の気配が発せられる場所に向かう……駄目だ…笑みが抑えられない……嬉しい…二度と叶わぬと思っていた夢の一つが
叶ったから……よし!! 俺は片腕でアクセルを全快にしつつバックルを腰に装着しハンドルを開き…カードを取り出す
 

「変身!!」
――KAMEN RIDE…DECADE!!――
 

変身し更にスピードを上げると……気配が濃厚になって来る…そして…耳障りな音が聞こえて来た
 

「た、助けてくれー!!」
「ヴェアー!!」
「!? やらせん!!」
――ATTACK RIDE…BUSTER!!――
「ヴェア!?」
 

中年の会社員を食おうとしていた見覚えのあるミラーモンスターに対しバスターによる射撃で妨害、
時速300km/nの世界に入ったディケイダーでモンスターに突っ込み、会社員との距離を離す
 

「た、助かった…」
「早く逃げろ…此処は危ない」
「は、はい!!」
「ヴェアー!!」
「ハッ!!」
 

再び会社員を食おうと本能のまま突っ込んで来たモンスターにバスターを食らわしディケイダーから降りて会社員を逃がす壁となる
 

「さて…お前さんの姿には見覚えがあるんだか……何て名前だったか?」
「ヴェアー!!」
「食事を邪魔された怒りか? しょうがねぇ…相手をしてやるよ!!」
――ATTACK RIDE…SLASH!!――
 

両腕のハサミを鳴らしつつモンスターは本能のまま突っ込んでくる、
俺はライドブッカーをガンモードからソードモードに変形させ…駆ける!!
 

「ヴェアーッ!!」
「ハアアァァァッ!!」
 

上段から振り下ろす剣は左の鋏で止められ……
右から来る鋏を逆蹴りで弾き上げられた足が地面に付いたと同時に連続で左アッパーをモンスターの腹に繰り出し続ける…
モンスターの体が後ろへと持って行きながら……
 

「ヴェアァァァァァ!?」
「ウオオオリャアアア!!」
「ヴェア!?」
「トオオオッ!!」
 

剣を封じる鋏の力が弱まったのを即座に感じ取って
右足の踏み込みから背負い投げの様に剣を持つ右腕を振り下ろすと鋏の片刃が折れる…
其処から間髪入れずにミドルキックをモンスターの腹に食らわして距離を取り……
 

――ATTACK RIDE…BURST!!――
「ヴェアアァァァァァァァ――」
「貰った!!」
――FINAL ATTACK RIDE…DE、DE、DE、DECADE!!――
「ハッ!! トアアアアァァァァァッ!!」
 

ブラストでモンスターとの距離を取ってカードを放り、跳び上がって空中前転の後…現れたエネルギーカードを潜るが――
 

「ヴェアァァァァァ!?」
「!? 何!!」
 

モンスターは一歩後ろに在った水溜りからミラーワールドへと逃げた…俺は着地すると直に後ろを振り向き奇襲を警戒しながら
水溜りへとすり足で近づいて行くが……逃げた…か?
 

「……………」
 

其の後も周囲の気配を探って行くが……完全に逃げられた様だ……俺はディケイダーの場所まで移動し搭乗…其の場から去っていく
 

 
 

――――――――――-――――-――――――sideout―――――――――――――――――――――――――――
 

「まさかディケイドの妨害に遭うとは……だが…丁度いい時期です、貴方を地獄へと送ってあげますよ!! ディケイド!! 
アハハハハハハハハハハハハハ、アッハッハッハッハッハッ!!」
 

西暦2009年4月某日……深夜の住宅街で妙な高笑いが聞こえたという――
 

 
 

(第7話終了、第8話に続く) 





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