今日は結局、施設の案内と説明、晩ご飯は簡単な立食パーティーが催されただけで、具体的なプログラムは明日かららしい。
そんな訳で今日一日のプログラムも終わり、私はこれから三ヶ月間お世話になる宿舎の部屋へと移動した。
最初は相部屋だと狭いから嫌だな〜、とか思っていたけど、ちゃんと全員に個室を宛がわれていて安心安心♪
だってこれがマンガだったりした日には、間違いなくあの縦ロールと同室になったりするオチだもん。
え〜っと、この曲がり角を曲がって突き当たりにはホラ……

「……」

「……」

私の前の部屋の扉の所に何かが居ました。
具体的に言うと、金髪で冗談みたいにクルクルと幾筋にも分かれたカールする髪型でムカツク性格をしたヤツが。

「…………」

「…………」

おーおー、驚いてる、驚いてる。
いや、こっちも充分に驚いてるんだけどさ。
そんな凍りついた空気の中、この部屋の割り当てをした寮母さんがやって来た。

「すみません、シノミヤさん、ローソンさん。此方の手違いで、隣部屋同士のお二人に鍵を渡し間違えてしまいまして」

「あ、あー。いえ、それは構わないんですが……お願いがあるんですけど――――」

「え、ええ。その辺りは別に結構なのですが……配慮していただきたい事が――――」

何か隣も何やら言ってるけど、私は無視して寮母さんに用件を伝えよう。
そりゃあもう、どこぞの大統領張りにいい笑顔で。

「「――――チェンジ」」


真似するんじゃないわよ、ハモっちゃったじゃないの。





紹介に聞こえる言葉は、驚愕の証言

戦慄したのは、悪戯の判明

世界は私の為にあるっ!――――始めます

第三話「研修会、始まります」






「全く、気が利かない寮母さんなんだから」

《本当よね。最初のチェンジ位、何処のお店でもOKするわよ。全くサービスの悪い》

「……誰からそんなボケ習ったのよ?」

《そんなの一人しかいないじゃない?》

あの馬鹿義姉は……人のデバイスに何教えてるのよ、ったく。
結局、私の部屋の隣、というか前の部屋はあの縦ロールである事に変りませんでした。
仕方ないので、さっさと部屋の中に入り、ベッドの上でこっそり持ち込んだお菓子をヤケ喰い中です。
おのれ……誰の陰謀だ、これは。
……大体分かるけどさ。

《真面目な話、マスターは『この意味』分かってるでしょうね?》

「はいはい……どうせ牽制、って意味なんでしょ?保守派と改革派(お互い)の」

《分かってるじゃない》

「まーねー。ったく、下らない」

私も一年、嘱託を経験してきたから保守派と改革派の中の悪さを知っている。
自身としてはどっちの派閥に属している、という気持ちはないんだけど、師父を始めとする知り合いの多くが改革派であり、実際に請けていた依頼は殆どが改革派だった所為か世間では改革派の人間と見ているのだろう。
実際、連中の事は好きじゃないんだけどね。あっち側ってエリート面するのが多いし、官僚的だし〜。

要するに、この研修会の意義から考えても、新人時代から派閥の強引さに巻き込まれないように、保守派の重鎮の娘たるアレの側に、改革派の重鎮達の多くと知り合いである私を宛がえたのだろう。
お互いに手出ししないように、という意味で。

《まぁ、あのお嬢様は私達の事を知らなかったみたいだし、一番に此方に勧誘してきたし。あまり意味ないかもしれないけど》

「そうね、お嬢様だし。それに私の詳しいデータって、そうそう見つけられないじゃない?」

《……ふむ、それもそうね》

嘱託という体質上、管理局に捨て駒扱いや、盾代わりにされる事もざらにある。
その為、自衛の為においそれと自分のパーソナルデータを見られない様にと手を加えるのは基本。
特に私は身内がアレだから特にガードは固くしてあるしね。

「でもこの部屋の配置考えたの、って絶対にファーン先生だろうね」

《でしょうね、あの人。ああ見えて結構タヌキだから》

あの人に2年ほど前に何度か個人レクチャーを受けた人間だからわかるけど、結構そういう手も打てる人だし。

「ああ、もう辞め辞めっ!さっさと寝るわよ、トレア」

《はいはい、お休みなさい、マスター》

初日から何だか色々考え込むのもアホらしいので、取り敢えず寝る事にした。
べ、別に現状逃避じゃないんだからね!?
んな訳でお休みなさ〜い。





そんな衝撃の一夜が明け、日課のロードワークと柔軟を済ませて食堂に向かった所、同じ様に朝食を摂ろうとしていたステイを発見したので一緒にご飯を食べる事にした。

「あはは……それは大変だったね?」

「アンタ、本当にそう思ってんの?」

「も、勿論だよ。」

私の昨日の出来事に、そう評したステイの顔をジト目で見る。
因みに、ステイのご近所さんはとってもいい人らしい。
く〜っ、後で絶対ファーン先生に抗議してやる。
そんな決意を込めてた合間にステイは今日からの研修内容の質問をぶつけてきた。

「それは兎も角、昨日発表されたプロググラム内容って、如何思う?」

「ああ、あれ?良いんじゃないの、面白そうじゃない」

「そう?僕には良く分からないんだけど……」

私は面白いからいいと思うんだけど?
この研修会が様々な分野の新人を集めている目的の一つが、お互いの不理解の解消。
それを解決するのに提案された方法として、様々な業種を体験してその業種の悩みや苦労、誇りの一端でも知ってもらう、というものである。
そんな訳で最初の一月の内は研修生同士での訓練が主で、一日の活動の基本構成は、睡眠時間の様な固定休息時間を除き、訓練マニュアルが三割、親睦を含めた仲間達とのディスカッションが四割、各自の自由時間が三割、という形になっている。
まぁ、時折あるテストや一ヵ月後からの始まるこの研修会の本当の狙いでもある実習先での研修の時は違うみたいだけど。
要するに『最初の一月は同期達との親睦を、残り二ヶ月は互いの仕事の中身を知って、今後の局内の協調性に繋げていこう』っていう事なんでしょうね。

「だって、こんな短期間で色々な経験が出来るなんてそうそうないわよ?」

「でも、武装隊志望の人間が経理や通信の所に行って邪魔にならないかな?」

《確か訓練校って、基礎的な部分の一通りは習うんでしょ?それに新人なんてベテランから見たら邪魔以外の何者でもないわよ》

「そりゃあそうだろうけどさ……」

「はいはい、イジけないの。そう思うならこの課程の中で見返してあげればいいじゃない?」

「そう、だね……」

私の言葉にステイは苦い表情で頷く。
まぁ、流石にここの監督者も鬼じゃないだから、激務地に飛ばしたりはしないだろうし。
さてと仕事の話はここまでにして、この後は地元ネタ等の取り留めない話に移して食事を楽しむことにしましょ。







研修会の第一期研修内容は何処かの部隊に行くのでなく、集まった全員の実力を互いに理解する、という名目の為に最初の6日間は訓練校の全課程必須だった自衛戦闘訓練、次の3日間は新期生規歓迎のちょっとしたオリエンテーションが組まれているらしい。

近年までは、戦闘職だけ持ってればいい、とも思われた戦闘技能だが、3年前のJS事件を境に一変した。
本部襲撃等の予想外の事態でも最低限の対処は出来るようにと訓練校でも全科に自衛訓練の単位が増える事になった。
まぁ、僕みたいな武装隊志望の人間には苦ではないけど、通信科みたいなデスクワーク系の女の子達は悲鳴を上げていたっけ?

(それにしても……)

僕はチラリと隣に座っている女性を盗み見る。
そこには何だかんだと雑談をしながら朝食を一緒に採り、現在は講堂でのブリーディングを手持ちの音楽プレイヤーを聴きながら静かに待っている女の子。
まだ出会って一日しか経っていないのに、僕だけじゃなくもう何人もの友人を作った、ちょっと強引だけど人見知りのしない可愛い女の子。
だけど彼女は昨日の握手をしただけでまるで僕の実力を把握した様な物言いや、いかにもベテランといった人達との同等の付き合いをしている事、5年を嘱託魔導師として経験を積んでいる事からも只の可愛い女の子な訳がない。
局のお偉いさんの娘さんに堂々とタンカも切れるくらいだしね。
それに彼女のファミリーネームは僕の憧れる……

「おはよう皆さん。遅刻者はいませんね?」

そんな事を考えていたら講堂にファーン先生がやってきた。

「はい、それでは皆さんの今日の課程に入る前に、研修プログラム初日という事で簡単な自己紹介を始めてもらいます。それでは前の席の貴女からどうぞ」

「は、はい!私は――――」

そんな訳で自己紹介が始まった。
内容は、名前や年齢といったお約束なものから、自分の憧れる局員や魔導師等を簡単にスピーチさせるらしい。
要するに、僕達にコレで全員の希望配属地や、その人の人となりを把握しろ、って事なのかな?
それにしても……憧れる人、か。
やっぱりあの人しか思い浮かばないなぁ。
そうこうしていると、隣のカヤの番までやって来た。

「え〜っと、私の名前は篠宮 カヤです。年齢は15で、一応5年程嘱託を経験してます。その時に粗方の職種は経験していますが、自分的にはドンパチ系が本命ですね。ポジションは武装隊的な呼び方ならセンターガードが希望です。特に尊敬する魔導師はユーノ・スクライアです。皆さん、宜しくお願いします」

手短ながらも堂々とスピーチを終えた彼女におざなりな拍手が送られ、カヤは静かに席に着いた。
やっぱり戦闘魔導師だったんだ。
でも――――ユーノ・スクライア、ってあの無限書庫の司書長だよね?
そんな部署の人をここで出すなんて知り合いなのかな?
そんな中で、ファーン先生が少し困惑した様な声で質問した。
どうしたんだろ?

「篠宮研修生?貴女はセンターガードが志望なのですか??」

「はい。それが何か?」

カヤの言葉にファーン先生は少し驚きの表情を作る。
う〜ん、確かにちょっと意外だったな。
彼女が戦闘魔導師なら絶対に前線系だと思ってたんだけどなぁ。
いや、根拠はないんだけど、雰囲気というか、匂いというか、そんなチグハグなイメージを受けてしまう。

「わかりました、もう結構です。次の方、どうぞ」

まるで子供のイタズラを見咎める様な微妙な表情でチラリと彼女を見た後、大きく溜息を吐いて、僕の番がやってきた。

「皆さん初めまして。僕の名前はスティール・カルヴァン。年齢は15歳で今年の中期プログラムの卒業生です。武装隊志望でフロントアタックが希望です。尊敬する魔導師は管理局員ではないのですが、嘱託の【炎魔(アモン)】キリ・シノミヤさんが――「ドカン!」――はいっ!?」

僕の紹介の途中、隣で物凄い音が聞こえたので其方を見ると、机に突っ伏しているカヤがいた。
もしかして今の音って、頭を机にぶつけた音?その割には凄い音だったよ?
机の上で身悶えているんだからそうなんだろうけどさ。
どうしたんだろ?

「カルヴァン研修生?」

「ス、スミマセン。繰り返しになりますが、尊敬する魔導師はキリ・シノミヤさんです。これで僕の紹介は終ります。皆さん、この3ヶ月間宜しくお願いします。」

自己紹介に今までと同じくおざなりな拍手が被さり、僕は席に着いた。
それを合図に僕の隣の人の自己紹介が始まる。
その人の紹介を聞いていると、隣のカヤから念話が届いてきた。

《ちょっとゴメン。さっきの話、マジ?》

《?何のこと?》

《さっきのアモンが尊敬する魔導師って、話のことよ!》

何やら怒っている、というより物凄いイロモノを見る目で僕を眺めながら念話を送るカヤ。
?凄い魔導師だと思うけどな、アモンって。
あの高町なのは一等空尉からも注目されたり、聖王協会から騎士の称号を特例で受勲されてたり、嘱託という身軽さから聖王教会からの困難な依頼や局の依頼をこなすその姿はスゴイと思うけど?
そりゃあ、過激な方法も採る為に、やり過ぎだ、って批判や――最近は、めっきり表舞台から姿を消して死亡説なんかも流れてるけどさ。

《別に僕以外にも指名している人もいるみたいだけど?》

《ああっ、もうっ!そう言うんじゃなくてっ!!……はぁ、もういいわ。気を悪くしたらゴメン》

何やら疲れた声のカヤ。
そういえば、カヤってファミリーネームが同じだよね?
もしかして関係者なのかな??

「私の名前はクリスティーナ・ローソン。年齢は15歳。志望先は本局次元執行部隊。尊敬する局員は母、ジャニス・ローソンですわ。皆さんとは短いお付き合いになるかもしれませんが、どうぞ宜しく」

考えの最中に昨日の偉い人のお嬢さんの紹介が終ってしまった。
それにしても僕と同い年なのに凄く堂々としているなぁ。
というか、周囲に見下した視線を送っている。
僕らは明らかに若年組なのに一切の遠慮が感じられない。
そう言えば、昨日の昼食中にカヤがAA位の魔力量はありそう、っていってたっけ。
う〜ん、やっぱり凄い人、って一杯いるんだな〜。
よしっ!僕も頑張るぞっ!!

「はい、以上ですね?それでは30分の準備時間を挟みまして、今日の戦闘訓練カリキュラムを説明します。――――ああ、篠宮研修生は話があるので、教官室に出頭をお願いします。それでは解散」

全員の自己紹介が終ると、ファーン先生はカヤに呼び出しを申し付けて教壇を降りて退出した。

「カヤ、何かしたの?」

「さぁ?もしかして昨日の滑走がバレてたり、ね?」

「えっ、それなら僕も呼ばれるんじゃないの?」

「そうよね〜。私の事後の証拠隠滅は完璧の筈だったし〜、最中の気配遮断の魔法もバッチリだったもん」

《一応、色々不味い事をしていた、って自覚はあるのね》

「あ、あははは……そんな事もしてたんだ」

あの時は慌ててたから深く考えていなかったけど、冷静に考えたらアレって確かにちょっとヤバいよね。
魔法云々の話じゃなくて、交通法規的に。

「うっさいわね。あの場合は仕方ないじゃない。現場の判断、って奴よ。だから問題無し。だからアンタも安心していいわよ?」

《まぁ、あの手管ならバレる訳ないでしょ?》

あっはっは、と笑いあう、デバイスとそのマスター。
でもその考え方がちょっと犯罪者チックなのは指摘……しない方が良いよね――どうせ聞いてくれないだろうし。
それに、僕も知らない内に共犯者になってるし。

「まぁ、兎に角、ファーン先生の処に行ってくるわね。」

「うん、いってらっしゃい」

そう言って僕とカヤは別れた。
あっ、カヤとアモンの関係を聞き忘れちゃったや。
まぁ、今度暇な時にでも聞けばいっか?
第一、  ファミリーネームが同じだけで関係者、なんて考えるのも田舎者の発想みたいで恥ずかしいよね。





「失礼します。篠宮 カヤ研修生、ご命令通りに出頭しました」

「どうぞ入ってください。」

「はっ、失礼します」

ファーン先生の言伝の通りに教官棟の専用個室の前で型通りの挨拶を済ませ、向こうも定例通りな応答をする。
そんな訳でお邪魔しま〜す。
部屋に入ると中は奥の窓際に先生が座る大型のデスクとその前に向き会うように配置された来客用の2組のソファーに机、うん、典型的な業務用個室だね。
先生がデスクにいるのは予想通りだけど……

「シャッハさん!?こっちに来ていたの!!?」

「ええ、丁度コラード三佐に用事が有りまして、ついでに貴女の顔も見ていこうかと」

赤紫の髪をセミロングに纏め、黒を貴重としたシスター服を着込んだ物静かな物腰ながらも凛々しい感じを受けさせる女性、聖王教会のシスター、シャッハ・ヌエラさんが来客用のソファーでお茶を飲んでいた。
最後に会ったのは仕事の依頼の時だから、え〜と……

「二ヶ月振り、ですか?カヤも元気そうで何よりです、トレアも」

「はい、シャッハさんも。」

《ええ、ご無沙汰しているわ》

シャッハさんとは魔法を使った接近戦関係でお世話になってるからもう5年になるのかな?
今ではヴェロッサさんと同じ様にお姉さんと世話のかかる妹みたいな感じで接してくれている。
一応、仕事場では礼儀は示しているけど、それ以外の場では今みたいな感じではなしている。
でもな〜んだ、今日の呼び出しはこの為か、やっぱり昨日の件じゃなかったんだ。
うんうん、こう見えても証拠隠滅には自身が――

「勿論、今日の呼び出しは昨日の件も含まれていますからね?」

「聞きましたよ、カヤ?全く貴女は――」

――え〜、結構自身があったんだけど、もしかしてバレてる?

「あ〜、昨日の件とは一体何のこ「勿論、昨日の、昼間の、登校方法の件ですが?」……」

「「…………」」

「………………ワタシ日本語ワカラナイ、フランス人アルヨ。ちゃんとパスポ−ト、モテルヨ?」

「「はぁ……」」

……やっぱり、ギャグじゃ誤魔化せないわね。
チッ、何処でばれたの?

姿を誤魔化していた私の隠行魔法、金霞冠が誰かに見破られてた?
――――いや、今までの実績から今回みたいな咄嗟の事態でそう簡単に気付かれる事は無い筈。
事実、並列で使った身体強化や、重力制御の魔法だってすぐ側にいたステイにすら気付かれていなった。

ローラーブレードのタイヤ痕が足場にしたビルに付いていた?
――――そんな初歩的なミスは犯していていない。

レールウェイの乗車記録は消しといたし……何処にミスがあったのっ!?

「カヤ、貴女は何を下らない事でシリアスな雰囲気を醸し出しているのですか……」

「全く反省の色が見えませんね。……途中下車、しかも山岳間なんかでしたら乗務員の記憶に残るに決まっているでしょう?」

《なるほど、そこか……以後はその辺の事も考慮しないといけないと駄目ね》

「人の記憶、ね。うん、以後は黙って消える事にしよう、ってな訳で――――」

「《勉強になりました。》」

そんな私とトレアの反省の姿にお二方は盛大な溜息を吐く。
何か可笑しかった?

「確かに私も若い頃は色々やりましたけど……反省の方向性が逆です」

「本当に貴女達兄妹は……お義姉さんを見習いなさい」

「むっ、あんな連中と比べないで下さい。……で、やっぱりバレた以上はペナルティーとかあるんですか?」

「バレた以上、って……もういいです。それでは本題に入ります。そのペナルティーですが――」

ブー、やっぱりあるんじゃないのよ、ペナルティー。
何だか疲れた表情のファーン先生の言葉を吟味すると、ふむふむ。

「なるほど、あの縦ロールを事故に見せかけて亡き者にしろ、と?」



「「何を聞いたらそういう結論に辿り着くんですか!?」」

「……いやだなぁ。冗談に決まっているじゃないですか?」

《……二人共、もう少しシャレがわかった方が人生に潤いができるわよ?》

「いえ、シャレに聞こえませんでしたよ。返答までの間とか、貴女達の性格とかから」

流石に私も其処までは考えていなかったわよ?
精々、イイの一発、本気で叩き込んでやろうと思ったくらいで。

「要するに、大人しく三ヶ月過せ、という事でしょ?」

「――そういう事です。まぁ、個人レベルの諍い程度までなら許容もしますが――」

冗談はここまでにして、大体は昨日の私の推測通りだった。
今年から始まるこの研修会を無事に成功させる為にも『大人』が出てくるような無用のイザコザは起して欲しくない、と。

「勿論、後で彼女にもその辺りの事は念を押しておきます。」

「それにしては、向こうは私の事を知らないみたいだけど、効果あるんですか?」

《それ以前に知られたくもないんだけど?》

「その辺りは此方も考えます。その代わりに今回の貴女の『ワガママ』も容認したのですから」

「でもでもっ、別にセンターガードでも皆の平均くらいは取れますよ?」

「センターガード、ってカヤ……何を考えているのですか?貴女は――」

う〜、だって今習得したい技能がソッチ系なんだもん。
言っちゃ悪いけど、それにこんな『実践で失敗してもフォロ−がある環境』なんてそうはないしさ。

「本当に貴女は手間のかかる教え子です」

「……ゴメンなさい。でも、いざとなったら本来のポジションに戻りますから」

(全く、この娘は――)「もういいです。これで私の話は終わりです。」

「はーい。……あっ、先生。そう言えば、スティール・カルヴァンって先生の推薦でこの区域の研修会になったって本当ですか?」

「ええ、そうですけど?」

「彼って……いえ、何でもないです。失礼しました」

まっ、いっか。私は退出の挨拶をしてさっさとこの部屋を出て行った。




カヤがいそいそと部屋を出て行った後、私とコラード三佐は互いに苦笑を浮かべながら目の前のお茶を口に付ける。
この二ヶ月で彼女はまた強くなった。
それは彼女から発する【匂い】の量で直ぐに理解できる。
少し嬉しくなった私は三佐に彼女の心象を尋ねた。

「どう、ですか。彼女を見た感想は?」

「――そうですね。私も以前に『貴女達』に頼まれて何度か指導をしましたけど……その贔屓目無しでも大したものです」

「はい。彼女の世界では【三日会わざれば活目して見よ】との言葉があるそうです」

「ふふっ、自慢ですか。シスター?」

「そう聞こえるのなら、そうなのでしょう」

三佐の言葉に私は被りを振ってそう答える。
事実、彼女を僅かな期間とはいえ、指導した人間として、その成長振りを見ていると誇りたくなる様な嬉しさすら感じているのだから。
兄程でなくとも、その恵まれない才を存分に活用したあの【技術】。
アレはベルカの騎士ですら、否、ベルカ騎士だからこそ嫉妬すら憶えるほどの【モノ】。
彼女達が主張する様に、あの完成形こそ『ベルカ騎士のあるべき姿』なのだろう。
勿論、その基礎になった兄や私を含めた多くの先人達より鍛えられた【肉体】や、幼い頃からつらい実戦(現実)を潜り抜けてきた事で形成されたその【心】。
ああ見えてブラコンの気がある所為か、若干彼も過保護にしすぎていたように見えたのですが……それ込みでも断言できる。

――――彼女は強い。心、技、体、共に――――



「何にしても、老い先短い私には彼女の様な有望な後輩を見ていると嬉しくなるわ」

「周囲にいい影響をもたらすといいですね?」

「ええ、そうやって新たな世代が新しい価値観で羽ばたいていって欲しいものです」

三佐の言葉に私は大いに頷いて、カップの中身を飲み干した。
……頑張りなさい、カヤ。
私達は貴女に期待していますよ?

未来を、新たな時代の始まりを――――貴女のその背中に








第三話、了。



あとがき
どうも、一筆者のてんユウです。
性懲りも無く第三話をここにお届けしました。
今回のお話は「カヤって意外と厄介なポジにいるの?」といった所でしょうか?
彼女を取り巻く環境や魔法との出会い等は追々書いていくとして、幾つかの用語を補足説明を書かせて頂きます。



金霞冠――カヤが使用する空間歪曲魔法。
使用者の周囲の小規模な空間内における光の屈折(姿)や空気振動(声)、果てには散布物質への行動(匂い)を干渉し、完全に姿を判別できなくする事が出来る。
尚、コレだけだと魔力の漏れだけは隠せないが、彼女の持つ【特技】からその辺りの心配は殆ど無い。
勿論、コレを使って男湯に侵入しても湯気でバレる様な初歩的なオチにも引っかかりません。
元ネタは、かの中国の大作、封神演技の宝貝より。
彼女の魔法は殆どコレが原典だったりします。

【炎魔(アモン)】――とある嘱託魔導師の異名。
元になったその人(悪魔?)はキリスト教典に記される悪魔の名前で、最高の天使とも言われた【曙の明星(ルシファー)】の朋友。
彼が堕天した時に、別に自分が何か罪を犯した訳でもなく、親友に義理立てて自分の意思で共に堕天。
その後も、ルシファーと正面からやり合える程の実力を有しながらも権力にはさほど興味が無いのか、それとも面倒事が嫌いなだけなのか、ナンバー3の権力者【夜天の王(アシュタロス)】の部下に収まる、一説にはソロモン72柱内ならガチンコ最強、その癖、詳細は72柱の中で最も謎に包まれている、という風変わりな梟の姿をした炎を操る悪魔。
ソロモン番付で魔王達を押し退けて完全数(第七番目)の位に居座るのは伊達ではない。
話を戻して、嘱託の彼はそう名乗った記憶は無いのだが、周囲が彼の性根と実力から勝手に名付けたらしい。
当の本人は現在、長期休暇中。



元々、第四期なんて絶対ないだろうな〜、なんて思っていたもんで、オリ設定満載の私の稚作ですが……四期の発表がマジで怖いです。100%噛み合っていないでしょうが、そこは「第四期の平行世界」とでも割り切ってい頂けると幸いです。
後、最後に私のこの「世界は私の為にあるっ!」ですが、根底のコンセプトに『魔法、って、そんなにそれ以外の体系を見下せる程に凄い存在なの?』というのがあったりします。
そんな訳で、作品中においても「魔法至上主義者」の人達には彼女の闘い方は「邪道、チート」と感じている人達が結構居ます。
だから、なるべくその辺りは気をつけますが、詠んで下さった方の中にも、気分を害するように思われるかもしれません。
でもまぁ、「まぁ、こんなカタチもアリなんじゃないの?」と軽い気持ちで今後も読んで頂けたら嬉しく思います。

長々と失礼しました。
それでわ!










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