合同研修会……それは近年の管理局の陸・海・空部隊の仲の悪さを解消する為に考案された新人研修会兼交流会で、今年から本格的に行われる事になった新人育成プランの一つ。
新人達、という事でキャリア、ノンキャリア問わずそれこそ前線、バックアップまでも共に今年からのルーキー達を集められる事になった。
確かに各部隊の仲が悪いというのは有名ですし、JS事件みたいな惨事の時にも素早く対処できるようになる為だというのも分からないでもない。
だけど、私は納得できませんわ。
母はXV級艦の提督で、母の両親も管理局の黎明期から所属していた由緒ある一族の一人であるこの私、クリスティーナ・ローソンが、何が悲しくて凡百の雑種達と机を突き合せねばならないのでしょう?
私はこのまま母の艦に搭乗して経験を積み、その後、自分も母と同じく提督の地位にまで上り詰める筈だったのに……
……まぁ、仕方ありませんわね。
これも時代の流れ。
いいでしょう、ここで自分の駒に成りうる素材を見つけるのも悪くはありませんわよね。



そう、そう思っていた……思っていましたのに、あの尻尾頭ときたらっ!!


出会った存在は、昇龍の申し子

手にしたものは、生涯の好敵手

世界は私の為にあるっ!――――始まりますわよ




第二話「尻尾頭VS縦ロール」






「はぁ、憂鬱ですわ」

ここはローソン家が所有するヘリの中。
現在、研修会場の周囲にある樹海地帯を横断している最中。
もう数分もすれば到着するでしょう。
別に態々大型ヘリで向かうほど離れた場所にいた訳ではありませんでしけど、お母様曰く、『統率者足る者、常に人目に晒されていなければ成らない』との言葉により、この大型ヘリで向かっている。

「お嬢様、後一分で到着します。着陸の準備を――――」

「ええ、分かりましたわ」

パイロットの声に私は鷹揚に頷く。
……はぁ、仕方ありませんわよね、これも規則。
ならば精々、今後の私の手足になりうる素材の発掘にでも勤しみましょう。
その為にも、第一印象は相応のものにしなければなりません。
さぁ、行きますわよっ!
そう、思いヘリの扉を開けて一歩外に踏み出そうとした瞬間,

――――空から女の方か降って来た


その女性は空中を翔びながら、まるで新体操の演技の様に捻りを加えた伸々回転で音も立てずに静かに私の目の前に着地した。

私には理解できない。

此処は会場となる学校庭のど真ん中、飛翔してきた方向から壁までは二十メートルは離れている。
何処から翔んできた?
どういう訳か一人の男性を背負っていたその女性は私には見向きもせずにその男性と話し込んでいる。
私には挨拶は無し?
そして何よりも、



私は先の彼女の姿に心から美しいと思ってしまった




着地時に僅かに曲げたその均整の取れた体躯に一つに纏めたポニーテールがその衝撃に持ち上がり僅かに揺れ動く。
一体どれほどの距離を跳んで来たのかは知らないが、着地には何の憂慮の無かったのか、眼を閉じているその姿には自信がありありと窺える。
彼女は絶対の自信と、それを行った技量、更には未開の秘境を守り棲む深淵なる大龍の如く絵も知れぬ気品を纏っていた。
生まれた気流より僅かに舞い上がる桜の花を伴う嵐の中から現れた彼女は掛け値なしに美しかった。
風に運ばれる仄かな【甘い】匂いも彼女を更に引き立てる。
そんな姿に見惚れた自分が――――



それが何より許せない




これが私達の長く続く腐れ縁の始まりになるとは思ってもいませんでしたわ。







あの後、びみょ〜に居た堪れなくなった私達はそそくさとあの場を立ち去り、会場のホールで式の始まりを待っていたんだけど、ステイがさっきからウジウジと抗議してくるのでそれに私はピシャッと反論していた。

「だ〜か〜ら〜、あの時の私はマイケル・J・フォックス様が臨りてたから100%安全だったのっ!」

《あのね、マスター。そういう地球ネタは多分理解してくれないわよ?》

「ゴメン……そのマイケルさん、って誰ですか?」

「何よアンタ!?マイケル様を知らないの!!?折角アンタのミドルネームに引っ掛けてあげたのに……仕方ないわね。今度DVD貸してあげるから。一作品にレポート一つ提出ね?」

「はぁ、どうもありがとうございます……」

全く、あれ程の名作を知らないなんて……
まぁ、それは兎も角、彼も漸く自分の非を認めてくれたようだ。
そもそもっ!高々、ハイウェイを走る車(凡そ時速150キロほど?)に引っ張ってもらったり、その勢いを殺さないまま十階のビルの屋上に飛び移って、すぐさま更に隣の八階建てのマンションに跳び付いたり等々をした位で――――

「アンタも魔導師でしょ?現場じゃ、あんなの日常茶飯事よ」

「ほ、ホント?それは知らなかった。騒いでゴメン……」

うん、少なくても私の周りの人達ならそう言い切る筈よ?前衛後衛、関係無くね。

「まぁ……さっきも言ったと思うけど、これから三ヶ月間宜しくね、ステイ?」

「う、うん!宜しく、カヤ!!」

私の言葉に少し顔を赤らめながら慌てて頷くステイ。
……もうちょっと、スピード落とした方が良かったかな?もしかして、未だ頭に血が上ってるの?

《マスターの微笑に怯えてるのよ、彼は》

うっさいわね。
どうせ私は皆みたいに可愛くありませんよ。



そんなこんなでこの第43合同研修会の責任者兼講師でもあるファーン先生が壇上に立ち、式が始まった。










「――――そういう訳で皆さんはこれから三ヶ月間を階級も年齢の区別なく、共に同格の友として切磋琢磨してくれる事を期待しています」

この研修会の責任者でもある、ミズ・コラードの締めのお言葉を以って式は恙無く終了した。
ふん、騒乱期の勇士とまで呼ばれているファーン・コラードも、所詮は佐官止まりの人間、か。
階級区別なしで共に切磋琢磨?
馬鹿馬鹿しい。
折角、階級制度というものが存在する以上、そこに敬意を払うのは当然でしょうに。
まぁ、その辺りの事などどうでも良いですわ。
それよりも気に入らないのは、あの空から降ってきた女ですわ。
式の始まる前に、さっきまで隣の男の人と話していたと思ったら、その後は20〜30代位の男性達と話してばっかりでっ!
ここに何をしにきたのかしら?男漁りでもしにきたのですかっ!?
全く、理解できませんわ!!

「それでは皆さん、この後は長期休憩を挟みまして施設案内とこれから三ヶ月間のスケジュールを発表します。では解散」

「お嬢様?如何かされましたか?」

あら、いけません。つい、考えに没頭してしまいました。
お母様の派閥の中の有力者のご子息で、私と同期のシラムさんの声が掛かるまで周りが見えていなかったなんて。

「いえ、大した事ではありませんわ」

取り敢えず、昼食を済ます前にあの少々生意気な方に私自らがご挨拶に出向くとしましょうか?
私はゆっくりと彼女の方へ近付くと一言、声を掛けた。

「御機嫌よう、ミズ?」






う〜ん、さっすがファーン先生ね、言葉に重みがあるわ。
私もこの五年、色々現場を見てきたけど、やっぱ一番大事なのは信頼よね?
そりゃあ、階級っていうのも必要なんだろうけど、それを踏まえて同格の朋友として接しないと、事件解決なんてとても出来ないよ。
それにしても……知り合いって結構いるもんね?

「そういや、何でアンタがいんのよ、セルド?局員なんて死んでもなるか、なんて言ってたじゃない」

「うっせ、カミさんの両親に、もっと保障のある生活をして欲しい、って言われたんだよ」

「ふ〜ん、んじゃパイクのおっちゃんは?」

「俺もまぁ、似た様なもんだよ。連れ添いが妊娠7ヶ月なんでな」

「ああ、確か局員手当てに子沢山な家族に対する特別手当、ってあったもんね。えっと、5人目だっけ?」

「……今度で7人目だ」

《パイク、アンタちょっと家族計画って言葉、知ってる?》

「うっせ。つかお嬢……この前の例の件、聞いたぜ。派手に暴れたそうじゃねぇか?」

「言わないで。思い出したくないの」

いや〜、夏の「マリアージュ事件」は正直キツかった。
あの無茶振り義姉貴にいきなり別件で呼び出されて何時の間にか巻き込まれてたわ、最後の方でちょ〜っと無茶する羽目になるわで、解決後は4日ほどベッドの上から起き上がれなかったもん。しかも無駄に目立っちゃったから痕跡消すのに手間取ったし……
とまぁ、その話はおいといて、まさかこんな場所で元同僚の嘱託仲間に会えるなんて。
うん、世間って意外と狭いもんね。
そんな事を話していると、隣にいたステイがオズオズと話しかけてきた。

「カ、カヤって知り合いが沢山いるんだね?」

「まぁ、仕事柄で陸海、空はあんまり行ってないけど、彼方此方の部署を梯子してたからね〜。だから色んな人と会う機会は一杯あったのよ」

「へぇ〜」

「まぁ、この連中も顔は厳ついし性格も鬼畜気味だけど、話してみると結構面白いわよ?」

「「誰が鬼畜かっ!?」」

「……セルドって確か25で奥さんは私と同い年よね?パイクのおっちゃんは……もう少し自重しなよ」

「「……」」

《大体、前にセルドの家に遊びに行った時にアンタの奥さん……ちびっ娘、黒ふち眼鏡にピンクのアニマル柄エプロンでお出迎え、ってどんだけよ?》

「やかましいわ、トレア!キャミーの悪口を言うな!!」

「……楽しい人達だね?」

顔を多少ひきつりながら言葉を吐くステイに私は苦笑する。
確かにこの二人、ううん、今まで会った色んな人達もなんだけど顔は多少おっかなくても心根はいい奴も結構いるのよね。

《ステイは如何思うの?ファンシー趣味の年の差10歳の奥さんって?》

「おい、坊主。お前は俺の味方だよな?」

「うえっ、ぼ、僕ですか?……僕としては本人達が納得しているなら問題ないかと。夫婦仲がいいのが一番だろうと思いますし……」

「だろ?この殺伐とした業界でキャミーだけが俺の癒しなんだよ。この前、キャミーがな――――」

《こ〜の八方美人。ノーといえる人間じゃないとこの業界じゃ、早死にするわよ?》

「トレアも言いすぎだよ……僕は――」

む〜、私一人を放って置いて向こうは馬鹿話で盛り上がってるじゃない。
ステイも、セルドもトレアも声色や表情からしてアンタをからかっているだけなのに、あんなに必死になちゃって、まぁ。
それじゃあ折角だし、私もあのルーキーをからかいに行きますか?
そう思っていた刹那、

「御機嫌よう、ミズ?」

誰かが私に話しかけてきた。






「はぁ、こんにち……わ?」

声を掛けられた私はその方向へと振り向くと私は途中まで出た声が一瞬途切れてしまった。
そこにいたのは私と同年代の一人の女の子。
就業年齢の早いミッドとはいえ、管理局の新人年齢の平均は大体22〜3そこそこだから彼女も相当早いほうだろう。
だけどその点で戸惑ってしまった訳ではない。
着ている服装は青を基調とした海の背服。
人形の様な整った顔立ちにサファイアの瞳。
メリハリが在りながら(べ、別に羨ましくなんて無いんだからっ!)も、すらっとした肢体に腰まで流れる金髪。
彼女からほんの僅かに漂う、この目に滲みる様な【辛い】匂いって――――

《ト、トレア……彼女》

その髪は数筋の縦ロール状にカールされており、

《ええ、私もそう思うわ……彼女は》

生来の性格なのか、勝気な表情がありありと表れている。
そう、彼女の姿、それは――――

《《お、お嬢様だ……》》


『金髪、縦ロール、勝気な表情』が揃った完全無欠にお嬢様スタイルな女の子だった。
うわ〜、実在したんだ、こんな格好の人が。






あら、如何したのかしら?
私の顔を見た瞬間にこの方は凍りついた様に固まってしまったようだけど……もしかしたら彼女は私を知っているのかしら?
ふふっ、有名人はツライですわね。

「ああ、ごめんなさい。ちょっとビックリしちゃったもんで……」

「あら、そうなのですか?」

まぁ、何に驚いたのかは聞かないであげますわ。

「え〜っと、それで今日はどういった用件で?」

「ええ、今朝の校庭で出会った時にはキチンと自己紹介できなかったでしょ?ですからここで挨拶をさせてもらっておこうかと思いまして」

「校庭……ってああっ!あの時のヘリの!?」

「思い出して貰えたようですわね、私の名前はクリスティーナ。クリスティーナ・ローソンといいます。」






ローソン、まるでコンビニみたいな名前ね。
本人に言ったら流石に怒るだろうから言わないけど。

《マスター。ローソンって言ったら……》

《うん。もしかしてあのローソン?保守派(化石頭)の重鎮の?》

あちゃ〜。もしかしてあのケバいオバちゃんの親戚の子?
イヤな娘に目を付けられたわね。

「初めまして、ローソンさん。私の名前は篠宮カヤよ。失礼だけどもしかして、あのローソン提督の……」

「ええ、ジェニス・ローソンは私の母です」

うげっ、やっぱ今日って厄日よ!
アレの娘と三ヶ月も過さなけりゃならないの?
うん、取り敢えず手早くお取引願おう。

「へ、へ〜、って言う事はローソンさんはキャリア組なの?私みたいなノンキャリアでB+な人間とは会話が会うかな?」

「あら、そうなんですか?それは残念ですわ」

おい、何が残念なのよ!
ていうか何でいきなり見下した目をぶつけてくる!?
その喧嘩、買ってあげようか?
私の軽くキレた心中も察せずに目の前の女は言葉を投げかけてくる。

「まぁ、それならそれで構いませんわ。私、あなたに提案があるのですけど?」

「提案?」

「ええ、ここの研修会に参加している間、幾つか私の頼みを聞いて頂けませんかしら?そうしたら、私も母の伝で『環境のいい部署』から推薦が来る様に手配しますけど?」

落ち着きなさい、私。
KOOLでいこう、KOOLで。

(このアマ……マジでシバいたろかっ!?)「……それは態々どうも。でも私、もう別口のスカウトが来ているもんで」

(この女……私の誘いを断るというの!?)「…………あら、それは残念ですわね?」

「………………ええ、全く」

私と目の前の女は笑いながらそんなことを話し合う……勿論、両者共に眼は全く笑っていない。

「あら、もうこんな時間。それではミズ・シノミヤ、御機嫌よう」

「ええ。御機嫌よう、ローソンさん」

そう言うとローソンはコツコツと後ろの扉に向かって歩き出した。
あ〜、ウザイ奴だった。
そんな事を考えていると、扉を潜ろうとしていたローソンが立ち止まった。
こちらを振り返らずに肩越しに私に声を掛けてくる。

「ああ、ミズ・シノミヤ。ご忠告が――――あまり目立つ行動は控えた方が宜しいですわよ?」


「それはどうも。なら私も――――囲いの外はお寒いからもっと厚着をした方がいいかもね?」


私の言葉を聞き届けると、今度こそ止まらずに部屋を出て行った。
く〜〜っ、何よアレ!?
イライラするわねっ!!

「痛い、痛いって!カヤってば、何で僕の頭を殴るのさ!?」

「男の子でしょ!?その位、我慢しなさい!!」

何だかステイがフガフガ言ってるけど、私は無視。
よし、今度模擬戦の機会があったら、こっそり非殺傷設定を解除して一撃打ち込んでやろう。

「よし、ステイ!食堂に行くわよ!!今日は私の奢りだから好きなの頼んでいいわ」

「えっと、ここの食堂は無りょ……ううん、何でもないよ。それじゃゴチになります……」

「うん、素直で宜しい。んじゃ行くわよ!」

取り敢えずお腹一杯食べたらイライラも収まるでしょ?実際、まだお昼食べてないし。
そんな訳で私はステイの襟首を掴んで彼を引き摺るようにして部屋を出て行った。

 

「セルドさん、パイクさん。お願いします、助けて下さいよ〜」
「良かったじゃねぇか。可愛い娘と食事できてよ?」

「うし、これからもキレたお嬢のお守りは頼むな、坊主?」

「そんな〜」


ん?何か後ろが騒がしいわね?







第二話、了。



あとがき

そんな訳で懲りずに第二話、お送りしました。
主役組に立ち塞がるお嬢様が登場して、これから短いながらの訓練生生活が始まります。
これからも頑張ってコイツ等が面白く立ち回る様に話を組んでいきたいと思っています。

それでわ!








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