支度を終え、転送ポートへと向かう。

これから行く先を考えると、あまり良い気分ではなかった。

まぁ、時間と体力の浪費を考えるといつも良い気分ではないのだが、それ以上に管理局にばれないようにやるというのが
一番の要因。

神経使うし、行動制限されるし、それに加え“あいつ”がいる・・・。実に面倒くさい。

だが、それでも文句は言ってられない。ケジメはつけなければ。

あの時止められなかったのだから、今回こそは止めなければならない。

この事件を解決するまで、俺は一生、後悔と懺悔の念に苛まれ続ける。だからこそ、戦わなければ。





 ポートへ着くと一人の少女が居た。イドゥンだ。


「お前も行くなんて聞いてない。」

「見送りだよ。」


 暫しの静寂。

そして、互いに歩き出す。俺はポートへ、イドゥンはその反対側へ。

言葉はない。音もない。あるのは感情――想い。長い時間を共にいたからこそ分かる互いへの想い。

愛おしいとかそういうものではない。ただ、相手を信じ待ち続けるだけの浅はかで、それでも深い信頼の念。

足下に魔法陣が展開され、光が溢れる。やがて、それは俺を包みこむような形になった。

そして、視界が途切れた。















 次に見た光景は辺りが緑に囲まれた、木々が生い茂る土地。

生い茂るとは言っても、鬱そうとしてる様ではなく綺麗といった感じだ。

何分間、視界が途切れていたのかは分からない。時差ボケになってしまいそうだ。

幸いにもミッドチルダは夜だった。昼間よりは動きやすいだろう。管理局に近づけば昼間と同じほどの警備が居るだろうが
用がある場所は局からかなりの距離がある。

だが、こちらが動きやすいということは勿論、相手も動きやすいということ。あちらも魔力は消しているだろうし、何より
魔力制御が全くできない俺にとっては最悪。いつ奇襲を掛けられるかも分からない。

まぁ、ここで考えていても始まらない。今はなるべく早く“欠片”を回収するように努めることだ。

左手の甲に輝く相棒を見据え、前に進む。
















 こちらに来て一時間経った。

周りは大小様々な岩が転がっている山岳地帯。開拓はされているようで遠くにはリニア・レールが見える。

だが、開拓されているのはリニア・レールが通っているところだけ。周りは荒削りのままだ。

情報だと、今いるこの場所から周囲2km内にあるはずなのだが、如何せん地形が地形で時間が掛かってしまう。

管理局といい、地形といい、“あいつ”といい今回はハズレを引いてしまったらしい。


「―――――」
《何か・・・来ますね。》

 一瞬だけ感じた違和感、というより威圧感か。本能的なものではない、語りかけてくるような何か。

本当に一瞬だったが、しっかりと感じられた。

そして、思考するよりも早く、次は本能的なもので身体が反応していた。

地面を思いっきり蹴り、空中で相棒に合図しバリアジャケットを展開させる。

そのまま、数秒間滞空していた。すると――





ドォォォォォーーーーーーン





 辺り一面、至る所で爆発が起きていく。

木々は焼け、崩れ落ちる音。黒煙が空に狼煙のように上っていく。まさに焼け野原。

この様子だと被害が出ているのは周囲2km。確実に“あいつ”だ。

だが、“あいつ”がこんな野蛮且つ大胆な行動をするとは思えなかった。

思えなかったのに、俺の考えは揺るがなかった。絶対とも言える自信があった。

辺りに広がる魔力の残滓。懐かしいとも感じられるそれは、紛れもなく“あいつ”のもの。

考えや道が違っても、人間としての中身が変わろうとも、決して変わらないもの。

それは、覚悟。自分自身にとって、夢とも言える未来を掴み取るための覚悟。

だが、その儚い夢のせいで“あいつ”は墜ちた。

死んだ者に固執し、生きている者に目を向けなくなった。まるで興味がない、と言っているかのように。

目を覚ましてやらないと。あいつが上ってこられるように、上るきっかけを作ってやらないといけない。

それが出来るのは、あの日、あの場所に居た俺たちだけだから・・・。


「・・・久しぶりだな、クロウ。」


 数十メートル後ろにあいつは居た。

バリアジャケットである赤い鎧を身に纏い。手には蒼く光る剣。

視線が交錯する。魔力が殆どない俺にとって、この戦いは困難以外の何者でもない。

この戦いに掛ける想いもそれに連なる覚悟も、目に見える力にはならない。所詮はただの原動力。

だが、改めて思った。馬鹿に出来ないな、と。

いつもなら、魔導師と出くわした瞬間逃げるというのに、今は真っ正面に向かって立っている。

やらなきゃならないから、というのもあるがそれもまた一つの想いであり原動力。

魔力を持っていた頃よりも遥かに俺は弱くなり、クロウは強くなった。数十メートルという距離にいても分かる。

あいつの瞳はしっかりと“俺”を見ている。生きている者に興味がまるで無かったやつが生きている“俺”を見ている。

上ってくる前触れか、さらに墜ちていく前触れか。それをこの戦いで決めなければならない。





 同時に空を蹴り、剣を振り下ろした。














  ―後書き―

 Episode 4 読んで頂きありがとうございます。

今回は話のテンポが早い、と感じられる方もいらしゃられるのではないかと思います。

私自身少しばかり早いかなぁ、とか思ってますので。

ですが、話の流れを考えていくとどうしても長くなってしまうので割と早めのペースとなってしまいました。



コメント返信


>>新連載、読みました。今後もがんばって書いてほしいです。



拍手感想ありがとうございます。

なるべく時間あきすぎないように投稿させて頂きますので、これからもよろしくお願いします。






それでは、これで失礼します。次話も目を通して頂けたら幸いです。












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