『――やめろ!禁忌を犯すことはたとえお前でも許されないことだ!』

『――お前らにこの気持ちが分かるのか!?大切な人を失ったこの気持ちが!』

『――その気持ちは私たちだって同じだ!自分一人だけ被害者面して逃げられるなんて思わないでよ!』

『――何だと・・・!?――の分際で人間と同じ感情を覚えられると思うなよ!?』

『――!くっ・・・・』

『――俺はなんとしてもあいつを生き返らせる!俺は・・・お前らの・・・敵だ・・・・!』

『――だったら仕方無い・・・俺はお前を・・・殺す!』

『――私も容赦はしないよ・・・!』





















 ―――クロウ・・・・・・


















 目が覚めた。

いつもながら見ていて良い気分はしなかった。

 夢、というのは本人の記憶や感情、状態などに左右される場合が多いらしい。

今のは“記憶”だ。感情にも当てはまるかもしれないがどちらかと言えば記憶だろう。

その理由は勿論、夢と同じ体験を俺自身がしたからだ。

 記憶で見る夢、というのは良い記憶よりも悪い、思い出したくない記憶の方が確率的には高い。

ここで断言してしまうのは些か良くない気もするが、実際何度も思い出したくない記憶を夢で見ているのだから
断言してしまいたくもなる。

何故何回も見たくないものを見てしまうのか。

それは、その場面――光景に何らかの想いがあるからだ。


正の想いならば喜び、楽しみ。

負の想いならば怒り、悲しみ。


俺の抱く想いは・・・後悔。

あの時止められなかった、情けない自分への怒り。


 扉が開き、一人の少女が入ってくる。


「おはよ、レイ。」

「あぁ、おはよう。」


 俺の相棒(パートナー)イドゥン。

この戦争を共に戦ってくれている仲間。いや、もっと近しい存在。

他にも大切な戦友はいるが、こいつは“特別”。

 まぶしいほどの光に照らされているこの世界「ファンダヴェーレ」

戦闘から数日明け、今は実に平和。それでも、戦時中に変わりはない。

この世界自体にあまり影響が無いのは、優秀な軍がいるからだ。

そして、それを俺が指揮している。

実に面倒くさい。ハッキリ言って、今すぐ辞めたい。

最弱としか言いようが無く、味方に迷惑ばかり掛けている俺が、何故こんなことを・・・。

そんなことを思っていても今更遅いわけで、考えるだけ無駄。



 無駄に広い自室を出て、イドゥンと二人で朝食を取りに向かう。

今度は無駄に広い部屋にプラスして無駄に長いテーブル。

そこには既に先客がいた。


「あぁ、おはようございます。レイ、イドゥン。」

「早いな、アリシア。」

「おはよー、アリシア。」


 テーブルの上には少し多めの料理。それを食べながら、話を切り出す。


「いつまでも、こうしちゃいられないな。」

「だけど、欠片が見つからない以上、こっちとしては動けないよ?」


 欠片。正式名称“生命の雫(アクア・ウイタエ)”

俺たちが探している一種のロストロギア。

欠片、というからには最初は塊だった。それがある事件で砕け散ってしまった。

悲しみのあまり、自分を制御できなくなってしまった男が起こした悲劇。

それを巡り、戦争をしている。

アクア・ウイタエはすべてが魔力で作られた物質。

無尽蔵に魔力を生み出す装置であり、中には高濃度の魔力。

つまり簡単に言うと“出来ないことが出来るようになる物質”

どこでどうなってこういう言い方になったか。

まぁ比喩表現にしかすぎないのだが、魔力に恵まれない者が恵まれている者と同じことが出来るようになる。
そんなところだ。

その砕け散った欠片が各世界に散らばった。俺たちも敵対している者たちも見つけられなければ行動できない。


「それなら、見つかりましたよ?」


 大事なことをまたさらりと・・・

危うく聞き逃してしまうところだった。パンを口に入れながら言われたから余計に。

それを飲み込み、カップに入れてあるコーヒーを飲み干す。


「ただ・・・今回、場所が少し面倒なんですよ。」

「面倒なのはいつも同じだ。」

「ミッドチルダです。」


 やってられん。

今まではなるべく時空管理局に見つからずにやってこれる範疇だった。

戦いも小規模なものだったから、周囲に痕跡を残しにくかったし、俺個人の場合は魔力が少ないというのも利点だった。

だからこそ、この世界自体も管理局の管轄ではない。管理局の支援を受けられないというデメリットもあるのだが・・。

見つからないようにやってきたのには勿論、理由がある。

一番大きなものとしては、探している物質。

ほぼ間違いなく、見つかったら管理局が回収してしまう。何せロストロギアなのだから。

そうされると、こちらでも色々と不都合が生じる。


「こっちの指揮は任せても良いか?」

「大丈夫ですよ。私が行ったら魔力高くて見つかっちゃいますから。」


 全くいちいち嫌みったらしいやつだ。

朝食を食べ終わり、部屋を出ようとするアリシア。扉を開けようとした時に言い放った一言は面倒くさいものをさらに
面倒くさくするものだった。


「そういえば、もうあちらも発見しているようですよ。

管理局の部隊が発見したのを“赤い鎧の男”が強奪したようですから。」


 アリシアが部屋を出た少しあとに俺とイドゥンも席を立った。

久々の単独戦闘、相手は事件を起こした張本人。

前と違うことは、俺が魔力を失ったことと覚悟を決めたこと。

下手をしたら管理局と戦闘を行うことにもなるだろう。そうなったら・・・


「まぁ、逃げるしかないだろうな・・・。」

「ん?いきなりどうしたの?」

「いや・・なんでもない・・・。」


 魔力保有者なんてこの世から消えてしまえばいいのに、とか、また叶うことのない愚痴が出そうになったのを抑え、
欠片回収の準備を整えに行く。












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