地上と空の指揮を執るため次元の海を離れ、とある次元世界の空中に移動していた。
とある、とは言ったもののそれは勿論この男が指揮している部隊が守っている世界のことだ。
戦況をモニターで確認しつつ、各部隊に迅速かつ的確な指示を出していく。
そこに、金髪の髪をした一人の女性が向かってくる。手には巨大な両刃斧が握られていた。
敵の魔導師ならばその斧を振りかぶり攻撃の意志を示してくるはずだが、それをしてこないということは男の味方なのだろう。
女性はゆっくりと男の隣に移動し、翼を休めた。
「あと30分くらいですかね?」
「おそらくな」
女性の声を聞く限りでは宙に居るときに男が話をしていた相手ではなさそうだった。
モニターを覗き込むように見回し、関心するように少し頷く。
「私はもう必要なさそうですね」
「それでもここ――戦場には居ろよ?」
分かってますよ、とでも言うように笑ってみせて金髪の女性は地上に向かって飛んで行ってしまった。
――ほんとに分かってるのか、といった表情で男もそれを見送る。
この男と直接に会話ができる人物ということは、あの女性もそれなりの地位があるのだろう。
金髪の女性が去った直後、男に向かい数・・・匹と数えるべきなのか、人と数えるべきなのかは分からないが、
異形の姿をしたもの達が近づいてきていた。
男の周りには護衛と言える者が一人としていなかった。
普通ならば指揮・統括者の周りにはやりすぎではないかと思うほど、多くの護衛側近がいるはずだ。
男に接近していく異形のもの達を撃破すべく数人の魔導師が攻撃を試みるが、撃破するどころか擦りもしなかった。
手を空にかざし、開く。光が集束し、剣の形を象っていく。それは光を思わせるような黄金の輝きを放っていた。
身の丈ほどはあろうかというその剣は、静かに音を響かせた・・・。
その音は鈴のような音であったが、またそれとは違っていた。それでも何か幻想的な音であることに変わりはない。
目を閉じ、居合いの構えで敵を待ちかまえる。
一瞬だった。異形のもの達は男の前で塵になり、消えた。
人間の目では捉えることなど到底無理であろう、光の斬撃を数発放っていた。
ドォーーーン
遥か下の方から爆発音が鳴り響いた。
「ちょっと、総司令!こっちにまで飛ばさないでくださいよ!」
今し方起きた爆発。それはこの男が放った斬撃によるものだった。
敵に向かって放ったつもりが、一発ばかり味方の居る場所に放ってしまったらしい。
もし、それで味方を巻き込んでしまったらどうするつもりなのだろうか・・・
というより、もう巻き込んでいた。
障壁で防いでいたおかげで負傷者はいなかったようだが、危うく味方を殺しかけたのだ周りからは冷たい視線が飛んで・・・
――来なかった。どちらかと言うと冷たい視線というより呆れた視線の方が多かった。
戦闘中にもかかわらず、あちこちから笑い声や溜め息が聞こえた。
「すまない!みんななるべく俺から離れておいてくれ!」
情けなさ過ぎる。
仮にもこの男、この部隊の指揮・総統括者である。
この反応を見る限りでは、このようなことは前にもあったらしい。
それに、みんな離れておいてくれ?自分が注意して戦えばいいだけのことだろう、と反論する者がいてもおかしくない。
というか、そのせいで周りに護衛が居なかったのだろう。
『ふふ・・・相変わらず、技術はあるくせに制御はさっぱりだねぇ』
またも、どこからか声が聞こえる。この声を聞く限りでは若い女の子の声だろう。
「こいつに頼ってばかりもいられないからな」
そう言って男は左手に持っている剣の刃の根本を見る。
そこには十字架を象ったレリーフがあり、淡い金色の光を出して輝いていた。
これがこの男のデバイス――“トゥルーライト”
真実の光の意を持つ、このデバイスは使用者を最強にするために作られた最強のデバイス。
だが、それも魔力が皆無と言ってもいいこの男には何の意味も成さなかった。
この男には魔力がない。
正確に言えばほとんどない。そう、無いわけではないのだ。
この男は昔、ある事故によってリンカーコアを傷つけ、魔力の大半を失った。
それは長い月日が経った今でも続いている。回復の見込みはない。
だが、それでも今まで培ってきた戦闘技術は身体が覚えている。
――努力はしてみるもんだな。
この身体になり、男は初めて努力の大切さを実感した。
努力とは言っても、この男にはそれほどの努力という努力は必要なかった。
それはこの男がある実験により得た力があったからであった。
ただ、力を尽くして事に当たったことは変わりなかったので、努力したことになるだけだった。
そのおかげで人並みには戦えている。相手に魔法の類を使用されると全く歯が立たないのだが・・・
魔力はデバイスのトゥルーライトが補ってくれる。
魔力制御は自分自身の力でやる、と言った結果がさっきのあれだ。
全くできていない。それどころか、味方の被害を増やそうとさえしている。
正直、被害者からしてみれば迷惑以外の何者でもないだろう。
それでもうるさく言わないのは皆、この男を信頼し必要だと思っているからなのだろう。
『レイさん〜敵の殲滅、大体は終わったみたいです』
「分かった。それじゃあ皆に休息を取るように伝えてくれ」
レイ――そう呼ばれた男は鮮やかな蒼く長い髪を揺らしながら、そう、返事をした。
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