大国で採用されているアサルトライフル――M4A1と呼ばれている銃にマガジンをセットし、銃の各部に追加装備を取り付ける。
銃口にサプレッサー、銃身の下部にはグレネードランチャー、更にはフラッシュライトや高倍率のスコープ、レーザーサイトまで……。
最早、コレ以上と無いくらいのフル装備化されたM4を『月衣』と言われている個人結界、我々が知る常人と『我々が知らない異人』を
隔てる物――言い換えれば『バケモノ』の証とも言えるその結界に放り込み、傍に置いてあった大量のスペアマガジンも同様に放り込む。
左腰のホルスターにはサプレッサーにレーザーモジュールが取り付けられた大型拳銃を収め、背中側には大型のナイフを収めた鞘を配置。
トドメと言わんばかり各種手榴弾を月衣に放り込み、最後に立てかけてあった……剣と呼ぶには余りにも歪な代物。
長大で分厚いが鋭利な刃を持つ刀身。
その先にあるのは……『銃』のフレーム、リボルバー型と称されている銃のフレームがあった。
誰が何の冗談でこんなフザけた代物を作ったのか解らないが、扱い辛さと引き換えに確かな攻撃力を発揮する武器。
オクタヘドロンと呼ばれる――あらゆる武器や防具を扱う会社が開発したとされる『ガンブレード』と呼ばれる剣が鎮座していた。
青年は防弾・防刃は勿論の事、更には――『魔法攻撃』にもある程度の防御力を発揮するコートを掴み、立てかけてあったガンブレード
の柄を掴んで立ち上がり、シリンダー部分、リボルバー銃と同じソレを引き出して銃弾と呼ぶにはやや長い、ライフル弾並の大きさのソレ
を装填してシリンダーを戻し、ガンブレードも月衣の中に放り込み、瞳を閉じて一言『良し』と呟いた所で『お仕事』へ……。
「何が『良し』よ、このドアホ不良息子が」
青年が声に気づいて振り向くと同時に振り下ろされる凶器……と呼ぶには余りに非力で殺傷力の無い得物。
武器として使えなくも無いかもしれないが、それよりも味噌汁やスープ等をかき混ぜたりお椀に入れる事に特化した『お玉』が直撃する。
『ぱこん』と余りにもマヌケな音が一瞬だけなった後、青年は訝しげな表情でたった今、お玉を振り下ろした女性を見据えた。
「……プレシアさん、何をするんで――」
「か・あ・さ・ん・と呼べと数年前から言ってんでしょうが、このアホたれ」
長く伸ばした灰茶色とでも言うべき色の髪、見た目は30代後半に見える女性――プレシア=テスタロッサは自分より身長が高い青年を
見上げつつ、自分を母と呼べと告げた後でもう一度彼の頭に凶器を、お玉を振り下ろして『ぱこん』と言うマヌケな音を鳴らした。
「しかし、俺は――」
「うるさい、黙れ、やかましい。
あんたの両親からあんたを引き取った時点であんたは私の家族、OK?」
「……。」
「それとも何?フェイトやアリシア、リニスにアルフが『お前なんか家族じゃない!』とでも言ったワケ?
そうだったら私の目の前に連れてきなさい、みっちりねっとりたっぷりと説教喰らわしてやるわ。」
「いや、皆には良くして貰ってるよ。しかし、しかしだ――。」
彼の両親もまたオクタヘドロンに勤務していた研究員だったが、彼等は研究中の事故によって亡くなり、幼かった彼を――。
クレイル=ウィンチェスターを残して他界した際、彼等と同じくオクタヘドロンに勤めていたプレシアが引き取ったのだ。
本来ならば親類縁者が引き取るべきだったのだろうが、研究一辺倒で親類・縁者との関係よりも研究が楽しいと言うワーカーホリック
な人種だった為、親類・縁者の覚えは物凄く悪く、葬儀には一応ながら出席はした物の誰一人として残されたクレイルを引き取ろうと
せず、施設送りにすると言う結論が出た所で見かねたプレシアが幼かったクレイルを養子として引き取り、育ててきた経緯がある。
「それで、目の前の不良アホ息子は侵魔だの冥魔だのを狩って金稼ぎして、私に返そうとしてると?」
「ソレ位しか俺にはでき――『ぱこん』
再び振り下ろされるお玉。
「あんたが稼いでくる金なんて、私の月の給料に比べると雀の涙しかないわよ。
ついで、私があんたを引き取って育てるって言った時、家の負担になるとも言った覚えは無い。
強いて言うなら、目の前のアホ息子が訳の解らんとんちんかんな事喋って、危険な事してる方が負担。
運命にでも選ばれない限り、LV99だろうが∞だろうが『うわー、もうだめだー』で片付けられるのに。
トドメ刺すならあの子達にはアンタが何やってるか既にバレてるわよ。」
「ぐ……む……。」
「あんたの負け。ほら、さっさと物騒なモノを月衣から取り出してとっとと寝ろ!」
「――いや、まだ理由はある。」
「……何よ、また訳の解らない内容だったら聞く気無いわよ?」
プレシアがそういった瞬間、クレイルは彼女の目を見て口を開く。
「この世界に侵魔よりも危険な奴らが既に来ているし、俺も何度か奴らと戦った。
……そいつらが皆に危害を加えないとは言い切れない、皆が奴らと関わらないと言う確証は無い。」
「……」
「もしも、もしも皆が奴等に襲われた時、皆を守れて、代わりに戦えるだけの実力と力は付けておきたい。」
「ソレが理由?」
「そうです。」
「……ハァ。」
短く非常に簡潔的ではあるが、クレイルの真面目な話を聞いたプレシアはどこか煮え切らない、イラついている様な表情で
頭をかきながら自分の月衣から多数の小瓶――俗にポーションと呼ばれる回復薬を取り出し、強引にクレイルに押し付ける。
少し慌てながらもクレイルがポーションを受け取った事を確認した後、プレシアは彼にこう告げた。
「この仕事が終われば皆にあんたが何をやってるのか説明。更に謝る事。そして無事に帰ってくる事。」
「……解り……ました。」
「ならば良し。……気をつけるのよ。」
今までとは違うプレシアの優しい声音を聞き、クレイルは一瞬だけ頷いた後、貰ったポーション類を月衣に放り込む。
……今回、居候先の家主の了解を得るまで仕事――この世界に何の因果か現れた・迷い込んだ侵魔を狩ったり、ウィザードに
目覚めたは良いがその力、現実世界の『概念の一切を無視する』と言う力を悪用して暴れるウィザード犯罪者の取り締まりや
排除と言った仕事を多数の組織から請け負い、完了させるまで意味の無い多大な労力を払ってきたのだが、こうしてプレシア
の理解を得る事が出来たので今後、少しやりやすくなる事を内心で喜びつつ、彼は自分の部屋を出て玄関へと向かい――。
「――行って来ます」
自分の向かうべき『戦場』へと向かっていった。
以前からウィザードと侵魔の戦いはあった物の近年では更に――侵魔とは違う、ある意味では侵魔よりも幾分タチの悪い者が
世界各地、この地球――いや、ファー・ジ・アースと呼ばれる『八つある内の世界』のみならず、他の世界にも現れ始めた。
奈落の底よりも深い、深淵の奥深くに存在する『冥界』より現れる……ウィザードだけでなく世界の敵である侵魔にとっても
イレギュラーである彼等『冥魔』と呼ばれる彼等はファー・ジ・アースに姿を現したかと思えば、凄まじい勢いで世界を侵食
し始め、世界の敵となる存在と戦う――『ロンギヌス』や『絶滅社』と言う組織ですら、彼等の対応に追われている始末。
……聞く所によればファー・ジ・アースの現状はまだ『マシ』な状況らしい。
此処とは違う世界、何でもラース=フェリアとか呼ばれる場所は世界の8割が冥魔の手に堕ちた状況であるらしく、世界滅亡
と言う言葉が『真なる意味』で隣合わせであり、腕利きのウィザードが何人も同世界に派遣され、冥魔勢力と交戦している。
万が一ラース=フェリアが冥魔に滅ぼされれば――ラース=フェリアと言う世界その物が冥魔の前線基地となってしまい、他
の世界への侵略を本格化して未曾有の危機では済まされない事態に陥る事は想像するに難しくは無い。
だから――
もしも、もしもそうなってしまった際に『家族』だけは守れる様になろう。
クレイルが戦う理由はそこにあり、ついで金稼ぎ+己の研鑽を兼ねて力を使い、フリーのウィザードとして活動していた。
世界滅亡の危機から何度もファー・ジ・アースを救った魔剣使い・柊蓮司ほど有名では無いが、絶滅社に代表されるPMC
(※民間軍事企業)にはそこそこ名は知られているし、彼がウィザードの活動を行っている際に築いた人脈(※先にも述べ
た柊蓮司ほどでは無いが)と言う物も持っており、今回の仕事もその人脈から来たものだった。
なんでも、ある地点に冥魔が出現するポイントが確認されたらしく、ソレの調査ないし可能であれば冥魔勢力の掃討を行お
うとしたらしいが、派遣したエージェント達はあっさりと彼等に狩られてしまい、何の情報も得られないまま作戦は失敗。
そこで自分に依頼が回ってきた――と言うのが事の顛末である。
報酬は何時も受けている侵魔やウィザード犯罪者の排除等と言った依頼よりも高く、更にはクライアント先である…絶滅社
から『性格に問題はあるが腕は十分』と言うドコか引っかかる感じはするのだが、エージェントを寄越してくれるらしい。
恐らく、冥魔との交戦が避けられない事は依頼のメールを見る限り易々と解る事であり、場合によっては複数の冥魔、最悪
だと冥魔の群れと戦う事も十二分考えられる為、腕の立つ仲間を寄越してくれる事は在り難い。
そうして思考しながら歩いている内に――絶滅社が派遣するというエージェントとの合流地点に辿り着いた。
「――だーかーらー!何で!俺が!お前の任務に付き合わなけりゃいけないんだよ!!」
「君も強情な奴だな。君を任務につき合わせる代わりにウィッチブレードと言う高級品を贈呈したんだぞ。」
「じゃあ、ウィッチブレードを返すから俺は帰るぞ!」
「なんと、君は私ともう一人、絶滅社が雇ったというウィザードだけで冥魔と戦えと言うのか。」
「お前ならやれるだろーが!何だよ、あのパイルバンカー装備したガンナーズブルームは!!
あんな極悪兵器装備して、近接攻撃まで可能になったお前なら大抵の敵は問題ねーだろ!」
「ふふん、ただガンナーズブルームにヴラドシステムを搭載したわけではない!
銃身を切り詰めてソードオフ化、つまり取り回しを良くし、更にセミ・オートマチック化した
『ガンナーズブルーム・桐村スペシャル』とも言うべき一品、甘く見てもらっては困る!!」
ああ、なるほど。
確かに性格に難はあるな、とクレイルはそこにいた二人を見て思う。
ウィッチブレードだのガンナーズブルームだのと言う単語が出てくる事から、この二人が絶滅社から派遣された人間である
事は間違いなく、とりあえず仕事の話をしようと思ったのだが……何とも低レベル極まりない口喧嘩は終わりそうに無い。
……ここでふとクレイルは何時までこの口論(?)が続くか試したくなり、手元の0−Ponen……よりも高性能化され
た『スマート・0−Ponen』で時間を計測してみる事にしてストップウォッチ機能(※何でたかが携帯電話にこんな機
能が付いているのか不明)を起動させ、計測開始。
「とにかく!俺はここに居る意味は無いから帰るぞ!!」
「今回の任務の成功報酬だが、今までの任務の報酬全額分が支払われるらしい――」
「良し、氷雨。早く任務を終わらせるぞ、ぐずぐずするな!」
「実に解りやすいな、君は。」
どうやら話は終わったようであり、クレイルはストップウォッチを停止する。
3:42:19、意外にも早く終わったモンだと思いつつ、スマート・0−Ponenを懐に放り込んだ。
「――で、先ほどから居る貴方は絶滅社の雇ったウィザードで良いのか?」
「気づいていたなら、そっちを優先しろ!」
「……君は話の腰を折るのが本当に好きだな、KYは嫌われるぞ?」
「うるせぇよ!」
……絶滅社の報告には『性格に難がある』とあったが、ここまでとは思わなかった。
「――取り込み中の所、済まないが……。」
「ああ、KYな相方が話の腰を折ってしまって申し訳無い。早速、仕事の確認をしたい。」
どうやら仕事の事は覚えていたらしい。
「私は桐村氷雨、絶滅社のエージェントだ。こっちは……まぁ、良いだろう。」
「良くねぇよ!テメェはドンだけ俺をコケにすれば気が済むんだコラァ!
……俺は空原、空原勇。コイツと一緒で絶滅社のエージェント、よろしく。」
二人に名乗られたクレイルはとりあえず――自分も自己紹介しなければなるまい、と口を開く。
「俺はクレイル=ウィンチェスター。一応、フリーのウィザードとして活動している。」
何を言うでもなく、端的かつ簡潔な自己紹介だけして二人に急ごうと告げ、問題の場所へと向かう。
どうせこの依頼が終われば多分、遭うことは無いだろうと思っての事だったが……認識は後に改められる事になる。
まさか、自分が『本気で世界滅亡の危機』とやらに巻き込まれる事になろうとは、この時思いもしなかった……。
<超☆ATOGAKI>
皆様、超絶的にお久しぶりでございます、おはこんばんちわ、ユウでございます。
第二話終わったあとから半年以上……と言うか年を越してますがようやく第三話を超える事が出来ました。
さてはて、今回出したクレイル――他の作者様のSSにて魔法世界で質量武器売ってたり、ガラの悪い店長だったり
アルトアイゼンに乗って暴れてたりする彼ですが、ようやく……自分のSSで出す事に成功しました。
強烈的に己の理想と浪漫を放り込んで生まれたクレイル、彼の運用は非常に難しいモノであり、どーにか彼を使える
レベルにまで修正する事が出来たのは単に、私をNWの道に引きずりこんだ張本人、NWの偉い人・O氏の協力が
あったからだと思っています。
……そんなに期間をあけずに4話を投入したいと思います、それでは失礼いたします。
PS:カニアーマーやら、イカアーマーがあるんだ。ガンブレードくらいあってもいいよね?(ぁ
氏 名:クレイル=ウィンチェスター
C V:緑川 光
属 性:火・風
クラス:侍
備 考:戦闘以外では役立たず