夢を見ていた。

 

 

どこだか解らない――町や家は愚か、草木の一本も見当たらない広大な荒野。

『死の大地』と形容して差し支えない場所に一人で、全ての感情を捨てて悲しみだけ残った様に寂しく、孤独に佇む少女の姿。

この少女は誰だ?ここはドコだ?――等と言う前に自分の中に浮かんだのは『どうにかして笑わせてやりたい』と言う思いだった。

何も無い、本当に何も無い荒野でたった一人で佇む彼女を見ると『夢』だと解っていても……何とかしてやりたくなる。

 

されど、言葉が届くことは無い。

 

そして、この思いも届くことは無い。

 

意識と無意識の境界でただ、広大に広がる荒野に佇む彼女を見る事しか出来ない自分がとてももどかしく思える。

……所詮は夢の中の出来事だと決めるのは容易い、だが彼――空原勇はこの夢を何故か『タダの夢』と片付ける事が出来なかった。

何故かは解らない、理由は見当たらない、ただ……無意味に一人ぼっちの彼女を笑わせてやりたい。

 

 

 

たとえ今は無理でも――。

 

 

 

いずれ、きっと自分が彼女を笑わせてみせる。

 

 

 

そう決意を固めた所で意識と無意識の境界は崩れ去り、空原勇は虚構から現実へと引き戻される。

……けたたましい爆音、吹き荒れる強烈な爆風、そして肌を焼く熱風によって………。

 

 

 

どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉん――――。

 

 

 

そんな爆音と爆風、そして燃え上がる炎に包まれ……たくもないが、何時もの事なので仕方ない。

こんな非日常的な出来事、目覚まし時計の代わりに家を爆破されて叩き起されると言う、大変ありがたくない

起こされ方で今日もまた『一日』が始まる――なお、俺をこんな風に叩き起こしやがった張本人は手に握る

赤い円筒状の物体……いわゆる消火器で炎を沈下した後、箒で残骸や破片をざしざし掃いて集めていた。

……市販されている花火と言えども爆発すれば危険な物である事は常識だろう。

されど、たった今起こった爆発は『明らかに危険を通り越した致死レベルの爆発』である。

一般の人間、訓練された人間を問わず、全て等しくその存在もろとも吹っ飛ばす事が可能な爆風に晒されて

いるのだが――悪運が強いのか、それとも幸運に守られているかはさておき、部屋の主たる空原は生きていた。

 

―――何故、彼は生きているのか?

 

彼は人知を超えた化け物?……その認識はある意味では正しい。

この世界を覆う『概念』から抜け出し、そして人ならざる力を得た『夜闇の魔法使い』と呼ばれる者。

あらゆる『概念』や『常識』に縛られる事なく、その身に宿した力を以ってこの世界に現れる『招かれざる客人』

今、我々が存在する世界とは違う、もう一つの世界――『裏界』と呼ばれる場所から『紅き月』の門を通じて訪れる

 

侵魔(エミュレイター)

 

そう呼称される化け物達を人知れず滅ぼし、人類の影で平和と秩序を維持している者だからだ。

……最も、爆発物の爆風で吹っ飛ばされ、瓦礫の中に埋もれている彼を見た所で誰もそうは思わないだろうが……。

 

 

「おはよう、今日も良い天気だぞ。早く起きて学校の準備をしろ。」

 

「―――って、ふざけんなコラァ!!俺の居城を爆破した事に対する謝罪は無しかテメェ!!」

 

「気にする事は無い。ここは絶滅社の社屋だからな。皆、コレくらいじゃ動じんよ。」

 

「んな事言ってんじゃねぇ!お前は!人を起こすのに態々、家を爆破しろと教育されたのか!!アァ!?

 俺がウィザードじゃなかったら何回死んでるか解んねぇぞ、このスットコドッコイが!!!」

 

「ふむ、もっと刺激的なのが好みか?あい、解った。次からは爆薬の量を―――」

 

「人の話を聞け!!」

 

 

ぱっと見ただけでは長身でスレンダーな体躯に、少しだけキツめな印象を与えるが十分整った顔性質の少女。

されどその中身は物騒極まりなく、日常と常識と言う言葉を湾岸戦争に忘れてきたかの様なドッキリでビックリな

超一級の危険物であり、先ほどの行動――人を起こすと言う行為ですら爆発物の実験にしてしまう程なのだ。

最早、地獄の釜の底を天元突破してブチ破り、奈落の底もブチ抜き、無限獄の領域にまで達した極端な思考の持ち主。

それが彼女、絶滅社と呼ばれる世界的な民間軍事企業によって生み出され、この世ならざる者を蹂躙し、殲滅し、滅ぼす

為だけに創造された『強化人間』であり、空原と同じ夜闇の魔法使いでもある少女・桐村氷雨なのである。

 

 

「まぁ、一日の初めを楽しくする冗談は終わりにしよう。」

 

「楽しくねぇよ!テメェは冗談で殺されかけた人間が楽しいと思うか!?」

 

「―――小さな事に拘るな、君は。そんな事では彼女も出来ないぞ?」

 

「うるせぇよ!!」

 

 

氷雨に罵声を浴びせつつも滝の如く『だばぁ』と涙を流し、近くの壁にハンガーごとかけていた制服(辛うじて無事だった)

に着替え、瓦礫と化した部屋の一角に埋まっていた鞄を掘り起こして教科書等を放り込み、いかにも『ムカつき具合MAX』と

いった表情で玄関のドアを開き……蝶番が爆風で破損していたのだろう、ドアノブを捻ってドアを開いた瞬間にゴトン、と音を

立てて外界と自分の城を繋ぐ門は崩落してしまう。

 

 

「――――なぁ」

 

「何だ?」

 

「修理費は出してくれるよな?」

 

「解った。上層部に掛け合うから血の涙を流して私を睨むな。非常に怖い。」

 

 

 

 

物騒と言う言葉を軽く超越した朝を向かえ、目覚ましの代わりに爆破された家の修理費を張本人を請求した後、二人は歩く。

傍から見れば仲の良い男女が二人で登校している――様子など見える筈も無いだろう、一人は不機嫌、一人は無表情。

互いに歩いている、ただ歩いているだけなのに異質な雰囲気、周囲の人間に強烈なプレッシャーを与えている事に気付いてない。

そして二人して何を話す訳でもなく、ただ歩いていた時――氷雨は何かを思い出したのか、鞄を開けて中から『何か』を取り出し

空原に差し出した。

 

 

「――ん?」

 

「今朝の騒動代だ。朝食も取ってないのだろう?」

 

 

差し出されたのはカロリーメイト。

――そう言えば、朝の爆破事件のお陰で何も食べてなかった事を思いだし、空原はそれを受け取り、封を開けて袋に包まれた

ブロック状の固形食品を口に……放り込もうとして気付いた。……このカロリーメイトが『妙に赤い』事に……。

 

 

「―――氷雨、このカロリーメイトは何味だ?」

 

「ベジタブル味だ。この何とも言えない甘苦さがたまらないだろう。」

 

「……………」

 

 

ニコニコしながら言う氷雨にツッコミを入れるべきなのか悩んだが、ツッコんだ所で疲れるだけだと判断。

妙に赤い、ニンジンの赤と思えば特に何でも無いが――ドコとなく毒々しい色のそれを口に放り込む。

………咀嚼し、歯で噛み砕いた瞬間に口の中に広がる甘苦さ……。

フルーツ味、チョコ味、チーズ味、ポテト味と数種に渡るカロリーメイトの中でもイロモノ、キワモノとして存在する

このベジタブル味を選んだ彼女にある種の尊敬の念を抱くと共に、とりあえず――善意でくれた物を吐き捨てるのもアレだと

思って未だに口の中で無限獄を広げているカロリーメイトを早急且つ迅速に抹消する為、これまた涙で食べつづけた……。

 

 

「なぁ、氷雨………」

 

「何だ?」

 

「これ、美味いか?」

 

「私は二度と買うまいと誓った、とだけ。」

 

「テメェ!やっぱり確信犯か!!」

 

「ここは『君の父上がいけなかったのだよ』と言ってあげよう。」

 

 

怒りに身を任せた空原が拳を振り上げ、不敵な笑みを浮かべて回避行動を取ろうとした氷雨がそれを見て行動を起こそうとした時だった。

彼女の懐、学園のブレザー制服の内ポケットに放り込んでいた携帯――夜闇の魔術師、俗称・ウィザードと呼称される者ならば誰もが所持

している携帯電話……一般的な携帯電話としての機能は無論の事ながら、それ以外にも自動翻訳機能やウィザード専用のネットサイトへの

接続機能まで有するなど、ある意味では力の入れ具合をどこか間違えているかのように無駄に多機能、無駄に高性能な0−Phoneから

自分達の『仕事用』の連絡である事を告げる着信音……大事な仕事の着信が『笑○』のテーマであるのは彼女の悪意なのだろう。

 

 

「私だ――――了解。現地に向かい、速やかに該当勢力を排除しよう……ああ、出来れば任務遂行時に弁当でもくれるとありがたい。

 コンビニ弁当では無いぞ、ちゃんとした料亭の弁当だ……何?そんな事に予算は使えない?

上司殿、貴方は戦いに行く部下が無事に任務から帰って来た時にその無事を喜び、そしてその苦労を労おうとは思わないのか?」

 

 

0−Phone片手に自分所の会社……全世界に傭兵を派遣し、任務を遂行する事で利益を得る民間軍事企業『絶滅社』

全世界に傭兵を派遣して任務を遂行させる事で利益を得ているのはほんの表層部でしか無く、裏ではエミュレイターの殲滅を掲げており

氷雨の様な強化人間や、人造人間を創造し、彼らに訓練を施して教育する事によって対・エミュレイター用の戦力としているのである。

上司の命令には絶対服従、機械の判断力と氷の思考を以って任務の遂行のみを目的とする強化人間・人造人間に氷雨は分類されるのだが

電話を片手に交渉している彼女を見て解るとおり、中にはこの様に『命令に従い、任務を遂行するだけの機械』から脱却する固体もある。

……最も、氷雨の場合は脱却と言うよりも頭のネジがニ〜三本ほど虚空の彼方にブッ飛んだ位はあるのだが……。

 

 

「―――あい、解った。それで手を打とう……問題は無い、問題の該当勢力など私達の前には無力だと言う事を奴等に叩き込んで来よう。」

 

「………おい、ちょっと待て。お前、今――『わたしたち』って言わなかったか?」

 

「言ったが、問題あるのか?……仕方ない、気は引けるが増援を………」

 

「ちげぇよ!!お前の任務に俺を巻き込むなってんだ!!」

 

「ふむ、君は物騒で危険な所に女一人で行けと言う人でなしだったのかい?……実に残念だ、評価を改めなくてはな。」

 

「いや、むしろお前の方が物騒だ―――」

 

 

ごりっ

 

お前の方が物騒だろう、と言いかけたのだがそれは阻まれる。

右側頭部に押し付けられた硬質であり、同時に金属質の感触の確かめるべく目だけを動かし、頭に『何が触れているのか』を確かめた。

……非常に綺麗で見る者を惹きつけてやまない笑顔を浮かべた氷雨、そんな彼女が握って構えているのは無骨で長身の銃身を備える得物。

最早、銃と言うカテゴリを軽く超越しているサイズを誇り、その大きさに比例して強烈な威力を誇る弾丸をブッ放せる『大砲』

 

 

「なぁ、氷雨……俺の頭に押し付けてんのってさ、俺の記憶が正しければ対物ライフルじゃねぇの?」

 

「バーレット82A1・セミオートマチックライフル。私の仕事道具の一つであり、君の言う通り対物ライフルだ。」

 

「それで……俺、撃たれたら確実に死ぬと思うんだけど?」

 

「安心しろ、この間これでエミュレイターを撃ったら上半身吹っ飛んだ。R−18指定物の光景だったね。」

 

 

どういう風に安心すればいいのか非常に悩む返答に頭痛がするが、このネジが飛んだ強化人間に求めるのもアレだと思い、溜息を一つ。

空原は観念したように側頭部に押し付けられているアンチマテリアルライフルの銃口を手で押しのけ、力なく氷雨に告げた。

 

 

「行けば良いんだろ、俺も。」

 

「話が早くて助かるな、その通りだ。」

 

「んで、敵は?」

 

「野良ウィザード、絵に描いた様な解り易い……そうだな、北斗の拳に出てくる野性溢れるモヒカンな方々の様な悪行三昧らしい。」

 

「―――様はその野良ウィザードなんだか、はぐれウィザードだか解らん奴らを懲らしめれば良い訳?」

 

「そうだ。投降に応じるならばロンギヌスに引き渡して、地獄の更生コースにご招待。

投降に応じなければ『あべしッ!』とか『ひでぶッ!』と言った目に遭わせるしかない。」

 

 

無表情でエキセントリックな発言をする強化人間の少女を見て、空原は本日何度目か解らない溜息をつく。

……氷雨と知り合って結構経つが、未だに彼女の思考が解らない――と言うか、予測する事すら不可能かもしれない。

とりあえず、今日も学校を『自主休業』するハメになるだろうと確信し、悲壮感をたっぷりと漂わせて氷雨に告げる。

 

 

「……氷雨……」

 

「任務が終わったら課題のノートは見せてあげよう。」

 

「OK、それを聞いて安心した。

出席日数で平常点が死んでいるならば、提出物で稼ぐしかない俺にとって課題提出の有無は死活問題だ。」

 

「授業中に寝ているのがいけないのだよ。だから課題程度で詰んでしまうし、私に額に『肉』と……おっと。」

 

「―――アレはお前の仕業だったのかコラあァアァアァァァッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

紅き月が昇る時、世界は虚飾に満ちた現実を脱ぎ捨て、真実の姿を見せる。

 

 

開いた月門の向こうから彼らはやってくる。

 

 

世界を侵す者―――エミュレイター。

 

 

そして……彼らとは違い、されど同じく世界を破壊せんとする者達………。

 

 

あまりに脆く、ギリギリに保たれた現実。

 

 

そんな世界を守るのは人が遠く過去に置き捨ててきた力。

 

 

すなわち―――魔法の力。

 

 

 

 

これは―――魔法の力を振るい、人知れず戦う者達のお話。

 

これは―――崩壊と破滅と隣り合わせの世界で起こった英雄譚。

 

そして………夜闇の魔法使い、ナイトウィザードと呼ばれる者達の戦いの記録……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書かれの様な物の様で違う何か(何

 皆様、お久しぶりです。おはようございます、こんにちは、こんばんは、ユウでございます。

さてはて、暫くの間――色々と問題が起こり、風邪で死んでたり、蒼の魔導書を持つ男が出る挌闘ゲームをやってたり

してたのですが、今回……以前撃っていたナイトウィザードを新装開店しよう、と思って再び『NWの偉い人』に

泣きついてネタ出しして貰い、以前のNW・SSで言われた『これ、劣化版の柊じゃね?』を完全に払拭すべく、上記

でも述べた私的なNWの偉い人と議論・討論を繰り広げ、その果てに新たなキャラとして生まれ変わった空原君。

『空原 勇Ver.β』とでも名づけましょうか?まぁ――そんな彼の物語である事は代わりありません。

前のナイトウィザードを楽しみにして頂いていた方、大変申し訳ございませんがもう一度、見て頂けると幸いです。

また、やはりどーしても原作やリプレイ等のイメージが先行して『こいつ○○じゃね?』と仰れる事もありますでしょうが

そこは笑って、寛大に見て頂けると幸いです。

 

それでは、失礼します。

 

 

〜おまけ〜

氏  名:空原 勇

C  V:鈴村 健一

ス:落とし子

スタイル:アタッカー

属  性:火・冥

備  考:色々な面で苦労人。

 

 

氏  名:桐村 氷雨

C  V:清水 香里

ス:強化人間

スタイル:アタッカー

属  性:風・風

備  考:エキセントリックなボケ役(何

 








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