その笑顔が見たくて

In the white world

episode 3

家の外。

玄関を空け、見ると白き精が舞い降りてきた。

「雪か・・・初雪以来だな・・・」

今年は、11月下旬の初雪観測以来、今日12月20日まで、1回も降らなかった。

天気予報では、地球温暖化の影響とか何とか言ってたけど・・・

別に降らないなら降らないでいいぞ。

電車のダイヤも乱れないし。

車はスリップしないで済むし。

歩道は狭くならないし。

融雪を使わないから、地下水を使わなくて済むし、省エネにも繋がる。

とはいっても雪国。

降るなといっても降る。

それに降らなければそれこそ大変である。

春は、雪解け水がないと困るのだ。

「仕方ない・・・傘を持っていくか。」

玄関にある傘立てから1本黒い傘を取り出し外に出る。

冷たい風が吹きつける。

「寒い・・・」

声でも、一応防寒装備はしている。

下には2枚着込んでいるし、手袋、マフラーは当たり前だ。

それでも、寒さには勝てない。

「携帯ストーブがいるな・・・」

と、独り言を言っていると、

「危ないでしょうが・・・それ。電気もいるし。」

溜息混じりに姉さんが言う。

今日の姉さんは、手袋にマフラーは当たり前。

他もあまり異常はないように見えるのだが・・・

フレアスカートを穿いているというのはどうかと・・・

「どうしたの?」

姉さんが本当に不思議そうに訊く。

本人はなんとも感じていないらしい。

「いや・・・足元寒くないかなあ・・・って。」

黙っておくと、いらないことまで答えるはめになるので、思ったことを一応答えておく。

姉さんが足元を見る。

「寒いわよ。少しね。」

それで少しかい。

つっこみたい気は山々だが、訊くわけがないので、体力の無駄なことは止めておく。

「ちょっと変えて来るわ。」

そう言って家の中に戻る。

俺も、電車時間が押しているのでさっさと行くことにする。

すると、すぐに玄関のドアが開く。

振り返ると、何も変わっていない姉さんがいた。

「・・・何を変えた・・・?」

自然に声が出る。

「え?スリッパ履いてたから、それを変えて来いって言ったんじゃないの?」

・・・・・・・・・

もう何もいえなかった。

溜息混じりに歩き出すと姉さんが呼び止めた。

「ちょっと、待ちなさいよ・・・」

振り返る。

すると、こっちに歩いて来たので、少し遅めのペースで歩き出す。

すぐに姉さんが追いついてきた。

吐いた白い息が風に流され、降り積もる雪と混じる。

「4日後・・・クリスマス・イブよね・・・」

「ああ・・・プレゼントをくれってのは無しだぞ。あ、ケーキを買って来なきゃいけないのは分かってる。他に何か?」

「うん・・・。」

白い息が風に流れて消える。

「その3日後・・・瑠璃さんの誕生日・・・なんだよね。どうする?」

駅に向かって並んで歩きながら話す2人。

他人にはどんな風に見えるのだろう・・・。

まあ・・・恋人に見られたところで姉弟なわけだし・・・関係ないが。

「食事にでも行く?3人で。もちろん、2人の割り勘で。」

こう言っておかないと、勝手に提案者の奢りになってしまう。

2、3度経験すると分かる。

当たり前にその月の財布は軽くなる。

「・・・まあいいわ。それにしましょう。」

その後無言で駅まで行く。

そして着き、駅構内で別れる。

そのまま電車に乗り込み、電車の中で東と合流し、学校に行く。

 

いつも通りの日常。

変化のない暮らし。

当たり前の家族。

それは最大の幸福だと思う。

俺はたまに金持ちなんかより、少し貧しくても両親がいる暮らしが欲しかった(と思う)

そう思うと、当たり前の暮らしがどれだけ幸せか・・・

失って初めて知る大切さ・・・とでも言うのだろうか。

よく金持ちはいいな・・・と言われるが、そんなことはない。

みんな当たり前すぎて気付いていないだけ。

“当たり前”の大切さを・・・

 

今日も平和に学校が終わる。

あるとすれば、食堂での戦争に勝ち抜き、勝利の余韻に浸って帰ってみると、弁当を持ってきていたという事実に気付いたぐらい。

それはそれでかなりやばかったりするのだが・・・

最近、瑠璃さんが姉さんから辞典投げの技術を盗み取ってしまって・・・

今はもう家族のようである。

後者は喜ばしいことではあるが・・・

前者は・・・恐怖が増えた。

「なあ・・・東・・・」

隣を歩く東に声をかける。

「んぉ?どうした?」

顔の向きは変えずに前を見たまま答える。

「どこか・・・美味い所知らない?」

そう訊くと、空を見上げて考える。

「・・・美味い店だろう・・・?何かあったかなぁ・・・そういうのはお前の方が詳しくないか?」

俺は、頭を掻きながら、

「そう言われてもなぁ・・・」

「俺のところってのはどうだ?」

手を打ち、名案とばかりの目でこちらを見る。

一応、こいつの親はレストランをやっている。

それで言っているのだろうが・・・

「駄目だ。」

一言で断る俺に、がっかりした様子で、

「何で〜?」

頬を膨らませて言う。

俺は、その膨らんだ頬を押しつぶし、

「それは止めろ。野郎がやったって気持ち悪いだけだ。」

「分かった、分かった・・・。」

右手をパタパタさせながら言う。

本当に分かってるのか・・・?

まあいいけど。

「でもいきなりなんだ?クリスマスならケーキで十分だろう・・・?」

「まあ・・・な。」

適当に濁しておく。

「まあ・・・詳しくは訊かんがね。」

なんとなく勘違いされている気がするが・・・

「ま、雑誌でも見て探すか・・・」

「それがもっとも安全かつ確実だわな。」

俺の考えに同意する東。

「あと、それでも見つからなかったら俺の所に来いよ。」

「それは絶対に嫌だ。」

お前達一家は口が軽いから・・・

そこまではさすがに言えなかったが。

昔、4月・・・入学当初、姉さんと2人で東の店に行ったら、東の親が勘違いして・・・・・・

と、そこまでなら良かったのだが、その親が、東に喋ってしまった。

東の証言を信じるならば、何も訊いてもいないのに・・・だそうだが。

さらに加えて、東が学校で喋ったものだから、俺は一躍有名人になってしまった。

しかも東の親は、彼女と食事に来た・・・としか東に言わなかったらしいが、東はそれを誇大化して、勝手にホテルに行ったことにされてしまっていた。

何でそんなことまで知っているかと言うと、疑惑解消のために東の親に会ったりして、あちこち走り回ったからだ。

おかげでしばらく昼には困らなかったし、東の財布もかなりの間軽くなっていた。

と言うわけで、こいつの店へは不用意に行かない。

瑠璃さんを連れて行くのだから尚更だ。

東は再びがっかりしていたが・・・自業自得である。

 

その後。

本屋などで雑誌を片っ端から調べ尽くし、何とか店を決めたときには日は沈んで、地面は白く染まっていた。

そのまま帰路に着く。

本屋から歩いて30分ほど。

滑る道を慎重に歩き、家に帰り着いたのは、本屋を出てから約45分後だった。

そのまま風呂に入り、夕飯を食べて明日の準備を・・・っと、明日は第4土曜で休みか・・・

部屋にあるテレビをつけ、雑誌を読みながら時間を潰す。

・・・・・・・・・

気が付けば12時。

なんとなく作曲作業の続きをする。

いつになくすらすらと進んだ。

終わったのは2時。

そのままベッドに入り、睡魔が訪れるのを待つ。

 

そして、24日―――

 

 

 

 

To be continued

 

 

 

 

この話はフィクションです。

実在の組織、グループ等とは何ら関係ございません。

尚、KST内のプロフィールとは少々相違点がありますが、ご了承ください。