―――午前九時。

  冬特有の冷たい空気にちょっとばかり身体を震わせる。

  今の俺は白のYシャツに青のコート、黒のジーパンといういつもの格好……ではなく、黒が基調になっている着物を着ている。

  理由は至極単純明快。

  本日の日付は一月一日。つまりは元旦。

  そして元旦と言えば初詣である。

  海鳴市には西町にちょうどおあつらえ向きな神社が建っていて―――名前は八束神社。

  それほど人が来るわけでもないのだが中学生の頃から幼馴染連中と一緒になって元旦にはそこに顔を出していた。

  そしてこれまでの例に漏れず今年も八束神社へ初詣に行くのだが……




 「おーい、着替えは終わったかー」

 「待て待て、あと少しで終わる」

 『イイ男は待つものらしいですよ?』

 「別にんなもん目指してねーし」




  今年は、去年とはちょっと毛色が違う。むしろ予想だにしない方向に流れたというか……

  人生なんて何が起こるか分からないものだがこんな事を予想出来た奴なんてこの世のどこかにいるのだろうか。

  断言する。ない。

  たった一年。それだけの期間でここまで生活が激変したのは三年生の闇の書事件以来ではないだろうか。

  そうこう考えているうちに待ち人が準備を終えてくる。




 「待たせたな、準備が出来たぞ」

 「おう、わざわざお疲れさん」




  ガチャリと扉が開け放たれてトレイターが出てきた。

  トレイター自身も着物に袖を通しており、白を基調として花があしらってある。どんな種類の花かは知らんが。

  それが毎年お決まりの光景。

  いつもはこのままトレイターと一緒になって八束神社まで初詣に向かう。

  そう、いつもなら。

  だが今年からは新たに一人が加わる事になった。




 「あ、あの……どうでしょう?」




  トレイターの後ろからおずおずと一人の少女が顔を出した。

  夕焼け色の髪を後ろで結って、桜色の着物に身を包む見た目が九歳ほどの女の子。

  翠色の瞳で自信なさげにこちらを見上げてくるその娘の名前を―――イクスヴェリアという。




 「いーんでなーい? 少なくともおかしなところはないから安心しろ」

 「あ、はいっ」




  トレイターにもそれくらいは言われていたのだろうが、やはり第三者視点からの評価があると安心するのだろう。

  嬉しそうに顔に花を咲かせるとそのまま待ちきれないとばかりに玄関の方へと向かっていった。

  で、そんな様子を見てトレイターが一言。




 「全く……素直に『似合っている』の一言くらい言えば良いだろうに」

 『アレですか、似合わないツンデレでもやっているんですか。今更流行りませんってそんなもの。時期遅れです』

 「お前らアレか、俺に殴って欲しいんだな? そうなんだな?」




  何が変わってもいつも通りな相棒達に溜息を吐きながら俺も玄関に向かう。

  あまり会話ばかりしていると時間に遅れる。

  この寒い中を着物だけで歩いていくのは少々キツイが……

  玄関では慣れていない下駄を感覚を確かめるように履いているイクスを見てなんとなく微笑ましい気分になった。

  倣うように俺とトレイターも下駄を履いて外出の準備を終える。




 「よーし。そんじゃあ出発するぜい」




















  始まりの理由〜the true magic〜
        Stage.x01「新暦七六年 一月一日」




















  集合場所は神社の参道前と決まっていた。

  俺達はカランコロンと下駄を鳴らしながらゆっくりと歩いて集合場所に向かっている。

  しかしそれももはや目と鼻の先だ。

  前方には他の参拝客の邪魔にならないように歩道の脇に集まっている人だかりが見える。

  見慣れない格好ばかりだがよく見れば見知った顔ばかりだというのが分かる。内数名は明らかに魔力を発しているのでよく分かる。

  俺が遅いのか、他の奴らが早いのか……前者か、考えるまでもなく。

  ある程度近づくとこっちに気付いたなのはが手を振って来た。




 「どーもー、明けましておめでとうございまーす!」

 「おーう、明けおめことよろー」

 「むう、何だかありがたみが薄いよ陣耶くん」

 「いーのいーの。こーいうのは気持ちが大事なんだぞ?」

 「どの口が言うんだか……」




  新年早々呆れられた。くそう、軽くヘコムぞ?

  軽く馬鹿をやっていると他の奴らもこっちに気付いて近づいてくる。




 「よう陣。新年迎えてもお前は相変わらずだな」

 「おい武本、そこはかとなく裏があるように聞こえるのは気のせいか?」

 「知らん。そう思うならお前にやましい部分があるんじゃねえの?」

 「松田、聞くだけ無駄だ。こいつは『彼女はいねーよ』とか言いながら周りにこーんな美女達を侍らせでぶッ!?」

 「年が明けても相変わらずで安心したわ。とりあえず新年早々殴られるのは実にお前らしい」




  顔面に俺の拳をめり込ませながらもまだ講義してくるその根性だけは尊敬に値するよ、うん。

  松田も松田でなにやらヴィヴィオから逃げている―――ん? ヴィヴィオの奴、あいつにあんな懐いてたっけ?

  イクスはそれを困ったように眺めて、トレイターはエイミィさんとなにやら話し始めている。

  話に釣られるようにアリサとすずかもこっちに来て―――




 「……で、あいつらもいるのな」

 「む、ダメだよそんな差別的な発言は」

 「いや別にそういう訳ではないが……なんだか奇妙な光景だと思って」




  エイミィさんが居る以上、双子の子供であるカレルとリエラもここに来ている。

  しかし保護者であるエイミィさんはトレイターとの会話を始めてしまった。

  普通なら片手間で子供とじゃれながらするところなのだろうが、今回はそれを全く行っていない。

  つまりは誰かが双子の相手をしている事になる。

  その相手というのもちゃんと目の前に居るのだが……その、なんだ。

  こいつらのこんな場面を見る事になろうとは、流石に夢にも思わなかった。




 「それで、カレルとリエラは何を祈願するのですか」




  二人に声を掛けたのは一人の少女だ。

  外見的には九歳ほど―――栗色のショートヘアに水色の無機質な瞳が見て取れる。

  ダークルージュの着物に袖を通しているのは……シュテルだ。

  以前は『理』の構成体と名乗っていたなのは似のマテリアルなのだが……何がどうなってこんな事になってるのやら。

  そしてシュテルの質問に元気良く双子が応える。




 「えっと、たくさんおもちゃが欲しい!」

 「僕は美味しい食べ物が一杯食べたい!」

 「えっとねー、僕はカッコいい技を一杯作るっ!」

 「うぬには聞いておらぬわ、たわけ」




  更に二人、シュテルの傍に居る少女―――これまた外見は九歳ほどだ。

  それぞれがフェイトとはやてに似ているのだが、それだけで全く違う存在である。

  現在はレヴィとアーチェと名乗っている元『力』と『王』の構成体。

  こいつら三人が今の形に収まるのには一つどころか三つも六つも悶着があった訳で……




 「それにしても……寒いものだな。この寒い中を何故このような格好で動き回らねばならぬのか」

 「王、もう少し風情というものを学ぶべきかもしれませんね。古き良き伝統というものをもっと肌で感じるべきです」

 「なにい?」

 「どうどう、王様抑えて」

 「我は馬ではないわっ! というか貴様、全く寒そうにしていないな? 普段なら一番に震え上がりそうなものだが」

 「へっへーん。寒かったから下にバリアジャケットを着ているのだー! これで寒かろうが暑かろうが問題なーし!」

 「……貴方も風情というものを学んだ方が良さそうですね。着物の下にそのような物を着込んでどうするんですか」

 「なにさー! シュテルこそそんな恰好で寒くないのか!?」

 「愚問ですね。こんな事もあろうかとバリアジャケットでこの着物を構成したのですよ」

 「「な、なんだってー!」」




  ……仲、良いなあ。

  ほんの一年前まではこいつらのこんな光景なんて天地がひっくり返ったって想像できなかったぜい。

  こんな事はトレイターが超礼儀正しくなって俺を『ご主人様』とか言う位にありえないとか思っていたが―――




 「……なーんか、邪な事を考えているような気がしたんですけどー?」

 「え、何? これって邪な考え?」

 「何考えてたのよアンタ……」




  んー?

  トレイターが懇切丁寧に礼儀正しく振舞って、割烹着を着ている姿で『お帰りなさいませご主人様』……

  俺の言った事を恭しく実行して、いっつも向日葵みたいなニコニコ笑顔で受け答えするトレイター……

  ……うん。




 「うぇええ……きっしょくわりい」

 「ほんと、何を想像していたのかな……」

 「碌でもない事でしょう、きっと」




  何故かすずかとシュテルに酷く呆れた目で見られた。

  というか何を想像していたんだ、なんて台詞はお前達だけからは絶っっ対に言われたくねえ。

  なんか、言われてしまったら色々と終わってる気がする。

  ……あれ? じゃあ言われている俺って終わってる?




 「……うん、深く考えないようにしよう」

 「はーい、こっちで何やらもんもん考えてる馬鹿は放っておいてそろそろ行きましょうか」

 「もんもんとか言うなっ!?」

 「あー、にしてもさっみいなあ。カイロもっと持ってくりゃよかった」

 「甘いな武本。こんな事を見越して俺は下に防寒対策のシャツを着こんでいるのだ」

 「な、なんだってー!」




  ……ツッコまねえ、ツッコまねえぞ。













































  八束神社への参拝客はそれほど多くない。

  それほど大きくないというのも理由に入るだろうが、やはり他の有名所と比べると埋もれてしまうのだ。

  他の有名所のように目立った特色がある訳でもないので、ここに来るのは自然と思い入れのある少数の人達になる。

  わざわざそんな場所に足を運んでいる俺達もその括りに入るわけで―――




 「ねーねー、早くおみくじ引きたい!」

 「その前に御神体への参拝が先でしょう。調べたところによるとまずは賽銭箱に賽銭を入れてですね……」

 「うぬの説明は長ったらしいのでいい。そんな事は見て覚えればいいだけの話だろう」

 「何を言うかと思えば。無駄なうんちくは知的労働の報酬ですよ?」

 「……まあ、例外は居るか」




  ヴィヴィオとかイクスとか、あとマテリアルとか。

  しかしエイミィさん家の双子は生まれてこっち日本で育ってきたから初詣に何の疑問も持っていないが……

  なんというか、異世界人が日本の風習に染まりきってるっていうのも新鮮である。




 「それで、陣耶くんは何をお祈りするの?」

 「んー、無病息災と安全祈願」

 「すっごい平凡ねえ」

 「ほっとけ、俺はもうあんなトンデモ事態に巻き込まれるのは御免だ。あの一連の事件だけで寿命がどれだけ縮んだやら」




  いやもうほんと比喩じゃなく、マジで。

  あれだけ死ぬ思いをしたのは人生の中でも初めてである。

  というかそもそもしたくもなかった。そしてできる事ならば二度とは体験したくない。

  あんな思いを日頃から体験している奴とか広すぎる世界のどっかにいるのかね……




 「はあ……ほんとにこの一年、どうか平和に過ごせますよーに」




  五円玉を賽銭箱に放り込んで柏手を打つ。

  そのあとに綱を揺らして鈴をガランガランと鳴らし、更に柏手を打つ。

  深く一礼―――どーか、よろしくお願いします。




 「まあ、貴方の事です。願うだけ無駄だと思うのですが」

 「願うぐらいいーじゃん! ちっぽけな願望を抱いたっていーじゃん!? そもそも何でお前がそんな事を言うんだっての!」




  知った風な顔で好き放題に言いやがってコンニャロウ!?

  見た目九歳で以前は十九歳だったが実際の稼働年数で言えば俺より遥かに年下の癖に!?

  ちくしょう、なんか悔しい。見た目が俺よりかなり年下な分だけ余計に悔しい。

  シュテルもそんな俺の心情を知ってかしたり顔で―――




 「私だからこそ、ですよ」




  マジで泣きたくなる……













































 「―――ある人は言いました。痛みを伴わない勝利に意味などない、と」

 「えらく哲学なお話だな。俺、そういった類のものは苦手なんだが」

 「同じように、痛みだけの敗北も何の意味もないのです」

 「聞けよ」




  初詣が終わって甘味処でお善哉を啜って一息吐いていると、いきなりすずかが語りだした。

  内容が突飛過ぎて何が何やらさっぱりである。

  唯一言える事があるとすれば、それは俺がそういうのは専門外過ぎて苦手だという事だ。

  基本的に日常に関わりがあるかどうかでしか判断しない俺にとっては全くもって縁のない話だ。




 「……それで、すずかさんはそんな哲学を俺に説いて何を伝えたいんですかね」

 「要約すると、お善哉ちょーだい」

 「全然要訳できてねえし!? ってか話の内容と要求が一ミクロンたりとも合致してねえよ!!」

 「細かい事は気にしないの。という事でいただきまーす」




  ツッコんでいる隙にすずかのスプーンが素早く俺の器にまで伸びてくる。

  とっさに上の方に器を上げてスプーンを回避。が、なおもすずかはスプーンを伸ばして迫ってくる。

  ええい、甘い物好きだなコイツ。




 「そんなに食べたいならちびっ子どもから取ってろ。わざわざ俺を狙うな」

 「流石にそれは大人げないかなーって。それにほら、育ちざかりって言うでしょ?」

 「俺の物だけを狙う理由にはなってねえな」

 「隣りに居たし」

 「右利きなんだから左隣りの俺じゃなくて右隣りのアリサから貰ってろっ!」




  大方、俺なら与しやすいとか思ったんだろうがそうはいくか!

  俺だってお善哉喰いてーんだよ。

  ……寒いし、これ温かいし。




 「仕方ないなあ……食い意地張っちゃって」

 「ハッ倒すぞテメエ……!?」

 「それはさておき、お年玉どうするの?」

 「……あ?」




  お年玉? アレか、年明けに親やら親戚やらから貰う特別ボーナスってやつ。

  んなもん貰った事もやった事もねえし。

  つーか俺とトレイターだけだったのにどうしろと。

  そして今ここで何の関係がある。




 「ほら、イクスちゃんはどうするのっていうお話」

 「……ああ、そういう事か」




  すずかが指を指した方向ではイクスが他のちびっ子全員と談笑している。

  丁度というか都合良くというか、それともタイミング悪くというか、お年玉の話なんかしていた。




 「でさでさ、みんなお年玉はいくら貰ったの。僕は二千円札を五枚ー!」

 「八千程度は貰いましたが……まあ貯金ですね」

 「シュテルって建設的なんだねー。私も同じくらいだけど―――アーチェは?」

 「むむ……お年玉?」




  あ、イクスが何の話だって顔してる。

  むう……これは何かフォローを入れてやるべきなのか?

  トレイター、何か妙案ありゃせんかね。




 (悩むなら実行してしまえ。手っ取り早くイクスにお年玉でもやればいいだろう)

 (つってもさー、袋も何もありゃしませんぜ? 大体金はどこから捻り出せと……)




  もしかして、実はトレイターが密かに持っていたヘソクリから捻出してくれるとか?

  おお、だとすれば丸く収まる。

  俺のお財布も軽くならないしイクスも話の輪に入れる。良い案ではないか。




 (お前の懐からだな)

 (シット! 家計からは出せんのかーッ!!)

 (甲斐性見せてみろ男の子)




  もうそんな歳じゃねえよ……!

  しかしこのままイクスが話の輪に混じれないのは見ていていたたまれないし、かといって俺の懐は限界寸前だし。

  どっかに都合のいい抜け道はないのか……!










  このあと、散々悩んだ挙句に俺の小遣いから五千円を出費。

  それから俺の気付かない内にトレイターが俺の財布にこっそり五千円を突っ込むのはまた別の話である。




















                    ◇ ◇ ◇




















  ヴィヴィオと手を繋いで初詣の帰り道。

  ちょっと狭い歩道には大人数がぞろぞろと並んで歩いていた。




 「クリスマスプレゼント贈呈防除の対象と断定。そうだ―――僕が、僕達が、サンタムだ!!」

 「クリスマスはもうとっくに過ぎていますが……というか、何ですかそのサンタムとかいうのは」

 「僕が考えたサンタの戦闘形態! 子供達のプレゼントを奪おうとする悪の組織を駆逐するのだ!」

 「馬鹿かうぬは……いや阿保か。どちらにせよ頭が痛い」

 「なーにーおー!?」




  というか、それはもはやサンタじゃない気が……

  クリスマスの印象が余程強かったのかなあ。

  レヴィちゃんはクリスマスの朝にサンタさんからのプレゼントを実際に貰ってから変な憧れを抱いているみたいだし。

  地球の環境に慣れ親しんでくれている、という面では喜ばしいんだけど……こう、発想力豊かだなあ。

  決して馬鹿にしている訳ではなく、割と本心で。




  甘味処での休憩も終わって、そろそろ帰ろうかという話になって全員が帰宅中。

  お父さんやお母さん、お姉ちゃんにお兄ちゃんはそれぞれ用事があって別口で初詣中―――

  今回、みんなと一緒に行ったのは私と、新しく入ったヴィヴィオにシュテルちゃん。

  他にもイクス、レヴィちゃんやアーチェちゃんも居る。

  性格や人となりは流石に違うけど、昔の私達を見ているようでちょっと微笑ましくなる。




 「イクスの奴、着物は気に入ったみたいだな」

 「うん。私のお下がりだからちょっと不安だったんだけど、気に入ってもらえてよかった」




  ヴィヴィオとシュテルちゃんの分はお母さんが張りきって新調したんだけど、陣耶くんの方にはそういった余裕がなくて……

  どうしようかと相談を持ちかけられた時に私のお古ならあるけど、どうだろうかと話をしたら一も二もなく承諾したんだよね。

  古い物だから大丈夫かなと危惧していたけど、本人は別に気にしていないみたい。




 「そっちの方もちゃんと馴染めているみたいじゃん」

 「自分でも結構な冒険だったし、周りにも凄く反対されたけど……なんとか、ね」




  私がヴィヴィオだけでなくシュテルちゃんも引き取るって言いだした時はほんとに大騒ぎだった。

  なにせ元が闇の書の闇―――防衛プログラムの構成体だったし。

  事件にも大きく関与していて重要参考人の一人でもあった彼女を条件付きとはいえこういった日常に引き入れるのには骨が折れた。

  シュテルちゃん自身も最初は戸惑っていたけど、今は平和な日常を満喫している。




  あの三人は、闇の書の復活―――ただそれだけの事しか生きる意味を知らなかった。

  少なくともあの娘達はそれに納得して生きていたし、それを曲げるつもりもなかったんだろうと思う。

  だから、今こうやって目の前にいるのは……どこかを私達が捻じ曲げてしまったからではないだろうかと、思う事がある。




 「……どうしました、なにやら浮かない顔をしているようですが」

 「ううん、何でもないよ」




  それはきっと物凄く身勝手で、我儘だけで塗り固められた私自身のエゴ。

  だけど、それでも―――




 「私ね、今年一年が私達にとって良い年になりますようにってお願いしたんだ」

 「実に貴方らしいと言えばそれまでですが……私の自信過剰でないのなら一言。あまり気を重くして考えなくて結構ですので」

 「にゃ……やっぱり、分かっちゃうんだ?」

 「ママって顔に出やすいからー」

 「そうですね。それに、貴方のそういった性分は理解しているつもりです。これは貴方の抱えるべきものではありませんよ」




  うーん、鋭いなあ。

  私は闇の書とかここ一年ほどの事件とか、本当にそういった事で悲しみが起こらないような年になってほしいってお願いした。

  それが到底叶わないって事も、世界がそれほど甘くはない事も知っているけど。

  だからこそ、特にあの三人にとっては精一杯の優しさが向けられる年であって欲しい。




 「本日はこの後に親戚一同が集まって正月パーティを開催するのでしょう? まずはそれを楽しませてもらいますよ」

 「……うんっ! 私も張り切って料理とか作るから、楽しみにしていてね」

 「うう……ママー、ピーマンは?」

 「あるからちゃんと食べようねー」

 「うううう、今の内から対策を練っておかないと……」




  なんだかなあ……変な方向でヴィヴィオに知恵が付き始めている気がするよ。




 『案ずるより産むが易しです。そもそもその歳で子育てをするという状況自体が珍しいのでは? 当たって砕けろですよ』

 「砕けちゃダメでしょ、砕けちゃ……」




  あと、サラリと人の気にしている事を突いてくるね。

  色々と変わったけど、それでも全然変わらない事もあるってすっごく変な方向で理解してしまうよ。




 「お前の周りって非常識な事しかないからな。今更だしこの際、色々と諦めておけよ」

 「陣耶くんにだけは絶っっ対言われたくないよねその台詞!」

 「あんだと!? 魔法開始一カ月足らずでAAAを撃破したお前よっかは遥かにマシだ!」

 「事ある毎に生死の狭間を彷徨っているよりはずっと健全だと思うけど!」




  本当、変わらないなあ。

  いつも通りの口喧嘩、いつも通りの下らない勝負。

  だけど、いつもと違う点が一つだけ。




 「全く……いい加減にしなさい、周囲に迷惑です」

 『あいたぁっ!?』




  二人してシュテルちゃんに『お仕置きシューター』を後頭部に喰らいました。

  うう、痛い……




















                    ◇ ◇ ◇




















 「何しやがるっ!? ……って、うん?」




  気付いたら、何故か布団の中にいた。

  周りを見渡すと俺の部屋だという事は確認できた。

  それとカーテンから朝日っぽいのが射し込んでいる。どうも時刻は七時辺りらしい。

  あれー? というか俺、何してたんだっけ。

  ……夢でも見ていたのだろうか。




 『おはようございます。「何しやがるっ!?」が新年寝起きの一声というのは相変わらず締りがないですね』

 「あー、うん……?」

 『忘れたのですか。今日は一月一日、元旦です。つまりはハッピー・ニュー・イヤーです。あけおめですよ』




  あー、そっか。今日ってば元旦だっけ?

  えーと、今日はあいつらと毎年の如く八束神社まで初詣に行くんだったよな。

  ……………




 「んー? なんか、既視感が……」

 『何やらヘンテコな夢を見ていたようですが、恐らくそれのせいでは? 機動六課も今年から始動なんですからしっかりしてくださいよ』

 「わーってるよ」




  言われてみれば何やら夢に引っかかる事があった気がしないでもないが……

  うーぬ……どうも思い出せん。

  大体夢なんて思いだせないのが相場だが、何かすっきりしない気分になる。




 「おーい、起きたのなら早く着替えてこい。お節料理が待ってるぞ」

 「うーい、了解ー」




  まあいっか。考えたって答えの出るもんじゃねえし。

  ああいうのを初夢と言うんだろうが……どうやらヘンテコっぽいので正夢になって欲しいかどうかは微妙である。

  そんな事を考えながら、俺は着替えに袖を通してリビングへと赴いた。

























  これが俺の、激動の一年の始まり。

  世界が大きく動く新暦七五年の、始まりの日である。





















  後書き

  どうも、新年がやってまいりました。諸事情によりおめでとうとは言えないツルギです。

  クリスマスのネタがなかった代わり、と言ってはなんですがちょっとしたネタの積み込み回を投下です。

  正月とゆーか元旦とゆーか初夢とゆーか……

  イクスが普通に居たり、なにやらマテリアルがちっこくなっているのは御愛嬌。

  というかとうとうマテリアルにカタカナ読みが追加されましたね。

  星光の殲滅者→シュテル・ザ・デストラクター

  雷刃の襲撃者→レヴィ・ザ・スラッシャー

  闇統べる者→ロード・ディアーチェ

  ネタ仕入れた直後に名前変更しましたよ、ええ。星光をシュテル、アホの子をレヴィ、すべ子をアーチェです。

  何か最後だけテイルズっぽい気がしないでもないですが……何、気にする事はない。

  魔力光やら何やら変更を受けたせいでこっちも路線変更確定ですがね。単にネタが増えただけとも言いますが。


  捕捉説明をすると今回はただの夢ですね。夢オチとかありきたりって言わないで……

  タイトルに新暦七六年とか銘打っときながら実際は七五年というフェイントです。え? 引っかかるわけない? デスヨネー


  次からはちゃんと本編を更新します。

  予告からある程度予測できるかもしれませんが、またキャロです。





















  オマケも作りました。くっだらない物ですが。

  前回と同じ手法で隠してますので、知ってる人は速攻で見つけられるでしょうw



  それではまた次回に―――







作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。