「さて、と……やって来ましたよマナ・ヴィーナ、っと」




  カリムの依頼を受けた陣耶はトレイターを連れて第一八管理外世界マナ・ヴィーナを訪れていた。

  依頼内容はこの世界への外部干渉の有無、その調査である。

  何でも最近この世界に個人規模で次元の揺らぎが頻発しているらしく、何らかの世界間干渉が発生しているのでは、という事らしい。

  基本的に管理外世界への次元転送は管理局を通さなければ行えない。

  そうでもして制限しなければ良からぬ輩が魔法技術を悪用する危険性があるからだ。




 「普通に生活できれば良いだろうに……物好きはどの世界にでもいるもんだな」

 『物好き代表が何を言うのやら』

 「だまらっしゃい」




  リストバンドにくっ付いてる相棒と軽く言葉を交えつつ、彼は反応が確認されたポイントへと向かい、トレイターがやれやれとその後へ続く。

  今いる場所はマナ・ヴィーナの中でも一際大きな都市であり、ショーケースを見ていると様々な商品が見えていた。




 「にしても……アレだな」




  周囲を見渡して陣耶が呟く。

  今はお昼真っ盛りの時間であり、お日様が燦々と輝く快晴である。

  そんな中で―――右を向く。




 「ほらご覧マイハニー、あっちに美味しそうなレストランがあるよ」

 「あら本当。ためしに行ってみましょう、ダーリン」

 「勿論ともさハニー」

 「……………うわあ」




  リアルでダーリンだのハニーだの言っている奴を初めて見た、と何とも言い難い感覚を抱く陣耶。

  続けて左を見る。




 「ねえ、帰ったら何が食べたい?」

 「そうだな……カレーが食べたいな」

 「くす……じゃあ、あたし作るから食べてね」

 「ああ」

 「あ、そーだ。アンとファンもいるから、一杯作んなきゃ」

 「……武内の気持ちが分かる気がする」




  こうも真っ昼間からカップルが堂々といちゃつかれると流石にくるものあった。

  これは確かに、思わず「他所でやれ」と言いたくなってしまう。



 「はあ……なんだってこんな所に」

 「そういう世界なのだから仕方ないだろう。辺鄙な場所だという事は、否定しないがな」




  はあ、と胸に何かがつっかえるような感覚に溜め息を吐く。

  ここは第一八管理外世界マナ・ヴィーナ。

  別名、カップルばっかの世界。

























  始まりの理由〜the true magic〜
        Stage.19「おねーさんは嬉しいな」

























  カップルだらけの世界、マナ・ヴィーナ。

  そこは地球でいう保育園児ですらフィクション張りの大恋愛をやっているという、何やらヘンテコな世界である。

  とある騎士の調べによれば世界人口の実に九割がカップルらしく、残りの一割は赤ん坊と珍種である独身だとか。

  こんな異常な環境だからか、こっそりとこの世界にやって来ては永住しようとする者が後を絶たないらしい。

  そんな世界にやって来た陣耶は現在―――




 「……カップル優待テーマパークて……」




  遊園地のチケットを買っていた。

  カップル優待、お二人で三〇〇〇円乗り放題、と大きく宣伝されている。

  どこもかしこも見れば必ず目に入るカップルの四文字―――しかも、ここは個人で入るよりカップルの方が安いときた。

  珍種の独り身にはきつい世界なのだろうか。それともこの世界の独り身はセレブなのか―――

  どっちにしろ狙ってるとしか思えない。陣耶からすれば嫌がらせ以外の何者でもなかった。




 「カリムの奴……帰ったら覚えてろ……!」




  おそらくは確信犯であろう上司であるぐーたら騎士の笑顔に報復を誓う。

  こんな事なら途中からトレイターと別行動するんじゃなかったと思わずにはいられない陣耶だった。




 『残念でしたね。トレイターがいれば形だけでも取り繕って安上がりになったでしょうに』

 「しょーがねーじゃん! 調べる箇所は二つで片方は素敵セキュリティ満載だって言われてんだしさー!」

 『適材処置と言えばそうですが、一気に調べようと欲張ったのがいけませんでしたね』




  ちくしょー! と叫ぶ陣耶。返す言葉もなかった。

  ぐうの音もでない陣耶は素直にトレイターへと念話で救援を求めて―――




 『良い機会だ、男を上げてこい』




  ものの見事に叩き伏せられた。




 『オイ、まさかナンパしろとでも言うんじゃないだろうな』

 『なんだ、自信がないのか?』

 『それ以前の問題だろ! 全人口の一割にも満たない独り身を探せって何のトレジャーだよ!』

 『自分のミスを嘆くんだな。では私はこれから作業に移る』

 『あっ、テメ待てコラ!?』




  プツン、と念話のはずが酷く電子的な音を立てて通信が途絶えた。

  こちらからもう一度呼び掛けてみるが、トレイターが応答する事はない。完全に沈黙された。




 「……」

 『さて、これからどうします? 大金を払ってテーマパークに入るか、一縷の望みで奇跡でも探してみるか』




  少々項垂れながらチラリ、と一人の料金を見る。

  どう見たって一と〇が合計五つ並んでいた。諭吉さんが一枚消し飛ぶ値段―――どう考えてもぼったくりである。

  それを見てから自分の財布に視線を落として、もう一度値段を見る。

  揺らがない現実だけが、そこにあった。




 「くっ……背に腹は抱えられん。奇跡だろうがなんだろうがやってやる……!」

 『安っぽい奇跡ですね』




  こうして、アテなどこれっぽっちもない陣耶の戦いが幕を上げたのだった。
























                    ◇ ◇ ◇

























 「さて……戯れもここまでにしておこう」




  そう言って気持ちを切り替え、トレイターは目の前のコンソールに集中する。

  おそらく自分の主は今頃頭を抱えているだろうが、無駄に出費したなら自分の財布から少しくらい分ければ良いだろう。

  まあ、それを素直に受け取るとも思わないのだが。




 「変なところで堅いからな、あいつは」




  それも今に始まった事でもないか、と改めて気持ちを切り替える。

  今彼女はこの世界、この国の中でもかなり名の知れた企業の本社にいた。

  事業内容は警備システムの開発や実施らしい。次元世界間ならばイーグレットの会社が真っ先に挙がるが……

  コンソールに指を触れ、様々な信号を用いてアクセスする。

  周囲の機器が目まぐるしく明滅し、同時に社内のサーバから一気にデータの奔流が流れ込んだ。

  明らかに相手側のスペックを越えたデータ処理を、トレイターは自らの処理機能を利用して補佐する。

  タスクやメモリに介入し、異常を気取られないように巧妙にコンソールを駆使していた。

  ―――やがて、数分後。




 「……一年ほど前から不審なアクセスが続いているな」




  ざっとレジストリやログを根こそぎ洗ってみたが、どうにもその辺りから不審なアクセスがある。

  ちょうどその頃に入社した新入社員の一人が機密レベルの高いデータベースに頻繁にアクセスしているのだ。

  普通、その辺りへのアクセスはある程度の役職に就いていなければできないものだが……




 「この頻度のアクセスで足が付かないというのも妙な話だな……これは、上層部も一枚噛んでいると見た方が良いか?」




  一日に一度はアクセスしておきながらバレていないという事はまずないだろう。

  となれば、可能性は上が一枚噛んでいるか、アクセス権を持っている事が周知の事実か。

  しかし前者は周りからの不満を買いやすい。

  新入社員がいきなり高い権限を持てば誰とて大なり小なりの不満は持つだろう。

  だが経営状況や記録を見る限り表だって荒波立った痕跡はない。




 「さて、ここまであからさまに裏があるであろう人物……果たしてこの世界でのつまらない問題か、それともこちら側の者なのか」




  どちらであろうとやるべき事に変わりはない。

  トレイターはまずその人物に探りを入れるために集中的な情報収集を開始した。

























                    ◇ ◇ ◇

























 「……奇跡を起こすって言ってもさ、やっぱ無理なもんは無理なんだよ」

 『早速諦めが入ってますね』




  道々を行き交う人、人、人。

  それら全てが男女の二人組であり、手を繋いだり腕を組んだり酷い二人組では肩を組んで歩いている。

  陣耶のように一人寂しく歩いているような女性など一人として見当たらない。




 「くそ……なんだか段々馬鹿らしくなってきた。彼女いないのがどうしたってんだチクショウ」

 『おお、珍しく僻みが入ってますね』

 「目の前で延々と桃色空間を展開されていたらうんざりもするしちょいと羨ましいなーとか思うわっ!」




  皇陣耶、一九歳。

  この世界を見てわりと本気で彼女欲しいと考えたのだった。




 『というか、そこで適当に知り合いを呼ぼうとは考えないんですね』

 「俺が来ている以上、お偉い方は当然相手方に動きがないかを見張ってるだろ。

  そんな状況で次元転送とか何言われるか分かったもんじゃねーよ。バレないならともかく」




  そして、一々許可を貰っている時間も惜しいのが現状だ。半分以上自滅だが、その事実にはそっと蓋をしておく。

  ともかく、このままでは一緒に遊園地に入ってくれそうな女性など見つかりそうにもない。

  それ以前に、誘いを掛ける相手すら見つからない可能性が高い。




 「はあ……変だ変だとは言ってもここまで極端じゃなくてもいーだろーにさ」

 『神様にでも文句を言えばどうですか?』

 「あー、良いなそれ。ガッデム」




  もはやどうにもならない悪態を吐きながら、陣耶はこのまま女性を探すのと諭吉さんを犠牲にするのと、どちらを選ぶか考える。

  思考はほんの一瞬。

  現実的に行動するなら考えるまでもない。




 「くそ……必要経費として上からちゃんと落とされるんだろうな」

 『そこは私達の上司に期待するしかありませんね』

 「……駄目な気がしてきた」




  やんわりと経費を出すのを拒否されるシーンが想像したくもないのに浮かんでくる。

  やはり、どう足掻いても諭吉さんを犠牲無しにはこの先へは進めないらしい。

  財布の中身を改めて見る。

  現在の所持金額、こちらの世界における一万円分。




 「はあ……ケチらずにもうちっと交換してくるべきだった」




  嘆いたところで金が増える訳でもない。

  後ろ髪を引かれる思いでしぶしぶと項垂れながらテーマパークの入口に向かう陣耶。

  そこに、










 「ちょっと良いかな? そこのこの世の終わりかのような顔したお兄さん」










  ふと、何も感じなかったー人の気配を感じなかった方向から声が掛けられた。




 「あん……?」




  誰かと思って目を向ける。

  視線の先、振り返って見た声の主は女性だった。

  三つ編みの漆のように黒い髪が腰まで伸びていて、OLのような格好をしているおそらくは自身よりも歳上の人物。

  全てを見透かすような目と掛けられた眼鏡がどことなく知的な印象を抱かせる。

  が、陣耶にそんな事はどうでも良かった。

  容姿が優れているだの、知的そうだの、第一印象を捨て置いて優先すべき一点がある。




 「……えらく別嬪さんだが、俺に何か用ですかね」

 「ふむ、褒めるのは上手くても態度は何だか刺々しいね。私って何かしたっけ?」

 「別に何も」




  そう、別に何もやってはいない。

  陣耶の態度の原因は別、『何も感じさせなかった』事だった。

  別に自分が達人級だと自惚れるつもりはないが、それでも自分のバトルスタイルの特性上、気配の察知は得意な方だった。

  意識せずとも周囲を行きかう一般人の気配の大小程度なら分かるし、集中すれば殺気などを感じる事も一応できる。

  それをさせなかった異常。気を抜いていたとはいえ、目の前の女性が気配を断って近づいてきたのは確かだった。

  そして、もう一つ。




 「まあ強いて言うなら……あんたみたいな物騒な奴に狙われる覚えがありすぎてな、ついつい警戒してしまうんだよ」

 「成程、君も中々波瀾万丈な人生みたいだね? けど私には君を害する気はないから、安心していーよ」

 「どこまで信用できるのやら」




  平然と交わされる、周囲からは明らかに浮いた会話。

  初めて会うはずなのにどこかで話が通じている。

  それは互いがどこか同じだと半ば本能的に察しているからかなのか……

  ともあれ、こんな会話をニコニコと笑いながら交わす目の前の女性は明らかに普通ではない。

  陣耶も言った『物騒』という単語についても否定はせず、むしろ問題を解いた生徒を褒めるような笑みを浮かべた。

  頭の中でどこかが警鐘を鳴らす。

  ―――この女は、危険だ。

  直感で、陣耶はそう判断した。




 「……それで? 結局何の用だよ」

 「せっかちだねえ。まあ本題はあそこ……一緒に入らない?」




  すい、と流れるように持ち上げられた指の向いている方向は―――件のテーマパーク。

  カップル以外は諭吉さんとお別れしなければいけない場所だった。

  そして、陣耶がどうにかして入り込もうとしていた場所でもある。




 「……なるほど。あんたも用がある訳だ」

 「予想外に高かったからつがいを探してたんだよね。付き合ってくれるなら、おねーさんは嬉しいな」




  自発的な協力を望んでいる―――ように見えて、拒否権など初めから許さないと笑いながら目が語っていた。

  雰囲気で感じ取る。目の前の女性は殺す時には殺す人種だ、それも徹底的に。

  何のつもりで接触を図ったのかは知らないが、ここで断ると確実に要らない被害を出してしまうのだろう。

  少なくない人の死を見てきたからこそ感じ取った剣呑な気配。

  その全てが危険だと警鐘を鳴らしているが―――




 「一応確認しておくけど、あんたは別の場所からこっちに来たって事で違いないな」

 「君とは別口で、だけどね。私としてもここには色々と用があってさー、ちょっと気になる事もあるし、御訪問に預かろうかと」

 「確実に用法がおかしいからな、それ」




  とにかく、と彼女が歩み寄る。

  実に何の遠慮も躊躇もなく、警戒心を丸出し状態の陣耶へと近づく。




 「私も無駄な出費は避けたいの。来てくれるかな?」

 「殺気を視線に籠めて言うセリフじゃねえな。誘うならもっと穏やかな視線にしといた方が良いと思うぞ」

 「ご教授どうも。それで、どうする?」




  意地悪く、ニコリと艶やかに微笑む女性。

  こんな状況でもなければ少しはその魅力に揺れたかもしれないが、生憎とそこまで暢気な気分でいられる状況ではない。

  だから、返答するしかない。




 「上等だ。変な真似したら容赦しねえ」

 「元気があって良いね。それじゃエスコートも期待しちゃって良いのかな?」




  陣耶は答えずに足をテーマパークへと向ける。

  トレイターに連絡を入れるのを忘れず、腕の相棒の小言を頭の中で聞き流しながら―――カレンと名乗ったその女性とテーマパークに侵入した。

























                    ◇ ◇ ◇

























 「むっ、陣耶くんがまた女の人と絡んでる」

 「断定かよ。すずか、あんた一体何を根拠にそんな電波を受信するのよ……」

 「私は―――陣耶くんの事だから、碌な目に遭っていない気がする」

 「ああ、それには同意するわ」




  その日、なのはとすずかとアリサの三人はウィンドウショッピングをしにデパートへと足を伸ばしていた。

  本日は洋服などが特売のセールスデーであり、安い時期に気になる新作を押さえておこうという魂胆である。

  一般家庭と比べると確実に大金持ちである月村家やバニングス家の人間とはいえ、小遣いには限りがあるのだ。




 「あ、このワンピースかわいー」

 「なのはにはどっちかって言うとこっちじゃない? なんか落ち着いてゆったりしているイメージが強いわ」

 「じゃあ私はこれを推してみようかな。こっちのワンピースにパーカーをセットでーす」




  和気藹々として店内の洋服を見繕ってはあーでもないこーでもないと笑い合う。

  三人寄ればかしましいとも言うが、その辺りは流石に自重して適度にはしゃいでいた。




 「んー、しっかし男子の目が欲しいところね。陣耶……は無理だったから、松田か武内でも引っ張ってくればよかったかしら」

 「アリサちゃんは私から見ても充分綺麗なんだから、別に気にする必要は無いと思うんだけどなー」

 「なにおーう?」




  じろーり、と何やら据わった目をすずかへ向けるアリサ。

  微妙に危機的な何かを感じ取ったすすかは思わず一歩引いていた。




 「私達の中でもダントツ一位のプロポーションを誇っておきながらそんな事を言うのはこの口かー!」

 「わひゃう!あ、アリサちゃんそれは流石に理不尽……!」




  頬を摘ままれてたまらず逃げようとするすずかだが、アリサの指を振り切る事はできない。

  そのままぐいんぐいん頬を引っ張り回されてよく分からない悲鳴を上げる羽目になった。




 「まあまあ二人とも、それ以上は他のお客様の迷惑だよ?」

 「む、それは一人だけ勝ち組宣言という事かしら」

 「なんだか聞き捨てならないね」

 「今の流れでどうしてそうなったのかが果てしなく分からないよ……」




  じゃれ合っているだけあって息ぴったりだなあ、と思わず遠くを見るなのは。

  こうなると二人が暴走して手が付けられなくなりそうだったので、速やかに洋服を盾にして撤退を図ってみる。

  ……瞬く間に回り込まれて失敗した。




 「正直、この中で一番安定している体型なのは間違いなくなのはなのよね」

 「私だってこの中でダントツ一位とか言われたけど、この体型を維持するのって大変なんだよ?」




  なのはも『そんなの私だって同じだよ』と言いたかったが、有無を言わさぬ二人の雰囲気がそれを許さなかった。

  じりじりと二人に追い詰められていくなのは。

  どうしてこうなったかなど彼女自身が一番聞きたかった。




 「桃子さんも何であんなに若作りなのかしら。やっぱり遺伝? 遺伝子が最大の敵なの?」

 「落ち着いてアリサちゃん、話が飛躍し過ぎているよ!」




  よく分からない矛先を向けられたと思ったらいつの間にか遺伝子レベルで絡まれていた。

  もはや趣旨が分からないが、もしかするとただはしゃぎたいだけなのかもしれない。

  ともかく、このまま二人にいろいろと揉みくちゃにされるのは避けられないらしい。

  今回は着せ替え人形にされないといいなー、となのはは虚しい祈りを捧げて―――




 「あれ、ひょっとして高町さんですか?」

 「ふぇ?」




  ふと、あらぬ方向から声を掛けられた。

  三人揃って声のした方向に顔を向ける。




 「ああ、やっぱり。もしかしなくてもお友達と楽しんでいらっしゃった最中でしたか?」

 「ドゥーエさん……?」




  そこには、やっちまった的な顔をして立っているドゥーエがいた。

  そして、確実に自分で楽しもうとしていた二人の出鼻を挫いてくれた事に、素直に感謝しようと思ったなのはがいたのだった。

























                    ◇ ◇ ◇

























  その頃、テーマパークに潜入する事に成功した陣耶とカレン。

  現在は『怪しい場所を見てみる』という名目の下にテーマパーク内を闊歩している。

  して、いるのだが……




 「どうしてこうなった……」

 「青春真っ盛りの青年が何を言っているんだか。こんな事は滅多にないんだから、有難味をきちんと感じておかないと」




  あまりに尋常ならざる雰囲気で二人が歩いているものだから、別の意味で周りの注目を買ってしまったのだ。

  一応、潜入した身としては下手に目立つ事はできるだけ避けたい。

  と、それならばいっそ本格的に恋人のフリでもやってみようという事になり……




 「だからって腕を組む必要まであるのか……?」

 「どれだけ周囲の目に『らしく』映るかが問題なんだから文句を言わないのー」

 「……」




  絶対、この状況を楽しんでやがる。

  その碌でもなく図太い神経に感嘆と呆れを陣耶は同時に感じた。

  そして、陣耶はそこまで神経が図太くはなかった。

  現に、二の腕辺りから伝わってくる女性らしさを強調する軟らかな感触を素直に喜ぶ事ができない。

  真横から押し付けてきておきながら『変な気を起こしたらコロス』的なプレッシャーを掛けられているのだから、ある意味仕方ないとも言えるが。




 「次はあそこなんてどう?」

 「お化け屋敷、ねえ……」




  お化け屋敷にはそれなりに思い入れがある。

  今から一〇年前にヴィータと遊園地のお化け屋敷に入った時は……




 「……うわ、何かゾクッときたぞ」

 「?」




  思い出した途端に悪寒が襲ってきた。

  妙にリアルや真実味のある骸骨を思い出してしまい、思わず感じた寒気に身を震わせる。




 「いや、何でもない。それより……」

 『魔力の残滓を感知。さて、次は当たりと外れのどちらでしょうか』

 「さて、それは行ってみないとねー。というわけでゴー!」




  そうして二人してお化け屋敷に突っ込んで幾数分。

  薄暗い空間の中に所狭しと並べられた舞台キットが幽霊やゾンビ、妖怪の演出を絶え間なく続けている。

  演出の出来としては地球とそう大差はなく、陣耶としては馴染み易いものだった。




 「んー、期待していた程でもないかな」

 「お前だって何かを調べるために来たんだろうに……何に期待してんだよ」

 「だって、こういう事は楽しめる時に楽しんでおかないと損でしょ? これ、人生を楽しく生きるための秘訣ね」




  傍から聞いていれば世間話に聞こえなくもない会話だが、当の本人達にそんなつもりは欠片も無い。

  今も周囲に目を光らせて怪しい場所がないかと探っている最中だ。

  上っ面の笑顔だけで和やかさなど欠片もありはしない。




 「しっかし中々見つからんなあ……」

 「そりゃ、そう簡単に見つかっちゃったら駄目だからね。それでもこういう展開は最後に探索側が笑うものだけど……っと、あれなんかどう?」




  と、カレンが指差す方向に目を向ける。

  舞台セットの茂みや暗がりに紛れて見えにくいが、隠されるように人が一人収まる大きさの切れ込みが壁に見えた。

  それだけなら怪しまれる事は別にないだろう。もっとも、それは一般の者に限っての話だが。

  二人はその切れ込みにそそくさと近づいていく。

  切れ込みに触れてみたり、壁を叩いたりすること数十秒……ピーッ、と電子的な音が響いた。




 「ちょろいなあ……怪しい部分にアクセスしたらすぐとか」

 「そこら辺は技術力の差だね。まだセキュリティが君のデバイスの物に対応できるほど高くないって事でしょ」




  特にどうという事もなく開いた壁―――に偽装していた扉の中に二人は素早く身を滑り込ませる。

  同時にシュン、と静かな音と共に扉が閉められた。

  目の前にあるのは、薄暗がりの中に伸びるおそらくは地下へと続く階段。




 「で、どーするの?」

 「当然」




  問われた陣耶は至って簡潔に二文字で答えを返し、迷い無く階段へと歩を進めていく。

  もはや人の目もなく、フリをする必要の無くなったカレンも同じくその後に続いた。

  カツン、カツン、と乾いた足音だけが続く。

  会話もない無言の沈黙の中、殺風景な壁と階段と暗闇だけが続いていた。

  やがて、階段を降りきった先で一つの扉を見つけた。

  やはりこちらも電子ロック式であるらしく、入り口の物と同じような端子がすぐに見つかった。




 「クラウソラス?」

 『余裕です』




  陣耶の端的な問い掛けに自信を以て返すクラウソラス。

  適当に端子と接触させる事約数秒、またも簡単にロックは開いた。




 「……なーんか、上手く行きすぎて逆に胡散臭いなあ」

 『ここまで来たのに尻込みしてるんですか?』

 「情けないぞー、男の子。もうちょっと根性見せろー」

 『ですよねー』

 「おちょくってんのかお前ら!?」




  勿論その通りであるのだが、それを認めると物凄くやるせない気分になるので認めたくない陣耶であった。

  このままだとある事ない事を更に言い出しかねない。精神的な身の危険を感じた陣耶は話を打ち切るように扉を開け放った。




 「……結構広いな」

 「それなりに深いところまで降りたからねえ。こんな暗がりに連れ込まれて、お姉さん何されちゃうのかなー」

 「なあクラウソラス、アレの妄言はどうやって止めればいい?」

 『アキラメロン』

 「まともな受け答えをしてくれる奴が誰一人としていねえ……!」




  軽く絶望。

  この世界でのまともな人間はどこにいるのだろうと考えて、九割近くがカップルなこの世界にそんな人間いる訳ないと諦める。

  微妙に精神的ダメージを受けながらも、陣耶は改めて周囲を見渡す。

  半径二〇メートルほどの六角形に作られた空間―――天井までの高さも一〇メートルはありそうだった。

  鉄製の壁と天井に見える照明らしき物があるだけで、他に何かあるかどうかは分からない。少なくとも視認できる範囲には存在しない。

  これ以上先に進むための通路すら存在しなかった。所謂行き止まりである。




 「見事に何も見当たらねえな」

 『何のためにこんなに広い空間を確保したんでしょうかね』

 「さて、な。それより何か外部と繋がりを示すような証拠が欲しいところなんだが……」

 「見事に壁だけの空間だね」




  呟く。

  その瞬間―――二人は同時に獲物を握り、振り抜いた。




 「「―――」」




  ゾンッ、と鈍く肉と骨を断つ音。

  互いに互いの背後へと振り抜いた刃は、寸分の違い無く背後へと迫っていた獣の首を切り落としていた。

  陣耶は剣を、カレンは刀を振るって血を払い、互いに背中を預ける形になりながら暗がりに目を向ける。

  そこには、いつからか幾つもの鋭い眼光が光っていた。

  殺気立った視線は二人を獲物として睥睨しており、低い唸り声が聞こえてくる。




 「いつの間に出てきたのやら。これでここが普通じゃないとは分かった訳だが、もうちょっと確実性が欲しいもんだな」

 「欲張りだねえ、君。おねーさんてば悪い男に引っ掛かったかな?」

 「そうだな、観念しとけ」

 「うわ、否定しないよ」




  足元に転がる獣の亡骸は歪な形をしていた。

  五体のパーツが見るからにちぐはぐであり、明らかに通常の生物でない事を窺わせる。おそらくは合成獣―――キメラと呼ばれる類のもの。

  二人を取り囲むそれの数は姿がはっきりと見えないので正確な数は分からないが、おそらくは二〇前後。

  いつの間にここまで大量の獣が出てきたのかは不明だが―――




 「クラウソラス、反応を辿れるか」

 『たった今、魔力反応を感知しました。数分時間をくれるのならやってみせます』

 「うし、頼む」

 『了解―――サーチ開始します』




  さて、と陣耶は剣を構える。

  どうやら暫くはここで耐え凌ぐ必要があるらしい。無様に逃げ回るか、多数の敵を相手に立ち回るか。




 「さてさて、お姉さん困っちゃったなー。この状況はどうしたものか」

 「全然困った風には見えないな」

 「あらら、冷たいんだー」




  低く、獣の唸り声が鳴り響く。

  場にそぐわぬ、獲物らしからぬ暢気な姿勢を崩さない二人に対して苛立ちを募らせてのものだ。

  自分達は狩る側であり、相手は狩られる側。怯えろ、泣き叫べ、抵抗も虚しく牙に裂かれろ。

  獣達の苛立ちが膨大な殺気となり叩き付けられる。

  その中心で、




 「んじゃ、大立ち回りを始めるとしますか」

 「うわーい、徹底的に無視する気だこの人ー」




  剣と刀、刃を持つ二人が獣へと牙を剥いた。





















  Next「やっぱり相性悪いかな?」





















  後書き

  どうも、お久しぶりです。ツルギです。

  はい、カレンという人が登場です。ていうかもうあの人しかいません。

  なのはGoDでは砕け得ぬ闇の登場が明かされてこっちも急遽ネタを練り直したりしなかったり。

  ポジション的に絶対美味しいキャラですよね、彼女。

  とりあえずもうすぐ発売の「銀の刻のコロナ」に期待中です。



  それではまた次回―――







作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。