バチバチと巨大なガジェットが帯電している音だけが車両内に響いていた。

  ティアナの目の前には膝をついて大きく肩を上下させているエリオがいる。

  更にその奥では先程まで二人を苦しめていた大型ガジェットが伸びたコードやベルトを床に投げ出して転がっていた。

  機体の所々からは煙が立ち上り、動こうとする気配はまったく感じられなかった。

  その光景を、ティアナは半ば呆然と眺めている。




 (さっきの一瞬……エリオはAMFの影響を受けにくい体内で魔力を電撃に変換して、直接ガジェットの内部に叩き込んだ)




  結果、装甲の内側にあった機材がまとめてショートしてしまい機能を停止したのだ。

  大まかな機器ならともかく、精密な部品の集まりであるCPUに高圧電流を流されてはひとたまりもなかっただろう。

  しかし。




 (いくらAMFの影響を受けにくいからって、あそこまでの電撃を放てるなんて……)




  脳裏に先程の光景がフラッシュバックする。

  レンズの部分に直接手を突っ込んだエリオはそこから高圧電流を流し込んだ。

  炸裂。

  そんな形容詞がぴったりの光景だった。

  電流を直接流し込んだ腕だけでなく体中から一気に巨大な雷撃が迸ったその光景は、単純な電流というよりも落雷のそれに近い。

  AMFの効力下でそこまでの規模の魔力を行使するのは至難の業だ。

  隊長達やリーゼ姉妹のような経験を積んだ実力者ならともかく、今のティアナには無理だろう。

  だが目の前にいる赤毛の少年はそれをやってのけた。

  無我夢中で何が何だか分かってはいないだろう。しかし『できた』という事実に変わりはない。




 (この子の潜在能力……Aランクは固い、か)




  そこまで考えて、はっとした。

  いくら才能が少ない事をコンプレックスにしているとはいえ、それを自分より六つも年下の子供にぶつけてどうするというのか。

  自分の矮小さにティアナは嫌気が差してしまう。




 (ああもうっ、今はそんな事を考えている場合じゃないでしょうが……!)




  思考を切り替える。

  ティアナの目の前……エリオとガジェットの更に奥、七両目である重要貨物室へと続く扉が見える。

  正しくは扉があった場所だ。

  向こう側にまでは灯りが届いておらず、七両目を今いる場所から覗き見る事はできない。

  だが時折、僅かにだが向こう側から甲高い金属音が断続的に響いてくるのだ。

  まず間違いなく先行した二人は何かと戦闘中なのだろう。

  先程の『ウイングロード』も救援を求めるサインなのかもしれない。

  そう考えると、悠長にここで休息している訳にはいかないのだ。




 「エリオ、悪いけど動けるかしら」

 「大丈夫ですよ。これくらいで、へこたれてなんていられませんから……」




  言葉の通り、エリオはこの程度は平気だと言わんばかりに立ちあがる。

  ただ、その姿に戦闘前ほどの芯の通った雰囲気は感じられなかった。エリオ自身も相当消費しているのである。

  ティアナはこれ以上の無茶はさせられないと、エリオを先導するように七両目へと踏み入る。




  そして、その直後だった。

  足を踏み入れたティアナの真横に、叩きつけられるようにして彼女が吹き飛ばされてきたのは。




 「な……っ!」




  バンッ! と鈍い音が鼓膜に叩きつけられる。

  衝撃で動けないのか、そのまま崩れ落ちるように吹き飛ばされてきた人物は倒れ込んだ。

  咳き込んでいるところを見ると、バリアジャケットを纏っているにも関わらず相当の衝撃を受けたらしい。

  急な出来事に一瞬思考が止まったティアナとエリオだが、それを見てようやく吹き飛ばされてきた人物を認識した。




 「キャロ……っ!」

 「ちょ、あんた! 大丈夫なの!?」




  慌てて二人が駆け寄り、エリオがキャロの背中を擦って落ちつかせる。

  キャロの方もそうなってやっと二人の存在に気がついたのか、未だに辛そうな表情で少しの安堵を見せた。




 「あ、はは……まったくもう、遅いですよ二人とも」

 「ごめん。こっちは助けて貰ったってのに遅れた」

 「二人が無事だったから、いいです。今はそれより何倍も厄介な相手がいますので」




  そう言って、キャロは視線を前方へと向ける。

  追うようにして二人の視線もそちらへと向いた。

  キャロが見ているのは無残に崩れた荷物が散らばっている車両内部、その中央だ。

  元々は車両のどこかに積まれていたであろう荷物が辺り構わず散乱している。

  その中で、拳と刀を交える二つの影が見えた。

  もはや確かめるまでもない。付き合いがまだ短いエリオでも一目瞭然な程に分かりやすい状況だ。

  スバルが、何者かと戦っている。

  おそらくキャロはその最中にこちらへと弾かれたのだろう。




 「見るからに押されているわね……状況は?」

 「重要貨物室へ突入した際に遭遇、そのまま戦闘に入りました。レリックと思われる物は既に相手が奪取しているみたいです」




  言われて、二人の視線は自然と何者かが左わきに抱えている物へと向けられる。

  ちょっとした小包ほどの大きさをした黒いケースで、作りはそれなりに頑丈そうだ。

  周りに散乱している木箱やアタッシュケースと比べるとアレだけが明らかに異質な雰囲気を放っている。

  ならば、やる事は一つだ。

  一人で奮闘し続けるスバルを援護するために三人が動き出す。




 「まあ、深い詮索は後回し……まずはあいつを公務執行妨害の容疑でしょっぴくわよっ!」

 「「了解ッ!!」」




















  始まりの理由〜the true magic〜
        Stage.13「久しぶりですね」




















  幾つもの火花が散っていた。

  絶え間なく響く金属の衝突音が次々と小さな花を薄暗い空間に生み出していく。

  いっそ幻想的とも思えるその真っ只中で、スバルは必死に拳を握りしめてケーニッヒに立ち向かっていた。

  左肩を狙った剣戟が鋭く弧を描いてスバルに迫る。

  細いはずの刀からギロチンを連想させてしまうその一撃は、触れた物を一切の容赦を見せずに寸断してしまうだろう。

  攻撃を見極めたスバルの意思を読み取り、マッハキャリバーがローラーを急激に回転させる。




 「っ、つあ……!!」




  スバルはローラーの回転速度と持ち前の瞬発力を活かし左半身を逸らす事で剣戟をやり過ごす。

  続いて、空を切った事で無防備になったケーニッヒの右腕にスバルの蹴りが繰り出される。

  普通ならばその一撃を避けるために右腕を引っ込めるなり蹴りを防ぐなりするだろう。

  だが、ケーニッヒはそういった『普通』の行動で攻撃を避けない。

  あろう事か、自ら武器を手放したのだ。

  武器をいう重量が消えて軽くなった右腕はあっさりとスバルの蹴りを避けてしまう。

  ケーニッヒの手を離れた刀はそのまま重力に引かれ地に落ちる―――事はなかった。

  それより早くに放たれたケーニッヒの蹴りが刀を掬い上げるようにしてスバルに迫ったからだ。

  狙われているのは、頭。

  喰らってしまえばスイカのように真っ赤な中身を晒す事だろう。




 (こ、の……上から下から刃物が飛んできてやりにくい……!!)




  とっさに右手を盾にして頭を狙った一撃を防ぐ。

  ガィンッ、と鈍い音が刃とスバルの腕を弾き飛ばした。予期せぬ方向に両者の腕と脚がそれぞれ跳ね上がる。

  だがしかし、ケーニッヒは刀を回して再び右手に持つと無茶な体勢をものともせずに間合いを詰めてきた。

  まるで脚も腕だと言わんばかりに刀を脚で振りまわしてくるケーニッヒ。

  軌道が全く読めない攻撃にスバルは翻弄されていた。




 「スバル下がってッ!!」

 「―――っ!!」




  声と共に二人の間を一つの弾丸が突き抜けた。

  橙色の魔力光を見たスバルは即座に後方へと下がり、ケーニッヒは攻撃の方向に目を向ける。

  そこに、六つの弾丸を従えたティアナがいた。

  認識すると同時にそれはケーニッヒに向かって猛烈な速度で襲いかかってくる。




 「クロスファイア、シュートッ!!」




  それぞれの弾丸が別々の方向からケーニッヒに向かう。

  後退する事で射線から外れようとするが、ティアナの弾丸は誘導される事で追いすがる。




 「むう、急に手数が増えましたね」

 「単純な数の戦力差を舐めない事ね……!」




  大した威力はないが付き纏われるのは面倒だと判断して、ケーニッヒは迎撃のために刀を構える。

  その横合い―――死角となっている左側へと猛烈なスピードでスバルが踏み込んだ。

  既に右手で回転しているスピナーの速度は最速域に入っている。

  ティアナの援護射撃を囮にスバルは必中の間合いにまで距離を一気に詰めていた。

  避けるだけの時間を与えずに、射程に入った敵へと重い一撃が放たれる。




 「リボルバーキャノンッ!!」

 「ぐ……っ!」




  ここにきて初めてケーニッヒが防御に回った。

  ガゴンッ!! と腹の底に響く音を立てて拳と刀がぶつかり合う。

  咄嗟に右の刀を盾にしてスバルの拳を防ぐが、勢いを殺しきれずに大きく後退した。

  靴底で床を滑りながらも勢いを殺そうとケーニッヒは脚に力を入れて踏みとどまろうとする。

  そこに、追い討ちようにティアナの弾丸が着弾した。

  しかしそれでも直撃する事はない。殺到してくる弾丸を察知したケーニッヒは身を捻って辛うじてそれを回避する。

  そして、爆発が起こった。

  目的は単純な爆煙による目眩ましで、爆発事態に大した衝撃はない。視界を塞いで一瞬の判断能力を奪えればそれでいい。




  こちらには、離れた場所に一息で突っ込む事のできる槍があるのだから。




 「猛きその身に、力を与える祈りの光を……!!」




  高らかな声が響き渡った。

  キャロの補助魔法、『ブーストアップ・ストライクパワー』がエリオとストラーダを包み込む。

  同時に、直線に構えられたストラーダの矛先からキャロの魔力光と同色の魔力刃が発生した。

  薄く雷撃を帯びた魔力刃―――『スタールメッサー』は、爆煙の中で姿の見えないケーニッヒへとその刃を向けている。

  ガシャン、とカートリッジが二発ロードされる。

  姿の見えぬ敵へと目を光らせて、ストラーダを持つ手に力を込めた。




 「一閃、必中―――ッ!!」




  そして、爆発した。

  ガォンッ!! という轟音を上げながら噴射された魔力がエリオとストラーダを矢のように撃ち出す。

  風を切り裂き、爆煙を突き抜け、標的へと一直線に飛んでいく。

  だが。




  キン、と。

  どこまでも鋭い音が、空気を切ってエリオの耳に届いてきた。

  同時に、視界を覆う爆煙がほんの僅かに揺らぐ。

  それを見て、直感がこのまま突き進んでは駄目だという警告を発した。

  比較的距離の近かったスバルは切羽詰った声を上げる。




 「みんな伏せてッ!!」

 「っ、ストラーダッ!!」




  ストラーダに引っ張られる形で飛んでいたエリオは脚を前方に突き出して急ブレーキを掛けた。

  ガガガガガガガッ!! と鉄製のシューズが床を削りながら勢いを殺していく。

  そして感性の力に引っ張られながらも即座に揺れる爆煙の方向にストラーダを立てる。

  同時に、爆煙が中ほどから真っ二つに切り裂かれた。




 「ッ……!!」




  エリオには軌跡すらも見えなかった。

  分かるのは、気づけば立てたストラーダに二つの刃がぶつかっている事くらい。それと、衝撃波が辺りを薙ぎ払った事だ。

  車両全体が断末魔のような危機感を煽る悲鳴を上げて揺れている。

  爆煙が晴れ、間近に迫ったケーニッヒの表情は狂的な喜悦に歪んでいた。




 「嬉しいですよ。まだまだ小さな卵とはいえ、私に二本目を使わせてくれるとは……!!」

 「こ、の……僕達は、玩具じゃない……!!」




  おぞましい声と共に、黒板を爪で引っ掻いたような嫌な音を立ててストラーダが軋んだ。

  ストラーダを持つ両腕から踏ん張っているのも辛いほどの衝撃がビリビリと伝わってくる。

  少しでも力を抜けば、その瞬間に吹き飛ばされそうだった。

  ジリジリと、少しずつ身体がストラーダごと衝撃に押されていく。




 「エリオくん、そのまま……!」




  しかし、それ以上後退する事はなかった。

  エリオの小さな背を、後ろから同じくらい小さな手が支える。その手から柔らかな光が流れ込んだ。

  温もりと一緒に、エリオの身体に力がみなぎる。

  今なら押し負けない。

  背中を支えられている充足感を糧に、エリオはケーニッヒの刀を押し返す。




 「負け、る、かァァあああああああああああああああああああああああああああ!!!」




  絶叫が押し戻されていた身体を奮い立たせる。

  子供とは思えない力でケーニッヒを押し返すエリオは全力で床を踏みしめる。

  両者の力は完全に拮抗していた。

  だが両者の表情に彼我の力の差がはっきりと表れていた。

  ケーニッヒは余裕すら窺えるほどの歪んだ笑みを、一方のエリオは歯を食いしばって必死の形相で刀を押し返している。

  この均衡はすぐに崩れる、と両者は思った。

  だがそれは、小さな少年が押し負けるのではなく―――




 「二人とも、もう良いわよッ!!」




  二人の背後でクロスミラージュを構えていた第三者、ティアナ・ランスターの呼び声によってだ。

  合図を受けたエリオは背中を支えてくれたキャロを抱えて素早くその場を離脱する。

  その瞬間、ケーニッヒは見た。

  自身に向けられた銃口に集束している、多大な橙色の魔力を。




 (スバルが体勢を崩して、エリオが足止め、キャロが全体のサポート……チャージに時間が掛かるこいつもこれなら使える!)




  展開されたターゲットサイトの中央にはケーニッヒがいる。

  真っ直ぐに伸びるレーザーサイトで狙いを定めるのは胸の中央部分……リンカーコアがある場所だ。

  魔力ダメージでの昏倒を狙うのならば、そこが一番効率良くダメージが通る。

  ただ、ケーニッヒとしてもそのまま喰らってやる義理はない。

  それが見えた直後に射線上から跳び退こうとして……違和感に気づいた。




 「……動かない? これは……」




  見れば、身体には幾重にも鎖が巻きつけられていた。

  桃色の魔力光で発光しているそれは床に展開された魔法陣から出現しており、ケーニッヒを逃がすまいと締め上げる力を増している。

  キャロがエリオを支えている間に仕掛けたアルケミックチェーンである。




 「さあ、受けて貰うわよ。私達の持てる全力を……!!」




  引き金が引かれる。

  ティアナが持てる魔法の中で最も高い威力を誇る一撃が放たれる。

  その名は。




 「ファントム、ブレイザーッ!!」




  橙色の砲撃が空気を灼きながら一直線に標的へと向かっていく。

  迫りくる一撃を、ケーニッヒは歪んだ笑みで迎えていた。




















                    ◇ ◇ ◇




















  空中に無数の閃光が奔る。

  様々な方向へ矢継ぎ早に放たれるそれは、眺めているだけなら何かのパレードに見えたかもしれない。

  しかし現在、フェイトとアインの両名が行っているのはそんな生易しいものではなかった。




 「アイン、右から崩しに行きます」

 「分かった。援護は任せろ」




  言葉も少なく、フェイトは無数の槍を従えて得意の高速機動で敵の右側へと周りこむ。

  アインは下手に接近する事はなく、その場でスフィアを形成して援護態勢に入っている。

  それに対して敵の取った行動は至極単純なものだった。




 「―――パイロシューター」




  号令と共に軍勢が動いた。

  指揮者の目と声と指と意思が指し示す方向へ三〇を超えるスフィアの兵隊は駆け抜けていく。

  手始めに接近しつつあるフェイトへ二〇のスフィアが殺到した。

  だが矛先を向けられた本人とて黙ってはいない。

  迫りくるスフィアの中から特に危険度の高いものに向けて牽制の攻撃を放つ。




 「プラズマランサー、ファイアッ!!」




  ガガガガガンッ!! と一三の槍が一斉に放たれた。

  弾丸に向けて放たれたそれは命中して共に砕け散り霧散する物もあれば、呆気なく避けられてあらぬ方向に飛んでいく物もある。

  射出された半分以上の槍は命中する事なくあらぬ方向へと飛んで行ってしまった。

  しかしスフィアの軌道はそれによって大きく乱され、結果としてフェイトに回避するだけの隙間を与える。

  だがスフィアは思念誘導弾であるため、術者によってその隙間もすぐに埋められてしまう。

  通常ならば弾幕に弾幕を張っただけの単純な抵抗行為……しかしフェイトにはそれだけで十分だった。




 「―――ふっ……!」




  一気に自身に飛行速度を上げ、放たれた槍によって作られた隙間……術者の指示によって一秒で塞がれてしまうそこを駆け抜ける。

  時間にして一秒にも満たないその挙動は、向かってきたスフィアを後方に置き去りにしていた。

  敵が目の前にまで近づく。

  迫るフェイトに対して残る一五のスフィアによる第二波が放たれた。

  正面から、左右から、上下から迫ってくるそれを三六〇度の視界を持っているかのように避け、また手に持ったバルディッシュで打ち落とす。

  攻撃を掻い潜りながら敵へ接近するのも忘れてはいない。既に距離は一息で詰められるところまで来ていた。

  桜色の魔力光が粉雪のように散る中、フェイト目前に迫った敵に向かってバルディッシュを振り抜き―――




 「ラウンドシールド」




  目の前に展開された盾によって阻まれた。

  物理的な硬度を持った魔力とバルディッシュが激突し辺りに激しく火花を散らせる。

  無感動に一撃を防いでみせた敵。その後方からアインが攻撃態勢を整えていた。




 「ナイトメア・ハウルッ!!」




  敵の右側から後方にかけて配置された無数のスフィアが一斉に点火し、一直線に飛び出した。

  他の射撃魔法と比べて速度が圧倒的に速いこの魔法は発動を見てから避けるのでは遅すぎる。

  的もその類だと知覚したのは発射された魔法が自身に向かってくる光景を見てから。

  故に回避は間に合わず、取るべき行動は防御の一択のみ。

  着弾の直前に敵の周囲を覆うように桜色をした球状のフィールドが展開され―――衝撃が空を揺るがした。

  爆煙が標的の姿を覆い隠し、しばしの沈黙が場を満たす。

  アインの隣りにまで引き返してきたフェイトだが、その眉は寄せられていた。

  両者の厳しい視線は依然として爆煙の方向に向けられている。




 「……どうですか」

 「手応えはゼロ。この程度で墜ちる相手でもあるまい」




  つまらなそうにアインが言う。

  そして、その言葉に応えるように……声があった。




 「一つの部隊に集中している過剰戦力……どんな奇手を用意したのかと思えば、存外つまらない手を使ったものですね」




  言葉と共に敵の姿を隠していた爆煙の全てが吹き払われた。

  現れた敵に攻撃を受ける前との変化はない。

  黒を基調として紅のラインを入れたバリアジャケットも、無機質な水色の瞳も、紫の宝玉を核としたデバイスも。

  身体から溢れ出る質量を感じさせるほど圧倒的な魔力でさえ、変わる事はなかった。

  ただ少し。

  本当に少しだけ、つまらなそうな表情で敵は言う。




 「出力リミッターでの疑似的なランク制限ですか。能力を制限された状態で私達と戦う、と……マテリアルも随分と舐められたものです」




  言葉の裏に隠された感情は呆れか失望か、それとも瞳と同じく無感動か。

  テープレコーダーのように言葉を吐き出すその様は、生きている者としては酷く違和感を感じさせられた。

  自らをマテリアルと名乗った彼女は『理』の構成体という。

  二年前、海鳴市で突如起動した闇の書の防衛プログラム……その残骸である。




 「能力の制限を受けている上、一人で挑むのならそうかもしれない。だけど」

 「二人ならば倒せる、と? 吐き違えないでくださいフェイト・T・ハラオウン。

  貴方達が万全な状態ならばいざ知らず、私達を手加減したままに勝てる相手だと思っているのならば……」




  マテリアルの身体から溢れる魔力が密度を増す。

  デバイスの矛先がこちらへと向けられ、先端に異常な量の魔力が収束し始めた。




 「その思い違いを、今ここで矯正してあげましょう」




  莫大な光の奔流が放たれる。

  迫るその圧力だけで肌を焼くそれはフェイトやアインの知る『ディバインバスター』と酷似していた。

  だが違う。

  似て非なるその魔法は『ブラストファイアー』。

  オリジナルの数段上を行く魔力で放たれた砲撃は二人を同時に呑みこもうと迫る。




 「く……っ、バルディッシュ!」

 『Sonic move』




  魔法が起動しフェイト、次いでアインの姿が掻き消えた。

  次の瞬間には二人揃ってまったく別の場所まで移動しており、砲撃は何もない空間を通過していく。

  攻撃後の硬直をついてフェイトがマテリアルへと接近する。




 (『理』の構成体は間違いなくなのはをベースにしている……下手な遠距離攻撃じゃシールドで全部防がれる)




  さっきのナイトメアの総射からもそれは明らかだ。

  これ以前にも一度だけトレディアの拠点で交戦した事もあるが、その防御力は尋常ではなかった。

  ならば取るべき戦術は絞られてくる。




 『Haken form』




  バルディッシュの先端部分が稼働し、噴射されるように鎌型の魔力刃が展開される。

  カートリッジがロードされ、デバイスと術者の双方に魔力が満ちる。

  まだ距離の離れているマテリアル目掛けて野球のピッチャーのように勢い良くそれを振りかぶり、




 「ハーケン、セイバーッ!!」




  全力で振り抜いた。

  バルディッシュから刃が放たれ、回転しながら標的へと飛翔する。

  マテリアルはそれを展開した盾で防ぐ―――事はしなかった。

  目をすがめ、横へ飛ぶ事で放たれた刃を回避する。

  そこに再びフェイトが迫る。

  今度はシールドを展開する暇もなく、お互いのデバイス同士がぶつかり合った。

  ギリギリと金属同士が軋んで嫌な音を上げる。




 「やっぱり、手の内は読まれている……」

 「私達は貴方達の記憶を基に構成されています。今まで積み重ねてきた魔法ならば、対処法など掃いて捨てるほど思いつきますよ。それは……」




  言いながらマテリアルは背後を振り返る。

  後方から感じる魔力反応を確かめるために。

  視線の先には、




 「貴方とて例外ではありませんよ、リインフォース・アイン」

 「っ、だが……!」




  一〇メートル後方……今まさに夜色の槍を繰り出そうとしていたアインがいた。

  見破られているという戦慄を抱きながら、苦虫を噛み潰したような表情で戸惑う事なく夜色の槍を放つ。

  迫る槍をマテリアルは一瞥し、そして待機させておいた魔法を起動した。




 「パイロシューター!」




  マテリアルの頭上に三〇のスフィアが生み出される。

  それらの半数が密集して槍の前へと躍り出て、残りの半数がフェイトへ四方八方から襲いかかった。

  フェイトは咄嗟に後退する事で直撃を避けるが、それでも何発かのスフィアを身に受けて体勢を崩す。

  放たれた槍も密集したスフィアに阻まれる事で勢いを失い、蹴散らしたは良いが他のスフィアによって粉々に砕かれる。

  そして、体勢を崩したフェイトに愛機であるルシフェリオンの矛先を向けた。

  高速でチャージされていく魔力。

  高まっていく攻性魔力を感じ取ったフェイトは回避行動を取ろうとするが、スフィアによって崩された体勢ではそれもままならない。




 「まず……!?」




  次の瞬間、砲撃が一直線にフェイトへと襲いかかった。

  碌な回避行動も取る事はできず、防御魔法など紙のように吹き散らされてしまうだろう。

  一秒後にまで迫った撃墜の未来を幻視して―――










 「ラウンドシールドッ!!」










  目の前で展開された桜色の盾が、一秒後の撃墜を阻んだ。

  同じ色の魔力が空で大きな花を咲かせる。

  その場にいた誰もが、その乱入者に動きを止めた。

  砲撃の残滓である桜色の魔力が花弁のように舞い散る中、力強く右腕を突き出している者。

  白いバリアジャケットを身に纏い、左手には愛機であるレイジングハートを構えている。

  風に栗色のツインテールを揺らして不屈の光を瞳に宿す、彼女の名は―――




 「……久しぶりですね、高町なのは」

 「うん。いつも会うのが戦いの中っていうのが、悲しいけど」




  機動六課の持つジョーカーの一枚、高町なのはがそこにいた。




















                    ◇ ◇ ◇




















  ティアナの放った砲撃が真っ直ぐにケーニッヒへと向かっていく。

  鎖で動きを縫い止められ、まともに防御する事もできず、狂的な笑みを浮かべたまま魔力の奔流に呑み込まれていく。

  そう思っていた。




 「とぅりやぁーーッ!!」




  ズガンッ!! と金属が無理矢理突き破られる音がした。

  ケーニッヒのすぐ上、車両の天井の更に上から巨大な刃が突き立てられる。

  砲撃に立ちはだかる形で現れたそれは真正面からティアナの攻撃を受け止めた。

  衝突したエネルギーが車両に直接響き渡り、まるで地震でも起こったかのように大きく揺れ動く。




 「な……なん……ッ!?」




  ティアナが突然の事に混乱の声を上げ、それに応じるかのように砲撃は刃によって吹き散らされる。

  そしてその場にいた誰もが見た。

  金色の魔力刃が鋭く閃いて車両の天井を切り裂き、外から侵入してくるその人物を。

  灰色のコートを纏い、青いツインテールをたなびかせ、金色の大剣を軽く振った。

  その姿を見た四人は、まるで石になったかのように動く事ができなかった。

  理由は単純。

  目の前に現れたその人物が、記憶の中にあるそれとあまりに合致し過ぎていて……同時に、あまりに食い違っているからだ。

  フェイト・T・ハラオウン……色彩こそ違えど、目の前の人物は確かにそう言っても良いほどそっくりだった。

  フェイトそっくりの人物はゆっくりと車両の床に降り立ち、目の前で固まっている四人を鋭い目で睥睨する。




 「……っ!」




  その動作に流石の四人も再起動した。

  自分達ではやられないようにするのが精一杯だった相手に加え、砲撃を軽々と防ぐほどの手だれの増援。

  もはや一挙一動に目を逸らせないほど四人の緊張は高まっていた。

  そして謎の人物が大きく腕と剣を振りかぶり、四人はそれに対処するために動こうとして……










 「颯爽登場! 銀河美少年!!」










  出鼻をこれでもかというくらいに挫かれた。




 「……いや、あのですね。貴方はどう贔屓目に見ても『少年』というカテゴリーには入りませんよ?」

 「これで合ってる! コレに性別は関係ないから無問題!」

 「はあ、そうですか……」




  良く分からないからか、ケーニッヒの態度もさっきまでとは違って何だか投げやりだなあと場違いな感想を四人は抱く。

  一瞬にして空気がぶち殺された空間でただ一人、珍入者だけは至って真面目なのかケーニッヒに対して熱弁していた。

  熱弁されているケーニッヒはというと一方的な言葉の羅列を『はいそうですか』と右から左へ適当に流している。




 「だから銀河文明の遺産はね……!?」

 「あー、お話は後でたっぷりと聞いてあげますから……今はとっとと仕事を終わらせませんか」




  と、場の雰囲気に流されるところだった一同をケーニッヒが引き戻した。

  とはいえ珍入者は語り足りないのか不満顔である。




 「えー? 僕は今喋りたいんだけど」

 「よーしならばこうしましょう。帰ったらアニメ鑑賞に付き合ってあげますよ」

 「おおっ、それは楽しそう! ということでそこの四人、僕が三分で倒してやる!」




  良く分からない理由でやる気を出した青い人物が構えると同時に、身体に重く圧し掛かるような重圧を四人は感じた。

  それはいつも身近に感じている魔力だ。

  青い人物から溢れ出る高密度の魔力が周囲へ重圧を掛けているのである。

  その現象に四人は驚愕を隠せなかった。

  エリオとキャロは、純粋に目の前の異常過ぎる出来事が信じられずに。

  スバルとティアナは、この現象に覚えがあったために。




 「まさ、か……」




  緊張で乾いたスバルの喉がゴクリと鳴る。

  上手く言葉が出せないのは驚愕に思考が追いついていないからか、それとも緊張か、不安か、戦慄か。

  震える唇で、スバルは乱入者の名を口にした。




 「……マテリアル」

 「ん、良く知っているな。そうとも! この僕こそ、真の王となる『力』の構成体だッ!!」




  スバルとティアナは知っていた。

  二年前の海鳴市で自分たちが参加した戦闘……そこで、マテリアルと名乗る『闇の書』の残骸が動き出した事を。

  その数は三体。それぞれがなのは、フェイト、はやての姿と声をしている事を。

  実際に見るのはこれが初めてだが―――確かに、格好と声はそっくりだった。

  違うと言えば大まかな色彩と……




 「さーいくぞガンガンいくぞー! 僕の必殺技でカッコ良く決めてやるぅ!!」




  性格が残念な事くらいだろうか。

  だがその力は紛れもなく強大。自分達の誰よりも強い暴力を持っている。

  一度後手に回ってしまうと防戦一方で押し切られるのは目に見えていた。少しでも勝機を見出す気ならば先手必勝しか手段はない。

  四人はそれぞれ目で合図を送り、構えをとる。

  だが、




 「やー、盛り上がってるところ空気を読まずに悪いね」




  そこで、新たな声が降ってきた。

  マテリアルが切り裂いた天井……そこから身を乗り出している誰かがいる。




 「しかしこっちとしてもお前らには超個人的に用があるからなあ。神妙にお縄についちゃくれないかね」




  縁に金のラインが入った純白のコートをたなびかせ、肩に愛剣を担ぎ不敵な笑みを浮かべるその男性。

  普段は気だるげに細められている目は好戦的な光を宿している。

  本当に唐突に、気配すら悟らせずに、最初からそこにいたかのような不自然さで現れた者の名は―――




 「陣耶さんっ!」

 「よー新人ども。遅れたが救援にきたぜ」




  機動六課の持つジョーカーの一枚、皇陣耶がそこにいた。





















  Next「やりにくいなあもうっ!!」





















  後書き

  随分と間が空きました、ツルギです。

  やーっと主役二人が登場。ていうか初任務だけでどれだけ話数消費する気だ自分……

  つい最近まではスパロボZとユースティアにいそしんで全く執筆時間が確保できなかった始末。

  リアルはバイト探しで右往左往。思うように執筆ができない日々が続いています。

  それでも投稿だけは続けていきたいと思っていますので、生暖かく見守ってください。

  ……関係ないけど、まどかがガチでセーラームーンに喧嘩売れるレベルになるとは思わなかった。



  それではまた次回に―――







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