機動六課でアラートが鳴り響いたその時、聖祥大学の一室。

  陣耶の携帯電話が前触れもなく鳴り始めた。

  食堂でうどんを啜っていた陣耶はその動きを止めて携帯を取り出す。

  こんな食事の真っ最中に誰が何の用なのかと周囲が目を向ける中―――

  なのはの携帯も、同じように鳴りだした。




 「そっちもか……」

 「二人揃って何なんだよ」




  武内と松田が怪訝な表情で陣耶となのはを見比べる。

  画面を開いて目を通しているところを見ると、どうやら電話ではなくメールらしい。

  だが不意に。

  携帯の画面を眺めている二人の目は、揃って険しく細められた。

  普段は見られないような硬い雰囲気が見て取れる。




 「あん……?」




  ただのメールにしては珍しい反応に、松田は違和感を覚えた。

  陣耶はそんな松田に気付く事もなく、食べかけのうどんをそのままに席を立つ。

  そのままアリサに向かってこんな事を言った。




 「アリサ、立て替え頼むわ」




  短くそんな事だけを言って、鞄を手に取るとそそくさとその場を離れる。

  というよりどこに行くのだろうか。

  午後の授業はまだ残っている。時間割は生徒が自由に割り振れるが、陣耶は確か午後に授業を取っていた筈だ。

  急な行動に武内と松田は『良いのか、アレ』と指を指すがアリサは特に反応を示さない。黙って味噌汁を啜っているだけだ。

  どうやら、今回もこの二人は言葉も交わさずに理解しているらしい。

  ある種の完成されている関係に呆れて溜息を漏らした時、アリサが陣耶に対して問いかけた。




 「―――呼び出し?」




  誰からの、という言葉までは出てこない。

  その言葉に陣耶は少しだけ足を止める。

  そうしてすぐに、振り返る事もないままに短い返事が返って来た。




 「―――ああ」

 「そう……代金、踏み倒すんじゃないわよ」

 「ちっとぐらいサービスしろよお嬢様」




  それだけ言って、陣耶は今度こそ足を止める事なく食堂を後にした。

  一体何の用事があるのか見当もつかない武本と松田は頭に疑問符を浮かべるだけだ。

  アリサは全く気にした風もなく、今度は焼き鮭をお箸で突っつき始める。

  まだ熱の残っていた焼き鮭の身を割ると、ホクホクと湯気が立ち昇った。




 「じゃあ、私もそろそろ行こうかな」




  と、今度は丁度サンドイッチとスープを完食したなのはが席を立つ。

  携帯の画面を眺めていた時のような硬い表情ではなく、いつもの笑顔がそこにはあった。

  だが、仕草の端々がどこか急いでいるように見える。

  もしかしなくとも、なのはまで午後の授業をエスケープする気らしい。




 「行ってらっしゃい。気を付けて」

 「うん、ありがとう」




  トレイの上にお皿を乗せて、手提げの鞄も持ってなのはが席を離れた。

  そのまま陣耶の後を追うようになのはも食堂の外へ消えていく。




 「二人してどっから呼び出し喰らったんだか……」

 「さあ? けど、授業を放りだすくらいには重要なんじゃないかしら」




  武内の疑問に、事情を知っていながらもアリサは白々しく嘘を吐く。

  そういう約束でもあるし、説明したとしても到底信じられるような内容ではない。

  アリサ自身、十年前のクリスマス・イヴの出来事に巻き込まれていなければ、すぐには信じられなかったかもしれない。




 (―――まあ、怪我しないように頑張ってきなさい)




  無事に帰ってきてくれるならばそれで良い。

  不安でも希望でもなく、祈りながら……アリサは昼食を終わらせた。




















  始まりの理由〜the true magic〜
        Stage.11「風のように……駆け抜けるッ!!」




















  バラバラバラ、と他の音を掻き消してしまうほどの大きな音が耳に響いていた。

  風に揺られる感覚が、地に足を付けていないという認識を強める。

  エイリム山岳丘陵地区。

  険しい山々の端を削って線路が敷かれており、そこを山岳リニアレールが貨物運搬のために走行している。

  山と山の間に吹く風は所々で向きを変え、様々な方向から吹きつけていた。

  右から風が吹いたと思えば次は左からと不安定な気流に煽られながらも、ヴァイスは淀みなく慣れた手つきでヘリを操縦していた。




 「まーったく、山岳地帯の気流はいつも気分屋でいけねえや。もうちっと愛想があっても良いと思うんだがね」

 『気流にそのような情緒的感情は存在しません』

 「夢のねえ事言うなよストームレイダー。色の有る話の一つもねえ俺の心中ってのを察してくれや」




  軽口を叩きながらもヴァイスは操縦桿を前に倒した。

  その動きに従ってヘリ自体の動きも加速し、目的地点へと突き進んでいく。

  一方、ヘリ後部のキャビン内部では出撃した六課フォワードチームによるミーティングが行われていた。

  スターズ分隊とライトニング分隊の新人二人とその使役獣が一匹。

  監督役としてリインフォース・アインとツヴァイが乗り合わせている。




 「現在、我々が向かっているのはエイリム山岳地帯を走行中の山岳リニアレールだ。目的はレリックの確保と敵機の殲滅」

 「リニアの方はガジェットにコントロールを乗っ取られているらしく、外部コントロールを受け付けません。

  あちらの速度は七〇を維持していますが、いつどんな変化があるかは分かりません。各員、細心の注意を払うようにしてください」

 『はいっ』




  極めて事務的な返答が返された。

  四人の表情には程度の差こそあれど、それぞれ緊張の色が見て取れる。




 「……ねえエリオ、大丈夫?」

 「あはは……流石に、緊張しちゃいますね」




  が、スターズとライトニングではその差が顕著に表れていた。

  スターズの二人は以前の部隊で何度か任務に就いた事もあるだろうし、実戦経験もある。

  その経験が適度な緊張感を与え、逆にこれからの任務に対する活力剤となっているのだ。

  対して、ライトニングの二人はこれが初めての任務で、初めての実戦だ。そのプレッシャーから身体がガチガチに固まってしまっている。

  視線は下を向いており、握っている手には汗が滲んでいた。

  それ以前に、二人はまだ幼い。年齢でいってもまだ小学生だ。

  このような場面で緊張を感じるなという方が無茶な注文とも言える。




 「エリオとキャロは初の実戦だもんねえ……」

 「そこをしっかりとフォローしてやんのが先立の務めってやつでしょ。私達も初任務はガチガチだったでしょうに」

 「懐かしいねー。あの時は先輩達に助けてもらいながら、ただがむしゃらに頑張っていたっけ」




  スバルはここではないどこかを眺めるように目を細める。

  経験のある二人からしても初任務というものに対しては深い思い入れがあった。

  実戦の空気は訓練のそれとは大きく違ったし、緊張感も段違いだったので最初の内は上手く体を動かせなかったのを覚えている。

  次々と事態が一転、二転としていく中で目の前の事に対処する事しかできなかった。




 「そう緊張する事はない……と、言うのは流石に酷か。誰でも初めての事に対しては臆病になるものだ」

 「確認されているガジェット程度なら訓練を積んだ貴方達なら問題ないのですが、やはりここは念には念を入れておくのです」




  そう前置きしてから、ツヴァイは今回の作戦を説明し始める。

  今回は聖王教会からの依頼でレリックの回収を行う。

  レリック反応を出している場所は現在も走行中の山岳リニアレール内部。

  既にガジェット・ドローンがレリック回収のために取りついており、システムを乗っ取られているために外部からの停止が効かない状態だ。

  任務の内容はレリックの回収、及びガジェットの殲滅。

  車両の数は全部で一二であり、レリックがあると睨まれている車両は前から七両目だ。

  だから今回の作戦はこうなる。

  二人一組になり、それぞれが先頭車両と後部車両に分かれて七両目を目指す。

  途中、発見したガジェットは全て破壊するか捕縛。二組の内のどちらか、先に七両目に到着した方がレリックを回収する寸法だ。




 「とまあ今回の作戦はこういった具合ですね。ちなみに、先頭車両にはシステムを奪還するために私も降ります」




  例えレリックを回収し、ガジェットを殲滅できたとしてもリニアレールが止まらなければ意味はない。

  最悪、速度が上昇して勢いのままに停車場所へ突っ込むというケースもあり得る。

  ガジェットによりシステムが乗っ取られている以上、その排除とコントロールの奪取は停車のための必須条件だと言えた。




 「肝心の組み合わせですが、最初からちょっと変則的に行くのです」

 「先頭車両にはスバルとキャロ、後部車両にはエリオとティアナに行ってもらう」




  指示をされて、組む事になった四人はそれぞれ顔を見合わせた。

  とはいえティアナとキャロは後衛型、スバルとエリオは前衛型だ。組合せとしては妥当である。

  しかし初任務からスターズとライトニングを分割して運用するというのも、なんだか落ち着かなかった。

  普通なら同チーム同士を慣れさせるものだが、そこはツヴァイの言った通り『念を入れた』結果なのだろう。

  と、その時だった。

  突如として通信用の空間パネルが開き、ある人物の顔が映し出された。

  機動六課の部隊長補佐のグリフィス・ロウランだ。

  急な連絡におあつらえ向きな焦燥感を浮かべた表情をしている。




 『こちら機動六課司令部のグリフィス! アイン隊長、ツヴァイ曹長、応答願います!』

 「どうした? その顔ぶりからすると、何かあったようだが」

 『はい、貨物車両付近の空域に飛行型のガジェットを発見しました。既にそちらを捕捉しています』




  次いで、別のパネルにここから少し離れた個所の空域が映し出された。

  報告通りに空中を移動するガジェットと思わしき機械が見える。数はざっと五〇前後だろうか。

  しかし四人が知っているガジェットはここまでの高度を飛行する事はなかったし、そもそもこんな戦闘機のような形状をしていない。

  アインとツヴァイもそれは同じらしく、険しい表情で映し出された映像を見ていた。




 「新型、ですね」

 「だろうな。まったく……初任務で早速新型とご対面とは。いよいよ雲行きが怪しくなってきたぞ」




  言いながら、アインはコクピットに繋がる扉を開けた。

  その間にもフェイトから『直接空を抑えに行く』との連絡が入る。

  それを片耳に聞きながら、顔だけを覗かせてヴァイスに言った。




 「先行してテスタロッサと共に空を抑える。ハッチを開けてくれるか」

 「ウスッ、お気をつけて」




  指示を受けたヘリのAI……ヴァイスのデバイスであるストームレイダーがメインハッチを開放する。

  重い音を立てながらハッチがゆっくりと持ち上がり、そこから冷たい空気がキャビン内部に容赦なく吹きつけてきた。

  このエイリム山岳部には、五月に入ったというのに山頂部付近にはまだ雪が残っている。

  高度が高ければ高いほどそれと比例するように気温は下がるので、こういった光景はさほど珍しい事でもない。

  しかし急な気温の変化に身体はついていかず、新人の四人は思わず身を震わせた。

  そんな四人とは対照的に、アインは涼しい顔で解放されたハッチへと向かってい……出口の手前で足を止めて振り返る。




 「では行ってくる。当初と違い私はフォローを入れ辛くなったが、大丈夫か」

 「はい、やり遂げて見せます」

 「良い返事だ」




  ティアナの答えに、アインは満足げに微笑んだ。

  そうして微笑みながら、両腕を大きく広げた。まるで大きな空を掻き抱くように……大きく、広く。

  アインに、その向こうに広がる空に、一同の目は吸い寄せられる。




 「お前達には翼がある。空を飛ぶことはできずとも、目の前の道を進むための翼がある」




  風が吹く。

  冷たい、身を切り裂くような冷気がこれでもかと打ちつけてくる。

  突風に、目を開けていられない。




 「世界を見ろ、私達はちっぽけな存在である事を認識しろ、小さな自分に胸を張れ。そうすれば」




  より一層、強い風が吹いた。

  乱れる髪を抑えるために手をやったその時、




 「きっと、風は吹く」




  言葉と共に、アインはハッチから飛び出した。

  途端に身体は暗い紫の光に覆われ、次の瞬間には彼方へと向けて光が飛び去っていく。

  一同は光の消えた方向を暫くの間見つめて……




 「あ、はは……アイン姉さまの言う事は、時々すごーく難しいのですよ」

 「いや、あれは難しいというより単にキザなだけのような気が……」




  苦笑を含んだようなツヴァイの声が、キャビンの中に嫌に響いた。




















                    ◇ ◇ ◇




















  そして戦闘が始まった。

  二対の黒い翼を羽ばたかせながら、アインは五〇機近いガジェットへと向かう。




 (流石に数が多いな……AMFの性能も分からない内にむやみやたらと撃つのは控えた方が良いか)




  そう考え、消費の少ない魔力弾を五つ形成する。

  魔力に反応したのか、目前にまで迫ったガジェットも動きを見せた。

  アインを取り囲むように大きく左右へと分かれていく。

  囲まれる前に有利な位置を陣取ろうとしたところで、ガジェット群から光学兵器による攻撃が放たれた。

  牽制なのか、狙いは的外れで見当違いの場所をレーザーが通過していく。下手に動かなければ被弾する事はないだろう。

  だが、確実にアインの動きは制限される。

  うかうかしていると瞬く間に取り囲まれて一斉に攻撃を受ける事になるだろう。

  そうなる前に、アインは左右に展開しようとしているガジェット群の先頭を潰しにかかった。

  待機させておいた直射型の五つの魔力弾、ナイトメアをガジェット目掛けて発射する。

  他の射撃魔法と比べて弾速に秀でているそれは発射と同時に着弾し、撃ちだした数と同じだけのガジェットを撃ち抜いた。

  次の瞬間には鈍い音を立て、撃ち抜かれたガジェットが爆発四散する。

  しかし五機を撃ち墜とされた程度でガジェット達は止まらない。

  爆煙の中から後続のガジェットが飛び出してくる。




 「……ナイトメア」




  直進してくるガジェットに向けてもう一度、同じように魔力弾を射出した。

  そして、やはり同じように魔力弾はガジェットへと吸い込まれていってその機体を爆発させる。

  正面から撃ったにも拘らずそのまま直進して当たりに来て、だ。

  回避しようという素振りがまったく見受けられない挙動だった。




 (つまり、空を飛んでこそいるがこいつらの動きはそれほど複雑ではないという事)




  OSが未完成なのか、飛行システムにソースを裂きすぎているのか、それともただの試作段階なのか。

  何にせよ、今まで確認されていた形のガジェットと比べれば実にお粗末な出来だった。

  AMFの出力もそれほど高くないのは、先程少し強めに撃ったナイトメア程度で貫通する事から窺える。

  ならば、




 (少なくとも現時点では脅威となる代物ではない……纏めて手早く片付ける!)




  ガジェット群の上空に移動して制止したアインの足元に魔法陣が展開される。

  顔のすぐ右隣りには、いつの間にか魔導書が現れていた。

  夜天の書。

  アインの本体であり、数百年もの昔から英知を溜めこんできた古代遺失物とされる強大な書物が。




 「悪いが雑魚に構っている暇はないのでな……圧倒させてもらう」




  宣言と共に魔法が起動した。

  アインはツヴァイがいなければ全力で戦う事はできない。

  白夜の書を基盤にシステムをフォーマットし直した事で、夜天の書という別のフォーマットの上に成り立っていたアインには齟齬が生じる。

  それ故に無理に力を使おうとすればシステムの誤差が大きくなり、最悪自壊するだろう。

  それを防ぐためのシステム管制の役目をリインフォース・ツヴァイは持っている。

  だがそれを差し引いたとしても、今のアインの戦闘力ならば目の前のガジェット群を駆逐する程度なら訳はない。










  ここで戦闘は終わりを告げた。

  今より開始されるのは戦闘ではない。

  どこまでも一方的な、殲滅戦である。




















                    ◇ ◇ ◇




















  同じ頃、フォワードの四人は指示された組み合わせで貨物車の前後車両へと降り立った。

  スバルとキャロ、エリオとティアナ。

  経験の違いからきた今回の組み合わせは、主に年長組が年少組をフォローする目的のものである。

  




 「我が乞うは疾風の翼。彼の魔導師に、駆け抜ける力を……!」

 『Boost up. Acceleration』




  貨物車の中でキャロの両手に嵌められたケリュケイオンの内、右の方の宝玉が輝く。

  輝きはそのまま真っ直ぐに対象であるスバルへと向かっていく。

  アクセラレイション―――対象の機動力を上昇させるインクリースタイプの補助魔法が、スバルを包む。




 「風のように……駆け抜けるッ!!」




  壁と床と天井に囲まれた空間の中を、機動力が上昇したスバルが駆ける。目標は眼前に展開している五機のガジェットだ。

  側面から伸びるコードで機体を固定しているガジェットは文字通りの固定式光学兵器だった。

  単純に床ではなく、壁や天井に張り付いていて通常の攻撃は届きにくい。

  その上、戦いは常に上を取った方が有利である。

  余程の特殊な事情がない限り、人間は総じて極端すぎる上か下への対処は苦手としている。




  だから、ガジェットの行動や位置取りは正しいものだった。

  そして、その正し過ぎる動きが逆に付け入る隙となっている。





  固定光学兵器と化したガジェットからレーザーがスバルへと照射される。

  上、右、左、前方、後方……様々な方向から青い光線が迫る。

  だが、当たらない。

  素早く前屈みの姿勢になり、前方からの射撃を回避する。

  直後にマッハキャリバーのローラーが逆回転を始め、スバルの身体を後方へと押しやった途端に上からの光線が床に着弾する。

  それを見届ける事なく、今度は大きく右側へと跳んだ。

  元居た位置後方からの射撃が通過し、スバルはそのまま壁へと足を付ける。

  普段ならば不可能であろう機敏な挙動を、スバルはキャロによるサポートで実現させていた。

  しかしそれでも、壁に足を付けたままでいる事はできない。星の上に存在する物体は須く重力に引かれているからだ。

  だが、ここでマッハキャリバーが動いた。




 『Absord grip』




  ガシュンという音と共にマッハキャリバーが強く壁の部分に張り付いた。

  単純にグリップ力を高めただけなのだが、これではやはり重力に引かれて落ちてしまう。

  だから重力に負けないだけの速度を、振り切るだけの速さを出す。




 「行くよ、マッハキャリバーッ!」

 『All right』




  呼び掛けに応え、ローラーが高速回転を始める。

  足元から伝わってくる力をバネにして、スバルは文字通り壁を走りだした。

  その速度で左側からの一撃を避け、残る右側……今は真正面に位置するガジェットのレンズが青く発光する。




 「リボルバー……!」




  右手に装着されたリボルバーナックルのスピナーが回転を始め、遠心力を攻撃用のエネルギーへと変換していく。

  攻撃を避ける事はしない。

  速度を落とさずに、逆に上昇させながらスピナーの回転速度を上げていく。

  ガジェットの目前にまで迫り、光線が放たれるその最中。




 「シューートッ!!」




  衝撃が爆音と破壊を巻き起こした。

  最大出力で放たれた攻撃は光線ごとガジェットを粉砕するだけに留まらず、天井をぶち破って大穴を開けて見せる。

  そしてスバル自身も、想像していなかった破壊力に煽られてその大穴から外へと放り出されてしまった。

  まるで逆立ちのような格好で空中に滑空してしまう。




 「え、ちょ……!?」




  貨物列車故にはそれなりのスペースがあるとはいえ、やはり戦闘区域としては狭い場所である。

  狭い空間で爆弾を使えば自分にも被害が及んでしまうように、移動速度も相まってスバルも自身の攻撃による衝撃を受けたのだ。

  加えて、スバルは空戦魔導師ではない。

  基礎的な飛行魔法は扱えない以上、空中での挙動は酷く制限される。

  つまり、大穴から外へと放り出されたスバルは現在進行形でテンパっていた。




 (ウ、ウイングロードを使おうにもこの体勢じゃ頭から突っ込んじゃう……!?)

 「アルケミックチェーン!!」




  何とか空中で体勢を立て直そうとするスバルに、屋根で待機していたキャロから鎖が飛ばされた。

  鎖に引っ張られる形で体勢が立て直され、安全に下ろすためにマッハキャリバーがウイングロードで道を作る。

  そこを走行して何とかスバルは危機を脱した。




 「うう、まさか初っ端からこんな大ポカをやらかしてしまうなんて……」

 「なんの、めげずに行きましょう。機動力があり過ぎるのも問題みたいですし、今後は私も気をつけます。それよりも……」




  フリード、とキャロが指示を出した。

  すると、主の傍らを飛んでいたフリードが口に小さな火球を作りだす。

  この火球、ブラストフレアは見た目通りの威力なのだが範囲が結構広い。

  スバルのリボルバーシュートと並んでフォワード四人の持つ数少ない範囲攻撃の一つである。

  キャロがブーストを付与する事で簡易的なバインド効果や炸裂効果を得る事が出来るのだが……

  眼下のガジェットを見下ろしながら発射態勢に入り、キャロは眩しい笑顔で人差し指を立てながらこんな事を言った。




 「今思い付いたんですけど、蒸し焼きとか面白そうじゃないですか?」













































  一方、エリオとティアナは後部車両から七両目の重要貨物室へ向かっていた。

  近づいてくるガジェットはエリオが片っ端から薙ぎ倒し、遠距離から狙ってくる物はティアナが残らず撃ち墜している。




 「エリオ、右側の奴をお願い!」

 「はいっ!」




  ティアナの指示を受けてエリオがガジェットへと跳んだ。

  接近する敵を認識したガジェットがケーブルを伸ばすが、全てエリオのストラーダによって叩き落される。

  そして無防備となった懐に飛び込み、機体の胴体部分目掛けて左から槍を一気に振り抜く。

  一瞬遅れてガジェット胴体部分から横一文字に切断され、爆発が巻き起こった。

  その爆音を背にしてティアナは眼前のガジェットへと弾丸を放つ。




 『Variable barret』

 「シュートッ!」




  放たれた多重弾殻射撃が正面のガジェットを貫ぬき、機体は爆発した。

  その爆発の影から別のガジェットがティアナへと襲いかかる。

  ―――ヴァリアブルバレットは同種のヴァリアブルシュートと比べて誘導性がない。

  だがその分だけ短い詠唱での連射が可能になっている。

  普通にその工程をやっていると誘導性があるヴァリアブルシュートの方がまだ有用性はある。

  しかし、そこを補うのがクロスミラージュだ。




 「生憎と、弾はまだ撃てるのよッ!」




  第二射が襲いかかって来たガジェットに向けて放たれた。

  外殻に包まれた弾頭はフィールドをものともせずに突き抜けて機体を貫く。

  中身の機械系がショートを起こし、バチバチと嫌な音を立ててから爆発を起こした。

  床に転がるガジェットの残骸を見てティアナは息を吐く。




 「ティアさん、こっちは終わりました」

 「こっちも今終わったところよ。これで九両目も制圧完了、と」




  後部車両に降りたエリオとティアナが今まで破壊してきたガジェットの数は合計で一二機。

  車内に確認されていたのは三〇機前後なので、約半分は片づけたことになる。

  ティアナはふと前方車両から突入した二人はどうなったのだろうかと思い、音声による通話を試みた。




 『スバル、聞こえる?』

 『ティア? うん、聞こえているけど……どうしたの?』

 『別に大した事じゃないわよ。走り出すと止まりそうにない二人組の様子が気になっただけ』

 『あう、手厳しい評価』




  返事が軽いところを考えると向こうもそれほど苦戦していたわけではないらしい。むしろ順調と言えるのだろう。

  キャロもスバルも前向きすぎる思考なので暴走していないかどうかがティアナは心配だったのだが……杞憂だったようだ。

  などと、音声通信を行っている間にエリオとティアナの二人は扉の前まで来た。

  おそらくこの先が八両目なのだろう。

  横に付いていたパネルを弄ってみるが、特にこれといって反応はなかった。




 「こっちもやっぱり……ロックされていますね」

 「システムを乗っ取られているから当然と言えば当然、か。また強引に頼める?」

 「了解ですっ」




  ティアナが一歩下がると、エリオはストラーダを二度三度と振り抜いた。

  するとキン、という甲高い音と共に鉄製の扉にいくつかの線が奔る……そう見えた途端に、扉はバラバラと崩れ落ちた。

  ストラーダによる切り口は鋭利で、誰も一〇歳ほどの子供がやったとは思えないだろう。

  と、その位置から八両目の内部が目に入った。

  広い空間の中にいくつかの積み荷が見え……




 『……スバル。たぶん重要貨物室にはあんた達が先に着くと思うから、よろしく』

 『何か、あったんだね』

 『ええ……何か、ヤバそうなのが一機』




  車両内には、一機のガジェットが二人の行く手を阻むように鎮座していた。

  だがそれは見るからに今までのガジェットとは違っている、大きな球状のガジェットだ。

  直径にして二メートルはありそうな巨大なガジェットは、持っているケーブルも段違いに大きい。

  どうやら、このガジェットが重要貨物室へ続く扉を護る門番らしい。




 「エリオ、準備は良いわね」

 「もちろんです」




  エリオが一歩、前へと踏み出す。

  ティアナも後方でクロスミラージュを構え、戦闘態勢へと入った。

  大型のガジェットは動く気配はない。こちらが動くのを待っているのか、あるいは何かのタイミングを見計らっているのか。




 「何にせよ、踏み込まなければ始まらないわね……エリオ!」

 「行きますッ!」




  そして、戦闘が始まる。

  まだ知らない、未知の勢力との戦いが。













































 「これで……最後ッ!!」




  スバルの右拳が六両目に居た最後のガジェットを打ち砕いた。

  爆発して動かなくなったのを見届けると、キャロと共に七両目の重要貨物室に繋がる扉の前に立つ。

  扉は、例によってロックされていた。




 「うーん、ここもダメですね」

 「ああ……許可が下りているとはいえ、壊すのは心苦しいなあ」




  気乗りしない面持ちのまま、ロックされた扉へとスバルは一撃を見舞った。

  豪快な音を立てて扉が七両目内部へと吹っ飛び、道が開ける。

  キャロはその中を恐る恐ると覗きこみながら、




 「うーん、今までの車両とこれといって変わりはなさそうですね」

 「ただ単に重要な荷物が置いてある、ってだけなのかな? とりあえず目的の物を探そうか」

 「どこにガジェットが潜んでいるか分からないので気を付けて、ですね」




  妙に気合が入った様子のキャロはむん、と一歩踏み入れる。

  スバルも続いて七両目へと入って当たりを見渡すが……感想はキャロと同じものだった。

  少し薄暗く感じる程度の光しか放っていない照明に、青を基調にした鉄の壁。

  他の車両よりも荷物が多い以外は特に変わりはないなと思ったスバルは……そこで足を止めた。

  動かないスバルを不審に思ったのか、キャロも立ち止まって振り返り……




 「……スバルさん?」




  思わず、呼び掛けていた。

  キャロには、スバルの表情がいつになく強張っているように見えたのだ。

  きつく前方……キャロの居る場所から少し離れたん荷物の山を見ている。いや、温厚なスバルにしては珍しく、睨んでいる。

  額には冷や汗のようなものまで見て取れた。

  尋常ではないその様子に流石のキャロも前方への警戒を強める。




 (アレ、は……)




  そして、スバルの視界には荷物の山の他に……別のものが映っていた。

  アレをものと言って良いのかどうか断じる事をスバルはできないが、それでも見えていた。

  随分と久しぶりに……そう。

  スバルがそれを見るのは、海鳴市での死闘以来の事だった。




 (アレは……!!)




  暗い、黒い、靄。

  四年前の空港火災から視界へ割り込むように映りだした、不可思議な現象。

  専門機関の検査を受けても、何故それが見えるのかは分からなかった。

  だが、スバルなりに分かっている事は幾つかある。

  一つは、黒い靄が見えた時には決まって良くない事が起こる事。

  一つは、この黒い靄はスバルにしか見えていない事。




  そして一つは、今までこれは人に重なる様にして見えていた事。




 「そこに居るのは……誰」




  限りない警戒を抱いて、スバルは荷物の山に向けて問いかけた。

  キャロは驚いたように荷物の山へと目を向ける。

  何の反応もないまま、重い沈黙が少しだけ続いた。

  緊張から、呼吸すら重くなる。

  だがあの場所に何も無いという事は無い。スバルのこれまでの経験上では、の話だが。

  しかし、いつまで経っても動きはない。

  流石にスバルもいぶかしみ、黒い靄の場所を調べようと一歩を踏み出す。




 「……やれやれ。随分と勘の鋭い人がいるようですね」




  声が響いた。

  流暢な、澄んだ男性の声が。

  スバルとキャロは即座に構えをとる。




 「っ……、誰っ!」

 「そういきり立たないでください。焦らずとも、ちゃんと姿は見せてあげますよ」




  コツン、と靴が床を叩く音が聞こえた。

  それが間を置いて二度三度……そのうち、荷物の山の陰から人の姿らしき影が見え始める。

  まず見えたのは、黒い髪だった。肩まで伸びているそれは根元で纏められており、重さを感じさせないくらい軽く揺れている。

  大きな灰色のコートを身に纏い、腰からは二本の刀を下げていた。

  まるで糸のように細い目でこちらを見て……人の良い笑みを浮かべながら、殺意を隠そうともしないその表情が印象的だった。




 「お初お目にかかります、機動六課のみなさん。私の名は……」




  左腕で何かのケースを抱え、右手で腰から一本の刀を抜き放つ。

  刺すような殺気が二人の身体を萎縮させた。

  理性よりも思考よりも、もっと根元の部分が警告を発している。

  今、相対している男は『危険』だと。




 「ケーニッヒ・アストラス。今後とも、どうぞお見知り置きを」




  そして、戦闘が始まる。

  未だ敵う事のない、強大な敵との戦いが。





















  Next「そのリサイクル精神、感服しますよ」





















  後書き

  どうもみなさん、ツルギです。

  東北地方での大地震、それによる大災害。みなさん如何お過ごしでしょうか。

  何とか無事に乗り切った方もいれば、残念ながらも命を落とされてしまった方もおられる事かと存じます。

  被災地の方々に対して自分ができる事などそう多くはありません。

  しかし、それでも、自分のできる範囲で助けになれるような事はしていきたいと思います。さしあたっては募金など。

  で、今回のお話。

  やっと戦闘パートです。ただ、やっぱり原作とはちょっと違う形になっています。

  年齢と経験の差を考慮して今回は変則的なチーム編成に。いっそ後衛二人と前衛二人で組ませようとか思いましたが……

  というかキャロとアイン、どうしてこうなったし。

  段々キャラが壊れていくこのジレンマ……いかん、面白いかもしれない。

  そしてオリキャラ筆頭であるケーニッヒも登場。早いことマテリアルや無色も引っ張り出したいです。



  最後に、今回の災害で命を落とされた全ての方々に哀悼の意を表します。



  それではまた次回に―――







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