訓練参加組が空間シミュレーターへと向かっている時、ヴィータはそこを一望できる場所に立っていた。

  伸びた紅い髪は根元から二つに分けられそれぞれが三つ編みで纏められている。

  その場に仁王立ちして訓練場を眺める様子は外見に似合わない異質な雰囲気を放っていた。

  そして、ヴィータがこの場に居る理由は単純明快である。

  後々に自身も参加する事になるであろう訓練―――その相手を今の内から見ておく事に損は無い。

  つまり訓練の目安を付けるために新人たちの様子を見にきた訳なのだが……




 「ここに居たか、ヴィータ」

 「ん……ああ、シグナムか」




  背後からの声に首だけを動かしてみると遥か昔からの同僚がそこに居た。

  シグナム。

  夜天の守護騎士、ヴォルケンリッターを束ねる烈火の将。

  単純な剣技ならば六課の中で並ぶ者は居ないだろう。

  ヴィータと同じように訓練の様子を見に来たのか、そのまま隣に並んで訓練場を眺め始める。




 「早速やっているようだが……お前とアインはやらんのか」

 「あたしとアインが参加するのはもう少し後だ。新人どもが慣れるまでは基礎訓練だし―――少し厄介な事情もあるみたいだしな」

 「厄介な事情? 何だそれは」

 「ほら、海鳴で起こったマテリアル事件があんだろ。あの時にあたしのコピーが出て来たらしくてな……新人の二人をボコったんだよ」




  ヴィータにボコられた二人―――スバルとティアナに対して直接会う機会はこれまで全く恵まれなかった。

  以前関与した事件の派生で被害者が出たのでお見舞いに行ってきます、など流石に社会には通用しない。

  溜まっている案件も異動を控えていたせいでとてもじゃないが片手間にこなせるような物でもなかった。




  結果、はやてが折を見て謝罪に行ったのだがヴィータにはそれが全くできていない。

  なので印象もその時点で止まっているのであり……




 「なるほどな―――流石に死合った者がいきなり目の前に現れては戸惑うのも無理はないか」

 「だから少しあいつらが慣れるまではあたしはどのみち待機だよ。ビビられて訓練に身が入らないようじゃ話にならねえしな」

 「難儀なものだな」

 「まったくだ」




  自分が謝罪しに行けなかったからとはいえ流石に憤りを感じてしまう。

  あくまでも避けられている二人にではなく、こんな事態にしてくれた元凶にだが。




  これ以上は考えても仕方がないとヴィータは視線を準備を終えた訓練組へと向ける。

  新人と現役を交えた訓練は、もうすぐ始まる。




















  始まりの理由〜the true magic〜
         Stage.05「しっっかりと動いてもらいますよ?」




















  空間シュミレーターで形成された仮想廃都市は一同が想像していた以上に再現度が高かった。

  砕けたアスファルトの道路に歩道、割れた窓に老朽化した建築物、更には一部が破損した備品の数々など。

  そこら辺に転がっている瓦礫や石ころまで再現されているのを見るとどれほどの処理能力を費やしているのか想像もできない。

  不自然と言えば都市のど真ん中のような風景の中に思いっきり潮の香りがしていることぐらいだろうか。

  陣耶はこれだけで電力費がどれだけかかっているのかを計算しようとして―――止めた。

  途方も無い金額が弾き出されて使うのを遠慮しそうになるのが目に見えていたからだ。




 『それじゃあ訓練を始めるよー』

 『ミッションは説明した通り仮想ターゲットの撃破、もしくは捕獲。制限時間内に全てのターゲットを料理してね』




  この場にはいない二人の声が念話という手段で直接頭の中に響いてくる。

  軽い準備体操を終えた一同は既にいつでも動きだせるように体勢を整えていた。

  その地点から大分離れた位置にアリアとロッテの二人が居る。

  更にその二人と共に居たシャーリーはそれを待っていたかのように手元のパネルに触れた。

  あらかじめ決められたプログラムが実行され、それが形を成して出力される。




 『確認できたかなーん? そいつが今回のターゲット、通称ガジェット・ドローンだにゃん』




  ロッテの声に合わせて一同の目の前に魔法陣が展開され、それが現れる。

  水色を基調とした全長1mほどの機械で、中央の黄色いレンズを囲むように小さなカメラアイが上下に二つずつ付いている。

  それは地面に描かれた魔法陣から一つ、二つと数を増やし―――最終的に一八のガジェット・ドローンが姿を現した。




 「うわ、多いわね……」

 「んー、制限かかってるこの状態じゃあ時間によってはちと厳しいかね」




  ティアナの少し引き気味な声に陣耶は肩にクラウソラスを担ぎながら適当な調子で相槌を打つ。

  他の者達は現れたガジェットを見据えて既に戦闘態勢に入っている。




 『私達の仕事は捜索して居ロストロギアの保守管理。

  その自律行動型の魔導機械はこの先で私達が戦う事になるであろう相手の尖兵―――とでも考えてくれれば良いわ。

  動き自体は単純だけどそれなりに素早いし、攻撃も結構鋭いから気を付けるように』

 「ここまで数が多いと簡単に囲まれてしまいそうで怖いですね」

 「大丈夫大丈夫。危なくなったらお姉さんがフォローしてあげるから」

 「自分でお姉さんとか言うってどーなんだろーねー」




  なにをー、と喰ってかかるなのはを放っておいて状況は進行する。

  目の前のガジェットは何度かカメラアイを動かすと辺りをウロウロと動き回り始めた。




 『動作レベルC、攻撃精度D、制限時間は一五分―――さあ、始めるよ』

 「……っ!」




  その場の全員に緊張が奔る。

  それぞれがそれぞれの戦闘態勢を整え―――










 『ミッション・スタートッ!!』










  第一回模擬戦訓練が始まった。




















                    ◇ ◇ ◇




















  ミッドチルダ首都クラナガンの中央管理局。

  管理局における地上の総本部である塔のような建物の中には様々な施設が存在する。

  それは会議室であったり食堂であったり、オフィスや訓練場であり、次元通信や次元間移動の施設でもある。

  はやてとフェイトの二人は機動六課設立についての説明や質疑応答を終えて廊下を歩いていた。

  疲れているのか、はやては肩を回して調子を確かめている。




 「ああー、肩凝ったー」

 「お疲れ様、はやて」

 「けどまだまだ終わらんしなあ……このまま夜までずっと説明の繰り返しや」




  分かっていた事とはいえ少々気が滅入る。

  管理局と言う組織は巨大だ。

  次元世界間で確認されている組織で言うとまず間違いなく最大規模の勢力である。

  だが肥大化し過ぎた組織にはそれなりの弊害が付き纏ってくるのが世の常だ。

  この機動六課設立についての説明もその一つで、説明をしなければならない人物が多すぎるのだ。

  更にはその全員が一堂に会するなどスケジュールの都合で到底不可能な事なのである。

  なので小さく時間を作っては説明を繰り返さなければならない。

  この中央管理局だけでもやらねばならない事は多い。説明だけでなく書類関連の仕事も当然付き纏ってくる。




  二人の本日の予定は食事抜きのハードスケジュールだった。




 「うう、ご飯抜きはやっぱ堪えるなあ……朝にちょっとサプリを口に放り込んだくらいや」

 「もうすぐお昼だしね。みんな今頃何を食べているんだろう?」

 「ああーやめてフェイトちゃんー、そんなん想像しただけでうちのお腹がー、お虫さんがー」

 「何そのお虫さんって……」




  言うまでも無く腹の虫の事なのだがあえてお虫さんと言う意図がフェイトにはさっぱりだった。

  隣りで今にもお腹が鳴りそうですという体勢で歩いているはやてには機動六課部隊長としての尊厳など欠片も感じられない。

  それでも誰かが視界に入った途端に背筋がピンと瞬時に伸びる辺りは器用だとフェイトは思う。




 「はあ……まあ特にトラブルが起こらないだけまだマシかな」

 「まあ後ろ盾が後ろ盾だし、下手に反対意見を持つと敵視されるって考えてる人も多いと思うよ」

 「それってうちらを純粋に支持していない人もいるって事やね……まあ、うちに敵が多いのは今に始まった事やないけど」




  実際、自ら自嘲気味に言うはやての立場はきわめて特殊かつ奇妙なものだった。

  捜索指定ロストロギアの保持者にして元次元犯罪者、若手の出世頭にしてトップクラスの魔導騎士―――

  はやての出世スピードには目を見張るものがある。

  彼女に、それを疑問を持つ者が全く居ないかと問うと、それにはノーと答えるだろう。

  元とはいえ次元犯罪者のレッテルを貼られている以上、どこかしらに黒い噂が付き纏う。

  コネを利用しただの賄賂を使っただの身体を売っただの―――確かにコネは使ったがそれ以外は全くの事実無根である。

  だが人を差別視する社会というものはいつになっても無くなりはしない。

  こういう人の心理上の問題だけはどこの世界に行っても変わりはしないのだ。




 「うちは別に良いけどうちの子達がなあ……変な目で見られてへんとええねんけど」

 「まるでお母さんみたいな言い方だね」

 「やってやってー、やっぱりうちの所為!? とか考えるとあの子らに負担掛けてるのが申し訳ないやんかー!」




  途端に心の葛藤からブンブンと頭を抱えて振るはやて。

  あの子達―――はやての家族でもある守護騎士はこれっぽっちも気にしている事は無いだろうがそこをどう考える事ははやての自由だ。

  と、そこでフェイトはふと気が付いた事を言ってみた。




 「そう言えばさ、はやてって一人称を使い分けてるよね。”うち”って言ったり”私”って言ったり」

 「あー、ただ単に仕事モードとそうでないかを区別しているだけ。そうやって気分も切り替えてるん」

 「へえー、考えてるんだね」

 「なんや、そのうちが普段は何も考えてないような発言は」




  実際そういうのを使いだしたのはいつだったかとフェイトは記憶を手繰ってみる。

  気が付いたらはやては一人称を使い分け始めており、それはちょっとした違和感としてしか捉えていなかった。

  使い分けを始めたきっかけは何なのだろうかと考えていると前方から小さな妖精のような人影がこちらに飛んできた。

  八神家の末っ子であるリインフォース・ツヴァイだ。

  ツヴァイは小さな腕を使って自分の身の丈ほどはある包装袋に包まれたサプリを抱えていた。

  そしてもう一つ、背中にも同じ物が紐で括りつけられている。

  どこかの引っ越し業者さんみたいな運び方で飛行していたツヴァイは、はやての肩に腰を下ろすと抱えていた物をズイっと差し出す。




 「はやてちゃーん、食堂まで一っ飛びしてサプリを買ってきたのですよー」

 「何やいきなりどこかに行ったと思ったらそういうことかあ。ありがとうなリイン」

 「いえいえー。あ、もちろんフェイトさんの分もあるのですよ」




  いそいそと自分の腰に括りつけられたフェイトの分のサプリから紐を解くのに悪戦苦闘するリイン。

  こういう風に支えてくれる人がいるからこそ、自分達は頑張れるのだと二人は思う。

  自分達の夢はまだ始まったばかりで、こうやって支えてくれている人達のためにも―――




 「さ、そろそろ気持ちを入れ替えて次の会見や」

 「うん、頑張ろう」

 「へいへいほー、なのですよ」




  八神はやては頑張れる。

  フェイト・T・ハラオウンは頑張れる。

  まだまだ始まったばかりのこの日々を頑張れる。

  笑顔を浮かべた二人は次の会見の場所に向けて真っ直ぐに歩いていった。




















                    ◇ ◇ ◇




















  廃都市では大通りにすら瓦礫が大小問わずに転がっていた。

  砕けたアスファルトの道や崩れた建物の残骸などが道路を本来の一本道ではなく複雑なレーシングコースのようにしている。

  地盤も決して平らではない。コンディションで言えば最悪な状態の滑走路を、スバルはものともせずに走り抜けていた。

  その先にはターゲットであるガジェットが四機。

  トップスピードはこちらの方が上だというのに、スバルは未だにガジェットを捉えきれずにいた。




  地面から少し浮いているガジェットは路上の状態など全く無視して飛びまわる事ができる。

  目の前に瓦礫があったとしても形状からは予測できない機敏さで上下左右に重力を無視した最低限の動きをして避けていく。

  人と機械の能力上の差が如実に表れていた。

  最低限の動きが許されるのはそれが機械だからだ。人の身ではどうしても限界がある。

  障害物を認識し、判断し、各端末へと電気信号で指示を飛ばし、それぞれのパーツを動かす。

  手順こそ同じではあるがそこには絶対的な速度の差がある。

  人間の思考速度ではコンピュータの思考速度に追いつく事は出来ない。単純にそれだけの話だ。

  それが現実に差として現れ、スバルは未だにターゲットに追いつけずにいる。

  だが―――それでも、スバルは喰らい付いていた。




 (単純に道を走っているだけなら引き離される。奇襲を仕掛けてもセンサーに引っかかるだけで簡単に察知されてしまう。

  だから、仕掛けるなら単純に速度で追いつければいい。曲がりくねった道が駄目なら、単純な直線を用意すれば―――!)




  既存の道で追いつけないのなら新しく道を作れば良い。

  スバルの本領はその突撃速度とそこから繰り出される一撃にある。

  元々資質のあったスバルの体術にトップスピードの速度が加わった拳は文字通りの必倒の一撃だ。

  それが道の状態が悪いので思うような威力が出ませんでした、では話にならない。

  だからスバルは自分の持ち味を十分に生かすための術を持っている。

  即ち。




 「ウイングロードッ!!」




  スバルの足元からまるで電車の線路が切り替わるように蒼く光る道が伸びた。

  元々そこにあったかのように伸びた道の上をスバルは迷いなく駆け抜ける。

  道に転がる瓦礫などの一切を飛び越えて標的のガジェットに向け一直線に伸びていくその道は、彼女の意思に応じて自在に形を変える。

  単純に曲がり道を作ることだってできるし下り坂や上り坂、螺旋状の道を作ることも出来る。

  しかし今回は小難しい事を考える必要はない。

  標的は全力で走れば追いつけるし、単純な直線を敷けばそれで事足りる。

  だから真っ直ぐに。

  スバルを先導するように築かれていく道をただ全力で突き進む。

  だが。




 『説明してなかったけど……そのガジェット・ドローン、ちょっと特殊な機能が付いているの』




  再びアリアの声が念話を通じて頭に響いた。




 『結構上位のフィールド魔法を搭載しちゃってるんだよね。出力半径にもよるけど、私達魔導師にはちょっと厄介な代物』




  言葉が続いている間にもスバルはガジェットに向けて全速力で突き進む。

  既に加速し始めており、あと数秒の内にトップスピードに達するだろう。

  その場所から遠く離れた場所。

  周囲の廃都市部を一望できるほどの高さを持つビルの屋上で、アリアは薄く笑みを浮かべながら含みを持った言葉を続ける。




 『そいつらの持つ魔法は―――アンチ・マギリング・フィールド、通称AMF。その効力は効果範囲内における魔力結合の解除』

 「……え?」




  頭の中で響いた言葉の意味を吟味する。

  魔力結合の解除。つまりは魔法によって発生した効力の無効化。

  今スバルが走っている道であるウイングロードも魔法によって作り出された物であり―――




 「うぇっ、ちょ、ま……っ!?」




  その意味を理解した時には既に手遅れだった。

  標的に向けて伸び続けていたウイングロードはその近くまで道を作ったところでフィルターにでも通したようにぷっつりと途切れた。

  当然、道が途切れればその先を走る事は出来ない。

  向こう岸に渡された橋が途切れたような状況だ。走り幅跳びで崖を跳び越える事は出来ない。

  このままではガジェットに追いつく事が出来ずに縮めた距離がまた引き離される。




 『普段は自身の周囲にしか展開していないけど、フィールドを重ね合わせる事も出来るし出力で範囲を増減できる。

  単純に撃ったり殴ったりじゃ中々仕留めさせてくれないよ』

 「っ、けど―――魔力をキャンセルされる効果が一定範囲だけならッ!!」




  一気にローラースケートの速度を最高域にまで加速させる。

  ギャリリリッ!!! と摩擦で金属が削られるような音と共に巻き込まれた小さな砂埃が尾を引いて火花と共に撒き散らされる。

  渡された橋の切れ目まで残り数メートル―――その助走距離を風のように駆け抜ける。




 「いっっく、ぞォォおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」




  叫び、強く跳躍した。

  途切れた道の先端から、目の前を逃走し続けるガジェットに向けて身体をバネのようにしてスバルが跳んだ。

  途中で途切れた道という滑走路から、それこそ砲弾のように。

  最高速度で空中へと跳んだスバルはそのまま前へと跳躍し続ける。

  高く、前へ、前方を移動していたガジェットすら跳び越えて……一〇メートルほど追い越してようやく着地した。

  ガジェットがそれに反応する。

  前方に降って来た障害を確認すると、中央のレンズからレーザーが放たれる。

  だが構わない。

  スバルはその程度では止まりはしないし、退きもしない。

  着地した体勢からクラウチングスタートを切るようにスバルが爆発する。

  右のリボルバーナックルを魔力と共に固く握り、そのまま目前へと迫ったガジェットへと叩きこんだ。

  しかし。




 (やっぱり、魔力が通らないと思うように威力が出ない―――っ)




  拳が当たる寸前の所でフィールドに阻まれていた。

  AMF―――アンチ・マギリング・フィールド。魔力結合を強制解除する上位のフィールド系魔法。

  魔力結合が解かれる以上、その恩恵として得られている効果は全て消失する。

  身体能力の増強然り、直接的な魔力エネルギー然り。

  スバルの拳も魔力を使用して威力を高めているためにその分をゼロにされ、結果としてフィールドに拳を防がれたのだ。

  そのままの体勢で止まっているスバルを残りの三機が取り囲む。




 「まず、三機です!!」




  そして、その全てが突如として地面より現れた桃色の光の鎖に絡め取られた。

  鎖を使役するのはキャロだ。

  傍らに白く小さな竜を引き連れて、少女は標的を確実に捕らえる。

  キャロが発動した魔法、錬鉄召喚。

  呼び出されたアルケミックチェーンと呼ばれる鎖が全てのガジェットを絡め取りその動きを束縛する。




 「上手いねえ。それじゃあ俺もテキパキと片づけますか」




  次いで白く鋭い刃を持った鞭のような光が幾度も閃き、それを受けたガジェットは爆発四散する。

  空気を振動させる事無く蠢くそれは空中から降って来た青年の手に握られている物に繋がれていた。

  それを握っているのは陣耶だ。武装隊のアンダースーツに白いコートを羽織っただけの簡素なバリアジャケットが逆に特徴的でもある。

  彼の左手には直径一五センチほどの金属の棒―――先端は杭のように尖っており、そこから白い刃は伸びてる。

  それは彼の持つ剣、クラウソラスのオプションパーツとして用意されたものだ。

  普段は柄の中に収納されており、使用者の意思一つで取りだす事ができるようになっている。




 「魔力量によって伸縮自在、形状変化も思いのままか。ここまで面倒な術式を埋め込む辺りにメカニックの手の込みようが伺えるな」

 「AMFがあるっていうのに普通に魔力刃で斬っちゃって―――さてはAMFの事知ってましたね、っと」

 「私はその辺りをちゃんと考えて無機物を召喚しました」




  えっへんと胸を張るキャロ。何やら少し誇らしげに見える。

  そして言いながらスバルは素早くガジェットの下へと潜り込み、バック転でガジェットを脚で掴み地面へと叩きつけた。




 「おりゃッ!」




  リボルバーナックルのスピナーが回転し、その運動量をエネルギーに変えた一撃がガジェットへまともに突き刺さった。

  装甲ごと中身を貫かれたガジェットは衝撃に耐えきれずその場で爆発する。

  スバルは爆発に巻き込まれないよう、それに合わせて器用に跳び退いていた。




 「さて、こっちは四機片づいたし―――」

 『あちらも既に何機か仕留めているでしょう。残りは一〇分、油断しないで行きましょう』

 「という事で状況確認……ティアー、なのはさーん、そっちはどう?」













































 「今こっちは六機を追ってるわ。そっちはピンクのちっこいのを連れて残りの八機を追っておいて」

 『了解』




  念話で簡単な状況報告を済ませるとティアナは改めて前を見た。

  現在ティアナが居る場所は廃ビルの屋上だ。

  その視線の先には逃走中の六機のガジェットが確認できた。




 (スバルのおかげでガジェットにAMFがある事が確認できた―――事前情報が無かったら無駄弾を撃つところだったわね。

  てかあの二人、事前に知ってたからあまり自分から動こうとしなかったのかしら)




  おそらく教導担当の二人に口止めをされていたのだろう。

  だがAMFの存在が割れた以上はこれから先に置いて遠慮する必要はない筈だ。

  その分はしっかりと動いてもらおうと打算を働かせつつ、ティアナは前衛に指示を飛ばす。

  理不尽だろうが何だろうがそれくらいは許されると思う。




 『赤いの、ガジェットがそろそろそっちに行くわ。用意は良い?』

 『はい、既に目視しました。いつでもいけます』

 『なのはさんも、黙っていた分はしっっかりと動いてもらいますよ?』

 『あはは……善処しまーす』




  準備は完了した。

  三人はそれぞれの配置に着き、獲物が網に掛かるその時を待つ。




  エリオは前方二〇〇メートルから接近しつつあるガジェットをはっきりと捉えていた。

  常人ではありえない視力で標的を確認したエリオは愛用の槍―――ストラーダと呼ばれるアームドデバイスを握る手に力を込める。

  現在、彼は陸橋の上に立っていた。

  その場所で与えられた役割は足止めと撹乱、そして奇襲。




 (僕は他のみんなと比べて身体能力は低いし、体力だって劣る。だけど―――)




  だからと言って何もできない訳ではない。

  自分にも得意と言える、長所と言える部分ならどうにか持っている。

  それを最大限に生かすために、エリオ・モンディアルは今この場に立っている。




 「ストラーダ、カートリッジ・ロードッ!!」

 『Explosion』




  機械的な音声と共に槍と柄の接続部分がスライドし、そこから勢いよく弾奏が排出される。

  カートリッジがら供給された魔力を使用し、身体能力の強化を行う。

  魔法の使用に伴い足元に黄色に輝く近代ベルカ式の魔法陣が展開される。

  ガジェットとの距離は既に五〇メートルを切った。

  頭上で槍を勢い良く回転させる。




 「てやああああああああああッ!!!!」




  ザギンッ!! という鋭い音と共にストラーダが振り下ろされた。

  それは一撃だけに留まらない。二撃、三撃と連続して斬撃が繰り出される。

  繰り出された斬撃に橋が耐えきれずに悲鳴を上げた。

  ガジェットが橋の下を通ろうと迫る。




 「これで!!」




  最後の一撃が繰り出される。

  橋は耐久限界を超えたダメージを負い、轟音を響かせながら崩壊を始めた。

  エリオがその場から飛び退いて離脱すると同時に瓦礫の雪崩と化して橋の下を通過しようとしたガジェットの頭上から襲いかかる。

  辺りを揺るがすほどの衝撃と轟音と共にガジェットが瓦礫の山に圧殺された。

  瓦礫の落下と共に大量の砂埃が舞い上がり、標的の姿はおろか瓦礫の形すらも見えなくなる。




 (―――っ、まだ)




  未だ鳴り止まぬ轟音の中、エリオは確かに機械の微かな駆動音を聞き取った。

  あれだけの瓦礫の雪崩の中、まだガジェットは動いている。

  運良く逃れられた個体があったのだろう。エリオの考えを肯定するように砂ぼこりの煙幕の中から三機のガジェットが飛びだした。

  それぞれが別々の方向へと逃げようと動く。




 「アクセルシューター!!」




  それを二〇を超える桜色の弾丸が妨害する。

  エリオの奇襲が成功したのを確認し、空中で足場を作って待機していたなのはの支援だ。

  上空三〇メートル地点から放たれた誘導弾は円を描くように三機のガジェットを取り囲み、ガジェットの進行ルートを制限する。

  誘導弾に当たらぬように移動しながら散り散りに行動しようとしていた三機が再び集まり、誘導弾の僅かな隙間へと向かう。




  その進行方向の遥か先で、ティアナはアンカーガンを構えていた。




 (チャンスは一度。失敗すれば二度同じ手は通用しない。今から使うのは私のランクを大きく超えた魔法―――)




  目を閉じ、精神を集中させる。

  自身の中から外へ向かうイメージ。それを両手で構える己の武器……その銃口へ。

  何度も頭の中で手順を反芻する。学んできた事、培ってきたものを反復する。

  ―――大丈夫。集中を切らさなければ、出来ない事ではない。




 「……行くわよ、ティアナ・ランスター」




  鈍い音が響き、軽い衝撃と共にアンカーガンの中でカートリッジがロードされる。

  足元に橙色のミッド式魔法陣が描かれる。

  構えた銃の先端に形成されるのはたった一発の魔力弾。

  何の変哲もない、ただ魔力を固めて物理性を与えただけの弾丸。

  それだけでは弾丸を放ったところでAMFに魔力結合を解かれて無効化されてしまう。




 (だけど、こちとら射撃型……無効化されて打つ手無しじゃ生き残れないのよ!!)




  だから、フィールドを突き破るための外郭を用意する。

  無効化されるのならその為の膜を作れば良い、フィールドを中和して本命の弾を届かせるための外郭を。

  多重弾殻射撃。

  本来はAAランクのスキルとされるそれは外郭でフィールドを中和し中身を内部へと侵入させる効果を持つ。

  射撃型の最初の奥義とまで称されるそれをティアナは実行しようとしている。

  自分の自信と、これまで培ってきた経験と、己の夢を力に変えて。




 (固まれ―――)




  弾丸を下から薄い膜が徐々に這い上がるように包みこんでいく。

  だが完全ではない。

  半分ほど膜が弾丸を覆ったところで止まってしまう。




 (固まれ―――!!)




  強く。

  より強く、魔力を注ぎ込む。

  足りないならまだ更に、それで足りないなら術式に修正を。

  終着点に辿り着くために欠落している部分をあらゆる方向性からあらゆる方法で埋めていく。




 (固まれ、固まれ、固まれ―――!!)




  止まっていた外郭の形成が再開する。

  先程よりも速度は遅いものの確実に膜で弾丸を覆っていく。

  だがそれでは遅い。

  なのはがわざとスフィアの陣形に隙を作りガジェットをティアナの射線上へと誘導する―――

  その作戦は成功したが、このままではじきにスフィアの包囲網を抜けてまた散り散りに逃げてしまう。

  だからもっと早く。もっと確実に。




 (固まれ!!)




  そうして、手探りで向かった出口へと辿り着く。

  減少していた外郭の形成速度が一気に上昇し、弾丸のてっぺんまでも完全に包み込んだ。

  確かな膜の実感を得たティアナは改めて前方を見据える。

  僅かに作られたスフィアの隙間を縫うようにしてこちらへと向かってくるガジェット三機。

  直線上に開けた射線。

  迷いは無かった。

  撃ち抜くべき標的へと狙いを定め、その引き金を引く。




 「ヴァリアブル―――シュート!!」




  撃ち出された弾丸は真っ直ぐに標的へと突き進む。

  一瞬の内に弾丸はティアナの元からガジェットへと肉薄し、展開されていたAMFと正面衝突した。

  AMFが効果範囲内に入った魔力の結合を容赦なく解いていく。

  だがその影響が及ぶのは弾丸を覆っていた外郭だけだ。

  本命であるそれは外郭の中からAMFを貫いて―――ガジェットへと突き刺さった。

  貫かれたガジェットが爆発するよりも早く弾丸は次の標的へと襲いかかる。

  二機目も難なくフィールドを突き抜けて貫き、続く三機目もそのまま容赦なく撃ち抜く。

  撃ち抜かれたガジェットはその部分をバチバチとショートさせ、それから一瞬遅れてガジェットが爆発した。




 『うわあ、ティアナすごーい! いつの間に多重弾殻射撃なんて出来るようになったの!?』

 『努力の賜物、ですかね……』




  とはいえ、ティアナは予想以上に体力を消耗していた。

  どうやら今の段階ではあまり多用できる物ではないらしい。

  それにまだ終わりではない。

  ティアナ達とは別に動いている三人はまだ残る八機のガジェットを追っているだろう。

  早く合流して片付けなければならない。

  時間は有限であり、無限ではないのだから。




 「それじゃあ……別行動の三人と合流して残りの八機を片付けますか」




  消耗はしたがまだ動ける、戦える。

  ならば、やるべき事は一つだけだった。




















                    ◇ ◇ ◇




















  そして、シュミレーターによって作られた一際高い廃ビルの屋上でアリアとロッテは戦況を眺めていた。

  傍らでデータを取っているシャーリーと共に様々なパネルから六人の動きを見ている。




 「いやあ、思ったより上手く動くねえ」

 「六人のうちの二人は経験豊富だし、二人はその二人との実戦経験があるらしいし。残りの二人も上手くサポートをこなしている」




  一八機の内の一〇機は既に撃破。

  残る八機の撃破、もしくは捕獲にもそう時間はかからないだろう。

  アリアは空間に浮かぶ画面から目を離してシャーリーの方へと目を向ける。




 「それで、そっちの方は順調なの?」

 「バッチリです。フォワードの四人は良い感じに自分の持てる力を発揮しちゃってくれてますから、良いデータが取れてます」




  言いながらシャーリーはパネルに次々と大量のデータを打ち込んでいく。

  速度や魔力量、術式から走り方に動き方、果てには視線の動きまで動作データを記録していく。

  それらは全て随時統計され資料やパラメータとして画面に出力されていく。




 「んー、みんな真剣に取り組んでくれていてお姉さんは嬉しいぞ」

 「そうね。あの子達のためにデバイスも用意する訳なんだし……他にもやらなければならない事はたくさんある」

 「ですね。まあ私は一先ずデータ採取が第一目的になりますけど」




  出力されたデータの数々は全て別のファイルへとカテゴリ別に仕分けされて仕舞われていく。

  それともう一つ、画面に浮かぶ四つのオブジェクトがあった。

  それらのパラメータを示す画面も表示されており、中身のプログラム言語が高速で流れていく。




 「私の領分はデバイス・マイスターですから。四機とも良い子に仕上げてみせますよ」




  画面に表示されているオブジェクトはそれぞれのデバイスの待機モードだ。




  やや大きめの青いクリスタルの形状をしたデバイス―――マッハキャリバー。

  表裏同柄でデザインされたカードの形状をしたデバイス―――クロスミラージュ。

  デジタル腕時計の形状をしたデバイス―――ストラーダ。

  宝石に羽の意匠の付いたアクセサリーのような形状をしたデバイス―――ケリュケイオン。




  四機を見つめ、シャーリーは不敵な笑みを浮かべる。

  デバイス・マイスターであるシャーリーにとってデバイスを手掛ける事はこの上なく楽しい仕事だ。










  こうして各々の日々は幕を開ける。

  シャーリーにせよ、アリアとロッテにせよ、フォワードの四人にせよ、陣耶となのはにせよ―――










  それぞれの日々と戦いは、まだまだ序章が始まったばかりである。





















  Next「そんなんじゃ私には届かないよ!!」





















  後書き

  ということで初訓練。

  スバルとティアナのスペックが高めの設定なのでちょっと遊びました。陣耶となのははチョイ役で。

  なのはがシューターでビルなり電柱なりを崩してガジェットを潰すという案もあったのですが、なのは頼り過ぎるので没に。

  ……まだバトルは終わらないらしいですよ?

  それとはやての原作との小さな差異についての今更な解説も挿入。"うち"と"私"の違い。

  原作では一人称は九歳時から"私"オンリーですが今作では"うち"が主に使われています。本当に今更ですが。

  関係無いですがダブルオークアンタはターンタイプに次ぐチートガンダムだと思うんですよ。

  サテライトキャノンなビームソードをブン回しておいて粒子残量がまだまだ余裕ってどんだけ……

  それではありがたい拍手の返信をば―――



  >あうう、続きが読みたいです……


  お待たせしました、第五話です。

  まだまだ序の序の話で更新も遅めすが、気長に付き合って下さるとありがたいです。



  >この主人公は同年代の男の親友といえる人物はいるのでしょうか?

   案外、第三期面々と気があったりするのかも(笑)


  ちゃんと居ますよー、モブですがw

  武本と松田……ていうかフルネームを見ると嫌でも気付くゲストキャラです。

  第三期面々だけでなくユーノやクロノにもスポットは当てていきたいですねえ。



  それでは、また次回に―――






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