「マヌケですね」
「ぐあっ……」
開口一番、カリムの言葉が胸にグッサリと突き刺さった。
かなりの衝撃に体がぐらりと揺らぐ。
くっ……心の傷口に塩を刷り込むとかこいつの所業とは思えん、さては偽物だなっ!?
「そんな事はありませんよ、ここに居るのは正真正銘カリム・グラシア本人ですが」
「だからさらっと心の中を読んでんじゃねえ!?」
どこかやるせなさを感じながらもとりあえず言いたい事を飲み込んでおく。
言ったらそれを糸口に絶対またからかわれる……
「とはいえ、こちらも興味深い事が分かりました」
「―――トレディアのレリック関与、か」
「ええ」
俺がトレディアの施設に攻め入る切っ掛けになったデータ。
トレディアはレリック運搬ルートの一部だった―――つまるところ、レリックを集めている誰かとの繋がりは確実にある。
それがどこの誰かとは特定できない。
ただ、レリックと絡んでいる。
それだけが重要だった。
「これでますます気が抜けなくなってきました―――覚えていますか、あの時交わした条件を」
「ああ……俺は一時的にあんた直属の騎士になってそのバックアップを受けながらトレディアの捜索」
そして、その見返りとして俺に求められた事。
「その条件として、お前が立ち上げる部隊―――機動六課への全面協力、だろ?」
「まーったく、いつ気付いてたんや? 目ざといなあ……」
扉の傍に立っていたはやてが大仰に溜息を吐く。
まあ、トレイターがしょっちゅうちょっかい出してくるもんだから、これ位はできておかないと身の安全がだな。
と、それは置いといて。
「今回の件でトレディアのレリック関与も分かったんだ。そっち方面から攻めてみるのも悪くない」
「んじゃ……」
「ああ」
はやてから右手が差し出された。
歩み寄って、その手を躊躇い無く握り返す。
「協力するさ。元々、そういう約束だったしな」
「あはは、それもそうやな」
そうして、また時は流れる。
〜A’s to StrikerS〜
Last act「終わらせないために今を始める」
「卒業証書授与」
先生の宣言と共に卒業式でお決まりの音楽が流れ出す。
聖祥大付属高校―――男子校女子校合同での卒業式。
これまで何度も聞いている筈の音楽も、何故かしんみりと聞き入ってしまう。
卒業式という空気がそうさせるのか、春という季節がそうさせるのか定かではないが、そういった雰囲気が出来上がっている。
「武本圭」
「はい」
どうも順繰りは男子かららしく、呼ばれては次々と男子生徒が壇上に上がっていく。
武本も卒業証書を普段からは考えられない様な恭しい態度で受け取り―――ん?
何かプルプル震えてる……
「〜〜〜〜ッ、卒業だぁぁああああああああッ!!」
感極まったのか歓喜の叫びと共に跳び上がった―――そのまま壇の下にべしゃりと潰れた。
妙な沈黙が落ちる。
とりあえず武本の為に念仏でも唱えておいた。
そのまま数名の教職員によって引きずられていく……いとあはれ。
武本が退場してから授与式が再開される。
幾人かの生徒が呼ばれ―――
「皇陣耶」
「はい」
俺の順が回ってきた。
席を立ち、階段を上って壇上へ上がる。
音楽が流れる中で俺が床板を踏む音だけが響く不思議な静寂。
校長の前に立つ。
そうして校長が卒業証書の下りを語り―――はせずに以下省略。
そして、
「おめでとう」
卒業証書が手渡された。
頭を下げて両手で恭しく受け取る。
軽い筈の卒業証書は何故か重く感じられた。
そのあと一礼して、席に戻る。
それから聞き覚えのある名前が次々と読み上げられる。
松本慶介。
アリサ・バニングス。
高町なのは。
月村すずか。
最後の生徒が証書を受け取った後、退場が始まった。
音楽と拍手をBGMに会場を退場する。
そんな感じで、俺の卒業式は終わりを告げた。
「あー、やっとHR終わったー」
「最後だからって無駄話なげーんだようちの担任」
「しかしこれでやっと大学……むさっ苦しい男子校ともお別れだッ!」
最後のHRを終えて、渡り廊下をいつもの三人組で歩く。
エスカレータ式なのは高校までで、大学は実力で入る事になるのだが……一応、俺らは全員入る事になっている。
周りを見渡してもそこは卒業生とその後輩、家族で賑わってばかりだ。
ちょっと聞き耳を立ててみる。
「はわ、まっさかちゃんと卒業できるなんてねー」
「ほっとけ!? 俺だって好きで学年下がったり留年の危機に陥ってたわけじゃねえよ! 大体あいつが……!」
「呼びましたかー?」
「うおっ、出やがったな!?」
「卒業おめでとうございます。早速ですが……次の任務です♪」
「ふっざけんな!? 卒業の気分に浸らせろーー!!」
「いやあ危なかった……ここ数年は稀に見る不幸だったが何とか乗り切った!」
「勉学面は何故か年下の私が面倒見る羽目になったけどねー」
「あぐぉ……その、ありがとうございます」
「うむ、素直でよろしい」
「それよりお腹空いたんだよっ、短髪に構ってないで早くご飯を食べに行こう! 今日はごちそうだって話だよね!」
「俺達もとうとう卒業か……お前、大丈夫か?」
「うう、大丈夫だよぅ」
「そーそー、いつまでも保護者面していると痛い目を見るわよ。ね、先輩」
「ん……そうなの?」
「何でそこで俺を見るかな……」
「まーまー、私ら今日でめでたく卒業何だからさ、寮でパーっとやらない、パーっと」
「お、そりゃあ良い。チーム一丸これからもよろしくって意味も兼ねてやっとこう。どうせならお酒も……」
「お前ら騒ぎたいだけだろ」
「ぁう……ぉ酒……だめ」
「今日で学校ともお別れか……生徒会止めても生徒会長の手伝い頑張ってたよな、お前。お疲れ様」
「……ん」
「あんたも何だかんだ言ってながら頑張ってたわねー、この子に対抗心出して」
「貴様、僕は神だぞ。元生徒会長代理、元副会長としてもやるべき事をやる義務がある」
「だから神じゃねーっての。つか関係あんのかそれ」
「まあ良いわ……これから戦線全員でパーティ会場に赴くわよ。そこでパーっと騒いで、最高の思い出を作りましょ」
「ああ」
どこもかしこも愉快な話題で盛り上がってる。
一部おかしな会話が聞こえてきた気もするが、まあ気のせいだろう。
「お、いたいたー。おーい」
「お?」
呼ぶ声が聞こえたのでそちらの方向を見てみる。
……ぬこ姉妹が手を振ってやがった。
「あ、いつぞやのネコミミコスプレ姉妹」
「何ぃ!? お前らあんな可愛い子たちと知り合いだったのかァ!?」
「あー……なんつーかだな」
何と言ったものかと考えていると姉妹の片割れ―――ロッテが突撃してきた。
繰り出されるのはもちろん、
「ブースト流星キーーーック!!!」
「挨拶という名の攻撃ですよねやっぱりっ!?」
自分がスカートを履いている事など一切気にせずに流星の様な蹴りが放たれる。
一直線に尾を引いて迫るその様はまさに流星―――!
ならば!!
「必殺、武本ガード!!」
「なにてゴフォアッッ!!?」
武本の腹がアリア渾身の一撃を身を呈して受け止めてくれる。
鋭い音と共にアリアの蹴りが武本の腹へと突き刺さり―――衝撃に耐えかねて武本が低く呻いた。
プルプルと震えながら、今にも砕けそうな足を踏ん張り、それでも最後の力を振り絞って―――
「白、下ら……ゲブファッッ!!?」
止めの一撃を喰らって完全に沈んだ。
跳び上がってから華麗なまでの踵による閃の一撃。確実に急所に入ったな……
当のロッテは自慢の足で鋭く空を切って見事な着地を決める。
「うーすロッテ。知らせてはいたけどまさかはるばるやって来るとは」
「うーすジンヤん。そりゃあ可愛い教え子の晴れ姿を一目とねー、そっちの彼も久しぶりー」
「お久しぶりでーす」
松田もロッテも顔を覚えていたのか軽く挨拶を交わす。
遅れてアリア―――だけでなく、とっても意外な人物まで来ていた。
「グレアムさんっ」
「やあ、卒業式だと聞いてね」
いや、まさか遠い外国からわざわざやって来るとは……
まあ転送使えばすぐだろうが、そう簡単に使える物でもないだろうに。
その顔には以前より歳が見て取れる……が、まだまだ元気そうだ。
しばらく見ていなかった顔にほっと一息を吐く。
「わざわざありがとうございます、グレアムさん」
「私としても浅からぬ縁のある者達の卒業式だ……晴れ姿くらい、拝んでおこうと思ってね」
なんてーか、これが親に見てもらうような感覚なのだろうか。
ちょっと背中がこそばゆい。親いねーからよく分からん。
こっ恥ずかしくて誤魔化す様にアリアの方に向き直る。
「陣耶、卒業おめでとう」
「アリアもわざわざありがとな」
「別に良いわよ、気にしない気にしない」
アリアも笑って卒業を祝福してくれた。
幼い頃、両親が死んでしまってからはちょくちょく顔を出してくれていた三人なだけにやっぱ嬉しい。
……と、アリアが何か顔を思いっきり近づけて来た。
どうやら耳を貸せという事らしい。何だ?
「ここだけの話なんだけどね、父様ってば随分とあんたやはやて面倒見てたじゃない?」
「そーだな」
「だから妙な親心と言うかおじいちゃん魂とでも言うのか……卒業をえらく楽しみにしてたわけ」
「……あー」
俺はともかく、はやては中学課程を終えるとさっさとミッドの方に行ってしまった。
仕事に専念したいからって事だが、俺はあんな歳から仕事人にはなりたくねえ……バイトで充分です、ハイ。
まあなんにせよ、かなりお気の毒だという事は理解した。
心なしかグレアムさんも感動と言うか歓喜と言うかそんな感じで輝いてる気がする。
そん感じで談笑してると―――あ、松田や武本の親御さんもやって来た。
どうやら向こうは向こうでこれからの予定があるらしい。
「んじゃー俺らも向こうが呼んでるから行くわ」
「おう、また今度なー」
「お前今度その子達紹介しろよなーーーーー」
家族に引き摺られていった武本の声がエコーして消えていく。卒業式でも扱いが哀れだな……
そのまま三人で暫く談笑する。
やれ高校生活はどうだったの、大学はどうするだの、将来はどうするだの。
ここ一年くらいの予定は結構あるってのは知っているだろうに……けど、楽しい事には楽しい。
そんな感じで時間を潰していると他の連中がやって来た。
「陣耶くーん」
「ん? おーう、なのは」
聞き覚えのある声に振り返った先にはまずなのは。
そんで隣にはいつものようにアリサとすずかが……って、待て。
何か後ろにどやどやと出来ている人だかり。
全員に見覚えがありすぎて軽く引いてしまう。
つーか、つうかだ……
「うっす、卒業式ゆうから見に来たでー」
「お前ら何でここにいんのっ!?」
「えっと、みんなの卒業式だって言うからミッドから―――」
そうじゃなくて仕事はどうした仕事はっ。
はやてはともかくフェイトは執務官とかかなり忙しい筈だろっ。
「あはは、まあどうにかなるんじゃないですか」
「上なんて権力にものを言わせれば黙るんじゃないですか?」
「局員を志す身としてそれはどうよランスター……!」
あろうことかスバルとランスターまで居やがる。
更には高町家、バニングス家、月村家、ハラオウン家一同。
大所帯すぎて目立ちまくってる……やめて、まぢで。
普段から女子校屈指の美女と親しいとかで逆恨みを買いまくってるのに、ここにいるのはレベルが高すぎる連中ばかり。
男子で言えば恭也さんとかもう周りの女子連中に大人気である。なんかヒソヒソ聞こえるし。
で、もう一人目を惹く男性―――優男が一人。
「や、陣耶。暫くぶり」
「お前が無限書庫から顔出すとか珍しいなあ、ユーノ」
そう、ユーノである。
伸びた髪は根元で括り、メガネをかけた知的キャラ。
顔も女っぽいせいか周りの女子から恭也さんと揃いで黄色い声が聞こえてしまう。
「今日はみんなの卒業式だっていうからわざわざ出て来たんだよ……後の仕事覚悟で」
「結構決死の行軍なんだなあ……若いってのにお疲れさん」
肩になんだかやるせなさが見えるのは気のせいだろうか。
影が薄いとか空気だとか存在が消えていたとか、断じてそんな類でない事を祈ろう。
けどそんだけ忙しいなら手伝いもぴょこぴょこ行くような気がする。
特になのは。
「なのはもお前の手伝いちょくちょく行ってんだろ、手伝ってもらえば良いじゃん」
「そんなところまで迷惑かけるのもどうかと思うけどね」
「あいつは絶っっ対迷惑とか微塵も感じてない方に5万」
「あははは……否定できない」
なのはもちょくちょくユーノの手伝いには顔を出している。
フェイトもはやても仕事で忙しい中、スバルとティアナを除けばミッド組では比較的楽に顔を合わせる事も出来る。
というかこの二人、気があるのではないだろうかと疑う事が時々。
はやてやアリサ辺りと邪推しまくってそんな感じの機会を何回か作ったが、それっぽいイベントなんて欠片も起こらなかったがな。
俺のようにどこまで行っても友達の域を出ないのだろう、うん。
さて、そろそろここで話し始めて時間も経ってきた。
そうなると必然的に注目を浴びてくるのだが……やっぱり俺に対する男子生徒の視線は拭えない。
こう、圧倒的な怨嗟的なものが。
「ガヤガヤと美少女達の中心にいるせいで目立ちまくりだな、陣耶」
「言わんでいい事言ってんじゃねえトレイター……辛くなるから」
そして止めとばかりにトレイター。
もう何人いるんだよ……軽い団体さんな人数は確実にいるし。
仕事は一体どーしたのかミッド組みまでわざわざやって来てる。
例外的に守護騎士組はいないらしいが。
何かはやてのために自分達が仕事をやるとか言って聞かなかったらしい。
主人思いの出来すぎた騎士である。
クロノも忙しくて居ないとか何とか。
「なー、どっかに移動しね? ぶっちゃけ目立って居心地悪いんだが」
「何よこれくらいで。学校じゃ女子高の連中とよくつるんでる奴って目の敵にされてたじゃない」
「ほっほーう」
「いらん事を言うでねー」
思い出したくもない事件の数々。
なまじなのは、すずか、アリサの三人とよくいたものだから男子校の生徒にはかなり目の敵にされていた。
更にバニングスと月村はかなりの大企業。そこのお嬢様である二人はいわゆる高嶺の花だ。
そんな連中と親しいって事もあってか時々俺に対して暴動が発生した。
女子校連中にも人気が高いのか、たまに女子生徒が混じっていたのが恐怖だ。
一応、なんとか逃げ切って事無きを得てはいるのだが……
「やっぱりなのはさん達って凄い有名人なんですね」
「あーもーいろんな意味でな」
とにかくさっさと移動しよう。
がやがや騒いでいる一同を背にして歩きだす。
「こーら逃げるなー」
「せっかくなんだから騒ぎましょーよ」
「ぐえっ、ぐびじめんな、ぐび……!」
ぬこ姉妹に襟首を掴まれた。
キュッ、と締まった襟首のせいで実に息苦しい。
とにかく危機を脱するために逃げねーよと何とか言って解放してもらう。
ぜえ……結構きつかった。
「そうそう、これから数年見なかった海鳴を見してもらおか」
「祝いに来たのかこき使いに来たのかどっちだテメー」
こいつだと素で1:9とか言い出しそうだ。0:10とか抜かした日には泣かしてやる。
「……うーん、実際にあってみたいと本当に人って分からないものだねーティア」
「あんたも本性知られたらきっとそんな印象抱かれるわね」
「酷いっ!?」
うん、それについては俺も異論を挟め……ではなく。
いい加減マジで移動したくなってきたのだが。
「あらあら、それなら今日は翠屋で卒業祝いの打ち上げかしら」
「いいですねえ。翠屋の料理は美味しいですから」
「席の方は足りますかね?」
「大丈夫です、今日は貸し切りですよ」
「流石桃子だ、ぬかりない」
「いえいえ」
救いの手が来たっ。
「よーし、つーわけで全員翠屋に移動しよう移動」
『はーい』
……とりあえず、これ以上目立つなんていつ事態は避けられた。
「それでは皆さんの卒業を祝って―――かんぱーい!」
『かんぱーーい!!』
どんちゃん騒ぎが始まった。
テーブルにところ狭しと並ぶパーティ料理の数々。
そして同じくところ狭しとひしめく人人人―――
お茶を片手にフライドチキンを頬張りつつ騒ぐ面々を眺める。
「つか、あんたホントにお茶好きね……パーティなんだからジュースくらい飲めば?」
アリサもフルーツサラダを片手に俺の隣に来た。
んー、意外と可愛らしいの食うんだな。
「俺はお茶が好きなんだよ、日本茶が」
「ったく、爺臭いというか……」
「節操なしに食い荒らすよっかはマシだと思うがね」
テーブルの一角に目をやる。
青い髪の少女―――スバルがテーブルの料理を次々と平らげていた。
つうかマジで食うスピードはええ……俺らの時もまだ押さえてたのか?
恐ろしい胃袋である。
「相変わらず食いっぷりが凄いわねあの子……」
「T○チャンピョンの大食い、早食い選手権にでも出せば確実に優勝かっさらってくれるぜ、アレ」
「そうねー、ギネス狙えるかも」
こんな台詞が冗談ではなく本気で出てくるんだから余計恐ろしいものである。
というか、あのままじゃほんとに料理が全滅しかねん……
「―――ちょっくら厨房手伝ってくる」
「律義ねーあんたも。私達が祝われる側なんだからゆっくりしていたら良いのに」
「まあ、好きだしな、料理」
うん、好きか嫌いかと問われると好きだろう。
じゃないと趣味とかでやってないし、あんな小さい頃から料理ばかりはやってなかっただろう。
「そういえばあんた、将来って決まってるの」
「どーしたいきなり」
「いやね、今の時期、そろそろ将来決めておかないと苦労するわよ」
「……それもそーかね」
結構重要な問題だよなあ、それって。
将来ねえ……
「……ま、ぼちぼち考えていくさ」
「浪人になったらいつでも来なさい、働き口ぐらい紹介してあげるから」
「ありがたい話で」
とりあえず厨房に向かうとしますかね。
厨房に行くと数人が談笑しながら調理をしていた。
その中にとっつきやすい奴を見つけたので絡む事にする。
適当に備え付けのエプロン着て……
「よう、手伝いに来たぞー」
「あ、陣耶くん」
長い栗色の髪をサイドポニーで纏めたのが特徴的ななのは。
小さい頃はちょこんとしたツインテールがトレードマークだったのだが、変わるもんである。
アリサもロングヘアーからショートカットになったし、すずかもウェーブがかった長髪ではなくストレートになった。
フェイトもツインテールを止めて先で纏めたし……変わってないのは俺とはやてだけか。
「どうしたの?」
「いや、やっぱ人って変わるもんだなって」
「? 変なの」
とか言いながら笑われてしまった。
むう、なんか癪だ。
何を作っているのかと手元を覗くと……ふむ、材料からしてサラダですな。
それくらいなら別に作業分担したって問題は無い筈なので、こっちを手伝いますか。
まな板を取りだして、包丁出して、野菜を切る。
キャベツを芯を中心にざっくりと真っ二つにして、それを何枚か重ねて横から千切り。
「あ、ありがとう陣耶くん」
「このままじゃ料理が全滅しかねないんでね」
スバルの方向を指さす。
それを見てなのはも何だか苦い笑い。どうやら意図は伝わったらしい。
「ふふ、あれくらい食べっぷりの良い方が私達も嬉しいわ」
「負けてはいられないな―――さあ、ジャンジャン作るぞ!」
それを受けてか高町夫妻もヒートアップ。料理を作る手が加速し始めた。
んー、こっちばっかダラダラしている訳にもいかんしな。
そそくさと野菜を切る作業に戻る。
ザクザクとキャベツが切れる感触。中々水気があってよろしい。
「あ、そっちの深皿に入れといてくれるかな」
「うーい」
刻んだキャベツを指定された深皿の中へ。
そこになのはがトマトやキュウリ、水菜やツナを飾り付けて―――最後にごまドレッシング。
簡易的ではあるがヘルシーサラダの完成である。
とりあえずこういう時くらいあいつに働いてもらおうか……
「おーいトレイター、これ持ってってくれー」
「ふむ、了解した」
サラダのついでに他の仕上がった料理も持って人混みの中に消えて行った。
うむ、従者の面目躍如である。
さてとお次は―――
「ねえ、陣耶くん」
「ん?」
「これからさ……どうする?」
食材を漁る手が少しだけ止まる。
けどすぐに何事も無かったかのように再開。
なのはの言葉が単純に将来を指しているのではない事は、分かっている。
「まあ、なるようになっていくしかないんじゃね?」
「ほんとに良いの? それで」
「良いんじゃねえの、それで」
かといって気に入らない事まで良いとまでは言えないが。
やりたいようにやる。
今までも、これからも、変わらずに。
それに今更変えるような事でもないしな。
「まあ、やるべき事はあるしな……そっちをやってりゃ向こうから顔を出してくる気もしてる」
「あはは、それって直感?」
「おう、第六感だ」
軽く笑い合う。
こいつとの会話は、優しくて好きだ。
気になってる事とか、そんな事にウジウジしている暇があるなら前を向こうって気になる。
他人を助けたいと願うこいつは、確かに―――そのための何かを持っている。
「何も解決しなかったけど、次に繋げる事は出来たんだ」
「そうだよね……まだ、終わってないんだよね」
そう、終わってなんかいない。
まだ始まったばかりなんだ―――俺も、奴も。
問題はまだまだたくさん残っている。
トレディアの事、ケーニッヒの事、構成体の事、防衛プログラムの事、無色とあの世界、あの黒い存在。
これからはレリックという事象も絡んでくる。
だからこれは始まりだ。
この日常を終わらせないための、始まり。
「こっから先はどんどん慌ただしくなるだろうが……宜しく頼むわ」
「うん、宜しく頼まれました」
だから、終わらせないために今を始めよう。
例え何があったとしても―――こいつが、こいつらが笑っていてくれるなら、俺はまだ立つ事ができるのだから。
ところ変わってミッド北部にあるベルカ自治区。
そこにある聖王教会聖遺物管理部が取り扱う、海沿いの一つの教会―――
首都クラナガンからそう遠くないここには管理局関係者が立ち入る事もある。
だけどあくまでベルカの自治領。
管理局側である首都クラナガンよりベルカの融通が効くのはまあ仕方ない。
そしてそれ故に、ベルカ側の事情はベルカ側も積極的に関わってくる。
教会の、とある一室。
扉を開けて中に入る。
「おや、陣耶かい」
「ああ、ヴェロッサ」
出迎えたのは緑の長髪が目を惹く全身白いスーツでビシッと決めた優男ことヴェロッサ・アコース。
カリムの義弟で本局所属の査察官。クロノとも交友があるとか。
カリムに関係がある以上はやても知り合いだし、俺も当然ヴェロッサとの交友はあった。
「何しに……つっても一つしかないか。様子は?」
「相変わらずだよ。眠り姫はずっと夢の中さ」
王子様でも現れてキスで目を覚ましてくれればこっちも気が楽なのにねえ、なんて肩を竦めるヴェロッサ。
人生そんなメルヘンチックな出来事など都合よくありはしない。
この魔法にしたって、空気中にある魔力素なんて名付けられた物質を式を使って制御するからそう言われているだけである。
本物の魔法っていうのは理屈も何も無しにどでかい奇跡を起こすようなものの事を指す筈なのだ。
愛と希望と勇気で世界を救う。
そんなハッピーエンドがあれば良いが、現実はそう甘くない。
世界は確かに愛と希望と勇気で満ちているだろう。
だけどそれと同じくらいに悪意も蔓延している。
聖と邪、善と悪、白と黒、光と闇、切り離せない二面性、一枚のカードの裏表。
人は光が無ければ自身の形を確かめる事は出来ず、そこに影が無ければ自身の存在に確固たる自信が持てない。
誰しも未来に希望と不安を抱いている。
それに絶望してしまい今を壊すのか、希望を抱き続けて今を生きるのか。
「……まあ、考えてもせんのない事か」
「どうかしたかい?」
「いや、別に」
部屋の奥―――小さなベッドで静かに眠る、その少女を見やる。
茜色のショートカットが、窓から差し込む日差しに映える。
眠り続けるその少女。
遠い昔、古代ベルカ戦乱の時代。
その混沌の時代を生きてきた王の一人。
ガレアを統べる、冥府の炎王と畏れられた者。
冥王―――イクスヴェリア。
「ほんと……いつになれば目を覚ますんだか」
利用されていたのか、協力していたのか、マリアージュを止められるかどうなのか。
聞きたい事は山ほどある。
だけど、目の前にいるっていうのに、それを聞く事は叶わない。
こういうのを蛇の生殺しって言うのかね……
「レディの眠りを妨害するのは騎士としてどうかと思うけど」
「わーってるよ。ただ歯痒いだけさ」
ぼりぼりと頭を掻く。
やっぱり待っているのはどうも性に合わないらしい。
ここにいてもしゃーないか……
踵を返す。
「どこに行くんだい?」
「カリムの方に顔出してくる」
「じゃ、僕もご一緒させて貰おうかな」
そう言ってヴェロッサも隣に並んでくる。
そのまま部屋を出て……一度だけ、部屋の中を覗いた。
開け放たれた窓からはそよ風が吹き入り、カーテンを揺らしている。
眠り続ける少女が目を覚ます気配は、無い。
「―――」
そしてそのまま、扉を閉じた。
一歩を踏み出す。
やるべき事は、まだまだたくさんあるのだから。
......to be continued
後書き
終わったーーーーーーーーーー!!
〜A's to StrikerS〜、これにて終了です。
長かった……ここまでこぎつけるのが長かった……
最初は14話程度を予定していたものがアレもやりたいコレもやりたいとかやってる内に……どうしてこうなったし。
次からはstsですが、かなり原作に無い要素が絡んできます。
まずはなのはの非管理局所属。
当然教導隊になんて行ってませんし、ランクもSランク試験を受ける前に辞めたのでAAA+止まりです。あくまでもランクは。
それに伴って大学進学、そしてスバルやティアナとの個人的交流も生まれました。
トレディアの生存。
原作ではsts開始一年前にマリアージュの手で殺されてしまうのですが、こっちじゃ生きています。
イクスヴェリアは陣耶達の手で回収されていますが、はてさて。
stsではトレディア関係で出てくるあの人もちゃんと出ます。
次に闇の書の闇の欠片こと防衛プログラムの構成体。
A'sの結構すぐ後に発生したなのポ事件が10年後のタイミングで発生。それに伴い各キャラも19verに。
相も変わらず闇の書の再生を狙っています。
というかこいつら書いてて楽しい。どうにかしてこいつらを日常に絡ませられないだろうか……(ぁ
最後に、オリジナルキャラの存在。
正直これが一番扱い辛いですねえ……とはいえ、ネタは仕込んであります。
無色とケーニッヒ、あの世界と黒いナニカ、謎の声。
かーなーりー遠回しな伏線が張ってあります。感の良い人は気付いてるかも?
次はナイトウィザードを久々に投稿して、それから改めてsts編を始めたいと思います。
今までお付き合いくださってありがとうございます。
こんな稚拙な作品ですが、それでもまだ付き合って下さるというのなら―――それに勝る喜びはありません。
頑張って完走を目指したいと思います。
最後にありがたい拍手返しを。これがあるから頑張れた……
>更新の度読ませていただいてます。
執筆大変だと思いますが頑張ってください。
頑張ってこのお話は完結までこぎつけました。
少し休んでからstsです。応援していただければ幸いです。
ただ受験があるのでそう呑気な事も言ってられませんが……w
それではまた次回に―――