「さて……揃いも揃って全快おめでとうだな。信じられん回復速度ではあるが」

 「あ、あははははー……」




  あれから15日。なのは、スバル、ランスターの三人が回復した。

  なのはは怪我自体が大したものじゃない上に魔力ダメージで昏倒していただけだったので検査を受けてそれで終わった。




  スバルは専門機関の方に移って何やら一悶着あった模様。

  俺はそちらの方には関与していないので何も知らんがわざわざ触れる様な事でもない。

  ランスターがどう思っているかは流石に俺の関与する所じゃない。なのでどうなるかは分からんが……




  で、一番驚いたのはそのランスター。

  いくら集中治療を受けたからといって15日程度であの怪我が全快するものなのか……

  自分は凡人だと嘆いていたのを見た事があるが、回復量は異常じゃないのだろうか。

  しかも戦闘記録を見るにスバルと二人でヴィータをノックアウト……先が恐ろしいんですけど。




 「あー、あんな目に遭って生きているなんて……何かまだ信じらんない」

 「テ、ティアっ。生きてる、生きてるからっ」




  よほどきつかったのか未だに尾を引いているらしい。

  仕方のない事だが、負い目があるので何ともし難い。

  俺がいればこんな事には―――なんて事を言うつもりはないが、少なくともここまでダメージを負わせる事はなかった筈だ。




  はあー、と意図せずに溜息が漏れる。

  事が事なだけにらしくもなく気分は非常にブラックだ。




 「けど私はともかくとして、スバルとティアナは本当に大丈夫なの? あんな酷い大怪我で……」

 「私は大丈夫ですっ! ほら、私って人一倍体は頑丈なモノでして」

 「……」




  言って、スバルの顔に陰りが差す。

  あんな状態だ。自分の体を見られている事は承知しているだろう。

  ランスターは戦闘中に、俺は駆け付けた際に、アリサとすずか、トレイターとエイミィさん達は俺が二人を転移させた際に。

  表情がどことなく暗いのは知られてしまったからか、それともその事に関して何も口にしないからか。

  何にせよ、スバル自身の問題である以上は俺にどうこうはできない。




 「どうしたのスバル、やっぱりどこか……」

 「あ、あははは。大丈夫ですって」




  だが―――なのはだけは、スバルの体の事を知らずにいる。

  あの時、構成体と戦闘していたなのはに他の情報など入ってくる筈もなかった。

  なのであの事件の渦中にいた者の中でスバルの体について知らないのはなのはだけだ。

  こればっかりは、他人の口から口外して良い様な事じゃない。

  なのはを疑っている訳ではないが、これはスバル自身が話すべき事でもある。




 「―――スバルー!」




  と、後方から声が聞こえてきた。

  スバルも覚えがあるのかぴょこんと顔を上げて俺の後ろの方からやってくる人物を見る。

  駆けてくるのは女性だ。

  スバルより深い青の腰まで届くほどの長髪。

  瞳の色は同じく緑で、なんつーかフェイトほどではないがボンキュ、ボンなグラマーさん。

  身に纏っているのは間違いなく管理局、それも陸の物だろう。




 「ギン姉ー!」




  スバルのギン姉、という呼称からするに姉だろうか。

  確かに外見的特徴はかなり似通っているし、パッと見た感じは大人びたスバルだ。

  そのギン姉と呼ばれた女性は小走りでスバルの下にまで駆け寄ってくると、とたんに口を開いた。




 「だ、大丈夫なの? あの怪我がほんとに15日で治ったの? 無理しているとかそんなんじゃないわよね?」

 「あ、あはは……ギン姉も心配性だなあ。私の体が頑丈なのはギン姉も良く知ってるでしょー」

 「それは、そうだけど……」




  ……また心配性な奴が出てきたらしい。

  不謹慎なのは分かるがなんともまあ恵まれているというか優しい世界というか。

  それにしてもあの慌てぶり、初めて見舞いに来た訳でもないだろうに随分なものである。

  心配症と言っても筋金入りか?




 「おう、騒がせて済まねえ。ギンガの奴は長期出張してたせいでスバルの容態は通信越しでしか知らなかったもんでな」

 「あー、なるほろ……ていうかオッサン誰だ」




  いつの間にか見知らぬオッサンが俺の隣に居た。

  でかいガタイで50前後だろうか。

  そこはかとなく老け始めている男性が着込んでいるのは管理局の陸の物。

  階級章を見ると―――おう、三等陸佐。

  さっきこのオッサンはギン姉なる人物をギンガと名指しして呼んでいたが、それはつまり―――




 「挨拶が遅れたな。スバルとギンガの親父をやってるゲンヤっつうモンだ」

 「俺は皇陣耶だ。宜しく、ゲンヤ三等陸佐殿」

 「がっはっは、何だその呼び方。嫌味か?」




  非難めいた言葉にも思えるが、声色聞いているとそうとも思えない。

  ていうかそーやって聞いてくる辺り人が悪いというか、見る目があるというか。




 「そー聞こえたならどう呼ぼうか」

 「っは、オッサンでいいや。見たところ堅っ苦しいのは嫌いそうだからな」

 「りょーかい。んじゃ改めて宜しくゲンヤのオッサン」

 「おう、そっちの方が背筋に悪寒が奔らねえや」




  そんな理由かよ。

  アレか、俺が丁寧語使うのはそんなに変だと。

  だがまあオッサンもオッサンで気さくな性格の様なので問題無しだと思う。

  こんな人だから助かったが……形式に拘る人とぶち当ると即座にアウトだなあ。

  俺もそこら辺の付き合いが下手だから組織に入る事を良しとしないんだし。

  剃りが合わないというよりは俺が無駄に問題を巻き起こしそうなのである。




  にしてもスバルにギンガ……ナカジマって性のせいで実に日本名に見えなくもない。

  漢字に直すと中島昂、中島銀河。おお、なんともらしいぞ。




  ……一瞬後に意味の無い思考だと気がつく。

  アレか、そこまで寂しい人間だったのか俺は。

  色々と面倒な人間だとは自覚しているが寂しい人にだけはなりなくない、切に。




 「で、三等陸佐がこんな所にどうしたんだ。ただ単に娘の見舞いってほど暇なのか?」

 「いやまあそれもあるがな―――お前さん達、見たんだろ」




  言いにくそうに、切りだされた。




  まあそれが普通の反応だろう。

  誰にだって知られたくない事柄の一つや二つはある。

  当然だ、だってそれが生きるという事なのだから。

  スバルにも、今こうして切りだしたゲンヤのオッサンにも、当然俺にも、あのなのはにだってあるだろう。




  ならば、知られたくない事を知られた場合どうするか。

  大抵の場合は口を封じようとするだろう、その知られたくない事がそれ以上広まる事を防ぐために。

  対処法なんて様々だ。

  単純に口を封じるだけなら記憶を改ざんしたり、薬を使ったり、殺してしまえば良い。

  だがそれは手段を選ばない場合の話だ。

  人など外見で判断できるものではないが、それでもこのオッサンはそんな物騒な手段はとらないだろう。

  でなければ、リスクを負ってもそれの相当する見返りがないからだ。

  ひょっとすると俺の感知しない所で何かあるかもしれないがそこまでは正直に言って気が回らない。




 「で、だ……その事について話したいんだが、お前さん達の予定は空いているか?」

 「あ、はい私達なら―――」




  なのはやティアナは一も二もなく承諾した。

  というかなのはは事情すら分かってはいないだろう。

  しかしここまで来たのだからという事もあるし、スバル自身も無碍にはしたくない様ではある。

  が―――




 「悪いが、俺はパスだ」

 「え?」




  生憎と俺にはそれができない。




 「別に話を蔑ろにするって訳じゃないんだが―――これから外せない仕事があってな、そっちを片付けてからで良いんなら」

 「そりゃ、別にかまわねえが……」




  悪い受け方をされようが知った事ではない。

  それでも俺には、優先すべき事があるから。




 「時間が空いたら連絡は入れる。スマンがそれまでは待ってくれや」




  失礼だろうがここで失礼する事にした。

  これ以上ここに居て空気を掻き乱す必要も無い。










  そして俺はトレイターが先行しているある管理外世界へと向かう。




















  〜A’s to StrikerS〜
         Act.37「生ける屍」




















 「さてさて、目の前に見えるアレが例の物件でございますかね」

 「ああ。何か、とまでの特定は済んでいないが古代ベルカの遺産をあそこで違法研究している事だけは確実だ」




  俺の隣りにはトレイター、そして見下ろす眼下には崖に囲まれた様に建つ一つの研究所が見える。

  それなりの施設らしく、大きさは学校一つ分程度か。

  日もすっかり暮れた中、土色の崖に囲まれて緑豊かな自然など一欠片だって見当りはしない。

  しかし中でも異色な、土色に混じらない白が一つ―――それが今回のターゲットである研究所だった。




  ―――作戦目標の確認。

  古代ベルカの遺産を違法研究している施設のデータ、及びその実物の回収。

  可能であれば研究員の捕縛も行いたいらしいが……それにしては俺とトレイターの二人はちと厳しいんじゃなかろうか。

  が、カリムもそこまで期待はしていないだろう。

  今の時期、別の事に人員を回しているから遺産の回収だけでも済ませたいと言うのが本音だろう。

  だがまあ遺産さえ回収できたのなら後でどうとでも理由を付けて人員は回せる。

  なので今回はできるだけ穏便に遺産とデータを回収するのが目的になる。




 「バカ正直に正面から押し入っても良いんだが……後々が面倒だよなあ」

 「変に抵抗されるよりはスムーズに仕事をこなせる方が良いだろう。侵入ルートの目星は付けてある、来い」




  流石はトレイター、こういった情報収集の類じゃ右に出る者はいない。

  トレイターの後に続く形で崖を降り、研究所へと近づく。

  あいつの事なのでまず無いだろうが、一応は周囲にサーチを掛けておく。

  もしも変なトラップや監視装置を見逃していたらシャレにならないからだ。

  隠密行動を取っているというのに敵の本拠地に到達する前から見つかるとか本末転倒にも程がある。




  まあその心配も杞憂に終わった訳だが。




  トレイターが手をかざすだけで電子ロックがピーという音を立てて解除される。

  研究施設の裏口らしき場所。

  監視カメラの回線をちょっと弄って機械の目を誤魔化したトレイターはそのまま悠々と開かれた扉の向こうへと歩を進めていく。

  無駄に優秀だなほんと……




 「で、今度はデータルームかそれっぽい場所と研究室を探す訳だが……」

 「データルームなら先程のカメラの回線を辿ればすぐだ」




  おそらくは既にこの研究施設の回線を把握したのであろうトレイターはデータが集中する場所へと迷い無く突き進む。

  そのまま人らしい人と遭遇する事無くデータルームらしき扉の前まで辿り着いた。

  一応、バリアジャケットを纏っておく。

  トレイターから目で合図―――首肯で返す。

  それを見たトレイターがロックへ手をかざし……扉が開いた!




 「ん……っ、誰だ貴様r」

 「お休みなさいっ!!」




  扉が開いた瞬間、中にいる人影を確認した時点で駆け出した。

  一気に接近して首を支点に手刀を叩き込む。

  バキィ、と何かヤバ気な音が響く。

  軽く脳震盪が起こり、まともに意識を保っていられなくなった男は倒れた。

  というか手応えと音からしてかなり不吉な……やりすぎた?




 「あー、心配するな。せいぜい丸二日意識を失う程度だろう―――当たり所が悪かったな、あと1cmずれていたのなら致命傷だ」

 「悪すぎるわっ!?」




  こ、こええ……これからこの手段は止めておこう、危険すぎる。

  事件解明に向かったところが逆に事件を起こすとか……ミイラ取りがミイラになるところだった。




  ちょっとびくびくしている俺は放置してトレイターはとっととデータバンクの解析に向かう。

  目を閉じ、その手が端末に触れると同時、トレイターの周囲に空間パネルが無数に展開された。

  大小様々なパネルの中ではデータが恐るべき速度で流れていて、とてもじゃないが人間に理解できるような速度ではない。

  電子の魔女、とでも言えば良いのだろうか。

  人である限り、電子戦でこいつに敵う相手など俺は想像できない。




  やがて、周囲に展開していたパネルが一つずつ消えていく。

  最後の一つが消えた時、端末に触れていた手を離してトレイターは目を開いた。




 「んで、成果の方は?」

 「ここの研究データとセキュリティの把握、連絡経路やこの研究施設の構造といったところか」

 「ようするにログ含めてバンクの中身全部ね。そんだけの容量が入るのもビックリだがそこまでなんなく出来るお前も怖いわ」

 「何を今更、これをそういった方向に利用し始めたのはお前だろうに」

 「そらそうだ」




  さて、構造も完全に把握してセキュリティも掌握した以上は遠慮する必要はない。

  後はここにいる奴等を逃がさない様に―――




  と、そこで突如この研究施設を轟音と震動が襲った。




 「ちょ、何だこれっ!?」

 「まさか……!」




  震動と轟音が収まらない内に今度は警報が鳴り始める。

  ビー、ビー、と赤いランプが施設内を真っ赤に染め上げる。

  Emergency―――つまりは、緊急事態。




 「私達以外にここに来ている者がいるらしいな―――!」

 「くそ、よりにもよって襲撃と鉢合わせるたあ運が無いな我ながら……」




  とにかくもたもたしている暇は無くなった。

  最優先事項は襲撃犯より先に古代ベルカの遺産の確保!

  となれば……




 「お前はとっとと対象を回収して来い、データはクラウソラスの方に送っておいた」

 『complete』




  トレイターは俺の考えを見通して既に行動を起こしている。

  ならば、俺のやるべき事は一つだけだ。




  踵を返して走り出す。




 「襲撃者の足止めは頼んだ。その間に俺は対象を回収してくる」

 「任された」




  言うが早いか二手に分かれて走り出す。

  それと同時にクラウソラスからマップデータが表示された。




  セキュリティはトレイターのお陰で俺をスルーはするが……ここにいる奴らとの遭遇は避けられないだろう。

  ならどうするか?

  ……決まってる。

  俺が出来る事など、元から限られている。




 「む、居たぞー!」

 「へっ……」




  前方にこの施設に警備員らしき者達が現れる。

  そう、俺が出来る事など一つだけ。

  向かってくるのであれば―――




 「正面から斬り伏せる、いくぜクラウソラスッ!!」

 『Yes, my master』




















                    ◇ ◇ ◇




















  真っ白い通路を、まっすぐに歩いていく。

  目的地までの道順は予め教えられているから、迷う事も無い。

  だけどその場所まではそれなりに距離があった。

  外ではここの人たちを引きつけてくれている人が居るけど、あんまりのんびりもしていられない。

  かといって、走る気にもなれなかった。

  何故? と問われると慣れていない、というのが理由に挙がる。

  普段からあの子達に移動を頼っていたから、走るのはちょっとだけ、苦手。

  ならあの子達を喚び出した方が早いんだけど、こんなに狭いとあの子達が窮屈な思いをしちゃうから、ダメ。

  だからなるべく急いで、まっすぐ歩く。




  と―――バタバタと慌ただしい足音が通路の先から聞こえてきた。

  警戒して、思わず足が止まる。

  ここの人……?




 「くそ、何でセキュリティシステムが全てダウンしているんだ!」

 「それより襲撃者は、現状はどうなっている!」

 「通信によると外には男が一人、中にも男が一人いるらしい」

 「侵入を許していたのか、くそ……!」

 「中の方はまっすぐ研究室を目指しているそうだ! 急げよ……!」




  よっぽど急いでいるのか、私に気付く事無く、あの人達は少し先を横に走っていった。

  けど、中に居るのは私なのに、何で男の人なんだろう。

  私、女の子……




 「……」




  ……特に気にする事でもなかった。

  止めていた足を再び動かす。

  急がないと……




 「ぬ、こっちに―――子供!?」

 「……邪魔」




  歩きだした矢先、さっき人が通った所で、ここの人に見つかった。

  だけど一人だけ。

  なら、問題は無い。




  私は、大切にしている一つの名前を呼ぶ。




 「ガリュー」




















                    ◇ ◇ ◇




















 「ったく、流石に数が多いな……!」

 『よっぽどな物を仕舞い込んでいるんでしょうかね。何せ古代ベルカの融合騎の様ですし。もう一つあるようですが』

 「二つあるのかよオイ……」




  融合騎―――要はユニゾンデバイスだ。

  俺のトレイター、はやてのアインとツヴァイの様な、主と文字通り融合しその戦闘力を高めるデバイス。

  独立した自我と思考を持っており、インテリジェントデバイスの延長線上にある様な物とも言える。

  が、それはインテリジェントデバイスより遥かに高度なものだ。

  確固たる自己意識と価値観の確立、自らの思考と感情。

  それはもはや一概にデバイスと言うよりはむしろ人のそれに近かった。

  もちろん、デバイスである以上はデータ上でのトレイターの身分は俺の”所有物”扱いだ。

  人権などあって無い様なもの―――人としての尊厳を与えられてはいるが、それでも根本の扱いはやはり”道具”だ。

  主人と従者、という関係にもそれは言えるのだがトレイターの責任は俺に強追く圧し掛かる。

  上下関係から成る連帯責任―――上である俺に風当たりが強くなるのは当然だ。

  そしてそうなれば、どこかで誰かが必ず言うだろう。




  “所詮道具だからだ”、と―――




  だがあいつは人間を知っている。

  知っているからこそ、下手な人間よりよっぽど人間らしい。

  俺もそれを知っているから、あいつを道具として見る事などできる筈も無かった。

  それに、あいつとはガキの頃からの付き合いなんだ。

  道具云々以前に家族の様な者なのだ。




 『と、物想いに耽っている間に射撃の雨が』

 「ええいホントに無駄に人数多いなっ!?」




  一本道になっている通路の突当りから複数の光線が俺目掛けて突撃してくる。

  流石に射撃全部を体で受ける様な馬鹿をやるつもりは無いので適当な横道に入ってそれをやり過ごす。

  が、このままじゃ膠着状態だ。

  俺が飛び出してくるかどうかを窺っている相手は、男がおおよそ4人ほど。

  少し距離があって、最大速度で駆け抜けたとしてもこの狭い通路じゃどうしてもダメージを負ってしまう。

  かといってここでみゃみやたらに飛び出すと蜂の巣にされてジ・エンドなんだが……




  だが、そんな道理をひっくり返すからこその『魔法』だ。




  点と点を結ぶ。

  目には見えない11次元、そこに道を造り出す。

  俺にとって次元の壁など無いに等しく、『俺』という独立した世界は当たり前の様にそこに存在する事を許される。

  故に、俺に距離など関係ない。

  俺がそう思い描いたのならば、俺は確実にそこにいるのだから―――!




 「と言う訳でこんにちはっ!」

 「なっ、何時の間―――ッ!?」

 「だが遅いッ!!」




  有無を言わさずに柄尻を男の鼻っ面に叩きこむ。

  そのままそいつの頭を空いている左手で掴んで隣りに居たもう一人の男の顔面に思いっきりぶつける。

  脳への衝撃と痛みでドサリと倒れ伏す男二人。

  これで二人が戦闘不能―――残る二人は反対側だ。

  流石に向こうも対応し始めて俺に向けて射撃を行ってくる。

  その軌道は単純にして直線。ならば避ける事も簡単だ。

  天井めがけて一気に跳ぶ。




 「くっ……!」




  相手がすぐさま標準を変更するが関係ない。

  そのまま体を半回転させて―――天井を思いっきり走った。




 「な、何ぃ!?」

 「ボサッとしている間に一撃ッ!」




  人としては余りにも奇怪な動きに不意を突かれた相手は一瞬動きを止める。

  その間に距離を詰めて真上からの踵落としを脳店へお見舞いしてやる。

  ゲシッ、と小気味の良い音を立てて命中した踵落としは確かにその効果を発揮し―――そのまま男はふらりと倒れた。




 「く、このぉ!!」




  そのすぐ傍にいた男がデバイスを振り上げて襲いかかってくる。

  が、ミッド式の使い手なだけに近接戦闘は不慣れな方なのかその動きはがむしゃらだった。

  真正面から受けるまでも無く、股間に一蹴りお見舞いしてやる。




 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」




  男は股間を押さえて悶絶しながら倒れた。

  まあ臓器を皮膚越しに直接蹴られた様なもんだからなあ……その痛みたるや想像を絶するものなのだろう。

  俺は間違ってもその痛みを体験したいとか知りたいとかは思わないが。

  さて―――




 「目的地はここで間違いないかね」




  目の前にある扉に面と向かって立つ。

  クラウソラスのナビに従ってここまでやって来たが、それに間違いが無いのならここが目的地の筈である。

  扉は電子ロックによって閉ざされているらしく、すぐ横に端末があった。




 『間違いないです。まあそれも彼女のマップが間違っていなければですが』

 「はは、それもそうか」




  言いながら電子ロックに手を翳す。

  研究施設らしく厳重なロックはあるらしいが……トレイターの前ではそんな物は無意味だ。

  ハッキングの際に既に認証登録を済ませていた俺のデータに応じて扉はすんなりと開いた。

  ウィーンと音を立てて機械的にスライドする白い扉。

  その向こうには―――機材だらけで研究員らしき奴らが慌ただしく走りまわっている部屋があった。




 「なっ……!」




  何人かが堂々と入ってきた俺を見て驚愕の視線を向けるが、そちらに関心は無い。

  俺の視線はただ一点、この部屋の更に奥―――広い空間の奥、その中心の何かに張りつけられている”モノ”。

  遠目から見ても分かる。

  間違いなくアレが……今回のターゲット。

  古代ベルカの時代から形を保って残る数少ない融合騎の内の一つ。

  というか、ホントに小さい。




 「どっかの誰かを思い出す小ささだなあ……っと、さて」




  とっとと目的を果たすとしよう。

  クラウソラスを目の前を塞ぐガラスに向けて構える。

  俺の一挙一動に研究員たちは身を竦ませて成り行きを見ているだけだ。

  おそらく、研究員自身が戦闘能力を持ち合わせていないのだろう。

  そんな思考を片隅に魔力を刀身に通す。

  それを目の前のガラスへ向かって振りかぶり―――そのまま魔力波として叩きつける!




 「ふっ!」




  放たれた魔力が目の前のガラスを纏めて吹き飛ばす。

  ガシャンという豪快な音と共にガラスが全て砕け散り―――同時に奥の壁がゴドンッ、という轟音と震動と共に吹き飛んだ。

  急な出来事に少しだけ動きが止まる。

  音の発生源から足音は―――二つ。

  二つ、となると確実にトレイターのものではないだろう。

  そうすると状況から考えられるのは襲撃犯だが……




 「……見つけた」




  そうして、吹き飛んだ壁の向こうから現れたのは小さな女の子だった。

  黒いゴスロリちっくな服に、紫の長髪、赤い目。

  辺りを見渡す眼には感情の揺らぎが見て取れない。

  そしてそれ以上に目立つのがその女の子の隣に立つ存在。

  筋肉質な肉体に、それを覆う黒い甲冑。

  もしくはそれすら体の一部なのだろうか……手の指は五本あるが、足の方は前に大きな爪が二つ、後ろに一つ付いている。

  極めつけには尻尾が生えており―――顔はどう見ても人のそれではなかった。

  角ともトゲともつかぬ突起物が左右四つずつ。赤く光る眼も見事に左右二つずつの計四つ。

  首に巻かれた紫のマフラーらしき物が目を引く。

  女の子に付き従っているところを見ると、おそらくは女の子が使役しているのだろう。

  人が使役する人ならざる生物―――つまりは、使役獣。

  ザフィーラやアルフなんかが該当するんだが、こいつは一体何なのだろうか。




 「……」




  突然の乱入者その2に警戒して誰も動けずにいる。

  そんな緊張感などまるで気にせず、その女の子はぐるりと辺りを見渡して―――




 「……あ、男の人」




  ……俺を指差してそんな事を仰った。

  人を指差してはいけませんとお母さんには習わなかったのだろうか?

  そもそも俺だけを指して男の人とはどういう事か。他にも周りに居るだろうに……

  とりあえず同じ部屋に砕けたガラスを乗り越えて立つ。




 「貴方も、この子を?」




  と、女の子は今もぐったりとして動かない融合騎を指差して俺に言った……のか?

  見たところ間違いなく俺達とは別の襲撃犯だろう。

  トレイターほどの奴が足止めに失敗するとは思えない……となると、向こうも複数犯で二手に分けたか。

  そんで目の前の女の子の狙いも疑うまでも無い―――




 「―――あー、そーだな。俺としてもそいつを連れて帰らなくちゃいけねーんだわ」

 「……私は、この子を助けたい」

 「俺には任せられないってか」

 「今、連れて帰るって言った。助けるって、言ってない」




  ……どーしよ、なんか良い子っぽいんですけど。

  これでこのまま連れて帰ったら俺って悪者? まあ良いんだけど……

  どちらにせよ、動機が明確な以上はちょっとやそっとじゃ退き下がってくれそうにない。




 「そーか、無理か」

 「無理」




  一言でバッサリ切り捨てられた。

  こう来るともう強硬手段しかない―――女の子には悪いが転移魔法使ってさっさと確保させて貰おう。

  クラウソラスを構えて牽制する。

  俺の動きに敏感に反応して女の子の使役獣も戦闘態勢に入った。

  だが、今ばかりは俺に集中するのは命取りだ。

  悪いが不意を突かせて貰おうか―――




 「くっそ、ふざけるなァァァあああああああァああァァあああああッ!!!」

 「ッ、何だぁ!?」




  俺の侵入経路―――先程侵入した多くの機材が置いてある部屋で一人の男が拳をコンソールへ叩き落した。

  バギン、と何かが割れるような音と同時にけたたましい音が響き始める。




 「うっさ……!」

 「ぅ………何?」




  余りにもの大音量に俺も女の子もその使役獣も思わず耳を押さえる。

  その瞬間に融合騎が張りつけてあった場所に変化が起きた。

  ガシャンと音を立てて鋼鉄のフレームが融合騎とそれを張り付けていた台座の姿を隠してしまう。




 「げっ……!」

 「っ、ガリュー」




  それを見た女の子が素早く使役獣に指示を飛ばす。

  ガリュー、と呼ばれた使役獣はその背から翼を広げ一気に最大戦速で鋼鉄のフレームへと肉薄する。

  右腕から鋭い刃を伸ばし、それを鋼鉄のフレームへと叩きつける―――!

  ガィンという鈍い音と火花が散る。

  繰り出された刺突とフレームが軋む様な音を上げて拮抗するのものの、徐々にガリューの勢いが弱まる。

  直後、何かがずれたかの様な音が響くと同時にガリューが大きく後ろへ弾き飛ばされた。




 「……大丈夫?」

 「―――」




  呼びかけには戦闘態勢を続行する事で応えられた。

  ただ一度攻撃を弾き飛ばされた程度では奴の戦意は衰えない様である。

  そしてその間にも次々とフレームがフレームを覆っていき、やがて一つの鋼鉄の塊が現れた。

  高さ2m、全長としては3m程だろうか。

  左右三つずつの可動式アームに所々に取り付けられた砲身の様な物。

  中央にはカメラアイが見受けられる。

  黒々としたそのボディはまさに―――




 「多脚戦車というところかねえ……いずれにせよ結構ヤバそうな質量兵器だな」




  ギュイン、とカメラアイがこちらを向く。

  真っ赤なレンズの奥には俺の姿が映し出される。

  ゾッとする。

  無機質なレンズには何の感情も感慨もない。

  ただ狙うべき、殺戮すべき標的をその視野に収めているだけ。

  そして10を超える方針が一斉にこちらへと振り向き―――!




 「ちぃっ!」




  カメラアイがこちらを向くのを確認すると即座にそれから逃れる様に横へと駆けだす。

  俺が射線軸から逃れる様に駆け出すのを引き金に全ての砲門から一斉に弾幕が張られた。

  一瞬前まで俺がいた場所を殺人的な速度で貫いていく弾丸。

  大きい物から小さい物まで大小様々な鉄の塊が容赦なく俺目掛けて襲いかかってくる!




 「くっそ、ホントに弾幕だなくそったれ……!」




  銃弾は所構わず俺に向かってがむしゃらに発射されてくる。

  俺に当たらずに後ろの壁へと殺到する銃弾の嵐は呆気なく壁を粉々に粉砕し瓦礫の山を作り出していく。




  いくら俺が魔法という超上的な力を持っているとはいえあんな機関銃などが脅威であることに変わりは無い。

  なのはやユーノ、ザフィーラなどの様に防御がかなり硬い奴ならばあまり問題は無いだろうが一般の魔導師などはそうはいかない。

  魔法という力があろうが質量兵器は容赦なく、容易く人の命を奪う事ができるのは全く変わらないのだ。

  むしろ魔法の力に胡坐を掻いて質量兵器に対する危機感を薄れさせている奴もいるのが現状だ。

  防御の薄い俺などそれは特に顕著に感じられる。

  あの威力をアレだけの数も受けるなど致命傷を通り越して即死だ。

  まともに受けてしまえば後には原形を留めない汚い肉片程度しか残らない。

  今はまだ避ける事ができてはいるがすぐに射線軸に捉えられるだろう。

  あいつは首の向きを変えるだけで射線軸を変えられるが、俺は円を描く様にして移動しなければ避けられない。




  単純な速度の問題だ。

  あちらの射線軸の修正の方が早い以上はすぐに捉えられてしまう。

  なら―――射線軸を遮れば良いだけの事!

  ブラストセイバーを形成―――これを!




 「う、らァッ!!」




  気合いと共に横へ一気に魔力刃を振り抜く。

  物質と接触した魔力刃は触れた先からそれに反応し爆発を起こす。

  まるでダイナマイトでも爆発したかのような爆音が起こり、それと共に爆破された床が瓦礫となって吹き飛ばされる。

  それは瞬く間に迫る銃弾を防ぐための壁となり、その尽くを弾き防ぎきる―――!

  だがそれも一瞬。

  いくら瓦礫の壁とはいえ所詮は爆発によって吹き飛ばされた物。

  その力が無くなれば後は重力に従って瓦礫のまま床へと落ちるしかない。




  だが俺にとって、その一瞬こそが攻撃のチャンスというだけの話だ。




  転送魔法を起動すれば、もう目の前には鋼鉄のフレームが存在した。




 「―――」




  キュイン、と先程まで俺が居た位置を見ていたカメラアイが不可思議な現象に挙動が鈍る。

  その隙で充分。

  剣を両手で上段に構え、一気に振り下ろす。

  狙いは6つある脚の一つ。

  全力を以って脚を両断するために剣は振り下ろされ、




 「っ、硬―――!?」




  だがしかし、それでも装甲を斬り裂くには至らなかった。

  装甲の硬度に切断力が追い付かず、鈍い音を立てて弾き飛ばされる。

  それにようやく反応したように機体の下部に取り付けられた小さな機関砲が照準を俺へと向ける、

  即座に人では到底真似する事ができない速度で次々と銃弾を発射する機関砲。

  人の体でそれを受ければ普通は体に次々と穴が空くところなのだが、それは当たればの話だ。

  速度的に追いつかないのならば当たらない箇所に行けばいい。

  つまりは―――機体の上部へ。

  数々の重火器が機体には備え付けられているがそれが直接機体に接敵された際に対応する様な兵装は見受けられない。

  しかしだからといって何もせずに黙ってはいない。機体の方も滅茶苦茶に動いてどうにか俺を振り落とそうとする。

  が、それなりにでかいガタイが災いして俺に少々の移動スペースを与えてしまっているのがダメだった。

  そちらへ体を移動させる事でどうにかバランスを保ち、機体へとしがみつく。




  さて、こいつの装甲はかなり硬い。

  一応潰せない事も無いが、その場合は加減が効かずに機体自体が大爆発を起こすだろう。

  内蔵してある火薬にも引火するだろうから規模なんて考えたくもない。

  そしてそうである以上、機体を破壊した瞬間に内部に捕らえられている融合騎を救出なんて器用な真似には俺には出来ない。

  せいぜい俺がその場から離脱するのが精一杯だろう。

  俺一人では不可能。トレイターがいるなら話は別だがそれもここにはいない。なら―――

  迷っている暇は無い。ぐずぐずしていたらここにいる連中に逃走の時間を与えてしまう。

  だから―――




 「(おいチビッ子、聞こえるんなら返事しろっ!)」

 「(……何?)」




  念話を飛ばすと若干不機嫌そうな声が返ってきた。

  が、一応話を聞く気はあるらしいのでそれで良い。その他は今は度外視する。




 「(お前、ここに捕まってる融合騎を助けたいんだよな?)」

 「(……そう言った。それが、どうかした?)」

 「(だったらタイミングを合わせろ。俺が邪魔な装甲を潰すからその瞬間には中にいる融合騎を掻っ攫えるようにな)」

 「(……攫わない、助ける)」

 「(どっちでも良いから協力しろ、余り時間もねえんだ!)」




  暫く間が空く。

  その場に使役獣を従えて状況を窺っていた少女は少しの間逡巡し、




 「(……分かった)」




  やがて承諾の意を返してくれた。

  これで心おきなく俺は俺の行動に移る事ができる。




  未だに激しく機体の上で、クラウソラスの柄尻―――不自然に飛び出ている菱形の突起物を左手で握る。




  ―――3年ほど前、ケーニッヒとの戦闘でボロボロになった際、クラウソラスは改修を経て大幅に強化された。

  その際に色々とオーダーが付けられたようで、性能は以前のと比べて格段に上昇している。

  だが改修直後ではまだ完成していない部分があった。

  シャーリー曰くの秘密兵器―――完成が遅れていた件のオプションパーツ。

  何しろ素材が素材なだけに加工や入手がえらくデリケートだったのだとか。

  場に満ちた魔力を吸収し、蓄積する特殊な金属。

  それがオプションパーツの基本的な素材となった物。




  握った突起物を、そのまま、鞘から剣を引きぬく様に―――




  自然物である以上、その魔力の蓄積は自動的に行われる。

  もしもそれを何らかの形で操れるようにすれば……?

  答えが、コレだった。










  俺は柄から、新たに剣を引きぬいた。

  出てきたのは一本の短い棒。

  一見すると警棒の様な形をしているそれには特殊な術式処理が施されている。

  それを起動する。




  術式自体は単純なものだ。

  蓄えた魔力を放出し、固定化する事。ただそれだけ。

  だから―――この一本の金属棒から放出される魔力は、一本の剣の形を取ったのだ。




 「せいっ!」




  左手に握った剣を振り下ろす。

  直接装甲を狙えば弾き返される……なら、狙うは関節!

  振り下ろした魔力刃を、中でも駆動部分が露出している個所へ叩き込む。

  いくら装甲を硬くしたとはいえ駆動系の最低限の部分の装甲は性質上どうしても薄くなる筈。

  物質として固定化された魔力は狙い通り薄い装甲を斬り裂きながら駆動部分へ食い込み、その動きを阻害した。

  異物が挟まった事により機体の動きに統合が取れなくなり体勢を崩す。




  そして俺は、こいつの装甲を叩き潰すために機体上方へと跳び上がる。




 「クラウソラス、フェームディフェンダー」

 『Defender form』




  振り上げたクラウソラスがその形を変える。

  それまで展開していた刀身は姿を消し、そこ代わりに現れたのは剣としては異常に大きな刀身。

  俺の身長以上はある刀身はその長さにして2m。

  更にその幅にして50cmはあろうかというゲテモノ的な剣と呼ぶにはあまりにも鈍器であるソレ。

  どちらかと言えば盾と言われた方がしっくりくるソレの重量にしておよそ500kg。

  普通は持ち上げる事など不可能。そもそもこれは持ち上げる事など考慮に入れていない。

  だから出来る事といえば目の前にこれを展開して壁にする事か―――こうやって空中から落とす程度だ。

  だから人が振り上げるにはあまりにも無謀な重量のそれを構え―――狙うは融合騎が捕らえられているであろう部分。

  そこへ目掛けて、




 「潰れ、ろッッ!!」




  叩き下ろす―――!!




  重量と、加速と、筋力と、質量と、ありったけの力を込めて巨大な鉄塊を振り下ろす。

  矢の様に迫る攻撃に機械は反応する事は出来ない―――いや、動けない。

  俺がさっき駆動部分に無理矢理斬り入れたもう一本の剣が動こうとする機体を阻害しているからだ。

  そして剣が振り下ろされる。

  ただし今度の攻撃は斬る事ではない。

  斬るのではなく、潰す―――斬る事が難しくなった代わりに、叩き潰す事に関しては俺の中で最大の威力を発揮していた。

  自身の耐久力を遥かに超えた超重量を叩きつけられて機体のボディが悲鳴を上げる。

  だがそれも一瞬。すぐにトラックでも転倒したかのようなけたたましい音と共にボディが拉げる。

  身を守る物が無くなった内部機構も寸断なく圧砕され、両断される。

  ゴドンッ、と鈍い音を立てて剣が床にめり込んだ。

  即座に転移魔法を起動する。その瞬間に目の前を駆け抜ける一つの影。

  同時に火花を散らす機体の残骸―――目を焼くかのような閃光が迸る。










  そして、研究所の周囲すら揺るがすほどの大爆発が起こった。










  響く轟音、揺れる研究所。

  だが視界を覆う閃光と爆煙や炎などは一切無く、ただ音と振動のみが伝わってくる。

  この部屋自体は全くの無傷だ。

  たださっきの機体だけが綺麗さっぱり消えてなくなっている。




  物質化された魔力の帯でクラウソラスの柄尻と繋がっていた剣を回収する。

  巻き尺が収納される様に帯は縮んでいき、剣も柄尻へとガチンと音を立てて収まった。




 「……消えた」

 「転移魔法で外に放り出しただけだ。こんな所であんな大量の爆薬が一気に引火したらそれこそ全員纏めてあの世行きだし」




  空間自体は結構広いがそれでもかなり閉鎖された空間だ。

  あれだけの銃弾を撃ちまくっている以上は火薬の量も尋常ではない筈。

  それが一気に引火してしまえばまず確実にここら一体の酸素が一瞬で燃え尽きて灼熱地獄がこんにちは、だ。




  いつの世でも、どれだけ人が力をつけようとも、危険な物が危険である事に変わりは無い。

  管理局もそれを分かっているから闘争手段の魔力化を推し進めているんだろうが……俺が口出しする様な事でもない。

  なのは達の様なランクAオーバーが管理局側に多い内はまだ良いだろう。

  だけどそんな物を望まない奴っていうのはいつの世にでも必ず一人は出てくる。

  例え今は息を潜めていようとも、いつか必ず……




  脳裏を幾人かの顔が過る。

  そう遠くない内に、大きなうねりがある気がした。




 「さて、と……そいつはどうする」




  研究員達は放心していて害は無さそうなので目の前の女の子に話しかける事にした。

  そいつとは言うまでもなくいつの間にかチビッ子の腕の中に収まっている融合騎の事。

  しかしながら返ってきたのは予想通りの無言。

  こっちをジッと見上げてきて何だか居心地が悪い。




 「(陣耶、そこから3歩ほど前に動け)」

 「(は?)」




  突如の念話、トレイターからだ。

  何事かと思い―――上方から魔力反応を感知、絶対に撃ち抜く気満々だと理解した。

  あいつの事だ、3歩前に進めば被害は来ないだろうがその位置にはちょうど女の子。

  これはわざとかね? とか思いつつも女の子を抱えて速攻で移動。

  一瞬後に俺のさっき居た位置を特大の砲撃が撃ち抜いた。

  次から次へと変化する状況に連いて行けずに研究員達が軽くパニックを起こしているが放っておく。

  機材などはさっきの戦闘の巻き添え喰って粉砕されてしまっているので問題は無いだろう。




  で、女の子を下ろしてそこを見れば予想通りその場にはトレイター―――だけでなく、えらく渋い槍を構えたオッサンが居た。

  おそらくはベルカ系の騎士だろうか……立ち昇る闘気はそんじゃそこらの奴のモノではない。

  魔力からして少なくともAAクラス以上はあるだろう。




 「さて、お前の所に引っ張ってきた方が話は早いだろうと思ったんだが……予想外の面子が居るな」

 「そりゃこっちのセリフだ。ていうかお前が手傷負うとかどんな化け物だよそのオッサン」




  トレイターの纏う白いバリアジャケット、その左腕の部分が大きく裂けていた。

  見れば男性の方も纏っているコートに所々破けた後が見て取れる。

  が、二人とも全く疲労した様な様子は見せていない。

  男性の方はまだまだやれると言わんばかりの気迫が見て取れ、トレイターも涼しい不敵の笑みを崩さずに相手を見据えている。




 「……ゼスト」

 「ルーテシアか……」




  しかもこのチビッ子向こうのオッサンと知り合いらしい。

  やっぱ同じ襲撃犯か……場がどんどん収拾がつかなくなってきた気がする。

  さて、状況を見てみよう。なんかヤバイ気がする。




  チビッ子とオッサンは仲間→チビッ子の隣の物騒にも剣を持った俺→トレイターのさっきの発言。




  はい、どー見ても俺が悪者ですねコンチクショウ。

  というかトレイターのヤロウ状況をややこしくしやがって……

  ひとまずこの状況で暴れられても困る。どうにかしてトレイターだけでも状況説明して大人しくさせねば。




 「あー、トレイターまてマテ待って、ちょっとストップ」

 「む、何だ良いところだというのに」




  だったら俺まで巻き込むなという言葉は呑み込んでおく。

  とはいえこれ以上場が混乱するのはいい加減に収まりがつかなくなるので二人の間に割って入る様に仲介しに行く。

  男の方も俺がチビッ子から離れた事で一応はいきなり襲いかかる様な事も無いと判断したのだろうか。

  武器こそ納めないものの話を聞く気くらいは出たらしい。




 「さて、見ての通り俺はこいつの仲間でアンタの足止めをして貰っていたんだが……あんたらの目的もあいつで間違いないのか」




  チビッ子に抱えられた融合騎を指差す。

  男はそちらに視線を向けた後、一言だけ……そうだ、と答えた。

  それを聞いてから再び質問のために口を開く。




 「じゃあもう一つ、俺達は聖王教会からの依頼であいつの保護を頼まれた訳だが―――あんたらもその類か?」

 「事のついでだが、これはあの子の個人的な望みだ。実験体として囚われている融合騎を助けたいと、な」

 「―――ご立派なこって」




  しかし事のついで、ねえ。

  こいつとは別の何かがここにあったという事か……後でトレイターにでも聞けばいいか。

  が、問題は目の前だ。

  俺にも仕事があるからなあ……チビッ子の優しさは見上げたもんだが俺にはそんな純真さは無い。

  ガキの頃ならともかく、今じゃ仕事を引き受ける身だ。




 「俺としては仕事の事もあるしそいつを保護して帰りたいんだが……」

 「……そこでもまた、実験動物?」




  と、そこで今まで黙っていたチビッ子が口を挟んできた。

  助けたい、と言ったからには確かにそこは重要な判断基準足り得るだろう。

  が―――




 「生憎とそこまでは俺の管轄外だ。流石にここほどけったいな事はしないだろうが……まあ多少のデータ収集くらいはされるだろ」

 「そう―――」




  そこからのチビッ子の行動は実に迅速だった。

  右手を翳し、複数のダガーの様な物を形成する。

  まるでガラスが響くかのような音を立てて展開される魔法陣の色は紫、形式はベルカ。

  そして魔力が物質化されて生み出されたダガーは―――俺に向けて撃ち出されたッ!




 「おわっ!?」

 「酷い事をするなら―――連れて行かせない」




  とっさにバックステップで回避するがチビッ子には明確な敵意が見て取れる。

  なんか腕の中の融合騎も心なしかチビッ子の腕を掴んでいる様にも―――




  やっぱそーなりますか……正直者過ぎるのも考えモノだねえ。

  こんな場面でも嘘をつかない俺エライぞ。

  とか言ってる場合ではなく、割とシャレにならない量のダガーが俺に向けて射出される。

  あーもう結局こうなりますかねっ!




 「トレイター!」

 「了解だ」




  トレイターが俺の前へ躍り出て防御魔法を展開する。

  ダガーはトレイターの張った防御魔法に阻まれてそのまま消滅―――ではなく、その場で爆散した。

  おっかねえ……アインのブラッディとかと同種のやつか。

  別の位置にいた男に視線だけ向けると既にチビッ子に向けて動いている。

  牽制としてブラストセイバーを形成、男の1cm手前程度の床に振り下ろす。

  衝撃を与えられた魔力刃はプロセスに従って爆発を起こす。

  響く轟音と共に爆煙が男の姿を隠し、その姿は見えなくなる。

  チビッ子は一瞬だけそちらに目を向けるがそれも一瞬だけ。すぐさまに俺達への射撃を再開した。

  そしてそれに応えるように男が爆煙の中から姿を現す。




 「っ、存外タフなのね……流石にトレイターと渡り合うだけの事はあるってかッ!」




  もう一度ブラストセイバー、今度は横薙ぎに振り払う。

  だが同じ手は喰わないとばかりに男は姿勢を低くし、攻撃を避けながら更に加速した。

  そのまま突風の様にチビッ子を横から回収、さっきチビッ子が空けた大穴へと消えていく。




  …………………………はあ。




 「逃げられたか……」

 「手を抜いていたな? 全く、困った主を持ったものだ」

 「諦めろ、俺は元からこんなんだ」




  一応妨害はしたという大義名分は得たし、これで良いだろ。

  事後報告なんて監視されていないからどうとでも誤魔化せるし……いらん恨みを買うのも御免だし。

  多少買ってしまった気がするが本気であいつを無理やり保護するよりかはマシな筈だ。

  ぶっちゃけ二度と会う事も無い様な気はするが―――我ながら難儀な性格をしているものである。




 「まあいーや、ここの奴ら全員簀巻きにするぞトレイター……どした?」

 「いやなに、もう一つの収穫を見せておこうと思ってな」




  何の事だと言おうとすると俺の目の前にずいと差し出された物体が一つ。

  紅い色をした何かの結晶―――

  この形は、確か、




 「レリック、だったか……? 何でこんなもんがこんな所に」

 「今回の任務、おそらく融合騎は偶然だろう。本命はこちらのレリックと見た」

 「ああ、確かにありうる」




  カリム―――いや、あいつらはレリックを追って動いている。

  俺もある意味ではレリックを追っているのだが……なるほど、今回の情報はその線からか。




 「こっちが本命ならこれで何とか言い訳も立つか……何も収穫がありませんでしたじゃ流石にな」

 「一年間大人しくしていたと思えばすぐこれだ。いい加減に首が飛ぶな」

 「うえ……」




  と、空間パネルでデータを見ていた視界にふと何かが写る。

  そこにあったのは幾つかの情報―――主にレリックとその運搬ルートについて?




 「ふむ? これ辿れば繋がりも……」




  と、そこで俺の目は一ヶ所を凝視してしまう。

  超高エネルギーの結晶体であるロストロギア、レリック―――その運搬ルートの一部。

  そこに写っていたのは、表示されていた情報は、




 「は、はは……何でもやってみるもんだな。こんな所で尻尾が見えるたあ……」




  目の前の情報が少し可笑しくて、乾いた様に笑いが漏れた。

  だってそうだろう、こんな間抜けな事でまさか尻尾が見えるとは……誰が思う?

  トレイターの優れた情報収集能力のお陰にしろ、やはり可笑しいものは可笑しかった。




 「は、はは……ははは、はははははは、はははははははははははは」




  ああ見つけた。

  やっと、見つけた。

  俺がこの三年間探し続けた、奴の影を、ようやく―――




 『オルセア第七地方 人造体研究施設 責任者:トレディア・グラーゼ』




 「逃がさねえよ……ぜってえに」




  記憶に残る煉獄の炎。

  それは消える事無く、俺の中で燃え続けていた。




  ずっと、ずっと―――





















  Next「Dead or Alive」





















  後書き

  またなっが……!

  よりにもよってまた通常の1.8倍のボリュームでお届けしました37話。

  stsの準主役でもあるルーテシア、アギト、ゼストの面々の登場です。

  とは言ってもアギト一言も喋ってねえ……

  そしてようやく尻尾を見せたトレディアさん。

  〜A's to StrikerS〜 そのクライマックスが始まります。

  ここまで来たのも感慨深いやら何やら……最初は16話程度で終わる予定の筈があれよこれよとの内にこんなんに。

  正直40話近くまで続くとは思いもしなかったw

  2話、長くて3話程度かな? その方が纏まり良いでしょうし。

  収まればの話ですが……戦闘ばかりなので無駄に長くなる可能性ががががが

  そういえばForceで魔導殺しやらゼロ・エフェクトやら素晴らしく気になるワードが続々。

  こ、これはもしや御神の皆様方の活躍フラグ……!? そりゃないか。





  暁の護衛〜罪深き終末論〜をクリア。

  個人的には概ね満足だけどやはりイマイチ物足りない……とりあえずもうちっと麗華を優遇してあげてw





  ではまた次回―――





作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。