ピ、ピ、と機械的な音だけが響く。

  白い部屋の中、様々な機械類に囲まれているのはランスターだ。

  ベッドに身を預け、体中の至る所に包帯が巻かれている。

  腕から伸びたチューブからは栄養分などが直接血液中に流されている。

  その姿は見るからに痛々しく、怪我の酷さを物語っていた。




 「一週間ほど時間は掛かると思うけど……ちゃんと安静にしていれば問題なく完治する筈よ」

 「そっか……」




  先の海鳴での事件の直後、重傷を負ったスバルとランスター。そして多大な魔力ダメージで昏倒したなのは。

  なのはの方は魔力ダメージによる気絶なので放っておいても勝手に回復するから問題は特になかった。

  だがスバルとランスターは物理的な損害を多大に被っていた。

  二人とも左腕の骨折、全身打撲、切り傷や擦り傷など体へのダメージは深刻だった。

  海鳴に居た他のみんなが手早く処置を施してくれたお陰で最悪の事態は免れたものの……




 「すまんなシャマル、忙しいだろうに急患運んで」

 「何で謝るの。私の仕事は怪我人の治療なんだから気にしないの」




  怪我の酷さの割に一週間なんて短期間で完治が見込めるのは一重に手早い処置と腕の良い医師―――シャマルのお陰だろう。

  プライベート回線を使って即座にシャマルに連絡を付けてスバルとランスターを運んだのだがベッドが空いていて良かった。

  ―――あてっぽい所はもう一か所あるが、出来れば奴の世話には二度となりなくない。




 「そんでスバルの方は―――」

 「事が事だから……ご家族の方にもキチンと事情は聞かないと」




  ―――スバル・ナカジマ。

  あいつは今、別の部屋でもっと大量の機械に囲まれて眠っている。

  その理由は……ランスター以上に扱いに注意を要するからだ。




  大怪我を負って内部が露出していたあいつの体は普通ではなかった。

  いくつものケーブル、人工筋肉、その他機械類……

  俗に人造人間、アンドロイドなどと言われるモノと思われるその体。

  そんな事は軽く周りに露見して良い事じゃない。

  人によるが迫害を受けたりする事もあるだろう。

  それを避けるためにも、今は別の場所で治療中なのだ。

  それに機械的な体ならばまともな治療で済まして良いのかすら疑問が残る。

  この事は確実に家族も知っている筈だ。

  機械の体―――単純な機械だけで出来ているならともかく、精密な機械はやはり定期的なメンテが必要だろう。

  ならばそれを行っている技師なりなんなりが居る筈なのだ。




 「まったく、次から次へと面倒事が……」




  ぼやいたところで何も変わらない。

  ただ陰鬱な空気だけが場を支配していた。




















  〜A’s to StrikerS〜
         Act.36「ある炎天下の昼下がり」




















  ロビーに出ると久しく見ていなかった奴を見つけた。

  後ろにちっこい妖精みたいなのと銀髪が目立つ19歳ほどの女性を引き連れているそいつは―――




 「よ、久しぶりだなはやて」

 「って、久しぶりてのんきに言ってる場合か! 自分は大丈夫なんか!?」




  久しぶりなだけに変に気を使わないよう自然に挨拶してみたんだが……相手はお気に召さなかったらしい。

  何やら不機嫌顔になって下から睨まれる。




 「心配しなくても俺がそう簡単に死ぬたまかよ。俺を心配するならその分を他の奴に回した方が賢明だって」

 「まったく……大きな事件があったからって心配したのに、自分は久しぶりに会っても変わらんなあ」

 「お前も心配性なのは変わってないな。何だなっさけない顔して」

 「はあ……訂正、性格悪くなった?」




  失敬な、場を和ませようとしたというのに。

  はやての後ろに居る奴らなら分かってくれるかと思ったが、二人して大仰な溜息を吐かれた。

  むう、何がダメだというのだろうか。




 「で、お前がここに来たのは単にお見舞いって訳でもないんだろ」

 「……そやね。じゃあ」

 「ああ、場所変えて話そう」













































 「……これが、今回の事件のあらましだ」

 「―――そっか」




  所変わって病院裏。

  アインに防音結界を張ってもらって、その中で俺ははやてに概要を説明した。




  海鳴に突如展開された結界、現れた闇の書事件に関わった者達のコピー。

  正体は闇の書の闇、防衛システムの残骸。

  再生の中核を成していた構成体の出現。

  スバル、ランスターの負傷となのはの敗北。

  そして、俺達の目の前に現れた三体の構成体はいずこかへ去って行った。




  正直、はやて―――いや、八神家には非常に重い話だろう。

  終わったと思っていた闇の書事件、それが再び姿を現したのだから。




 「資料はエイミィさんが持ってる。詳しくはそっちを当たってくれ」

 「ん、分かった」




  事が事なだけにはやての顔も消沈気味だ。

  普段はあそこまでしたたかなくせに弱い部分を突かれると途端に崩れる。

  闇の書事件の部分はこいつにとってはかなりのウィークポイントだ。

  責任感が強い分、余計に背負っている。




  まったく……

  らしくないので、右手で頭をわしゃわしゃとしてやる。




 「うにゃっ、ちょ、何すんやっ」

 「らしくねーっての。教会には俺の方が言っておくから、局の方は任せる」

 「あーもう、分かったから手をどけんかい!」




  これでこの話は終わりとばかりに踵を返す。

  何やら後ろではやてが騒いでいるが、気にしない。













































  で、俺の所属は一応教会騎士団だ。それもカリム・グラシア直属の。

  なのでプライベートとはいえ大きな事件に関わった以上、上司であるカリムに報告する義務がある。




  チャンチャラ面倒くせえ……

  しかも夏真っ盛りなこのクソ暑い中とかマジでない。




  しかしぼやいたところで何かが変わる訳でもない。

  面倒くさい事はとっとと終わらせるに限るのでこうして早々に報告に教会へ赴いたのだが―――




 「は……休み?」

 「はい。正確には有給を使われての休暇ですが」




  こんな時に限ってカリムが居ないとは……

  で、更にはシャッハもヴェロッサも居ない。

  二人は任務で外しているのだとか。




  困った。

  軽く他人に報告を任せられるようなもんじゃないし、他に報告する様な奴が居ない。

  シャッハかヴェロッサが居れば話は早かったのだが……




 「一応、非常用の回線ならば開けてありますが」

 「いんやそれほどでもないし。しゃあない……最終手段だ」













































 「さて、ここに来るのは初めてだが……合ってんのかね?」

 『住所に間違いはありませんよ。ちなみに部屋番号は307号室です』




  目の前には安めのアパートが建っている。

  3階建てのコンクリ造りで、所々から窓が見える。

  今回の目的地はここなのだが……なんか、ちょっと不安だ。




 「―――ほんとにここで合ってるのかね?」

 『性格を顧みればむしろ妥当かと』




  厳しいなクラウソラス。

  確かに一理あるので階段を上って3階へ。

  307号室はちょうど突当たりにあった。

  若干の不安を覚えつつピンポーンとチャイムを鳴らす。




 「……」

 『―――反応がありませんね』




  もう一度ピンポーンと鳴らす。

  やはり反応は無い。




 「……留守?」




  だとすれば踏んだり蹴ったりである。

  ほんとに居ないのだろうかとドアノブを回して―――ガチャッと開いた。




 「……居るのか、これ?」

 『とにかく入ってみてはどうでしょう?』

 「軽く犯罪を催促してんじゃない。まあ入る訳だが」




  気後れしながらドアノブを回して扉を開ける。













































 「む、勝手にドアを開けて入ってくるとは不法侵にゅ、ってああそこでそっちに攻撃!? く、このCPUなら絶対来ないと……!」










  Yシャツ一枚でアイス棒を咥えたままごろごろとRPGをやっているカリムが居た。

  幻覚を見たようなのでドアを閉める。




 「……何、アレ」

 『さあ?』




  俺のそれなりに切実な質問には残念な事に相棒はまともな答えを返してはくれなかった。

  何やらショッキングなシーンを見たのだが気のせいだと思いたい。

  てか有休使ってまであんな自堕落しているんなら教会は絶対重役に置く人選をミスっている。

  そもそも正気の沙汰なのかすら怪しい。

  ほら、今もドアの向こうから『あれ? 何か用があるんじゃないんですか陣耶さん。おーい?』なんて聞こえてくるし。

  ええい、どうにでもなれい。




  ではガチャリと……




 「あ、やっと来ましたね。入るのか入らないのかちゃんと決めてから開けたらどうなんですか?」

 「……お前も人前に見せる格好を考えたらどーなんだよ」

 「だって面d、ってああまた来たっ!? 避けー!? 避け避けって神回避をーーー!?」

 「……有休使ってまで何やってんだアンタ」




  返事が投げやり気味になるのも察してもらいたい。

  俺の目の前にあるのは相も変わらずYシャツ一枚でアイス棒を咥えながらゴロゴロとゲームをしているカリムだ。

  Yシャツ一枚と言っても所々ボタンは外れていて胸がほぼ露出している。

  流石に下の方はボタンを着けているが……チラリズムでも狙ってんのか見えるか見えないかギリギリである。

  正直、目に毒である。




 「別に仰々しい場じゃないんですから良いじゃないですか。減るモノじゃあるまいし」

 「一般常識を考慮しろってんだよ! 見ず知らずの業者さんとか来たらどうすんだっ!?」

 「心配いりませんよ、この格好で客人を出迎えるのは日常茶飯事ですから」

 「ぐあ、既に手遅れかよっ!? 本当にお偉いさんの騎士かよお前はっ!!」

 「そうなんですよねー。上の人は一体何を血迷ったのでしょう」




  てんでダメだよコイツ……

  目の前の偉い筈の騎士は客人を前にして未だにゲームの敵と戦っていらっしゃる。

  敵は追いつめられたせいか想定外の行動をとったらしく、更には相当強いキャラなのか一撃で四桁くらい持ってかれている。

  回復役らしきキャラが仲間のHPを回復させても異常状態が邪魔をする。

  そのせいでアイテムを浪費し、行動が遅れてジリ貧。




  暫く後にはGAME OVERの文字が画面に表示されていた。




  後にはうなだれてコントローラーを投げ出して屍と化したカリムと欠伸を噛み殺している俺だけとなった。

  窓全開+扇風機全開+Yシャツ一枚なだけあってかなり暑い。




 「うだー……まさかあそこであんな行動を取るとは……」

 「ほんっとに根詰めてやってんのな」




  そしてやはり客人を迎える態度には到底見えない。

  んでもって相手がこんな状態だとこっちまでやる気をなくしてしまう。

  昨日は昨日で海鳴での戦闘があったから疲れも溜まっている。




  結果、俺もうなだれた。




 「陣耶さーん、だらしないですよー?」

 「お前にだけは言われたくねー」

 「それもそうですねー」




  つくづく変な奴だと思う。




  聖王教会のお偉いさんの一人で騎士団の一員。

  未来予知じみたレアスキルを所持し、俺やシャッハにヴェロッサという固有戦力すら持っているコイツ。

  その実態は仕事が面倒くさい三度の飯より趣味が好きな自堕落廃人騎士である。

  仕事じゃなければとことんだらけてだらしがない。

  仕事と私生活のギャップが強すぎて軽く頭痛を起こしそうになる。




 「お腹が空きましたねー……ご飯作ってくれません?」

 「何で俺が……」

 「だってお腹空いたんですよ。こんな暑いお昼時には冷しゃぶでも食べたくありません?」




  とことんフリーダムな……

  お腹空いたーと連呼されていい加減うるさくなってきたので仕方なく台所に立つ。

  冷蔵庫を覘けば食材だけは揃っていた。

  適当に食材を切って皿に盛りつけたり湯がいたりする。

  最後にごまドレッシングをかけて―――




 「うーい出来たぞー」

 「おお、待ってました」




  俺が飯を完成させるとずっと床に張り付いていた体が即座にピョコンと起き上って机の前に正座した。

  そしてお箸を構えて準備万端である。

  まあ作る側として喜んでもらえるのは素直に嬉しいが、かなり作らされた感があるのでイマイチ……




 「では早速イタダキマフ」

 「言い終わらない内に食べ始めるなっ」




  アレだ、マジでフリーダムだコイツ。













































 「ふー、ごちそうさま」

 「うい、お粗末さまでした」




  結局上司と一緒に昼食を食ってしまった。

  しかも飯を作ったのは俺。

  字面だけ見ていると上司っぽい事をしているが中身はてんで駄目である。

  自堕落の勢いに任せて部下に飯を作らせるとかどうよ……




 「いやあ、暑い日に食べる冷しゃぶは美味しいですねえ。これでデザートまであれば文句無しですが」

 「暗に作れと言ってるのかこのダメ人間」




  流石にそこまでの気力は無い。

  ていうかそこまでする義理もないのだが……

  昼飯を作ったのだって気まぐれだ。多少うるさかったのはあったけどやっぱり気まぐれだ。

  凄いその場の空気に流された気はするが。




 「で、そもそも陣耶さんは何をしに来たんですか?」

 「このタイミングでそれを聞くかっ!?」




  だあー、超どっときた……

  フリーダムな目の前の上司は澄ました顔でお茶を飲んでいる。

  何と言うか、色々とやる気が削がれる上司である。




 「はあー……んじゃま、順を追って話すが―――」




  そうして海鳴で起きた事をカリムに説明する。

  闇の書の残滓、構成体、巻き込まれた二人、その事の顛末。

  ただ、意図的にスバルの体の事だけは伏せて。




 「……なるほど、大事ですね」

 「ああ、面倒ったらありゃしない」




  それは紛う事無き俺の本音だ。

  なんだってもう終わった過去の災厄がまた首を出してくるんだか。

  それもピンポイントに俺達関係ときたもんだからなお性質が悪い。




  それに―――




 「あいつは『いずれまたどこかの世界で』とも言っていた」

 「つまり……またどこかで遭遇する可能性が高いのですね」




  ああ、と短く肯定を返す。

  あいつ等が闇の書の残滓で、目的がその再生であるのなら―――




 「俺とはやてはあいつ等にとって特に目障りだろう。何せ管理者と天敵だ」

 「でしょうね」




  事も無げにカリムも首肯を返す。

  いつも思うが、仕事に関する事ではこいつはいつも妙に淡白だ。

  その辺りの切り替えが効くからこそ今の位置に居る事が出来るのだろうが。




 「ではこちらでも構成体についての調査を行う事にしましょう、貴方達二人は聖王教会にとっても重要な存在ですから」

 「頼む」




  とりあえず仕事は終えた。

  儀礼的な報告を終えた後に待っているのは限りなく私用に満ちた時間である。

  俺にとってはそっちの方が本命と言っても差支えが無い。




 「で、トレディアとケーニッヒの方は」

 「それでしたら一つ、妙な噂を耳にしまして」




  そう言ってカリムが空間パネルを開いた。

  表示されるのはいくつかの資料で、それは一つの研究所についてだ。

  どこかの世界の山岩に一つの研究所らしき施設が写っている。




 「どうにもこの研究所、古代ベルカ時代の産物を違法に研究しているらしいんですよ。何かとまでは特定できませんでしたが」

 「古代ベルカの産物、ねえ……」




  一口に古代ベルカの産物と言ってもそれは様々だ。

  もしかしたら魔導書かもしれないし、融合騎かもしれない。

  また別にベルカ時代に名を連ねた王の細胞だったり、もっと危険なロストロギアかもしれない。

  定義できる物が多すぎて俺には見当がつかない。




 「で、俺にそれを調べてこいと」

 「ええ。その研究所の制圧、もしくは破壊。そして古代ベルカの遺産の回収が今回の任務です」




  サラっと言ってくれるもんである。

  襲撃とはいってもこれは俺個人に対する依頼の形を取っている。

  そうである以上、カリムが護衛か何かを付けない限りは必然的に俺とトレイターだけでの襲撃になる。

  で、カリムが護衛を付けてくれるかと言うと……そんな事は無い。

  シャッハとヴェロッサは別件で忙しいし、他の奴だと俺についてこれないとか何とか。

  少々心細い人員だが―――まあそれでもやるのが仕事ってのだ。




 「りょーかい、その依頼受けた」

 「ありがとうございます、陣耶さん」




  即座に俺のクラウソラスにデータが送られてくる。

  えー、何々……襲撃予定日はまだちょい先か。

  体力の回復やら諸々を済ませるだけの時間は充分にある。

  これなら万全の状態で仕事に臨めそうだ。




  さて、これで俺の様は済んだ訳だが―――




 「何で俺はテレビの前に引きずられているんでしょうね?」

 「決まってるじゃないですか、ゲームの相手をするんですよ」

 「確定事項かよ! 昼飯作ったんだからそれでいいだろ!?」

 「つれない事言わずにやりましょうよ。ぶっちゃけ二人じゃないと出来ないゲームの攻略を手伝ってほしいんですよね」

 「しかも思いっきり利用するためだけだしっ!!」




  で、ドナドナ風味に引きずられてゲームスタート。俺に人権などなかった。

  プレイしたゲームのジャンルはアクションゲームで、普段は一人用なのだが特定のステージが二人で攻略する仕様になってる。

  これは何気に制作側のミスではなかろーか、主にシステム面での。

  もしくはこんな二人じゃないと攻略できませんなギミックを突っ込んだ企画者か。

  操作法などもちろんサッパリなのでその場の慣れでどうにかステージを進んでいく。

  むしろカリムが横から神支援をやりまくっててほぼ無双しているから無傷に等しいのだが。




 「ていうかさー、ちょっと疑問に思った事言って良い?」

 「どうぞー」




  会話を交わしながらでも手元の操作は微塵も揺らがない。

  流れるようなボタンやスティックの操作で目の前に群がる敵を瞬く間に葬り去っていく。

  ちなみにカリムが操っているキャラの武器は笛だった。

  音波攻撃でもしてんだろうか……範囲が広い衝撃波で敵が次々と消滅していく。

  こういうのって攻撃力低い筈なんだけどなあ……それはさておき。




 「お前のスキルさ、何で未来予知とかできるわけ?」

 「厳密には未来予知ではないんですけどね―――しかし何故、ですか。ふむ」




  カリムが今現在の地位にいる大きな要因の一つ―――それはカリムの持つレアスキルだ。

  年に一度だけ、二つの月が重なり魔力が最も大きくなるその時に初めて使用する事のできる能力。

  聞いたところによれば預言書の作成だそうだが……

  表記は古代ベルカ、更にどうとでも取れるような曖昧な表現のせいで解読が酷く難解な代物だ。

  本人曰く、せいぜい天気予報程度のものでしかないらしい。

  とはいえ今まで大きな事件を予期した事も少なくないらしく、局からは重宝されているとか。




 「私自身、なぜこのような力を持っているかは全く分からないんですよね……気づいたら持っていた、としか」

 「後天的か先天的かすら分からないのか……謎だらけだなオイ」

 「局の方もよく気味悪がったりしませんよね。未来を予測できるなんてデタラメなのに」

 「便利さが先を行ってんじゃね? 預言書作成のスキルなんてトレイターの知識ですらお前ぐらいのものらしいし」




  実際、類を見ないほど珍しいモノらしい。

  レアスキルなんてものはまあ大体そんなものだ。

  俺の世界事象の拒絶(仮)も、はやての収集行使も、リインフォースの収集能力も、トレイターの高速学習機能も。

  全てが今現在において唯一無二のスキルであり強力無比の力である。

  俺の拒絶の方も大概だがカリムの能力も大概である。




 「ぶっちゃけたところこのスキルは未来予測を世界規模の情報から行っているだけなんですけどねー」

 「ああ、今までの行動やパターンやらから先を予測するアレか」




  人の行動パターンを読んだり癖を読んだり、そういうのも簡単な未来予測の類だろう。

  相手の次の手を読んだりする事は囲碁やら将棋やらチェスやら、そういった類など幅広い範囲で未来予測など飛び交っている。

  天気予報なんかもそれだ。

  膨大な気象データから大気や雲の動きを予測して、そこからくる天気を予測する。




 「けどさー、それならその未来予測を行えるだけの何かがどっかにあるんだろ? 眉唾ものじゃねー?」

 「それもそうですよねえ……」




  既存の未来予測は今あるデータ、情報からある種の経験則によって導き出される答えだ。

  その常識に則るならばカリムのレアスキルにはその未来予測を行うだけのデータがある事になる。

  世界的事件すら予測する以上、自身の関与しない所すら予測して、だ。

  もしそうだとすれば、それだけの情報は一体どこにあるのか。

  世界全体を予測するなどそんな前代未聞な未来予測を行うだけのデータが、どこに。




 「それに表現が曖昧なのもどうとでも説明がつくんですよね」

 「へえ、例えば?」

 「そうですね……例えばまだ先にいくつも分岐があるとか、未来は不定だとか」

 「―――なるほど、全く分からん訳だ」

 「そうとも言います」




  まあレアスキルなんてそんなもんだ。

  分からない上に数が少ないからこそ希少認定なんだし。

  しかしまあ、何だ……




 「お前ってずっと敬語使ってるよな?」

 「どうしたんですか突然」

 「いや、はやてやシャッハやヴェロッサやらには普通に喋ってるけどさ、他に奴に対して砕けた口調なのを見たことが無いなと」




  カリムが敬語を使ってない場面なんて言うのは俺は結構見た事がある。

  俺が例に挙げた三人と話している時なんてそうだ。

  親しいからかどうかは知らんが普段とは違う話し方をしている。

  口調は砕けて、仰々しい態度が見て取れない。




  ……今のこいつの姿に仰々しいも何もあったもんじゃないんだが。




 「質問だらけですね、珍しい」

 「こんな時でもなきゃ聞けないと思って。適当に逃げるだろお前」

 「別にそういう訳ではないのですが……」




  そうですね、と考える様に言葉が区切られる。

  視線はしばらく宙を彷徨って―――やがて俺に焦点が当てられた。




 「強いて言えば線引き、ですかね」

 「……線引き?」

 「そうですね―――ええ、線引きです」




  口にして何か得心がいったのかうんうんと頷いている。

  対して俺には何が何だかサッパリだ。

  ピコピコとぎこちなくキャラを操作しながらまた質問を飛ばす。




 「線引きって、何の」

 「こちら側とあちら側、ですかね」




  意味深な言葉に、俺の手が止まる。

  なんとなく……なんとなく、こいつの口にした言葉にいつもと違う響きを感じて。




 「気になります? こちらとあちらの境界の線引き」

 「いや、別に……」




  一応断りを入れてみるのだがカリムは話す気がマンマンらしい。

  カリムは自分の内面を見る様に目を閉じる。

  そうしてまるで自分の言葉を反芻するかのように、ゆっくりと口を開いた。




 「優しいか、優しくないかです」

 「まああいつ等は確かに優しいけどさ……てーかそれなら俺も十分優しいのではー?」




  しかし棒読みで放った言葉は、カリムの言葉によってかき消される。




 「違いますよ陣耶さん」




  明確な否定。

  その眼は閉じられたままで、まだカリムは自身の中にいる。




 「そういう意味では、ありませんよ」




  ―――少し、理解した。

  俺にとっての世界が自己で完結している様に、他の奴にとっての世界はどこまでも広がっている奴もいる。

  社交性があるとか無いとか、そんな違いではなく……




  他人と世界に優しく在れるかどうか。

  その上で、自分に優しくできるかどうか。




 「そらあ、俺は無理だな」

 「何でそんな事を言うんですか……貴方はまだ、引き返せます」




  それは何を指してか。

  剣か、魔法か、生き方か、それとも―――










  ふと、目の前に金色の髪が舞う。

  気が付けば―――カリムは泣きそうな目で、こちらを見ていた。




 「悲しく、ないのですか」

 「……」




  おそらくこいつは泣いている。

  たぶん、俺のために。

  泣く事をしない、俺の……




 「貴方がそこまで死を知った理由は、私にもあります」

 「……」




  騎士として、皇陣耶として受けてきた依頼の数々。

  俺の目的が目的な以上、何も安全で平和な任務ばかりではない。

  悲劇があった、混乱があった、危険があった。




  戦争という名の世界―――

  世界はどこまでも悲劇で満ちている。




 「恨めとは言いません、憎めとも言いません……だけど」




  そんでもって、目の前で泣きそうになってるこのぐーたらは。

  俺の上司であるこの騎士さんは―――




 「だけど、貴方一人だけで悲しい目を……しないでください」




  どこまでもお人好しで、優しい奴だった。

  俺が自分で選んだ道だからと、そう言って一人で抱え込むのを知った上で。

  だからこそ、捌け口となるのではなく共有して共感する。

  そうする事で少しでも他人の痛みを理解しようとする、少しでも悲しみを和らげようとする。

  おこがましいと自分で理解した上でなお、それでもこいつの世界には他人の為にある。




  だから……









 「で、キャラが死んだんだが」

 「ってキャーーー!? せっかくここまで進めたのに、中間地点までもう少しだったのにー!!」




  会話にうつつを抜かしていたからか俺達二人のキャラは揃って体力がゼロになり死んでいた。

  中間地点まで行ってなかったのでコンテニューするにも最初からである。

  つまり、ここまでカリムが四苦八苦した道のりは無残にも水の泡である。




 「うわーん、こんなのアリですかーっ!」

 「あー泣くな喚くな消沈するな。これって慰めるのが俺ってオチになるんだろどーせチクショウ」

 「ぶうー、結構重要な話をしていたのに酷いですう……」




  さっきまでの空気はどこへやら。

  俺の放った一言だけで見事に空気が弛緩した。




  それと、一つだけ確実に分かった事。

  線引きの勘違い―――こいつは、優しいとかどうとかそんなんじゃない。

  似ているのだ。どうしようもなく、在り方が。




  俺の世界は他人が存在して初めて成り立つ。

  俺一人ならば、俺という世界の自己は形成されない。

  誰だって自分自身という自我、肉体の影を見出すには他人の存在が必要不可欠だ。

  だけど俺は違う。

  俺は俺自身が他人で成り立っている。

  見出す自己が自身に無く、他人に有るからだ。

  故に他人に依存しきった自己の世界、居なくなればその分だけ欠けていく俺という自身。

  こいつはそれと同じだ。




  カリム・グラシアという自己も、同じように他人によってできている。




  こいつは確かに優しい。

  広がる世界を全て容認し、許容し、その全てに等しく。

  全てを自己の中へと受け入れ、それを守ろうとする者。

  それは何故かと問うなら、俺と正反対のベクトルに向いているからだろう。




  俺は自己の世界を守るために他人に固執し、カリムは他人を守るために自己の世界に固執する。

  根っこは同じでもまるで合わせ鏡の様に方向性は違う。

  線引きとはつまり、そういう事だ。

  顔を会わせれば死んでしまうドッペルゲンガー。

  触れてしまえばどちらかが消えるしかない。

  ただ、それだけの話だった。




 「くっ……もう一度です。こんな機会は滅多に無いんですからこうなったら徹底的ですっ!」

 「さよけ……俺はとっとと帰りたい」




  だから、曖昧な境界の中で俺たちは生きていく。

  例え触れれば消えてしまうモノであっても、それでも触れ合えないのは寂しいから。

  孤独を埋めるために、隙間を埋めるように、伽藍堂な空間を飾っていく。

  それがどれだけ身勝手で滑稽な事だとしても―――それを是としてくれる人が居る。

  だからこそ俺は剣を握れる。

  だからこそ、俺は―――




 「んー、やっと慣れてきた」

 「よーし、じゃあこのまま一気に突っ込んじゃいましょう」

 「いや待ってあんな大群突っ込んだら死んじゃうって待てっつってんだろおいいいいいっ!?」










  だからこそ俺は、ここにいられる。

  もし理由があるのだとすれば、それで充分過ぎたのだ。





















  Next「生ける屍」





















  後書き

  戦い終わってと書いてインターバル。騒動はまだ終わりません。

  今回はカリムについてのエトセトラ。

  stsじゃあまり恵まれなかったカリムさんもこの話じゃただのネタキャラに(何

  さー、この調子で恵まれない男性陣に出番はあるのだろうかw

  あとリリカルなのはって最近は本当にどこに行きたいんだろうか。

  CW-AEC02X Strike Cannonて……いつから箒を持ってウィザードに転職したんですかなのはさんw

  しかも魔力兵装ではなく魔力駆動兵装……ぶっちゃけ思いっきり兵器。あの優しいなのちゃんは一体どこへ……

  いや、ネタが増えるのは良いんだけどね? 歓迎だけどね?



  ではまた次回に―――






作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。