「きりーつ、礼ー」

 『ありがとうございましたー』




  キンコンカンコンと終礼の鐘が鳴り響く中、学校中にガタガタと椅子が引きずられる音が響く。

  次いで終礼の挨拶。

  それが済んでしまえば、後は各人思い思いの放課後を過ごす事になる。

  部活があるなら部活動へ、そうでなければとっとと家に帰って惰眠を貪ったりなど―――実に有意義な生活を送っている。

  そして、俺もそうやって高校生活をエンジョイしている内の一人だ。

  学校が終われば家に帰り、宿題を片付け、晩飯をこしらえ、風呂を入れ、明日の授業の準備をし、風呂に入り、布団を敷いて寝る。




  ―――ぶっちゃけ、今までと何ら変わりが無い。




  多少宿題などに時間が取られるようになって自由時間が減りこそしたものの、それ以外は全く変わった事が無い。

  相変わらずなのは、アリサ、すずかの三人と一緒になって学校に登校。

  学校に着けば小学校の頃から因縁つけられている集団の襲撃を受ける。

  教室では松田と武本とバカやって過ごして、昼食は女子校の三人組と合流して大所帯で食う。

  フェイトとはやてがこの輪から抜けてしまった事以外は全くもって変化が無いのだった。

  時折寂しさを覚える奴もいるが、それでも頻繁に顔を会わしているのでまあ問題は無い。




  別に無理に変化が欲しいとかそういう訳でもないのだが、アレだね。

  子供の頃に抱いた理想や夢ってのは悉く儚く散る運命なんだなと実感が……

  だがまあ、現実なんてこんなものなのだろう納得もする。




  俺だって、その輪の一部なのだから―――




 「あ、おーい! 陣耶くーん!」

 「待ちくたびれたぞーおまーら」

 「レディに言うのはマナーというか礼儀してどうなの、それ」




  そして、いつも通りに校門で女子校の三人と落ち合う。

  夕暮れの中、少々広くなってしまった道を歩いて帰路に着く。

  そんな中での事だった。




 「と、言う事で―――次のお休みにみんなでミッドにお買い物に行こうと思って」

 「ほら、この前に丁度デパートが開いたって言うじゃない。気になるのよね」




  こういうところは、見ていると年頃だなあと思う。規模だけはそこいらの一般人とは段違いだが……

  しかしさて、あのデパートねえ―――正直、なんとなく近寄りたくない。

  いくら混雑してたとはいえあんなのを買わされた後だし、妙な事もあったし。




 「じゃあ決定。すずかも予定は空いているわよね」

 「うん、もちろんオッケーだよ」




  だからといって俺の意見が尊重されるかと言えばそうでもなく―――

  いつの世も、男性が女性より弱いのはお決まりなんだろうか……それはそれで嫌だなあ。

  何とも言えない気分のままにあいつらと別れる。




  んー、次の休みの予定組み立てておかないとなー。




















  〜A’s to StrikerS〜
         Act.30「繋ぎ、交わる」




















 「で―――俺は何故ここにいるのだろうね」

 『それはあの三人と一緒にミッドにまで買い物に来たからでしょう』




  そうだな、確かにそうだ。

  うん、そこに疑いの余地は無い。

  無いのだが―――だからといって、何で俺がここまで付き合わされなければならんのか。

  目の前に広がるのは決して直視したくは無い光景。

  エリア一帯に広がる女性物の下着下着下着―――




 「何が悲しくてランジェリーまで付き合わにゃならんのかー!」

 「だから外で待たしてるじゃないの」




  代わりに荷物持ちにしてんじゃねえかっ!

  あーあーあー、目に入るだけで毒だ。

  なんつーかこう、精神的に頂けない―――主に周りの目線とかのせいで。

  いたたまれん……つか我慢ならん。俺は余所へお暇させてもらう!




 「つーことでそこらのベンチにでも行っとくー」

 「あら、以外と根性ないわねー」




  うっさいわ。時と場合を弁えるんだよ、TPOを。

  しかもアリサの奴、絶対俺の反応見て楽しんでやがる。

  顔には出てないが目が嬉々として―――




  即時撤退。

































 「ふー」




  少し離れた位置に丁度ベンチがあったので腰かけて一息つく。

  妙に科学文明が発達しているミッドでもベンチなんかは木製が多かったりする。

  やっぱ温暖化とか気にしているんだろうか……こっちではあまりそういった話は聞かないんだがな。

  喉が渇いたので持参のペットボトルに入っているお茶をグビグビ―――麦茶は美味い。

  今回のは何故か最近お茶に凝りだした恭也さん差し入れのそれなりに質の良いお茶っぱ使ってるのでいつもと味が違う。

  苦味があるんだけど、そこにほんのりとした甘みがあって後味もしつこくない。

  これで健康にも良いというんだから素晴らしいね、本当。

  お茶は日本の文化の一つだ。




  ―――リンディ茶は断じて認めんが。




  しかし、やはり待っている内は暇だ。

  女性の買い物が早く終わる筈もなく、俺は当然のように暇を持て余す羽目になる。




 「ばっくれて書店でも覗きに行こうかな……」

 『後が怖いですよ、その場合』




  でもなー、暇だしなー。

  かといって女性物の下着の群れに突撃する勇気も俺には無いし。

  あと何かおっかないゴリラ風味の店員がいるし。




  あ、誰か男が一人突っ込んで文字通り放り出された―――黙祷。




  しかし暇つぶしには程遠い。

  何かネタは無いかと辺りを見渡す。




 「あ、あの時の人」

 「へ? あの時って……あ、この人なんだ」




  はい?




















                    ◇ ◇ ◇




















  この前の強盗で実行犯逮捕したからか、また休日を貰った。

  今の時期は自主練に勤しんでおきたいんだけど、せっかく貰った休日だからとルームメイトがうるさいので出て来た。

  足が向いたのはこの前に開店初日から来店して色々と台無しになったあのデパート。

  あの後は事後処理があってゆっくりできなかったから良い機会でもあった。

  スバルと一緒に服を見て、アクセを見て、次はランジェリーでも覗こうかと思ってそちらに向かっている。

  買って周る事が目的でもないのだし、次が終われば昼食でも適当に食べてそろそろ帰ろうかしら。




  と―――そんな時だった。

  見慣れていないけど、見覚えのあるそれを見つけたのは。




 「あ、あの時の人」




  思わずそんな声を漏らす。

  大きな紙袋を隣りに置いてベンチに座ってる男性。

  あの人は確か、スバルが強盗犯を伸すためのアシストをしてくれた人だ。




 「へ? あの時って……あ、あの人なんだ」




  スバルがそれに反応してしまう。

  人の声があんまりしないところに急にスバルの声が響いたものだから、ベンチに座ってた人も当然気がついて―――

  あ、目が合った。




 「どうも―――」

 「え、あー……ああ、あん時の」




  軽く頭を下げて挨拶をすると向こうもやや遅れて頭を下げて挨拶をしてきた。

  スバルも頭を下げて挨拶をする。




 「こんにちは。この間は助けて貰ったそうで―――」

 「あー、いいよいいよ。お礼が欲しかったわけじゃないし、ちょっかい出しただけだって」




  気まぐれだと言って気のない返事をされる。

  けどそんな反応をしてしまうとスバルは―――




 「けど、お陰で強盗犯をちゃんと捕まえられたんですからお礼はちゃんとしたいんですよ」

 「……なーんか、似たタイプを知ってるなあ」

 「……ああ、それは」




  男の人の苦笑いに思わず親近感を覚えてしまう。

  こんなタイプが周りにいれば嫌でも苦労するわね、そりゃ……




  ただ、その結果がアレというのは―――




 「……」

 「……何さ?」

 「いえ、何も……」




  人って、見かけによらないわよね。

  外で色々とやってそうな人があんな物を……いけない、思い出しちゃいけないのを思い出してしまいそう。

  ていうか面白いのかしら、あれ。




 「―――あれ?」




  なんか、スバルがあの人を見て頭を捻ってる……

  また何か感じたとかそんなのかしらね。

  いや、見た限りではそんな風ではない。何かを考えている風だ。

  付き合いが妙に長いからそれぐらいは表情から読めるようになってしまってるのよね、不本意ながら。




  ―――さっきから、頭の隅っこに何か、引っかかってる。




 「えーと……以前、どこかで会った事ありませんか?」

 「へ?」




  うわ、急にスバルが突拍子もない事を言い出した。

  言いだした当の本人も何言ってんだろって顔にすぐなるし。




  ―――かくいう私も、どこかで見たような顔だとは思ってしまっている。

  何だろう、散々見た気がするんだけど妙に頭に引っかかって……




 「あ、あははは、そんなわけないですよねー」

 「ん……むー?」




  ああ、スバルの言葉を真に受けて男の人まで頭を捻りだした……

  とりあえず私たちランジェリー覗きに来たんだけど、この状況はどうしたものかしらね。




 「陣耶くーん、お待たせー……って、あれ?」

 「おー、なのは。やっと来た」

 「お?」




  美女三人―――

  ますますこの人が分からなくなった。




















                    ◇ ◇ ◇




















  なのは達がやっとランジェリーから出てきた。

  手にはちょっとした紙袋―――

  どうやら何か下着類を買ってきた模様、あれまで俺に押し付けられない事を祈りたい。




 「えーと、陣耶くん……そこの人たちは誰かな?」

 「んー、話せば長いやら短いやら」




  ぶっちゃけ説明が面倒なだけなのだが、これまでの経緯を纏めてみよう。

  暇なのでベンチに座っていたらどんな奇妙な巡り会わせなのか先日の強盗未遂で犯人を伸した二人と出くわした。

  ……うん、これっぽっちも長くないね。




 「初めまして、ティアナ・ランスターと言います」

 「あ、ご丁寧にどうも。高町なのはです」




  オレンジのツインテール―――ランスターが頭を下げたのを見て、慌ててなのはも頭を下げた。

  そういや俺って普通に会話していたがこの二人の名前知らんのだったな。

  その辺り、こいつらは実に律儀である。

  けど俺の時に名乗らなかったとこを見ると……第一印象の差なのか?

  何か悪印象でも植え付けていたとか―――まあどうでもいいのだが。




  ところで―――




 「なあ、あの蒼い子ってさっきから何を固まってんの?」




  なのは達が現れてから急にぽけーっとしだした蒼い子。

  上の空というか何というか……気のせいか、なのはを見ているようにも見える。

  なのはが何かしたのか―――?




  もしや、また無自覚にフラグを立てたのか。とうとう同性にまで。




 「知らないわよ。大方あんたがまた何かしたんじゃないの?」




  失敬な、“また”とは何だ“また”とは。

  俺は清く正しく俺が楽できてかつ自由かつ楽しめるように精一杯努力して生きているのだぞ。

  そんな俺が自分から面倒事を引き起こすなんてどうやったら想像できるのか。




 「思いっきり引き起こしているじゃない、あんたが中心の騒ぎ事なんてしょっちゅうでしょ」

 「―――さいでしたね」




  非常に痛い処を突いてくれる。

  で、実際どうしたのだろうか。

  蒼い子は暫くぽけーっとした後にもう一度頭を捻って―――




 「あ……あーーッ!!」




  と、いきなり大声を上げた。

  まさにたった今気付いた、思い出したっ、みたいな感じに。

  というかその声で思いっきり周囲から視線を貰ったのですが。

  ああ、また変な感じに目立って……




 「スバルうっさい! 周りに迷惑でしょうが」

 「だ、だってティア、この人たちアレだよ。ほら、私の―――」

 「……あ、あー、なるほど。だからか」




  何か知らんがえらい慌て様である。

  慌てたままにつぎはぎな言葉でランスターに蒼い子が説明をして、それを聞いて何故かランスターも納得している様子。

  もちろん俺たちにはこれっぽっちも驚きの理由が分からない。

  そして人様をアレ扱いとはいったいどーいった了見なのだろーか。




 「は、初めまして高町なのはさん、皇陣耶さん! わ、私はスバル・ナカジマって言います!」

 「ああ、今更だが初めまし―――へ?」




  ちょーっとタンマ。

  今、この蒼いの―――ナカジマだっけか。俺となのはの名前を思いっきり言ってたよな……?

  何? 俺、実はナカジマと面識有りなの?

  やっべ、全然覚えてねえ……いやまて、ナカジマはさっき初めましてとも言ったぞ。

  つまりは俺らとは面識が無い。メディアかなんかで知ったんだろう、そうだろう。




 「ナカジマ……スバル・ナカジマ―――あー! 2年前の!?」

 「ふぇ!? も、もしかして覚えて!?」




  って、なのはは面識有りかよ!?

  というか、2年前てどんだけ期間の離れた再会―――




  ……ん? じゃあ何で俺も知ってんだ?




 「何言ってるの陣耶くん。陣耶くんだって一応会ってるんだよ?」

 「へ……マジ?」

 「マジ」




  や、やっべ……俺全然覚えがねえ!?

  うわ、どうしよ、俺は普段から関係ない事はズッパリと切り捨ててるしなあああああ。

  忘れている事なんてありすぎて心当たりが多すぎるわっ!

  ちくしょう、自慢にすらならねえ……




 「ほら、2年前の空港火災で私と一緒にいた―――」

 「火災……ああ、あれね。あの時は……」




  ……うん、ぶっちゃけ覚えが無い。

  頭の中であの空港火災を回想する。

  炎の中に突っ込んで、無色と出くわして、なし崩し的に戦闘。

  途中に色々とぶっ壊したりしていたがその時にナカジマは見なかった。

  なのはとも会ったけど、なんら変わった事は無かったようにも思えるし……

  なのはを逃がしたちょっと後にはやての広域氷結魔法で火災を鎮静化して、無色は去った。

  回想はここまで。しかしナカジマの姿は見受けられない。




 「あ、あはは……まあ覚えていなくても仕方ないですから、あんな状態じゃ」

 「ごめんね、えっと……」

 「スバル、で良いですよ、えっと―――高町さん」

 「じゃあ、私もなのはで良いよ―――宜しくね、スバル」




  目の前で、また一つの友情が結ばれた。

  一人は俺の知り合い。一人は俺と会った事のあるらしい者。

  しかもそれがあの空港火災ときた。

  世の中には奇妙な縁があるものだと実感する。




 「なーんか、私たち置いてけぼりね」

 「そうだねー」

 「いや、俺だって身に覚えが無いので置いてけぼりなのだが」




  俺だけ除け者は止してほしい。

  俺だって一人ってのは流石に寂しいものがあるっての。

  が、自分たちの知らない処で出来た絆だろうと普通に受け入れてしまうのがこいつらだ。

  目の前の二人が友情を結べば、それは即座に自分たちにも繋がる。




 「じゃー次は私。アリサ・バニングスって言うの、アリサで良いわ、宜しくね」

 「私は月村すずか、すずかで良いよ」




  ほぼ予想通りの展開である。

  一つ、また一つと増えていく繋がりを俺は腕を組んで眺めている。

  本気で良く出来た奴らとばっか巡り会うもんだよな、こいつら。

  そういうところでは、こいつらは非常に幸運に恵まれていると言えるだろう。

  それに比べて、俺が知りあうやつらってどうもネジが一本抜けた奴らが多いよな。

  無色とか、ケーニッヒとか、トレディアとか……




  本気でまともな思考を持った奴がいねえでやんの……溜息が出るわ、ほんと。




 「すいません、何かお時間とらせてしまって……」

 「まあ良いんじゃね? 本人たちは満足げなんだし―――ああ、俺は皇陣耶ね。気楽に陣耶で良いから」

 「あ、はい―――じゃあ、宜しくお願いします……陣耶、さん」




  俺が右手を差し出すと少しの逡巡の後に握り返してくれた。

  ん、初めの挨拶なんてこんなので充分だろう。

  名前を識って、握手して、そんなもんだ。

  それ以上の事なんて後で時間はたっぷりとあるんだし。

  けどそんな事なんてお構いなしに向こう側の四人は盛り上がり始めている。




 「まあ、お前も後始末をする方?」

 「お察しの通りで……」




  お互い苦労するな、と互いに労い合う。

  ランスターからはなんかこう、苦労人臭がする。

  面倒見が良いのか姉御肌なのか、どちらにせよ最後にはなんだかんだ言いながら付き合ってしまうタイプと見た。




  ……後始末の一言だけで通じてしまうこの悲しさを察してもらいたい。




  目の前のてんややんわの賑わいに対して、こっちは実に気だるそうな空気。

  実に正反対の空間が出来上がっていた。




 「茶、飲むか?」

 「頂きます」




  ああ、お茶が美味い……



































  その後はメアドを交換して全員が全員メル友となってしまった。

  特にナカジマ―――あ、スバル、は実に喜んでいたなあ。

  ランスターとは近い内に愚痴の言い合いとかやりそうだ……

  今の内に先の苦労を考えると気が滅入る。

  そんな事するとキリ無いのにやってしまう辺り、人間て救いようが無い。




  で、ただ今は帰路に着いている。

  話し込んでいる間にすっかり時間が経ち、真上にまで昇った太陽が辺りを照らしている。

  ほんと、この時期は昼ごろが地獄だ……

  何が悲しくて俺が荷物係をしなければならんのか! 余計に暑いわ!

  だからといって荷物をほかの連中に持たせると周りの眼が非常に痛い事になるし……世の中は実に理不尽である。

  で、適当な店で昼食でも食おうと街中を散策中なんだが―――




 「なのは、妙に嬉しそうだな」

 「うん、新しい友達が出来たんだもん。嬉しいに決まってるよ」




  なのはは傍から見ても実に嬉しそうだ。

  さっきから実にニコニコしていてご機嫌ですよーって周囲に訴えかけている。

  幸せオーラ全開でいるためか俺たちの顔も自然と緩んでしまう。

  あいつの幸せオーラに当てられて、というのではなく見ていて微笑ましいから、という方が強いのだが。




  まあ、聞いたところによればスバルはあの空港火災でなのはが助け出したらしい。

  それ以来、なのはに憧れを抱いていたとか何とか。

  だからなのはを見た時にあんなリアクションをとったわけだと納得した。

  そんな事があったからなのかどうかは知らないが二人は早速意気投合して友達になってた。

  こいつがニコニコしてるのはそれからだ。




 「本当にご機嫌だよね、なのはちゃん」

 「こっちじゃフェイトとはやてたち以外にあまり交友無いからじゃない?」

 「まー、あいつはそういう事に素直に喜ぶ奴だからな―――良いんじゃね? 健全でさ」




  俺たちとしても友達の気分が良いのは喜ばしくもある。

  友達も増えたし―――まあ、また奇妙な縁から出来たのだが。

  俺達って本当に魔法関連での交友が多いな……

  アリサやすずかだって魔法関連で親しくなったし―――魔法が関連してないのって松田や武本くらいじゃなかろーか。




  そう考えると非常に狭いんだな、俺の交友って……

  何かちょっと悲しくなる。




 「帰ったら、メールしてみよっと」

 「……ほんとに友達が出来たのが嬉しそうねー。何か私たちの時とは大違いなのが気になるけど」

 「まあ、良いんでね……?」




  何であんなに嬉々としているのかは本人しか与り知らぬ事なのだし、俺たちが余計な詮索を入れるような事でもない。

  けど、理由なんて単純なものだと俺は思ってる。

  あいつはただ単に嬉しいだけだ。

  ただそれは友達ができた事にだけじゃない―――

  あいつは、自分が救った命がちゃんと元気に生きている事が嬉しいのだろう。

  偶然にも助けに来る事が出来た者と、助けられた者。

  両者がこうして繋がりを持つのは、ある種の必然のようにも思える。










  広がっていく。

  絆が、繋がりが、関係が。

  それはまるで蜘蛛の糸で出来た巣のように。

  それはまるで鋼鉄の鋼で出来た鎖のように。

  広がり、繋がり、絡め取られる。

  親にしろ、兄弟にしろ、親戚にしろ、友にしろ、敵にしろ、恋人にしろ―――




  だから、それが世界だ。




  否応なしに繋がり、絡め取られる。

  関わる以上、それは繋がりを持つという事だ。

  繋がる以上、それは絡め取られるという事だ。

  真綿の様に、鎖の様に、絡みつき、繋がる。




  だから、繋がりが途切れる事は世界の喪失だ。




  どこまでも人以上に他人に依存して生きている俺にそれは頂けない。

  繋がりを断つ者―――俺の世界を犯す者は、やはり敵だ。

  だからこそ俺は剣を手に取った。




  隣りへと目を向ける。




 「でねでね、そのコンブなんだけど―――」

 「ええ!? それってドリルじゃない!?」

 「どんなコンブよ、それは……」




  あの時―――

  両親を失い、世界は残酷だと知ったあの時。

  燃える地獄を見て、心が死んだあの時。

  全てを拒絶して、独りでいるなんて空元気を気取っていた俺に手を差し伸べたお人好したち―――

  友達だと言った。

  放っておけないと言った。

  守ると言った。

  我儘だと言った。

  怯えている様だと言った。

  ―――許すと、言ってくれた。




  それだけでどれほど……俺は救われたのだろう。

  だから、これは俺の世界の中核だ。

  俺を支える柱の一つであり、俺を俺としている者。

  だから俺は剣を取るのだ。

  それは、何の為に?

  そう問われれば自分の為だと俺は答える。

  俺は他人に依存していようが常に俺の都合を優先する。

  俺の世界は同時に俺自身だ、その在り方だ。

  だから、それを犯そうとする敵は等しく排除する。




  故に―――広がる世界は果てしなく面倒だ。

  だがそれと同時に満たされる。

  繋がるという事、絆……独りではない。

  だからこそ―――俺は……




 「んー? なーんか怖い顔してるよー」

 「む」




  なのはから指摘された。

  顔に出ていたのか……猛省。こいつにそんな顔を見られるとは不覚だ。

  実に不覚なので―――意趣返しになのはの頭をわしゃわしゃと掻き毟ってやる。




 「にゃー、何するのー!」

 「うるさい、なのはのくせに生意気です」

 「余計訳が分からないのー!」




  ……そう、だからだ。

  怖いから、剣を取る。

  怖いから―――俺は、引き金を引く。

  騒ぐなら勝手にやってくれ、俺には関係ない。

  けど、だけど……ソレは必ず俺の世界に牙を剥く。















  だから―――撃たれる前に、撃ってやる。




  それが俺の結論。

  覚悟とか、信念とか、そんな格好の良いモノじゃない。

  ただ、怖いから……

  いや違う、それだけじゃない。




  ―――あの地獄を思い出す。

  爛々と猛る炎、叫ぶ人、崩れる景色。

  値が見たし、紅が染め上げるあの地獄……




  それが、どうしても許せなかった。




  つまりはそういう事だ。

  何という事は無い、理論ではなく感情による逆襲という行為。

  理屈での帳尻合わせ、やられたのならやり返す。

  過不足なく、正確に、一度だけ、何の感情も無く、機械的に。

  それは正しく報復だ。報復と言う名の行為。

  だけど感情によるソレは違う。

  感情は感情を呼ぶ、その感情が行為を呼び、行為は行為を―――




















  報復と言う行為ではなく、感情による報復。

  人はそれを……復讐、と呼んだ。




















                    ◇ ◇ ◇




















 「それにしても凄い偶然だったねえ……まさかあの時にアシストしてくれた人があの陣耶さんで、なのはさんと一緒に居たなんて」

 「まあ、あんたの話から交友関係くらいはあるとは思っていたけど―――なんていうか、ご都合主義ね」




  ティアは何かとクールに決めているけどちょっとした有名人と会った事には嬉しそうに見える。

  それもこの二年間で培ってきたティアへの勘だけど。

  けど、メアドまで交換できたのは正直予想外だったなあ。




  ポケットから携帯を出す。

  アドレス帳を開くと、一番上の方には新しく追加された名前が四つほど。

  アリサ・バニングス、皇陣耶、高町なのは、月村すずか―――

  思わず、顔がニヤけるのが自分でも分かる。




  ティアに白い眼で見られる。




 「……なにー、その眼」

 「別にー、あんまりにもあんたの顔がだらしなくなってるから隣りにいる私が恥ずかしいと言っておこうかと」

 「あうっ」




  友達の言葉がグサリと胸を抉る。

  あうう、ティアってばほんとに容赦が無い。

  けど、なんだかんだと言いつつも友達が増えた事はティアも嬉しそう。




  友達、かあ―――




  思い出すのはあの炎の中。

  誰もいないあの場所で、疲れ果てて―――怖かった。

  死ぬとか、危ないとか、そういうのじゃなくて……ただ、ひたすらに怖かった。

  一人が、独りが、ひとりが―――怖くて怖くてたまらなくて、泣いていた。

  そんな時になのはさんがやって来て……良く分からない内に陣耶さんと謎の男の人までやって来て……




  思えば、あの人を見てから―――正確にはあの人の眼を覗きこんでからかもしれない。

  私が―――あの黒い霧を見るようになったのは。




  あの人の眼の奥に在ったのは―――黒い、暗い、深い、闇―――

  ドロドロとしていて、ザワザワとしていて、胸の奥が掻き毟られて叫びだしたくなるような……

  アレはきっと、良くないものだと思った。

  きっと怖くて、恐ろしいものだって子供心に感じていた。

  声が出なかった。

  違う、出せなかった―――と言う方が正しい。

  奥に在るものを見て、やっぱり私は怖かった。

  だから、なのかもしれない。

  そこから助け出してくれた二人―――高町なのはと皇陣耶に、確かな強い憧れを抱いているのは。




  その優しさに憧れた。

  その守れる強さに憧れた。

  その悪意に、敵意に、暴力に、恐怖に立ち向かえる勇気に、憧れた。

  そして―――あの星空に、憧れた。




  自分の弱さを知って、それがとても不甲斐なく思えて。

  この空の下で、私たちはどれだけちっぽけな存在なんだろうって。




  だけど、それでもと―――




  そう思った。

  怖くて、悲しくて、寂しくて、やるせなくて、絶望したその時に差し伸べられる手はどれほどの救いだろうと。




  だから、変わろうと思った。




  自分は救われたのだから、それを何かの形で示さないとそれはきっと嘘になる。

  泣いている自分が嫌だった。

  暴力に怯える自分が嫌だった。

  だから……そこから一歩を踏み出そうって思った。

  そのための勇気を貰ったのだから。

  あの優しい眼に、あの屈しない背中に、あの綺麗な夜空に―――











  いつか自分と同じ子がいた時に、今度は私が一歩を踏み出すきっかけを与えてあげたいから―――




  だから、強くなるんだって。

  怖さも、哀しみも、怒りも、後悔も、絶望も、全部受け止められるくらい。

  そしていつか、私も―――




 「ねえ、ティア」

 「何よ」




  空を見る。

  今日も今日とてお日様が私たちを照らしていた。

  どこまでも澄み切った、蒼い空。

  私たちはとてもちっぽけだけど、でも、それでもと―――

  諦めずに、手を伸ばすのなら。




  それは、魔法の呪文。




 「うん―――頑張ろう、きっと届くから」




  だから私は”諦めない”。




  そうやって私は進む。

  いつかあの夢に、憧れに、手が届くと信じて―――





















  Next「そんな理由」





















  後書き

  新年明けましておめでとうございます! ツルギです。

  色々とごたごたしててなかなか投稿できませんでしたが再開です、やっとです。

  唐突ですが、スバル達とのコネクション500,000v

  実際そんなにかかりませんでしたが……なのは達と繋がりが出来ちゃいました。しかもメル友。

  本格的に違いを見せてきたこのお話、まだまだ続くんですよねー。

  今年中にはstsに入りたいです、割と切実に。


  それでは有り難い拍手返信を―――



  >ツルギ様、アリサIF読ませて頂きました、アリサのお話待っていました。嬉しかったです。

   読んでて他のIFでも二人の関係は続くのかなと思ったり。


  ありがとうございます! 嬉しいとか言ってもらえて歓喜してます、ハイ。

  あの二人、くっつく前からあんなんなので他のIFでも関係は確実に変わらないでしょうねえ。

  で、そんな二人を見て相手がやきもきすると言う事ですね、分かります。



  >とても面白かったです。続きが気になります、頑張ってください。


  応援の言葉、ありがとうございます!

  もう書き手にして応援の言葉や感想はみれば原動力やら高級ガソリンとか言っても過言ではないので。

  期待に応えられるよう、誠心誠意頑張ります!



  ではまた次回―――






作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。