「はあ……疲れた」




  あの空港火災から一日―――

  予定通り、俺たちは予約していたホテルの一室で寛いでいた。

  女子三人組はでっかいベッドでゴロゴロ―――もうちょっと服装は自重してほしい。

  俺はそこらへんのソファーで牛乳をグビグビ飲んでいる。

  断わっておくと、俺となのはたちはちゃんと別室である。

  色々と立て込んだ話もあるので俺がこいつらの部屋にお邪魔しているのだ。

  ……別に俺が普段は部屋に一人だけな事に不満は無いよ? うん。

  ただちょーっと寂しいかなって思ったり思わなかったり―――って誰に言ってんだ、俺。

  まあそんなこんなで空港火災での死亡者はなんと奇跡的にゼロ。

  怪我をしていたりする人はやっぱりいたのだが、それでも死亡者ゼロとは本気で奇跡だ。

  俺も無色とあれだけ暴れたから気が気ではなかったのだが……




 「そうそう、その無色や。実際誰なんあの人」

 「分かりゃ苦労しねえっての」




  再び俺の眼の前に現れたあの謎の男―――無色。

  奴に対しての情報はあまりにも少なく、管理局のデータベースにすら存在していない。

  奴に関してはまったくの謎なのである。

  今回で分かった事があるとすれば奴の個人での戦闘力も半端ではないという事と、無色という偽名臭いのを名乗ってるという事だけ。




 「あの人単独でもそんな強いん?」

 「ああもう半端ない。長、中、近、全部押されっぱなしだった」

 「うわあ……なんやそのチート」




  はやてが辟易するのも頷ける。

  近距離では自前のパワーと格闘術、中距離では魔力に物を言わせた物量攻撃、長距離では本気ででかいのがポンポンと飛んでくる。

  その上防御が以上に堅いときた。ユーノ並みは確実だろう。

  加えて、どこから湧いて出て来るか知らんあの大量の黒竜―――とてもじゃないが手に負えん。




 「……まあ、狙いはやっぱりレリックなんかね」

 「どうなんだろう、私たちが回収した時も現れたし……なら今回のもやっぱり?」

 「分からない―――可能性は、否定できないけど」




  顔を窓の方に向ける。

  あの向こうでは、今は管理局員が必至こいて現場検証の真っ最中なんだろう。

  その結果は協力者でもある俺たちにも、ある程度の情報は入ってくる事になっている。

  つまりは、報告が来るまでいくら考えたって仕方が無いのだ。




 「はあ……頭切り替えよ」

 「そやね―――って事で話があんねん」




  ごろん、と寝返りを打ってそうはやてが言った。

  他の二人もいまだにゴロゴロ、実に話を聞く体勢では無い。




 「あんな―――今回の件で、局の対応って結構遅かったやんか」

 「ああ……俺は途中参加だからよくは知らんが、俺が来てからもだいぶ時間がたってたよな」




  どれだけ奴とやり合っていたかはぶっちゃけ考えちゃいなかったが……相当な時間やり合ってたと思う。

  そしてはやてが氷結魔法を使ったという事は現地からの救援がやっと来たという事。

  それまでのタイムロスはかなりのものだったろう。




 「うちらはたまたま近くにいたから良かったけど―――」

 「確かに……私たちが来ていなかったら、もしかしたらこんな風に上手くはいかなかったかもしれないんだよね」




  自惚れなどではなく、それは事実だろう。

  事実、なのはは倒れる石像の下敷きになりかけていた子を助けたそうだ。

  フェイトも危うく崩落に巻き込まれるところだった子を助けたと言っていた。




  それはつまり、こいつらがいなければその子たちの命は無かったかもしれないという事。




 「そう考えると、ぞっとするね……」




  フェイトが自分の体を掻き抱く。

  嫌な光景でも想像してしまったのだろう……それは、俺にも同じ事が言えた。

  あんな光景を見ていると、嫌でもあの光景が目に浮かんでくる―――




 「うん……せやから、うちは今回の事でこういった有事に迅速に動ける組織の必要性を再認識したんや」

 「―――ふむ」




  管理局はぶっちゃけると肥大化した警察だ。

  次元世界規模で犯罪を取り締まる法律組織。

  だが、その管理規模や組織体の大きさから動きは鈍い―――




  だが、そこに自由に動ける下位組織が入ってくるとどうなるだろうか。




 「だからうちは―――やっぱり、自分の部隊を持ちたい。どんだ事にでも対応できる―――少数精鋭のエキスパートで」

 「はっは、そらまたぜーたくな」




  有能な人材ってのはどこだって欲しがるものだ。

  それを少数とはいえ掻き集めて部隊を作るって―――

  こいつが言っている事は、決して冗談では無い分余計に性質が悪い。




 「今回の様な災害救助、犯罪者やロストロギアへの対策も、ミッドの地上部隊は遅すぎる」

 「だから―――動けないのなら自分たちで動く、だね」




  周りが動かないのならまずは自分から―――実に正論だ。

  不満があるなら他人任せではいけない。まずは自分から動かなければ何も変わりはしない。

  それをこいつは今まさに、実践しようと言っている。




 「どこまでできるか分からへん。躓く事も、失敗する事もあると思う。
  せやけどもし、うちがそんな部隊を立ち上げる事になったら……」




  はやてが体を起こす。

  そのまま、俺たちを見渡して―――




 「みんな、私に力を貸してほしい」










  ―――そうして、また少し時が流れた。




















  〜A’s to StrikerS〜
         Act.29「蒼橙の翼」




















  ―――0073年8月初頭。




 「はー、ひっさしぶりの休暇だー!」

 「あんまりはしゃいでんじゃないわよ。やる事はたんまりあるんだから……」

 「まーまー、こういう時くらい外で食事でもしようよティアー」




  ミッドチルダ南部にある陸士386隊の宿舎―――

  そこに私ことスバル・ナカジマとコンビであるティアナ・ランスター、通称ティアは久しぶりの休暇を迎えていた。

  訓練校を卒業してそのまま陸士386隊の災害担当へ入隊してから早3ヶ月。

  訓練校時代とは比べ物にならないハードワークに目を回しながらも夢に向かって確実に足を踏み出そうとしていた。




 「今日は新しくデパートもオープンするって話だしさ、そこ覗きに行こーよー」

 「……ったく、しょーがないわねー」




  愚痴を零しながらも、なんだかんだでティアは私に付き合ってくれている。

  それどころか卒業後の配置部隊とグループまで一緒になっちゃって―――ティア曰く、そろそろ腐れ縁ではなかろうかって。

  私としては、そういった同年代でこれだけ親しい人って珍しいから嬉しいんだけどね。




 「ほら、もうすぐ開店時間なんじゃない? 行くわよ」

 「あはは、待ってよティアー」




  さー、今日も元気に頑張って行こー!




















                    ◇ ◇ ◇




















 「あー、ったく……夏はどこでも暑いのな。世界間で時差とか無いのだろうか……」




  燦々と照り付ける夏の太陽。

  夏は暑い、というのはミッドでも同じらしく―――地球ほどでもないにしろ熱帯地獄を味わっている。

  ミッド南部の都市がいを歩く俺―――ただいま飲み物持ってこなかった事を後悔中。

  つか、ここも微妙に温暖化にやられてはいないのだろうか……

  車の原動力とか何使ってんだろ。




 『さて、今日は新しくオープンするデパートの特売品でしたっけ』

 「ああ……何で俺がこんな使いっぱしりみたいな真似をせにゃならんのだ」




  脳裏に浮かぶのは机越しにニッコリと有無を言わせない語調で“頼みごと”をしてくる教会騎士。




 『陣耶さん、今日新しくオープンするデパートでこれが安売りされているんです。ちょっと買ってきてはくれないでしょうか』

 『いや待て、何で俺が……』

 『そうですか、行ってくれますか! ありがとうございます、陣耶さん』

 『…………………………』




  もうあのやり取りも何度目になるだろうか……

  カリムからどうでもいい様な雑用を頼まれる事多数。

  “上司命令”とかいう事もあって碌に逆らえない辺り嫌になる。

  あんな依頼、受けるべきじゃなかったか―――と軽く後悔。

  後悔先に立たずとはよく言ったものだ。




 「しかも、買い物の内容がゲームソフトかよ……」

 『それでいいんですかね、教会騎士団』




  上として色々と問題があると思わないのだろうかあの廃人騎士は。

  やる時はやります、と本人は言ってはいるが―――はてさて。

  と、目の前にガヤガヤと人だかりが見えた。




 「あー、あそこか」

 『目的地に到着ですね』




  デパートの屋上からでかでかと垂れ下げられた本日オープンと書かれた垂れ幕。

  開店初日という事もあり、数々の食材やブランド品、生活用品や玩具まで格安の値段で売られる今日。

  開店前からえらい賑わい様である。

  こういう光景は閉店セールスなんかで何度か見た事があるなあ……あれは文字通り戦争だった。




 「さて、ゆっくりめに来たからそろそろ開店時間の筈なんだが……」

 『ドンピシャですよ。たった今、開店時間になりました』




  それに合わせて突然ドッと動き出す人の波、波、波。

  我先にと次々に店舗の中に押し入っていくおばちゃんたち―――やはり戦場である。

  まあ俺はそんな戦列に加わるのが今日の予定ではないので、後ろからその様を眺めているとしよう。

























 「あーと……ゲームコーナー、ゲームコーナーっと」




  店舗内の案内板に沿って歩を進めること数分。

  最新のゲーム機器やソフトが立ち並ぶゲームコーナーに辿り着いた。

  所々でゲームのPVが流れていたり試遊台があったりしている。




 「うーん、ミッドのゲームも中々のもんだな……今度手を出してみようか」

 『まあ、何故か遊びの文化だけは地球の方が上なんですけどね』




  ほんと何でだろ。

  アレか、魔法とかそういったファンタジックなのが一般的に無い分だけ妄想力が働いたりしているのか。

  それともただ単に柔軟な発想をする人材が少ないだけか……

  カリムも前々から地球のゲームにご執心だし。

  恐るべし、地球の誇る廃人文化。




 『いっぱしに誇れるような事でもないですよね』

 「そこ、野暮なツッコミはいけません」




  そんな廃人文化のおかげでお前の名前がクラウソラスになったのだ、というのは伏せておこうかね。

  で、予約してあるらしいのでレジにずらっと並んでいる長蛇の列に俺も加わる。

  つーか長い……

  アレか、どこの世界だろうがこういった廃人文化はかなり時間を食うというのは変わらぬ摂理なのか。

  並んで、待って、10分、30分、1時間……










  ―――結局、俺がレジに辿り着いたのは2時間後の話だった。




 「……お会計はこちらになります」

 「はい、どうも」




  ―――非常に痛い眼で見られた。

  何かと思い、手渡された袋の中身を覗いてみる。




 『第108次スーパーヤンデレ大戦』―――




  ちくしょう、後でケチつけてやる……




















                    ◇ ◇ ◇




















 「あ、ティアティアー! アイス安い、買って良い!?」

 「あんたねえ……今まで散々食べておいてまだ入るの?」




  とは言われても欲しい物は欲しいのでーす。

  という事でこれとこれとこれと……あとこれー。

  ひいふうみい―――ああ、これだけのアイスが食べられるかと思うと幸せー!




 「ティアにもこの幸せな気分お裾分けしてあげるからさー」

 「あんたは自分が食べたいだけでしょうに」




  へへー、ばれちゃった。

  などと言いながらも安売りのアイスを買い物かごに次々と放りこんでいく。

  徐々にかごの中を埋め尽くしていくアイスたち……

  んー、すっごく至福の時間を過ごしている気分!




 「んー、今なら凶悪な犯罪者相手でもこの幸せをお裾分けしてあげられそうな気分」

 「あんたね、そんなので丸く収まるならこの世の中どれだけ平和になってるか……」

 「あはは、だいじょーぶだいじょーぶ」




  お会計を済ませてー……15個でなんと1200円! 安いねえ。

  アイスを買って私はすこぶるご機嫌。

  ドライアイスも入れてもらってこの暑い中でも安心安全。

  という事で、今度はティアがアクセサリーの方を見に行きたいとの事なのでそちらに来てみた。




 「わー、品揃えも良いけど人だかりも凄いねー」

 「流石にブランド品が安売りされているだけの事はあるか……欲しいのあるかなあ」




  ティアはこの機に何か買っておきたい物があるらしい。

  んー、確かこの前に何か欲しいとか言っていたよね、確か……

  えーと―――そう、巷で最近流行っているブレスレットだ!




 「じゃあティア、私あっち探してくるね」

 「はいはい」




  いつもの事だ、とティアは何やら投げやり。

  そんなティアとは反対側の方を物色して―――

  ……ないなあ。

  やっぱり流行の品だから人気高いのかな?

  レジに行ってもそれらしい物は見当たらないし……

  いやいや、大丈夫まだきっとある!

  いつもティアには迷惑をかけているから、たまには買ってあげたりして恩返しも良いかなー?

  うん、それいい。決定、採用。

  そうと決まれば早く見つけて―――










  途端、頭に鈍い痛みが奔った。










 (……また、だ)




  急に視界が点滅する。

  ガンガンと痛む頭、ズキズキと裂ける脳。

  少しだけ景色がぶれて、痛みのあまりに頭を押さえる。




  そうして、普段では見えない筈のモノが―――見えた。




 (本当、何なんだろう……これ)




  目に映る人―――いや、生物全てに見える黒い霧。

  一人一人でその大きさ、濃さなんかは違っているんだけど……共通しているのは、ソレを見ていると酷く嫌な気分になる事。

  そして―――コレが見える時は、決まって霧が一番濃い何かが悪事を働くという事……

  今回もその例に漏れずに、レジに並んでいる男の人から姿を塗りつぶすくらいの黒い霧が見えた。

  だけどそれはすぐに見えなくなってしまって―――




  ……ティアに通信を繋げる。




 「ティア、今レジに並んでいる3番目の男の人―――見える?」

 『は? 見えるけど……また“見えた”わけ?』

 「うん」




  はあー、と画面の向こう側でティアが盛大に溜息を吐く。

  それはもう聞き飽きた、とでも言いたげだ。




 『あんたのそれ外れた事無いしね……性質悪い。いっそスキル申請でもする?』




  とは言っても、自分でも正直コレが何なのか掴みかねている。

  最初は中身の不具合かと思って診察も受けたけど、特に異状も見受けられなかったらしいし……

  2年前から急に見え始めたコレは、体の事と一緒に本当に一部の人以外には秘密にしている。




 「あはは……で、多分強盗だと思うんだけど、どう?」

 『まあこんな場所だし、レジなら目的は金銭でしょうね。周りにそれ以外に怪しい人物は?』




  言われて眼を凝らしてみる。

  だけど、アレはもう見えない。

  自分の意志で自由に見えるんじゃなくて、突発的に“見えて”しまうそれ。

  そんな事も含めて、色々と自分の体の事が不安だったりする。




 「ごめん、分かんない……から、囮になる」

 『そ―――ってちょっとあんた待ちなさい!』




  これ以上通信をしていると止められそうなので切る。

  ごめんティア。

  けど、目の前で誰かがつらい眼に遭うかもしれないのにそれを放っておくのは、嫌なんだ。

  ティアならちゃんと管理局の方にも連絡を入れてくれるだろう。

  だから―――




  私は、何食わぬ顔でその男の人の傍まで歩み寄った。




















                    ◇ ◇ ◇




















  買う物は買ったのでとっとと教会に向かおう―――

  そう思っていた矢先、それは突然起きた。




 「おらあ、金を出せえ!!」

 「……あ?」




  突然辺りに響いた男の声。

  しかも内容が実に物騒である。

  何事かと思って声のした方向へ目を向けると―――蒼い髪の女性が男に銃を突きつけられていた。

  ―――いわゆる、強盗というやつだろーか。

  レジの女性にも銃を突きつけたりして脅しているのがここからでも伺える。




 「さっさとしやがれ! こいつがどうなっても良いのかよ!」

 「う……」




  あーあーあー、アレは馬鹿の類かね。

  言葉の端々に焦っている事が伺える―――からには、追いつめられると何でもやってしまいそうなタイプだ。

  突発的な犯行なんだろうが、この手の奴はある意味用意周到な奴より性質が悪い。

  さて、どうしたもんか―――




 「とりあえず単独犯なのはほぼ確定なんだが―――人質がネックだな」

 『ここ一、二年で場馴れし過ぎでしょう……人質云々は同意しますが』




  男は見るからに焦っていて、レジの女性も色々と切羽詰っている。

  人質の女性も何か冷静だし。

  どうにかして気を逸らす事が出来ればなあ―――ん? 何か違和感なかった?

  えーと、焦っている男とレジの女性、冷静な―――人質?




  ―――ふむ。




 「……クラウソラス、人質はどっちだと思う」

 『人質、ですか? ふむ……ああ、なるほど。これは確かに』




  うし、ならちょっと気を逸らせばそれで良いかね。

  何か丁度良いのは―――ああ、手に持ってるじゃんか。




  右手に魔力を込めて、持っている袋をぶんぶんと回す。




 「魔力よーし、軸線よーし、遮蔽物はナッシング」




  大きく右腕を振りかぶる。

  ピッチャー第一球―――




 「投げましたァッ!!」




  ブォン、と風切り音を立てながら男の顔面に向かって直進する袋。

  ギュンギュンと加速していくそれは綺麗に―――見事なまでに奴のおでこにクリーンヒットした。




 「あだっ!?」

 「っ、今―――!」




  瞬間、好機と見た人質が男の腕を掴んで肩に担ぐ。

  そのまま右足で男の足を後ろへ払って―――




 「う、りゃあッ!!」




  見事な一本背負いで男を地に叩きつけた―――




 「ぐ、ぇ……」

 「おー、見事見事」




  男は地に叩きつけられたカエルの如くピクピクと痙攣している。

  ありゃ格闘技かなんか嗜んでいると見た。

  実に型に嵌まった一本背負いだったなあ―――見事に決まっていたし。

  そのまま女性が男を取り押さえ、周りからは拍手喝采なんて起こった。

  さて、今の内に退散退散―――あ。

  あーと……そういや投げたやつってどこ飛んだんだっけ?

  男がいた辺りを周りの人ごみに紛れながら捜索。




  ……あれ?




 「あの―――」

 「ん?」




  と、急に誰かから声を掛けられる。

  振り向けばオレンジ色の髪をツインテールで纏めた女性―――




  ……誰?




 「探しているの、これですか?」

 「お、見つからないと思ったら拾われていたのか」




  投げるところを見ていましたので、とはツインテール談。

  なんでも、男にヒットしたのは良いがあのままでは投げた物が下に落ちていたのだそうな。

  流石に中身も下の階に叩きつけられて無事とは保証できんしな……うん、感謝しなければ。




 「ありがとな、わざわざ拾ってくれて」

 「いえ、こちらこそ知り合いを助けて頂いて―――」




  お互いにペコリと頭を下げる。

  うん、面倒な事態にならずに良かった。

  巻き込まれたらシャレになりませんしねえ……ただでさえ時間が差し迫ってるというのに。




  ん……? 時間……?




 「ああやっべ! もう後一時間しかねえ!」

 「へ?」

 「そんじゃ俺はこれで。どーもありがとう!」




  拾ってくれた女性への挨拶もそこそこに速攻で方向転換をして出口までダッシュする。

  うあああ、これで遅れたらカリムの奴になんて言われるかー!




 『市街地では気軽に飛べないのが辛いですね』

 「せめて転移を使わせてくれー!」




  第一世界ミッドチルダ。

  一部を除き基本的に平時での魔法の仕様はタブーである。




















                    ◇ ◇ ◇




















  ―――行ってしまった。

  言うだけお礼を言った後は怒涛の勢いで去っていった男性。

  時間がどうのと言っていたけど、誰かと待ち合わせでもしているんだろうか……?




 「ふー、疲れた」

 「調子に乗って犯人を捕縛したりするからでしょ。実行犯が単独だっから良かったものの……」




  強盗犯を簀巻きにして拘束した猪突猛進馬鹿が帰ってきた。

  あー、あとで上からお説教貰わなきゃいいけど……

  まあ事前に分かる、なんて言っても普通は理解できないだろうし―――傍から見ればたまたま現場に居合わせただけだし。

  うん、なんとかなるでしょ。




 「そういえばさ―――あそこでアシストをくれた人って誰なんだろうね」

 「さあ……まあ、言える事があるなら―――」

 「? どしたのティア」




  私の脳裏に浮かぶのはキャッチした際にたまたま袋から落ちたゲームソフトのタイトル。

  『第108次スーパーヤンデレ大戦』……




 「ねー、どしたのー?」

 「何でもない、何でもないわ……」




  とりあえず、相当イタイ人だというのは確定だろう。

  丸く収まっといえば収まったが、オチだけが最悪だった―――




















                    ◇ ◇ ◇




















 「着い、たーッ!」




  やっとの思いで辿り着いた扉を勢い良く開け放つ。

  その扉の向こう側―――奥の大きな窓から差し込む日差しの中に俺の現上司が優雅に紅茶を嗜んでいた。

  辿り着いた感動もそこそこに、部屋の中へと足を進める。




 「―――1分と20秒の遅刻ですよ、騎士陣耶」

 「へーへー、すいませんね騎士カリム」




  部下が上司に対する態度としては非常に頂けない態度で返事をする。

  だが、そんな不遜な態度を見せられてもカリムはちっとも怒る素振りを見せない。

  むしろクスリ、と笑みを零した。




 「部下としての振る舞いがなっていませんよ、陣耶さん」

 「バーロー、部下と上司っていうのはあくまで表向きの関係っつー契約だろ」




  言って、買ってきた品物が入っている袋を渡す。

  それを受け取ったカリムはパパッとソフトの入っているケースを取り出し、実に手慣れた手つきで外包みを取り払う。

  手慣れすぎて一種の芸術に思えない事もない。きっと錯覚だろうが。




 「あー、これですこれ。感謝しますよ、陣耶さん」

 「どーいたしまして。……しかし、人の趣味にどうこう言うつもりはないが」




  これは流石にイタイと思うのよ、俺。

  これを購入する時だって店員さんが―――イタイのを見る眼で、俺を……




 「うがあああああああああああああ」

 「あらあら、どうしました?」




  うあああ、もうあそこに顔出したくねえええええ。

  むしろ恥ずかしくて顔出せねえええええ。

  くそ、何だって俺はこんな事を引き受けたんだ……!

  というかだな。




 「何でわざわざ俺が買ってこなきゃならんのだ! 今までの様に自分で買いに行けよ!?」

 「あら、だってそれじゃあ―――」




  そこでにぱっと邪念100%スマイル。

  実に下らない答えが返ってくる予感がひしひしと。




 「流石にそれなりに偉い教会騎士がそんな事をしていると体面的にアレなので。あと面白いですしめんどくないですし」

 「最後のが本音だよね、絶対ッ?!」




  何で俺の周りはこんな人災系の奴が多いんだよ!?

  俺が何かしたか、ゴッド!

  喉まで出てきたこの世への嘆きを差しだされた紅茶と一緒に飲み下す。

  はあ……仄かな甘みがナイスですな。




 「陣耶さんって、もしかして誤魔化され易い性質ですか?」

 「さー、どーなんだろ?」




  あまりそこら辺を意識した事無いし。

  だが誤魔化され易くは無くとも、無理やり押しきられ易いって事は黙っておく。

  くそう、何だって俺がこんな目に……いつか仕返ししちゃる。

  主にタヌキとかタヌキとかタヌキとかに。




 「さて……それではそろそろ真面目なお話を致しましょう」

 「―――りょーかい」




  そこら辺にあった椅子に腰かけてカリムと向き合う。

  仕事モードに入ったらしく、目にもさっきまでの様なおふざけの色は見て取れない。

  なら、いつものように定時連絡を行うとしよう。




 「そっちの方では何か掴めたのか?」

 「いえ、依然尻尾は掴ませてくれませんね」




  首を横に振り、今回もダメだったと告げられる。

  そうか、教会の方でも未だに引っかからないか……

  ほんとにどこに隠れてんだか。




 「引き続き捜索は行ってはいますが―――そろそろ、別の方向から探ってみるべきかもしれません」

 「今までは奴らの活動地域を探ってはきたが―――はあ、情報が少ないなやっぱ」




  トレディア・グラーゼ……オルセアの活動家。

  どのような経緯を経たのかは知らないが、屍兵器マリアージュを保有している。

  おそらくはマリアージュのコアを生成する冥王イクスヴェリアも奴の手の内にある可能性が高いという。

  そして傭兵としてトレディアに雇われているケーニッヒ・アストラス……

  こいつらは二年前に俺を取り逃がしたことに危惧を抱いているのか、あの事件以降は表舞台に姿を現さなくなった。

  だから、どうにも足取りが掴めない。




 「困りましたね―――このままでは貴方との契約が果たせるかどうか」

 「まあ、なんにせよこの立場はそれなりに役に立ってるんだ。おかげで今までやってこれたんだし……」




  ―――2年前の事だ。

  俺は―――俺とカリムは一つの契約を結んだ。

  ある事情に協力する代わりに、トレディアとケーニッヒを追うためのバックアップをやってもらう。

  そのために得た立場が今の俺―――教会騎士団所属、カリム・グラシア直属の騎士、皇陣耶。




 「そっちにはまだ時間があるんだ。それまでに決着を着ければいいだけの話だろ」

 「簡単に言ってはくれますが、肝心の決着を着ける相手が見つけられないのでは意味が無いではないですか」




  ごもっともである。

  煮え切らない気分ではあるが、焦ったとしてもどうにかなる事でもない。

  だが、だからといってゆっくりしても良いという訳でもないのだ。

  今こうしている間にも、奴は着々と何かへの準備を進めている。

  あれから二年―――奴が目立ったアクションをとる事は無かったが、そろそろ動いたとしても不思議ではない。

  二年は、それほどまでに長かった。

  時間は―――あまり残されてはいないと考えた方がいいだろう。




 「さて、それじゃあ俺はそろそろ行くわ」

 「あら、もう少しゆっくりしていっても良いんですよ」

 「俺を話相手にして仕事をしないだけだろ、ちゃんと仕事をこなせっての」




  それに、カリムにやるべき事があるように俺にもやるべき事がある。

  騎士である前に高校生である俺にはやるべき事がたくさんあるのだ。

  主に、勉学とか。




 「そうですか―――残念ですが、ここは見送ると致しましょうか」

 「そうしてくれ」




  椅子から腰を上げて部屋の出口である扉へと向かう。

  そのまま取っ手を回して扉を開けて……一度だけ振り返った。




 「そんじゃまた。シャッハとロッサによろしく」

 「ええ、また今度。陣耶さんもはやてによろしく」




  了解、とだけ返事をして部屋を出る。

  さて、と……




 「今日はもう取り立て用事も無いし……家に帰って宿題を片付けますかね」

 『悲しい学生の性ですねえ』

 「あー、うるせい」




  さて、何から片付けようかね―――慣れている数学辺りから片付けるか。

  本日の天候は快晴也。

  俺の宿題もこの天気と同じような転機になればいいのに―――などと祈りながら帰路についた。



































 「陣耶さーーん! 何ですかこれはーーー!!」




  まあ、そんな平穏は訪れはしなかったのだが―――

  はあ……俺の平穏ていつ訪れるんだろうね?

  お前ら、平穏の無いこんな世界で満足かよ―――俺は嫌だね。

  だから俺に平穏をください。ほんと切実に……




  空を仰ぐ。

  そこには憎たらしいほどに澄み切った蒼がどこまでも広がっていた。





















  Next「繋ぎ、交わる」





















  後書き

  やっと本編再会。厄介な行事が終わって一段落です。

  スバル&ティアナというstsではお馴染みのコンビが今回でようやっと本格的に登場です。

  実はスバルだけなら前々からちょくちょく出ていたりしますが。気づいてたかな? そんな予想をしていた人いるかな?

  というか、また原作改変……

  これ以上改変について行けんわ、って人はこれ以降も色々改変されちゃうんでご注意を。

  そんで陣耶もとうとう騎士に。

  組織を毛嫌いしていた陣耶がなぜこのような事になっているのか―――まあ理由としては至極単純ですが。

  関係無いけどBALDR SKY dive2をオールクリア。ただしノーマルで!

  ハードの壁は高い……とりあえずラスボスはノーマルなら1コンボkillできるんだけどなあ……ホットドガーへの道は遠い。


  それでは、また次回に―――






作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。