目が覚めて最初に思ったのは―――現状把握だった。




 「―――?」




  ……体、重いな。

  何で俺、寝てるんだっけ……

  ―――頭、あんまり働かねえな。

  なんか、ボーっとして……酷く、眠いや。

  それにしてもどこだろうか、ここ……

  少なくとも、俺がつい最近寝泊りしていた場所とはえらい違いだ。

  文明機器ばっかで、自然なんて見当たらない白い部屋。

  傍からはピ、ピ、と無機質な音が聞こえてくる。

  ……そういや俺、ベッドで寝てるんだな。

  寝てても何も分からないな……起きるか。




 「ん……づっ?」




  あれ……起きれない。

  体を起こそうとしても痛みが奔って、力も碌に入らないし……

  何だろう、やっぱ眠いからだろうか。

  ―――けど、見覚えあるよなここ。

  どこだっけ……




  半ば働かない頭で考えを巡らせる。

  が、意識まで朦朧としている状態で碌な考えができるはずもない。

  いっそ、このまま寝てしまおうか―――




  と、そこでガチャリと音がした。




 「……ん?」

 「ぁ―――」




  扉に立ってるのは―――なのはだった。

  何やら大層驚いた顔をしているけど……って、泣きそうな顔になってる。

  いや、何で―――




 「陣耶くんっ!!」

 「ぉ、あ……?」




  思わずといった風に寝ている俺の傍までなのはが駆け寄ってきた。

  それで、力の入らない俺の管が繋がった手を握って―――管?

  目に入った物が疑問になって、その先を見る。

  管が繋げているのは、俺の腕と吊るされた液体入りのパック。




 「良かった……目、覚めた……!」

 「―――ぁ……そっか」




  俺、今いるの病院なんだ。

  それだけをやっと理解して、俺はそのまま引きずられるように意識が闇に堕ちた。




















  〜A’s to StrikerS〜
         Act.27「交錯、変調、選択」




















  目が覚めてから数日して、俺も人並みに起きていられる程度には回復した。

  ここまで来れば後は一気に回復できるとの事なので、俺はあと数日の内には退院らしい。

  それについて脇腹の抉れた部分はどうなったのかという事なのだが、増肉剤とか何とかでの人工物なんだと。

  馴染むまでには時間がかかって痒みとかあるらしい。

  考えると結構ハードかもしれない……

  豪い金額がかかったらしいが、我が家の奥の手ブラックカード(提供:グレアムさん)で乗り切ったとか。

  ただ、やっぱりあんまり気軽に使える物でも無い。

  泡銭の様なもんだからな。やっぱ自分で稼いだのでないと。

  が……世話になりっぱなしだ。いい加減何か仕送りでもしたい処である。

  そんで―――










 「そっか……クラウソラスが」

 「ああ。あいつがこちらにSOSを発信していたから良いものの、そうでなければ今頃三途の川を渡っていたぞ?」




  あながち否定できない、ってーかあん時は実際に死んでもおかしくなかったしなあ……

  本当、よく拾えたもんだよな―――俺の命。

  またでっかい借りが一つできたが、まあとりあえず。

  目の前にいる俺を助けてくれた奴ら―――なのは、フェイト、はやて、トレイターに頭を下げる。




 「ありがとう―――お陰で、俺は今生きている」

 「ええって水臭い……まあむちゃな事をしたって事に関しては謝ってもらわなあかんが」




  本当に、ありがとな……

























  で、気になってた事が一つ。

  あれからケーニッヒとトレディア、それとあの機械兵器がどうなったか。

  そこら辺を詳しく聞いてみたところ、まあ逃げていったらしい。

  どんな手品を使ったのか集落一帯の機械兵器―――更には住人の死体も含めて、転移魔法でどこかへと姿を消したらしい。

  調査によれば生存者は……ゼロ。

  あの集落に住んでいた者で生きている人は―――もういない。




 「あと、刀を持っていた人が言っていた事なんだけど―――また会いましょうって」

 「……」




  ……ケーニッヒ。

  奴は―――そしてトレディアとは、一体何者なのだろうか。

  フェイトとはやても調べてくれているが、まだ詳しい事は分からないらしい。

  ただ―――ほんの少し、辺り障りくらいなら分かったとの事だ。




  ケーニッヒ・アストラス。

  奴は裏ではそれなりに名の知れたフリーランスの傭兵らしい。

  近代ベルカの使い手で、本人は殺戮趣向があると―――




  トレディア・グラーゼ。

  管理外世界、オルセアの革命家。

  なるほど、だから世界を変えるだの言っていたのか。

  本人には大して目立った項目は無かったとフェイトは言う。




  そして……一番の謎があの機械兵器だ。

  ざっと調べただけではあの二人があのような機械兵器を所有しているとの情報は無いらしい。

  だとするとアレの出処の特定が難しくなってくるが……

  まず十中八九確実なのは、トレディアがアレを使って革命とやらを起こそうとしている事だ。

  それに二人が出てきてから奴らは俺に対して攻撃を仕掛けてこなかった。

  となると、あの二人の内どちらかが奴らを統率できる事になる。

  出ているヒントとしては液体燃料が詰まったボディ、持って行かれた死体、統一されたフォルムと思考……

  駄目だ、考えたってわけ分からん。




 「とにかくまずは体を治せ。そうでなければ話にならん」

 「おーう……って、そーいやクラウソラスは? トレイターが?」

 「ああ、いやあいつは―――」

























 「こんちはー……お、いたいた」




  ぱっと見ただけでは何も分からない精密機械がひしめく場所―――ここは時空管理局に登録されている研究所の一室。

  トレイターに聞く処によると俺がクラウソラスを酷使したせいでかなりボロボロなのだとか。

  エクセリオンに、ディバインセイバーに、果てにはグランシャリオ……

  エクセリオンの状態でのディバインやグランシャリオはトレイターがいないとクラウソラスにかなりの負担が行く。

  この前は徹底的に痛めつけられたから……それも祟ったのだろうが、済まない事をしてしまった。

  という事で担当医に外出許可を貰ってここまで出て来たのだ。

  流石に時間制限はあるが―――まあちょっと話をするくらいなら大丈夫だろう。




 「あ、陣耶さん」

 「シャーリー、だったか? 面倒見てくれてありがとな」




  メンテにはこの前知り合ったシャリオ・フィニーニ、通称シャーリーが買って出てくれたそうだ。

  デバイスマイスターの資格を持ってるとかで中々に腕は良いらしい。

  マリエルさんも診てくれているし……とりあえずは大丈夫か。

  カプセルっぽいのに浮かんでいるクラウソラスに声をかける。




 「……よう、元気にしてたか?」

 『まあ一応。そういう貴方は―――』




  どうだ、という言葉は―――なぜか続かなかった。

  どうしたというのだろうか。




 「クラウソラス?」

 『……いえ、くれぐれも抱え込まないように』

 「? ああ……」




  何の事だか分からんが、まあ一応首肯しておく。

  クラウソラスはチカチカ光ってて―――なんだ、顔があれば溜息吐いてそうな気がするのは気のせいだろうか。

  はあ……




 「で、陣耶さん。少々お話があるんですが」

 「ん? 何?」

 「手早く説明するとまあ―――ぶっちゃけ改造プランについてですね」

 「いやいや待てオイ」




  何をいきなり言いだすのか―――

  何か、壊れたから強化しましょうってこのパターンどっかで見た気がするが……それにしても唐突すぎやしないか?




 「いや、それがそうでもないんですよ。聞く処によるとクラウソラスさんって近代ベルカのデバイスのプロトタイプですよね?」

 「まあ、そうだが……」




  俺が手にしているクラウソラス。

  元はと言えば、こいつは近代ベルカのデータ収集用だったのをグレアムさんが俺に持ってきてくれた物だ。

  ベルカに適性のあった俺に丁度良いと当てつけの様な気もしないでもないが……

  まあそれは置いておいて。

  そう言った事からこいつは近代ベルカ式デバイスのプロトタイプ、初期ロールアウトした代物。

  つまりは結構なお古。




 「で、プロトタイプはデータ収集が主でしたけど……今では近代ベルカもすっかり普及し始めました」

 「そういや、データ渡している時にそんな話も聞いたっけか……?」




  あの時って大抵が下らない話で終わるから8割スルーしてたなあ。

  研究の話云々されたって全く理解できんかったし……

  それでも当初の契約もあるので、我慢して付き合っていたのだ。




 「なので、この際その部分を撤廃しちゃって陣耶さん専用に徹底的にチューニングしちゃおうと」

 「おお……!」




  俺専用、という処にロマンを感じる!

  専用、良いよね専用。セレブっぽくて。

  金持ちな気分になれそうだよ。




 「まあ実はこれ、クラウソラスさんの提案なんですがね」

 「……お前」




  反応は無い。

  ただ、チカチカと光っているだけ―――

  だけど、それで充分だった。




 「―――それじゃ俺、そろそろ行くな。後ヨロシク」

 「あ、プランは聞いてかないんですかー?」




  手を振ってそのまま扉を出る。

  ―――さて。















  クラウソラスは先を選んだ。

  俺もいい加減、先を決めなければいけない。




















                    ◇ ◇ ◇




















 「……ジンヤ?」




  ちょっと遠慮がちに病室の扉を開ける。

  今は丁度、いつもならジンヤがお昼寝をしている時間だから。

  邪魔をしたら悪いなー、と思って静かに入った。

  入ったけど……あれ?




 「いない……」




  病室のベッドにジンヤの姿は無かった。

  ―――トイレかな?

  そう思って暫く待機してみるけど、一向にジンヤが帰ってくる気配は無い。

  どこかに出かけたのだろうか?

  入れ違いになってしまったのなら失敗したかなあ。

  担当医の人にジンヤがどこにいるか聞いてみようか―――




  そこで、病室の扉が開いた。

  扉を開けて入ってきたのは、ジンヤ。

  何だ、入れ違いにならずに済んだ。




 「ジンヤ、お邪魔してま……す?」




  あ、れ……?

  何だろう―――違う。

  いつものジンヤとは、何か、雰囲気が……




 「ん? ああ、フェイトか。見舞い?」

 「え、あ、うん。そうだけど……」




  気のせい、かな?

  私と会話をしているジンヤは至っていつも通りだ。

  元気、というか覇気、というか……そんなモノが、あれから感じられないけど。




  ―――たぶん、あの時の様に引き摺っているのだと思う。




  私たちがあの場所に駆け付けた時は、酷い有様だった。

  そこら中に散らばる死体、集落を焼く業火、血だらけで倒れる―――ジンヤ。

  私やはやては、仕事柄そういった場面にはいくつか遭遇している。

  そのせいか……少しだけ、慣れてしまっている。

  だけど、だけどなのはは―――

  ずっとそんな世界とは無縁の生き方をしてきたなのはは―――あの光景に、崩れそうになっていた。

  涙を流して、嗚咽を漏らしながらも……ジンヤを探していた。

  そしてジンヤを見つけた時―――あの距離からジンヤを助けられたのは、なのはだけ。

  人に対して魔法を使うことを怖がっていたなのはが―――

  なのはをそこまで追いつめてしまうほど、あの光景は酷かった。

  そしてジンヤにとっても、あの光景は相当辛い物の筈だった。

  ジンヤのトラウマにもなっていると聞いている、火事―――

  その中で大切な人を喪ったジンヤは、あの光景を見て何を想ったのだろうか……




 「えと……体調の方は、どう?」

 「元気も元気。この調子ならあと数日の内に退院だとさ」




  だから、だろうか。

  彼のその笑顔が―――とても哀しく見えた。

  見ていてこっちが胸を締め付けられるような切なさ。

  手を伸ばしても届かないような感覚を、錯覚してしまう。




 「……フェイト。あの集落の人たち、全滅だったんだよな」

 「え……う、ん。そう、だけど……っ」




  瞬間―――




  背筋を、酷い悪寒が、襲った。




 「……ぇ?」

 「―――」




  そして―――




  酷く冷たい、眼を見た。





 「―――落し前は、つけてもらわねえとな」

 「ジン、ヤ……」




  そこにあるジンヤの顔は―――私が知っているどんな表情とも、違った。

  鋭く、研ぎ澄まされた刃の様な……冷めきった、眼。




  孕んでいるのは―――明確な殺意だった。




 「ジンヤ……何、を」

 「何もどうも、あいつらを探し出して借りを返す」




  違う、そうじゃない。そうじゃなくて……

  今の、今のジンヤは……!




 「っ、ダメ!」

 「フェイト?」




  気が付いたら、ジンヤの腕を掴んでいた。

  ほとんど無意識に、そうでないと……遠くに、行ってしまいそうで。

  ジンヤは自覚の無い顔をしている。

  だから多分、自分がどんな感情を秘めているのか―――

  あの、揺らぎの無い冷たい眼の下で―――確実な殺意があるのに、気づけていない。




 「ダメ、だよ……今のジンヤは、ダメ」

 「ダメって、何が―――」

 「上手く、言えない……言えないけど、今のジンヤは、怖いよ」




  どこか遠くに行ってしまいそうで。

  今すぐにでも消えてしまいそうで。

  笑顔が無くなってしまいそうで。




  取り返しの付かない過ちを、犯してしまいそうで―――




 「だから、ダメなんだよ……」

 「―――」




  どう言葉にすればいいかが分からない。

  思考じゃなく感情だけが先走って、言葉にすべきものが纏まらない。

  だから、こんな事しか言えなかった。

  今のジンヤは、危ういって……




 「俺もな……フェイト」




  そう言って、ジンヤの腕を掴んでいた手を解かれた。

  ジンヤを見る。

  彼の眼は―――やっぱり危うい。




 「それでも俺は―――止まれない」

 「ジンヤ……」




  その一瞬だけ、瞳が揺らいだように見えた。

  怒り、哀しみ、悔しさ―――そんな感情が、綯い交ぜになったような眼。




  ああ、やっぱり……彼はまた、あの光景を見ているのだろうか。




  どこか、遠くを見つめている―――

  こんな時なのはなら、どうするんだろう。

  あの二人は似ているから―――だから、あんなに分かりあえているのかもしれない。

  同族嫌悪なんて言葉があるけど、あの二人には当てはまらないのかな。




  彼は、自分のために戦うって、いつか言っていた。

  それは彼が彼でいられる場所を守るためだと―――自分の世界を守るためだと。

  とても身勝手な事かもしれない。

  それはつまり、自分の世界に入っていないモノは関係が無いって事だ。

  自分の満足できる場所があるなら、それでいいと―――他は良いって、そう言った。

  だけど―――それは同時に、優しさでもあると思う。

  自分の内側に入ってきたモノは、その言葉の通りに彼は守るのだろう。

  それが彼の決めた事、彼の戦う理由だから。

  だから、それ故に脆い。

  彼は、自分の世界は自分で形作られているのではなく、他人によって形作られている。

  誰しもそうかもしれない―――私だってそうだ。

  だけどジンヤはもっと……根本的な処で、他人がいなければ自身が形作れないんだと思う。




  ああ、そっか……

  だからあんなに、他人がいなくなる事を恐れてるんだ。

  だから、他人を奪おうと―――自分の世界を壊そうとするモノに憤る。




  そして、だからこそ止まれないのかもしれない。

  自分の世界を壊すモノを肯定してしまえば、それは自分を否定してしまうから……




  だからジンヤが怒っているのはある意味、あの住人たちの死に対してであり―――自分の世界を壊そうとすることへの怒りだろう。

  本質的には、結局何も変わってないんだ。

  自分の為に戦うと言った彼は、真実自身の為に戦おうとしている。




 「……」




  だから、まだ間に合う。

  いくら怖くても―――それでも、彼がその気持ちを持っている内はきっと。

  一人じゃ間違うかもしれないけど―――




 「なら……私も行く」




  誰かが一緒にいれば、きっと大丈夫。




 「フェイト?」

 「ジンヤがあんな目に遭ったのに、また一人で行こうとして……そんなの放っておけないよ」




  失いたくないから。

  大切な友達だから、助けたい。

  今の彼はどう言っても止まらない―――なら、せめて最悪の場面だけでも食い止められるように。




 「だからジンヤは一人で行かせない、絶対に」

 「お前……」




  正直、不安一杯だけど―――

  それでもなんとか、それだけは避けられるようにって。

  だから……




 「うん。もし私が足取りを掴んでもジンヤがその気にならないなら教えないから」

 「んなっ、テメエ揚げ足取りやがって?!」




  こんなのも気休めにしかならないって分かってる。

  ジンヤはきっと自分で動いて、それで自分で見つけ出す。

  どれだけ時間がかかっても、きっと。

  だけど、それでも―――それでも私は……




 「約束、だよ」

 「……わーったよ、くそ」




  今ここにいるジンヤを、失いたくはなかった。




















                    ◇ ◇ ◇




















  ―――怖い、か。

  何か、似たような事を前にも言われたっけか……ああ、はやてを泣かせた時だっけ。

  俺、そんな酷い顔してたのかね……




 「何を黄昏ている?」

 「いーや、べっつにー」




  今、病室にいるのは俺とトレイターだけ。

  フェイトは先程、トレイターと入れ替わるようにして帰って行った。

  それでその時、というかその前の会話で―――フェイトが、泣きそうな顔をしていたのがどうしても気になった。




  ―――怖い顔だと、あいつは言った。

  泣きそうな顔だと、俺は思った。

  ……あれから少しは進歩したのかと思えば、またこれか。

  いい加減、同じ思考をするのにも飽きてきたんだがな……どうしたもんか。

  あー、いかんいかん。ネガティブな方へ行くとどうも思考が変な所に行きかねんからな、俺。

  思考転換思考転換……んー、はやて泣かせた時って確か、カリムさんと初めて会った時なんだよな。

  今思い返してもあの時も大変だった。

  カリムさんは攫われるわ、俺とはやては変な男に殺されかけるわ、果てには大量の黒りゅ、う……




  ……待て、あの時の竜は、そういえばあの黒竜ではなかったか?

  ぎらぎらとした赤い目、不自然なまでに鋭く伸びた爪、太い牙、全てを塗りつぶしそうな黒い体。

  群れを成し、悪意のままに向かってくるアレは―――

  そしてあの時、俺はどうしてあんな風に暴走した?

  そうだ―――あの男と会話して、それから……




  暗い、黒い、深い、闇に―――

  悪意に塗りつぶされそうになる、あの空間……アレは……

  だと、するのなら―――




 「……なんてこった」




  あの時の男は―――ほぼ間違いなく、この前に俺たちに立ち塞がったあの男。

  当時、俺と奴が交わした会話は覚えちゃいないが……確か、探し物がどうとかいっていなかったか?

  ならその探し物にレリックが何らかの形で関係していると……?

  それとも見つかったのがアレ?

  駄目だ―――まだ奴がそうと決まったわけじゃない。

  悪戯に難題を増やす必要もないんだ……今は、ゆっくり療養するしかない。




 「……ようやく百面相は終わったか。何だ? 顔作りの練習でもしていたのか?」

 「するか阿保ッ!」




  ったく、人が真剣に色々と考えてるってのに余計な茶々入れおって……

  まあお陰で、余計な考え事とかは吹っ飛んでくれたが。

  することも特に無いのでベッドにボスッと倒れこむ。

  あー、フカフカしてて気持ちいいねえ。

  こうしているとだんだんと眠気が……




  …………………………ぐう。

























  ―――また、暗い場所にいた。

  その暗闇を見て「ああまたか」と、俺は思う。

  これは―――この夢は、何度か見ている。

  俺が入院して意識を取り戻してから、よく見ている。

  だから、今回も夢だ。

  そう思って深みに堕ちていく。




  ―――ただ、あまり良い夢と言えないのが悩みなんだけど。




  やがて―――暗闇が拓けて、一つの光景が目に飛び込んで来た。

  崩れ落ちるビルなどの都市群、砕かれる大地、燃え盛る炎、逃げ惑う人々。

  遠くに見えるそれは、ぼやけて見えるくせにそんな処だけははっきりしている。




  そして、もう一つ目を引く光景があった。

  相対する光と闇。

  二つの大きな勢力が、この炎に包まれた戦場を支配していた。

  一つは―――闇の中で咆える、一体の巨大な龍。

  一つは―――とても、とても大きな船を中心とした幾つもの小さな光の集まり。

  闇は次々と光を呑みこんでいき、光は徐々にその輝きを失っていく。

  だが―――常に光の先頭にある大きな、虹色の光。

  あの輝きだけは、衰える事を知らなかった。

  大きな闇に負けまいと、光はより一層その強さを増し、そして―――










  俺は、夢から浮上する。










 「ああ……またか」




  最近、よくこんな夢を見る。

  あんなファンタジーで最終戦争な光景……そっちに飢えてんのかね、俺。

  だとすりゃ狂ってらあな―――

  大体、本気で何なんだよあの突拍子もない光景は。

  どうでも良い処はやけにはっきりしているくせに、肝心な処だけぼかしやがって……

  あんなのを見せられると続きが気になって仕方がないではないか。

  よくは分からなかったが、でっかい龍にちっこいのが集団で挑んでたな……個人的にはそちらを応援したい。




  理由、最近黒いので碌な目に遭わない。




  本気でそろそろ学校に行きたいというのに病院に縛り付けられている状態だし……

  ああ、長期休み前のテストとか酷く不安だ。

  それ以前に出席日数足りないとかで補充に呼び出されるかしらん。

  それも嫌だなあ……

  窓の外を見ればもう日は暮れていた。

  しかし、時計を見れば午後8時。中途半端な時間に起きたもんだ。

  やる事も特に無いので適当にベッドでゴロゴロ。

  入院患者ってホント暇なのね……




 「やーることねーなー……」




  そのままずーっとゴロゴロゴロゴロ。

  あー、さっきから何分経ったっけ? あ、まだ3分。

  体感時間がえらく長い……




 「ひーまーだー……」




  あまりにも暇なので枕でお手玉をしてみる。

  ……空しすぎた。

  病院って話相手がいないとこんなにも暇する場所だったんだな―――なのはやはやてが寂しがるのも頷ける。

  ずーっとこんな場所にいるとまた独りになっちまいそうだ……




  ―――けど、考え事をするにはもってこいか。




 「―――ケーニッヒ、アストラス」




  負けた。

  怪我があっただの頭痛に見舞われていて本調子じゃ無かっただのと言っても―――負けたんだ。

  どれだけ言い訳を並べても俺は、奴に完全に敗北した。

  剣を斬られ、持てる最大の魔法すらあしらわれ―――




 「今のままじゃ、勝てない……か」




  負けないためには、勝つためにはどうすればいい?

  答えなら幾通りもある。

  頭を使え、人を使え、状況を使え―――単純に勝つだけなら、それこそ切りが無いくらいに。

  だけど、俺は……




 「強く……なりたい」




  そう、強くなりたい。

  二度と負けぬよう、二度とあんな光景を見ないよう―――

  嫌だった。

  焼ける景色、肌を焦がす熱気、肉がジュウジュウと音を立てて、爛れていくあの様。

  伸ばした手は届かずに、また空を切った。

  あれから長い時が過ぎたけど―――俺はまだ、あの手を掴み取る事が出来ない。

  だから―――




 「強く、なりたい……!」




  もう、こんな想いをするのは―――嫌だ……!




 「っ……!」




  誰もいない病室。

  人の気配を感じない事が歯止めを効かせなかったのか……俺は声を押し殺して、哭いた。




















                    ◇ ◇ ◇




















 「調子はどうだ、クラウソラス」

 『おや、トレイターですか』




  ガラス張りのカプセルの中、クラウソラスが色々と調整を受けている。

  本人曰く、何やら改造を申し出たのだとか。

  最近では発達してきた近代ベルカ―――そのデータ収集を行う必要もあまりなくなってきたから丁度良いとはクラウソラスの言葉。

  奴はこれより新たな剣として生まれ変わろうとしている。

  純粋に奴の、陣耶の剣と成らんが為に。

  無駄な外装を剥ぎ棄ててただ在るべき一本の剣へと―――

  おそらくは、それほどまでに敗北が悔しかったのか……陣耶も相当のダメージを負っていた。




  ……今回の事でまた奴は仕返しをしようと躍起になるだろう。

  だが……果たしてそれが正しい方向へと向かうのかどうか。

  確かに憎しみは戦いにおいて良い原動力となるだろう―――だがしかし、それは狂気と紙一重だ。

  憎しみに溺れ、堕ちてしまえばそれこそ……取り返しのつかない事になる。




 『何やら浮かない顔をしていますね』

 「まあな……これからのあいつの先が思いやられてな」




  そう言って唯々諾々と愚痴を漏らす。

  奴は人に心配を掛け過ぎだとか、私はなぜ肝心な時にいてやれないのかとか、今のあいつの心境についてなど―――

  そういった事を、クラウソラスは冗談混じりながらも真摯に受け答えをしてくれる。

  こいつもこいつなりに思う処があったのか、いつの間にか愚痴の洩らし合いになっていた。

  そうして愚痴の洩らし合いを一通り済ませた後、現状整理に移る。




 「そうか……ケーニッヒ・アストラスにトレディア・グラーゼ」

 『そして正体不明の人型機械兵器―――こちらは恐らく、先日のロストロギアを狙った物とは別の手の物ですね』

 「さて、記録映像を見る限りは―――」




  この外見には見覚え―――というか、データが丁度あった。

  女性型の機械兵器。

  全身を覆うボディースーツに関節を覆うプロテクター、眼を隠すバイザー。

  手に様々な武装を装備する事で戦術のバリエーションを広げ、統率された意思で動く―――




  ―――該当、一件。




 「奴らが私の推測通りの連中だとするのなら……死体をわざわざ持ち帰ったのにも納得がいくが」

 『流石は古代ベルカから存在する魔導書ですね。歩く無限書庫ですか、貴方は』

 「ははは、流石にアレには劣るさ」




  さて―――だとすると非常に厄介だな。

  陣耶の話やクラウソラスの記録によればトレディアとやらは十中八九革命家だ。

  今あるこの世界に何らかの不満を持ち、それを自らの手で変えようとする者―――

  上辺だけを聞いていれば随分と大きな志だが、それに満足している自分たちにとっては迷惑極まりない話ではある。

  詰まる所―――こいつは私の敵だ。

  だがまあそれは後にしておく。

  奴が革命家ならば、出身世界は戦時地であるか悪行が蔓延っている可能性が非常に高い。

  そして、もし前者ならば―――




 「これは……厄介な事にならなければ良いのだが」




  屍を糧とする機械兵器。

  戦場を死地と変え、死した躯を自らの手足とする古代ベルカの遺産―――










  かつてガレアに君臨した冥府の炎王。

  冥王イクスヴェリアと、その屍兵器マリアージュ―――





















  Next「色の無い者」





















  後書き

  重そうであんまり重っ苦しくないお話。

  あれー、最初もうちょっとシリアス風味だった筈なのになあw

  んー、我がことながら自分の指が困ったものです。あとアホな事考える頭も。

  で、分かってた人が圧倒的でしょうがあの機械兵器のネタばらし。

  こんなタイミングで出てきましたよマリアージュ、トレディア共々どうしちゃおうホント。

  次でやっと空港火災のお話。思えばここまで長かった……


  では、また次回に―――






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