「あー、終わったー……」

 『うよっしゃああああああああッ!!』




  もうすっかり日も暮れた午後9時。

  未だに明かりの消えない聖祥中学の一室から歓喜の声が湧きあがった。

  というのも予想以上に難航していたおばけ屋敷の準備が今し方、ようやく終了したのだ。

  仮装の類はすべて石田が監修し、実行委員長がどこから持ってきたのか照明などの小道具の類を持ち運んできた。

  その他大勢であるクラスの他の連中はその配置やリハーサルに大忙し。

  度重なる試行錯誤と実践、趣味や天の杯だとか伝承族秘伝ビックリ術がどうのこうの飛び交っていたが、なんとか終わった。

  ハッスルのあまりに「俺は人間を止めるぞ、ジョ○ョおおおおおおおおおおおお!!」

  とか言って向こう側への扉を開けかけた奴もいたが問題ない。

  それによりクラスの内部抗争、後に「愛と勇気とアンパンの奇跡! これで決着だ大魔王バー○!!」

  とか言われる戦いに決着がついたが、それはまた別の話。




  ……ここのクラスは本当に地球なんだろうか?

  今すぐ逃げ出したい……




 「おうい陣やい」

 「何だよ武本」




  何だよ、今の俺は酷く疲れてるの。

  眠いの、だるいの、面倒くさいの、全てがどうでもいい。

  という事で用件カマン。




 「ふふん、聞いて驚けそして崇めろ。なんと俺は女子校のあるクラスがやるという喫茶店の整理券を手に入れた!」

 「へー」

 「リアクション薄っ!?」




  だって自慢する気満々の話ほどツマラナイものないし?

  で、とあるクラスってやっぱ……




 「お察しの通り、美女が多いと人気がある一年のあの2クラスだな」

 「やっぱか……」




  こいつの事だ、いつもの様に訳の分からない隠密能力でも駆使して情報を集めたんだろう。

  で、その喫茶が整理券なんて先着で配りだすものだからこれまた大変。

  砂漠の中で見つけたオアシスに集るかのように男子校の連中は殺到。むさかった。

  だいぶ連中が殺到してたから激戦だろうなと思ってはいたが……そうか、こいつ珍しく勝ち取ったのか。

  ちなみに俺はその場にいない。

  とっとと作業を進めて一日でも早く準備を終えたかったからなのだが……結果は残念な事になった。




 「ふっふっふ、苦労して両クラス分手に入れたぜ……これが努力しない奴とする奴の差だ! 俺は勝ち組になったんだあああ!!」

 「うっせ……」




  毎度の事で慣れたが事ある毎に感情に起伏が激しいっつーかオーバーリアクションっつーか。

  良くも悪くも裏表の無い性格なのでとっつきやすくはある。

  正直過ぎてスケベだったりヘタレだったりするのが傷だが。




 「いくら暴言を吐こうが負け犬の遠吠えだなあ! あーっはっはっは!」

 「―――いや、俺持ってるし」




  ポケットから整理券を取り出してヒラヒラと目の前で振ってやる。

  あ、面白い具合に石化した。

  いやあ、いいなあこういう持ち上げて落とすの。実に気分が良い。

  武本はこうなるとしばらく帰って来ないのだが……額に肉とでも描いてやろうか。




 「なんだ、また石化してるのか武本のやつ」

 「松田か。まあ見ての通り落とした」




  武本が固まって動かないのを見るや松田が武本のポケットを探りだす。

  携帯と財布を探り当てて、ってネコババする気かよ……

  が、取り出した携帯と財布まで見事に石化。打つ手なし。

  つうか、武本も武本で人類なのか怪しい。

  何でこいつ石化すんだろうか、持ち物まで巻き込んで。




  暫くして、石化した状態からもどうにかならんだろうかと松田が試行錯誤どうでもいい事していた内に武本が石化から回復した。

  ……原理がまるで分からん。




 「げ、所持品が元に戻らねえ」

 「は? ってそれ俺の財布と携帯! なして石化あああああああああああああ!!?」




  ……どうやら石化した所持品などは本体と一緒じゃないと石化が解けないらしい。

  無駄な防犯機能とでも言うのか、ホントに謎だ。

  しかし、元に戻すにしてもこいつをもう一度石化させないといけない訳で。

  でっかいショック与えるとしょっちゅう石化するからまあ手段はそれでいいのだが、ネタは……




 「それはそうと陣! お前それをどうやって手に入れた!?」

 「おい、財布と携帯は良いのかよお前」

 「どうせ大したモノは無い! それよりそれの入手経緯をとっとと吐け!!」




  声高々に微妙に寂しい発言してますね。

  その発言に少々同情……っと、入手経緯ねえ。

  別段大した話でもないのだが―――




 「喫茶店やるから来てくれってなのはとはやてにそれぞれ整理券を貰った」

 「またかっ! またお前はそうなのかっ!!!」




  確かに「またかっ」ではあるが……

  今更そこまで反応する事でも無いだろうに。




  ―――この思考がどうにも周りの男子連中の恨み辛みを更に煽ってると理解してはいるが、もはや直しようがないなあ。




  と、両肩をがっちりと武本の奴に掴まれる。

  目がもう色々と血走っててヤバそうだ……




 「陣―――もういい加減俺にあの美女五人組を紹介しやがれっ」




  何かと思えばそんな事か。

  ふむ、まあ俺がこっちに来てからできた友達を紹介する事は吝かではない。

  話にだって何度かこいつの名前出しているし、少しくらいは覚えているだろう。

  一人だけのけ者にするのも哀れだし―――




 「別にいいが」

 「マジでッ!?」




  予想だにしなかった答えなのか思いっきり舞い上がってる。単純な奴。

  武本の狙いは十中八九これを機にお近づきに、とかだろう。

  だが、そう思える相手が見つかってないからなのかどうかは知らんがあいつらに今までその気は全く無い。

  残念ながらこいつの目論見は失敗に終わる事になるだろう。




 「これで、これでとうとう俺の時代が……! 羨ましいか松田!」

 「いや、俺もう交流あるし」




  あ、石化。




















  〜A’s to StrikerS〜
         Act.23「聖祥中学文化祭」




















  時は進んで聖祥中学文化祭当日。

  開幕寸前の中学校には既に多くのお客様が集っている。

  グラウンドで華やかなパフォーマンスや音楽と共に開かれるオープニングセレモニー。

  やがて生徒会長の宣言の下、聖祥中学きってのお祭り騒ぎが幕を上げた。

  そんな中、俺は何をやっているかというと―――




 「はーい、1年4組のホラーハウスを宜しくお願いしまーす」




  ―――学校を仮装してホラーハウスの宣伝である。ビラ配りである。

  仮想の衣装はポルターガイストよろしく白いテーブルクロスを被った様なアレ。

  お手軽な衣装でそれなりに出来もいい。

  だが、俺はこの仕事は正直言って気が進まなかった。

  確かにこの衣装は着脱が楽で大変宜しいのだが……浮きやしないだろうかと危惧しているのだ。

  学校中のほとんどが制服で俺一人だけ仮装とか、場違いにもほどがあり過ぎるだろうと流石に思うのだ。

  けどクラス中からの要望、という名の強要にあってしまって俺は逆らう事が出来なかった。

  ええい、力に屈するとは……それでも男か、俺!

  だけどそんな事を声を上げて強くは言えない俺。情けねえ……

  で、渋々ホラーハウスの宣伝のために出てきたって訳だ。

  この先を想像すると憂鬱でたまらないが。










  ……まあ、なんだ。

  結論から言えば、そんな危惧はひっくり返された訳なのだが。




 「……ほあー」




  周りを見て思わずそんな声を上げる。

  見渡す限りに人、人、人。まあここは普通だろう。

  が、恐らく学生連中なんだろうが―――そいつらがぶっ飛んでいた。

  右を向けば怪獣。

  左を向けば戦隊ヒーロー。

  後ろを向けばピエロ。

  前を向けばボディービルダー。

  上を向けば忍者。

  下を見れば所々にある変な裂け目。端にリボンなんか着いていて、目が大量にあって気味悪い……

  なんか危なげな気配を向けられたのでスルーしておく。




  ……ここの連中、ここまでお祭り好きだっけ?

  バリアジャケットとかで仮装もどきは散々見ていたけど―――まあなんだ。

  見ていてどこのコミケだと思った。




 「まあ、これで目立つような事も無いだろう……」




  これなら人目を気にする事も無いので遠慮なく学校の敷地内を闊歩できる。

  いやあ、こうなるとビラ配りの宣伝って楽だなあ!

  ……虚しいだけだ、止そう。




  ―――ところで、前方に見えるあり得ない人影三つは何だろう。




  とりあえず、今の格好で会う事は避けたい。是非に避けたい。

  こんな妙ちくりんな格好している所を見られたら……

  うん、脳内最高評議会がコンマ01で判決。

  即ち、即時撤退をすいしょー。即座に実行されたし。

  脳内のエマージェンシーに従って極めて自然に踵を返す。

  そのまま今来た道を戻ればミッションコンプリートだぜ。

  なんてお手軽なミッションだろう。ランクで表すなら難易度Eだ。




 「なーに逃げようとしてんのさジンヤん」

 「……エネミーのレベルを考慮に入れると難易度Sですよね」




  ちくしょう! 何で逃げられん!?

  アレか、何かそういった類の宿命とかカルマとかコスモス的な強制力かっ!?

  とりあえず俺はエネミーに捕縛されました。

  どこからか「ゲィムォオ〜ヴァ〜」なんて聞こえた。なんて若○ボイス。

  仕方ないので一時衣装を取り外す。




 「トレイターはともかく……何でこっちに来てんだよお前ら」

 「いやあ、陣耶に話しておく事ができたんだけどトレイターが文化祭あるっていうからさ」




  なんて事を言ってくれるネコミミと尻尾のコスプレをくっつけた女性二人―――ではなく、猫が変身した使い魔二匹。

  言うまでも無く、見紛う事も無いリーゼロッテとリーゼアリアだ。

  この二人がグレアムさん抜きで来るっていうのも珍しい。

  今の二人は普段見ないような白いワンピースに身を包んでいる。双子のお約束なのかお揃いだ。

  で、そんな恰好で揺れるネコミミと尻尾……恰好が特異過ぎて少々浮いている。

  今は文化祭で仮装真っ最中だから堂々と出せるんだろうが、それでも格好のせいで目立つ。

  が、それなりに役得なのでそれは置いておく。




 「にしても……」

 「―――何じゃい、人をジロジロ見て」




  二人してそんなジロジロ見られると正直恥ずかしいのだが。

  ああほら、何か周りも興味を持ってチラチラと……




 「んー、ちっと見ない間に随分と伸びたもんだなー」

 「そうそう。こないだまで私たちより随分と背が低かったのに……何? クロノと成長期がリンクでもしているの?」




  す、好き放題言ってくれるな。

  そりゃあ俺だって何時までもあんなちっこいままじゃいませんよ。

  ただでさえ最近はフェイトの成長速度が異常で背が追い抜かされそうだってのに……

  あいつらに身長を抜かされるのはかなり悔しい。とても悔しい。




 「俺だって何時までもちびのままじゃねえっての」

 「そうやって見栄張るところなんか男の子らしくて健全よね」

 「うむ、いい傾向なのだ」




  く、くそ……保護者面しやがって。

  何言っても微笑ましい事にしか聞こえてないらしい。

  こいつ等にもいつか吠え面かかせてやりたい……限りなく遠い未来になりそうだが。




 「で、見に行くなら俺は仕事があるんで勝手に周ってくれい」

 「あ、そっけなーい。そんなつれない事言うんだ」




  仕事あるんじゃ仕事!

  ええい埒が明かん。トレイター頼む!




 「嫌だ」

 「てんめえ?!」




  こんな時までにやけた顔してんじゃねー!!

  仮にも主人な俺を苛めてそんなに楽しいか!?




 「性根がSなのを拭いきれない従者でね。むしろもっと困れと」

 「ぐああああああああああああ、何でこんな奴が身内なのおおおおおおおおおお」




  くそ、いつまで経っても変わらないなあ!

  こんな世界俺は望んじゃいない! 俺に平和の二文字を寄越せ!




 「まあまあ、回りながらビラ配ればいいじゃん。案内してくれればいいし」

 「字が違うっての! ったく……」















 「1年4組のホラーハウス、興味のある方はどうぞー」

 『よろしくお願いしまーす♪』




  結局トレイターにロッテとアリアを加えた計四人で俺たちは学校中を歩いて宣伝して回っている。

  俺以外の三人が美人さんな事もあってか、周囲の目も自然とこっちに集まる。

  こうなると結構ビラの消費も早い。

  学校を周りきる前にビラ切れなんて事もありそうだな。




 「お、陣耶じゃねーか。何やってんだよ」

 「ああ、ヴィータか」




  いつものドクロマーク入りの白いTシャツを着たヴィータがそこにいた。

  急な登場だがはやてから守護騎士連中は全員来ると聞いていたのでさして驚く事も無い。

  他の連中も家族が来るらしいし……




  俺の所は何かオマケが付いてきたが。




 「お前それ、ビラ配りか? まーた地味な事やってんな」

 「ほっとけ! そういうお前もこんな所ぶらついて……はやてのクラスはあっちだぞ?」




  はやてやなのは達のクラスならもうすでに通過した。

  やっぱり男子連中が多かったけど……なのは達の所は女性が多かった。何故?

  残念ながら中が見えなかったのでそれは後でのお楽しみとなった。




 「後で行くよ。喫茶店らしいから昼辺りにでも」

 「ふーん」




  まあ別に話す事も無いし……

  あ、そうそうついでだし。




 「ほい、1年4組のホラーハウスを宜しく」

 「ん、ああ……気が向いたら行ってやるよ」




  サンキュ、と軽く礼をして宣伝を再開する。

  あー、この調子ならあと少しで終わりそうだ。















 「ただいまー」




  教室に入って管理用の場所へ赴く。

  そこには気ままにトランプなどやって待機している輪がクラスメイト共。

  出番が来ない内は実に暇らしい。




 「おう、お帰り。何気に早かったなあ」




  途中で会った奴らが注目を集めてくれたんでパッパと終わった。

  ホラーハウスの方にもそれなりに人が入っているようで……お、あの三人も入った。

  どういった反応するんだろうか……




 「さて、と。ビラ配り終わったら俺は昼過ぎまでは自由時間だったよな」

 「おう。後で嫌って程こき使ってやるから安心しろ」

 「はっ、んなのはゴメンだねー」




  衣装を片づけて軽く挨拶してから教室を出る。

  ……今にして思ったが、あいつら休憩所に結構なスペース使ってるけど大丈夫なんだろうか。

  俺は内装担当してないので分からんが相当狭そうだ。




 「ふいー、抜けたー……」

 「何なのよアソコ……何? 魔界?」




  ―――何があったか非常に気になるが、突っ込んだら負けな様な気がする。

  後知らない方がいい事も知ってしまいそうだ。

  気合入れてクラス連中が作っていた五次元投射機とか裏界接続装置とかが実現してなければいいのだが。

  やっぱ異常だ。どこかに未来人とか紛れてないだろうなこのクラス。

  いてもあながち否定できない立場にいる辺り複雑だ……




 「まあ三人ともお疲れさん。中々スリルだったようで」

 「確かに貴重な経験をした……もう二度と御免だが」




  本気でどうなってんだうちのクラス。

  やっぱ逃げてえ―――










  所変わって学校の屋上。

  俺はロッテとアリアに話があると言われてトレイターもひっくるめた計4人で適当なベンチに腰を降ろしていた。

  話の内容は―――俺のスキルについてだとか。




 「ていうか俺にスキルなんぞあったのか」

 「あったのよねー、これが。と言っても推論でしなかないんだけれど、スキルとしか考えられないのよ」




  心当たりはまあ、一つある。

  もう随分と昔にアリアが言っていた俺の転移魔法についての異常性。

  通常はあり得る筈の無い速度での空間転移、もしくは次元転送。

  他の奴が使っているからこそ俺も自覚する事ができたその異常性―――

  括りを付けるとするなら、それはやはりスキルと言う括りに割り当てられるのだろう。

  それもおそらくは希少能力―――レアスキルと言われる類であろう事。

  正直、前々からそんな気はしていた。

  けどどうしても自分から調べる気にはなれない―――というかぶっちゃけ面倒くさかったのだ。

  たとえそれがなんだろうが自分が自分であることには何の関係も無い。

  むしろソレも含めて“今の自分”なのだ。

  だからその事についてはさして気にする事はなかった。

  なかったのだが―――やはり、説明くらい受けておきたいものである。

  自分について知っている事は多い方がやはり色々と利点なのは確かだ。




 「で、俺のスキルって?」

 「それがねー、かなーり特異っていうか奇特っていうか……ぶっちゃけ凄い特殊なスキルなのよね」




  む、何だそんなにもったいぶって。

  気になる、続きを要求する。




 「そんなに急かした顔しなくてもいいって。筋道立てて話すとね、アンタのスキルは過去例がなかったみたいなのよ」

 「ほー」




  だからこれは私の憶測に過ぎない、と付け加え。

  んー、そんなに俺のスキルって希少なの?

  実感が湧かねえ……





 「で、私の推論だと―――あんたのスキルっていうのは世界干渉の無効化、もしくは遮断だと思うの」

 「……せかいかんしょー?」




  何かいきなり壮大な単語が出てきた……

  だ、大丈夫なんだろうか俺。

  世界の命運を握るとか、そんなありきたりな事にはならんよな。




  ―――それっぽいファンタジックな事を期待している自分に泣きたい。




 「説明が難しいけどね―――世界に帰属している事象、時間や存在、果ては運命といった因果律とかが当てはまるわね」

 「ますます怖いなオイ」




  どれもこれもシャレにならん単語ばかりなのだが。

  本気で面倒事に巻き込まれそうな気がしてきた……




 「あー、そんな深刻な顔をしなくてもいいわよ。これってもっと単純な話だし」

 「へ?」

 「そーねー、例えるならザ・○ールドが効かないとかATフ○ールド解放の影響受け付けないとかそんな感じ?」




  な、なんつーアバウト……

  が、そんな頭の片隅でコレは中々に凄いのではと考える。

  今の話からすれば時間停止が効かないのだ。ひょっとすれば運命とかが操られるとか、そんな事も無いのだ。

  それってかなり凄いのではなかろうか。

  皆の時間が止まってる。しかし、俺なら動ける。




  ………………




 「はいそこ、シンキングタイム終了。人の話は聞きなさい」

 「……さーせん」




  いってえ、何も叩く事はないだろうに。

  けどこれはやはり凄いのではないだろうか。










  ―――敵は世界を操る者!

  人類全て、いやこの星全てが奴の支配下だ!

  だが、だがしかし! 駄菓子菓子!

  この地球で唯一、奴の支配を受けない者がいる……!

  さあ、この星の運命は君の手に委ねられた!

  戦え、皇陣耶! 負けるな、皇陣耶!

  君の勇気が世界を救うと信じて―――!!










  どこの電波だコレは……

  頭がこのお祭り空気に中てられて変な方向にシフトしかけてる。

  けどまあ……世界規模の能力ってやっぱ凄まじくね?




 「やっぱヤバいのでは……」

 「大丈夫だって。今の世の中に―――少なくとも管理局の手が及ぶ範囲にそんなデタラメなんていないから」

 「だからそんな能力持っててもほとんど無駄なのだ」




  ……そういえばそうか!

  そうだよなあ、時間止めたり運命操るってそれどこの紅い館の連中。

  俺はアレか、理不尽なチート様に対してのキラーとかそういうのか。

  ただし理不尽限定なのでなのは達みたいな普通に強いのには効果ねえよと……うっわ、役に立たねえ。




 「そんな落ち込まなくたって転移の高速化という強みがあるじゃない」

 「まあ、たしかにそうだけど」




  世界干渉の無効化っていうモノのせいなんだろう、転移の際の空間がどうのこうのを無視できるのは。

  そういった思いがけない副産物があるものではあったけど、結局は謎だらけってか。

  アリアにしてもそんな能力だろうと見当を付けただけで確信という訳じゃないし。

  けどまあ収穫っちゃ収穫だったか。




 「ん、サンキュなアリア。随分と参考にはなった」

 「そりゃね。そのために来てるんだからそれくらいは当然よ」




  これくらいは軽い、と胸を張るアリア。

  グレアムさんとの生活もあるだろうに―――本当、良くできた奴だよ。

  うちの従者やデバイスとえらい違いだ。




 「さー話も終わったし行こっか! ジンヤん、案内お願いっ」

 「ええい、ちっとはアリアを見習ったらどうなんだよロッテ!」




  こいつのお気楽な姿勢はいつまで経っても直らんだろうなあ……

  付き合わされる事になるであろうアリアに合掌、南無。

  耳と尻尾をピコピコさせたロッテは今にも駆け出しそうである。

  放っておくと要らぬ被害を撒き散らしそうなので仕方なく案内する事にした。




  とりあえず、丁度いい時間なので昼飯を食いに行こう。




 「あ、奢ってくれるの? 奢り? オ ゴ リ ?」

 「自腹で払え食い倒れ猫」















  整理券を勝ち取ったアリアとロッテ、それにトレイターと一緒になってはやてとすずかのいる喫茶店に入る。

  こっちの喫茶店は昼食向きのメニューと聞いているので来たのだが……




 「お帰りなさいませ、ご主人様」

 「…………………………おおう」




  店内に入って第一声がそれである。

  ちょっとしたカルチャーショックで脳内が軽くフリーズする。

  店内に入っていきなり出迎えられたのは―――メイド服を着た女生徒だった。

  つまり、なんだ……




 「メイド喫茶とか初めて見たわねー」

 「おお、誰もが給仕姿! 一般の男子生徒諸君はこういうのに萌えとやらを感じるらしいのだが、どうだん?」

 「知るかっ! 俺に聞くな!?」




  メイド服を着た店員に案内されて適当なテーブルに着く。

  ええい、何だこの嬉し恥ずかし男なら誰しも一度は考えるであろう光景はっ!

  この企画を誰が立案して押し通したが丸分かりだよねっ!!

  タヌキが耳と尻尾を何食わぬ顔で揺らしているのが目に浮かぶ……

  そこっ、トレイター笑うんじゃねえ!

  くそ、メニューは―――結構あるなあ。

  どれにしようかねー。




 「ご注文は何になさいますか?」

 「ん?」




  注文を聞きに来た声にとても聞き覚えがある。

  まさかと思い視線を上げて―――




 「ふふー、どう? 気に入ってくれた?」

 「やっぱおめーの仕業な訳ね……」




  案の定、そこにはニッコリと笑顔を浮かべるタヌキ―――もといはやてがいた。

  はやてもヒラヒラしたフリルなんかが付いたメイド服を着て給仕仕事をしているらしく、何か新鮮だ。

  あの喰わせ者のはやてがそういった服を着ているのもまたまあ……素材が良いのでかなり似合ってはいる。

  ただ、いつもの性格からすると喜々として着るのだろうがギャップが激しい、ってだけだ。




 「どうどう、うち可愛い?」

 「あーはいはい、そうやって擦り寄ってくるのはヤメレ。周りの視線が怖いから」

 「顔がにやけてるぞ?」

 「ほっとけっ!」




  ただでさえ周りの空気がただ事じゃないのに止めんか!

  店内の俺に対する視線指数が急激に上昇している……

  スカ○ターでもあればメーターが振りきれて壊れかねない勢いだ。むず痒い事この上ない。

  何だって男子校と女子校に分けたんだか……俺の気苦労が倍増しになったじゃねえか。

  誰かは知らんが創立者に人知れず念を送っておく、主に呪の字を。




 「久しぶりだね、元気してた?」

 「うんアリア、お久しぶりや。元気してたで―――っと、グレアムおじさんは?」




  そのままアリアとロッテとの会話に華を咲かせるはやて。

  が、従業員が一か所に留まってる訳にもいかないので俺もとっととメニューから注文する品を決める。

  俺の財布からすれば……まあこれが妥当か。お手軽そうだ。

  ランチメニューのBを頼むと他の三人も同じ物を注文して、注文を取ったはやては厨房の方に引っ込んでいった。

  ……ていうか、スペースどうなってんだってば。




  で、そのまま待つこと数分。

  意外と早くランチセットBが四人前やってきた。

  運んでいるのは例にもれずはやて、そしてやっぱりメイド服を着ているすずかだった。




 「……やっぱお前もやってんのね、その格好」

 「え? ど、どこかおかしいかな……」




  まあ、仮にもやんごとなきお嬢様が給仕服を着ているのはおかしいのだろう。

  なにせ世話をされる立場からする立場への逆転だ。はやて以上にギャップが凄まじい。




  まあ、それを抜いても随分と似合ってはいるのだが。

  はやての指示か作成者の趣味かそれとも偶然が、それなりに出てきた胸が結構強調されていて目のやり処に困る。

  ええい、ニヤニヤしてんじゃねえお前ら!!




 「えへへ、実はノエルやファリンが着ているのを見ていて一度は着てみたいなーって思ってたんだ」




  そう言ってちょっと嬉しそうに微笑むすずか。

  ああもう―――今の歳になって思うが、いくらなんでも俺の周りは優遇され過ぎではないだろうか。

  俺の周りには周囲の目を引いて止まない逸材ばっかり。

  本気でそろそろ寿命がつきやしないだろうか……

  これで何か色気のある話でもあればいよいよ何かの死亡フラグかもしれんなあ、気をつけよう。




 「はもはも……まー長生きひほほ」

 「口の中が無くなってから喋れよ、せめてっ」















  会計も済ませて喫茶店を出る。

  少し向こうではなのは、フェイト、アリサの三人がいるクラスで列が作られている。

  客入りはほぼ同数と見てもいいだろうか、この人数。

  俺も後でお邪魔するけど、それまでにメニューとかが切れてなけりゃいいんだが。




 「お、陣か」

 「ん? ああ松田」




  聞き覚えのある声を聞いて振り向けば、そこにいたのはクラスメイトの……

  ……………




 「松田?」

 「何だよ」

 「誰だ、そこの三人」




  その周りにいる三人の美女は誰だ。

  黒の長髪、大和撫子? を思わせるな女生徒、後ろから好奇心で付いてきそうなタイプの女生徒、ずっと手に持ってる本を読んでる女生徒。

  三人侍らせてやがる……

  そういやこいつは顔が広いんだったか。かと言って女子校にまでその範囲が及んでいるとは思いもしなかった……

  というか、何そのリアルギャルゲ状態。




  ―――俺も人の事を言えた立場ではないが。




  で、本人たちからの説明によれば―――大和撫子の女生徒が所持物を失くして困ってる所に松田が通りかかる。

  お礼で奢るという報酬に惹かれた松田はそのまま落とし物を捜索、見事発見した。

  で、どこか適当な店に行こうとするとそれを嗅ぎつけた女子校のパパラッチ―――さっきの好奇心が強そうな女生徒が飛んできたとか。

  付き合ってられないので逃げて、図書室に入ってパパラッチを撒く。その時何故か大和撫子までついてきたらしい。

  本人曰く勢いだったそうな。

  そこで第三の出会い、寡黙そうで読書ばかりしている小柄な女生徒。

  暫く匿って貰うように頼むと、見事承諾してくれた―――処までは良いのだが、問題が発生。

  大和撫子が躓いて積んであった本に当たってソレが崩れ、寡黙な子に向かって落ちたのだ。

  だがそこを間一髪で助けた松田。しかしその音を嗅ぎつけてパパラッチ参上。

  そのまま何故か寡黙な子まで付いて来て逃亡。双方共に疲れ果てて今に至る、と―――




  ……うん。




 「おみゃーそれどこのギャルゲーよ」

 「やかましい、お前にだけは言われたくないわっ」




  至極もっともな意見だよね、うん。

  俺だって信じられんさあんな美人共と知り合いで親しい仲とか。

  純真ななのは、天然のフェイト、お祭り担当はやて、ツッコミのアリサ、緩衝役のすずか。

  ―――これで色のある話しの一つでもあればどれだけ良いか。

  それが無いのが俺たちなんだが。




 「で、お前今から喫茶か?」

 「整理券こいつ等も持ってたからな。ついでだついで」




  そう言って目指したのははやてとすずかのクラスのちょっと行った所あるなのは、フェイト、アリサの三人がいるクラス。

  同じく喫茶店をやっているようだが、話によれば違うメニューというかジャンルを扱ってるとの事。

  何が出るのだろうか。




 「……で、お前こそそこの三人は誰だ」

 「あー……」




  松田はトレイターとリーゼ達を見て訝しげな視線を向けてくる。

  なんだその視線は。またか、みたいな目は止めろ!

  はあ……面倒くさい。




 「親戚のアリアとロッテ、従姉のトレイターね。如何わしいのも無いし邪推されるような事はない」

 「ほー?」




  だからその勘ぐるのはヤメレっ。

  後ろにいるパパラッチが好奇心に目を輝かせているから。




 「人気者は辛いな、陣耶」

 (ああ、こいつ殴りてえ……)




  と、馬鹿やっている内に到着。

  入れ替え時なのか客入りもさっきより少なく見える。

  これはラッキーだぜい。




 「うし、今の内にとっとと入っちまおう」




  さんせー、と言っている奴らと共に店に入る。

  さて、中はどんな……




 「お帰りなさいませ―――あ」

 「ってまたこのパターンかよ!」




  またメイドか!? っと思ったら微妙に違った。

  何故執事服……しかも出迎えてきたのはフェイト。

  ていうか、ぜんっぜん違和感ないなあフェイト。

  むしろそのグラマーな体のラインが強調されていて―――いかん、邪念退散、喝。




 「え、と……変かな?」

 「何、俺は今日はこいつ等の衣装の鑑定がデステニー?」




  まあ違和感全く無い位に似合ってんだがね。

  黒を基調にしたピチッとしている執事服で、色合いもこいつ的にはピッタリだ。なんせバリアジャケット黒だし。

  髪止めのリボンも黒。今日は衣装に合わせてかポニーテールで纏めてある。

  これで顔も緩んでなけりゃ完璧な男装麗人である。




 「さて、じゃあ案内お願い」

 「あ、はい。こちらにどうぞ」




  顔が接客用に変化するとホントにキリっとしてるなあ……普段のボケっぷりとは大違いだ。

  そのギャップが良いんだのどうのこうのを武本が言ってた気がするが。

  まあ可愛いもんは可愛いので素直にそう受け止めておく。

  フェイトにつられて案内されたのは松田とは別のテーブル。

  松田と三人娘、俺とリーゼ二人とトレイターと見事に割れてくれた。




 「ご注文が決まったらお呼びください」

 「ありがと」




  店内をぐるっと見渡して……アリサはいるがなのはがいないな。

  入れ替えしたのか、もしくは裏で調理中か。

  料理スキルは高いから重宝されんだろうなあ。




 「どんなのが出てくるのやら、はてさて……」

 「はいはーい、私このショートケーキね。あとバームクーヘンとミルクティー」




  どんだけ食う気だよこいつは……食欲魔人め。

  そんなこいつに後でカカオ100%チョコでも進呈してやろうか―――

  そんな俺は何に……お、摘まむには丁度いいのが。




 「じゃあこのシュークリームにしようか」

 「私もそれにするわ。軽めに済ませたいから」




  食後のデザートみたいなもんだからなあ、あまり重いの喰うと体に悪い。

  そんな事はお構いなしの暴食猫が一匹ほどいる事にはいるのだが……

  さて、じゃあ注文の為に丁度いい所に通った店員を。




 「おーい店員さん、注文注文」

 「はい、なんでしょう―――って、アンタか」




  客にその態度はどうかと思うのだがアリサや。

  それにしても……アリサが執事服を着ていると、なんつーかアレだ。

  ミスマッチ!!




 「……何よ、その物言いたげな顔は」

 「いや、別に似合ってないな〜とか思ッテマセンヨ?」

 「片言になるなっ」




  あははは、いいじゃんたまにはさー。

  フェイトはなんていうか……性格上? なのか似合ってるけど、アリサはギャップが激し過ぎてミスマッチだ。

  うん、何か笑いを誘うね。おくびにも出してやらんが。




 「……で、お客様。注文は何にいたしますか?」

 「おお、そうだった」




  ミスマッチぶりに目を奪われて忘れるとこだった。

  ロッテがショートケーキとミルクティー、俺とアリアがシュークリーム、トレイターがコーヒーを注文する。

  それを淀みなく素早い動きでメモするアリサ。早い……




 「それでは少しお待ちください―――陣耶、例の件忘れないでよ」

 「わーってるよ」




  そう言ってアリサは裏の方へ消えて行った。

  他の三人は何の事やらと思っちゃいるが俺は教えるつもりはない。

  また変なちょっかい出されるのはゴメンなのである。

  ただでさえアリサは人気が高いくて高嶺の花扱いだからなあ。




 「お、もう来たみたいだな」

 「早っ!?」




  作り置きでもしてあったんだろうか……

  お盆を両手にこっちに来る奴は栗色の髪をサイドポニーで纏めた―――って待てい。

  あまりにも見覚えがあり過ぎる顔がこっちに向かってる。

  そのまま淀みない手慣れた動作で俺たちのテーブルに来たそいつは……




 「お待たせいたしましたお客様。こちらがご注文の品になります」




  これまた慣れた口調で品物を差し出してくる。

  純粋なスマイル100%のその笑顔には誰もが思わず顔を綻ばせると評判の翠屋の看板娘、高町なのはがそこにいた。

  というか、裏にいたんだな。

  やはりと言えばやはりなのか、なのはも執事服を着ている。

  いつもの様なウェイトレスの格好でもないので新鮮味がある。




 「よーなのは。やっぱお前は厨房担当?」

 「うん。得意のお母さん直伝シュークリームを気合入れて作ってるんだ」




  それはまた期待できそうだ。

  軽めに、と思って選んだシュークリーム。翠屋のイメージが定着しているので思わず選んだが……損する事はなさそうだ。

  当たりを引いたみたいでラッキーな気分。




 「洋菓子類の基本的な仕込みは私が中心になってやってるんだ。クラスのみんなも頑張ってくれているし凄く楽だよ」

 「ふーん。まあ味は保証されたも同然だし美味しく頂くとしますよ」

 「はい、召し上がれ」




  いただきまーす。




















  なのは達の男装喫茶を後にする。

  これもまた別の意味で衝撃的だったなあ。

  で、時計を見ればそろそろ戻らねばならぬ時間。

  学校散策もここまでだな。




 「俺、時間来たから仕事に戻るわ」

 「おう! 頑張ってこいよー」




  言われなくともねー。

  さて、じゃまあ教室に戻って―――夜はまた一騒動だろうなあ。




















  ―――夜。

  聖祥中学には未だに明かりが付いており、グラウンドもまだ大勢の人で賑わっている。

  とは言ってもあの中にお客さんはそれほどいない。

  聖祥中学での文化祭―――その一番の目玉は夜間になっての生徒によるダンスパーティだ。

  この頃になると店もほとんど閉まるのでお客様もそれに合わせて帰っていく。

  が、生徒のダンスパーティを見るなんてモノ好きも中にはいるものらしい。

  それでそのダンスパーティ、男子女子が一人ずつペアを組んで踊るというもの。

  予め知り合いに頼む奴もいれば後になってそこら辺ぶらついて相手を探す奴など組み方は色々だ。

  それに関して色々とトラブルが起きかねんが―――




 「何かトラブルを起こした人にはこの岩田君が個人的に制裁を加えますのでー」




  何やら三年の先輩が勝手に裁いてくれると生徒会長の御達しが下ってる。

  まあ三年の岩田先輩といえば格闘技でかなり強い事で校内でも有名だし、そんな人に裁かれるなんて嫌だろうから大丈夫だろう。

  ジャーマンスープレックスやコブラツイストとかは勘弁したいのです。




  で、これは全校生徒強制参加なのだ。

  男子校と女子校に分かれているために普段は交流の少ない両学生の親交を深めるためなのだとかなんとか。

  まあそんな事で俺も当然参加しなきゃならん。果てしなく面倒だ。

  俺は一人フランクフルトか焼きそばでも頬張りながら眺めているのが一番性に合ってるのに―――




 「ほらー陣耶? もう始まるわよー」

 「おーう」




  後ろから俺の相方が急かしてくる。

  そう、やるからには俺も相手がいるのだ。

  俺の場合は事前にその約束をしていたので何ら問題はなかったのだが……後から奴に相手を頼んだやつらは哀れだ。

  そしてそんな奴らの恨みを買う俺ドンマイ。明日は明日の風が吹く、きっと……

  っとと、いかんいかん。思考が別ベクトルに向かい始めてる。

  頭を振って余計な考えを追い払った後、鏡で自分の姿を確認する。

  ……どこぞの高そうなスーツ服。黒を基調にしてピチッとして、着た奴は普段より増しに身長が高く見える。

  あくまで見えるだけだが。

  生地も何やら高級そうだ―――さすが大金持ち、やる事が半端無い。

  そういう相方も何やら高級そうなドレスを着ていて―――橙色を基調としたドレスが眩しい。

  自前の物を持ってくるあたり気合の入り様が伺えるが―――本人曰く、何事にも全力でぶち当たるのだそうだ。

  なら相方にわざわざ俺を選ぶ必要も無いだろうに……

  まあ乗り掛かった船と諦めてはいるが。




 「陣耶ー?」

 「へいへーい、今行きますよー」




  全く似合ってもいないスーツを着て相方の所まで行く。

  柄じゃないが、手を出してやる。

  レディファーストだのエスコートだの散々叩きこまれた癖だ。

  そしてその手を相方―――アリサは、どこぞのお姫様みたいに手を取ったのだった。










  かくして夜のダンスパーティが幕を開ける。

  レトロな音楽に合わせてステップを一つ、二つ、三つ―――

  まるで鏡のような格好で、手を取り合いながら―――流れるようにアリサはステップを踏んでいく。

  俺はそれに合わせるのが精一杯で、よくもまあコイツは俺を相方にする気になったもんだと今更ながらに思う。

  どんな気まぐれが働いたのかは、本人しか知らぬ事だ。




 「……何で俺を選んだんだ、って顔してるわよ」

 「ぬ」




  鋭いなあ。

  こいつとこんな至近距離なんじゃ俺の考えている事全て筒抜けではないか。

  それはんて言うか―――プライバシー的に困る。




 「別に大した理由でもないわよ。アンタ以外に手頃な知り合いがいなかったからってだけ」

 「さよけ」




  が、そんな相手でも徹底してダンスの相手をさせる辺り完璧主義というかなんと言うか。

  好き勝手相手を振り回す所は本気でお嬢様気質だな。

  同じ境遇でもすずかとはえらい違いだ……




  と、視界の端にフェイトが映った。

  黒いドレスを身に纏っているが―――胸の上部分が素肌で見えている辺りなんか色気がある。

  化粧は何やらケバイっぽいが……うん、遠目だから良く分からん。

  相手は―――あいたっ!




 「今、私以外の誰かの事考えてたでしょ」

 「は?」




  不機嫌そうな顔でアリサに足を踏みつけられた。

  ズキズキと痛むがそこは気合で何とかダンスを続行、えらいぞ俺。

  だが以前不貞腐れた顔でステップを踏むアリサ。

  ……何か本当に猫みたいで笑えてくる。




 「む、何よ」

 「いや、すまんすまん。ほら、続けようぜ」




  誤魔化すように下手糞なステップでアリサを先導する。

  その時のダンスは、自分でもそれなりに出来たと思った。















  ―――どんな祭りにでも終わりというのは来る。

  夜のダンスパーティが終わった今は最後の食事会の最中だ。

  グラウンドに並べられたテーブルに所狭しと料理が並び、それを生徒たちが奪い合ってる。

  そんな中で適当な料理を取った俺はグラウンドの隅にある塀に向かう。

  そこには既に先客―――待ち合わせた奴らが待っていた。

  俺もそこに加わって、フランクフルトを頬張る。




 「……もうすぐ、こんな時間も終わるんだよね」




  ―――そんな事を、誰かが言った。




 「それはまだ二年も先の話じゃない。もっと今を楽しみなさいよ」

 「うん。だけどもう、あと二年なんだなあって……」




  二年。

  それだけの時間が経てば、俺たちは自分たちの道の為に歩んでいく場所も違ってくる。

  いつまでも一緒にいられる訳ではない。

  俺たちはそれぞれ生きる道がある。




 「うちはミッドに移住する予定や。その頃には仕事もだんだん本格化するやろうし」

 「私もそうなるかな。執務官の仕事は在住物が多かったりもするから」




  フェイトとはやて。

  この二人は局員故の仕事があるのでミッドの方が何かと都合がいいのだ。

  別に学校に通いながら軽い仕事をこなすのでもいいのだが、高校は行かずに仕事の方へ専念するつもりらしい。

  その歳から働きたいっていう意見はつくづく俺には分かりかねる……

  こう思う辺り組織向いてないなあ、俺。




 「私は大学まではエスカレーター式で登るつもりよ。あんたらは?」

 「私もそうなるかな。とりあえず大学までは経験してきなさいってお姉ちゃんも言ってるし」




  アリサとすずか。

  この二人は海鳴きってのお嬢様なのでもっとどでかい所に行くものだとも思っていたが……中々どうして。




 「私は―――どうしようかな。道は目の前にいっぱいあるからなあ……」




  そう言って空を眺めるなのは。

  こいつには言っている通り様々な道が見えているのだろう。

  そんなある意味誰よりも欲張りな奴がこの高町なのはという人間だったりするのだ。

  やりたい事がありすぎて困ってる、みたいな。

  言っているだけならどこかの新しいおもちゃをたくさん与えられた子供を見ているみたいでもある。




 「俺は―――まあ大学までは行きたいな、うん」




  海鳴に留まるにしろ、ミッドに行くにしろ、基礎学力くらいは欲しいっていうのが俺の本音。

  大学卒業くらいまではちゃんと勉学こなして―――その後までは全く考えちゃいないんだけどね。

  第一この歳でそんなこと考えている奴なんて……あ、いるか。俺の周りとか特に。




  夜空を眺める。

  星は―――あまり見えない。





 「ずっと続くって、思ってたのになあ……」




  癪だが、それが大人になるって事だと思う。

  立ち止まってられない。生きるために、前に進んでいく。

  歩む道は違っても、それでも―――




 「まあ、またこうやって集まれるさ」

 「ま、そうよね」




  それでも、別れっていう訳じゃない。

  道は違っても、世界が違っても、同じ時間に生きている。

  それならきっと、また会える。

  だから、今は―――




 「さ、飯は冷めないうちに食っちまおう。味は楽しめる内に楽しんどかないとな」





















  Next「始まりの日」





















  後書き

  やっと書き上がった……

  途中に余計なモノを挟んだせいか今回は字数が軽くインフレ。実にいつもの1.5倍のボリュームです。

  今回はお祭りという事もあって自分も色々普段はやらない方向に突っ走りましたね。

  特に序盤の電波とか電波とか電波とか電波とか。

  こんな事は滅多にないだろうなあ、うん。

  さて、次からは急展開。

  ぶっちゃけかなりアレな事になるので好き嫌い別れてくるんじゃないでしょうか……

  ああ、自分でやると決めといて先が怖いです。

  それでは有り難い拍手に返信を。



  >もっとアグレッシブな陣耶を期待するwww


  何やらスレスレな関係の二人。発言もかなり危ないですw

  たぶんあの二人は事ある毎にあんなのじゃないのかと。

  アリサ以外じゃあるかなあw 頑張ります。

  あと、拍手ありがとうございます。燃料になります。



  ではまた次回に―――






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