日も暮れ始めた夕刻の放課後。

  聖祥中学に在学する生徒たちは普段よりも大きな賑わいを見せていた。

  本来なら下校する筈の帰宅部の生徒までもが未だに学校に留まっているのだ。

  もちろん、そこにはちゃんと理由が存在する。

  そうでもなければ勉学なんて面倒だと思っている俺がこんな所にいる筈がない。

  本来なら今頃家で音楽を肩耳に宿題を片付けている所なんだがなあ……




 「じゃあ買い出しには陣に行ってもらうとしよう」

 『さんせー!』




  ……こいつ等、毎度の如く思うが俺を何だと思ってるんだろうか。

  こっちに入ってからつるんだ武本と松田も賛成派だ。この世界に神はいない。

  そして今リストを纏めるとか言って勝手に作業を進める実行委員長。俺に拒否権の何もあったもんじゃねえ。

  まあいいんだけどね。買い出しにかま掛けてさぼれるし。

  後になって人員足らんとか言っても知らねえしな、フハハハハ。

  ……結局は手伝いそうな気がするが、まあいいや。

  あ、今バカにしたな武本と松田。後で666回殴りつける。




















  で、今日は話をするだけして解散になった。

  他でも話が終ったらしく、次々と生徒が教室から出ていっている。

  で、俺といえば渡されたメモと買い出し用の資金を片手にいつもの奴らを待っている。

  中学になってから男子校と女子校に分かれたからこういった待ち合わせには不便だなあ。

  夕暮れで紅く染まる校門の前で暫く待ちぼうけていると、ほどなくして目的の五人は出てきた。




 「お待たせー、じゃあ行こっか」

 「おーう」




  誰からという事も無く歩きだす。

  6人なんて人数じゃあ歩道は手狭だが、そんな事を気にするような奴は生憎この中にはいなかった。

  別に俺たち以外に通行人がいる訳でもなし。迷惑をかける訳じゃないんだから横いっぱいに広がれと。

  まあそれでも精々3人が限度なんだがな。




 「ほー、陣耶くんがめでたく買い出し係に任命されたん」

 「何がめでたくだよてめー」




  俺にしてみれば迷惑面倒極まりない。

  俺はもっとこう、裏方に回りたいのに……

  もっと後の仕事だけどさ。後ろで色々頑張るって何かかっこいいじゃん?

  が、今の俺にそんな事出来る筈も無し。

  ちくせう、今は目の前の仕事をこなすしかないのか。

  ああ、哀れなり俺。所詮下っ端に上に対して吠える口は元々無いというのか……




 「何を買うの?」

 「……大量の布と化粧品」




  さっき渡された買い出しリストを見せてやる。

  そこに書かれているのは化粧品と大量の布。

  あとボタンとか色々ある。




 「うわあ、何か危なそうなのあるよこれ……」

 「化粧品はともかく布の量が多いね。何に使うんだろう」




  それはうちのクラスの出し物の趣旨からしておおよそ推測がつく。というかそれ以外思い浮かばない。

  あいつらもノリノリだから困る。間に合うかどうか保証など一つも無いのによくもまあ。

  これを頼んでいた当の本人はこれからに向けて色々と思いを馳せているのかナチュラルにハイだった。

  ナチュラル・ハイだーっ! とか叫ばんかったらいいが……

  まあ本人はやる気満々だけど……できるんかね、ホントに。

  先行きがたまらなく不安で仕方がないのでついつい溜息なんて吐いてしまう。




 「けど、楽しみだなー文化祭」




  あと二か月ほどで開かれる文化祭。

  今の聖祥中学はそれで賑わっていた。




















  〜A’s to StrikerS〜
         Act.22「私と俺」




















 「で、何でお前が連いて来ているのかね」

 「いいじゃない別に」




  などと俺の買い物を隣で眺めながら仰るお嬢様。

  俺としては何故こうなってるのか酷く謎なのだが。




  俺はあれから買い出しに行くからとあいつらと別れたんだ。

  その時にアリサも家の方向が同じなので一緒に来ていた。ここまではいい。

  そのまま特に話す事も無く二人して歩いて、俺は目的の店に着いたのでその店に入ったのだ。

  そのまま店内を物色していたのだが―――気がつけば隣には未だにアリサの姿があった。




  そして現在に至る。




 「いや、思い返しても全く以って訳分かんねえ」

 「何言ってんのよ。別に減るモノでもあるまいし良いじゃない」




  や、確かにそれはそうだがね。

  まあ俺としても別に迷惑な訳じゃないから別にいいんだが。単に疑問に思っただけだし。

  こっちの邪魔をする訳じゃないと中りを付けてそのまま店内の物色を再開する。

  布の類はともかく化粧品の類はこのスーパーで見つかるだろ。

  このスーパーでそもそも布が見つかる訳がないし。まあ見つかるのもそれはそれで面白そうだが。

  で、化粧品コーナーは―――お、あったあった。




 「んー、目的の品はどこかね」

 「やけにメイク用の品が多いけど、何? あんたらそんな方向の催しでもやるの?」

 「何げに危ない事想像するなあお前……まあ違うと言っておく」




  そのままアリサも一緒になって店内の物色を続ける。

  ほどなくして、目的の化粧品類は揃った。

  んー、日用スーパーで揃う物でよかったな。

  そのまま会計を済ませて店を出る。




 「これで終わり?」

 「いーや、これから日曜大工店だ」




  行き先を聞いて納得したようにアリサも頷く。

  ご要望の品は化粧品の他にも大量の布があるのだ。とっとと終わらせたい。

  とはいえここからは少し距離があるか……

  ま、別にいいか。トレイターには遅くなるって後で言おう。

  日曜大工店の方向にあたりを付ける。あー、アリサとは反対方向だな。

  ちょいと残念な気もするが、まあいいか。

  所詮こんなのはアリサの気まぐれなんだし。




 「そんじゃー俺こっちだから」

 「そう」




  背を向けて歩き出す。

  さて、早い事済めばいいのだが……




















                    ◇ ◇ ◇




















  チャラリ〜、チャラリラリラ〜♪




  手持ちの携帯から軽い音の割に重い雰囲気のメロディーが流れる。

  この着信音は―――ああ、陣耶からメールか。

  ……クラスの催し物で買い出しねえ。あいつの不満げな顔が目に浮かぶな。

  あいつは根が面倒臭がりやな所為で話が振られなかったりすれば自己主張しない方だからな。

  だからそんな面倒な役を押し付けられるというのに……

  まあいいか。

  帰りは少し遅くなりそうとの事なので晩飯はこちらでこさえるとしようか。




  それにしても―――文化祭か。

  あいつらがどんな事をするのか見てみるのも一興かもしれんな。

  確か10月中旬頃だと言っていたからその日辺りに検討を付けておくか。

  高町夫妻も見に行くのだろうが、まあ従業員は他にもいるから大丈夫だろう。

  男子校女子校の合同イベントだからそれなりに楽しめるだろう。

  ……知ってはいるだろうが一応守護騎士の連中にも声を掛けておこうか。

  道中色々とからかえそうだ、ヴィータ辺りは。

  ふむ、こう考えているとそれなりに期待は膨らむものだな。




  さて、文化祭についての考えはこの位にして、今日のメニューは何にしようか―――と、ん?

  おや、これはまた珍しい者から連絡が来るものだな―――




















                    ◇ ◇ ◇




















  ―――さて諸君。

  突然だが本日二度目の訳のわからぬが事態発生した。




 「―――」

 「―――」




  さっきからずっと隣で俺に連いて来ているアリサ。

  スーパーの前で別れて帰るのかと思いきや俺の隣でそのまま何食わぬ顔で歩いている。

  「何で連いて来るんだ?」と聞けば「別に」の一点張り。

  これは一体またどうした気まぐれなのだろーか……

  こいつの行動は単純なはやてとかと違って予測つかねえよ。

  この調子じゃあ何を言っても聞かんだろうし、大人しく現状維持しておきますか。

  仕事増えるなあ……主にこいつを家まで送るという仕事が。

  こりゃ晩飯は完全にトレイター任せだわ……




  夕暮れの街をアリサと二人で歩く。

  ―――そういや、こんな事が前にもあったっけ。

  あの時は色々とこいつに振り回されて散々だったなあ。

  まあ過ぎ去った事だからそれほどに気にしてはいないのだが。




 「―――」

 「―――」




  お互い何も話す事は無く、沈黙だけが続く。

  街の騒音は相変わらずだが、それさえ無音と思えるような沈黙。

  が、別に気まずいとかそういった気は不思議としない。

  話す事は無くても、それでもこいつと一緒に居る事にはちょっとした心地良さを感じる。

  何も言わなくてもこっちの事を察しているかの様な―――

  はやてみたいに嫌な感じに利用してこないからか、悪い気はしない。

  まあ、なんとなくだが―――俺はこの状態が心地良いと感じている。

  おそらく、たぶんだけど……こいつも一緒じゃないのかと思ったり。




  穏やかに、静かに、時間は過ぎていく。

  心地良い沈黙が続くと思っていたが―――それは静かに、終わりが来た。




 「ねえ、アンタたちのクラスって何をやるの?」

 「お前、今更そんな事を聞くか」




  苦笑しながらも、俺はいかにもこいつらしいと思う。

  気になる事があればズバッとスパッと容赦無く。その場の空気すらブチ壊して見せるのがこいつだ。

  ある意味、究極のエアーブレイカー。

  いや、適度に空気は読みますけどね?

  知的好奇心が強いというか我儘というか、とにかく気難しい猫の様なやつだ。しかもチシャ猫。

  なのでこういった突拍子もない物言いも実は珍しくはないのだ。

  こんな気分屋の発言も慣れてしまえばそれはそれで―――




 「なーんか失礼なこと考えてなかったかしらー?」

 「いや、きっと気のせいだから。気のせいだから真顔で腕を抓るのはヤメレ」




  弁明するとしぶしぶ二の腕を抓るのを止めてくれた。

  うう、本当に猫かっつーのこいつは……

  で、何の話を―――ああ、出し物の話だっけ。

  ウチがやるのは―――




 「おばけ屋敷をやるって息巻いていたが」

 「へえ、結構難易度高いのを選んだのね。もしかしなくても布や化粧品って仮装用?」




  ご名答、とアリサに答えてやる。

  うちのバカ―――石田だっけか? が衣装を作るとか言いだしたもんだからクラスが悪ノリ。

  その勢いのままに全衣装やメイクに至るまでをこなして見せるとか言いだして……うちのクラスは本気で大丈夫か?

  本番に間に合わずに徹夜漬けでミシンの様に体を動かす石田が見える様だ。

  眼鏡の細キャラなのでインドア系の可能性が高いからまあ賭けるとすればそのついでに家事能力も高けりゃ、ってとこか。

  けど俺には関係無い事だ。慌てふためいたって俺が困る訳じゃねーし、別にいいや。

  もしも皺寄せが回ってきたら「裁縫は無理」で通るだろ、うん。




  それはともかくとして、こっちのを聞かせてやったんだから俺の方だって向こうのを聞いたって良い筈だ。




 「で、お前の所は何するんだよ」




  女子だらけなだけに何をやるのか想像がつかんなあ。

  ファンシーショップとかやるんだろうか。

  なのはとかが先導をきるなら喫茶店とかでもあり得そうではあるが……無理か。

  あいつには統率力は多少あってもイマイチのレベルだしな。

  俺よりは遥かにマシなレベルだが。




 「あー私? ……今は秘密で」

 「ちょ、こっち教えたってのにそりゃないっしょうよ……!」




  理不尽だー、と吠えてみる。

  こっちは教えたんだからそっちも教えろー、等価交換の原則だぞー、って具合に。

  で、アリサは―――




 「あら、私は聞いただけで答えてとは言ってないわよ? 答えてくれたのはアンタの善意。けど私は答えたくないのよね」




  何か間違いでもある? と勝ち誇った目で言ってくれるなてめえ……

  くっ・・・! すでに嵌められていたとは気付かなかった。不覚っ!

  うーん、なのはやフェイトも大概だが俺も人を疑う事をもう少し覚えた方がよさそうだ。

  仕方がないので、これ以上は無駄だと判断してこれ以上の追及を打ち切る。




 「にしてもさ……」

 「何よ」

 「いや、お前はホント何がしたいのかねえって」




  こいつに限ってこんな無駄話をしに来たなんて事はないだろう。

  他の奴らと一緒ならともかく、俺しかいない時にそれはあり得ない。




  ―――いつか、アリサは言っていたっけか。

  力になれない。だからせめて頼ってほしい、一緒に苦しむ事くらいは、せめて―――

  だから、なのかどうかは分からない。

  だけどそれからちょっとした事に俺は気付いた。




  ある時―――あれは、小学生だった頃か。

  まだ五年生だった俺は休み時間によく屋上にある風通しのいい日蔭に陣取ってずっと空を眺めてた。

  が、そんな所に一つ上の上級生が集団でやってきて「どけよ」の一言。

  理由を問うても―――




 『うっせーどけ!』




  や―――




 『調子乗ってんじゃねーぞ』




  とか―――




 『女侍らせていい気になりやがって……!』




  とまあこんな具合だった。

  多少逆恨みが入っていた気はするが、あまりにもアレな言い分に流石の俺もイラッときた。

  その後は売り言葉に買い言葉だ。

  散々殴り合った末、見かねた第三者が先生に通報して喧嘩両成敗となった。

  が、相手方は多人数でも勝てなかったのに納得がいかなかったんだろう。

  後日、放課後辺りにお約束みたいに体育館裏に呼び出された。

  それでまた面倒くさい事になりそうだと出向けば―――なんか知らんがアリサがあいつらに捕まってた。

  そりゃ流石に呆気に取られた。何でこいつがここに、って。

  それはあいつらも同じだったのか慌てふためいてアリサをどっかへ連れてこうとするものの、思いっきり抵抗される。

  手足をバタバタさせてなーんか妙な空気だった……

  が、そんな中で集団の一人が「バレたらまずいから一緒にボコっちまおう」とかぬかしだした。

  そうと決まれば話は早いと言わんばかりに集団の内ほとんどが俺に向かってきた。

  ご丁寧に数人がかりでアリサまで抑えつけて、まるで「抵抗すればどうなっても知らねえぞ」と言わんばかりの顔。

  本来人質ってのは危害を加えないからこそ価値があるんだが、そんな道理が通じる様な相手でもなし。

  転移でも使えば話は早いんだが、生憎こんな大っぴらに使い程馬鹿でも無いので気が済むまで殴られてやる事にした。

  腹、顔、肩、脚、腕―――まあ全身を殴られ蹴られってしたわけだ。

  アレは痛かったなあ。結構な間痣が消えなかったし。

  それはさておき、そのまま気が済むまでやられてんのもいいかなって思ったんだが……何を思ったかアリサが激しく暴れ出した。

  いや、正確にはなりふり構わず暴れ出したといった方がいいか。

  俺のあまりにものやられっぷりに我慢ならなくなったのか、手足を暴れさせるだけじゃなくて噛みつき始めた。

  で、抵抗してしまえば当然抑えつけられる。

  けどアリサはそれでも必死に暴れまくって―――




 『このっ、大人しくしろっての!!』




  バキッ、っという音。

  遠くに聞こえた筈なのに、近くに雑音があったのに―――それは鮮明に聞こえた。

  頭が真っ白になった。

  ただ目の前の事実だけで頭が埋め尽くされて、まともに考える事なんて出来なかった。

  それでも、殴られながらも―――目が離せなかった。




  たとえ殴られても、それでもあいつの眼は―――




  それで、最後の線がプツン、と音を立てて切れた。




  事が全部終わった後は色々と面倒な事が目白押しだった。

  全員揃って先生の折檻を受けたあと、親まで引っ張って来られての謝罪会。

  謝られても気分も何も晴れはしなかったけど、まあこれで一区切りだろうとは思えた。

  その後、俺はこいつに巻き込んだ事に謝ったんだが―――




 『気にしないで。こうすればアンタはこうするだろうなっていうのは分かっててやったんだから』




  なんて事を、言ってくれやがったのだ。

  どこまでも真っすぐ、純粋な眼で―――あいつは、自分が狙って暴れたと言った。

  それで気付いた。

  ほんの些細な事―――けど、大事であろう事。




  こいつは……俺の逃げ道を塞いでいる。




  何も出来ないからと、だからせめて―――とでも思ったんだろうか。

  こいつは、いつであろうと俺を―――“逃げを嫌う俺”を貫かせる。

  逃げ道が無いんなら、そもそも逃げる事なんて出来やしないから。

  縛ろうとするからせめてもの仕返しだと、あいつは笑って言った。




  あいつは気付いてるんだろう、俺の本質に。

  俺の酷く我儘な―――自分勝手な、俺自身に。

  俺という世界で周囲を縛ろうとしている、俺自身に。

  だから仕返しだと、あいつは言った。

  縛られてやる代わりに、逃げ道は潰してやると。




 『これで私とアンタは友達ながら敵同士ね。遠慮なんて欠片もしないから―――宜しくね?』




  宣戦布告だった。

  俺の我儘に付き合ってやるから、代償として我儘に付き合って貰うと。

  俺という世界で自由が縛られても―――俺という自由もいっしょに縛ってやると。

  それに気付いて、知らず笑いが漏れた。

  それがあまりにもアリサらしかったからか、それとも自嘲から来るものか、可笑しさか……

  それはあいつも同じの様で、同じように不敵に笑ってるんだろうなっていうのが良く分かった。




  そんな関係が中学校になってまで続いて、こんなんだ。

  お互い遠慮なんてしてないし、する気も無い。

  だからこんな風に無言な事が多い。

  味気の無いお喋りよりも、二人でいる時間が気に入ってるから。




  何をするでも無く、俺たちは在りのままに在る事を望んでいる。




  だからこいつは遠慮なんてする事はないのだ。

  こいつが連いて来て何も言わないってのは―――




 「あー、思い出したわ。文化祭の夜にあるアレ、アンタ空いてる?」




  ほら、忘れてただけだ。

  にしてもまあ―――アレ、ねえ?




 「アレね……まあ空いてるっちゃ空いてはいるが、相手しろと?」

 「そ。他からもお呼びは掛かるでしょうけど―――勿論、受けてくれるわよね?」




  ああ、ホントにこいつらしい。

  あまりにもらしくて涙が出そうだチキショウ。

  なので仕返しにもならないであろう仕返しをしてやる。




 「いいのかよ。唯でさえ付き合いが近いから変な噂飛び交ってんのに。……男が寄らなくなるぞ?」

 「お互い様でしょ? それに私はそれでも別に困らないもの。目ぼしい相手は身近にいるし、ね」




  本当、喰わせ者である。

  自身に満ち溢れたその微笑みは、俺には眩し過ぎる。

  眩し過ぎるから―――俺は、遠慮なんてしない。




 「けどダンスっても素人もいい所だぞ」

 「そんなモノ私が教えてやるわよ。アンタならすぐ呑み込みそうだし、丁度いいんじゃない?」




  そして、こいつも遠慮なんてしない。

  俺の前では振舞いたいように振舞って、在りのままでいる。

  もちろん、なのは達と一緒の時だって在りのままのアリサだ。

  けどそれとはまた違った一面、それを俺の前では見せている。ただそれだけ。

  だから、俺たちは今の様な関係を続けている。

  妥協なんてものはない、意見のつき通し合い。意地の張り合い。

  そんな無茶苦茶な関係が気に入っていて、だからこうして互いに警戒しながらも無防備でいられる。

  その気になれば俺たちは一線を越えてしまうだろう。

  それは良い意味であろうと悪い意味であろうと、そんな微妙に絶妙な関係だ。

  まあ、それもその気になればの話であるが。

  今は、今をただ楽しむ。

  こんな風に互いが敵同士だって言うなら、それこそ楽しまなければ嘘だ。




 「つってもなあ、俺如きに相手が務まりますかね。なんと言っても相手は大財閥の御令嬢だ」

 「あら、自分を卑下するその癖は直した方が良いわよ? せっかくの好敵手がもったいない」




  言ってくれるもんである。




  そうやって俺たちは軽口を叩き合いながら残りの買い出しも済ませたのであった。




















                    ◇ ◇ ◇




















 「はあ、結局家まで送ってしまった」

 「御苦労さま。わざわざ道中ありがとうね」




  本当は口になんて出さなくても分かっているだろうけど、こういうのは誠意なんだ誠意。

  私なりの感謝を口にして、ありがとうの意を示す。

  今は午後7時。そろそろ日が沈む時間だ。

  買い出しも終わって、目的も果たした所で帰ろうとしたんだけど陣耶も連いてきた。

  まあ道中危険だろうって思ったんだろう。日も沈みかけているし―――

  こいつがどれだけ自分勝手でも、根っこがお人好しなのは変わらないとこういう所で実感する。




 「約束の件、忘れたら酷いんだからね」

 「破ったら後が酷いって身に染みてるからな……おーけー、善処する」




  何が善処する、なんだか。

  だけどまあ、その分キッチリとやる事やってもらいましょうか。

  文化祭が今から楽しみねー。

  ああ、ついつい笑いが……




 「はあ……」

 「ふふ、どうしたのー溜息なんか吐いて」

 「いやな、つくづく厄介な奴に捕まったもんだと実感してたところ」




  その厄介な奴をわざわざ懐まで飛びこませたのはどこのどいつかしら。

  挙句の果て独りぼっちは嫌、なんてこの年になって言う事かっ、と言いたくなるようなのが根っこだからねえ。

  そこら辺似た者同士ねー、この集団。

  それでもこいつの本質を理解しきれているのはどれだけいる事やら……




  陣耶の世界は「他人」によって成り立っている。

  だから、その世界を成り立たせている「他人」がいなくなることを極端に恐れている節がある。

  そこはなのはやフェイトも顕著だろう。

  私たちはそのほとんどが懐に何か抱えているようなのばっかりで……お金持ち+天才を除けば一般人は私だけなのよね。

  目立ったトラウマも無いし……ほんと、よくもまあここまでの付き合いができたものだと自分でも称賛したい。

  話は逸れたが、要するに陣耶は他人に依存している。

  その依存対象がいなくなることを恐れている陣耶は、そんな事にならないように行動するのだろう。

  まあおそらくは自分から離れる、ではなくて二度と会えないとかそんな類の方なんだろうが。




  でも、そんな依存される事でも―――それで支えになれているなら、それでいい。




 「ホント、容赦無いなお前」

 「私たちの仲でしょ。今さら遠慮なんてする関係でもないでしょうに」




  だから、容赦なんてしてやらない。

  悩んでるようなら一喝して気合を入れてやる。

  挫けてるようなら蹴りいれて一日で立ち直らせる。

  私は、私としてこいつを支えてやるって決めたから。

  魔法とかそんな事は私にはできない。

  だから、出来うる限りの事でみんなの力になる―――

  それが、今の私の目標。

  もちろん他にも目標は色々あるけど、これは特に頑張りたい。




 「なんなら、あらぬ噂を実現してみたりする?」

 「へえ? いいのかよそんな事」




  お互い顔を思いっきり近付ける。

  お互いの息が掛かるくらいの距離―――お互いにお互いしか見えていない。

  鼻と鼻がひっつきそうな距離で、ともすれば唇まで触れかねない。

  けど―――私とこいつに限って、そんな事にはならない。




 「冗談もほどほどにしとかないと、知らねえぞ?」

 「その時は私が馬鹿だったってだけね。まあ相手には幻滅だけど?」




  これが私だ。これがあいつだ。

  お互い、とても近い距離にいるのに―――手を伸ばしてもぎりぎりで届く事はない。

  そんな距離が一番良いのだと、私は思う。

  近くにいても手に出来ない人―――だからせめて、支えてあげたい。

  必要以上に近づけばきっとお互いにそれ以上を望んでしまうって分かるから。

  だから、そんな事はしない。

  私が望んで、あいつが望まない限り―――

  まあ、私にその気がないから変わる事はないんだけどね。




  けど―――この時間は、愛おしい。

  心を許せる友達と語り合うのは、この上なく楽しい。




  だから、ねえ―――




 「……陣耶」

 「ん?」

 「あんた、おばけ屋敷で出てきてもあんま怖くなさそう」

 「っの……! 言わせておけば言ってくれるなあ……」

 「ふふ」




  こんな時間を、もう少しだけ。





















  Next「聖祥中学文化祭」





















  後書き

  な、なんてデンジャー……どうも、ツルギです。

  陣耶とアリサの関係を綴ってみたものの、予想外にデンジャーな事に。

  暴虐とか横暴とかそういった線スレスレのギリギリ、絶妙なまでに微妙な関係がw

  この二人、たぶんこれ以上の関係にならないんじゃないだろうか。

  お互い油断がならないけど、その分お互いを深く理解しあえている。

  そんな関係に見えたらなー、と思います。

  あと拍手のお返事を



  >最新話、フェイトのポンコツっぷりに笑わせていただきましたが・・・

    文中に『最後の両親』とあるのですが『最後の良心』ではないでしょうか? 確認お願いします。



  や っ ち ま っ た い

  うう、誤字チェックはしてますが所々……善処しますっ!

  これで今回も誤字あったら首吊るしかねえ……

  拍手ありがとうございます!



  それではまた次回に―――







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