「ジンヤ、いる?」

 「あん? フェイトか、どした」




  小学校卒業が控えた2月下旬。

  そのとある雪の降る休日にフェイトはやって来た。

  外は結構寒いようで厚手のジャンバーにマフラー、さらには手袋に耳当てまで。

  毛糸の帽子以外はフル装備である。なんかゴテゴテしてて可愛い。

  雪も結構きついらしく所々に雪をかぶってた。




 「まあ取りあえず上がれ」

 「うん、お邪魔します」




  いつまでも玄関にいては寒いだろうと暖房の効いている居間に通す。

  居間ではトレイターが温かいお茶を淹れてくれていた。

  フェイトを適当な座布団に座らせてお茶を出してやる。




 「ありがと」




  お茶を飲んでほっと一息。体は温まったらしい。

  着込んでいたジャンバーとマフラー、耳当てを外して気持ちよさそうに肩の力を抜いた。

  さて、落ち着いたところで用件を聞いておこうか。




 「んで用件は何ぞ?」

 「うんー、あのねー」




  よっぽど外が寒かったのだろうか。

  心なしかいつもメリハリははっきりしているフェイトがのほほんとしていると言うか・・・




 「えとね、ちょっと折り入って話があって・・・」




  と、ちょっと言いにくそうに眼を逸らした。




  んー、何かプライベートにかかわる事かね?

  だとすれば相談に乗ってやれるかどうか甚だ心配なんだが・・・

  とりあえず、フェイトにお茶をもう一杯―――




 「ごくごく・・・ぷはっ、ありがと」

 「いえいえ」




  お茶を飲み干した湯呑をトレイターが下げてくれる。

  取りあえずは落ち着いたのかフェイトがもう一度こっちを見る。




 「え、えと・・・そのね」




  それでやっぱりまだ言いにくそうに言い淀んで・・・

  だけど思い切ったように顔を上げてズイッとこっちに体を乗り出してきた。




 「うおっ」




  い、いきなりビックリするっつーの。




  顔が至近距離で、なんかフェイトも恥ずかしさからかちょっと顔が赤くて・・・




  ヤ、ヤバイ。なんか知らんがヤバイぞ・・・

  全力で頭の中が警鐘を鳴らしてやがる、何故かは知らんが。

  とりあえず落ち着くのだ俺の心よ。

  水の一滴を見るのだ。明鏡止水だめいきょーしすい。びーくーるびーくーる。

  すーはーすーはー・・・よっしゃ、心の平静は取り戻した。

  うし、ドンと要件カマン。




 「えっと・・・つ、付き合ってほしいのっ」




  ―――明鏡止水、崩壊。















  〜A’s to StrikerS〜
         Act.20「感謝と出来心とクッキーと」















 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・頭、大丈夫?」

 「えっと・・・ダメかな」





  イエ、ダメトカドウトカノマエニオレハアンタノアタマヲウタガイタイデス。

  何、何が、どうして、どんな過程を通したらいきなりそんな発言が降ってくるのかああああああああああああああッ?!!

  いや嬉しいっちゃ嬉しいがその結論に行き当たるまでの心当たりがなさ過ぎて困るんだっての!?

  ドッキリ!? ドッキリかもしかしなくても!!

  こうやって慌てふためく様をはやて辺りがこっそりと撮影して俺を辱めたりとか脅したりとかそういうオチかあああ!!

  そうは成るか! この程度、俺の真・明鏡止水を以てすれば・・・!




 「イヤモウトリアエズオチツキマショウ、ナゼコンナハツゲンニナッタカヲレイセイニフリカエッテデスネ」

 「えと、買い出しに付き合ってほしいって意味だったんだけど・・・ダメ?」




  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・モウイヤ、こいつが天然ということを忘れていた俺が嫌だよ。















                    ◇ ◇ ◇















  小麦粉、バター、卵、砂糖、バニラエッセンス・・・うん、こんなところかな。




 「ありがとジンヤ、買い出しに付き合ってくれて」

 「いーえどーいたしまして」




  ジンヤに了承を貰ってスーパーに一緒に買い出しに来たのはいいけど、さっきからどこか不機嫌に見えて仕方がない。

  ただそれは外に向けたモノじゃなくて内側に向けたような・・・えーと、自虐?

  何にしろ、放って置いても碌なモノじゃなさそう。

  大丈夫かな・・・

  個人的な事を言えば、この後のためにもジンヤにあんな状態でいられるとちょっと困ってしまう。




 「ジンヤ?」

 「何だー?」




  あう、イマイチ気力が無いなあ。

  何か目が妙に虚ろだし・・・うう、心配だな。

  また変なこと起こさなきゃいいけど。

  ―――うん、やっぱり心配だし。




 「ジンヤ、次はあっち。一緒に来て」

 「・・・・・」




  ちょっと引っぱり回したら多少は元気になるかな?

  そう思ってジンヤの腕を抱えて足を運んだのは生物エリア。

  要するにお肉とかお魚とか野菜とか、そんな物が売ってるエリア。

  新鮮な食材の選び方とか教えて貰えたらいいなーとか、そのついでに話している内に元気が出ないかなーとか思ったり。




  ・・・結論から言えば、思いっきり失敗だったけど。




 「えと、ジンヤ・・・?」

 「ふふふ、これもダメこれもダメこれもダメこれもダメこれもダメこれもダメダメダメダメダメダメ・・・」




  こ、怖い・・・! 怖いよジンヤ!?

  こう、前髪で目元が見えなくて口元は怪しげな笑みを浮かべて暗い笑いを洩らして・・・

  それ以上に全部没ですか、素人目に見ても明らかに美味しそうなのまで全部没ですか。

  他のお客様まで退いてるし・・・あ、さりげなく今の取った。




  と、とにかくこれ以上ここにいるとジンヤが行ってはいけない領域にまで行ってしまいそう・・・

  ここは―――戦略的撤退!

  もう一回腕を抱えて移動っ!!




 「つ、次こっち行ってみよう!?」

 「ふふフフ府不負負負負負負、これもあれもそれもどれもダメダメダメダメダメ」




  うわああああああああああああああああああん!















                    ◇ ◇ ◇















  あー、もう何なのアレ。ありえねえ。

  一般的な観念を持っているなのははいい、おふざけでやってくるはやても良くはないがこの際良しとしよう。

  問題は・・・




 「え、えーと確かここを・・・あれ?」




  目の前でさっきから道に迷ってくれている天然だ。

  こいつ、分かってるのか分かってないのかかなり危ない発言や行動をかましてきやがる。

  出かける前の付き合って然り、さっきや今の腕を抱きかかえられてる状態然り。




  ありえん、ホントもうありえん。

  こいつ狙ってやってんじゃないのだろうかと時々思う。そうだったらどんなに楽か・・・

  まあその時は容赦なく俺の激辛料理フルコースを振舞ってくれる。止めは麻婆豆腐だ。

  ・・・こいつに限って、そんな事は金輪際あり得んのだが。

  だからこそ余計に性質が悪い事この上ない。チキショウ、俺の純真を返せ。




 「・・・で、どこ向かってんの」

 「あ、えーと・・・」




  いきなりの俺の声に明らかにびっくりして狼狽してる。

  そんでもって行き先すらまともに言えないほどにビックリしたか? なんか悲しい。

  ・・・あ、そっか。迷子か。




  じゃあ、フェイトは今どう行動していいか分からない、と。

  ふんふん、なら・・・




 「んー、じゃあこっち来いフェイト」




  抱えられてた腕を解いて逆にまだ辺りをキョロキョロしているフェイトの手を引っ張ってやる。

  そんでそのままスーパーの内部を徘徊しにかかる。

  行き先? んなもん適当に歩き回ってりゃ出口に着くんだよ。




 「あ、ちょジンヤっ」

 「いーから行くぞー」




  散々翻弄してくれたんだ。今度は俺が引っ張り回してくれるわ。

  ・・・その他に、もう少しこいつの手を握ってたいとか思ってた事は、まあ誰にも教えるつもりはない。




 『ツンデレですか? 珍しいですね』

 「黙れや」

























                    ◇ ◇ ◇















  買い出しが終わってジンヤの家に帰り着いた。

  相変わらず雪はきつかったけれど、繋いでいた手が温かかったのは内緒。

  さて、ここからが本番なわけだけど・・・




 「ジンヤ、もう一つお願い良いかな」

 「・・・・・」




  あう、そんな「またかお前」みたいな目はやめて。

  私が引っ張り回してしまって疲れてるのは分かるけど・・・

  それに対してもの凄く申し訳ない気持ちはあるけど、だけど・・・どうしても頼みたい事が・・・




 「・・・・・ダメ、かな」

 「・・・無自覚なのが、性質悪い」




  ・・・失礼じゃないのかな、ジンヤ。

  こっちが切実にお願いしているのにそれは無いよ、ほんと。

  当のジンヤは露骨に溜息を吐いて・・・




 「まあ、いいさ」




  うう、許可をくれたのは嬉しいけどジンヤの態度からして気後れする・・・

  とは言っても陣耶の家ぐらいしかうってつけな場所は思い当たらないし。

  なので気後れはするもののやっぱり台所を貸してもらう。

  今は昼過ぎ。ちゃんと出きれば夕食を作る邪魔にはならないはず。

  早速買った材料をスーパーの袋から取り出してキッチンに広げる。

  小麦粉、バター、牛乳―――




 「・・・まさかとは思うがお前、それ全部自分の小遣いで?」

 「うん、そうだけど」




  何を当り前な事を聞いてくるんだろうか。

  そもそも一緒に会計をしたんだから私が自分のお財布からお金を出すの見ていたと思うんだけど。

  ・・・だから、そんな風に頭を抱えられても私にはいまいち理解が及ばないんだってば。




 「はあ・・・お前今度こういう事する時は事前に何作るか言え」




  頭を抱えながら溜息を吐いた後、陣耶は呆れたようにそんな事を言った。

  とは言われても、やっぱりいまいちその趣旨が理解できない。

  そして、理解できない疑問には答えを求めるのが人の本能だと思う。




 「へ? 何で?」

 「いーから返事っ! はいと言えはいと!!」

 「は、はい!」




  い、いきなりそんな怒らなくても・・・いや、確かに私は物分かり悪いと思うけど。

  けど私って今日ジンヤに対して何か悪い事したかなあ。

  うう、今度なのはにでもそれとなくジンヤの苦手な事とか聞いておこう。




 「なに、さして気にするような事でも無いさ」




  背後から慰めの様に肩を叩かれる。

  声からしておそらくはトレイターだと思う。

  ただ慰めるように肩を叩きながら、この上なく愉快だと言うような声で喋るのはどうかと思うんだ。




 「アレは自己中心的お人好しだからな。性格的に不器用なんだよ」

 「はあ・・・」




  うーん、不器用か。なるほど確かにそうなんだろう。

  普段の容赦無い物言いとか行動とか、そういうのが全部不器用さ所以っていうのはどこか納得がいく話でもある。

  自己中心的な所もそんな風に不器用だからなのかな。

  うん。そう考えるとジンヤって案外照れ屋さんだ。




 「そこ! 何か余計な事吹き込んでないだろうなッ!?」

 「はっはっは、そんな事は無いさ」




  こう見ていると、改めて陣耶とトレイターの奇妙な関係が見て取れる。

  私とアルフ、はやてと守護騎士たち。そんな関係とはまた少し違った陣耶とトレイターの関係。

  私もはやてもみんなとは立場を平等にして接しているつもりだ。

  だけど、相手がどうも線を引っ張っている。

  きちんと主従の線引きを引いて、その範囲で私たちの意に沿えるような関係を保っている。

  けど陣耶の従者であるトレイターにはそういった遠慮が普段は全く見られない。

  時と場合を弁えたりはしているみたいだけど、必要な時以外は自由に一個人として生活している。

  あり大抵に言うなら、えーと、アルフや守護騎士たちは主人に立場を謙るんだけど。




 「どうしたどうした。そんな事ではこの先一生私から勝ちを取れんぞ」

 「なろう、待ちやがれッ!!」




  そう、主人相手だからって普段の特別扱いが無いと言うか遠慮が無いと言うか。

  どこまで行っても彼女は彼女なんだ。

  そう考えると、陣耶とトレイターは酷く似た者同士だ。

  他者を特別扱いしない。分け隔てなく思うように人と接する。

  だから、この二人は出会う事ができて、主従となれたのだろうか。




 「ほらほらどうした。掠りもしないぞ?」

 「だー! ちくしょうめー!!」




  ・・・・・とりあえず、部屋で暴れるのはやめようね?















                    ◇ ◇ ◇















  フェイトはさっきからカチャカチャとキッチンから何やらたどたどしい手つきで作業に没頭している。

  使っているのは器具以外はすべてフェイトが自前で仕入れた物ばかり。

  となると、アレだけの物で作れる物はかなり限られてくる。

  更にさっきからの作業を見ている限り、作っているのは恐らくクッキーだろう。それも初挑戦と見た。

  元々物覚えは良いフェイトだが、さっきから一手順ごとにレシピらしき物を覘いてはもう一作業、というのを繰り返している。

  なのはが料理をしている所は知らないが、俺やはやての奴とはえらい違いだ。

  こういうのは慣れている俺やはやては分量なんて適当で済ませてしまう。

  結構な期間を自炊してきたからか、そういうのは体が覚えていたりするものなのである。




 「ねージンヤ、このオーブンってどう使うの?」

 「あー、ちょっと待ってろ。クッキングシートやらは俺の方で用意してやっから」




  座布団から腰を上げて俺もキッチンにお邪魔する。

  俺の両親は二人して料理好きだったのか、よく二人でキッチンに入っていたのを覚えている。

  その辺りを考えていたのかキッチンは子供二人が入ろうがまだ広い方だ。

  反対側でまだタネを仕込んでいるフェイトを眺めつつ、オーブンの設定をする。

  設定温度は170っと、うし出来た。

  えーと、それでシートは確かこっち・・・お、あった。

  見つけたクッキングペーパーを適当な大きさで切り、オーブン用のプレートに敷く。

  フェイトの方は・・・




 「―――うん、こんなので良いかな?」




  とりあえずは出来たらしい。

  こっちも用意が出来たプレートを持っていってやる。

  タネの周りにある器具は適当に片づけて―――っと、これとこれとこれは流し台に置いておかなければ。

  後はちょっと白っぽくなってるシルク台を軽く拭いて―――うし、おっけい。

  ちょっと片づけただけで結構すっきりして見えるもんだなあ。

  さてフェイトは―――




 「うん・・っと、あれ? 丸くならない・・・」




  ことのほか悪戦苦闘しているようで。

  肉団子なんかと違ってだいぶ粘っこいからなあ。コツがあるんだよコツが。

  けどこうやって傍から頑張ってる様を見ていると何とも可愛らしいと言うかなんと言うか。

  とにかく横から手を出すのは憚られたのでしばらく静観する事に。

  まあ色々と試行錯誤を繰り返しているし、この調子だとオーブンの準備が出来る頃にはできてるだろ。















  で、しばらくしてクッキーが焼き上がった。

  不格好な形のクッキーは先程網にとって今は冷ましている最中だ。

  そして冷ましている間に第二陣を焼きにかかる。

  さっきの作業でコツを掴んだのか、フェイトは最初と比べて比較的スムーズにタネを丸めていく。

  ほんと、呑み込みが早いなあ。おらビックリしたぞ。




 「出来た・・・!」

 「よーし、じゃあ早速オーブンに入れてしまおう」

 「あれ? さっきより準備できる時間が・・・あ、そっか。熱が残ってるのか」




  ほんとに察しが良いな・・・流石執務官。こういった推測は得意らしい。

  フェイトも納得したので第二陣をオーブンの中に放り込んで蓋をして時間設定―――うし、スイッチポンと。

  鈍い音と共にオーブンの中に明かりが灯る。今頃中は灼熱地獄だろう。

  いや、輻射波動やサイクロプスなんかは熱そうな感じなかったし・・・感じる暇無いだけかね? まーどうでもいいか。

  なにせオーブンの上にプラスチック置いたら溶けたしな、きっと熱いんだろう。じゃないと焼けないし。




  待っている間は実に暇なので今で座って待機する・・・と、ふと疑問。

  こいつは何でわざわざ俺の所でクッキーを作ろうとしたのだろうか。

  俺よりうってつけな相手が身近にいるというのにわざわざ遠い俺の所まで訪ねてきた理由って何だろう。

  距離的にもあの二人の家は近い。そして俺は遠い方だ。

  更に言えば知識の面でも俺はあいつに劣る。それもフェイトは分かってる筈だ。




  だというのに、何でこっちにわざわざ来たんだろうか・・・




 「ジンヤ、いきなり押しかけてきて迷惑だった?」

 「ん? ああ、別にそんな事はねーよ。どーせ暇だったし」




  そういう意味ではいい暇つぶしにもなったと言える。

  買い出しの時なんてかなり役得だったし。

  うん、別に付き合わされて悪い事は無かった。




  ・・・・・いや、思い出すと小っ恥ずかしい記憶はあるけどさ。




 「そういやさ、お前何でわざわざ俺の所に来たんだ?」

 「え? 何でって?」

 「そうそう。クッキー作るなら俺よか適任がいるじゃん?」




  現在は局員を辞めて喫茶店の手伝いを喜々としてこなしている高町なのは。

  やつぁー喫茶店の娘という事もあってか菓子作りが上手い。それもかなり。

  一般家庭の料理なら俺やはやての方がまだ一歩先だが、こと菓子作りの事になるとあいつは圧倒的である。

  なので俺はフェイトがこういう事をするならなのはと一緒だと思っていた。

  つーか、実際なのはとフェイトは一緒に菓子作りを何度かやっている。

  だというのにこっちに来たのだ。そりゃあ知的好奇心が湧いてきますよ。




 「うん。まあ理由は単純なんだ」




  理由は自分でもなんだかなーって思うんだけどね、とフェイト。

  むう、一体どういう心境の変化だろうか。

  こいつ、やっぱ以前と比べて何かとぶっちゃけてるとゆーかはっちゃけてるとゆーか。

  むしろ背伸び? ・・・この頃身長伸びてきてんのにそれはないだろう。




 「ちょっとね、秘密で作ってみたかったんだ」

 「・・・へえ、それはまた」




  こいつが秘密事とは珍しい。

  元々フェイトは隠し事なんてするタイプじゃない。むしろ隠す事を恐れてる。

  そこは恐らく自分の出身が知れた時の反応とかが怖いんだろうが、まあそれはそれだ。

  クッキーを秘密とはまたアレな気もするが、それでもこいつが秘密というのに驚きである。




 「小学校卒業も近いからね・・・今までありがとうって、お礼がしたいんだ」




  まあそれは如何にもフェイトらしい理由である。

  どんな事であろうと他人への気遣いが発端になっている辺り、筋金入りのお人好しである。

  それは俺の知人のほぼ全員に言えた事でもあるけど。

  だがなるほど、そういった事なら納得がいく。




  ・・・いく、のだが。




 「じゃあさっきのなんだかなーってのはどういう意味なんだ?」

 「あはは・・・」




  少々言い辛いのか視線を外される。明後日の方向を向いて頬を掻いている辺り重症だ。

  かといってここまで言ってお預けもなんだと思う。

  ということで本心をプリース。さあ、さあさあさあ!




 「ジンヤ? 目が怖いよ」

 「む、失敬」




  調子に乗るのはいけないな、うん。

  この心境を分からせたいものである。はやてとかアリサとかトレイターとか、あとタヌキとかに。




 「ちょっとね、なのはを驚かせたいなーって・・・」

 「ほ―――」




  これはまた・・・フェイトにしちゃ珍しい理由である。

  大人しいイメージが強いフェイトが驚かすとは、また。

  それもそれで結構な驚きだ。




 「ほら、はやてとかよく人を驚かしたりして楽しんでるでしょ? だからどんなのかなーって」

 「・・・・・・・・・・・・・」




  わーい、ここにT(タヌキ)ウイルス感染者がいるよー? 空気感染でもしたのかコンチキショウ。

  ええい、何もかもぶち壊しじゃねえか大明神め!

  最後の両親の一人であるフェイトまで敵に回ったらおりゃこの先耐えて行けねえ。

  つか、あの天然っぷりを悪戯で発揮されたらそれこそ首を吊れる。それはもう確実に。




 「なろう、どうやって報復してやろうか・・・!」

 「じ、ジンヤ? 何か凄く怖いよ・・・?」




  おっと、いかんぞ俺。KOOLになれKOOLに。

  こんな所で当たり散らしても一文の得にもならん。こういうのは内に溜めてじっくりと熟成させてぶつけてやるのだ・・・

  今度フグ鯨でも喰わせてやる。




 「え、えーと・・・とりあえずこれでも食べて落ち着こう。ね?」

 「むむ、スマンな」




  いい感じに冷めたフェイトお手製のクッキーを一つ摘まんで口へ―――

  むぐむぐ。




 「ど・・・どうかな?」




  フェイトや、そんな風に下から見上げるのは止めてくれ。

  正直色々ときつい。そんな不安そうな目で見られると思わずこう、保護欲が掻き立てられるから。

  ええい静まれ、俺の心よ!

  口の中でしっかりとクッキーを噛んで味わ・・・ってぶほぅ!!?




 「ジンヤ!? ど、どうしたの!」

 「〜〜〜〜〜ッ、〜〜〜〜!!」




  しょ、しょっぺ! 甘くないってしょっぺえってのコレ!!?

  こ、これはもしかしなくとも・・・




 「うむ、これは砂糖と塩を間違えたな」

 「ええ!? ウソ・・・って、ほんとだ」




  ふ、ふふふ・・・このドジっ子、め・・・

  本当、今日は碌な事が、起こらない・・・・・ガクリ。















                    ◇ ◇ ◇















  さ、さっきは失敗しちゃったけど今度こそは大丈夫。

  ちゃんと塩と砂糖を確かめて入れたし、タネの味もちゃんと大丈夫だったし。

  だから大丈夫・・・な筈。

  うう、断言できないのが怖い・・・

  いや、駄目だよ私。ここで弱気になっちゃダメなんだ。もっと大丈夫って思わないと大丈夫な事も大丈夫じゃない!




 「うん、イケるイケる」

 「それはあからさまに駄目なフラグだなオイ」




  え!? 何か間違った!?

  不安な時はこれを言うといいってはやてが教えてくれたんだけど・・・




 『果てしなく間違った知識が混じってますね』

 「ヤロウ、今度プライミッツ特性スープでも味あわせてやろうか」




  何だろう、プライミッツって・・・酷く怪しげな雰囲気しかしないんだけど。

  うう、何でかはやてに危害がいきそう。

  教えてくれたのははやてとは言ってないけど確実に確信しているよあの顔は。

  こういうのをお互いをよく知ってるって言うのかもしれないけど、とても危ない表現に聞こえるなあ。何でだろ。




 「まーそれはさて置いて・・・これはどうすっかな」

 「あ、そうだった・・・どうしよう」




  陣耶が指示したのは私がさっき作った塩クッキー。

  砂糖の代わりに塩がたっぷり入っているので見事なまでにしょっぱかった。むしろ塩辛かった。

  それがまだたんまりと残っている訳で・・・




 「んー、これをはやての奴に持っていくってのも手か」

 「ならば更に塩をまぶして送るというのはどうだ? はやてが倒れた後には奴も口にするだろうからな」

 「容赦無いよね、本当」




  はやてにもリインフォースにも私にも容赦無しのフィニッシュブローだよそれは。

  それにしても―――




 「ジンヤって会った当初は妙に大人びて見えたのに、今はなんだか子供っぽいね」

 「なぬ?」




  昔は今より口数が少なかったり暗かったりで少し話しかけづらかったんだよね。

  その分、今は明るいし良く喋るし話しかけやすい。




  ・・・やっぱり、なのはのお陰かな。

  私もなのはと出会って、変わる事が出来たように。

  ジンヤも、なのはと出会って変わる事が出来たんだと思う。

  なのはは他人に優しくできる人で、その優しさで人を変えていく―――不思議な子だなって、今になって思う。




 「まあ、そう聞くと昔のお前は老けていたとも言うな」

 「なっ、俺はそんなに加齢臭がしていたというのか・・・!」




  こうやっていつも楽しそうに笑って―――カレー臭?




 「分からんぞ? 今も加齢臭はお前の体から・・・」

 「くう、何たる事か。俺はあの化け狸よりは長生きするつもりなのに!」




  ・・・端々にとてつもなく失礼な言葉が混ざってる気がするけど・・・

  まあそれより。




 「ジンヤからはカレー臭ってしないよ?」




  ・・・? 何で私を見て固まるのかな。

  えっと、カレーの話だよね?

  食べた後のカレーの臭いが、って事じゃあないの?




 「けど、カレーの臭いがしないっていうのも凄いよね。ね、教えてくれないかな」

 「え、あーと、その・・・」




  色々と方法はあるけどほら、速攻性だとなお嬉しいし。

  カレーって美味しいけど臭いがネックだからね。改善できるなら安心して食べられるし。

  是非教えてほしいなー。




 「あ、とだな・・・」

 「うん」




  何かな何かな?

  と、その時チーンとオーブンからクッキーが焼き上がったお知らせが。




 「お、クッキーが焼き上がったな。さー今度はちゃんとできてるかなー」

 「私が作ったんだってば。あとあからさまに話題を逸らしたよね」




  まあいいけど。また今度聞けばいっか。

  さてと、今度のクッキーは上手く焼けてるといいなー。
















  Next「中学生活にて」
















  後書き

  〜A's to StrikerS〜の小学生編がこれで終了です。次回からは中学生!

  ここまで長かった・・・プロローグ含めた前作の話数+1の話数で小学生編が終わりましたよ。長かった・・・

  中学生編ですが結構時期が飛んだりします。小学生編以上に。

  それにしてもFateの映画化は嬉しいですね、一ファンとして。

  サブタイトルはUNLIMITED BLADE WORKS。これはもう原作を知っている人なら期待するしかないでしょう。

  では最後に拍手を頂いたのでレス返しを―――


  >アリサの礼儀作法特訓教室よみました。面白かったです。

    電撃を放つバングルって運命の物語の・・・まあそれはともかく・・・アリサが陣耶にフラグ立てた?!

    私の勘違いですかね。ヒロインに立つなら良く有るけども・・・


  バングル・・・さーどうでしょう?w ご想像にお任せいたしますよw

  それにしてもヒロインが立てにいく方向は考えてなかった・・・そうすればよかったのか!(違

  まあ立てたとしても本編中にくっつく事はまずないかと。


  >うん、まああれだ。アリサは人に礼儀だとかなんだとか言ってるけど、君自身、礼儀がなってないって言うか、

    普通に暴言吐きまくってんじゃん。

    親しき仲にも礼儀ありという言葉を君は知っているのか?と問いたい。それに君はまず見る目がない。

    確かに彼は無作法だし、礼儀? なにそれ? おいしいの?な感じはするが、本当に、細かいところで自分すら気付かずに

    気を配っているという事を。

    それにより、君も含めて何人かの友人が助けられていることを、君はまるで分かっていない。むしろ君の方が理解度0点だ。

    学校の評価の方にもう少し周りを見ることができるようにしましょう、と書かれたことがあるだろ? 絶対。


  ぐは、なるほどそう見えましたか・・・・・

  自分の未熟を恥じるばかりです、ハイ。

  一応、いい訳の様なモノを言わせてもらえば、アリサは不器用なのでこんな風に暴走しがちなんです、自分の中じゃ。

  あと根本的にリリカルなのはの世界って女性>>>(越えられない壁)>>>男性じゃないですか。あ、関係無いか・・・

  けど自分の作品をしっかりと読んでくれての感想なので、とても嬉しいです。

  これからも何か気になった点などがありましたら拍手で言ってくださると助かります。ありがとうございました。


  それではまた次回に―――





作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。