「なあ、そういやずっと気になってたんだが」

 「何?」




  とある秋の昼下がり。

  そろそろ紅葉も色づいてきて涼しくなってきた今日この頃。

  学校の屋上で昼飯を平らげていた俺は、ふとした疑問を何気なしに聞いてみた。




 「お前の頭にあるその髪止め、ずっと付けてるけど何?」

 「ああ、これ」




  頭にそっと手をやってその感触を確かめるように撫でている。

  俺がこいつと知り合った当初からこいつはこれをずっと付けていた。

  いくつも同じものがあるという訳でもなさそうだ。随分と使い込まれているのが見て取れる。

  それも大切に、大事にされている。

  使い込まれているようには見えても目立つような傷は見当たらない。




  要するに、こいつの大切な品なんだろうとは察しがついた。




  けどその理由が分からない。

  当然だ、俺はその理由なんて知らないし、今まで知ろうともしなかった。

  だから、ちょっと気になって聞いてみた。ただそれだけ。




 「そっか、知ってるのはなのはちゃんとアリサちゃんだけだったっけ」




  おや、流石にこの二人は知ってたのか。

  まあ俺たちと知り合ったのはこいつらが知り合ってから二年も後の事だし。

  別に俺たちが気にする事もなかったから話すような機会もなかったんだろう。




 「うん・・・まあ、時間もあるし丁度いいかな」




  過去に思いを馳せる様に目を閉じる。

  ゆっくりと閉じられた眼は、それこそ尊いモノを見つめている様に見えた。




 「ちょっと長くなるけどね―――」















  〜A’s to StrikerS〜
         Act.19「大事な思い出」















  ―――それは、遠い遠い昔のお話。

  まだ自分がどういった生を受けたのかも分からず、皆と変わらないと思って世界を生きていた頃の―――















  始まりは、本当に些細な事だった。

  まだ小さかった私は公園のブランコに揺られていた。

  二つの木製の椅子が金属製の鎖でぶら下がっており、その右のブランコを私は気に入っていた。

  なぜ右か、と聞かれても特に理由はない。

  あるとすれば、それが一番最初に座ったブランコだからだろう。




  キーコ、キーコ、




  鈍い金属音を立てながら一定の間隔で揺れるブランコ。

  まるでそれが揺り籠のように思えて、それを心地いいと感じていた私はそのブランコを気に入っていた。

  毎日公園に行ってはブランコに揺られる。

  まだ友達もいなかったその頃は、それがとても楽しみだった。




  そして、その日も変わらずにブランコに揺られていた。

  いつもと変わらずに公園に遊びに行って、いつもと変わらずにブランコに揺られて。

  ただその日は、いつもと違うことが一つあった。




 「おい、おまえ」




  不意に、聞きなれない声を聞いた。

  ブランコに夢中になっていた私はそれに気づかなかったんだろう。

  いつの間にか、公園には数人の男の子がいた。

  その内の一人が、私の前に立っている。




 「おまえ、そこさっきから使ってるだろ。どけよ」




  いきなりそんな事を言ってくる。

  幼かった私でもそのことに対して疑問くらい持った。

  ブランコなら左が空いている。

  だからそこに座ればいいではないかと、私はその椅子から腰を上げなかった。




 「おい、聞いてんのかよ」




  苛立たしげに男の子が声を上げる。

  私の対応が気に障ったのか幾分か不機嫌に見える。




 「どけっつってんだよ。どけよ」

 「イヤ」




  流石にしつこく感じたので今度ははっきりと拒絶した。

  すると、自分の言う通りに私がここをどかないのが気に障ったのか更に眉を吊り上げて―――




 「どけっつってんだよ!」




  ドンッ、と鈍い音がした。

  一瞬何が起こったのか分からず、次に感じたのは鈍い痛み。

  自分が尻餅をついているのだと理解するのには、さして時間はかからなかった。




 「―――ぇ?」




  何で、と止まった頭が思考を再開する。

  目の前には我が物顔で今まで私が座っていた場所を占拠している男の子。

  弾き飛ばした私に見向きもせずに、彼は私の場所を奪った。




  ―――何で?




  一瞬、視界が点滅する。

  それと一緒に、心臓も跳ねた。




  ―――何で?




  自分の思考が別人の者の様に思えてくる。

  意識ははっきりしていて頭もすっきりとしている。

  だけど―――まるで、熱に浮かされた病人みたいに。




  ―――何で?




  今にして思えば、もっと考え方を変えていれば良かったのかもしれない。

  例えば、今まで使っていた場所は諦めて素直に隣のブランコを使うとか。




  ―――何で?




  けど、そんな事はifの話。もうあり得ない事、変えようのない事実。

  その時の私は一つの事ばかり考えていた。

  そう、即ち―――




  ―――何で、そこに貴方がいるの?




  そこは私の場所だと、それを横から無理やりとっていったのは彼だと。

  だから、仕返ししてやれなんて、そんな子供心から生まれた小さな復讐心。

  ―――もう痛みは引いた体で起き上がる。




 「―――」




  もう一度、心臓が跳ねた。

  思考はよりクリアに。

  自分が今から何をしようとしているのか、まるで他人事のように感じる。

  五感が拡張されて、不思議と気分が高揚する。




  ―――彼の、目ノ前に、タツ。




 「・・・あんだよ」




  また不機嫌そうに睨まれる。邪魔だ、と語外にその眼が語っていた。

  けれど、そんな事は関係なかった。

  今はただ、この気持ちを、誰かにぶつけて―――




 「え?」




  嘆いたのは誰だったか。

  両手で思いっきり力を籠めて押し叩いた彼の体は予想外にも軽過ぎて―――




 「―――ぁ」




  彼の体は、呆気なく、ガシャンと、ブランコの囲いに叩きつけられた―――




 「・・・・・」




  突然響いた音に一斉に振り返る男の子たち。

  叩きつけられた男の子は、そのまま崩れるように倒れてしまった。

  冷めた思考は、それだけで熱を取り戻してくれた。




 「・・・あ、れ」




  何を・・・していたんだろうか。

  いや、そんな事は初めから分かっている。

  けど、私は、何を考えて―――?




 「おい」




  声をかけられて意識が思考から浮上する。

  気づけば、周りは公園の男と子たちに囲まれてた。

  私を見る目は怒りで染まっている―――

  そして数秒間の沈黙の後、その中の一人が口を開いた。




 「よくもたっちゃんを苛めたな」

 「え?」




  私にしてみればあまりにも場違いな言葉に随分と素っ頓狂な声が出ただろう。




  ―――当然だ。

  だって私にしてみれば彼は私の場所を勝手に横取りした人で。

  つまりは、苛められたのはこっちだと。だから仕返しをしただけだと。

  そんな当然の事が・・・どうして、どうして私が彼を苛めた事になるんだろう。

  そう、私は思っていた。




 「友達を苛める奴は許さない!」

 「そーだそーだ!」

 「悪者はみんなでやっつけちゃえ!」




  私の事なんてお構いなしに盛り上がっていく男の子たち。

  その熱はまるで爆弾が爆発するのに誘爆するみたいに、驚異的な速度でその場に満ちていった。

  その熱に浮かされて主役たちは盛り上がっていく。

  ―――たった一人だけ、一人の悪者を除いては。




 「え、待って、私は―――」




  苛められたのは私だと、悪者は彼なんだと。

  勘違いをしている男の子たちに弁明しようとして―――




  その言葉を、いきなりの暴力で消された。




 「痛っ・・・」




  鈍い痛みは後ろから。

  何かと思って視線を向ければ、私の後ろにいる男の子が私の足を蹴ったのだと理解した。

  そして、それを皮切りにするかの様に次々と暴力が浴びせられた。

  周りにいる男の子から蹴られ、蹴られ、蹴られ、蹴られ、蹴られ、蹴られ、蹴られ―――




 「痛い・・・! 止めて、止めてよ・・・!」

 「うるさい! たっちゃんを苛めた悪者の言う事なんて聞くもんか!」




  こちらの事情を全く理解しようとしない、一方通行な押しつけの理屈。

  見当違いな義憤に憤る彼らには私の声など届きはしなかった。

  彼らの目に映っているは一人の悪。

  正しいのはこちらだと確信し、正義のためと力を振りかざす。




  ・・・何て、傲慢な、自分勝手ナ正義―――




 「―――ぁ、う」




  四方八方から与えられる痛みに、立っていられなくなる。




  痛い。

  足を蹴られた。

  痛い。

  腕を蹴られた。

  痛い。

  背中を蹴られた。

  痛い。

  頭を蹴られた。

  痛い。

  痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたいイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタ―――




 「―――ぅ」




  視界がアカク点滅する。

  心臓が、また跳ねた。

  それと同時に、また熱に浮かされる。

  その癖、やっぱり冷静に自分の思考を他人事のように―――




  そうだ、何で私がこんな目に。

  私は何もやってない。勝手にやってきたのは向うだ。

  自分のお気に入りの場所を無理やり取って、そんな事すら許せないと責められて―――




  そうだ、私のドコガ悪イ。




 「―――」




  四肢に力が入る。

  気分も良い。これなら、この人数が相手でもやり返せると思った。

  これは当然の事だと囁きかける声を聞きながら、私は腕を振り上げ―――










 「ちょっと待ったー!!」




  ようとした所に、そんな声に出鼻を挫かれた。




 「・・・え?」




  周りの男の子まで含めて、全員が声の方角に顔を向ける。

  私を囲んでいる輪から少し離れた公園の入り口。そこの塀の上に―――




 「みんなで女の子一人を苛めるなんてカッコ悪いぞ! 恥ーずーかーしー」

 「んなっ、何だよお前っ!」




  そこに、彼は立っていた。

  半袖のTシャツに半ズボン。右手には何やら袋を持っている。

  太陽を背にしていて顔はよく見えない。

  だけど、その声だけはこの場によく響いた。




 「僕か? 僕はこの街を跋扈する魑魅魍魎共から人々の平和を守る正義の味方ッ! その名も、魂葬刑事カラク―――!!」

 「またお前かへべれけ予報士の孫!!」

 「孫言うなーーーーーーーーーーーーーー!?」




  ・・・・・何か、色々と台無しだった。




  突然現れた男の子は調子が狂ったみたいにしぶしぶと塀から降りてくる。

  と、私の周りを囲んでいた男の子たちがいきなり彼の方に集まっていった。

  一体どうして・・・




 「この前はよくもやってくれたな!」

 「僕たちがネコ二匹と遊んでいる所を邪魔したり!」

 「あれはネコ二匹で遊んでるんだよ! 断じて一緒に遊んでなかったもんね!」




  ―――なにやらあの彼と男の子たちには確執がある模様。

  それも結構深そうな・・・

  とにかく、事情はよく分からないけど一触即発な空気だ。

  ど、どうしよう。止めようって言った方がいいのかな・・・




 「とにかく、今まで散々邪魔してくれた仕返しをしてやる!」

 「やれるもんならやってみろ! 正義は勝つって知ってるかーッ!!」




  ああ、危ない!?

  男の子の内一人がおもむろに彼に向かって突撃して、その拳を振り上げて―――




 「ふっ、まだまだー!!」




  手に持っていた袋の中身を、思いっきりぶちまけた。




  中に入っていたのは何かの粉なのか、辺りがもくもくと袋の中身に包まれる。

  ―――というか、何がまだまだなのだろう。




  だが、肝心の男の子は袋の中身をぶちまけられた時に怯んだ程度だった。

  すぐにその怒りを頂点にまで回復させる。




 「ビックリさせやがって、かく―――っ!?」




  と、急に男の子の動きが止まった。

  よく見れば拳を振り上げた子だけではない。周りの男の子もみんなその動きを止めて―――




 「ぶぁっくしょいッ!!」




  ―――盛大に、くしゃみをした。




 「へ?」

 「ふぁ・・・へくしょんッ! はっく、はくしょんッ!!」

 「ぶぁッ、ごっふごほ・・・!」

 「ちょ、何だこれ、ぶはぁっくしょんッ!!! 目が、鼻がああああああああっくしょん!!?」




  さながらその光景は阿鼻叫喚。

  男の子たちは彼の振りまいた粉の中で尽きる事の無いくしゃみ地獄を味わっている・・・!




 「はっはっは、今回は胡椒と唐辛子をミックスした物を用意して来てみました」




  ああ、そうか。

  胡椒や唐辛子の粉を被ると酷い目に遭うって聞いた事はあるけど、こういう事か・・・

  目の前で男の子たちが実演してくれているので、実に分かりやすい。




 「どうだ、恐れいっくしょん!! ・・・しまった、俺の方にもいつの間にか粉がっくしょん! ぶぅっくしょん!!」




  自滅してるし。

  私以外のみんなはあの粉の中にいてずっとくしゃみを続けている。




  ・・・・・あ、私帰っていいかな?















 「ふいー、酷い目に遭った・・・」




  どう考えても自滅だよね、という言葉は呑み込んでおく。

  私を取り囲んだ男の子たちはあの後、




 『今日はこの辺にしておいてやるー!』




  なんて捨てゼリフと共に未だに目を回していたたっちゃんと呼ばれていた男の子を担いで疾風のように去っていった。

  どうでもいいけど凄い団結力だと思う。

  ようやくあの何ともいたたまれない空気から解放された私はその場にへたり込んでしまい、今は彼に介抱されている。

  ベンチに座らせてもらって、一息。

  ちゃんとお礼、言っておかないと。




 「あの・・・ありがとう、助けてくれて」

 「いーよいーよ。おかーさんが言ってた、弱気を助け強気を挫くのが正義の味方だって」




  挫くってよく分からないけどねー、と彼は付け足す。

  彼にしてみればこんな事は日常茶飯事なのかもしれない。

  さっきの会話からしていかにも因縁がありそうだったし。

  だけど彼はずっと笑っている。変わらず、ずっと、明るい笑顔で―――




  登場した時から変わらない真っ直ぐな笑顔。それが、眩しく見えた。

  だから、なんとなく彼の横顔を見つめて・・・




 「それにしてもたくさん汚れたね。大丈夫?」

 「ふぇ?」




  ようやっと、自分の酷い惨状に気がついた。




 「あ・・・」




  見れば服、というか体中所々泥や土で汚れている。

  たぶんさっきあの男の子たちに蹴られてた時に靴に付いてたのが付いたんだろう。

  帰ったら洗濯しないと・・・ああ、頭もなんか酷い事に。ぼさぼさだよ。

  ふええ・・・何でこんな事に・・・




 「えーと、だ、大丈夫?」

 「ひゃっ」




  自己世界に没頭していた意識を引き戻される。

  うう、本当に今日はツイてないというか情けないというか・・・踏んだり蹴ったりだよう。




 「んー・・・あ、ちょっと待ってて」




  と、急に男の子が立ちあがったかと思うとたったかー、と公園の目の前にある雑貨店に入っていった。

  そのまま待ちぼうけること数分、ほどなくして彼が戻ってきた。

  手にはさっき無かった三日月形の何かがある。

  彼は私の顔を見た後、手の中にある物をズイッと差し出した。




 「はい、これどうぞ」

 「えっと・・・?」




  いきなりどうぞ、と言われても困る。

  なにしろ用途が分からないんだから受け取ったとしてもどうすればいいか分からない。

  そんな私の困惑を読み取ったのか、彼は付け足すように説明してくれた。




 「これはヘアバンドって言って、髪の毛を纏めておく道具なんだって。かーさんがよく使ってた」




  ・・・もしかして、髪の毛の有様を見てわざわざそんな事をしてくれたのだろうか。

  助けてくれて、介抱してもらって、その上こんな物まで・・・

  これは、流石に私も気が退けてしまう。




 「い、いいよ。こんなにしてもらったら悪いし・・・」

 「けどもう買っちゃったし? もったいないって思って貰ってよ。そっちの方が嬉しいし」




  ・・・そんな風に言うのは卑怯だと思う。

  にこにこと屈託なく笑いながら彼はそれを差し出して―――私も、それを受け取った。

  さっそく貰ったヘアバンドを使って乱れた髪を纏めて固定する。

  初めてだから上手くできているか不安だけど、帰ったらまた直せばいいよね。

  それを見ると、彼はもう時間だと言って離れていく。




 「じゃあねー! かーさんが待ってるからもう帰るー!」

 「あ、ちょっと・・・」




  ・・・行っちゃった。

  このヘアバンドのお礼すら言ってないのに。

  あの行動の早さといい考える早さといい、彼は結構せっかちさんなのかもしれない。




  と、ちょっとした事に気付いた。




 「・・・名前、聞き忘れたな」




  まあ、次に会う時に聞けばいいかな。

  よしそうしよう、と決めて頭にあるヘアバンドを触る。

  どこにでも売っているような、それこそ100円ショップの安物。

  だけど―――




 「次に会ったら、まずはお礼だね」




  それまでこれは大切に持っていよう。

  その時にちゃんとありがとうって、あの真っ直ぐな笑顔に向けて言えるように。















                    ◇ ◇ ◇















 「とまあ、そんな事が昔あったんだ」




  ほー、と三年になってから知り合った俺たちは声を揃える。

  そのころはまだ保育園やら幼稚園やらそういった所にすら通っていない時代の話だった。




  俺は正直その頃の記憶なんてほとんど覚えてない。

  覚えている事があるとすれば、今はいない両親の事。

  例えば、母さんは今にして思えばイイ性格していたなーとか。

  例えば、父さんは今にして思えば豪快に物事を片づけていたなーとか。

  まあそんな取り留めのない記憶である。

  友達付き合いも公園で遊んだりしていた事もあっただろうが、マンションを今の所に引っ越してからはパタンと途絶えた。

  あの頃の俺にしてみれば果てしない距離だったのだ。仕方なくお付き合いは一からのリセットとなった。




 「・・・にしても、そんな隠されたエピソードがあったとは」




  人生何があるか分からんと言うが周りに溢れている物ですらこんなエピソードを持っている。

  それもピンチを救ってくれた白馬の王子さまの。

  そりゃ大切な思い出の品にもなる。何年も愛用している訳だよ、うん。




 「で、結局その子とは再会できたん?」




  おお、そうだそうだ。

  ナイスはやて。俺らが一番気になるであろう所をバッチリマークだ。

  そしてアリサは少し言いにくそうに―――




 「ううん。それからは彼、公園には来なかったんだ」




  少し寂しそうな表情ですずかは言う。

  むう、だがまあしかしちっさい頃の付き合いなんてそんなものだと思う。

  事実、俺がそうだった。

  それが万人に当てはまるかと言われればそれは違うだろう。

  まあ人生における人付き合いの一ケースである。




 「そっか・・・ごめんな?」

 「いいよ。それに、いつか会えるって思うから」




  実に清々しい笑顔ですずかはそう言い切った。

  その笑顔は本当に寂しさなど微塵も無く、いつか再会できると、そう信じている笑顔だった。




  ・・・とはいえ、何だ。




 「つかぬ事を聞くが、そいつの顔って覚えてんの?」

 「あはは、これがまた全然・・・」




  顔が苦笑いしてるぞ、顔が。

  けど実際、そんな小さな頃の記憶を鮮明に覚えている奴っているんだろうか・・・

  もしいるなら連れてこい、記憶力ギネスやるから。




 「それにしても、そいつもとんだ奴ね。こんな一途に待ってる子がいるのに。しかも上玉」




  いやアリサ、いくらなんでもニヤニヤしながら言う事じゃねえと俺は思うが。

  相手を思ってるのはすずかであって話に出てきた奴じゃねえんだし。

  つーか、なぜ視線を俺に向ける。




 「そやねえ。はよ会いにこんとどっかの誰かさんに奪られてまうかもなあ」




  それは誰かに攫われるという意味か、すずかが惹かれるという意味かどちらなのだろうか・・・

  どっちにしろこいつらがニヤついている以上碌な話にならねえのは確実だ。

  そして被害が主に俺に降りかかるのも。

  で、はやての視線も俺の所で固定される。




  ・・・俺は今、この空気から逃げたいです。

  出てこないかなあ、魂葬刑事。




 「あははは・・・」















                    ◇ ◇ ◇















 「それじゃみんな、また明日ー」

 『さよーならー!』




  終礼が終わってみんながそれぞれ帰路につく。

  みんなが帰っていく夕暮れの教室の中、そこで一旦集まって取り留めのない話をするのが私たちの習慣になっている。

  今日もいつもと同じように教卓の周りに自然と集まる。




 「やー、もう進学の時期かあ・・・」




  初めに切り出したのははやてちゃん。

  どこか感慨深げにそんな事を言って・・・そっか、もうそんな時期なんだ。

  私たちはもう小学六年生。

  来年には卒業式を迎えて、この教室を去る事になる。




 「私たちがなのは達と友達になってからもう三年・・・何だか、あっという間だったな」

 「ホントよね。特に出会った当初があまりにも濃いわ・・・」




  そう言ってアリサちゃんはため息を吐く。

  確かに色々あったしねー。巻き込まれて襲われて魔法とか夜の一族の事とかクローンだとか・・・

  時々、この中の誰かに何か憑いてるんじゃないかと疑ってしまう。




 「みんな中学はどうするの? やっぱり聖祥でそのままエレベーター式?」

 「少なくとも俺はそうなるな。わざわざ他の所に行く理由が無いし」




  陣耶くんの言うとおり、聖祥は高校まではエレベーター式で進級出来る。

  当然それなりの学力は要求されるけど・・・それも普段から真面目に授業を受けていれば問題ないし。

  私も高校まではそのエレベーター式にお世話になるつもりでいる。

  だけど・・・




 「中学か・・・仕事も余計忙しくなるし、大丈夫かな」




  フェイトちゃんやはやてちゃんは、事情がちょっと違ってくる。

  二人は管理局の局員さん。もう立派にお仕事をしている社会人さんなのだ。

  ついこの前までなのはちゃんもそうだったんだけど、色々と考えた結果結局お手伝いさんに落ち着いた。

  だけどこの二人は管理局を辞める気は無く、恐らくはこれから一緒に過ごす時間は減っていくと思ってる。

  仕事に追われる家族の姿は、間近で見ていてよく知っているから。




 「ほんっと御苦労なこった。俺にはその歳して誠心誠意社会に貢献するその気構えが信じられねー」

 「単に面倒くさいだけの人が何言うてんねん」




  容赦無く突っ込みを入れるはやてちゃん。実に的を射ている。

  そんな皮肉も聞き飽きているのか陣耶くんも平気な顔でスルー。




 「第一そんな先の事考えたって俺は今をどう生きるかで精一杯だっての」

 「ただの考え無しの行き当たりばったりじゃないの?」




  今度はアリサちゃん。これもまた実に的を射ている。




  実際、陣耶くんはちゃんと考えているようで実のところそれほど深く考えてない。

  基本は直情的、自分の思ったことに正直で真っ直ぐな人。

  だからこそ悩んだりする事もあるんだけど―――




 「考え無しで結構。俺は自由に生きたいんだよ」




  どこまでも、自分らしさを貫く人。

  だから、かな。

  友達の中でも、一緒にいると一番安心出来たりする。

  何があっても、陣耶くんは私に対する見方を変えたりしないって、そう思って。

  もちろん私の友達はみんなそういう人だって思うし、そう信じられる。

  けど特別そう思ってしまうのは・・・




 『―――また後でな、二人とも』




  ―――もう三年近くも前になるのに、まだはっきりと覚えてる。

  ああいう所を見せられて、ああ男の子なんだなって当り前な事に気付かされた。

  だからかな、特別に感じてしまうのは。

  その真っ直ぐなところに、どこかであの時の彼を重ねてるのかもしれない。




 「―――まあとにかくだ、中学はみんな確実に一緒なんだしそれでいいじゃんか」




  と、いつの間にか話は終わっていたらしい。

  みんながもう帰る姿勢に入っている。

  私も慌てて鞄を手に取って立ち上がる。




 「ねーねー、次はいつ遊ぼっか」

 「んー、次の土曜日やったらうちは空いてるよ。フェイトちゃんは?」

 「私も土曜日だったら空けられる」




  なんと言う事はない、他愛のないいつも通りの会話。

  そんな事でさえ、私は喜びを感じられる。

  人とは違う私がこの輪の中にいられる幸福―――あんな昔の事を話したからだろうか。

  今日は、それがいつも以上に大切に思えた。




 「・・・やっぱり良いなあ、こんな空気」




  遠い日差しの中、ブランコの音が響いている。

  うん。みんなといるこの時間だって―――揺り籠の様で、私は大好きなんだ。

  私がみんなと友達になる事ができたのも、きっかけは彼がくれたこのヘアーバンド。

  あの時のなのはちゃんとアリサちゃんは凄かったなあ・・・




 「おーい、行くぞすずかー」

 「今行くよー」




  だから、もう一つ感謝を。

  みんなと出会えたこの奇跡を、あの真っ直ぐな笑顔に―――
















  Next「感謝と出来心とクッキーと」
















  後書き

  どうも、ツルギです。

  すずかのヘアーバンドのエピソードが欠片も無かったのでこんなお話に・・・

  胡椒と唐辛子は防衛手段として常備してました。

  それとメガミの模擬戦はまた凄まじい・・・後遺症とか考えない向こう見ずのお方にもう笑うしかないw

  それではまた次回に―――






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