「暫くそっとしておけとは言われたが・・・」




  そう言われてはいそうですかと引き下がらないのが俺である。

  それにあいつの事だ、どうせ一人で考え込んで泥沼に嵌ってるに違いない。

  気分転換の一つくらいさせても罰なぞ当たらんだろう。




  と、いう事で高町家を訪問。

  ピンポーンと小気味の良い音の後にパタパタという足音一つ。

  ガラッと開かれた扉にはなのはがいた。




 「あ、陣耶くん」

 「よーなのは、暇そう顔だな」

 「む、顔を合わせて早々それは無いと思うの」




  俺の些細な一言に反応してむくれッ面になるなのは。

  これも、いつも通り。

  見た感じはあまり塞ぎこんでない様に見えるが、はて・・・




  ・・・・・よし。




 「うし、ちょっとお前付き合え」

 「にゃ? どこに?」




  毎度の如く独特な受け答えなこって・・・

  まあ、付き合えってもあまり大した事も無いんだが。




 「ちょっとそこまで、な」















  〜A’s to StrikerS〜
         Act.17「願い -後編-」















 「・・・ここ、桜台?」

 「おう、ここならあまり人目にもつかんだろう」




  人前で出来ない事をするにはもってこいである。

  ・・・で、だ。




 「何でそこで後ろに逃げますかねなのはさんや」

 「何でって・・・人前で出来ない事って何するつもり!? えっちぃ事なら猛反対です!」




  いやいやいやいや、何でそーなる何で!

  俺はこれぽっちもやましい事なんて考えてねーっての!




 「あのな、何で思考がそっちの方向に行くかは今回は置いておくがそこまで信用ならんか俺はッ!!」

 「信用ならないよ! 止めてって言っても無茶ばっかりやって心配掛けて!!」




  ぐあ、確かにそうだがこいつだけには絶っ対に言われたくねえ!?




 「そりゃお前も同じだろうが! 無茶の積み重ねでどんな目にあったっと思ってんだお前!!」

 「それはもうずいぶんと前のお話だもん! 今の私は無茶なんて全くやってません!」

 「ずっと療養生活送ってたから当然ですね!」

 「なにおー!?」

 「んだとお!?」




  グググっと額をぶつけながら睨み合う俺たち。

  ああ、何でこんな会話になるかね・・・?















                    ◇ ◇ ◇















 「よーっしゃ! そこまで言うならキッチリ白黒つけてやらあ!!」

 「ジョートーだよ! 私が勝ったらちゃんという事聞いて貰うからね!!」

 「それはこっちのセリフだ!」




  お互いにバリアジャケットを展開してから結界を張る。

  魔力隠蔽と認識阻害の二重結界。

  とりあえずこれならよっぽど近づかれない限りは周囲にばれる事は無い筈。




 「俺が勝ったら翠屋シュークリームセット!」

 「私が勝ったら今度発売するメル○ィ!」

 「ちょ、高っ!? 不公平じゃありませんかねそれは、公平なる報酬を要求する!!」

 「そんな事言って、本当は勝てる気がしないとか」

 「・・・・・ほう?」




  もうここまで来たら私も陣耶くんも退けない。というより、退く気も無い。

  当初と話が違う気がしなくも無いけど、それはきっと気のせいだ。

  だって今、目の前にある事が真実だから―――




 「一人でカッコよさげに、モノローグしてんじゃねえええええええ!!」

 「っ!」




  陣耶くんが大きくジャンプしてこっちに向かってくる。

  単純に落下してくる攻撃。なら―――!




 「レイジングハート!」

 『All right』




  フライアーフィンを展開して後方上空へと攻撃を回避。

  そのままアクセルシューター―――!




 「シュートッ!」

 「いっ!?」




  一気に15の光弾が放たれて、その一つ一つが私の意思に応えて動いてくれる。

  瞬く間に周囲に展開して陣耶くんを取り囲む。




  陣耶くんはフェイトちゃんほど速くないし、シグナムさんほど重くも無い。

  だけど、フェイトちゃんよりは重いしシグナムさんよりは速い。

  どちらかに特化している訳じゃない。フェイトちゃんの様な一撃離脱型でもなく、シグナムさんの様な一撃必殺型でもない。

  陣耶くんのバトルスタイルは、例えるなら暗殺者。だけどこれも正しくない。

  常に相手の死角死角へと回りこみ、一気に間合いを詰めて相手に攻撃を浴びせる。

  もしも外したとしてもそこから更に攻撃に繋げてくる。

  根気強く攻撃してくるのかと思ったらいきなり死角に飛び込んで姿を消す。

  ある意味、一撃を外せば致命的な暗殺者より性質が悪いのかもしれない。

  要は、正道であって正道じゃないんだ。

  真っ向から戦っているようで、その実意識の外から攻撃してくる。

  本当に性質が悪い。悪いけど・・・




 「そーれ、いくよぉ!!」

 「冗談っ!」




  叫びと共に陣耶くんの体が沈み一気に加速する。

  そのまま、私の真下っ―――!




 「捉えたぜ!!」

 「まだまだ!」




  やっぱり、今の状況私の唯一の死角とも言える場所に一気に詰めてきた。

  だけどそれさえ分かってたらこっちの物―――!




 「ディバイーン!」




  こっちに飛びかかってくる陣耶くんに狙いを定めて魔力をチャージする。

  直線で加速しているこの状態での回避はほぼ不可能。

  これで―――!




 「バス―――」

 「なんのっ!!」

 「っ!?」




  陣耶くんが消えた!?




  高速で移動したわけでも無い。完全にかき消えた。

  ど、どこに―――!




 「こっちだ!」

 「な―――!?」




  私の真後ろ!?

  既に剣を振り被って攻撃態勢に入っている陣耶くんが、そこにいた。

  いくらなんでも早すぎだよ! 障壁を―――!!




 「遅いッ!!」

 「っ!!」




  陣耶くんのクラウソラスが私に振り下ろされて―――っ、間に合わない!

  振り降ろされる直前にレイジングハートで何とか防いで、それでも衝撃を受けきれずに大きく地面に叩き飛ばされる。

  やっぱり、シグナムさんほどじゃ無いにしても、重い・・・!




 「くぅ―――!」

 「どしたどしたぁ! 動きが、鈍いぜぇ!?」




  く、速い―――!

  私が体勢を立て直そうとしている間に一気に距離を詰められる。

  やっぱり、スピードじゃ私の方が圧倒的に不利。

  だけど―――!




 「アクセルッ!」




  私の呼びかけに応えて離れていたスフィアが距離を詰めていた陣耶くんに襲いかかる。

  加速している最中からなら、少しくらいは―――!




 「うお!?」

 「シュート!!」




  ここぞとばかりに加速をかけてスフィアを陣耶くんに殺到させる。

  けど、私の予測通りなら―――




 「くっそ、かなり喰うんだぞコレ!」

 「っ―――」




  やっぱり、消えた。

  周囲を物理的に塞いだ上で消えた現象。

  超高速移動でもないなら、それは―――




  なら―――と、それを確認した瞬間、シューターを私の位置に呼び戻すと同時に私は前方に向けて加速。




  そしてその一瞬の動作の内に、再び彼は姿を現した。




 「くそったr、ってどわあ!?」

 「二度も同じ手には引っ掛からないよーだ!」




  予想通り、私のいた位置の後方に姿を現した陣耶くんは当然、私が呼び戻したシューターにその身を晒される。




  やっぱり、陣耶くんがかき消えたアレは転移魔法だ。

  だからこそ一瞬であり得ない距離を詰められ、物理的に逃げ道の無い状況からも脱出できる。

  だけどネタさえ分かってしまったら対策なんていくらでもある!!



  そしていきなり襲いかかったそれを陣耶くんは無茶な体勢で避けていく。




 「ほっ! ぐぬ、のぁ!?」

 「まだ、まだだよ!!」




  そこに追い打ちとばかりにバスターをチャージする。

  例えさっきの様に回避されても、今の流れは私にある。

  このまま攻撃を組み立てれば・・・!




 「ディバイーン!」

 「っ、の! 調子に、乗んなッ!!」




  瞬間、陣耶くんの周囲がいきなり光ったかと思うと途端に大爆発が起こった。

  その爆煙から僅かに見える光の切っ先・・・っ、ブラストセイバーで全部叩き落とされた―――!

  けど、このタイミングなら―――!










  この、タイミング―――なら―――?




 「っ―――!」




  瞬間、収束させていた魔力がいきなり霧散した。

  それは今まで通り、あまりに突然で―――




 「おおおおおおおおおお!!」

 「っ―――!?」




  その動揺で、陣耶くんの接近に気付けなかった。

  気づいた時には、もう致命的な距離。




 「はあッ!!」




  振るわれた剣がレイジングハートとぶつかって―――っ、ダメ、落とされる!!




 「きゃああああああ!!?」




  今度こそ、陣耶くんの攻撃をまともに受けて地面に向かって叩き落とされた―――

  対応や反応、その何もかもが遅れた私はそのまま地面に叩きつけられる。

  叩きつけられた衝撃で体が結構痛いし、周りなんて砂塵が舞い上がってる。

  ほんと、相変わらず容赦が無いよね・・・




 「あ、う・・・」

 「―――終わりだ」




  そこに陣耶くんの剣がピタリ、と私を捉えた。

  ―――事実上、負けたんだ。




 「・・・にゃはは、結局負けちゃった」

 「当り前だっての。病み上がりに負ける様じゃあいくらなんでも情けなさすぎる」

 「あの、病み上がりって治りたての時の事を言うんじゃ?」

 「気にするな、俺は気にしない」




  なんてアバウトな・・・

  まあ、陣耶くんらしいと言えばそれまでだけど。

  陣耶くんが手を出して―――




  そこで、差し出された右腕をつたうモノが、目についた。




 「ほれ、掴まれ」

 「・・・陣耶くん、それ?」

 「ん? おあ、切れてら」




  差し出された右手は、二の腕にパックリと開いた傷が―――

  そこから血が流れていて・・・




 「それ、いつ・・・」

 「んー、シューターを無茶な体勢で周り見ずに吹っ飛ばしたからその時に枝で切ったんかね?」




  怪我、させた・・・

  誰が? 決まってる、私が。

  間接的な原因だとしても、私が・・・




 『何で、みんな戦ったりするのかな・・・』




  何で、何で私は・・・

  戦って、友達を傷つけて、私は・・・何で・・・




 『誰だって痛いのは嫌なのに、何で戦ったりするんだろう・・・』




  何で?

  私は、誰かを護るためにこの力を―――じゃあ、これは?

  護るために手にしたはずの力は、結局私は・・・何を?




  カラン、と手に持っていた物が落ちる。




 「うお、認識したら痛みだしてきやがった」

 「ぁ・・・」




  私が、傷つけた。

  友達を、私、が・・・・・ッ!!




 「・・・どうした?」

 「私は、私はッ―――ああああああああああああああああああああ!!」















                    ◇ ◇ ◇















 「私は、私はッ―――ああああああああああああああああああああ!!」

 「どわっ!?」




  なのはがいきなり叫びを上げたかと思うとそれに呼応するかのようにして膨大な魔力が吐き出された。

  そのあまりにも突然な事態に対応できず、吹き飛ばされる。




 「っ、くそ!」




  体勢を整えて地面へと着地する。

  今のあいつとの距離は20mほど・・・かなり飛ばされたな。

  それにあの方向性の無い純魔力の放出―――

  身に覚えがある。間違いなくこれは―――魔力の暴走。




 「っ、なのは!」

 「うぁあ、ああああああああああ!!」




  周囲に吐き出される魔力の中心に立つなのはは体を両腕で抱えながら泣き叫んでいる。

  原因は・・・考えるまでもなく、俺だろう。

  右腕を見せた途端になのはの様子はおかしくなった。いや、正確には右腕に流れる血を見た時からだ。

  それに今のあいつは俺と似たような状態だと聞いた。

  傷つける事を恐れる・・・くそ、分かってた筈なのに何いつもみたいに流されてんだよ俺は、阿保か!!

  数分前の俺を思いっきり殴り倒したいがそんな事より目の前のなのはだ。




 「おいなのは! 聞こえてんのかよ、なのは!!」

 「あああああああああああああああああああああああああ!!」




  くそ、全くもって聞こえちゃいねえ!




  今のあいつは感情の取り止めが着かない状態だ。

  その抑制できない感情が魔力暴走を引き起こしてる。なら、落ち着けさせればいいんだろうが・・・無理だ。

  あんなに泣き叫んでる以上、落ち着くまでは泣かしてやればいいというのが俺の持論だが・・・如何せんそうもいかない。




  なのはの魔力は膨大だ。それこそ、そんじゃそこらの魔導師じゃあ一生足掻いても手に届かないような。

  そんな膨大な量の魔力がなんの抑制も無いままに溢れ出ればどうなる。

  普段、魔力は使用する分だけを使っている。

  水道に例えればダムから必要な分だけ蛇口から引っ張り出しているようなものだ。

  だが、そのダムの水が一気に蛇口から溢れ出ようとすれば・・・?




  結果は、当然―――




 「させて、なるかよ・・・!」




  一歩、前に踏み出す。

  容赦無く吐き出されるなのはの魔力は物理的な衝撃を伴って俺の進みを阻む。

  まるで、嵐や台風の様だ・・・




 「ぐ、の・・・!」




  それでも、足を一歩前に進める。

  進める度に魔力による衝撃は強くなる。それでも、一歩。




 「ぐ、あ、ぁ・・・!!」




  足りないのなら、魔力で補って踏み出す。

  そうやって、また一歩。




  正直、魔力暴走なんてどう止めればいいか見当もつかない。

  いくら身に覚えがあっても実際にどう収まったかなんて記憶には全く無いのだから。

  だけど、それでも何か出来る筈だと。

  魔力の制御ならレイジングハート辺りをくっつければやってくれるかもしれない。

  クラウソラスだってあるし、俺だっている。




  できる事があるのなら、何だってやってやる。

  やらないで諦めるのも、やって諦めるのも、俺はどちらも御免だけどな―――!!

  足掻いて、足掻いて、足掻きまくって、その上で止めてやる!!




 「ぐ・・・が、ぁ!!」




  一歩を踏みしめる。

  気づけば、なのはとの距離はもう2mほどだった。

  あと、少し・・・!




 「なの、は・・・!!」

 「っ、―――!!」




  なのはの目が確かに俺を捉える。

  とっさに右腕を見えない位置に持って行って、叫んだ。




 「なのは、落ち着け! このままじゃお前ただじゃ済まねえぞ!!」

 「ぁあ・・・嫌、来ないで・・・! 来ないでッ!!」




  瞬間、激情に煽られた魔力がより一層激しさを増した。

  精一杯の魔力で踏ん張ってるのに―――ッ、押し戻される・・・!




 「くそっ、てめえ泣き叫ぶのもいいが加減っつー物を知れ!? 自爆する気か!!」

 「だって、また傷つける! 近づかれたら、私は、また・・・!!」




  くそ、いつぞやの自虐状態になってやがる・・・




  ―――というか同じだ、俺と。




  いつかの様に傷つける事に怖くなって、逃げ出して―――

  あの時もまた、こいつらに助けられた・・・

  だから―――!!




 「―――今からそっち行ってやるから、大人しくしてろよッ!」

 「駄目だよ、来ないでッ!!」




  叫んで、魔力が放たれて・・・

  見れば、なのはの体はふらついてる。




  これ以上は、あいつが持たない・・・




 「言う事を聞く義理なんて、生憎無くてね・・・!!」

 「ッ―――!」




  とはいえ、流石にキツイ・・・

  いっそ転移で―――駄目だ、転移した瞬間に吹っ飛ばされるのがオチだし、魔力がそこかしこに吐き出されていて安定していない。

  こんな状態で謎だらけな俺の転移なんてやったら何が起こるか分かったもんじゃない。

  なら魔力無効化・・・駄目だな。あんな小難しいのは無理だ。

  攻撃系ならともかく、フィールド系は苦手な部類だからまともに効果があるなんて期待できない。

  こんなに踏ん張ってる一杯一杯の状況じゃあそれをやるのにしてもかなり苦労する。

  だったらやっぱり・・・接触して、無理やり魔力を抑える方向で。




 「ぐ、ぬ・・・!」

 「駄目だよ! また、傷つけちゃうよ・・・!」




  ならとっととこの魔力を止めろと言いたいがそんな余裕がなのはにある筈も無く。

  必死に一歩ずつ進む俺になのはは泣き叫んでくる。

  だからって、駄目だって言われて、止まれるかっての・・・!




 「誰が・・・そんな事を決めたんだよ?」

 「悲しみを撃ち抜くって、そう思って手にした魔法なのに・・・陣耶くんを、傷つけて・・・!」




  やっぱり、俺の事がきっかけなんだろうか。




  魔法は、決して人を傷つけない力では無い。




  非殺傷などという物はあるが、実際はただのシステムだ。

  そのシステムが無ければ、人を効率よく傷つける事のできる力となるだろう。

  力はただ力、それを俺は身を以て思い知って―――なのはも、また。




  だから多分、今のなのはは積もりに積もった不安が爆発したんだろう。

  だから、傷つける事を極端に恐れているんだ。




 「傷つけたくないのに・・・! それなのに、これ以上誰かを傷つけるなら、私なんて・・・!」

 「っ―――!」




  なのはは恐れているんだ。

  力を、人を傷つける事のできる力を。そうであるかもしれない魔法も。

  そして何より―――傷つける側である、自分自身を。




  だから―――




 「だからもう―――!」

 「それ以上言ったらブッ飛ばすぞテメエッ!!」

 「っ!?」




  だから、我慢ならない。

  自分なんて―――そんな考え、受け入れろっても無理な話だ。

  人の気も知らないで勝手に消えてもらっちゃ困るんだよ。

  フェイトが、はやてが、アリサが、すずかが―――高町家の人たちやその他大勢諸々ひっくるめて!

  そんでもって、俺も!




 「自分一人で勝手に完結させて解決させようなんて思ってんじゃねえよ・・・」




  また一歩を踏み出す。

  今までよりも強く、確実に―――




 「人の事言えた立場じゃないがな、全部投げ出して逃げて―――それで何になる」




  俺を近付けまいとする壁に負けないように、強く一歩を。

  徐々に、距離が詰まる。




 「何もならねえよ。後悔だけが残って、他はみんな無くしてしまって・・・そんな事、お前がそんな風になるのを、俺は許せない」




  あいつの笑顔は、眩しいから。

  あの純粋な笑顔に俺も、フェイトだって救われたと言っていた。

  だからその笑顔が無くなる事は俺が許せない。

  なのはじゃない、俺自身を、だ。

  目の前でその笑顔が無くなろうとしているのに・・・それを止められなけりゃ余計にそうなる。




 「お前は、笑っているのが一番似合ってるんだよ・・・どんな時も、ありのままのお前が笑っている事が・・・」

 「陣耶、くん・・・っ」




  護るって決めた―――

  俺が俺で在るために、俺の居場所を、その世界を。

  だから、そのために。




 「それでもお前が放って置いて欲しいって言うなら・・・いいさ、放っといてやるよ」

 「え・・・?」

 「放っといてんだから、お前の意思なんざ関係ない。俺は俺で勝手にお前を助けてやる」




  これは俺の我儘。

  ただそれ以上の、何物でも無い―――

  ただ、本当にそれだけの事なのだ。




 「だから・・・今度そんな事言ったら、ブッ飛ばしてやるからな・・・!」




  そうして、今度こそ―――手がなのはに触れた。




 「なのは、お前の魔力を今から無理やり抑え込むけど・・・お前も、努力はしてくれるな?」

 「・・・・・」




  返事は無い。

  だけど代わりに―――確かな頷きが返ってきた。




 「うし。レイジングハート、クラウソラス」

 『了解です』

 『魔力制御、開始します』




  レイジングハートとクラウソラスの協力も得て、総がかりで暴れる魔力を抑えつけに入る。

  だけど、暴れまわる魔力の量がケタ違い過ぎて―――




 「く、の・・・!」

 『制御による本体への負荷増大』

 『制御処理を最優先、実行します』

 「止まって、止まって、止まって、止まって・・・・・!!」




  なのはも必死で魔力を制御しようとしている。

  だけど、壊れた蛇口から流れるダムの水は中々止まってくれない。

  くそ、このままじゃ―――!




 「ぅ、ぁ・・・!」

 「っ、なのはッ!!」




  急になのはの顔が苦痛に歪み、身を屈ませた。

  くそ、限界が―――!?




 「この・・・! 止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まりやがれ―――!!」

 「ぁ、かはっ・・・」

 『マスターへの負荷増大。危険域に入っています』

 『こちらの処理能力も限界です。これ以上の処理加速は不可能と判断します』




  ここまで来たってのに、終わるだと―――

  目の前で苦しんでる友達を、助けられずに・・・終わる?




 「陣耶く、ん・・・もう、いいよ」

 「ッ、何言ってんだ! このままお前が―――!!」




  俺の言葉になのはは、首を横に振って―――

  そして、寂しそうな笑みを浮かべた。




 「私は、満足だよ? 私の事を、こんなにまで、助けようとしてくれ、て・・・」

 「っ―――!」




  なのはの目には、もう諦めの色が浮かんでいる。

  もうどうしようもないって、そういった顔をして・・・




 「ありがとう・・・だから、行って」

 「っ―――!!」




  ふざけんな・・・

  こんなんで、終わってたまるかよ・・・

  何でだよ。何で、こいつがこんな目に合わなくちゃいけないんだ。

  こいつはどこにでもいる女の子なのに・・・

  眩しい位の笑顔で笑って、みんなの心を救ってくれて―――




  それ、なのに―――!!




 「認め、られるかよ―――ッ!!」

 「じ、陣耶くん!?」




  なのはを強く抱きかかえる。

  その上でなのはのでかい魔力を抑えつけようと、俺も必死になって魔力を吐き出す。




 「駄目だよ陣耶くん! 早く離れないと、陣耶くんまで―――!!」

 「うるせえ!! 友達見捨てて逃げて、その後俺はどうすりゃいいってんだッ!!」

 「止めてッ! 私は、陣耶くんに死んで欲しくない―――!!」

 「そんなん俺だって同じだ!! 俺は死ぬ気はねえし、お前も絶対死なせねえ!!」

 「う、ぁあ・・・・・ッ」




  諦めてなるかよ!!

  死なせてたまるか―――俺だって、お前に死なれたくねえんだよ!!




 「私、私は―――!!」

 「頼むから、生きてくれ・・・また、笑ってほしいんだよ・・・」




  俺の精一杯の願い。

  また笑ってほしいんだ、いつもの様に。

  あの日常を、俺は失くしたくないんだ・・・

  だから、頼むよ・・・




 「だから、お前はどうしたいのか・・・ちゃんと言ってくれ」




  聞かせてくれよ、お前の望みを・・・願いを・・・

  そしたら、俺がそれを叶えてやるから。

  叶えられるよう、頑張るから・・・




  なのはは頭を振って―――涙を流していた。

  そして、その口が開いて・・・















 「・・・生きたい、私は、生きたい―――みんなの傍にいたいッ!!」

 「よっしゃ―――分かった」




  引き受けた以上、必ず助けてやる!

  例え手なんて無くても、それでも絶対に諦めねえ!!




  だから頼む、何でもいい―――!

  神でも悪魔でも仏でも、この際ロストロギアでもいい―――!!

  頼むから、俺にこいつを助けるだけの力を・・・




  頼む、頼むから―――!!




 「こいつを、助けさせてくれええええええええええええええええええええええッ!!!」















  そうして―――










  体の奥から、トクン、と―――










  そんな音が、確かに、この場所に響いた―――










 「・・・・・あ、れ」

 「ぇ・・・?」




  目の前の光景に目を疑う。

  風にそよぐ草花と木々・・・うん、普段通りだ。

  さっきまで暴れていた魔力など微塵も見てとれない。




 「収まった・・・のか?」

 「そうなの、かな・・・」




  念のためにクラウソラスとレイジングハートに軽く診断してもらう。




 『問題ありません』

 『リンカーコアの魔力値は正常値に回復しています。特に後遺症も見当たりませんね』




  これは・・・成功した、のだろうか。

  収まったというにはあまりにも・・・それに、あれだけ負荷がかかってた筈のなのはの体にまで・・・異常が見当たらない?




 「何が・・・」




  分かってる事と言えば、なのはが助かった事。

  後は―――あの音が何なのかはよく分からないが、アレがきっかけだったのは確かだろう。

  あの音の直後になのはの魔力暴走が収まったんだからそうとしか考えられないのだが・・・




  あの音、まるで何かに共鳴したような・・・

  なのはも似たような顔をしている。

  あの音は、なのはにも聞こえたんだろうか・・・?




 「・・・疲れた、ね」

 「・・・そう、だな」

 「・・・ちょっと、座ろっか」




  なのはの提案に従って抱きかかえてたなのはを放した後に一緒に座り込む。

  そんでそのまま芝生の上に二人して大の字になった。




 「・・・何だったんだろうな」

 「・・・分かんない」

 「だよなあ・・・」




  取り留めの無い会話。

  なのはを助ける事が出来た、その事実は喜ばしいんだけど・・・

  正直、唐突過ぎて実感が湧かないっていうのが現状だ。

  後はどっと疲労感が押し寄せてきた位か。




  ・・・ホント、訳分かんねえ。




 「・・・ねえ、陣耶くん」

 「・・・なんだー?」




  返す言葉もワンテンポ遅れて間延びしたものになってしまう。

  なのはは、こっちに顔を向けて・・・




 「陣耶くんは・・・誰かを傷つけるのは、怖い?」




  ・・・・・人を傷つける、か。

  まあ考えるまでも無い。




 「・・・ああ、怖いな」

 「・・・そっか、そうだよね」




  それを聞いてしきりにうんうんなんて頷くなのは。

  正直、隣から見ていても訳分からん。

  と、なのはは急に体を起して・・・




 「陣耶くん、みんなとお話ししたい事があるから・・・後でフェイトちゃん達と家に来てくれるかな」

 「それは良いが・・・大丈夫か?」




  あんな事があった直後なんだ。

  無理はさせたくないというのが本音なんだが・・・




 「大丈夫だよ。私ってば結構頑丈だから」

 「いや、だからといってな・・・」

 「それより、大事なお話なんだから・・・ちゃんと来てね?」




  それだけ言うとなのはは颯爽と帰って行った―――




 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」










  ・・・・・ホント、どうしたんだ急に。















                    ◇ ◇ ◇















 『えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!?』




  にゃ、にゃはは・・・気持ちは分かるけど、近所迷惑だよみんな?




 「な、なのはどうしたの急にッ!?」

 「うわわわ・・・緊急事態発生や! 衛生兵ー?」

 「アンタ、それ本気・・・?」

 「それって、やっちゃうと後で色々と不味くないのかな?」




  まあみんなの言う事ももっともなんだけど。

  けど、これって実は前々から―――あの陣耶くんとの喧嘩で仲直りした時から、考えていた事ではあるんだ。

  だから、たぶん早いか遅いかだけの問題だったんだと思う。

  今回は色々な事が重なって、こうなった。ただそれだけ。




 「けどお前、本当にいいのか・・・?」

 「ん?」

 「ん? じゃねえっての。ほんとにいいのかって聞いてんの」




  にゃはは、もう私の中じゃ踏ん切りついちゃったから。

  私は今まで自分に素直に生きてきたんだもん。

  だから、今回も自分に正直に―――




 「というか、よくもまあそこまで思い切った事するな。夢はどうすんの」

 「方法は必ずしも一つじゃないでしょ。私は、私らしくやっていくの」

 「・・・そっか」




  そう、私らしく。

  私の伝えたい事を、真っ直ぐに伝えたいから。

  少しずつ、少しずつ・・・




  正直、逃げているだけなのかもしれない。

  傷つける事から、戦いから逃げているのかもしれない・・・そんな想いは、ある。

  だけどそれ以上に―――




 「言ったのは陣耶くんだよ? 私らしくいてほしいって」

 「むう・・・」




  そう、私らしく。

  私らしく、自分に素直になって―――そうしたら、やりたい事ってたくさんあるんだって今更気付いた。

  気づいたら無性にそれを実行したくなって・・・

  だから、その為にも。




 「なのは、本当にいいの・・・?」










 「うん。私は―――局員を辞めるよ」




  これが、私の答え。

  魔法が使えなくたって、出来る事はたくさんあるんだ。

  だから、もしも使えなくなっても・・・それでも、伝えたい事が伝えられる様に。




  大切な人を護るために―――その心を、伝えたい。




  だから・・・




 「そっか・・・分かった」

 「そっかあ・・・寂しうなるなあうちもフェイトちゃんも」

 「にゃはは、そんな風に言わなくたっていつでも会えるんだし」




  まあ、会える時間はどうしても減っちゃうけど・・・

  それは少し寂しいけど、ずっと会えないって訳じゃないんだ。

  だから、平気。




  私たちはみーんな、いつでも繋がってるんだから。




  だから―――




 「陣耶くん」

 「あん?」

 「ありがとう」




  先行きは分からないけど―――それでも、きっと悪い事じゃないって思えるから。




  だから、ありがとう―――
















  Next「アリサの礼儀作法特訓教室」
















  後書き

  みさなさんこんにちは、毎度どうもツルギです。

  もうちょっとじっくり書いても良かったかなとか思いつつも投稿した今回のお話。

  なのはにまで原作とはでっかい齟齬設定持たせてしまいましたw しかし後悔は無い。

  さて、〜A's to StrikerS〜も小学生編があと三話ほどで終わります。というか、やっとです。

  その後は中学、高校と行くのですが・・・もちろんただじゃ済みませんよ?

  けど書ききれるかな・・・今年中には終わらせたいな・・・

  果ては見えないけど頑張ります、はい。


  最後に、拍手のレス返しを―――


  >あなたの設定したカリムは全てを覆してくれた。 サァァァンキュゥゥゥ!!

  おお、あのカリムが結構好評。

  何やら凄く似た設定の人がいるので叩かれないかとも思っていましたが・・・

  とにかく、ありがとうございまーす!


  ではまた次回に―――






作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。