「飲み物、弁当、金・・・うし、こんなんでいいかね」

 「む、もうそんな時間か」




  現在午前10時30分ちょっと前。

  今日はこれから丸一日潰す予定がある。

  とは言っても別段トレイターと出かける訳じゃない。

  今回はかなり珍しい奴との予定が入っていて―――




 「今からなら待ち合わせの時間には十分に間に合うな」

 「なんだ、お前は待ち合わせの時は30分も前から行って待つタイプか」

 「なわけねーだろ。送れると待ち合わせしている奴に何されるか分かったもんじゃないんでな」




  そんなのはゴメンなので万全を期してちょっと早めに。

  待ち合わせは11時だが、十分すぎる。




 「さて、私は翠屋でバイトでもしてくるよ。夕方には戻っている」

 「バイトでもって・・・もはやパートタイマーだろお前。まあいいや」




  そんじゃあ・・・かねてからの約束。

  ヴィータに付き合うって約束を果たしに行きますか。










  〜A’s to StrikerS〜
         Act.12「紅い夕暮れ」










 「・・・ところがビックリ、既に奴は来ていましたとさ」

 「遅かったじゃねえかてめえ」




  いつもと変わらない目つきで下から睨み上げてくるヴィータ。

  いつから待ってたんだよ。




 「今何時だ?」

 「10時40分」

 「・・・いつからここにいたんだ」

 「さあな・・・大体10時くらいからか・・・」

 「待ち合わせの1時間前からかよ!?」

 「しゃーねーだろ! はやてに行ってこいって言われて・・・!」




  ・・・あんにゃろう、分かっててやったな。

  頭の中でニシシと笑うあいつを張り倒しても俺に罪は無いと思う。



  ・・・というか。




 「ヴィータ、お前・・・」

 「な、何だよジロジロ見やがって・・・」

 「いや、お前もおめかしくらいするんだなあと思って」

 「んなっ!」




  そう、今日のヴィータはいつもからは全く想像がつかない格好なのだ。

  でかいポイントとして髪が三編みではなくウェーブのかかったロングヘアーに。

  服もいつもの様にどくろの絵がプリントされた白シャツではなく赤いロングシャツ・・・なんだが、肩の部分だけ素肌だ。

  スカートの方は相変わらず黒のスカートなのだが・・・短い。

  で、そこに小さなハンドバックなんて持ってるもんだからいやに新鮮だ。




 「いやあ、こう見るとヴィータも女の子なんだと実感するなあ」

 「こ、これははやてが・・・!」

 「あー、なるほどあいつか」




  あいつ、こういう事になると喜々として動くからな。

  ヴィータも面白おかしく着せ替え人形にされたに違いない。見れなかったのが実に残念である。



  改めてヴィータの姿を見る。

  うーん、似合ってる。似合ってはいるんだが・・・・・




 「・・・ぷっ」

 「て、てめえ! 今笑いやがったなあ!?」

 「いや、だって女の子らしいヴィータなんてさ・・・ぶふっ」




  やばい、想像するとすっげえ笑える。

  例えば、ヴィータがおしとやかにですます口調とか・・・・・




 「くっ、くくく・・・! お前、他の守護騎士連中にも、同じ反応っ、されたんじゃねえのっ・・・くく!」

 「な、この・・・うっせーーー!!」




  怒号一閃、顔にハンドバッグがめり込みました。

  イタイ・・・




 「くだんねえこと言ってねえでとっとと行くぞ!!」

 「へいへい」




  ずんずんと目的地に向かって進む紅い騎士さん。

  いやまあ、こう見るとやっぱこいつも女の子なんだなって再認識させられる。

  それくらいに、今日のヴィータはまあ・・・可愛いと思うのだった。










                    ◇ ◇ ◇










 「で、そんなおもろいとこを見逃すわけにはいかんなあー」

 「はやて、それでば亀・・・」




  いやいや、うちの子が他所の子と、それもうちの友達とお出かけするって言うんやで。それも二人っきりで! 二人っきり!

  これはヴィータの保護者としてもしもの事が無いように観s、いやいや見守ってあげな。




 「はやて、アンタ面白がってるだけでしょ」

 「あ、ばれた?」

 「だってはやてちゃん、それは見守る顔じゃなくて・・・どっちかっていうと獲物を見る目・・・」




  獲物、ふむ言い得て妙やな。まさにその通りかもしれん。




 「否定しないの!?」

 「ふふ、ならうちは獲物を狙う狩人らしく草葉の影からこっそり・・・」

 「はやてちゃん、草葉の影って死んでいる人に対して使うんだよ」

 「む、失敬」




  お、二人が移動を開始した。

  さー追跡や追跡。




 「ヴィータちゃん、いつもと雰囲気すっごく違うよね」

 「ふふふ、どや。うちのコーディネイトやで」




  まあ急な話やったから構想は単純なんやけど。

  服はヴィータのイメージカラーで赤。で、赤と一緒に見栄えのする色でスカートには黒。

  ヴィータは普段がああやけどそれでいてい実はすっごく女の子らしい一面を持ってる。

  おめかししてると恥ずかしがったりするけど嬉しそうやったし。

  うちもあれは嬉しかったなあ。




 「えっと・・・駅に入ったよ」

 「ああ、目的地は海鳴には無いからなあ」

 「へ? じゃあどこ行くのよ」




  ふふ、男女が二人っきりでお出かけするのにうってつけの場所と言えばそりゃ・・・




 「そりゃもちろん、遊園地や!!」










                    ◇ ◇ ◇










 「ふー、着いた着いた」

 「へええ・・・人がいっぱいいるんだな」

 「おいおい、人の多さにビックリしてたら身が持たないぞ」




  ヴィータにしてみればこんなにたくさんの人が一か所にいるっていうのが驚きなのか?

  それなら管理局とかでも航空隊とか陸士隊とか・・・隊とかもっといっぱい人がいるんじゃ?




 「あそこは楽しくねーよ。こんな風にみんなが楽しそうに笑ってなんていねえしさ」

 「まー雑談してるならともかく、仕事で笑う奴ってそうはいないよな」




  遊園地に入ってからというもののヴィータはあっちこっちに目をやってはキラキラ目を輝かせている。

  まあ俺も数年ぶりに訪れる遊園地が物珍しくてあっちこっち見たりしているんだけど。

  おお、あのウォーターコースターとか楽しそうだ!




 「なあ陣耶、アレなんだアレ!」

 「アレか? アレはおばけ屋敷だな」

 「おばけ屋敷?」




  今どきおばけ屋敷も知らんのか・・・

  うし! 決めた!




 「行ってみりゃ分かる! 一つ目のアトラクションはあそこだ!」

 「よっしゃ! 行くぞ陣耶、早く来ねーと置いてくぞー!」

 「うおっ!?」




  早いもんだなあ。

  こりゃ・・・ちょっとハードな一日になりそうだ。










                    ◇ ◇ ◇










 「あ、二人がおばけ屋敷に入ったよ」

 「よっしゃ、気づかれんように距離を取って行くで」




  ちょっとだけ間を置いてうちらもおばけ屋敷の中に入る。

  っとそうや、一つ忘れてた。




 「みんなみんな」

 「ん、どうしたのはやてちゃん」

 「いや、これから先で偶然にもはち合わせるっていう可能性が無いわけでもないやんか」

 「まあ、そうね」

 「せやから今日はちょっとした変装道具を持ってきたんや」

 「わ、わ、どんなのー?」




  ふふふ、見て驚くがええ。

  うちが密かに制作を進めてた素顔が丸見えの筈なのになぜか正体がばれない仮面mk.U!!




 「それは、コレやー!」

 「えっと・・・蝶々のお面?」

 「うむ、きっちり人数分用意したんやで」

 「うわ、無駄に造りが細かい・・・」




  はっはは、自慢の一品や!

  これを付ければみんなも正義と美の使者華○仮面に!!

  ちなみにmk.Tは秘密。

  ヒントは緑○声の某坊ちゃんが身に付けていた骨マスクで・・・




 「えっと、はやてちゃん?」

 「ちゃうで、今の私は華蝶一号や!」

 「にゃ!?」

 「これ以降はうちは一号、なのはちゃん二号、フェイトちゃん三号、すずかちゃん四号、アリサちゃん五号と呼ぶ事!」

 「え、えぇ?」

 「意義、反論は認めん! 分かったら返事! あ、例外的にパピヨンはOKな」

 『は、はい!?』

 「・・・・・アホらし」




  これそこ、水を差さない。

  さー追跡再開や。

  まずは真っ暗な道を進む―――

  時々生暖かい風とか気味の悪い音が聞こえる。




 「な、なのは・・・ななな、何この音」

 「フェイトちゃん・・・おばけ屋敷苦手なんだ」

 「うわー、いかにもって感じねー」

 「うう、風が気味悪いよ・・・」




  ほほう、これはまたネタを入手。

  フェイトちゃんはお化け屋敷が苦手・・・いや、オカルトが苦手なんかな?

  それはともかくターゲットは・・・お、いたいた。




 「うっはあ・・・随分と久しぶりに来たが前来た時とは比べ物にならんな・・・」

 「そうなのか?」

 「おう。前はこんな風に生暖かい風とかなかったなあ・・・お、人魂」

 「うおぉ・・・こうも暗い所でぼうっと出てくると迫力あるもんだなあ」

 「初めからこのクオリティ・・・さて、先はどんなのがあるんかねえ」




  ほう、純粋に楽しんどるな。

  ヴィータも初めて見るおばけ屋敷に興味津々やなー。

  ん、楽しんでくれてるようやし何より。




 「そういえば気になっていたんだけど・・・」

 「ん?」

 「何でヴィータちゃん、陣耶くんと遊園地に?」

 「ああ、それな。遊園地を勧めたんはうちや」

 「はやてちゃんが?」




  やってー、ヴィータがいきなり『次の休み、陣耶とゲートボールやってくる』なんて言い出すんやもん。

  何でって聞いたら陣耶くんの気晴らし。何でもヴィータが暇になったら一日付き合えと言ったんだとか。

  で、せっかくの二人っきりというシチュでゲートボールは無い! とうちの魂が叫んで・・・




 「それですぐさまヴィータをショピングモールに連れてって服を選んで、どうせならもっと楽しいとこって事で遊園地を」

 「ふーん、そんな経緯があったんだ」

 「そそ、これならヴィータも遊園地を楽しめて陣耶くんも気晴らしが出来てうちらはそれを面白く眺めて一石三鳥?」




  なんやかんやでうちってみんなと大きなテーマパークとか行ったこと無いしなあ。

  ヴィータの反応も良好やし、今度はみんなで休みを合わせてパーっとやろっと。




 「うおっ、リアルだなこれ・・・」

 「うわ・・・血までかなりリアルだぜ、これ」

 「うへえ・・・再現率高すぎるだろっつー。本物見てるのか?」

 「つか、グロ・・・」




  ・・・おおお、確かにグロい。

  リアリティ追求しすぎて怖いを通り越してグロいわ。

  あー、けどそっちの方がかえって怖いんかな・・・?




 「ひ、人っ! 人が血をだらーって、だらーって!!?」

 「フェ、フェイトちゃん落ち着いて!?」




  こっちにも大ダメージなのが一人。

  それに比べて向こうは・・・『のぎゃあああああああああああああ!!?』っ!?




 「い、今の・・・」

 「陣耶にヴィータね・・・」




  見事な叫びっぷりやなあ・・・

  今までけろっとしてた二人が急にビビッたんのも気になるし。

  さーさー、何が待ってんのかなー?




 「は、はやて。ちょっと待ってよ・・・」

 「えー、何が待ってるか楽しみちゃう?」

 「はやてちゃんくらいだよ、そんなに楽しそうなの・・・」




  なんや二人とも情けないなー。

  こんなん所詮は作った見せかけなんやしそないビビらんでも(ポンポン)・・・ん?




 「誰かうちの肩叩いた?」

 「ううん」

 「叩いてないよ」

 「右に同じー」

 「私も」




  ・・・・・む?

  じゃあ一体誰が・・・(ポンポン)そこや!




 「・・・・・へ?」

 (ニター・・・♪)




  ケタケタ笑う血まみれの骸骨・・・・・

  なんか不穏なオーラを身に纏っていて頭に矢が・・・・・




 (カラダチョーダイ♪)

 「うっきゃあああああああああああああああああああああああああああ!!?」










                    ◇ ◇ ◇










 「はあ、はあ、はあ・・・やっと、出口・・・」

 「な、何だったんだあの骸骨・・・」




  どう見ても他の仕掛けとは一線を隔したクオリティだぞ・・・

  まっ暗闇の中で急に肩を叩かれて振り向いたら超至近距離に血まみれの骸骨。

  それも怪しいオーラを纏って青白く光りながら「カラダチョーダイ♪」だ。怖すぎる・・・

  イ、 イカン・・・また震えが・・・




 「おばけ屋敷って、ああもすげえんだな・・・」

 「俺もクオリティの高さにビビった・・・侮れないな、遊園地」




  ・・・にしても、酷く聞き覚えのある声を逃げてる途中で聞いた気がするのだが、気のせいだろうか。

  さて、ちょっと予想外に疲れた。

  なにか小腹を満たせそうな・・・お、丁度いいの発見。

  ヴィータを待機させて視界の端に映った屋台に向かう。

  品揃えは・・・バニラとチョコか。




 「おばさーん、バニラアイス二つー」

 「あいよー、240円ね」

 「うい、ありがとうございます」




  無難にバニラを二つ買う。シンプル・イズ・べストなのだ。

  カップ型なので一緒にスプーンも貰って戻る。




 「ほい、アイス」

 「お、気が利くじゃんか」




  満面の笑顔を浮かべるヴィータの隣で俺もアイスをパクつく。

  んー、美味い。

  バニラの独特の甘さが何とも言えん・・・さて。




 「そんじゃあ昼飯を食べる前に遊園地のメインに行くとしますか」

 「遊園地のメイン?」

 「応とも。遊園地には必須であろう大人気アトラクション―――ジェットコースターだ!」

 「おおお!!」




  どどーんとハッタリ効かせるだけでヴィータの目が期待いっぱいに輝いてくれる。

  俺も実は乗るのは初めてなんだな・・・

  なにせあの頃の俺はすんげーチビッ子。

  なのでジェットコースター初体験、すごく楽しみである。




 「よっしゃ行くぞー!」

 「おー!」




  さー、再びワクワクを抱きながらアトラクションへゴーだ!










  ・・・などと、張り切ってみたものの。




 「・・・なげえ」

 「ああ、なげえな」




  いざジェットコースターに行ってみれば有るわ有るわ大名行列さながらの人だかり。

  こりゃあかなり待ちぼうけを喰らいそうだ・・・




 「しゃあない、別の所に・・・(トントン)ん?」




  また肩を叩かれた。

  ヴィータ・・・じゃないよな。

  今度は誰だ?

  で、振り向いてみたら・・・




 「・・・誰?」

 「ふもっふ」




  クマの着ぐるみを着て謎の言葉を発する・・・ってボ○太くんかよ!?

  ちょ、待てい、著作権どーした!?




 「ふーもっふ」

 「へ?」




  ボン太くんが指さす方向を見てみると・・・整理券?

  何々・・・ほう、整理券に書かれている時間帯に来れば優先的にジェットコースターに乗れるのか。

  人数分いるらしいな。




 「うし、整理券取りに行くぞヴィータ」

 「何だそれ?」

 「それに書かれている時間帯に来たら優先的に通してもらえるらしいぞ」

 「おお、そんなん有るんだったら何で最初から取らねえんだよ」

 「いやな、たった今ここの親切な○ン太くんが教えてくれた」

 「ふもっふ、もっふ!」




  何か得意げだ。

  色々とツッコミたいが・・・整理券の事を教えてくれたのでツッこまないでおく。




 「おおそうか! ありがとなーボン○くん!」

 「ふもも! ふも! ふもっふ!」




  何やら満足げにうなずくボ○太くん。

  ヴィータは整理券を取ってはしゃいでいるけど・・・他にもまだ待つのかと困っている客はいるだろうに。

  なんで俺たちを―――ん?

  後ろの後頭部から明らかに場違いな色で目立っているあの桃色のポニーテールは・・・・・

  クラウソラス・・・?




 (―――パターン、一致しましたね)

 (・・・・・マジかああああああああああああああああああああああああああああああ!!?)




  こんなとこで何やってんのお前!?

  本来の仕事どうした! ていうか最近よく出かけるってあいつは言ってたがこんなとこに!?




 「いやあ、いい奴だなあボ○太くん」

 「ふもふもっふ!」

 「なあ、ヴィータ・・・」

 「あんがとな! 今度アイスおごるよ!」

 「ふもっふ!」

 「いや、あのさ・・・」




  いや、俺もどこからどうツッこめばいいのやらさっぱりだけどさ。

  とりあえず後ろから出ているそのあからさまな桃色のポニーテールを何とかしようぜ・・・




  その後、ヴィータの再度の感謝の言葉に「ふも! ふもふも! ふもっふ!」と答えてボ○太くんは人混みの中に消えた。

  何故ここにいたのか分からないが、何やら先が不安だ・・・

  はあ・・・飯食べよ。










                    ◇ ◇ ◇










 「わー、わー、ボ○太くんだー! 私初めて見たよー!」

 「私も。中はやっぱりあの人なのかな?」

 「あはは、流石にそれは無いんじゃないのかなあ」

 「・・・ねえ、これはどっからツッこむべきかしら一号」

 「んー、とりあえずみんなボ○太くん知ってたんやな」




  ていうかノリノリやねアリサちゃん。

  まあ陣耶くん経由なのは容易に想像がつくよ。

  にしても・・・最近出かけるの多かったから何しているのかと思いきや。

  これは・・・予想以上に面白い事になりそうな予感やな♪




 「ふっ、ふっ、ふー」

 「うわ、はやてがまた何か企んでるわよ・・・」




  こらそこ、うちの事は一号や。




 「そんなこと無いよー? さ、うちらも二人を観察できる場所探して昼食にしよー」

 『おー!』

 「・・・・・飽きないわねえ、ほんと」




  じゃあそれについてくるアリサちゃんは?




 「私の事は五号じゃなかったの」

 「ぬ、しもた」










                    ◇ ◇ ◇










 「さて、今日の昼飯は俺手作りのサンドイッチだ」

 「お、旨そうじゃん」




  タンドリーチキンと野菜サラダ、それと卵のサンドイッチ。計三種類。

  中でもタンドリーチキンは自信作だ。

  飲み物は持って来たのはお茶なのでそこらで買ったジュース。




 「では」

 「いただきます」




  ヴィータが素早い動きで三種類とも確保する。

  そんなに急いで食べないでも無くならねえっての。




 「よく噛んで食べねーと太るぞ」

 「うっせえ。あたしらは太らねーよーにできてんだよ」

 「代わりに成長もしないけどな」

 「言ってくれんじゃねえか」




  サンドイッチ咥えながら半眼で睨まれても迫力ありません。むしろシュールだ。

  それすら何か新鮮に思えてしまうのはヴィータの今の格好のせいだろうか。




 「んむんむ・・・ん、旨いな。はやての料理とはまた違った旨さだ」

 「そりゃな。結構自信作なんだぞ」




  それは気合を入れましたとも、ええ。

  友人に料理を振舞うなんてのは滅多に無い機会だからな。

  味付けとか調味料のバランスとか凝ったよなあ。




 「ふーん・・・」

 「・・・?」




  じーっとこっちを見てきて・・・なんだ? 顔に何かついているのか?




 「おめえは楽しめてんのか」

 「何を」

 「今を、だよ」




  むう・・・俺は楽しんでいるつもりなんだが、そう見えないのか?

  つってもまだおばけ屋敷しか行ってないが・・・




 「いや、十分に楽しんでるぞ?」

 「だと、いいけどな」




  ・・・なんだよ、含みのある言い方して。

  んなこと言われてしまうと気になってしょうがないんだが?




 「いきなりどうしたんだよ急に」

 「・・・別に。あたしが今日お前を連れて来た目的がちゃんと果たせてるかどーかの確認」

 「目的?」




  こいつの目的・・・何だ?

  まあこいつなりに色々と考えてくれてるんだろうけど・・・




 「これ以上この話は無しだ。飯食って次行こうぜ」

 「あ、ああ」




  そのまま俺たちは喋らずに、何か微妙な空気が流れて―――

  サンドイッチを全部食べ終わって―――




 「細けえ味付け」




  そう、ヴィータが言った。










                    ◇ ◇ ◇










 「むーーーーー」

 「ど、どうしたのはやてちゃん・・・」

 「いや、二人して何を話してたのかすっごい気になってなあ」

 「盗み聞きは良くないと思うよ、はやて」

 「じゃあ二人のあの妙な空気は気にならんのかい!」

 「いや、それは・・・」




  お昼食べてからなんか妙な空気やんかあの二人!

  また陣耶くんが爆弾発言投下したんか! そうなん!? そうなんやな!?




 「はやて、少しは落ち着きなさいよ」

 「だってー、気になるんやもーん」




  かといって魔法使ったら使ったでバレそうやし・・・

  さて、どうしたものか・・・ん?

  おやあれは・・・










                    ◇ ◇ ◇










 「・・・・・」

 「―――――」




  さっきから微妙に気まずい感じだ・・・

  雰囲気が悪い訳じゃないんだ。喧嘩とか、そんなんでもない。

  けど、はっきりと言い表せないけど、何か気まずい・・・そんな感じ。

  ヴィータは遠くを見ていて、俺はこの空気にいたたまれなくて。

  どうしたもんか・・・ん?

  何か人だかりが―――俺らよりちょっと下くらいの子供?

  小学三年生くらいか・・・何だ?




 「わー、こいつすっげー!」

 「ふさふさだー!」

 「他のヤツもふさふさしてるけどこいつはもっとふさふさー!」

 「これも動くのかな?」

 「動くだろ、ハンドル付いてるし!」

 「なんか本物みたいに見えるぐらいすっごいよねえ」

 「見ろよこの牙、カッケー!」




  おうおう、何やら大変人気の様子。

  こうも騒いでいると自然と興味も湧いて来るのが人情という物。

  どれどれ・・・?




 「動いた動いたー!」

 「他のよりずっと速いぞー!」

 「わー、いいなー」

 「うははは、ふさふさ気持ちいー!」

 「・・・・・えーと」




  俺の目の前に広がっていた光景はあまりにも現実離れしているとゆーかあんまり直視したくないとゆーか・・・

  まあ、なんだ・・・一言言っていいか?




 (だからッ、何でここにいるんだああああああああああああああああああああああ!!?)




  何普通に子供を背中に乗っけてんだよ!? そして何で満足げな顔!?

  いや、確かに子供には人気だったが・・・って、そうじゃない!!

  というか何首にハンドル付けとるか己は!?




 「おお、うちのにそっくりだなー」

 (そしてお前も気付けえええええええええええええええええええええええええええ!!)




  気付けよ!? 気付くだろ普通!! ワザとか!?

  それとも何か、アレか? 実はあの集団は全員バカとかいうそういうオチ―――!




 「・・・・・」




  周囲からごっつい殺気が飛んできました。

  下手な事は考えないでおこう・・・・








  じゃなくて!? 揃いも揃ってこいつらはー・・・・・ん?

  あり、なんか様子がおかしい。




 「あれー、倒れちゃったぞ」

 「どうしたんだろ。壊れたのかな?」

 「・・・ん?」




  よくよく見ればアレの体の子供たちからは見えない絶妙な位置から一本の手が―――

  ・・・・・・・・・・




 「どーしよ、これ」

 「叩けば動くって。せーの!」




  と言ってボコボコ殴る子供たち。それ、確実にトドメだからね?

  ああ、叩かれる度にビクンビクン跳ねて・・・哀れ。

  お、どこからか探偵っぽいコートと帽子、あと如何にも怪しいですよって感じのマスクと黒サングラスを付けた金髪の女が・・・




 「ごめんねー、この子壊れちゃったみたいだから修理しなきゃ」

 「えー、楽しかったのにー」

 「まだ僕乗ってないー」

 「私もー」

 「ごめんねー。また今度、必ず乗せてあげるから・・・ね?」

 「はーい・・・」




  そう言って子供たちを解散させた後、その女性は子供たちに叩かれた亡骸をズルズルと倉庫裏へ引き摺って行った








  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








  散々言いたい事はあるけど、とりあえず一つ。

  ・・・・・もうホント、何してんだろーかこいつら。










                    ◇ ◇ ◇










  心から同意させてもらうわ・・・

  何でみんないるんやろーか・・・やっぱでば亀?

  まーそれは追々問い詰めるとして、やっぱあの二人!

  どーにかならんかなあ、あの微妙な空気。




 「うーん、喧嘩した風には見えないけど・・・」

 「何があったんだろうね」




  あーもう、でば亀に来たのになんでこんな風にムラムラせなあかんのかー!

  ええい、こうなったら強硬策を選択したろか!?




 「あ、コーヒーカップに入った」

 「なぬ!?」










                    ◇ ◇ ◇










  お次のアトラクションはコーヒーカップ。

  お馴染み、でかいコーヒーカップの中に座って中央の円盤みたいなのをぐるぐる回して俺らがぐるぐる回るアレだ。

  あのびゅんびゅん遠心力に引っ張られる感覚がたまらなくツボだ。

  ヴィータはヴィータで円盤をがっちり掴んでいる。

  そこまで回したいか・・・




 「陣耶、これ回せばいーんだな?」

 「おう・・・って、頼むから力加減は―――」

 『それでは、開始しまーす』




  と、もう回り始めたか。

  さて、じゃあ俺らも―――と、グン、と体がいきなり引っ張られた。




 「いくぜええええええええええええええええええええええ!!」

 「ちょ、おま、待―――どわあああああああああああああああああああああ!!?」




  力の限り回しまくってんじゃねええええええええええええええええええ!!

  目が、目がああああああああああああああああああああああ―――うぷっ。




 「ちょい、ヴィータ、マジで勘弁・・・」

 「お、あたしらの他にも速い奴がいるじゃねーか」




  マ、マジですか・・・俺はあまりにも高速で回転する景色に三半規管が連いて行かないっす・・・




 「あたしらも負けてらんねえ、速度上げるぞー!!」

 「待ってえええええええええええええええええ!?」




  ぎゃあああああ! 更に回転速度があああああああ!!

  というか人の話を聞けええええええええええええええええええええええ!!




 「ほう、俺に対抗するとはいい度胸だ。だがお前たちには決定的に足りない物がある!!」

 「なにい!?」




  うぷ・・・なんか誰かと会話してるっぽいけど、もうわかんね、ほんと・・・




 「お前たちに足りない物は―――それはッ!」

 「なっ、まだ速度が上がるのかよ!? 負けるかー!!」




  ああ、なんか耳鳴りまで聞こえてきたよ・・・?

  天国のお父さん、お母さん―――俺はもうすぐそっちに逝くかもしれません。




 「情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ! そしてなによりも―――!!」

 「ぐ、あたしが追いつけねえ―――!?」




  ここの二か所だけ異界が形成されてますね・・・

  もうホント、ソニックムーブとか起こすなよなお前ら・・・

  あ、ダメだ・・・限界・・・




 「速さが足りないッッ!!!」

 「ちきしょーーー!!」




  せめて、次に見る空が青空でありますように―――

  そんな儚い願いと共に、せり上がった物を吐き出した。










                    ◇ ◇ ◇










 「うぷ・・・まだ、気持ちわりい」

 「だぁーから、悪かったっつってんだろ」




  さっきから吐きそうだの気分が悪いだの情けねえぞ。

  こいつがほんとに男なのか疑わしいったらありゃしねえ。




 「・・・何か、酷い事考えなかった?」

 「別にー?」




  全く、いつまでもウジウジして・・・

  視線だけあいつに向ける。




 「・・・・・?」




  あの一件―――なにやら陣耶がぶっ倒れたらしいが、それ以降は翳りを表に出さなくなった。

  精神的に軽くなったのかそれともそう見せているのか―――まあ今日一日を見る限りは確実に前者だろ。

  そこはいい。

  けどなあ・・・




 「・・・・・」

 (・・・またか)




  考え事している時、こいつの表情が途端に無くなってる。

  こいつ自身気づいちゃいないだろーが・・・

  はやてたちは気付かないんだろう・・・って、倒れたのは三日前か。

  次の日は体調不良で休み。その次の日は溜まったプリントの処理で潰れたらしいから・・・しゃーねーのか?

  あたしは学校とか行ってねえから分からねえな。

  あと一つ・・・これは、まだ確認してなかったな。




  ちょっと適当な所であたしは足を止める。




 「どうした?」

 「お前・・・魔法は使えるようになったのかよ」




  さて、どういう反応するんだろうな、こいつ。










                    ◇ ◇ ◇










 「お前・・・魔法は使えるようになったのかよ」




  ・・・いきなり何を聞くかと思えば。

  別に隠す事でもないので素直に答える。




 「いや、まだ使えねえよ」

 「ふーん・・・?」




  あり、なんかちょっとだけ意外そうな顔してる。




 「何だその顔。そんなに俺が答えたのが意外かよ」

 「―――かもな。お前の事だから意地張って取り繕うかと思った」

 「ぬ」




  なんかちょっと失礼じゃね?

  俺ってば嘘をついた事は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あったな、大量に。




 「で、結局の所どうなんだよ」

 「何が」

 「お前自身、まだ答えなんて上等なモンは出ちゃいねーんだろ?」




  ・・・ああ、そっか。

  こいつ、わざわざそのために・・・?




 「言っとくが、今お前が思ってるのとは違うとだけ言っとくぞ」

 「ぬ」




  そこまで分かりやすいかね俺は・・・

  まあ、そうだな・・・答えか。




 「ま、まだ出ちゃいないわな」

 「ずーっと悩んでるって訳か」

 「そ、何が正しいか何が悪いのかなんて・・・とてもじゃねえけど、線引きできねえよ」




  殺すってのは、やっぱり一般的に考えて悪い事なんだ。

  だけど、だからってあのまま殺されていていいのかって・・・それも、また違う。

  だから、何が正しくて何が悪いのかなんて分かる筈がなくて。




 「たぶん、まだまだ悩み続けると思う。下手すりゃ、ずっと―――」

 「・・・お前は、それでいいって思えるのか」

 「まー、それはそれでいいんじゃねえのかって、思ってはいる」




  悩み続けたとして、それで魔法が使えなかったとしても・・・それで俺の生き方が変わる訳じゃない。

  それで俺が変わる訳じゃないんだ。

  俺は―――俺だから。




 「だから悩むんならとことんまで悩んでやるさ。答えなんてのがあるか自体怪しいけどな」

 「ふーん・・・」

 「自分で出さなきゃいけない答えだしな、これは」




  ヴィータに、いつか言われた言葉。

  俺の問題なんだから、答えは俺しか持っていないんだ。

  だから、とことんまで向き合ってやるって決めた。




 「・・・バカだな、やっぱ」

 「なにおう!? いきなりバカとは何だ!?」

 「バカだよ、それもとびっきりの大馬鹿だ」

 「くっの・・・喧嘩売ってんのか・・・!」




  人がせっかく真摯に答えてやったというのにこいつは・・・!

  必殺のうめぼしを喰らわせてやろうかー!?




 「ま、バカだが・・・嫌いじゃねえ」

 「は?」




  いきなりニカッと笑って、俺の横を通り過ぎる。

  その表情は、楽しそうに笑っていて―――




 「ほら行くぞ。時間なんてすぐに過ぎちまうんだぜ」

 「あ、お・・・おう」




  そのままヴィータに引っ張られるようにして歩き出す。

  なんか釈然としないが・・・ま、いっか。








  ふと見上げれば、澄んだ蒼い空が広がっている。

  きっと今日の夕暮れは今のこいつの様に紅くて綺麗なんだろうと、柄にもなく思った。










  おまけ




 「で、で、何であそこにいたん」

 「私はバイトをしていましたので」

 「私はー、ヴィータちゃんがどんな風に遊ぶのか気になってー♪」

 「趣味が悪いぞ・・・」

 「だって、前日の夜に顔を真っ赤にしてベットで唸っていたら・・・気になるじゃない」

 「ほっほー・・・?」

 「ほう・・・」

 「そうか、それほどに新鮮だったか・・・」

 「ザフィーラ、コメント普通すぎてつまらんー」

 「ただいまー」

 『っ!!』

 「あ? どうしたんだよみんなしてって、ちょ、やめろーーー!?」

 「くーわーしーくー聞かせてもらおかーー!」

 「何をー!? た、助けてーー!?」











  Next「闇の帳」











  後書き

  国家試験終了。結果発表は五月下旬・・・今から結果が怖いデス。

  最近再びサモンナイトにハマってるこの頃。理想郷の「然もないと」とか傑作すぎる。

  さて、今回のお話はヴィータがメイン。

  守護騎士の中では一番とっつきやすくて好きですね、ヴィータ。

  おめかしとかさせると途端にあたふたするヴィータが浮かんだのでゴーサイン。いや、理由はそれだけじゃあナイデスヨ?

  何だかんだで結構付き合いがある陣耶とヴィータ。

  もうちょっと陣耶が元気な時にこの二人の絡みを書きたい・・・悪友的展開で。

  それと、もう娘TYPEも発売されてとうとう始まりましたねリリなの第4期「魔法戦記リリカルなのはForce」。

  一ファンとしてはこれから期待なのですが果たして第4期終了までにこっちのstsが終わるかどうか・・・

  いや、そもそも4期まで続くのか? コレ。

  では久々にレス返しを・・・


  >最新話読ませていただきました。自分は毎回この作品の更新を楽しみにしています。

    最新話についての感想ですが、ヒロイン達の励ましも良かったですが、個人的にはもう少し恭也にアフターケアはしてほしかったと思います。

    繰り返すようですみませんが、毎回楽しみにしています。

    これからも体調にお気をつけ頑張ってください。


    PS個人的に陣耶にはなのはが良いと思います。


  感想ありがとうございますー! ・・・って陣なの推奨!?

  いやまあ今の段階一番なのはとくっつきそうなんですがねw

  けど本編では特定の誰かとはくっつかない・・・筈。だからIFなんて調子のって書いたんですし・・・そうであってほしいなー(ぁ

  恭也については後々で絡んでもらいます。それこそ、彼が首をつっこみたくなるような話題で。

  あとヒロインsはやり過ぎと突っ込まれないか恐々としてましたがそれなりに好評みたいで一安心ですw

  毎回見てくださってありがとうございます。これを糧にこれからも頑張ります、ウス!


  最後に、PS3版ヴェスペリアやりてー、映画化ヤター、などとお茶を濁しつつ・・・

  ではまた






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