「いやー、凄い人だかりやなー」

 「ホントに。凄い人気だねフィアッセさん」

 「もっちろん、フィアッセさんの歌ってすっごく綺麗だし、上手だもん」




  確かにこの人の集まり様は凄まじいな。

  聞いたことが無いので何とも言えんが・・・この様子だと期待しても損はなさそうか?

  高町家の者たちも何度も聞いているようなのでまあ間違いは無いだろう。

  さて、どんな歌が(聞こえるか?)ん?




 (・・・トレイター、お前今までどこに行ってた? おおよその予想はつくが・・・)

 (まあそう言うなリインフォース。ところで、少しお前たちの手を貸してもらいたい)

 (何?)




  私、ではなく私たち・・・守護騎士か?

  一体何だと・・・・・何?




 (事実か?)

 (ああ、いくつか施設内にある。処理を手伝ってほしい)

 (―――分かった)




  流石に見過ごす事は出来ないな。

  主や友人たちの身の安全のためだ。ここは一つ出しゃばるとしよう―――










  〜A’s to StrikerS〜
         Act.8「護るために」










 「せあっ!」

 「・・・・・」




  右下からの切り上げを剣の腹で容易く受け止められる。

  微動だにすること無く、完全に俺の動きを見切って力を相殺している。




 「くっ、の!」




  そのまま剣を軸に死角に回り込む。

  ガラ空きの胴めがけて剣を振り―――




 「っ―――!」




  脳裏に、あの光景がチラつく。

  その度に俺の腕は、体は動きを止め、一瞬の空白が生まれる。

  そして、その隙にあいつがその剛力で容赦なく俺を弾き飛ばす。




 「がっ・・・!」




  壁に力一杯叩きつけられて、中の物を全部吐き出すんじゃないかっていう位の衝撃に襲われる。

  くそ、俺の一瞬の動揺だけじゃない・・・あんなのが無くても、あいつは確実に俺を捉えられる。

  こんな思考も、もう何度目だろう・・・

  さっきからずっとこれの繰り返しだ。どんなに斬りに行っても、死角を突いても、完全に対応されて弾き飛ばされる。

  その上、まだあいつはあそこから一歩も動いちゃいない・・・

  隙も見つけ出せず、実力という名の壁の大きさを実感する。

  だけど―――!




 「うあああああああ!!」




  小細工なんていくら使っても無駄だって事はよく分かった。

  なら、ダメで元々なんだ。正面から思いっきりぶつかってやる―――!!

  狙いは―――




 「シッ」

 「っ!」




  おもむろに、剣が振るわれた。

  ほとんど不意打ちに近いそれは一気に俺の目の前へと迫り―――




  当たって、たまるか!




  寸前で上へと跳び上がり、なんとか剣を回避する。

  だが、その斬撃が振るわれた部分の廊下が触れてもいないのにいきなり爆発を起こして、って痛!?

  くそ、なんて馬鹿力だ・・・剣圧だけで廊下を破壊するか普通・・・

  けど、その破壊での風圧で天井に上手く張り付けた。

  今の位置は奴の真上。ここから―――




 「はああ!!」

 「っ!」




  一気に斬り込む!

  距離と高度的には大した事は無いが、落下のスピードと俺とクラウソラスの全重量を乗せて―――!




 「だらあっ!!」

 「ぬっ!」




  ズンッ、と大きな衝撃と音が響いた。

  一瞬の激突、ここから剣を押し切って―――!

  っ、剣から力が抜けた!? いや、これは―――!




 「ちっ、床か!」

 「くっ!」




  なろ、衝撃に耐えきれずに落ちたか。

  落下する瓦礫と一緒に俺たちも落ちて、着地して・・・




 「―――」

 「―――」




  互いに無言。

  張り詰めた空気はそれだけで息を荒げてしまいそうになる。

  加えて、あの実力差―――

  こんな絶望的な状況なんていつ以来だろうか。

  今の俺は孤立無援という絶望的なまでの状況。

  あまりにも無謀すぎた事を今更になって思い知らされる。

  けど、だからってここで退けない。

  ここで俺が退いてしまえばフィアッセさんはどうなる。

  やると決めたんだ、俺が。だから―――!




 「―――つまらない」

 「何?」

 「お前はつまらない。殺す気が見えない、殺意が、斬る意志が・・・」




  ああそうだよ、誰が好き好んで殺しなんかするか。

  誰が好き好んで、人を・・・




 「お前は、戦う資格なんてない」

 「っ、何を!」

 「怯えた眼だ・・・お前の眼は、戦う者のそれじゃない」




  怯え・・・?

  怯え、何に? 戦いに? いや違う、俺は、斬る事に―――




 「人を殺せない者に戦場に立つ資格なんてない。だからお前はつまらない」




  殺せない、って・・・

  何で殺さなきゃいけないんだ。別に殺さなくてもいいだろう。

  戦う力を奪って、なんとかして意識を奪って・・・




 「もう、お前には飽きた―――御神に会いに行こう」

 「っ!?」




  何だ、これ・・・

  今まで感じてたプレッシャーとは違う・・・もっと重々しく、刺々しい・・・

  呑まれて、竦み上がりそうになる。これは―――あの時の―――




  脳裏に、あの時の聖夜に記憶がチラつく。

  そうだ、これはあいつが放っていたモノ・・・

  あいつほど禍々しくは無い。けど、その分もっと純粋で鋭利な―――殺気。

  何度か殺気は感じた事はある。けど、これは何だ?

  今までのなんて比にならない。ただ純粋に、殺すという意志だけが感じ取れて―――




  そこで、またアノ光景が脳裏にチラつく。




 「っ!」




  違う、今はそんな事を考えている場合じゃ―――!!




 「死ね」

 「っ!」




  いきなり、目の前にあいつが現れた。

  くそ、こんなに接近されたんじゃどうしようもない。後ろに跳んで距離を―――いない!?




 「どこに―――!?」

 「どこを向いている?」

 「なっ、がぁ!?」




  後ろだと認識した時には体に鋭い痛みが奔っていた。

  そのまま後ろから何かに叩きつけられた衝撃。

  痛みのあまり意識が飛びそうになる・・・

  そうやって、さっきのが斬りつけられてそのまま吹き飛ばされたと気づくと、もう奴の姿は視界から消えている。

  く、そ―――!




 「っ、ぁ―――!!」




  痛む体を無理矢理捻って俺のいた位置から少しだけ離脱する。

  それで、次の瞬間には既にあいつが俺が叩きつけられた壁を粉砕していた―――




  くそ、なんて馬鹿力だ・・・

  バリアジャケットがなけりゃさっきの一撃で確実に死んでいた。

  けど、さっきのでだいぶダメージを喰らった・・・まずい・・・




 「・・・・・」




  このっ、また消えやがった!

  いや違う、正確には俺が感覚でも捉えられないようなスピードで移動しているだけ。

  くそ、こんな思考している暇もないっつうのに!!

  目の前に出て来た! 左に―――!




 「遅い」

 「なっ!?」




  周りこまれた!?

  くそ、剣を盾に―――!!

  そのままあいつが思いっきり剣を振り下ろして、それを受け止め―――きれねえ!?




 「がああっ!!」




  そのまままた力任せに吹き飛ばされて、壁に叩きつけられる。

  く、そ・・・頭打ったか・・・まずい、視界が揺れる・・・

  体も、だんだん思うように力が入らなくなってくる・・・

  ちく、しょ・・・こんな、所で!




 「ぐ、あ・・・!!」

 「・・・・・」




  それでも、体は動いてくれない。

  そのままあいつは悠々と俺に近づいて来て、剣を振り上げて―――

  くそ、くそ、くそ! 動け、動けよ俺の体!!

  こんな所で、こんな所で俺は死にたくねえ!! 俺は、俺はまだ―――!!

  動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け―――!!




 「ちく、しょう・・・!!」

 「終わりだ」




  まるで処刑台の刃の様に俺に剣が振り下ろされて―――




  くそ、終わりかよ・・・ここで、終わりなのかよ。

  まだ何も出来てないのに、返せていないのに。

  なのに、俺は―――!!




 「待て!!」

 「っ!?」




  っ、この声は―――!?

  突如響いた第三者の声。それと同時にあいつは俺に向かって振り下ろした剣をあらぬ方向へと構える。

  そして、介入者は姿を現した―――




 「はあっ!!」

 「くっ!!」




  姿を現した介入者は奴の懐へと入りこんで一気に斬りつける。

  防げない位置から放たれた斬撃をあいつは後ろへ跳んで回避して―――

  互いに構えを取る。油断も隙も無いその空気の中で、介入者はこちらに向き直った。




 「大丈夫、陣耶くん」

 「美由、希、さん―――?」




  その人こそ、奴が追い求めていた御神の使い手。

  高町恭也が妹にして一番弟子である高町美由希、その人だった・・・










                    ◇ ◇ ◇










 「はっ!」

 「ぐああ!」




  まったく、数の多い・・・これで何人目だ?

  30を超えた辺りから数えるのが面倒になったのでそれはもう分からない。

  分かる事といえば―――




 「く、撃て撃てー!」

 「遅い!」




  その程度で俺を捉えられるとでも―――!

  鋼糸で動きを絡め取って一気に接近、斬る!

  これでまた二人。すると周りからその倍の刺客が出てくる。




 「くそ、キリがない―――!」




  たとえやられる事は無いとしても、こうも時間がかかってはフィアッセが―――




 「相手も人間だ! 数で押せば勝機はある!」

 「ちっ!」




  見れば大人数が銃をこちに向けて発砲態勢に入っている。

  こいつら、いいかげんに―――!




 「飛竜、一閃!!」

 「なっ!?」




  その時、突如横合いから放たれた剣閃が奴らを襲った。

  いや、それは剣閃などという生易しいものではない。

  あれは、そう。魔力という非常識な力によって放たれる俺の常識範疇外の力―――

  その剣閃はまさにその名の竜の如く群がっていた刺客を一太刀で薙ぎ払った。

  そしてその刃が戻った先に―――彼女はいた。




 「随分と手こずっているようじゃないか、恭也」

 「シグナム―――」




  シグナム―――はやてちゃんを守護するという騎士の集団、守護騎士ヴォルケンリッターが将。

  騎士の精神を持った武士にして豪傑なる女性。

  その剣の腕前は一流で同じ土俵で戦ったならば俺も危ないだろう。

  その彼女は確かに今日なのはやはやてちゃん達に付き添って来るというのは聞いていたが、何故ここに?




 「ここには少し用が出来てな。ここにこいつらがいると少々邪魔だ」

 「用? 何の用だ?」

 「ちょっとした厄介事だよ。せっかく主たちが楽しみにしているコンサートなのだ、無粋な真似をされては困るのでな」




  ・・・なるほど、つまりは俺も知らない何かがあるという事か。

  いや、大体の予想はつく。

  この事件が本当にあの時の事件の犯人なのだとすれば・・・




 「なら、まずはここにいる奴らを片づけてからだな」

 「いいだろう。お前ほどの者と共に戦えるというのも十分に心躍る事だ」




  シグナムが剣を構え、俺も気合を入れなおして剣を構える。

  目の前の刺客たちは先程の攻撃を見て状況がまるで理解出来ずにいる。

  突き崩すなら―――今が好機。




 「さあ―――いい加減にそこをどいてもらおうか!」




  絶対的な勝利の確信と共に、俺とシグナムは駆けだした―――










                    ◇ ◇ ◇










 「はあ、はあ、はあ・・・・・」




  ―――遠くから剣戟が聞こえる。

  ときたま発せられる爆音と共に衝撃も伝わり、ここも少々揺れている。



 「っ・・・」




  俺は・・・何をしているんだろうか・・・




  人を斬って、それが怖くて、だからって尻尾を巻いて戦いから逃げるのも嫌で、意地になって―――

  その結果が、コレ。

  無残にも叩きのめされた俺。一方的に、完膚なきまでに。

  持てる全力は出した。けど、敵わなかった・・・

  殺されそうになって、結局助けられて、俺がした事は何なんだろうか。




  そもそも、何で俺は戦っていた―――




 『じゃあ、終わらせよう―――』




  ああ、それもある。

  だけどそれはクソったれな書の宿命に関してだ。

  それはとっくの昔に終わらせた。なのに、何で俺は戦い続けているのか・・・?




 『二度とこんな事にならないようにって―――』




  それを聞いて、放っとけなかったってのもある。

  けど、それもやっぱり―――




  じゃあ、何で俺は戦ってたんだ―――?




  そうだ、今更何でそんな事に気付く。

  本当なら俺の戦いはあの時に終わっている筈だった。

  あいつらと違ってそれ以上を続ける必要も無かったはずだ。

  ごく普通の、日常に戻れた筈だ―――

  多少魔法関連でトラブルがあったとしても逃げられる程度の力はあった。

  けど、じゃあ何で・・・

  分からない・・・俺が、自分自身が分からなくなる。

  もう戦う事は終わっている。なのに何故俺は・・・




 『マスター、この吹き抜けの一階部分にあるホールに子供ほどの反応があります』

 「・・・は?」




  あまりにも場違いといえば場違いな発言に俺は一瞬間抜けな顔をしただろう。

  そんな俺を見て相棒が呆れたように繰り返す。




 『だから、子供ほどの反応があるんです。この吹き抜けの一階部分のホールから』

 「子供・・・? 何だってこんな所に・・・」




  疑いながらも下のホールへと目をやる。

  するとそこには確かに―――




 「・・・いたし」

 『いたでしょう?』




  剣戟が聞こえる方向へと目をやる。

  常人では捉えられないスピードでの純粋な死合。

  二人の視界には他のものなど入っておらず―――




 「くそっ―――」




  とはいえ、今ここは戦場だ。

  何があるか分かったもんじゃない。

  けど何で子供なんて・・・

  とりあえず一階に一気に飛び降りる。




 「っと、―――」

 「ひゃあっ!?」




  いきなり上から落ちて来た俺を子供―――少女は何事かと思い声を上げる。

  見た目は・・・9歳位か?

  栗色の、肩まで伸びた髪に碧の瞳。

  コンサート関係者なのか服装は黒が基調の正装だ。手元には大きめのバスケットを抱えている。

  ・・・? どっかで見覚えが・・・




 「・・・な、なんですか?」

 「へ?」




  あ、女の子が引いてる。

  ・・・いつの間にか凝視してたのか、俺。




 「いや、何でもないよ。何でここにいるの?」

 「え、えっとね・・・ここで働いているおとーさんを探してるの」




  ここの従業員関係者か。

  道にでも迷ったか?




 「それでね、道に迷ったら親切な男の人がこっちだよって教えてくれて、これをおとーさんに渡してって」




  そういって見せられたのは腕に抱えていたバスケット。

  見た所結構入ってる・・・

  にしても、方向が合っているとしてももうとっくにここにはいないだろう。

  奴らが攻めて来た時点でSPの手によって全員安全な場所へと隔離されたはずだ。

  それがどこかということまでは分からないが・・・

  一緒に探してあげればいいんだが今この状況をほっとくわけにも・・・ああもう!!




 「えっとな・・・君のお父さん、ちょっとトラブルがあって別の場所にいるんだ」

 「? ここにいないの?」

 「うん。こっちじゃなくて、たぶんあっち」




  さっき人が逃げて行った方向を指で示す。

  たぶん向こうの方角だろう。




 「けどさっきの人はこっちだって言ってたよ?」

 「お父さん別の場所に行っちゃったんだ。だから、あっち」

 「あっち?」

 「そう、あっち」




  ・・・・・何か、どこぞの三流誘拐犯の決まり文句みたいな会話だな。

  自分でやってて何だが怪しいにもほどがある。




 「ちょっと今は一人じゃ危ないからお兄ちゃんと一緒に行こうか」

 「ダメ。知らない人について行ったらいけませんっておかーさんが言ってたもん」




  ・・・・・こんな小さな子にまで教育がしっかり行き届いている辺りそのおかーさんの素晴らしさが伺える。

  そんでやっぱり三流誘拐犯みたいだな俺。

  どうしたもんか・・・




 「じゃあわたしこれで。おとーさんのいる所を教えてくれてありがとうございました」

 「あ、今は危ないって―――!」




  くっそ、おおやけにする訳にいかんのに!

  慌てて追おうとして―――視界の奥に銃を構えている男が見えた。

  男は明らかに女の子を狙って―――!




 「危ねえ!!」

 「きゃあ!?」




  跳び着いて、抱きかかえて、その場から跳ぶ!

  一瞬後に響く銃声とその場を叩く銃弾。

  くそ!




 「え、ちょ、何ですか!?」

 「ちゃんと掴まっとけよ!!」




  始末し損ねた事を理解すると向こうも銃を乱射してきやがった!

  腕の中に女の子を抱えて、全力で走る!




 「きゃああああ!?」

 「っ、あそこ!」




  ちょうどお誂え向きな柱!

  ひとまずここに身を隠して―――!!

  俺は銃弾を走って避けながら飛び込むようにして身を隠す。




 「はあ、はあ、はあ・・・」




  柱に身を隠したのはいいがしつこく銃弾を撃ってきやがる。

  撃っている銃弾は全部柱が盾になってくれているから当たる事は無いが・・・

  けど、回り込まれるとそれも意味がない。

  どうする―――



 「な、何なの・・・これ、何なんですか?」




  女の子が怯えている―――

  突然の状況についてこれずに混乱しているんだろう。当然だ。

  この女の子も、生物の本能で死の気配というものを感じ取ったのか銃弾が柱に当たる度に身をすくませている。

  この子はただお父さんに会いに来ただけで、それなのにこんな生きるか死ぬかの状況に巻き込まれて―――

  ・・・・・・・・・・




 「助けて、おとーさん、おかーさん・・・・・」

 「っ―――」




  不意に、助けを求めるこの子の姿が、あの時の俺に重なった。

  あの煉獄の地獄の中、俺はただ必死に両親の助けを求め、結果的にそれは叶った。

  あの時の父さんと母さんの必死の祈りと覚悟、俺の中の生きたいという本能がトレイターを不完全ながらも目覚めさせた。

  そして宿主である俺の死の危機を悟ったトレイターは出せる力で防護壁を張り、俺の命は守られた。

  ただ、両親が助かる事は無かった。

  あの時のトレイターの目覚めは不完全でほとんど力も揮えずにいて―――俺一人の命を護るのが精一杯だった。

  だから俺は炎に焼かれる事は無く、両親の手によって瓦礫からも守られた。

  その時の父さんと母さんの流す命が、微笑みが忘れられずにいて―――




 「怖いよお、助けてよお・・・」

 「・・・・・」




  あんな、奇跡的な状況は起こらない・・・

  けど、もしもそんな事があり得たら・・・?




  その時この子は、この子の先は何を背負って生きていく―――?




 (・・・・・御免だな)




  ああそうだ。あんな想いをするのは俺一人でいい。

  他を見るなんてまっぴら御免だ。もう二度と、俺は―――!!




 「・・・大丈夫」

 「ぇ・・・?」

 「大丈夫だ。俺が、ちゃんと助けてやるから」




  あんな光景を、俺はもう見たくない。

  ただ、それだけ。

  だけど―――




 「いいかい、ここを動いたらだめだよ。ここから動いたら怖い人がたくさん来るからね」

 「う、うん・・・」




  頭を軽く叩いてあやしてやる。

  その間にこっそりと魔法―――防御と、認識疎外の結界。

  てんで下手だが、こんな小範囲くらいならどうにかなる。




 (もしも一撃で動きを止められなかったら、その時は―――)




  たぶん、死ぬ。

  背を向けた瞬間に撃たれたりでもしたら一巻の終わりだ。

  なら、確実に動きを止めるには・・・・・




 「・・・大丈夫?」




  気づけば、女の子に手を握られていた。




 「大丈夫だよ。お兄ちゃんは強いんだ」

 「でも、手、震えてたよ・・・?」




  心配そうに見上げられる。

  その顔に、あいつが重なって・・・ああ、そうか。

  この子、誰かに似てると思ったら・・・あいつに、なのはに似てたんだな。




 「大丈夫だって。お兄ちゃんはほんとに強いんだぞ?」

 「ほんとに大丈夫?」

 「ああ、約束する」




  精一杯強がって、背を向ける。

  銃弾が止んで、男がこっちに向かって走って来て・・・・・




 「っ、ぁぁぁあああああああああああ!!!」




  叫んだ。

  思いっきり叫んで、全力で駆けだした。

  突然出て来た俺に男は即座に銃を構える。

  その引き金に手を掛けて―――




  ―――ほんの一瞬、俺がこれからしようとする事に戸惑う。

  何か他の手があるんじゃないだろうか。

  この場を離脱するなり、助けを呼ぶなり、なんなりと・・・

  でも違う。

  それじゃ何の解決にもならない。

  俺がすべき事はあの子を護ること。

  そのためには、俺は―――!!




 「ああああああああああああああああああああああああ!!!」




  視界の全てがやけにゆっくりに進む。

  全部がモノクロになって、頭が痛い。

  男が引き金を引き、だが、俺は下に潜り込んで―――

  クラウソラスを、構える。

  そのまま、相手の胸目掛けて―――




 「ああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」










                    ◇ ◇ ◇










 「やっと片付いたか」

 「数だけは厄介なほどいたな」




  それもシグナムのおかげでだいぶ早くに片付いたが。

  あたりを見渡す。

  駐車場のそこいらに刺客たちが倒れていて、血を流し倒れている者もいればそうでない者もいる。

  シグナムが叩いた方の刺客は多少の傷があるにしろ全員生きている。

  俺が叩いた方は急所は外したが―――時間が立ち過ぎ、手遅れな者もいるかもしれない。




 「まったく、便利だなその魔法というのは。全力で振るっても人を傷つけずに済ます事が出来る」

 「出来るだけで本質的には何も変わらんさ。人を傷つける力に変わりは無い」




  鞘に剣を収め、シグナムは背を向ける。




 「私はとっとと用事を済ませるよ。お前もまだやる事があるのだろう」

 「ああ―――礼を言うよ」

 「なに、それほどの事でもない。―――そう言えば、アレはどうしている」




  アレ・・・陣耶くんか。

  正直、あの事態は想定外だった。

  戦場の空気を感じさせるにしろ人を斬らせてしまった。

  それでもまだ彼は戦場に身を置いている。

  ―――万が一があれば、責任を取る覚悟くらいはある。




 「・・・その顔だと、あまり喜ばしくは無いようだな」

 「すまない。彼にもあまり聞かないでやってくれ」

 「承知した」




  そう言ってシグナムは今度こそ去っていった。




  ・・・・・そう、彼が人を斬ったそもそもの原因は俺にある。

  もしも彼が、それ以上を犯してしまい、道を誤るのなら―――

  彼が道を誤る事は無いと思う。

  彼の周りには心強い仲間が、友達がいる。

  だが、もしも道を誤ってしまったのなら、その時は―――










                    ◇ ◇ ◇










 「ぁ・・・か、は・・・・」

 「・・・・・」





  クラウソラスから、血が滴り落ちる。

  男は、目を見開いた後、苦しげに呻いて崩れ落ちた・・・・・




 「・・・・・」




  無感動に、倒れ伏した男を見る。

  異臭が立ち込めて思わず顔をしかめる。




  嫌な、匂いだ・・・




  まるで、何かが欠けた様な感覚で頭を働かせる。

  だけど異臭のせいか頭はあまり働かなくて。




  何で、倒れているんだ・・・?

  ・・・ダメだ、頭が、回らない・・・何でだ?




  そこで、ふと男のある部分に目が止まった。

  服―――胸の中心辺りに見える鋭い傷。

  周りは紅に染まり、その部分からもどんどん同じ紅が溢れ出て―――

  それを見て、急に頭が痛みだす。




 「づぅ―――!」




  あれは、あの時、俺が人を斬った時と同じ光景ではなかったか―――




  いや、コレはそんなものじゃない。

  なんでって、広がる紅の量が、アノ嫌な匂いが、どんどん白んでいく肌の色が・・・




 「・・・・?」




  不意に、頬を伝う何かに気付く。

  空いている手で触れてみればそれは、温かくて、ぬめりがあって、あの匂いがする・・・紅い、ナニカ・・・




 「―――」




  手が、震える。

  今度は落とさないよう、きつく力を籠めて柄を握る。

  きつく、きつく、きつく―――痛くとも、痛くとも、まだきつく―――




 「う、ぁ、・・・ぅぐ、っ・・・ぁっ」




  すすり泣くような声を出すと体が引き裂かれるような痛みに襲われて、身を抱える。

  胸の奥に何かが閊える。

  それを吐き出そうにも、吐き出せなくて・・・吐き出してしまえば、もう、ダメなような気がして―――

  それでも―――




 「う、ぁ、ああ・・・あ―――!!」




  耐えきれない。

  俺は、何をした。

  俺は、俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は一体何を――――――!?

  いや、覚えている。

  肉を斬り、骨を断ち、臓器を貫いて―――人を殺す、あの感覚を。

  流れ出る血を、命を―――ソレから放たれる、あの匂いを。

  すなわち―――死。

  ああ、俺は―――オレ、ハ――――――!!




 「うああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」




  叫ぶ意味も分からず、何をしたのかも分からず、何かが欠けた様な気がして―――

  ただ、失われた命を悟って、俺は叫んだ――――――




  その叫びはまるで泣いているようで、鳴いているようで、哭いているようで――――――

  その痛みはただ、少年の身を刻み続ける。

  じくじくと、それはまるで、毒の様に―――











  Next「血濡れの刃」











  後書き

  ダーク! 展開がひたすらダーク!

  こんなちっさい子にまで殺人させる俺って非道なんでしょうか・・・

  期末が終わってビクビクしながら結果を待ってます。成績によっちゃあダブ(ry

  次回でとらハOVAでの山場です。

  今回の出来事を通し陣耶が何を感じ、何を考え、何を選ぶのか。

  そしてその選択の先にあるものこそ陣耶にとっての本当の「物語」のスタートラインなんです。

  溜めに溜めまくった陣耶の抱える過去の傷、恐れ。

  今まで自身による確固たる意志も無く戦い続けてきたツケ。

  このとらハOVA編が終わった先にこそ陣耶が自身と向き合う材料が整います。

  多くの人々に支えられながら選び進む陣耶の道。それを見守っていただければと―――


  それではまた次回








作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。