澄み切った青い空。照りつける灼熱の日差し。そこらじゅうから聞こえるセミの鳴き声。
  現在、7月下旬に入ってからの夏休み初日―――俺は荷物を持ったバックを背負って転送ポートにいる。




 「そんじゃ、行ってくるな」
 「ああ、留守は任せろ」




  お見送りとしてトレイター、フェイト、はやて、すずか、アリサ、それにクロノが来ている。
  なのは未だに入院中なのでここにはいない。



  今日から俺は海鳴市、というか日本を離れてとある人の所へお邪魔することになっている。
  というのも、クロノもいつまでも俺の訓練に付き合ってくれるほど暇ではない。
  なのでどうしたものかと悩んでいるとちょうど打ってつけの人物がいると聞かされたのだ。
  いや、厳密には人ではないのもいるけどだがこの際それは置いておく。
  フェイトたちとの訓練でもいいのだが・・・いかんせん暴走してしまいがちなので今回はちょっと趣向を変えてみるという狙いもある。



  で、遠出をする時に普段ならくっついて来て保護者面するトレイターなのだが、今回ばかりは留守番だ。
  はやての例のアレが完成間近な以上、こっちを離れることはできないのだ。
  なので今回トレイターにはこっちに残ってもらう事となった。




 「あんた一人で大丈夫なの?」
 「お前、俺が一人暮らししてたって事忘れてるな?」
 「アリサちゃんは陣耶くんが心配なんだよ。ね、アリサちゃん」
 「う、うるさい」
 「向こうに行ってもくれぐれも失礼の無いようにな。ああ、一部例外はいるが」




  んー、確かに。
  じゃあ適度に礼節を持って・・・あくまで適度にな。




 「陣耶くんの方からよろしく言っていてなー」
 「じゃあ、気を付けて」




  うん、誰かに見送られるってやっぱり嬉しいな。
  さてそれじゃあ・・・行ってくっか!




 「うす。行ってきます!」








  〜A’s to StrikerS〜
         Act.5「お師匠様のお師匠様は・・・?」








  ミッドの本局を経由して転送ポートでその場所へ行く。
  視界を覆っていた光が薄れていき、転送が終了したと思われたその時―――




 「ライダーキーック!!」
 「どわあ!?」




  ちょ、いきなりの奇襲!?
  とっさに体を横に反らして回避!
  が、俺の予想通りならこの次は―――!!




 「甘いぞジンヤん!!」
 「ちいぃ!?」




  やっぱりそこから円錐蹴りかよ!
  が、俺もあの頃よっかはずいぶんとマシになってんだ!!
  左足を軸にして右足に力を籠めて―――!!




 「打ち上げるイメージで!!」
 「おおっと!?」




  蹴りが俺の顔に入る直前にその足を蹴り上げることでガードに成功。
  いつまでも同じパターンでやられてられっかっつー話だ。




 「ところがぎっちょん!!」
 「うぇ!?」




  そのまま振り下ろされて踵落としと来たか!?
  だがしかし―――!




 「伊達で毎日のごとく人間とは思えない攻撃を受けてるわけじゃなーい!!」




  こんなもん恭也さんの剣戟に比べれば―――!
  って、やっぱ無理。近すぎました。




 「へぶっ」
 「うむ、修行が足りんぞ少年」




  うう〜、ちきしょう。もうちっと戦り合えるかと思ったんだが・・・
  はあ、この壁の厚さが悔しい。
  今まで特訓重ねてきた筈なんだけどなあ・・・はあ。




 「そう簡単に追い抜かれてたまりますかいな」
 「そーでしょーねロッテさんや。相変わらず過激なスキンシップなことで。おかげでこっちは差を再認識してちょいと沈みましたよ」
 「あははー、ゴメンゴメン」




  ぜってー悪いと思ってないなこれは。



  辺りを見渡す。
  生い茂る草木。心地よく吹き付けるそよ風。近くに見えるいかにもといった洋風の家・・・
  そして、少し離れた場所には日本とは別の町並みがある筈である。




 「やあ、久しぶりだね。よく来てくれた」
 「うん、元気そうで安心した」
 「はい。久しぶりですグレアムさん、アリア」




  そう、俺はイギリスにあるグレアムさんの家を訪ねてきた。
  クロノがかつて師事したというロッテとアリア、そしてグレアムさん。
  この三人ならば教えを請うにはうってつけの相手だし、何より一度クロノにも教えた事があるのだ。
  経験がある分充実しているはず・・・だと思う。



  ちょっと自信が無いのは何故だろうか・・・




 『お久しぶりですね、御三方』
 「おお? その声はもしかしなくともクラウソラスかね?」
 「へえ、ちゃんと喋るようになったんだね」
 『毎日が騒がしいですからね、感情というものを学ぶのには事欠きませんでしたよ』




  そう、毎日の如く繰り返される騒動の嵐・・・
  最近じゃあ学校で俺を目の敵にしている奴らの行動が激化してきた。
  具体的にはC4やらクレイモアやら・・・小学生が扱える物なのか? アレは・・・




 「どした? なんかむつかしい顔して」
 『きっとマスターは長期の休みなので毎日の騒動が恋しいんですよ』
 「・・・本当、イイ性格になったよなテメエ」




  はやてとはまた別の意味で油断ならない・・・いや、トレイターもか。
  くそ、我が家は敵だらけな現実に絶望した!




 「まあまあ。じゃあこれから一週間の間よろしくね、陣耶」
 「おう。よろしく、アリア」
 「ジンヤんー、土産はー?」




  持ってくるのも確かに礼儀だが・・・それをねだるのは明らかに礼儀に反してないか?
  タブーだ、ルール違反だ、マナーを守れよ。




 「お前には無い」
 「なっ、私だけとは何事かー!?」
 「自分の胸に聞くこったな」




  後ろで吠えるロッテは放っておいて・・・




 「なんというかまあ・・・容赦がなくなったね」
 「アリア、あの集団の中で手加減していたらこっちが潰される」




  手加減? それは余裕のある奴だけが許されるものだっつーの。
  特にはやてに絡まれた日にゃ・・・余裕なぞ一切無くなる。猫の手でも借りたい気分だ。




 「さて、私としても人にものを教えるのは久しぶりになるからね・・・」
 「だーいじょうぶ! そのために私たちがいるんだから」




  ほほう、きっちり使い魔やってんだな。
  普段がずぼらなだけに結構意外だ。感心感心。




 「あんま失礼なこと考えるようなら・・・噛むにょ?」
 「噛みついてから言わないでください」




  頭がーヨダレがー




 『ロッテさん、マスターは大変喜んでいるようです。もっとやっちゃってください』
 「あむあむー♪」
 「ぎゃあああああああああ!?」




  噛みつく力がひじょーに強くー!? これ絶対人の力じゃないよ!?
  つーかクラウソラス、貴様!?




 『ここ最近は暇な時間に覘いているインターネットやラジオなどに感化されてきましてね』
 「というより、八割方あのタヌキに影響されてるだろ! ていうかお前ネットとか覘けたの!?」
 『ええ。おかげで授業中でも退屈することはありません』
 「やった、ならこれからはお前でネットとか覘けば通信料が大幅にダウ―――痛い痛い痛い!?」




  く、食い千切られるー!? 頭が、頭がー!?
  いい加減放せー!!




 「じゃあこれからは私に絶対服従?」
 「絶対に嫌だね!!」
 「がぷっ」
 「のーー!?」




  このままでは死ぬー!? しかし屈してなるものか、屈してなるものかー!!




 「こらロッテ、それ以上はやめておきなさい」
 「はーい」




  た、助かった・・・
  おおお、頭にくっきりとでかい歯型が・・・つか、ヨダレが酷い・・・




 「ありがとうございますグレアムさん・・・」
 「いやいや、礼には及ばないよ」




  ただもうちょっとロッテの躾をお願いします、とまでは口に出さないでおく。
  ああ、来て早々に疲れた・・・




 「疲れている所に悪いけど、具体的な訓練メニューを説明するよ」
 「うい・・・」




  あんたも結構厳しいね、アリア。
  きっとクロノが妙に頑丈なのはこんな体験を毎日のように繰り返していたからに違いない。




 「まずは各種魔法の出来栄えを見させてもらうわね。それであんたの特性を大体の形で掴むから」
 「ういうい」
 「で、結果に応じて鍛える方向性は決めるわ。私はあんたに魔法の効率的運用方法を叩き込むわね」
 「あたしは基礎体力や近接戦闘担当だね」
 「私は、主に魔法面と精神面での面倒を見させてもらうよ」




  うわ、各分野に担当を分けると本当に特色が出てる・・・
  特化している分、叩き込まれる内容も充実していることだろう。
  向こうではほとんど実戦だったしな・・・




 「それじゃ、早速何が出来るのか見せてもらうわね」




  ういういー








                    ◇ ◇ ◇








  うーん、正直イマイチね・・・



  とりあえずミッド式の射撃と砲撃、遠隔発生や広域攻撃はイマイチだった。
  というより、遠隔発生と広域攻撃は全くできなかったね。
  打撃、斬撃、魔力斬撃はまあ実戦でも通用するラインでしょ。まだまだ甘いけどね。
  ベルカ式の方での魔力付加攻撃も概ね使えそうだね。射撃の方はてんで駄目だったけど。



  防御のバリアタイプとシールドタイプは紙だった。まさに紙。和紙ってくらいに紙。
  もー薄いのなんのって。これ駄目ね・・・一瞬しかもたないし攻撃を逸らすくらいしか使い道が無いと思う。
  フィールド系はまあ・・・OK? 一応バリアジャケットもそれなりだし・・・



  捕縛魔法。これは他に比べて出来が良いわね。
  空間拘束系のバインドを飛ばすって結構無茶な事を・・・
  ケージタイプも試させてみたけど結構上手かった。



  補助魔法はまあ自分の動きを補助するくらいが限界か。
  まあ普通はこんなものね。



  結界魔法。
  ・・・・・・・・・・お粗末さまでした。



  儀式魔法。
  ・・・・・・・・・・ご愁傷さまでした。



  結論・・・魔力の運用が全体的になってない!!




 「観点違うじゃん!?」
 「何事も無駄使い厳禁!! ユニゾン無しじゃつっこんでかく乱するくらいしか能無いくせに!!」
 「ひでぇ!?」




  と に か く
  何をやるにしても魔力を使いすぎなのよ。
  処理術式なんてもっと省略出来るのに・・・ああ、見ていて口を出すのを抑えるのにどれだけ苦労したと思ってるのあんたは!!




 「ちょ、キャラ違くない!?」
 「うるさい! 返事は常にイエス・マイロード!! それ以外は厳罰モノと知りなさい!! はい返事は!?」
 「イ、イエス・マイロード!!」
 『・・・マスター、情けないですよ』




  ふふふ、ジンヤにはトラウマを植え付けてあるからね・・・
  さて、早速始めるわよ!!








                    ◇ ◇ ◇








  き、きっつい・・・・・
  いや何がキツイかってアリアとロッテのトレーニングが・・・
  地べたに大の字になって呼吸を整えながら今日の訓練を思い返す。



  まずアリアのトレーニング。
  周囲からリンカーコアへの魔力供給から始まってそこから魔力の放出、変換、術式の処理など・・・
  小難しい事が多すぎて頭がパンクしそうな勢いだ。
  が、そんな事を言ってみようものなら世にも恐ろしい厳罰が待っていること請け合いなので口にはしない。
  に、二度とあんな目にあってたまるか・・・



  次にロッテのトレーニング。
  体力作りの基礎トレーニングメニューが地獄だ・・・
  腹筋、背筋、腕立て、スクワット、懸垂、腿上げ、走り込みなどをこなした後にぶっ続けでロッテとの実戦トレーニング。
  正直言って死ぬかと思ったし殺されるとも思ったね。
  各トレーニングの回数が非常によろしくないものな上にロッテの一撃一撃が生身で受けられる代物じゃない。
  もう本当に死ぬかと・・・




 「こ、こんなのがあと一週間は続くのか・・・」
 『まあ頑張ってください。クロノさんはこれをこなしたという話ですし』
 「・・・・・・・・・・やつは本当に人間か?」




  人間が耐えられるレベルかよ。
  いや、あいつは異世界人だから微妙に基準が違ったりして・・・うわ、だったら俺に未来が無い。
  もう俺この一週間で死んでしまうねきっと。



  時計を確認。現在午後八時ジャスト。
  こっちに来たのが十時くらいでトレーニング時間は半分ずつくらいだから・・・うわ、みっちり五時間は運動漬け?
  よく耐えられたな俺・・・これもあいつらと地獄のような実戦を繰り返した賜物か。
  耐久力だけ無駄に身に付いて・・・この場合、喜ぶべきなんだろうか。
  まあとにかくだ。




 「シャ、シャワーを・・・」
 『まるで生き返ったばかりのゾンビみたいな這いずり方ですね』




  ズリズリとちょっとずつグレアムさん宅に向けて前進。
  頑張れ俺。栄光のシャワーがきっと俺を待っている・・・!




 『・・・虚しくないですか?』
 「うる、せい・・・!」




  あのベランダ目指していざ進め俺・・・って、なんだこれ。棒?
  の割にはやけに太い・・・




 「んー?」




  上を向く。
  で、真っ先に視界に入ってきたのは猫みたいな尻尾と白いアレ。
  ・・・うん。外見的には非常に似合ってると思うけど性格から考えると黒とかの方がいいのでは?
  っていかん、最近思考があのタヌキに毒されてきたか・・・




 「えっと・・・」
 「さーご飯までもうちょっと時間があるから・・・もう一回魔法の講習やっとこっか」
 「理不尽! 休ませて!」
 「却下」
 「何でだよ!? ええい、性格が黒い割に白なんぞ履いて―――!!」
 「・・・・・・・・・・へえ?」




  ・・・・・・・・・・あ。
  きゃー、しまったー?




 「何か言い残すことは?」
 「・・・・・・ヨクニアッテオリマスヨ?」
 「死ね」




  ぎゃー








                    ◇ ◇ ◇








  ―――そんなこんなで修行四日目




 「さてさて、今日は転送魔法を見せてもらうわね」
 「あー、そういやそれはやってなかったな」




  すっかり忘れてたな、転送魔法なんて。
  超長距離移動の時に普通に使っていたからつい忘れてた。




 「あんた自身は転送や転移の類は使えるの?」
 「おう。まあ一通り出来るぞ」
 「ふーん。じゃあ一度手本を見せるからそれ見てやってみて」
 「うす」




  アリアが魔法陣を展開する。
  あれは・・・転移かね? 数秒後にアリアの姿がすーっと薄くなって・・・
  ふむ、俺のちょうど後方か。
  振り向くとちょうど魔法陣が展開され、そこにアリアがすーっと現れた。




 「見っけ」
 「あんた・・・何でそんな簡単に位置が分かるわけ?」
 「いや、感覚で?」




  もの凄い呆れられた。なんで?
  で、今度は俺の番。




 「えーと、使用する魔力はこんなんで・・・」




  目標座標、移動軸、空間接続、オールオッケー。
  で、ここで魔力をボンと吐き出して・・・転移っと。



  足元に魔法陣が展開される。
  そして一瞬フラッシュでも起こったかのように視界が光で覆われたと思えば、すでに転移が完了していた。



  うん、思いのほか上手く行ったな。
  自分としては合格点あげたいけど・・・




 「おーい、アリアー? こんなのでどーだー?」




  少々離れたアリアに呼び掛けてみる。
  すると―――




 「・・・もう一度転移して戻って来てみてー!」




  なんて返事が返ってきたので、転移魔法を起動、転移。
  で、起動した次の瞬間には目の前にアリア。うん、成功成功。




 「で、どうだった?」
 「・・・・・・」




  アリアは黙って動かない。俯いていて表情も見えない。
  というか、プルプル震えているように見えるのは気のせい・・・?
  と、いきなりアリアが顔を上げた。




 「さっきのは一体何よーーー!?」
 「(#&$=“+”!*>{|_=!}#@;・¥!?」




  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ、至近距離で思いっきり叫ぶな!? 鼓膜が破れるかと思ったじゃねえか!!
  いきなり何だと言われても分からねえっての!!




 「知るか! 普通に転移魔法使っただけだ!!」
 「じゃあなんであんなに高速で転移できるのよ! ハッキリ言って人間技じゃないわよ!!」
 「出来ちまったモンはしょうがねえだろ! んなこと言われたって俺はサッパリだ!! むしろそっちが専門だったろ!?」
 「私だって分んないわよ! そもそも転移は空間同士の捻じれや抵抗があるからあそこまで高速で転移できるはずないのにアンタは
 ねえ―――!!」




  などと、激しい口論をかましてウン十分。
  流石に疲れた俺たちはひとまず落ち着くことにした。




 「―――つまりは、転移魔法や転送魔法の特性上、俺みたいに一瞬でぱっと移動できるのはあり得ないと?」
 「そう。空間っていうのはそれ自体が一つの世界なのよ。それを無理矢理形を変えて移動するわけだからどうしても抵抗が生じるのね。
  それを最小限に抑える処理とかが移動中に行われるからどうしても転移や転送の類は遅くなるの」




  んー、つまりは無理やり地殻変動を起こして離れた大陸同士をくっつけると。
  で、その被害を最小限に抑えるための手段を地殻変動を起こしながら行う、みたいな?




 「大体はそんな感じね」
 「けどさ、だったらその抵抗を最小限に抑える処理をあらかじめやっておくってのは?」
 「それも無理。空間っていうのはその時その時によって少しずつ変化している物なの。
  例えば水の流れ。例えば空気の流れ。世界は常に止まること無く循環しているからこそ成り立っている物なのよ」




  流れて循環する・・・えーと?
  つまり、決まった形なんて無いからその時に合わせて抵抗の処理をしなきゃいけないと。




 「その通りよ。だからあんたのアレは異常なの。ある筈の抵抗をまるっきり無視して跳んでいるんだし」
 「むう・・・」




  抵抗って言われてもなあ・・・
  実際、転移なんて自分をその空間から切り取って目標に設定した空間に張り付けるみたいなものだろ?
  ほら、パソコンでもよくやるじゃん、切り取って貼り付けとか。




 「・・・・・まった。それ違うからね」
 「へ?」
 「私たちの転移や転送っていうのは空間を繋げてトンネルを作るの。で、そのトンネルを通って初めて転移や転送が出来るのよ」
 「ふむふむ」




  山に隔たれた二つの道を最短距離で繋ぐにはそりゃトンネル通すしかないよな。




 「けどあんたの場合はそれじゃない。今の説明だと、自分自身の存在を一度この世界から切り取って別の空間にその存在を割り込ませている」
 「・・・むう?」




  アリアの話がむつかしくてイマイチついていけない。
  えーと、世界から存在を切り取るって事は・・・世界からいなくなる?




 「当たらずも遠からず、ね。つまり転移や転送をする時にあんたは一度その対象を世界という枠から外すの。
  で、目標地点という世界の枠に対象を入れるわけね。
  ・・・なるほど、それなら納得もいくわね。
  箱同士の壁を壊して繋げるより、いったん外に取りだしてから別の箱に入れる方が効率的だもの。けど、だとすれば・・・」




  あああ、アリアがなんか自分の世界に入り込んで行った・・・
  こうなってしまうともう手が付けられない。外界から呼びかけてもまったくもって無視される。
  自力で戻ってくるのを待つしかないか・・・




 「ん? そっちは終わったのかえ?」
 「いや、アリアがたった今思考世界に入り込んだところ」
 「あっちゃー・・・」




  姉妹なだけあってこういうのはよく見るのか、ロッテは頭を押さえた。
  もう見ている方が頭痛が起こりそうなくらいである。




 「仕方ないなー。じゃあ私との訓練をちょっと早めよっか」
 「うーす」




  そうやって何やらブツブツと延々と呟いているアリアを捨て置いて、俺たちはトレーニングへと向かうのだった。






  で、ロッテにつられて近場の森に入る。
  暫くついていくと少々開けた場所に出た。




 「ちょいと待ってな。準備するから」
 「ういうい。手伝おうか?」
 「ほん。じゃあそこの丸太に縄括り付けて」




  と、ロッテが差した先には大量の丸太と縄。
  なんか予想ついた・・・




  で、一通りの作業を終えるとそれを一本ずつ手近な木に括り付けていく。
  これってやっぱ・・・




 「よし、まあこんなんかな」




  で、出来上がったのは円陣状に配置された縄で吊るされている丸太。全部で八本。
  半径は大体・・・5m? 狭っ!!




 「ささ、あんたはここに立って」
 「・・・・・・」




  は、激しく嫌な予感がする・・・てゆーか、むしろ俺の命が危ない。




 「で、ここで俺に何をしろと・・・?」
 「ふっふっふっ、森のおサル達、ショータイム!!」
 『ウッキャー!!』




  ぬを!? 周りから大量に猿が出てきた!?
  全員がそれぞれ丸太を持って・・・




 「さ、身体強化無し魔法無しでこれを凌いで」
 「無茶言うな!? あんなの下手すりゃ死ぬだろ!!」




  魔法なけりゃ俺はただの小学生だっつーの!!
  が、容赦無しに猿どもは統率のとれた動きで丸太を構えていく。




 「問答無用! さー、おサル達、やっておしまい!!」
 『キー!!』
 「ええい、全員言いなりかよ!?」




  くそ、避け続けるしかないか!?
  まずは右! 後ろに身を退いて、間髪入れずに右足を軸にして右回転で後ろを回避!
  次、左前方! 左右はまださっきの丸太で塞がって―――ならしゃがんで回避!
  って、あ。前方に丸太。回避―――は無理だ。体が追いつかん。




 「ごふぅっ!!」
 「おおー、クリティカル」




  お、おおおお、鼻が・・・ん?
  なにか重量のある物が風を切る音が・・・




 「まさか・・・って、ぐはあっ!!」
 「連続ヒット! そこから一気にコンボに繋げー!!」
 『ウッキー!!』




  ぐ、おお・・・今度は全方位から・・・・・・躱せるか!!




 「ぷげらっ!!」
 「KO〜。ウィナー、森のおサル達―」
 『ウッキャー、ウッキャキャ』




  バナナを手渡されて大喜びで去っていく猿ども。
  てめーらなんか、ロッテに、飼い潰され、ちまえ・・・ガクリ




















 「アレだね。普通同時進行していく物が片方だけ飛び出ちゃってる」
 「何が?」
 「ズレてんだよね、体と感覚の反応速度が」




  ・・・また難しいお話ですか?
  まさか普段がアホっぽいロッテ限って・・・




 「・・・喰いちぎるみょ?」
 「やめてー、謝りますから喰いちぎるのはやめてー」




  ぐう、また頭がベトベト・・・
  とりあえず心を何故か読まれてしまう俺にプライベートが存在しない事を実感して涙した。




 「で、説明するとだね、あんたの反応速度に体の方が追い付いてないんだよ」
 「つまりはおんぼろの車にF1モーター積んだ感じと」
 「そーそー」




  え、それじゃ何。俺ってば常時エクセリオン?
  うっわ、シャレにならん。これじゃあ俺もいつなのはみたいに事故るかどうか分かったもんじゃないな。




 「っていやいや、それじゃ違うじゃん。感覚と体の反応速度が釣り合って無いだけだって」
 「むう?」




  じゃあ今度は・・・思っくそデカイくせにむっちゃスピードがアンバランスなA○、ベヘ○スとか?
  あれなら見事に外見と釣り合ってないだろ。




 「微妙に違う気も・・・まいっか」
 「そーそー、細かいこと気にしちゃいかんよな」




  はははは
  ・・・・・・




 「・・・俺たち、訓練についての話してたんだよな?」
 「・・・だね。話逸れた」




  話を戻そう。
  纏めると、どうも俺は内面の方が先に出ているらしい。
  だから確実に捕らえられていた攻撃も体が追い付かないのでまともに受ける、ということらしい。
  ロッテ曰く、初日に奇襲を仕掛けた時にちゃんと捕らえられていた踵落としを何で避けられなかったか不思議だったとの事。




 「これの解決法なんて一つだけだね。ただひたすらに基礎トレーニング」
 「・・・ってことはやっぱ」
 「オラー! まずは走り込み15km逝ってこーい!!」
 「字が違うわー!?」




  えーいちきしょー! やっぱこーなんのかよー!!








                    ◇ ◇ ◇








 「ゼハー、ゼハー、ゼハー・・・」
 「いやいや、お疲れ様陣耶くん」




  おおタオルに水。センキュっす。
  あー、水がスゲエ美味い・・・




 「どうだい? アリアとロッテの訓練の方は」
 「ついていくのが精一杯っすよ、ホント・・・」




  クロノはよくもまあこんなものをやり遂げたもんだ。すっげー尊敬しそうだ、うん。
  ・・・最近、シスコン気味という事を除いては。




 「・・・君は」
 「はい?」
 「君は、恨んではいないのかね。全てを知りながら、最後まで隠し続けた私の事を・・・」




  恨む、ねえ・・・
  正直言って、今更そんな事言われてもなんとも思わない。
  もちろん感謝なんてしてないし、だからと言って恨んでいる訳でもない。
  ただそういうことがあった、だから今がある。それだけだ。




 「まさか。一々過去の事なんて引っ張っていたらそれこそ俺なんてキリがありませんよ」
 「・・・そうか」




  それだけで言いたい事は伝わってくれたのか、しばらく芝生に腰を下ろして風に当たる。




 「・・・ん? 電話の様だ」
 「んあ、本当っすね」




  グレアムさん宅から電話の電子音が聞こえる。
  お、止まった。ロッテかアリア辺りが出たか。




 「おーいジンヤん、あんたに電話だよー」
 「俺?」




  俺に電話とは・・・一体誰だ?
  友達連中と魔法関係の人なら通信使えばどうにかなるし除外。
  恭也さん、美由希さんは海外に出かけている。なら桃子さんか士郎さん辺りしか心当たりが無いのだが・・・



  ロッテから受話器を受け取って、ただ今代わりましたよーっと。




 『ああ、陣耶くんか?』
 「その声―――恭也さん?」




  電話をかけてきたのは意外にも―――現在、美由希さんと共に香港にいる筈の恭也さんだった。











  Next「剣の意味」











  後書き

  久しぶりに本編の投稿です。

  今回から山場とか言っておきながらその冒頭に触れただけ、ダメじゃん。などと自己嫌悪・・・

  冬休みがハードです。宿題の量が多すぎて軽く過労死できます。

  なんだよ国家試験に向けた学習って、プリントが、お山があああぁぁぁ・・・


  ではありがたい拍手レス


  >陣耶よ、まあ・・・なんつーか・・・、負けるな!

   負けないように日々を全力で頑張っております、ハイ。

   しかし相手の方が一枚も二枚も上手。鼻を明かす日は・・・おそらく来ないかもw


  >なのはENDのその後が気になりました丸

   きっと二人してはやてにからかわれてフェイトとスバルとチビッ子sが善意で話を無駄に広げて・・・

   しまいには余計な尾ひれが付いた話が高町親子の耳に入って死亡フラグ。ダメだ、お先真っ暗ENDにしかならないwww


  それではまた次回








作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。