「999―――1000、っと。素振り終わり」




  休日のトレーニングメニューの一つであるイメージトレーニングを兼ねた素振り千回。
  あーでもないこーでもないと試行錯誤を繰り返して自分に合った剣の振り方を模索中である。




 「さて、そんじゃあ次は―――」
 「ああ。思う存分かかって来い」




  vsトレイター戦だ。
  全盛期のリインと互角なだけあってこいつには近、中、遠距離全てに隙が無い。
  その上推定魔力ランクはSで実力もそれに見合ったものという折り紙付き。




 「クラウソラス」
 『Standing by, set up』




  相棒が起動し、バリアジャケットを身に纏う。
  あいつも騎士甲冑を展開して戦闘態勢に入った。



  さて、未だに勝った例が無いが―――今日こそ勝ち星付けてやる!




 「じゃあ―――いくぞ!」
 「っ!」




  合図も無く飛びかかる。
  俺は剣を振りかざし、あいつは拳を構えて―――




 『大変だよジンヤ!!』
 「は? フェイ、っもぶろ!?」
 「あ」




  綺麗にトレイターの拳が顔に入ってそのまま三回転半―――地面に着地、ではなく激突する。
  ぉぉおおおおおおお、いてえ・・・・・・




 『だ、大丈夫・・・?』
 「ぐっふ・・・」
 「それで、何が大変なのだフェイト」




  おおう、俺はまるっきり無視ですかい。そーですかい。
  くそう、俺って・・・




 「いじけるな。話を聞け」
 「アイアイサー」
 『・・・・・で、続き良いかな?』




  ん、どぞどぞ。
  んで何が大変だって?




 『なのはが、なのはが―――!!』
 「なのはが?」
 『機械兵器に墜とされて大怪我して、病院に―――!!』
 「・・・・・・は?」








  〜A’s to StrikerS〜
         Act.4「高町なのは」








  長い廊下を駆ける。
  歩いている人たちを掻き分けて、奥へ奥へと―――




 「ちょっとキミ! 病院の中は走っちゃダメだよ!!」
 「すいません!!」




  謝るのも口だけで、今は時間が惜しい。
  そうしてしばらく走って、見知った人たちを見つけた。




 「みんな!」
 「ジンヤ・・・」




  フェイトが不安に揺れる目を向ける。
  俺の目の前には、手術中とランプのついた手術室―――




 「・・・・・なのはは」
 「今、手術を受けてる。何時間も、ずっと・・・」
 「そっか・・・」




  俺やフェイトの他にも、はやて、リイン、ヴィータ、シグナム、シャマル、ザフィーラ、ユーノ、クロノ、アルフがいた。
  みんな、なのはが墜ちたという事を聞きつけて、ここに来た。




 「・・・・・・」




  空気が重い。
  不安と焦燥、悲しみに満たされたこの空気は―――あまりに重い。




 「―――あたしの、所為だ」
 「ヴィータ?」




  不意に、ヴィータが口を開いた。
  手は見ていて痛いほどに握りしめられて・・・震えている。




 「あたしが、あたしが気付かなきゃいけなかったのに・・・一緒にいたあたしが、守ってやらなきゃいけなかったのに―――!!」
 「お前・・・」




  ・・・そうか、ヴィータはなのはと一緒に出撃してたんだったか。
  目の前で、伸ばした手が届かずに、何も出来なくて・・・そうして消えていった命を、俺は知っている。
  今回はまだ間に合った。
  けど―――助かるかどうかは別の問題だ。



  と、手術室についていたランプの明かりが消えた。
  それから扉が開いて医師が出てくる。
  一番に食いついたのは、ヴィータだった。




 「あいつは!? あいつはどうなったんです!?」
 「一命は取り留めたよ。もう命に別状はない」
 「・・・・・はあ」




  みんな一緒になって胸を撫で下ろす。
  ああ、本当に良かった・・・




 「だが―――」
 「・・・だが?」




  医師の一言でまた空気に緊張が奔る。
  その“だが”という一言に、ある種の予感めいたものをどうしても感じてしまう。



  そう、それはきっと―――




 「体へのダメージが大きすぎるんだ。おそらく長い期間に渡って過剰負荷を掛け過ぎたんだろう。
  それが原因で今回の事態が起こったわけなんだが―――今回の怪我が原因で、二度と飛ぶ事も、歩くことも出来なくなるかもしれないんだ」




  悲しみを加速させる、覆らない一つの事実―――








                    ◇ ◇ ◇








 「―――ん」




  ここ、は―――どこ?



  まず目に入ったのは白い天井と照明。
  それから、私が寝ているベッドに体を預けて寝ているヴィータちゃんと・・・




 「目、覚めたか」
 「ぁ・・・」




  陣耶、くん?
  あれ、なんでここに・・・というか、ここは?




 「覚えてないのか? お前任務の帰りで・・・」
 「―――ああ、そっか」




  私、失敗しちゃったんだ。
  いきなり現れた機械兵器に、墜とされて・・・




 「レイジングハートは・・・?」
 「修理中だ。結構な破損の仕方だったがお前と違ってまだ軽い方だよ」




  ・・・そっか、よかった。
  えっと、そこで寝ているヴィータちゃんは・・・




 「ずっとお前に付き添ってたよ。心配だったんだろ」
 「うん・・・」




  みんなに迷惑かけちゃったな・・・今度またちゃんと、謝らない、と・・・あれ?
  頭の中がぼんやりして、瞼が重くなって・・・




 「ふう・・・凄く、眠いや」
 「じゃあ寝ろ。しっかり寝て、また起きろ」
 「・・・うん」




  もう今は、とにかく眠りたい。
  そのまま意識は沈んでいって・・・




 「お休み、陣耶くん」
 「お休み、なのは」




  そうやって、私の視界は真っ暗になって・・・それに引き摺られるようにして、私の意識もそこで途切れた。








                    ◇ ◇ ◇








  寝た、か・・・



  あれから数日、やっとなのはが目を覚ました。
  とはいってもほんの数分だけ。おそらく、体に溜まっていた疲労が一気に噴き出しているんだと思う。
  だけどこれからは起きる時間も長くなってくるだろう。
  ゆっくり休んで、ちゃんと安静に過ごしていれば・・・




 『二度と飛ぶ事も、歩く事も出来なくなるかもしれないんだ』
 「っ」




  あの時に医師に言われた言葉が脳裏にチラつく。



  最善を尽くすと入ってくれた。
  だけど、回復する可能性は低いとも言われた。
  それを聞いたみんなは悲しんで・・・ヴィータは特に、悔しがっていた。
  あいつはあの後号泣して、涙が枯れ果てるんじゃないかと思うくらい泣き続けて―――それで今度はなのはの傍に居たいと言い出した。



  学校にはもう手を回した。
  高町家の皆さんやアリサやすずかにも事情は説明した。
  だけど、この事を知ったなのはは、どうなる―――?




 「俺は・・・あいつに何がしてやれる?」
 「それはお前自身が考えるべき事だ」




  トレイター、か・・・
  手には水を差し替えた花瓶を持っている。




 「お前が何をしてやれるか。それはお前にしか分からない事だ」
 「・・・そうだな」




  けど、正直に言って何が出来るのか・・・そもそも何をすればいいのかすら分からない。



  俺はあいつに何度も助けられた。
  救われて、きっかけを貰った。
  なのに―――俺はあいつに、何一つ返せてはいない。








                    ◇ ◇ ◇








  ―――夢を、見た。
  それは、まだ私が魔法と出会ってなかった頃の・・・



  私は、いつも独りぼっちだった。
  周りに家族はいた。だけど孤立して、独りだった・・・



  だから、一人じゃなくて独り。



  親も兄姉も、みんなそれぞれ特別中の良い人がいたけど・・・私には、そんな人はいなかった。
  だからずっと独りで大人しくしていて、これ以上みんなが離れてしまわないようにって―――



  それで、学校に行って生まれて初めて喧嘩をした。
  それに関わった二人とは、初めての友達になった。



  そうして学校が楽しくなって・・・魔法と出会った。
  それからは周りの景色が一変して、私の周りには人が溢れていった。



  私の、魔導師にして不屈のエース、高町なのはの周りに、みんな―――








                    ◇ ◇ ◇








 「んぁ・・・」
 「お、起きたかヴィータ」




  眠りから覚めたばかりのまだ定まらない視界で俺を捉えて、その次になのはを捉えた。




 「―――なのはのやつは」
 「さっき数分だけ起きたよ。すぐ寝ちまったけどな」
 「ホントかっ!?」




  おおういきなり飛びついてきたな・・・
  目を思いっきり輝かせてやがる。




 「ホントだよ。すんげえ寝むそうだったぜ?」
 「そっか・・・そっか、よかった・・・」




  本当に安堵したように胸を撫で下ろしてほっと息をつくヴィータ。
  それだけで、どれほどまでに責任を感じて心配していたかは一目瞭然だ。




 「そうだな。ほんとによかった」
 「うん・・・」




  むう、いつも元気一杯なこいつが妙に女々しい+素直な・・・
  まあ無理もないか・・・?




 「・・・あんまり気にすんなよ」
 「そうもいかねえさ。一緒にいたあたしが気付いてやるべきだったのに・・・」
 「そこはあいつにも責任はあるだろ。医師の話じゃ体への負担の掛け過ぎが原因だろ? 絶対エクセリオンの乱発しすぎだぞ」




  エクセリオン・・・あれは想像以上に体に負担がかかる。
  使った後は筋肉痛と極度の疲労・・・ハッキリ言ってそのまま布団にダイブしたい気分だ。
  とまあそんなものを乱発していれば嫌でも必要以上に体に負担がかかるわけで・・・




 「だからこそだよ。その部分をあたしがフォローしてやるべきだったんだ」
 「はあ・・・」




  まるであの頃の俺だな。
  大切な人が自分のせいで死んでしまって、その負い目で自分を拘束していた俺だ。




 「だったら、お前はどうやってそれを清算する?」
 「どうやって、か・・・」




  そのままヴィータは暫く考え込んで・・・分かんね、と答えた。
  分かんねとは・・・




 「こんな時どうすりゃいいのかなんてあたしには見当もつかねえんだ。これまでこんな経験一度も無かったし・・・」
 「んー、そっか」




  なにか先立の意見を聞けるとも思ったんだけど、無理っぽいか。




 「まあ、あれだ。あたしは騎士だからな・・・騎士として、今度こそ守ってやりてえ」
 「・・・・・守る、か」




  俺は、肝心な時に傍にいてやれなかった。護ってやる事が出来なかった。
  約束を―――果たせなかった。



  確かになのはにも責任はある。だけどそれは結果論でしかない。
  だから―――




 「俺もな・・・悩んでるんだ」
 「は?」
 「俺はあいつに、何がしてやれるかって・・・」




  俺はあいつに様々な事を教えてもらった。
  その借りを俺はまだ返せていない。恭也さんとの約束も果たせなかった。
  そんな俺に、あいつに何がしてやれるんだろうか・・・




 「・・・さあな」
 「まあ、他の奴に聞く事じゃないか」
 「そうだな。けどな・・・お前にはお前にしかできねえ事ってのは、やっぱあるんだと思う」




  俺にしか出来ない事・・・?
  それって・・・




 「それこそあたしにゃ分んねーよ。お前自身の事だろうが」
 「ぬ・・・」
 「少なくとも、あたしとお前は違うんだ。だからできる事も違ってくるのは当然だろ」




  まあ、それはそうなのだがな・・・
  それでもヒントくらいは欲しいっていうか、なんというか。




 「はああああ・・・あのな、そんな簡単にヒントとか答えとか見つけてどうすんだ。ちっとは手前で考えやがれ」
 「ぐ、面目ない・・・」
 「ったく・・・」




  うう、それ言われると元も子もないのだが・・・
  はあ、やっぱ手探りで探しますか。




 「・・・じゃああたしから一つ特別にヒントだ」
 「へ?」
 「お前は何がしたいんだ? それを考えてみんだな」




  何をしたいか・・・俺があいつに、何を・・・




 「あたしは一旦帰る。また後でな陣耶」




  そう言ってヴィータが出て行って、俺は病室に取り残された。



  ・・・俺が何をしてやりたいか、か。
  それが分かれば苦労しねえよなあ・・・





  そうして答えは出ないまま、夜は明けて朝になった。








                    ◇ ◇ ◇








 「え・・・?」
 「・・・・・・」




  今聞かされた言葉に、耳を疑う。



  私は起きてからみんなと話して、謝って、ご飯を食べて、先生が私の所に来て―――
  それで、信じたくないような事を聞かされて。




 「あの、なんて・・・」
 「残酷なようだが・・・君はもう二度と空を飛ぶ事も、歩くことすら出来ないかもしれない」




  う、そ・・・・・飛ぶ事も、歩く事も・・・・・・・?
  それじゃあ、私は―――




 「・・・先生、それは」
 「事実だ。もしかしたら回復するかもしれないけど・・・それも、ごく僅かな可能性だ」
 「そん、な・・・」




  あまりにもの事に目眩がする。



  空を飛ぶ事も、歩く事も―――それはつまり、私が魔法が使えなくなるって事で・・・




 「だがごく僅かな可能性でも回復する見込みはあるんだ。だったら私たちも最善を尽くすよ。
  だから、そう気を落とさないでほしい」
 「・・・本当に、治るんですか?」
 「ああ、そのために私たちがいるんだ。安心してくれていいよ」




  ―――まだ、大丈夫。
  私はまだ、大丈夫。



  先生も最善を尽くしてくれるって言ってくれた。
  みんなも、手伝うって言ってくれた。
  可能性は、まだあるんだ。



  大丈夫。
  私はまだ―――








                    ◇ ◇ ◇








  ―――なのはが回復して暫くしてから回復に向けてのリハビリが始まった。
  なのはにしても医師側にしても積極的にリハビリに取り組んでいる。もちろん俺たちも手伝える所は手伝っている。



  だけど、回復の兆しは全く見えてこない―――



  それが焦りになっているのか、最近のなのはは少しおかしい。
  これまで以上にリハビリに取り組むようになった―――それこそ、見ていて必要以上だと思うほどに。
  必死な顔で、まるで、何かから逃げるように―――



  無理が祟って医師に一度注意を受けたが、それでもなのはは一向にやめなかった・・・



  それで、今日も俺はそのコッソリとやっているリハビリに付き合っている。
  いつもならもう一人ほど付き添いがいるんだが今日はみんな外せない用事で出払っていて俺一人だ。




 「はあ、はあ、はあ・・・」
 「・・・・・・」




  倒れこんだ状態からスロープにしがみついて、そこから立とうとして―――




 「うあっ!」




  ・・・これで、何度目だろうか。
  もう数えるのが馬鹿らしくなるくらいの回数はやっている。
  たしかに治そうと思えば相応の努力が必要だろう。
  だけど、これは明らかにその度を超えている。




 「もう、一度・・・」
 「・・・・・・」




  それでも、なのははめげない。
  むしろ回数が余計に増えていって―――これじゃあ、こいつが墜ちた時と同じだ。




 「なのは。今日はそのくらいにしておけ」
 「うん・・・」




  とは言ったもののこっちの言葉なんて丸っこ無視だ。
  返事こそするけどその意味を捉えようともしていない。
  今のなのははリハビリだけに気が行っていて他の事に気が回っていない。



  だから、こっちは実力行使で止めるしか無い。



  なおもリハビリを続けようとするなのはの腕を持って止める。




 「なのは、今日はもうやめろ」
 「っ、陣耶くん・・・」




  今更気付いたみたいな顔してるし。さっきからずっと一緒にいたっていうのになあ・・・




 「ご、ごめん。それで何かな」
 「だーかーらー、今日はもうリハビリはお終い。部屋に戻るぞ」
 「え? あ、ちょっと―――!」




  何か言われる前におぶって部屋を出る。
  が、当のなのはは―――




 「陣耶くん、戻って」




  これである。




 「戻って」
 「ノウ」
 「ねえ戻って」
 「絶対にノウ」




  この繰り返し。
  最近はいつもこんな感じだ。
  で、最終的には口で拉致が明かないので強制的にベットに寝かしつけることになる。
  今日もそんな感じになりそうだ。



  部屋の前に立つと扉が開いて、そこのベットになのはを下ろす。
  俺も傍の椅子に腰掛ける。




 「・・・・」
 「・・・・」




  互いに無言。
  ひっじょーに気まずいが最近はこんな感じだ。




 「・・・ねえ、陣耶くん」
 「ん?」
 「もう一度リハ―――」
 「ダメだ」




  言い終わる前にキッパリスッパリ断る。
  焦る気持ちは分かるがもうちょっとな・・・




 「なんで」
 「お前、また無茶するから」
 「してないよ。まだ平気だもん」
 「だとしてもアレはやりすぎだろ。そんなんじゃいつまで経っても治らんぞ」




  心配するこっちの身にもなってほしいものである。




 「だって―――」
 「だってじゃないの。大体、お前は人の気も知らずにいつもいつも無茶ばっかりやって―――」
 「―――人の気も、知らずにって・・・」




  なのはの雰囲気が、変わった。
  声が震えて・・・顔は俯いていて・・・




 「陣耶くんがそんな事言うの。陣耶くんだって人の気も知らずに無茶をして、リハビリ止めて」
 「あのな、それとこれとは話は別だろ。焦る気持ちも分かるけどリハビリのやりすぎも・・・」
 「っ、陣耶くんに、私の気持ちなんか分からないでしょ!!」




  その剣幕に、一瞬気押された。
  そのままなのはが俺に向かって叫んでくる。
  まるで、押し止めていたものが一気に溢れ出したかのように・・・




 「空も飛べないかもしれない、歩く事も出来ないかもしれない、魔法も使えないかもしれない!
  それがどんなに不安かも分からないのに、勝手な事言わないで!!」
 「勝手だぁ・・・?」




  まずい、カチンときた。
  ここで俺まで感情的になったらダメなのに、口が勝手に動いてしまう。




 「だったらまずその無茶やめろ! あれじゃお前が体に負荷掛け過ぎたせいで落ちたのと変わらねえぞ!!」




  言い出したらもう止まらない。
  そのまま、互いに感情のままに言葉を投げつける。




 「リハビリしないと治らないでしょ!!」
 「やりすぎは体に毒だっつの!!」
 「魔法が使えなくなるんだよ―――!!」
 「体に負担掛けたら治るものも治らねえだろ!! それじゃ同じだろうが!!」




  ・・・考えてみれば、ここまで感情的になってなのはと話すのは初めてかもしれない。
  そんな下らない事を、頭の片隅で考える。




 「心配してるこっちの事も考えろ!」
 「分んないよ! 私だって不安で一杯なのに、そっちの事まで分からないよ!!」
 「っ、なら―――!」




  これは駄目だと、どこかが言っている気がする。
  だけど、止めようがない―――




 「だったら、魔導師なんて辞めちまえ!!」
 「っ!!」




  なのはが目を見開く。
  それからすぐに、目から涙が溢れてきて・・・




 「ぁ・・・」




  それでようやく、自分が言った事を理解する。
  だけど、それはもう取り返し用の無い事で・・・




 「もう、陣耶くんなんか知らない・・・大っ嫌い!! 出てって!!」
 「っ・・・・・」




  今更、取り消しなんて効かない。
  言ってしまったからには、もう駄目だ。



  もう、取り返すことは出来ない―――




 「ああ、出てってやるよ―――」




  そのまま、いらついた感情のままに言って―――




 「じゃあな」
 「っ」




  振りかえらずに、早足で部屋から出てそのまま病院の出口に向かう。
  それで病院から出て、門から出る時に、一度だけ振り返って―――




 「―――っ、くそ」




  何に毒づいたのかも分からずに、俺は病院を後にした。








                    ◇ ◇ ◇








  ・・・・・・・・・・困った。



  何が困ったかって? それは最近のジンヤとなのはの様子で・・・いや、いつもは普段通りだよ?
  だけど、お互いにお互いの話になると妙に気が立ってるっていうか、刺々しいというか・・・
  ジンヤならともかく、なのはがあんな風になるのにはびっくりした。



  で、何かあったと思って聞いてみても「何でもない」の一点張り。
  けど明らかに不機嫌になって言われても説得力は無いよね。
  それに最近、ジンヤはなのはの所に顔を出してないし。



  どうしたものかとはやてと相談してみた。




 「うーん、やっぱフェイトちゃんもそう思う?」
 「ていうか、あれで何も無かったって思う方がおかしいかと・・・」




  その人すっごい鈍感だよ、きっと。
  目の前で真剣に告白されてもlikeとloveを取り違えるような人なんだ。




 「フェイトちゃん・・・あんたがそれを言うか」
 「へ?」
 「いやいやなんにも。さて―――どうしたもんやろな。十中八九喧嘩なんやろうけど・・・」




  だよね。それ以外にあんな風になる心当たりが無いし。
  だとしてもどうしてだろう・・・




 「うーん、何か陣耶くんがマズイ事言ったとか」
 「あ、それあるかもしれない」




  あの事件が終わってからのジンヤは・・・何というか、よく笑うようになってくれた。
  以前よりよく話すようになったし感情も顕著に見れるようにもなった。
  友達として、ジンヤが打ち解けてくれたっていうのは凄く嬉しかった。



  けど反面、以前より物言いが容赦なくなって・・・




 「うん、やっぱ何らかのNGワード言ってもうたか」
 「・・・自分でも言っておいてなんだけど、なのはが原因とは考えないんだね」
 「そこはアレや、人徳の差?」




  ・・・うん、すっごい納得できた。
  別にジンヤが信用ならないって言ってるわけじゃないよ? うん。
  ただ結構無茶というか無理を力ずくでこじ開けるというか・・・




 「とりあえずうちは陣耶くんの方に当たってみるわ。フェイトちゃんはなのはちゃんよろしゅうな」
 「うん」




  なんとか二人が仲直りできるようにしないと・・・頑張ろう。








                    ◇ ◇ ◇








 「で、ジンヤとは何があったの」
 「・・・別に、何でもないよ」




  嘘だ。



  私と陣耶くんはこないだ大喧嘩して・・・それっきり。
  陣耶くんの話が出る度にムッときてしまって、それでみんなが色々と心配してくれているのは知っている。
  だけど、あんな事を言われると私だって怒るよ・・・




 「嘘。最近のなのは、ジンヤの話になるとムッとしている」
 「そんなこと、ない」




  うう、今日のフェイトちゃんは意外と粘るなあ。
  どうにかして誤魔化せないかな・・・




 「ジンヤだって同じだよ。なのはの話になるとムッとなって」
 「そう、なんだ・・・」




  やっぱり、怒ってる・・・



  あれから考えて、確かに陣耶くんの言う事は正しいって思った。
  だけど、だからといって、私もあれは許せなかった。




 「お願い。私たちは、二人が今のままでいるのは嫌で心配だから・・・話を、聞かせて」
 「・・・・・・」




  ・・・私も、こんな風にフェイトちゃんに言っていたっけ。
  話さなきゃ伝わらない事も、確かにあるって。
  話してくれないと、何も分からない―――



  結局、フェイトちゃんの根気に負けて私の方が先に折れた。




 「―――分かった。じゃあ、聞いてくれるかな」
 「うん」




  それで、話した。
  この前私と陣耶くんの間であったやり取り、つまりは喧嘩の内容をフェイトちゃんに―――




 「・・・うん、なんていうか、難しいね」
 「・・・・・」




  話を聞き終わったフェイトちゃんは、そんな事を言った。
  確かに無茶をした私も悪かったけど・・・




 「そうだね―――だけど、いくらなんでも、なのはも少し言いすぎだよ」
 「・・・・・うん」




  “大っ嫌い!! 出てって!!”



  私の言ったあの言葉が、ずっと離れずに付きまとっている。
  分かってる。陣耶くんが来ないのは私のあの言葉が原因で・・・



  きっと陣耶くんは、私のあの言葉を真に受けている。
  陣耶くんは優しくて強いけど、その分ずっと繊細って事を知っている。
  それは、あの時屋上で陣耶くんの過去を聞いた時からずっと分かってた・・・




 「私からもジンヤに言うから、もう一度だけ話してみて」
 「―――うん」




  とりあえず、もう一度話す事を了承する。
  それからの時間は、何か気まずくて・・・気がつけば、もうフェイトちゃんは帰っていた。




 「――――――」




  ぼーっと天井を眺める。
  暫くそうしていると、不意に視界がぼやけてきた。




 「また・・・」




  最近、こんな風に過ごしていると不意に涙が流れてくる。
  これは―――陣耶くんと喧嘩した日から、ずっと―――




 「っ―――」




  そうして、わけも分からないままに―――私はただひたすらに泣き続けた・・・








                    ◇ ◇ ◇








 「ふう・・・」




  今日も学校が終わった。
  いつもならここからあいつらと一緒に帰路につくところだが・・・ここのところ、俺は一人で帰っている。
  というのも、あいつらと俺が一緒にいれば気まずい空気になってしまうというのが理由だ。



  ―――あれ以来、俺はなのはの所に顔を出す気にはどうしてもなれなかった。
  周りのやつらは何かあったのかと心配してくるが、適当に誤魔化している。



  正直、反省はしているし後悔もしている。確かにあれは言い過ぎた。
  けど・・・あの一言が、どうしても脳裏を離れない。
  それが、俺の脚を止める・・・



  そんな弱気な俺に腹を立てて、なのはの話題になるとついそれが漏れてしまう。
  そんなもんだから、俺が落ち着くまではあいつらとの行動は出来るだけ避けたかった。




 「まったく、我ながら人を信じられんのかね・・・」




  俺の過去と、一緒に向き合ってくれたなのは。
  独りじゃないと教えてくれて、ずっと手を差し伸べてくれたなのは。
  そんなあいつから頭ごなしに拒否されたのは―――結構堪えた。
  普段の俺ならそれがなんだ、と言いたいところなのだが・・・いかんせん、踏み出しかねている。




 「ったく、情けねえったらありゃしねえよ、ホント・・・」




  自己嫌悪で俺自身をブッ飛ばしたくなる。
  はあ、くそ・・・
  そうして今日もうじうじと考えている間に俺の部屋の玄関前まで辿り着く。



  これからどうするかな―――



  玄関を開けて中に入る。




 「ただいまー」
 「ああ、お帰り」
 「なんや遅かったなー」




  ・・・・・・有無を言わずに扉を閉じた。
  うん、あれは幻想だ。俺はきっと疲れてるんだ。いやそうに違いない。
  でないとあいつがここにいるわけない・・・うん。やっぱ幻想だ。



  もういっぺん扉を開ける。




 「客人待たせといてその対応はないんちゃうー?」
 「うぉわ!?」




  アラート! アラート! 目の前に喰えないタヌキの顔がどアップで!?
  ええい、一時撤退する!!




 「逃がすかい」
 「ノーー」




  あっさり捕まった・・・
  俺男だよね? はやては女の子だよね?
  だけどこいつの手から逃げることが出来ないって・・・こいつは本当に女の子か?




 「ぬ、何か失礼なこと考えたやろ」
 「いーえ、何にも」




  く、相変わらずカンの鋭い奴め。
  んで何の用?




 「自分でも分かっとるやろ。ここ最近のなのはちゃんと陣耶くんのことや」
 「・・・・・」




  まあ、いつかは押しかけてきそうだとは想像していたが・・・




 「そう思っとるんやったらキリキリ吐きい。何があったんや」
 「・・・はあ、これ以上無駄か」
 「だからとっとと話しておけと言っただろう」
 「言ったか?」
 「言った」




  まーそれは今は置いといて・・・




 「喧嘩したんだよ。くっだらない事での些細な、な・・・」
 「だーかーらー、詳細を話せって言っとるんやんか」




  で、俺ははやてのやつに一切包み隠さずに白状させられた。
  別にあいつの後ろに後光を携えて御光臨なされていた大明神様が怖かった訳では決してない。ないったらない。



  で、反応はこう。




 「ドアホ」
 「にべも無いお言葉で・・・」




  真っ向から言われると傷つく・・・
  まあ俺が悪いんだが。




 「解決法、謝れ。ちゃんと真摯に気持ちを込めて。それで万事解決で丸く収まるやろ」
 「・・・結局のところ、極論だよな?」
 「いらん時にツッコミせんでええって」




  いや、けどさあ・・・




 「陣耶くんが言いたい事は分かる。うちらかてなのはちゃんには無茶をしてほしくない」
 「そりゃな」




  なのははこいつらにとっての掛け替えのない友達の一人だ。
  だからこそ、それを失いたくないと願っている。
  俺だってそう思ってる。




 「けどな、それと同じくらい・・・二人には、仲ようやっていてほしい」
 「―――けど俺は、あいつに・・・」




  否定されて、拒否されて、傷つけた―――泣かせてしまった。
  今更それをどう直せって・・・




 「直すどうのこうのの問題やない。これも結局はうちらの我が儘や」
 「・・・・・」
 「だから陣耶、もっぺんだけでいい・・・なのはちゃんと会って、話だけでもして」




  それで、はやては帰って行った。
  最後に“なのはちゃんがホンマに陣耶くんを嫌いになると思うか、よう考えてな”と、言い残して。



  ・・・・・・・・・・




 「で、あそこまで言われたお前はどうするんだ」
 「―――俺は」








                    ◇ ◇ ◇








 「―――今日で、もう二週間か・・・」




  陣耶くんと喧嘩をしてからもう二週間。今日も外が暗くなり始めた。
  今日お見舞いに来てくれたヴィータちゃんはもう帰って、病室には私一人。
  入院している以上分かってはいるけど―――どうしても、孤独感が湧いてくる。




 「・・・今頃、何してるのかな」




  フェイトちゃんは、はやてちゃんは、すずかちゃんは、アリサちゃんは、ヴィータちゃん、お父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん―――
  陣耶くんは―――今、何をしているのかな。




 「―――きっと、みんなと仲良くしてるよね」




  最近、よくそんな夢を見る。
  夢の中ではみんなが笑っていて、とっても仲良しで―――



  ただ、その中に私はいない。



  歩み寄ろうとすればみんなは空へと飛び立っていく。
  手を伸ばそうとしても届かなくて、飛ぼうとしても今の私は飛べなくて―――みんな、私から離れていく。



  そんな、夢。



  魔法の無い私はみんなの傍にいられない。
  追いつこうとしてもどんどん離されていって―――やがては、決して手の届かない所まで行ってしまって。



  だから、ここ最近は毎日が不安で仕方がなかった。
  会っていないと不安になる。そのうち離れていってしまうんじゃないかって・・・




 「―――ううん、違うよね。私が自分から・・・遠ざけちゃったんだ」




  大っ嫌いって、出ていってって、そういって追い出して―――
  それ以来は全然顔を出してくれなくなった。
  それは間違いなく、私のせいで・・・




 「きっと、嫌われちゃったよ、ね・・・」




  口にして、胸がとても苦しくなった。
  嫌われた。もう私に会ってくれる事も、以前の様に楽しくお話しするのも、一緒に笑って、一緒に泣いて、それで―――




 「そんな事は、もう無いんだ・・・・・」




  私のせい。自業自得。
  きっと、これは罰なんだ・・・
  私がみんなが心配してくれているのにも関わらずに無茶をして、それを陣耶くんは言ってくれただけなのに―――聞こうとしなかったから。
  だから、これは罰なんだ。



  だけど・・・




 「―――会いたい」




  嫌われててもいい。拒絶されても、見向きもされなくてもいい。
  それでもいいから、もう一度だけ、会いたい・・・




 「会いたい―――」




  大切な私の友達に、もう一度だけでいいから・・・
  それで、謝りたい。“この前はごめんね”って。
  例えそれで許されなくても、それでも―――




 「会いたいよ・・・陣耶くん・・・」




  また、いつもの様に涙を流す。
  ああ、これは―――この涙は、寂しいから・・・




 「なに泣いてんだよ、お前」
 「っ!?」




  突然、声が聞こえた。
  まさかと思って声のした入口の方を向く。
  そこには―――




 「・・・よう」
 「陣耶、くん・・・」




  なんで・・・




 「なんでって、お見舞い以外に何があんだよ」
 「え、えっと・・・」




  陣耶くんはぶつくさと言いながら持っていた果物をベットの傍にあった机に置いた。
  えっと、お見舞いの品・・・?




 「あ、ありがとう・・・」
 「どーいたしまして」




  それから陣耶くんは椅子を引っ張って来てそこに座って、それから沈黙―――




 「―――」
 「―――」




  き、気まずい・・・何か、何か言わないと・・・ってそうだ。
  言わなくちゃ。ちゃんと謝って、それで―――




 「あの―――」「あの―――」




  ・・・・・・




 「えっと、先にどうぞ」「えっと、先にどうぞ」




  ・・・・・・・・・・・・




 「―――」「―――」




  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 「だーもー何じゃいこのベタでずるずるな展開!!」
 「にゃあ!? か、館内で大声は厳禁ですー!?」
 「ええい、とにかく俺の言いたい事は一つ!!」
 「は、はいっ!!」




  ビシッと指を差されて思わず居住まいを正してしまう。
  え、えっと、なんでこんな事に・・・




 「・・・・・・その、悪かった」
 「え?」
 「だから、悪かったって・・・ほら、この前、その、酷い事言って・・・」




  あ・・・




 「あれは正直言い過ぎた・・・ごめん」
 「陣耶くん・・・」




  申し訳なさそうに、居心地が悪いように俯いて・・・
  ・・・そっか、気にしているのは・・・何も私だけじゃなかったんだ。




 「ううん―――私の方こそ、酷い事言ってごめんね」
 「・・・・・・」




  私のこと心配してくれているのにあんなこと言って・・・
  きっと、凄く嫌な気持ちになって、凄く傷ついたと思う。
  陣耶くんは優しいけど、とても傷つきやすいから―――だから、ごめんなさい。




 「ま、いいさ。お互いおあいこって事で」
 「―――うん」
 「ん、じゃあこの件はこれで終わりな」




  あ、笑ってくれた。
  こうやって笑った顔を見るのも、久しぶりだな・・・




 「あーあー、俺も大概バカだって事だな・・・」
 「? 何が?」
 「いやいや」




  うーん・・・ま、いっか。
  改めて姿勢を直して・・・




 「・・・先に、謝っとくな」
 「へ?」
 「俺は・・・まあバカだからさ。この前みたいな事、またカッとなって言ってしまうかもしれない。だから―――」




  ああ、なんだ。そんな事・・・
  そんなの、私だって―――




 「それを言ったら私だって同じだよ。またこの前みたいな事を言ってしまうかもしれない・・・
  だけどそうやって喧嘩したら、また最後には仲直りすればいいんだよ」
 「・・・そう、だな。うん、そうだ」




  友達って、私はそういうものだと思うから。
  一緒に笑って、泣いて、遊んで、怒って、喧嘩して・・・
  そういう事が出来るのって、とっても大事だと思うんだ。




 「それにね―――本音を言うと、ずっと寂しかったんだ」
 「寂しい・・・」
 「うん」




  ずっと夢を見てた。
  みんなが私から離れていく夢。魔法が使えない私には手の届かない所に行ってしまう夢。
  みんなみんな、私の傍からいなくなって―――後には、魔法の使えないただの高町なのはだけが残って・・・




 「だからね、陣耶くんがどこかに行ってしまうんじゃないかって・・・手の届かない、ずっと遠くに。
  だから、そう考えたら怖くなって、寂しくなって、それで・・・」
 「・・・そっか。けどな、一つお前間違えてる」




  え? 間違えてるって・・・




 「俺は―――俺たちは、魔法が使えないからってお前の傍からは離れない。
  お前は俺たちの友達なんだ。魔法が使えようが使えなかろうが、それは変わらない」
 「だけど・・・」




  みんなには魔法がある。それも飛びきりの。
  だから、みんなそれを活かす方に進んで行こうとしていて・・・




 「・・・お前、魔法があるからってなにもそれにこだわる必要無いだろ」
 「え」
 「前言ったことに蒸し返しみたいで悪いけどな・・・魔法が無くても、お前は十分やっていけるんだ。
  そりゃ魔法が無いとできない事もあるけど・・・それでも、魔法がお前の全部じゃないだろ」




  魔法に、こだわる・・・




 「俺はお前が優秀な魔導師、高町なのはだから一緒にいるんじゃない。お前が高町なのはっていう一人の女の子だから、俺は一緒にいるんだ」
 「・・・・・・私、だから」




  言われてみれば、確かにそうかもしれない。



  あの日、魔法に出会ってから私を取り囲む世界は一変して・・・いつの間にか、それだけを見ていたのかもしれない。
  みんなに認めてもらえたことが嬉しくて、誇らしくて―――ならそれで何かをやりたいと思った。



  だから、私はこの道を選んだ―――



  魔法がきっかけで出会った人たちだから、魔法が無いと離れて行ってしまう・・・そうとも思ってたのかもしれない。
  けど、ちゃんとここに・・・私の友達がいてくれた。
  ううん。きっとみんなも―――




 「そもそも俺らは小学生なんだから仕事なんて周りの大人に任せりゃいいのに・・・」
 「え、えと、それでも私にも手伝える事とか出来る事ってあるし」
 「・・・・・・仕事の虫?」
 「な、失礼なー!!」




  意味はよく分からないけどすっごく馬鹿にされた気がする!!




 「まあとにかく、魔法が使えないからといって別に生きていけなくなるわけじゃないんだ。
  それがお前の夢ってのは知ってる―――けど、今を焦ったって仕方無いんだからもうちっと肩の力抜け」




  ・・・そうだね。私、ちょっと焦りすぎていたのかも。




 「そうそう。無理は体に良くないぞーっと」
 「うん。これからは気をつけるよ。だから今日だけでも―――」
 「却下」
 「まだ何も言ってないよ!?」
 「どーせリハビリでしょーがこのスカタン」
 「むう・・・」




  やっぱり、最近の陣耶くんは少し意地悪です。




 「リハビリはまた今度付き合ってやるよ。今はゆっくり休むこと」
 「・・・うん。お願いね」
 「へいへい」




  いつもみたいに軽く返事をする陣耶くん。
  うん、こんな時間が―――やっぱり私は、たまらなく好きなんだ。
  リハビリばかりに気を取られて、楽しむ事なんて全然考えてなかった・・・



  だから、ありがとう。
  こんな時間が、どうかいつまでも続きますように―――









  Next「お師匠様のお師匠様は・・・?」









  後書き

  あまり描かれなかったなのはのリハビリのお話。

  いっつも仲良しこよしじゃなくてたまにはぶつかり合わないと、ってことでこんなお話に。

  なにかパクッてる感がしなくも無い・・・セーフ? これセーフだよね!?

  で、拍手が来たのでお返事。




  >まあ終わったからって無かった事になる訳じゃないけどね。

  >いや、気楽じゃダメでしょ、ヴォルケンのやった事、結構重いですよ。
   持ち主のはやての責任だって軽くない。


  いやごもっともで。

  と言っても、陣耶もまだ子供なのです。所詮子供です。そんな所までは考えは及びません。

  そして根本的に自分の大切な物のためだけに動きます。それ以外の風当たりとか知ったこっちゃありません。

  たとえ自分の風当たりが悪くなろうとも、自分自身の意志でそれを選ぶような子です。




  >陣耶、どうせ受け入れるんだから、口だけの拒絶止めれば?


  そんなことしたら一生はやてに良いように遊ばれますw(ぇー

  というか、はやて固定ルートに入る気がしないでもない・・・あ、あとちょっぴし照れ隠しも入ってます。

  実は陣耶ってツンデレだった・・・!!(ぇー