―――朝
小鳥が囀り、風が吹き付け、柔らかな日差しに照らされ、桜が舞う―――
あの戦いから数ヶ月、俺たちは春を迎えて進学した。
新学期が始まって二日目。
今日はあいつが聖祥にやって来る日だ。
「さて、行ってくるわ」
「ああ。気をつけて行ってこい」
見送りはトレイター。
最近よく家事をするようになって家政婦みたいな感じだ。
まあ、なんだ―――他愛のないやり取り。
これだけで、俺は朝の始まりを実感できた事が嬉しかったりする。
「へいへい。んじゃ一っ走りしますかねクラウソラス」
『走るのは貴方ですけどね』
「うし、行ってきまーす!」
「ああ、行ってらっしゃい」
さてと、友達を迎える大事な日だ。
しっかりと歓迎してやりますかね。
〜A’s to StrikerS〜
Act.2「暖かい日差しの中では昼寝をするに限る」
キーンコーンカーンコーン
HR前の予鈴が鳴り響く。
その最中、俺は廊下を駆け抜けて―――
「うっしセーフ!!」
「おはよー陣耶くん。今日は何時に出たの?」
「おはよなのは。8時15分」
「うわ、遅刻寸前で新記録・・・」
「そこ、余計な事言わないの」
ふむ、約10分か。
ショートカット使ってるとはいえバスで来るよか早くなるとは・・・いやはや陸上でも結構いけるんじゃねえの?
「おはようジンヤ。今日は遅かったね」
「ちょっと寝過してな。トレイターの奴起してくれねえでやんの」
『たしか“お前の慌てふためく顔は面白いからな”ですね』
・・・訂正、やっぱあいつは家政婦じゃなくて小悪魔だ。
背中に天使のような翼生やしておきながら性格があれだからなあ・・・
「そういやあいつは?」
「ああ、私たちと一緒に来たよ」
「お、すずか。おはよ」
「おはよう陣耶くん」
ふむ。という事は今頃担任と一緒にこっちに向かってる最中ですかね?
と、HR開始を告げるベルが鳴った。
それとまったく同じタイミングで先生が扉を開けて顔を出す。今日もまったくもってピッタリ・・・
席に着くか。
・・・思うんだが、去年に続いて俺ら全員同じクラスってどーよこれ。
しかもあいつまで同じクラスときたもんだ・・・管理局がどっかから手を回しちゃいないだろーな。
「はーい、今日はみんなに新しい友達を紹介しよう」
その一言でクラスがざわめき始める。
んー、前回と同じように来る人物が分かっている俺にとっては騒ぎ立てるような事でもないんだけどな。
「それじゃあはやてちゃん、入ってきて」
「はーい」
快活な声と共に扉が開かれる。
そこから入ってきたのは車椅子に身を預けた少女―――俺たちが良く知る人物。
友達の一人、八神はやてその人だ。
車椅子の少女という一風変わった印象を持ったはやてを見てクラスは興味津々の様子。
「みなさん初めまして。今日からこのクラスでお世話になる八神はやて言います。
どうぞ、よろしゅうお願いします」
『よろしくー!!』
周りから一斉に拍手が巻き起こる。
俺も歓迎の意を籠めて拍手を送ってやる。
「えへへ」
「さー、席はどこに・・・」
来たな転入生にとっての恒例イベント。
大抵は空いている席―――最後列にやってくる。
そして俺は最後列で窓際。隣には空白一つ・・・
うん、他にも場所はあるから大丈夫大丈夫。
あいつだって俺の横には・・・
「ほんじゃあ・・・あそこで」
「よし。じゃあ頼むぞ皇」
(って俺の淡い期待を裏切るなああああああ!?)
叫びたい気持ちを必死に抑えて拳を握る。
くそ、それほどまでに俺を弄りたいか貴様!!
『まあそうなんでしょうね。頑張ってくださいマスター』
「うう、次の席替えまで我慢だ俺・・・」
きっと、きっとその時になればあいつからは解放されるはず・・・
などと心で涙を流している内に机が運ばれてきた。
「ほんならよろしくな、陣耶くん」
「・・・不本意ではあるがね」
ヤロウ、輝いた笑顔をしてやがる・・・
まー、ぼちぼちやるしか無いですか。
で、早速授業。
一時間目の教科は算数だ。
「なあなあ陣耶くん」
「んぬ?」
「ここの計算て、これでおうてる?」
えっと、(6×7−2)÷8で5・・・うん、合ってるな。
「ああ、合ってるぞ」
「おおきに。こういう勉強はドリルでしかやってへんからちょいと自信なくてな」
「十分ついていけてるさ。自身持って大丈夫だぞ」
ふむ・・・中々大人しい?
流石に公私の区別くらいは付けているか・・・
で、その他の授業も順調に進んで中間休み。
はやての周りにはどっと人だかりが寄って来た。
「言葉遣いが面白いね! どこの?」
「何で車椅子なの?」
「この学校に来たのって何で?」
「趣味は!? 好みのタイプってなんスか!?」
おーおーうるせー
こんな至近距離でやいのやいのと騒がれるとたまったもんでは無いな。
ていうかみんなが一気に喋るから誰が何言ってるか全然聞き取れんし。
『ひーん、対応しきれへんー』
『はっはっはっ、精々揉まれろ人気者』
実に良い気味である。
さて、俺は中庭にでも行って日向ぼっこでも・・・
「陣耶くん見捨てんと助けてーやー! キスした仲やろー!」
「ぶぅ!?」
テ、テメエ!?
こんな所でなんてデマかましてくれやがりますか!!
全員の動きがピタッと止まる。
そして全員の目がこちらを向いてはやてに寄って集ってた男子から視線が鋭く突き刺さる・・・
マ、マズイ・・・この気配は、油断すると殺られる。
『―――』
「―――」
重い沈黙が降りる。
次の瞬間――――――
「さらば!!」
「ああ逃げた!!」
「逃がすな、追え!!」
「各員に通達! ヤツがポイントB5へ逃亡したと伝えろ!! プランFだ!!」
『キー!!』
ちきしょー!! 何で俺がこんな目にーー!!
『それ、そこ危ないですよ』
「ちくしょーー!!」
◇ ◇ ◇
あはははは、いい逃げっぷりや。
いやー、これで噂という名の種は学校に蒔けたしネタは出来たな。
「えっと、ほんとに皇くんと・・・?」
「ふふふふふ、秘密や」
こういうのはばらすと一気に冷めてまうからな。
たとえ陣耶くんが否定したとしても説得力は皆無やし。第三者から説明してもイマイチやしな。
「あーあ、あいつも苦労するわね・・・」
「本人は楽しそうだからいいんじゃないのかな?」
「すずかちゃん、あれを楽しそうって言う・・・?」
「あ、あはははは」
おお、みんな。
「いやー、来て早々楽しませてもらってるわ」
「まあ楽しんでるでしょうね、あんたは」
ふふふふ、人生は楽しんでなんぼのモンなんやで?
身近に楽しめるネタがあるんやったらフル活用や!!
にしても・・・
「陣耶くん追いかけてった男子のみんな・・・妙に統率力あったね? それにプランFて・・・」
「あれね。フェイトが入学してからしばらくしてあんな感じよ」
「学校のみんな、ジンヤを目の敵にしちゃって・・・」
まあこれだけ可愛い子を囲ってるから当然やな。
そんな可愛い子の一人であるうちを蔑ろにするとは・・・ありがたみというもんが分かっとらんな陣耶くんは。
「で、あの件についてなんだけど」
「おお、そんならちょいと打ち合わせをしよか」
◇ ◇ ◇
―――土曜日
今日はあいつらと花見の約束があった。
あったのだが・・・・・・・・・・
「何だよこの大人数!?」
「あ、あはは、気づいたらこんな人数になっちゃって・・・」
「明らかに50はいるだろ! どこどうやったらここまで増える!!」
高町家の皆さんに月村家の皆さん、バニングス家の皆さんにハラオウン家の皆さん。
他にも八神一家や俺ら、果てには管理局員まで・・・
もうこれって花見をする人数を超えてる気がしないでもない。
「いいやんか賑やかで」
「賑やかなのは良いが、これはなあ・・・」
『はーい! 本日の幹事を勤めさせていただきます、時空管理局執務官補佐エイミィ・リミエッタとぉー!!』
『エイミィの友人で高町なのはの姉である一般人、高町美由希でーす!!』
おー、始まった始まった。
周りからは歓声が上がって拍手など聞こえる。
他にもリンディさんが社交辞令とか詠んでるが・・・まあぶっちゃけ建前だと。
本人騒ぎたいだけだろうなー・・・実際そう言ってるし。
「いいのかね、アレ」
「息抜きって事でいいんじゃないかな・・・?」
ああ、やっぱり疑問形?
だよねー・・・あんな発言、仮にもお偉いさんがやっていい物なのか。
それともお偉いさんだからこそできる懐の広さか・・・どっちゃにしろやっぱあの人はスゲエ。いろんな意味で。
で、花見が始まった。
というかこれ宴会の勢いだ・・・酒やワインやカラオケボックスまで持ち込んであるし。
「さて、と。じゃあ俺らも一旦解散か?」
「そうだね。一通り挨拶したらまた後で集合して―――」
「みんなで特等席の桜を見に行こう」
ほう、特等席とな?
それは楽しみにしておこう。
さて・・・俺はどーっすかな。
「普段話さない人ねえ」
「シグナムやザフィーラなどどうだ。他で言えばリンディ提督やレティ提督などもいるが」
おう、トレイター。
「そーいうお前はどうすんだよ」
「お前の友達の家族とはあまり顔を合せていないからな、そちらを訪ねる。
まずは高町家の者からでも・・・」
あー、さよか。
そういや全然顔合わせてなかったな・・・
「ん、じゃあ俺もそこら辺を訪ねるわ」
「分かった。せっかくの花見なんだ、羽を伸ばせよ」
「伸ばせりゃな・・・」
まー、善処します。
で、しばらく歩いて標的発見。
「お、シグナム」
「皇か」
ヴォルケンリッターが将、剣の騎士シグナム。
フェイトとはライバルの仲である気高き剣士だ。
そーいやこいつと話す機会ってあんま無かったな。
「そんなに間が空いている訳でもないのになんか久々に会った気がするわ」
「私たちはあまり話さなかったからな。あまり気に留まらないのだろう」
「そかそか。じゃあここで親交でも深めますかね」
特に異論はないようで話をする気にはなってくれた模様。
さてさて、話題は・・・
「ふむ・・・お前から見て今のはやてはどうだ?」
「主はやては以前より更に笑われるようになったよ。毎日が楽しくて仕方がないという風にな」
「ああ・・・」
非常に心当たりがありすぎて困る。
あの遊び心もちっと外に向けてほしいものだが・・・
「主の遊び道具―――もとい遊び相手になってくれているお前には感謝しているよ」
「さり気に道具扱いしたなオイ!?」
この、然も可笑しいとでも言うようにくくくと笑いやがって―――!
俺の周りってば敵だらけなの? 平穏の二文字は一体どこへ・・・
「そうむくれるな。それだけお前たちといる時間が楽しいという事だからな」
「・・・素直に喜べんわ」
アレで喜ぶ奴が普通いるか・・・?
いや、たぶんいないと思う。
というかいたらそいつはMだな、うん。
「だが・・・」
「ん?」
急にシグナムが神妙な顔になった。
その顔には、少々憂いが見て取れる。
「主は・・・ここの所、少々背負いこみすぎていると思う節があるのだ」
「背負い込みすぎている・・・?」
「ああ」
一見してそんな風には見えんがな・・・
「我らの起こした魔導師襲撃事件―――その責すら、背負い込んでいられる節があってな」
「―――っちゃー」
なるほど、そういうわけね。
そんな風には見えないんだが・・・なるほど、あいつならそれくらい背負いそうだな。
あいつは何だかんだで面倒見が良い。だから、自身の従者が起こした事件ともなれば背負い込んでもおかしくは無い。
たとえそれが無意識であっても、だ。
「はー、あいつは・・・絶対自覚して無いな。それとなく言って聞かせて肩の力抜かせるわ」
「我らが言っても逆効果だろうからな・・・頼む」
さて、何やらしんみりとした空気になってしまったな。
何か話題転換を・・・ん?
「おや、あれはフェイトか?」
「だな」
何やら傍にアルフと管理局員が二人ほどいるが。
フェイトが結構ピンチの模様。何故?
「ふふふ、フェイトちゃんって歌が上手なんですって」
「おわった!?」
「・・・お前、いつから背後にいた」
シ、シャマル・・・最近無駄に隠密スキルが付いてきてないか?
で、フェイトが歌とな?
「ええ。ちょうどそこにカラオケボックスがあってね」
「あの音楽端末と拡声機が一体化したデバイスか」
「カラオケボックスだっつーに」
なんつー表現の仕方・・・どこの原始時代だよ。
ここら辺はまだ時代の差を感じるな。
「いい加減こっちの用語を覚えなさいよシグナム」
「慣れぬ物は仕方がないだろう」
「・・・・・・もしかして、機械音痴?」
ピシリ、と空気が凍った気がした。
おー、シグナムから冷気が・・・あんた烈火の将じゃなかったっけ?
「ああ、もしかして・・・禁句だったか?」
「もしかしなくても・・・そうよ」
ま、まじい・・・
ここはとりあえず、アレだ。
「また後でなー!!」
「こらまて貴様! 今の言葉を取り消せー!!」
捕まったら説教なんでごめんだねー!!
ということでさっさと人混みの中に逃げよう。そうしよう。
◇ ◇ ◇
「ふむ、気づけばみんな行ってもうたな・・・」
一人は寂しいし誰か話相手は・・・お?
向こうから人混みかき分けてこっち来るんは・・・陣耶くんか?
「っし、抜けた・・・これでヤツも追ってこれまい」
「ずいぶんと楽しそうやな陣耶くん」
「今度はお前かよ!?」
いやいや、いつもおもろいリアクションありがとう。
さて、何から逃げとったんかなー?
「素直に教えるとでも?」
「せやろなあ。だから・・・」
すーっと息を吸い込んで・・・
「やめて!? それだけはやめて!?」
「いややな、ただ思いっきり叫ぼうとしただけやのに」
おお、ごっつ悔しそうな顔しとる。
やー、陣耶くん弄るのは楽しいなー
「はあ・・・お前ってやつは」
「ほらほら。うちの話し相手になってくれたら見逃してあげるから」
「・・・ん、分かった」
よし、これでしばらくは時間を潰せるな。
さー何から話そか。
「そだな・・・最近の調子とか」
「うちは絶好調やな。毎日が楽しいわホント」
「あれで満足されてなけりゃ俺はいい迷惑だよ・・・」
「お、満足するんやったらええんや?」
「それとこれとは別じゃ!!」
はははは、そームキにならんでも。
そういう陣耶くんはどうなん?
「ぼちぼちかね。学校行って、お前らと遊んで、帰って飯食って、お前らと訓練してって・・・」
「んー、なんや面白みが無いな・・・」
それじゃあうちが楽しくないやーん。
「お前に弄られるのこっちはゴメンなの。なのでワザとぼかしましたよーっと」
「あー、陣耶くん酷い。そんな人やったなんて」
「普段から散々遊ばれてるんだからおあいこだろ。いい加減対策練らないと俺の身が持たんもん」
むう、つまらん。
もうちっと遊ばせてくれたってええやろうに。
「はいはい・・・で、お前」
「何や?」
「最近無理、してないだろうな?」
「しとらんよー?」
いつ何時も自身の健康状態は保つのがモットーや。
もちろん心の美容も含めて―――
「・・・俺を弄るのはその一環と?」
「うん」
見事に撃沈。
いやだって楽しいんやもん。ついつい癖になってもうてなあ・・・
「そうじゃなくてだな・・・お前は、本当にこれでいいのかと思って」
「は?」
いきなり何を言い出すん。
これでいいのかって十分満足してるやん。
「そうだな・・・お前が管理局で仕事してるのは何でだ?」
「そんなん人を助けたいし、ちゃんと償いもせなあかんし・・・」
「それだ」
おおう、なんやビシッと人を指差して失礼な。
しかも妙に確信めいた顔して・・・
「お前、その“償い”って部分を気にしすぎ」
「気にしすぎって・・・」
そないなこと無いと思うねんけどなあ・・・
で、その心は?
「どーせお前の事だ。守護騎士の起こした事件にも責任感じてるんだろ」
「な、当たり前やんか。うちの子たちの引き起こした事なら保護者であるうちにも責任は―――」
「何でだ?」
え?
いや、何でて・・・
「それをやったのはお前の騎士たちだろ? 何でお前が責任感じなきゃならん」
「だって、うちがちゃんとみんなの面倒を見れんかったから・・・」
「俺ら子供ね? そこまで出来るわけじゃないの。OK?」
いやそんな事言われても・・・
「まあ保護者であるお前にも責任は少なからずあるんだろう。そうなってるみたいだし」
「じゃあ何で―――」
「細かい事は抜いてだな―――要するにお前気にしすぎ。もちっと気楽になれ」
気楽、なあ。
うちそんなに気負ってるように見える?
「おう、シグナムも言ってたぞ。最近の主は背負い込みすぎな節があるって心配してた」
「シグナムが・・・」
うーん、知らん間に気を遣わせてたんかな・・・
だとしたら気をつけんとなー
「ということで、俺がお前の肩の力を抜かせようと思ってだな」
「なんや、だからこんな話をいきなりしたんやな?」
「その通り」
「もうちょい時と場所考えてくれてもええやんか」
せっかくの花見日和が・・・もう。
「いやいや、こんな天気だからこそな」
「ん?」
「はーいはい、ご案内ー」
お? お? ちょ、どこに連れてくき?
うん、ここは一つお決まりなアレを・・・
「きゃー、人攫いー?」
「なにを人聞きの悪い事を」
そう言って車椅子を引かれて・・・ちょっと開けた所に出た。
うん、日差しが暖かくていい所やん。桜も綺麗やし・・・
「こんな所でいいかな?」
「で、結局なにを―――って、おわっ」
腰から持ち上げられて地面にストンと・・・
で、隣に陣耶くんがよいしょと腰かけた。
「あのー、何を?」
「何って、日向ぼっこ」
そう言って陣耶くんはゴロンと大の字に寝転んだ。
ちなみに、うちに拒否権は?
「無い」
「キッパリ言い切ったなキミ」
か弱い乙女のうちとしては辛いわー、しくしく。
「はいはい。お前もたまにはこうしてのんびりしろよ」
「わ」
ちょ、手、なに頭撫でてんの―――!
撫でる手つきはちょっと荒っぽいけど、優しくてちょっと気持ち・・・ってちゃう!!
「じゃあ30分ほど俺は寝るかね。お前もせっかくの昼寝日和だし寝れば? つか付き合え」
「ぁ・・・」
ちょ、なに名残惜しそうな声出す私!!
落ち着け私、ちょーっとおかしいんちゃう・・・?
よし、ここは冷静になってやな・・・・・
「あのなあ陣耶くん―――って」
「すー・・・・・」
・・・・・・・・・・もう寝とる。
早いなあ。
「―――」
んー、ポカポカ陽気・・・眠たくなってくるなあ。
陣耶くんに車椅子から降ろされたせいであまり身動きも取れんし・・・ん、決めた。
ちょっと傍によって、寝そべって、腕借りますよー・・・・・・よし。
腕枕を貸してもらってうちもお昼寝タイムと行きますかー
さて、お休み・・・
「んー・・・」
「ん?」
なんや陣耶くんがもぞっと・・・
「むにゅう・・・」
「って」
体がこっち向いてきて・・・寝返りかい!?
ちょ、今碌に身動き取れんのやけど―――!?
もぞもぞと必死で体を動かそうにも向こうの方が早い。
そのまま寝返りをうたれて―――うちがいるせいで出来ひんかったけど、代わりに抱きすくめられる形になってもうた・・・
「え、ちょ、ぅえ・・・!?」
「すー・・・」
お、落ち着け私!
これは寝ぼけてるだけであって決して故意にやってるわけちゃうから・・・
いやまあ、けどこれも暖かくて中々悪くは・・・ちゃうと言っとろうが!?
あ、あかん・・・なんや調子狂いっぱなしや。
こういう時は、こういう時は・・・・・・
「すー・・・」
「―――」
―――ま、えっか。
これでまたネタが増えるし、今度は確実にやってるわけやし。
まあ、こんなんも悪くはないし、のんびり出来るわ。
なーんか、こんな風にぼーっとするのって久々な・・・ああ、そういうことね。
だからか。うん、納得したわ。
せっかくなのでもうちょっと引っ付いてみる。
うん、起きてたら絶対逃げてるな。後が楽しみや。
さ、お日さんも気持ちええし桜も綺麗やし・・・陣耶のその想いに免じてうちも昼寝に付き合おか。
じゃあ今度こそ、お休み・・・・
◇ ◇ ◇
ピピピピピピピピピピピピピピ
機械的な電子音が鳴り響く。
ん、これは俺の腕時計のアラーム・・・
えっと・・・
寝ぼけた頭で状況確認。
俺は今日花見に来たんだっけな。
そこでシグナムと話して、逃げて、はやてに会って、昼寝して・・・
ああ、そうだっけな。30分だけ寝るって言って・・・
じゃあ起きるか―――ん?
腕に違和感。ていうか腕の中に何か抱えてる。
抱き心地は良いし大きさも良いし暖かいしなんか良い匂い・・・
んー?
ゆるゆると目を開く。
と、そこにあったのは・・・・
「―――」
「―――」
速攻で目を閉じた。
ああこれはまだ夢なんだな。そうに違いない。
じゃないとこんな事があり得る筈が・・・
ピピピと響くアラームがうるさい。
ええい、ちょっと静かにしてくれ!?
「ん・・・」
「げっ」
お、起きやがった・・・
ゆっくりと開いた目と俺の目が交わる。
そして―――寝ぼけた顔から一気にチシャ猫のそれになった。
「おはよう陣耶くん。まさか抱きしめられるとは―――大胆やなあ」
「認めたくない現実を言うなあああああああ!!」
ええい、何だってこんな状況になってんだ!?
状況説明ぷりーす!!
「陣耶くんが寝ぼけてうちに抱きついてきてん」
「うそん!?」
「マジや」
な、な、な、何をしとるか俺えええええ!?
いくら寝ぼけていたとはいえこいつに最大のネタを与えてしまった!!
ああああああ、寝ていた俺のアホー!!
「そんときにキスまで交わしてくれて―――」
「絶対嘘だね!!」
「えー、何でそんなん言うん」
だってそれだったらそっちを最初にネタとして引っ張ってきそうだし。
これ以上ネタも増やされたくないんだい!!
「ちぇ、つまらんやっちゃなー」
「そんな噂振りまいて後々困るのはお前だろうが」
周りから誤解されまくったら修復不可能だぞ・・・?
人の口に戸は立てられないって言うし。
「んー、そん時はそん時やな」
「なんだそれ」
結局解決になってねえし。
っと、そうだそうだ―――
「ん? なんや人の顔覗き込んで」
「・・・ふむ、これでいいのかね?」
「は?」
なんとなくだが、さっきよりかはやての表情が柔らかく見える。
んー、俺のやった事は効果あってくれたんだろうか。
「いや何でも」
「? 変なやっちゃな」
「ほっとけ。あー、にしても寝起きがすっげえ気持ちいい」
「せやなあ。お日さん気持ちいいし・・・」
その直後にお前に叩き落とされたけどな。
さて、そんじゃ戻りますかね。
はやてを抱え上げてっと。
「わっと・・・むう、お姫様だっことはまた大胆やな」
「えーい黙れ」
車椅子に乗せる時にこれが一番やりやすいの。
こうやってはやてを車いすに乗せて、っと―――
「さ、戻るか」
「うん」
戻ってもまだみんな騒がしかった。
腹減ったなあ・・・
何か喰おっかな。
「あー、うち春巻き欲しいなー」
「はいはい」
手頃な所にあった春巻きをいくつか皿に取ってお箸と一緒に渡してやる。
俺は・・・お、旨そうなウインナーと出汁巻き発見。
「パクっと・・・もぐもぐ。うん旨い」
「こっちも中々イケるで。ほれ」
お、センキュー。
差し出された春巻きにそのままかぶりつく。
うん、皮のパリパリ感がgood。
「さ、次は何を喰う?」
「次あれー」
「アイアイサー」
ん、何か大人しいのが気になるけど・・・まあ、たまにはこんな時間も悪くは無い。
もうちょっとはこいつに付き合おっと。
空を見上げる。
空はどこまでも青く、優しさに満ちていた―――
Next「激突! アースラチームvs八神家チーム!!」
後書き
前回はフェイトメインで今回はフェイトメインなお話。
陣耶はあんな感じで日々はやてに弄られます。そしてはやてもそれが楽しくて弄りが加速するという悪循環。
最終的にはネタが増えすぎてはやてに絶対服従とか・・・(マテ