―――それは、一つの奇跡。
本来はあり得ないモノが在り、数多の光が共に紡いだ一つの可能性。
絶望の運命は砕かれ、長い夜は終わりを告げ、掴み取ったのは夜明けの明日。
それぞれが勝ち取った希望を胸に、今までとこれからを始めよう―――
魔法少女リリカルなのはＡ’ｓ 〜もう一つの魔導書〜
最終章「今までとこれからを」
「ぅ、ん―――」
眩しい―――
視界が真っ白でよく見えない・・・
が、しばらくすると視界が慣れてきた。
「ここ、は―――？」
白い天井、白い壁、白いベット・・・清潔感溢れるこの部屋はもしかしなくとも病室？
「陣耶くん！」
「ジンヤ！」
「ぅわたあ！？」
み、耳元でいきなり叫ぶな！？ 鼓膜が破れるわ！！
で、横を向けばそこにいたのは案の定友達二人。
「あのなあ・・・いきなり耳元で叫ぶのもどうかと思うぞ。病室なんだから静かにしてくれ」
「あう・・・」
「ご、ごめんなさい・・・」
バツが悪そうに縮こまる二人。
反省はしているようなのでまあ良しとしよう。
「で、ここどこ？」
「アースラの医務室だよ」
「ジンヤ、あの後いきなり倒れちゃって・・・血もたくさん出ていて・・・」
・・・そうだ。俺はあの戦いのあと一気に気を失ったんだっけ・・・
いまさらだが、腹部には未だに鈍い痛みを感じる。
いくら魔法と言っても万能では無いらしい。まだ完全には治癒しきっていないみたいだ。
「はやては？」
「別の部屋に寝かされている」
「お、トレイター」
ドアを開けて病室に入って来たトレイター。
こいつにも色々と迷惑かけたな。
「色々ありがとうな、トレイター」
「何だ急に」
「いや、気にするな」
さて、と・・・
そろそろ起きて色々と話さないとな。
「って、陣耶くん！？ ダメだよ、まだ寝てないと！」
「いやいや、俺の口から話さなきゃならないこともあるし・・・」
「別にそのままでいい」
って今度はクロノかい。リンディさんとエイミィさん、それにユーノも一緒にいる。
まあ探す手間が省けてよかったが。
しかし、お言葉はありがたいが俺は体を起こす。
「よークロノ。毎度ながらご苦労さん」
「君こそご苦労さま。あんな怪我でよくもあそこまで戦えたものだな・・・」
呆れてため息を吐いている。
俺だって二度とやりたく無いわい。
「さて・・・一つお前たちに謝らないとな」
「謝るって、何を？」
「今まで騙していたこと」
俺の一言で場が止まった。しかし持ち前の順応能力ですぐ復帰、流石だ。
けどクロノの眼がちょっと怖いです・・・
「こらこらクロノ、そんなに怖い顔しない」
「お前も誤解を招くような極論を言ってどうする」
「や、だって結局はそうだし・・・」
過程や目的がどうあれ、騙していたことに変わりは無いんだし。
その責任はきっちりと負わないと。
「えと、陣耶くん。どういうことか説明してくれる？」
「できれば、ちゃんと詳しく・・・」
「おう。まあかいつまんで話すとだな―――」
かいつまんでと言いながら事細かに話した。
４年前の事件から始まった俺とトレイターの関係。
そこで知った真実と誓った想い。そのために取った手段である所の記憶の一時的封印。
「な？ 俺たちは最初から全てを知っていたわけだが、それをお前たちに伏せていた。騙していたと言うには十分だろう？」
沈黙が続く。
俺の過去のトラウマ話まで引き出してしまったから空気が重い。
なのはも一度聞いたとはいえ、その手の話にはやはり弱いようだ。
みんな、優しいからな―――
「それについて謝らせてもらう。すまなかった―――」
謝罪の意を込めて頭を下げる。
すると頭に誰かの手が伸びてきて・・・
「大丈夫だよ、陣耶くん」
「ぬ・・・」
頭を撫でられた。
なんかその優しい手が気持ちいい・・・いやそうじゃなく、流石にいい子いい子されるのは・・・
「確かに、知っているからこそ動けないこともるからね・・・まあ、そこは結果オーライとしておきましょう」
「事が事だしな・・・この際深くは問い詰めない」
「・・・すみません」
その寛大さに頭が上がらない。
と、今度はぽかっと頭を叩かれた・・・・・何故？
「陣耶くん、言葉を間違えてるよ」
「を？」
「こういう時は“ありがとう”、でしょ？」
あ・・・
「ちゃんと許してあげるんだから、お礼の一つでも言ってくれないと」
そう言って晴れやかになのはは笑った。
それは、俺がいつかの日になのはに言った言葉・・・
「・・・うん、そうだな。ありがとう」
「どういたしまして。けどね・・・」
・・・おや？
何やら何時かぶりの不穏な気配・・・・・・
「あんな無茶したのは頂けないな〜？ 私に無茶するなとか言っておきながらアレは無いよね〜？」
「出会った時から思ってたけど、無茶するよねー」
「むががががー！！」
イ、イタイ！ ほっぺが痛いから抓るな！？
なんか久々に大魔王が御光臨なされている―――！！？ というよりなぜフェイトまでが！！？
良心は死んだか！？
『―――何かな？』
「はんへほほはいはへん！！」（訳：何でもございません！！）
人の心まで読むとはなんて奴ら！！
く、油断も隙もない。下手な行動は死か！？ もしや死なのか―――！？
「あんなに血を流して倒れちゃって・・・」
「・・・？」
突然、頬を抓る手の力が緩んだ。
二人の表情は、俯いて前髪にかけれ、よく見えない。
けど、確かに震えていた・・・
「いくら呼んでも起きなくて・・・本当に、死んじゃうかと思って・・・！」
「あ・・・」
・・・泣いていた。
瞳に涙を浮かべ、声は震えて、ただ純粋に俺の身を案じて・・・
「本当に、心配、したんだから・・・！！」
「―――ごめんな」
「ごめんですんだら警察はいらないの―――！！」
「本当に、ごめんな」
本当に情けない話だが謝ることしか俺は出来ない。
だからといって二人が落ち着くわけでもないのだが・・・
「―――っ、陣耶くんの馬鹿！！」
言うが早いかドスッと飛び込んでくるお二人さん。
泣くのはいいんだが飛びこまれた衝撃で傷が痛む・・・・・・
にしても、何でだろうね？
クロノからちょっとばかり殺気を感じるのは何でだろうなーっと・・・
と、そこで部屋のドアがまた開いた。
「邪魔するぞー」
「失礼する」
「邪魔をする」
「お邪魔しまーす」
「失礼させてもらう」
入って来たのは意外にも守護騎士四人、いや五人か。
こいつらの事だからずっとはやてにくっついているものだと思ったのだが・・・
「ヴィータちゃん」
「シグナム」
「おう」
「傷は大丈夫か？ テスタロッサ」
こちらはもう友好関係が出来ている様子で。
もともと歩み寄ろうとしていたんだし、壁が無くなればこんなもんか・・・？
「意外だな、お前らはやての傍から離れそうにないのに」
「話があると言って私が呼んだ」
「ってお前、まだ何かあるのか？」
防衛プログラムは潰したからもういいんじゃないのか？ トレイターやい。
それともまだ何か問題があるとか・・・
「残念ながらそのまさかだ」
「マジかい・・・っていうかお前も人の心を読むのね」
俺の人権ってありますか・・・？ 黙秘権やプライバシーを行使したい・・・
まあ、それはさておき。
「で、その問題事って？ 今さら過ぎるから最後まで付き合う」
「そうでないとこちらも困る。まずは問題事だが・・・」
「私の方から話そう」
話す役を買って出たのは夜天の書の管理人格。
第五の守護騎士ともいえるソイツ、祝福の風リインフォース。
「夜天の書が悪意ある改編を受け、今の形になったことは知っているな？」
「ああ」
―――遠い昔、こいつらまでもが忘却してしまうほどの遥か昔の事。
主と共に様々な世界を旅し、そこでの優れた魔法を記録するだけだったストレージデバイス、夜天の書。
それが何者からかの改編を受け、今の様に暴走体の様な形になってしまった。
「防御プログラムは破壊したが、歪められた基礎構造はそのままだ」
「ってちょっとまて。じゃあ何か？ 基礎構造が防御プログラムの損失を補うために新しく防御プログラムを作るっていうのか？」
「その通りだ」
くそ、最悪のパターンだな・・・
結果的に、俺たちのしたことは単なる時間稼ぎにしかならなかったのか。
「だが、防御プログラムが止まっている今なら、夜天の魔導書を破壊することは容易だ」
「―――つまりお前は、夜天の書の完全破壊を申し出たいわけか」
「―――っ！？」
なのはとフェイトがあらかさまに辛そうな顔をしている。
その気持ちは、俺にもよく分かる―――
「―――歪められた基礎構造の修復は」
「不可能だ。管制プログラムである私の中から、夜天の書本来の姿は消去されている」
・・・実質、破壊しか手段が無いのか。
「守護騎士プログラムは切り離したから消えることは無いのだが―――そこでトレイターが話があると言ってきた」
「話って・・・っ！ 何か手があるのか！？」
「ああ」
さらりと言ってくれたなオイ！
けどこれで希望は繋がったか―――？
「で、その方法は」
「それは―――」
◇ ◇ ◇
「さて、と。じゃあちょっくら歩きますかね」
一通りの話し合いが終わって各々解散したので少々退屈だ。
守護騎士たちははやての所に戻った。
クロノとユーノ、エイミィさんとリンディさんは準備に取り掛かっている。
トレイターはリインフォースと話がしたいそうだ。
なのでここにいるのは俺、なのは、フェイトの三人・・・
なので艦内でも見学して暇つぶしといこうかね。
「陣耶くん・・・？」
「あーー、ちょっとそこまで行くだけだって。て言うかトイレにすら行くなと言うのかお前」
だからそんな怖い顔しないで・・・結構ビビるから。
まあそれも心配してくれているからだと思うと悪い気もしない。
「心配かけてごめんな。すぐ戻ってくるって」
「むー、怪しいので一緒に行く」
「私も」
「あ、あはははは・・・・」
こんな所でどんな無茶しろって言うんですか貴方たちは。
とりあえずベットから降りて部屋を出る。
廊下は相変わらず近未来的だ・・・何というか、宇宙世紀の艦内を思わせるよ。
なんかこうしてのんびりしていると、さっきまでの戦闘が嘘みたいだなー
平和平和。何か忘れている気もするが些細なこと・・・ん？
えーと、いや、重要な気がしてきた・・・
「何だっけ・・・？」
「どうしたの？」
「いや、何か忘れている」
かなりシャレにならない事だったような・・・
何だ？
と、後ろから何やらドドドドという音が聞こえた。
何だろう、お決まりのパターンが見えてくる・・・
「ぬぅぁぁぁぁにぃぃぃがぁぁぁぁぁ―――」
・・・ああ、そういやそうだった。
あいつらがいたんだっけ？ その後どうなったとか聞くの忘れ―――
「何か忘れているよバカ陣耶あああああああ！！！」
「うごふっ！？」
とんでもない衝撃が頭を襲った。
次いで傾く視界。ああ、倒れてるんだなーと気が付いた頃にはもはや手遅れ。
その勢いのまま―――
「ごふうっ！？」
「ちょ、陣耶くん！？」
「だだ、大丈夫！？」
地べたへダイブ。床と仲良くキスするハメになりました。
あと大丈夫ではアリマセン・・・
頭がズキズキするのです。とても痛いのですよハイ。
で、痛む頭を押さえて頭に衝撃・・・おそらく蹴りをかましてくれた人物を見る。
「何すんだアリサ」
「うっさいわね。あれだけ心配させといて何が忘れているよ」
「む、それは・・・すまん」
「ぬ、何か妙に物分かりがいいわね・・・まあ、良いわ」
とりあえずは許してもらえたようで安心する。
けどいきなり蹴りは酷いと思うのです。
こっちは重傷者なんだからもうちょっと労わってほしいな・・・？
「アリサちゃん、陣耶くん起きないから心配してたんだよ？」
「ちょ、すずか！」
と、遅れてすずかも顔を見せた。
ああ、無事だったんだな・・・
「私たちのせいであんな無茶したんじゃあ、とも言っていたよね」
「陣耶くんが心配のあまり泣いてもいたし」
「あんたらもか！？」
何やら軽くコントをかます四人組。アリサは顔を真っ赤にして何やらガーッ、と言っている。
それにしても、そうか・・・それは本当に悪いことしたな。
「本当にごめん・・・心配してくれて、ありがとうな」
「と、当然でしょ、友達なんだし・・・それより！ あんた怪我の方は大丈夫なの！？」
「ああ。ここのスタッフが優秀だったお陰もあって殆ど塞がっている」
「ならいいわ。けど、あんな無茶止めてよね・・・」
・・・誰もかれも、人の心配ばかりだな。
俺も人の事は言えないが、それでもこいつ等ほど他人のことを心配出来ない。
それは、正直凄い事だと思えるし、尊敬もできる。
「ごめんな・・・それにしても、まさか結界の中に取り残されるなんてな」
そしてあいつに襲われるとは思わんかった・・・
というか結界内に取り残されるって何時かの俺みたいだ。
「すずかは怪我したんだけど・・・」
「魔法って凄いねー。もう治っちゃった」
「そっか。ごめんな、助けるの遅くなって」
どっこいしょと身を起こす。
それにしても、ばれてしまったなあ。
「あの、アリサちゃん・・・」
「ん？」
なのはもまた怯えている。何時かの様に拒絶されるのではないのかと。
それでも、思い切って口を開こうとして―――
「あの、魔法のことね―――」
「ストップ」
と、予想外のセリフがアリサの口から出てきた。
「あんた達はまだ何かあるんでしょ？ 私たちはそれが終わってから改めてちゃんと聴かせてもらうから―――」
今はやるべき事をやってこい、とアリサは言った。
すずかも同じように微笑んでいる。
・・・まったく、なのは達といいこいつ等といい、どいつもこいつも人間出来すぎているよ。
清廉潔白な奴らが多すぎて汚れ役を買って出る俺は少々眩しいです。
けどまあ―――良かったじゃないか？
あいつらなら逃げることなく、真正面から受け入れてくれると思う。
本当、良い友達を持ったもんだよ。お前たちも、そして俺も・・・
◇ ◇ ◇
「ぁ、ん・・・・」
妙な気だるさを感じながら目を開ける。
最初に目に飛び込んで来たのはまっ白な天井。
覚えがあるようで覚えが無い。けど、似たような場所は知っている。
「何や、知らん天井やな・・・」
段々と頭の中がはっきりしてきた。
そや、うちは―――
「はやて！」
「ああ、ヴィータ。おはようさん」
我が家の末っ子が泣きついてくる。
みんなにたくさん迷惑かけたな・・・
「ごめんな、たくさん迷惑かけてもうて・・・」
「いいよそんなの。はやてが無事だったらそれで・・・」
よしよし、こんなええ家族を持ってうちは幸せや。
顔を上げれば、みんなも一緒になって静かに涙を流していた。
「なんや、みんな涙もろいなあ」
「主はやて・・・」
「目が覚めて、良かった・・・」
「ご無事で何よりです」
もー、みんな心配症やなあ。
ま、うちも人の事は言えんかな？
「主はやて―――」
「リインフォース・・・」
・・・やっとみんなの前に顔を出せたな。
おめでと、リインフォース。
いままで苦労してきたその時間。そこからやっと貴方は帰って来た。
せやから―――
「お帰り、リインフォース」
「―――っ、はい。ただ今、戻りました・・！」
今までありがとうな。うちらをずっと見守っててくれて。
だからその分を、これからでちゃんと応えてあげんと。
今までありがとう。
改めて、これからよろしくな―――？
◇ ◇ ◇
なのはとフェイト、それにアリサとすずかに俺を加えた五人でアースラの中を探索していた。
艦の中をよく知らない俺たちはよく知るなのはフェイトに先導して案内してもらっている。
そんな時、トレイターから念話が届いた。
（陣耶。八神はやてが目を覚ました）
（分かった。すぐそっちに向かう）
はやてが目を覚ました。
これで、準備も整ったな―――
「ジンヤ？」
「ああ。はやてが目を覚ました」
「本当！？」
吉報に全員が顔を笑顔にする。
突然の膨大な魔力行使による反動と聞いているのでさほど心配はしていなかったが、目を覚ましてよかった―――
「さて、じゃあはやての所に行くか」
「うん」
◇ ◇ ◇
病室に入ると、もう俺たち以外のみんなは集まっていた。
奥にあるベットでは、はやてが起きてこちらに笑顔を向けている。
「はやてちゃん！」
「はやて！」
なのはとフェイトがはやてに駆け寄る。
続いて、アリサとすずかも。それに倣う様に俺もはやての下に歩み寄る。
「みんなごめんな・・・心配かけて」
「いいさ。お前が無事だったならそれでいい」
これは、偽りのない本心のつもりだ。
なのはやフェイトだってそれは同じだ。
「アリサちゃんとすずかちゃんもごめんな、巻き込んでしもうて・・・」
「気にする必要ないわよ。そこの馬鹿が助けてくれたし」
「怪我もちゃんと治してくれたし」
「―――流石に馬鹿は酷くないか？」
軽く傷つくぞ。
本来ならこのまま意気揚々と語り明かしたい所だが・・・生憎そうも言ってられない。
今この瞬間の時間も惜しい状態なのだから―――
「さて、早速だがお前に話がある」
「何や？」
「夜天の書は―――このままだと破壊しなければならない」
一気にはやての顔色が変わる。
そのまま意味を確かめるように守護騎士を見渡し―――それを真実だと理解したようだ。
「何でなん！？ 防御プログラムは破壊したはずやろ！ なのに何で―――！！」
いきなりの事に動揺を隠せないはやては疑問をそのままぶつけてくる。
「それは、本人の口から聞いてくれ。リインフォース、頼む」
「ああ」
そしてリインフォースから改めて語られた夜天の書の現在の状態。
歪められた基本構造がそのままなため、遠からずに新たな防御プログラムを生成しはやてを侵食してしまうこと。
その際の危険度は今回の比ではない事に、本来の形はすでに失われているという事。
それを聞き終わった全員は等しく口を閉ざし、沈黙が流れる―――
「・・・・・・・・やったら、リインはどうなんねん」
不意に、はやてが口を開いた。
「これまでずっと辛い思いして来て、やっとそれが終わって、これからやっていう時に何で―――！！」
「はやて・・・」
泣いていた。
孤独だったはやてに突然出来た家族。
自身を幸せにしてくれたその家族を失いたくないと―――そして、辛い目にあった分幸せにしてやりたいという想い。
それが、はやてに涙を流させていた―――
「・・・手が、一つも無いわけじゃない」
「っ！？ それほんまか！？」
即座にはやてはこちらに向き直ってきた。
けどこれは、危険が伴う手段―――
「けどこれは危険な手段だ。下手をすればリインフォースがリインフォースじゃなくなる」
「―――どういう事？」
「それは私から説明しよう」
◇ ◇ ◇
「簡単だ。夜天の書の基礎構造を書き換えれば良い」
「イヤだから待て。その肝心な基礎構造の形が・・・」
「あるだろう？ ここに」
といってトレイターが指し示したのは・・・・・・自分自身。
その意味を理解するのに約数秒。
全員結論に至ったのか目を丸くしている。
つまりだ―――
「要するに、夜天の書の基礎構造を白夜の書の物に書き換えると？」
「ああ。大元は同じ物だし性質も似ている。何より私は夜天の書を元にされているからな」
なるほど。それなら夜天の書にも上手く適応してくれるかもしれない。
けど、問題はいくつかある。
「闇の書はマスターのアクセスしか受け付けないんだろ？ なら―――」
「アクセスした後は外部からでも弄り放題だろう」
「うわ、身も蓋もないことを・・・」
けどまあ、それならどうにかなるか―――？
「で、具体的な方法は？」
「手順としてはまず八神はやてが夜天の書にアクセスする。
その後、私たちで夜天の書を解析しそれをここにいるスタッフに書き換えてもらう」
つまり・・・扉をはやてが開き、俺たちが中身を取ってきて、それをこの船の局員たちに弄ってもらう、と。
なるほど、確かにそれならリスクも少ないし成功率もぐんと上がるだろう。
「だが、やはり少しの問題はある」
「って、あんのかよ」
「世の中そうそう上手くいくと思うなよ？」
・・・今までも十分上手くいっているような気がするのは気のせいか？
「それでその問題は？」
「基を同じにしているとはいえ基礎構造が全く同じというわけではない。当然、適応せずに不具合が出ることもあるだろう」
「・・・やっぱ、そうなるのね」
単純な話だ。夜天の書を黒、白夜の書を白とする。
黒の量――歪んだ部分――を減らし、その部分を白――白夜の書の基本構造――で埋めるというんだ。
当然、色はどっちつかずの灰色になる。そして、混じりきらない部分も出てくるだろうという事・・・
黒をすべて取り消そうとすると夜天の書と名ばかりの白夜の書になってしまうし、管制人格であるリインフォースを消して
しまう事になる。
難儀な話だな―――
「不具合って、具体的には？」
「そうだな・・・書の機能の一部が失われてしまったり、メモリーが消えてしまうなど様々だろう」
「・・・最悪、適応せずに崩壊か」
「ああ」
性質は似ているとはいえ、プロセスが違う。
それに白夜の書は夜天の書は対となる魔導書、磁石の両極のような物だ。
同じ磁石とはいえ正反対の性質を持つこととなった両極・・・まさにコレがそうだな。
混じりきらないどころか反発して崩壊する事もある、か・・・
どうする？
「解決策は？」
「どうにもならん。数年がかりで調整して行くしかあるまい」
特効薬があるわけでもなし―――が、消えない可能性があるだけマシか。
「―――お前は、どうする？」
全員の目が、リインフォースへと集まった―――
◇ ◇ ◇
「―――私は、その方法を試したい」
「リイン・・・」
一縷でも主の傍にいられる望があるのなら、と。
それが、リインフォースの返答だ。
「さ、後がお前次第だはやて」
「そんなもん・・・聞くまでもないやろ？」
さわやかな笑顔ではやても応える。
その眼にはもう、悲しみは無い―――
「リインがこんなにもうちを想ってくれてるんや。うちもそれに応えな」
「そっか・・・じゃあ、改めて頼めますか」
クロノたちへと向き直る。
このプランにはこのアースラのクルーの力が必要だ。
その準備をさっきまでしてくれていた。
そして、クルーの承諾は得られたのか・・・
「ええ、もちろんよ」
「さっきみんなに事情を話したら、喜んで協力してくれるって」
「技術班を中心に大急ぎで準備に取り組んでいる最中だ。安心してくれ」
・・・そっか。
みんな、人がいい人ばっかりだ。
その人の良さに、思わず笑みがこぼれる。
「みんな・・・ありがとうな」
「礼は全部終わってうまく行った時に、な？」
「うん・・・」
そんじゃまあ、一世一代のお仕事。
いっちょ気合い入れて頑張りますか！！
◇ ◇ ◇
―――12月の頭から始まった「闇の書事件」
一か月近い期間をかけて、ソレはようやっと集結を迎えようとしていた。
遥か数百年前から始まった憎しみの連鎖、終わりの無い地獄、繰り返され続けた悲劇。
少年少女達はその運命に反逆し、立ち向かって見せ、打ち勝つことで自身の明日を手にした。
終わらせたのは今まで。始めるのはこれから。
今、夜が明け―――日が昇る。
◇ ◇ ◇
結果から言えば、上手く行った。
それもかなり上等な出来で。
アースラスタッフ総動員での夜天の書の書き換えはとりあえず成功した。
防御プログラムや転生プログラムを作り出すような個所はまとめて削除、新しく白夜の書からの基盤を書き込んだ。
それでも根幹の部分までは手が出せなかったらしい。それをすると本当にリインフォースが消えてしまうとか。
更に白夜の書と夜天の書の相互関係の問題でしばらくは行動に制限もかかるらしい。
具体的には一日の活動時間、魔法制限など・・・以前のように圧倒的な力を奮うことは完全に作業が完了してからだとか。
今では俺より弱い状態らしい。
更に付け加えればちょっとしたことや何が原因で新しく不具合が生じるか分かったもんじゃないらしい。
なので定期的な検診も必要だとか・・・
そこの解決策は現在模索中である。
で、一通りの仕事を終えた俺たちは―――堤防で星を眺めていた。
「いやー、星がよく見えることで・・・」
「本当だねー。街の明かりもほとんど消えているし・・・」
ていうか、今から帰ったらなのははどんな目にあうやら・・・あ、翠屋はフル稼働中だからそれも無いか？
などと、どうでもいい事が浮かぶ位に今は安らかだ。
吹きつける風が心地よい・・・
「―――夜明けの無い世界なんて無いから、か・・・・・・」
「どうしたの？」
「いや、気に入っている曲の歌詞でな・・・そういう詞があるんだ」
「へえ・・・」
何度倒れても空を見れば答えがあるはず。
夜明けの無い世界なんて無いから――――――
俺たちは、そうやって今を勝ち取った。
何度倒れようとも、諦めずに立ちあがって、戦って、語りかけて・・・
あがらう事を止めなかったからこそ今があり、俺たちがある。
いついかなる時も俺は、俺たちは辛い運命なんて言うモノには屈しない。
立ち向かって、あがらって、反逆する。故に、俺たちは反逆者足る者である。
だからこそ、勝ち取った今を俺は誇りに思う。
これは、俺たちの生きている証なのだから―――！
「ふふ」
「ぬ、何を笑っとるかなのは」
「だって・・・陣耶くんのそんな顔、初めて見たもん」
「は？」
そんな顔って・・・笑っているのがそんなに珍しいのか？
って・・・
「なぜそうも寄って集ってくるのかね？」
「わー、ほんとに珍しー」
「ほんとだねー」
「まさかこいつのこんな顔が見れるとは・・・」
「ほうほう、結構レアなん？」
「というより、初めて」
目の前で俺の顔を覗き込んだ五人娘がやいのやいのと騒いでいる。
いやだから何がそんなに珍しいの？
「確かに、お前のそんな顔は初めて見たな」
「そうだね。少なくとも、僕たちは君のそんな笑顔は見たことが無いな」
「だーもーさっきから何じゃい！？」
本人置いてけぼりにするな！ 話についていけんだろうが！！
「まあまあ、教えてやるから落ち着け」
「む、お前までそんなこと思ってるんかいトレイター」
「それはそうだろう。なにしろ４年ぶりの笑顔だからな」
はい？ ４年ぶり？
俺４年間も笑わなかったか？ いやいやいやそんな事は無い。
「お前はな・・・この４年間、心から笑ったためしが無いんだ」
「心から・・・笑う」
・・・言われてみればそうかもしれない。
こんなに清々しい気持ちで笑うことが出来たのは・・・本当にいつ振りだろう。
けどよくそんなのが分かったな。
「なにせ４年間も半ユニゾン状態だったからな」
あ、なるほど。そりゃあ俺のことはよく分かってますよーってか。
んじゃあ、なのはたちは？
「友達だから・・・いつも笑っている時に悲しそうな影があるの、ずっと心配してたんだ」
・・・要するに、何だ。
俺はこいつらに心配掛けっぱなしだったと、そーいうことか。
「・・・ごめん」
「何で謝るの？ むしろ私は嬉しいよ。ジンヤがちゃんと笑ってくれて」
そう言って、二人は晴れやかに笑う。
ああ、本当に・・・
「ちっちっちっ、甘いで二人とも」
「うぬ？」
何いきなり人の感動に横槍入れてくれやがりますか。
左右に振られる人差し指とニヒルな笑みが嫌な予感を感じさせる・・・主に俺絡みで。
聞き返してはドツボにハマる。
ここはスルーしてほしいんだが・・・
「甘いって・・・」
「何が甘いの？ はやて」
そんな心中察してくれるような奴らじゃないよなあ・・・
純粋無垢なその心は嬉しいけどね、うん。
あ、目から何か出そう・・・
「そこは心配掛けた見返りとして何か要求せなー」
「・・・ダッシュ！！」
全力で回れ右！ そして我が家に向けで全速ダッシュ！！
俺にはまだ帰れる場所があるんだ！ こんな所で搾り取られてたまるかー！！
「おっと逃がさんでー」
「何で！？」
今俺ダッシュしたよね！？ こいつらのいる位置から結構離れたよね！？
なのに何で俺はがっちりと右腕を車椅子に乗っているはやてに掴まれているのかああああ！？
「ふふふ、知ってたか？ 大明神からは逃げられんのや」
「知りたくもなかったなそんな事！！」
ああ、俺に明日の自由は無いのか・・・
とりあえずアイコンタクトでトレイターに助けを求める。
※以下、アイコンタクトによる意思疎通
（なあトレイター、助けて）
（甲斐性見せてみろ男の子）
アイコンタクト終了
だあああああ、神は死んだ！？
元々神様なんぞ信じちゃいないが絶望した！！
く、主が他人から何かを巻き上げようとしてるんだぞ。それでいいのか守護騎士！！
あ、露骨に目を逸らしやがった・・・
「さー、なのはちゃんもフェイトちゃんも」
「えっと、それじゃあ・・・」
「私も良いかな、ジンヤ」
「裏切ったな貴様ら！？」
ええい、物欲に負けるとは何事か！！
く、こうまで悪乗りし始めると―――！
「なのはたちだけで私たちに無いってのは不公平よねー？」
「そうだね。私たちも何かしてもらおっか」
「ああもう予想通りの反応してくれるなチキショウ！！」
くそう、もういいよ・・・煮るなり焼くなり好きにして・・・・・・
「ハハハハハハハハハ、モードーデモイイヨ・・・」
「とうとう壊れたか、哀れな」
だってこうでもして現実逃避でもしないと目から何か出てきそうだもん、えぐえぐ。
「そないに落ち込まんでもええって。大したことちゃうし」
「・・・・・じゃあ何さ」
「ふふふー、じゃあこうして・・・目を瞑ってくれる？」
屈まされた後、とりあえず言われた通りに目を閉じる。
閉じる際に見えたはやてとシャマルのイイ笑顔が不吉だが・・・
で、数秒後に息を呑む気配とパシャっというシャッター音が響いた。
そこで目を開けることを許されたので開けると・・・
「・・・・なに顔真っ赤にして人を指差してくれてやがりますかそこの四人」
「だ、だだだだって」
「じじじジンヤ、いい今、は、はやてと・・・」
は？ はやてが何だって？
顔を向けると親指を天まで届けと言わんばかりに上に向かって突き立てたはやてとシャマル。
シャマルが持ってたデジタルカメラの画面をこちらに向ける。
そこにはさっき撮ったであろう写真が・・・！？
「ぶーー！ なんじゃこりゃああああ！？」
「ふはははははー！ どうやー、この完璧な構図！！」
撮られていたのは予想通り俺とはやて。位置取りとしてははやての背後から。
で、問題なのは構図で・・・
「何で俺とはやての顔が重なってるわけ！？」
「だってうちがそういう風に移動したもん」
「おかげで最高の一枚が撮れたわ♪」
「ハメたなお前ら！？」
こんなん傍から見ればキスしてるじゃねえか！？
しかし俺らは実際にそんな事はしてない。してないったらしてない。
おそらくさっき俺が目を閉じた隙に顔を至近距離に持ってきたんだろう。
で、その時にシャッターを・・・
「あ、あんたらいつの間に・・・」
「陣耶くんとはやてちゃんって・・・そうだったんだ」
「違う！ 激しく誤解だから！？」
ぬがあああああああ、さっきの俺のバカ！！ 何でこの狸の言う事に素直に従ったのか！！
おかげで周りから激しい誤解がー！？
「いやー、これで陣耶くんからかういいネタが出来たわ」
「やっぱそっちが目的かこのヤロウ！！」
「うち野郎とちゃうもーん」
ええい、ああ言えばこう言うとはこのことか！！
このままではこの先の俺の人生が！？
「く、とにかくそのデータよこせ！」
「ダーメ♪」
ああ、データが入ったカメラを旅の鏡の中に放り込みやがった！？
「ふふふ、これでどこにあるかは追えないわよね」
「ぐ・・・」
あまりにも無残な現実の前に俺は思わず膝を屈してしまう。
ああ、俺ってばこんな未来のために命がけで戦ったの・・・？ 切ない・・・
「これからよろしく頼むでー」
「こんな脅迫関係お断りだ！！」
「や、やっぱり陣耶くんとはやてちゃんって・・・」
うう、これから先俺どうなるの・・・・？
―――こうして、一つの夜が終わりを告げた。
手に入れたのはほんの小さな、ささやかな幸せ。終わることのない明日。
出会いを重ねて、力を知って、運命に立ち向かって手に入れた掛け替えのないモノ。
この世界は終わらない。
この日常は終わらせない。
独りだった少年は差しのべられた手を初めて握った。
それに後悔など無いのだから、こうやって生きていく・・・
この先に何があろうとも、少年は決して独りではないのだから―――
後書き
これにてＡ'ｓ編本篇も終了ー。
いやー、ここまで来るのに本当に長かったｗ 最初に投稿したのって何時だっけ・・・
これからはその後のお話、そしてA'sとsts間のお話に入ります。
結局リインは生存させました。さー、ちびっ子こと祝福の風二号はどうしましょうｗｗ
まーその前に機動六課の日々外伝を終わらせないと・・・
ではでは、外伝で拍手が来たので返信をば。
＞死亡ルートですかｗｗｗ ＧＪ！！
＞ifルート…これはこれで良いと思う。個人的に。
＞なんというか・・・うまく言葉にできません・・・とりあえず次回も待っているとしか言えません・・・
＞マジ凹んだ……orz
み、見事に賛否両論・・・
こーいう展開だったらどうなるだろーかという妄想が暴走してできたものなんですが・・・
書き手としても感情移入するので鬱場面は書いてて辛いですねｗ
どーなるかはお楽しみということで。間違いなくメガ姉とオレンジ博士が活躍しますがねｗｗ