「新名称、リインフォース認識。管理者権限が使用可能になります。

  ですが、防衛プログラムの暴走は止まりません。管理から切り離された膨大な力が、じき暴れ出します」

 「うん。まあなんとかしよか」

 

  なったことはしゃあないし、どうにかして止めへんとあかん。

  貴方の一人きりの夜は、私たちが終わらせるから―――

 

  目の前に夜天の書が現れる。

  それをそっと、大切に抱き締める。

 

 「ほな行こか、リインフォース」

 「はい。我が主」

 

 

 

 

  魔法少女リリカルなのはAs 〜もう一つの魔導書〜

                        第十六章「決戦 〜悪意の化身〜」

 

 

 

 

  あれから数分たった。

  目の前には巨大な闇の塊と、小さな白い光。

  おそらくは防御プログラムと夜天の書本体―――その切り離しが完全に終了したということなのだろう。

 

  だが―――

 

 「大きい、な―――」

 (ああ。あれは、今まで闇の書事件に関与してきた者たちの悪意と言っても過言ではないだろうな)

 「悪意―――」

 

  夜天の書が、何を思われて今のような形になってしまったのか。それは分からない。

  一つ言えるのは、そこには個人的な欲望―――悪意のみがあったという事だけ。

 

 「だったら、なおさら残しちゃおけないな」

 (ああ。これまで続いた戦いの連鎖を―――ここで断ち切る)

 

  決意を新たにしたところで、異変が起きた。

 

  白い光に集った四つの光、それが徐々に輝きを増しき―――やがて、光が天を貫いた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 「―――管理者権限発動」

「防衛プログラムの進行に割り込みをかけました。数分程度ですが、暴走開始の遅延が出来ます」

 「うん―――それだけあったら、十分や」

 

  私の傍に四つの輝きが灯る。

  それは、愛おしい私の騎士たちの輝き―――

 

 「リンカーコア送還。守護騎士プログラム、破損修復」

 

  小さかった光が、強い輝きを放ち始める。

  それはやがて外へと飛び立ち―――

 

 「守護騎士プログラム、破損修復完了。これで―――」

 「ん。ありがとな」

 

  確かな繋がりを、私は再び感じる事が出来た。

  ほな、そろそろ行こうか―――

 

 「おいで、私の騎士たち―――」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

  眩い輝きに思わず目を塞ぐ。

  光が収まった後、そこにあったモノは―――

 

 「あっ!」

 「あれは―――!」

 

  リンカーコアを全て蒐集され消えたはずの者たち。

  俺たちと幾度も矛先を交えた―――守護騎士ヴォルケンリッター。

 

 「ヴィータちゃん!!」

 「シグナム!!」

 

  以前となんら変わらぬ姿でそこに立つ四人の騎士。

  その姿に先ほどまでの惑いは無く、確固たる意志が見て取れた。

 

 

 「我ら、夜天の主の下に集いし騎士」

 「主ある限り、我らの魂尽きる事無し」

 「この身に命有る限り、我らは御身の下に在る」

 「我らの主、夜天の王―――八神はやての名の下に」

 

 

  呼びかけに応えるように、光が砕け一人の少女が書と共にその姿を現す。

  現夜天の書の主、そして俺たちの友達でもある少女―――八神はやて。

 

 「はやて!」

 「はやてちゃん!」

 

  呼びかけには、微笑みで応えてくれた。

  その笑顔に、胸を撫で下ろす。

 

 「ふう・・・」

 (どうした)

 「いや、勘違いが続いていないかなーと思って・・・」

 (勘違いが継続しているなら、そもそも私たちに助けは求めないだろうに)

 「それもそうか」

 

  やがて杖が天高く掲げられる。

  凛とした響きを持って、それはこの場一帯に響き渡った。

 

 「夜天の光よ、我が手に集え! 祝福の風、リインフォース―――セット・アップ!!」

 

  そして、はやての姿が変わってゆく。

  瞳は淡い蒼へ変わり、髪は白髪へと。

  騎士甲冑を身に纏い、六枚の黒い羽が現れる。

 

  色彩以外に変化が見られないところを見ると、どうやら力の方は完全に制御したようだ。

 

 「よかった・・・」

 「はやて、無事だったんだ・・・」

 

  三人して安堵の息を吐く。

  と、何やら涙ぐましい展開になっている様子。ヴィータがはやてに感極まって抱きついてるがな。

 

  なのはとフェイトも向かったので俺も習って向こう側へ移動する。

 

 「なのはちゃんとフェイトちゃん、それに陣耶くんもごめんな」

 「気にするな」

 「そんなことないよ」

 「大丈夫」

 

  他愛のない言葉のやり取り。

  けど、それが再び出来た事が嬉しい。

 

 「すまない」

 

  と、上空から声が降って来た。

 

 「クロノ、やっと来たのか」

 「色々とあってな。来るのが遅れた。さて、時空管理局執務官、クロノ・ハラウオンだ。時間が無いので簡単に説明させてもらう」

 

  クロノは闇の塊へと目を向ける。

  それは、未だ不気味に胎動を続けていた。

 

 「あそこの黒い淀み、闇の書の防衛プログラムがあと数分で暴走を開始する。

僕らはそれを何らかの方法で止めなければいけない。現在の停止の手段は二つ―――」

 

  そう言って、クロノは一つのカード・・・いや、デバイスを取り出した。

  普段使っているS2Uとは違う・・・新型だろうか。

 

 「一つ、極めて強力な氷結魔法で停止させる。

二つ、軌道上に待機している艦船アースラの魔導砲、アルカンシェルで消滅させる。

  これ以外に他にいい手は無いか、闇の書の主とその守護騎士に聞きたい」

 

  防衛プログラムの破壊、または停止―――それは、極めて難しいだろう。

  なぜなら―――

 

 「あの、前者は難しいと思います。主の無い防衛プログラムは魔力の塊のような物なので・・・」

 「凍結させても、コアがある限り再生機能は止まらん」

 

  やっぱりか・・・・となると、アルカンシェルでの攻撃だが、これは流石に・・・

 

 「アルカンシェルも絶対ダメ!! こんな所で撃ったらはやての家までぶっ飛んじゃうか!!」

 「だよなー」

 (ああ。よって却下だ)

 

  つーか、家が無くなるだけじゃなくて隣の県までぶっ飛ぶんじゃないか?

 

 「そ、そんなに凄いの?」

 「発動地点を中心に100数十キロの空間を湾曲させながら、反応消滅を起こさせる魔導砲、っていうと、大体分かる?」

 「いや、やっぱり難しいと思うぞ、ソレ」

 

  湾曲やら反応消滅やら俺たち小学生にはチンプンカンプンだぜ?

  それでも危ない事だけは分かったらしい。

 

 「あの、私もそれ反対!」

 「同じく、絶対反対!」

 「―――僕も艦長も、使いたくは無い。だが、暴走が始まれば被害はそれ以上になる」

 

  接触したモノを際限なく吸収、膨張し、無限に広がっていき―――やがては世界を喰らい尽くす。

  それが、防衛プログラムの暴走。それによる世界の終り。

  全てを喰らい尽くした後は再び転生し、また同じことが繰り返される。

 

 『はいみんな! 防衛プログラムの暴走まで15分切ったよ!! 会議の結論はお早めに!!』

 「とは言われても・・・トレイター?」

 (プログラムが勝手に逃げたからな。はっきり言って分からん)

 「私たちも、あまり役に立てそうにない」

 「暴走に立ち会ったことは、我らもあまり無いのだ・・・」

 

  正直、やるだけやってきて役立たずというのは我ながら情けない・・・

  アルカンシェルが一番手っ取り早いんだが・・・ここで撃つわけにもいかんしなあ・・・

 

 「ああーー、何かごちゃごちゃ鬱陶しいね! みんなでズバッとぶっ飛ばしちゃうわけにはいかないの!!?」

 「いやいやいや。そう簡単にいけば苦労・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぉ?」

 

  まてよ?

  ここで撃てないなら・・・・なら邪魔の物ははぎ取って・・・・

 

 「クロノや!!」

 「な、何だ?」

 「アルカンシェルはどこでも撃てるのか!?」

 「ああ! そっか!!」

 「なるほど・・・・・」

 「その手があったなあ」

 

  俺の一言に速攻で納得した三人娘。

  考える事は皆同じのようである。

 

 「どこでもって・・・・・」

 「宇宙空間」

 

  即答する。

  だって手段がこれしか見当たらないし・・・

 

 「・・・・・・・・・オイ君たち。まさかとは思うが・・・・・」

 

  珍しくクロノが冷や汗をかいている。

  いくらなんでもそれは・・・とか思ってるんだろうが、俺たちはその期待を見事に裏切って見せた。

 

 「そのまさかさ」

 「まずは、転送に邪魔な外装を全員で崩す」

 「その後、アースラの前まで転送」

 「あとはアルカンシェルで消滅させたら万事解決って寸法や」

 「・・・・・・・・・・・・・」

 

  俺たちが申し出た途方もない作戦に思わずクロノが頭を押さえている。

  まあ「暴走したプログラムと真正面から戦います」と言っているのと大して変わらないのだから仕方ないのかもしれんが。

 

 『何と言うかまあ、相変わらず凄いと言うか・・・』

 『理論上では実現可能って言うのがまた凄いんですけどね・・・クロノくん、こっちのスタンバイOK

  暴走開始まで、あと十分!!』

 「・・・実に個人の能力頼りで、ギャンブル性の高いプランだが―――まあ、やってみる価値はある」

 

  さて、いよいよ時間も無くなってきた。

  十分後には、文字通りこの世界の命運を賭けた戦いが始まるわけなのだが・・・

 

 「何と言うか、実感無いな・・・」

 『立て続けに多くの事が起きすぎたのだ。それも仕方ないだろう』

 「・・・そうだな。いろんな事があった」

 

  この一ヶ月間は、今まで俺が生きてきた中で最も濃い内容だったと思う。

  なのはを助けて、魔法と出会って、フェイトに助けてもらって、みんなと出会って・・・

  そうして知った幾つかの事と、思い出した幾つかの事。

  胸に刻んだ、俺自身の誓い―――

 

 「さて、そろそろ終わらせますかね。お前たちの旅を」

 『―――ああ。終わらせよう』

 「じゃあ説明に入るで。防衛プログラムのバリアは、魔力と物理の複合四層式。まずはそれを破る」

 「バリアを抜いたら本体に向けて、私達の一斉砲撃でコアを露出」

 「そしたらユーノくん達の強制転移魔法でアースラの前に転送!」

 

  あとはアルカンシェルさえ当てれば全てに決着が着く。

  闇の書を闇の書たしらめたモノの―――終焉だ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

  大まかな内容は決まった。今は各人のポジション決めを行っている。

  そんな中、僕はある人物へとチャンネルを繋げた―――

 

 「―――見えますか、グレアム提督」

 『ああ。良く見えるよ』

 

  繋げた先は、今グレアム提督が監禁されている管理局本部。

  今この瞬間の映像が、リアルタイムでそこに送られている。

 

 「闇の書は、呪われた魔導書でした。その呪いは幾つもの人生を喰らい、それに関わった多くの人たちの人生を狂わせてきました。

  アレのお陰で、僕も母さんも、他の多くの被害者遺族も、こんなはずじゃ無い人生を、進まなきゃならなくなった」

 

  もしアレが存在しなければ、もしアレに関わらなければ―――そんな気持ちは、きっといつまでも心の片隅にある。

  それは失ってしまったモノがあまりにも大きすぎたから。とても大切なモノだったから―――

 

 「それはきっと貴方も、リーゼ達も―――けれど、無くしてしまった過去は、変える事ができない」

 『Start up

 

  氷結の杖が起動する。

 

  そう。もう変えられないからこそ、戻れないからこそ―――僕は進むと決めた。

  今を精一杯に生きて、少しでも多くの人に笑ってほしいから―――辛い運命は、もうごめんだ。

  もしも、運命が絶望でしかないのだというのなら―――そんなモノには反逆する。

  未来は、決して悲しいだけじゃないから。

 

 「だから―――今を戦って、未来を変えます!!」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

  ―――暴走開始まで、あと二分を切った。

  闇はその胎動を強め、蠢きはじめている。

 

  もうすぐに、俺たちはアレと戦う事になる―――

 

  少し、怖いっていう気持ちはある。もしも、もしもアレを倒せなければ―――?

  この世界に生きる人たちが、全て死に絶える事になる。

  今この瞬間、全ての人の命を背負っていると思うと―――流石に怖くはなった。

 

 「―――陣耶くん?」

 「大丈夫?」

 

  なのは達が声をかけてきた。また顔に出ていたのだろうか。

 

 「いや、大丈夫さ」

 「ホンマか〜? ビビって失敗して全部おじゃん、なんていうのは御免やで」

 「・・・・言ってくれるな、オイ」

 『こうまで言われてまだ怖気づいているようなら情けないぞ?』

 

  あーー、なんか妙なやる気が出てきた。

  絶対あいつを潰しちゃる。

 

 「えっと、陣耶くん? 何か妙にやる気が滲み出ていて怖いよ?」

 「ええやんなのはちゃん。男の子はこれくらい気概は無いと・・・・っと、そうや。シャマル」

 「はい。三人の治療ですね。クラールヴィント、本領発揮よ」

 『Ja

 

  魔法陣が展開し、優しい緑の風が吹き始めた。

  それは俺たちを包みこみ、瞬く間に傷を癒していく―――

 

 「静かなる風よ、癒しの恵みを運んで」

 

  回復魔法、“静かなる癒し”

  傷の治療、体力および魔力の回復、さらには防護服の修復までこなす万能型の回復魔法。

  それにより、先ほどまでの戦闘で負った負傷、および消費した魔力がほぼ全快した。

 

 「湖の騎士シャマル、風のリングクラールヴィント。癒しと補助が本領です」

 「ぁ、凄いです!」

 「ありがとうございます、シャマルさん!」

 「にしても、いくら優秀な回復魔法とはいえここまで消耗した状態から三人もほぼ完璧に回復させるとは・・・」

 

  うーん、守護騎士の名はだてじゃ無いということだな。

 

 「あたし達はサポート班だ。あのウザいバリケードを上手く止めるよ」

 「うん」

 「ああ」

 

  これから始まる戦いに向けて、それぞれ気合いが入る。

  そして、ついにその時は来た―――

 

 

 

 『暴走臨界点到達!! みんな、来るよ!!』

 『!!』

 

 

 

  それまで胎動を繰り返すのみだった闇に変化が現れた。

  周囲の海面から次々と闇が噴き出してきた。

 

 「始まる―――」

 「夜天の魔導書を、呪われた魔導書と呼ばせたプログラム―――闇の書の、闇」

 

  闇が巨大な球体に変貌する。

  そして、その中から巨大な異形が姿を現した。

  黒い翼、六本の脚、鋭い牙の覗く大きな口。その頭頂部には白髪で紫色の体色の女性が見える。

 

 「――――――」

 

  その不気味な姿とは裏腹に遠く透き通るような声が響く。

  それを、俺たちは持てる最大の闘志を持って応えた。

 

 

  ―――さあ、終わりを始めよう

     今度こそ、因縁を終わらせるために―――

 

 

 「チェーンバインド!!」

 「ストラグルバインド!!」

 

  アルフとユーノ、二人が放ったバインドが周囲の触手を縛り上げ、切断する!!

 

 「縛れ、鋼の軛!!」

 

  続いて、ザフィーラが吠える。

  放たれるのはベルカ式の拘束魔法、鋼の軛。

 

 「でええやあ!!」

 

  切断能力もあるソレが、触手を一気に叩き斬る―――!!

 

 「ァ―――!」

 

  痛覚はあるのか、アレからは悲痛な叫びがあがる。

  確かに怯んでいる。なら、この隙に――――――!!

 

 「ちゃんと合わせろよ、高町なのは!!」

 「っ、ヴィータちゃんもね!!」

 

  お、やっと名前が言えるようになったのかヴィータ。

 

  バリアを破る攻撃班の第一波はヴィータとなのはだ。

  物理と魔力の複合四層式、それを順に破っていく。

 

 「鉄槌の騎士ヴィータと、鉄の伯爵グラーフアイゼン!!」

 『Gigantform

 

  カートリッジがロードされ、グラーフアイゼンの形状が変化する。

  ただ純粋に相手を叩き潰すことに特化した形態。

  俺も一度だけ喰らったことのある、巨人の名を冠した“ギガントフォルム”

 

 「轟天―――爆砕!!

 

  グラーフアイゼンがヴィータを遙かに超える大きさまでに巨大化する。

  その大きさは、あの異形に匹敵するほどだ。

 

 「ギガント、シュラーーーーーク!!!」

 

  巨人の鉄槌が振り下ろされる。

  振り下ろされたソレは凄衝撃を周囲にもたらすと共に、奴のバリアを一層砕いた―――!!

 

 「高町なのはと、レイジングハート・エクセリオン―――いきます!!」

 『Load cartridge

 

  光の翼が展開し、先端に魔力が収束する。

  だが奴も黙ってはいなかった。未だ健在の触手を使い、なのはを攻撃しようとする。

 

  だが、決定的に遅い。

 

 『Barrel shot

 

  より早く放たれた不可視のバインドが迫りくる触手ごと巨体の動きを封じる。

 

 「ブレイク―――!」

 

  更に魔法陣が展開され、周囲には四つの魔力が収束する。

  それら一つ一つが一級の威力を持った砲撃魔法。それがまず放たれる。

  解き放たれた四連の光はバリアに衝突するものの、撃ち破るには至らない。

  だが、まだなのはの攻撃は終わってはいない。

 

 「シューート!!」

 

  五つ目の光が解き放たれた。

  それは他の光とも合わさり、強固なバリアを打ち破る―――!!

 

 「次、シグナムとテスタロッサさん!!」

 「―――剣の騎士、シグナムが魂。炎の魔剣レヴァンティン」

 

  シグナムの愛剣が鞘から引き抜かれ、鋭い輝きを放つ。

 

 「刃の連結刃に続く、もう一つの姿―――」

 

  柄尻と鞘の口が接続され、カートリッジが装填される。

  すると鞘と剣が光を放ち、その姿を変えた。

 

 『Bogenform

 

  一つの弓と化したレヴァンティン。

  再びカートリッジが装填され、一本の矢が現れた。

  触手がシグナムの邪魔をしようと伸びてくる。

  だが、シグナムはそれを全く意に介さない。

 

 「翔けよ、隼!!」

 『Sturmfalken

 

  矢に魔力が収束し光を放つ。

  限界まで引き絞られ、解き放たれたソレは一直線に対象へと向かう。

  大気を貫き、尚加速するソレを躱す術は無い。

バリアへと衝突したソレは大規模な爆発を起こしバリアを完膚なきまでに破壊した―――!!

 

 「フェイト・テスタロッサ、バルディッシュ・ザンバー―――いきます!!」

 

  カートリッジが装填され、巨大な刃が降り抜かれる。

  振り抜かれた刃からは衝撃波が発生し、触手を簡単に斬り払った。

 

  そして、バルディッシュが天高く掲げられる。

 

 「撃ち抜け、雷神!!」

 『Jet Zamber

 

  天空より雷が舞い降りる。

  それを纏った刃が文字通りジェットの速さで対象を打ち抜かんと伸びてゆく。

  それはバリアを容易く切り裂き、無防備になった巨体を容赦なく両断した―――!!

 

 「ァ――――――ァ―――!!」

 

  新たに触手のような物が出現し、魔力がチャージされてゆく。

  しかしそれは、はやての守護銃が尽く防ぐ。

 

 「盾の守護獣、ザフィーラ! 砲撃なんぞ―――撃たせん!!」

 

  海中より鋼の軛が砲撃を放とうとした触手を刺し貫き、切り裂いてゆく。

  ダメージが大きいのか、巨体の動きは止まった。

 

 「はやてちゃん! 陣耶くん!」

 「よし、やっと出番だ!」

 「思いっきりいくで!!」

 

  それぞれ魔法陣を展開する。

  さらに上空にも巨大な魔法陣が展開され、魔力が高まっていく。

 

 「彼方より来たれ、やどりぎの枝。銀月の槍と成りて、撃ち貫け!!」

 「輝け、空に瞬く十字の星よ。その輝きを持ちて、彼の者を切り裂け!!」

 

  空に白い光が複数灯る。

  それと同時に、奴の頭上に巨大な十字の光が出現する。

 

 「石化の槍、ミストルティン!!!」

 「グランド―――クロス!!!」

 

  放たれた槍が巨体を貫き、凄まじい勢いで石化させてゆく。

  そしてそれを、俺が放った刃が十字に切り裂いた。

 

  石化した部分から崩れていく防衛プログラム。だが、その再生速度はそれよりも尚早く自身の外装を再生してゆく―――

  崩れた部分は、また再生して新たな外装が埋めてゆく。

 

 「うわ、ぅわぁ・・・」

 「何だか、凄い事に」

 

  もうすでに原型なんか留めていないな。

  新しく生えてきた頭なんか某デジタル生物の完全体みたいな顔だし・・・

 

 『やっぱり、並の攻撃じゃ通じない! ダメージを入れた傍から、再生されちゃう!!』

 「だが、攻撃は通っている! プラン変更はなしだ!!」

 

  クロノが新たに手にしたデバイスを構える。

  あの魔法構成から見て・・・氷結魔法か。

 

 「いくぞ、デュランダル」

 『OK, Boss

 

  冷たい風が吹き始める。

  それは、海すら凍らせ始めた。

 

 「悠久なる凍土。凍てつく棺の内にて、永遠の眠りを与えよ―――」

 

  遥か海平線までもを、巨体ごと凍結させていく凍結魔法。

  瞬く間に巨体は凍りついていき、海は見渡す限りが氷河となる。

 

 「凍てつけ!!」

 『Eternal Coffin

 

  そして、全てが凍結した。

  だがまだ終わらない。シャマルの言った通り、凍結してもすぐに活動を再開し始めた。

 

  しかしその動きは鈍い。

  チャンスは――――――今!!

 

 「いくよ。フェイトちゃん、はやてちゃん、陣耶くん!!」

 「うん」

 「了解や」

 「派手にいくぞ」

 

  未だ動きが鈍い防衛プログラムを四方から取り囲む。

  これで、決めてやる!!

 

 『Starlight Breaker

 『Grand Chariot

 

  各々の魔法陣が展開し、これまでにないほどの魔力が高まってゆく。

 

 

 「全力全開!! スターライト―――!!」

 

 

  流れ星のように星が集う。

  あらゆる害悪を撃ち抜く眩い輝きが収束する。

 

 

 「雷光一閃!! プラズマザンバー!!」

 

 

  天空を引き裂き、雷鳴が轟く。

  紫電を纏った刃がより巨大な雷を孕み、轟雷が轟く。

 

 

  はやては静かに瞑目を取っている。

  それは、遥か昔に存在した、まだ何の害も無かったソレへの祈りか―――

 

 

 「っ―――、響け終焉の笛!! ラグナロク!!」

 

 

  ラグナロク―――それは神話に出てくる神々の大戦、黄昏。

  今まさに神話を再現せんと、光が収束する。

 

 

 『―――これで、終わるのだな』

 「ああ―――けど、同時にこれは始まりだ」

 『始まり―――?』

 「ああ。俺たちのこれからを、明日を始めるんだ。そのために―――!!」

 

 

  目の前に魔法陣が展開する。

  ベルカ式の魔法陣が六芒星のように重なった円形の魔法陣。

  そのそれぞれの頂点と中央に魔力が収束してゆく。

 

 「七つの星に裁かれよ―――グランシャリオ!!」

 

 

 

  輝きが極大に肥大化する。

  臨界点にまで達した膨大な魔力。

  それを今―――解き放つ!!

 

 

 『ブレイカーーー!!!!』

 

 

 

  解き放たれた四つの極光が防衛プログラムを襲う。

  光はその膨大な魔力を持って巨体を呑み込まんと迫り―――

 

 

 「ッ―――ッッ――――――!!!」

 

 

  防衛プログラムは、それを膨大な魔力波によって迎え撃った。

  巨大な魔力と魔力の衝突で、空間が揺れる―――

 

 「ぐっ、くうううううう!!」

 

  さすがに、そう簡単にはくたばってはくれない―――!!

  けれど―――!!!

 

  カートリッジをロードし、さらに魔力を叩き込む。。

 

 「いい加減に―――!!」

 

  更に魔力が加速する。

 

 

  今まで多くの命を喰らって来たんだ。だから、いい加減―――!!

 

 「くたばれえええええええええええええええ!!!」

 

 

  勢いを増した極光は魔力波を押し返し、それすらも巻き込んで巨体に迫る。

 

  そして―――光が、防衛プログラムを呑み込んだ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

  ―――一陣の風が吹く。

  俺達の総攻撃を受けた防衛プログラムは、もはやその見る影もないほどまでに破壊されていた。

 

  しかし、放っておけばすぐにでもあれは再生する。

 

 「転送班!!」

 「本体コア、露出―――捕まえ、た!」

 

  シャマルが旅の鏡を使って本体コアを確保した。

  後は―――!!

 

 「長距離転送!!」

 「目標、軌道上!!」

 

  大型の転送魔法が展開される。

  それは防衛プログラムを今まさにアースラの目の前、衛星軌道上にまで飛ばそうとし―――

 

 

 『転送―――!!』

 

 

 

 

 

 

  だが、それは―――

 

 

 

 

 

 

  ドクンッ―――

 

 

 

  一つの鼓動に、打ち消された。

 

 「なっ!?」

 「転送魔法が、消えた―――!?」

 

 

  どういうことだ! さっきまでは確かに転送魔法は起動していた!

  それが急にばらばらに分解されたかのように――――――まてよ・・・

 

 「トレイター。お前、まさかとは思うが・・・」

 『ああ。過去に一度だけ蒐集されたことがあるな。まだ目覚めて間もない頃か・・・』

 「じゃああれは―――!!」

 『間違いなく、高速学習機能だろうな』

 

  そういうことか・・・

 

  高速学習機能はバインドや転送系には大きな対抗手段になりえる。

  攻撃魔法は純魔力や発生した現象をぶつけてくるので打ち消すことはできない。

  だが、転送やバインドなどのプログラム系統ならば話は別だ。

  高速学習機能を使ってプログラムを解析、割り込みをかければそれで終わる。

 

 「まったく、最悪だな―――」

 『まさか、こんな形でツケが廻ってくるとはな・・・』

 

  一度転送に失敗した以上、もう一度転送をしている時間は無い。

  奴は、もう再生を始めたのだから―――

 

 「・・・・何、コレ」

 「何か―――怖い」

 

  コアが闇に包まれる。

  周囲の残骸おも巻き込んで肥大化したソレは、突如収縮し始めた。

 

  だが、そこから感じる魔力は衰えを知らず、むしろ密度を増していっている―――

 

 「これは―――」

 『学習機能―――私達との戦闘に適した姿を取るつもりか』

 

  そう、奴は学んだんだ。

  巨体では俺たちにやられてしまうという事を。

  だから、そうならぬよう、相応しい形を取ろうとして―――

 

 「マズイな・・・」

 

  だとすれば、本当にマズイ。

  あれは巨体だからこそ成し得た作戦。それが―――よもや人型までのサイズになってしまうと―――

 

 

  闇が、蠢いた―――

 

 

 「!」

 

  闇を割って現れたソレは、先ほどとはまた違う形を取っていた。

  まず、サイズは人型のそれになっている。

  筋肉質の黒色の肉体。30センチはあろうかという鋭い爪。毛のののような手足。爛々と禍々しく輝く四つの紅い眼。

  背面部からは尻尾がのぞき、頭部には角が生え、禍々しい翼を持った―――まるで、悪魔のようなその姿。

 

 「―――――――――」

 

  感じ取れるものは、底の無い殺意と憎悪。

  圧倒的なまでの、負の感情―――

 

  そのプレッシャーに、体が自然と恐怖を覚えた。

 

 「っ、だとしても―――!!」

 

  震える体を押さえて、剣を構える。

  ここで、負けるわけにはいかない―――!!

 

 「俺たちは負けない―――生きるために、お前を倒す!!」

 「――――――ァ」

 

 

  悪魔は、ただ俺たちを嗤っていた―――








   Next「終局 〜七星剣〜」

   俺たちは生きるんだ! 明日という自分を掴み取るために―――ドライブ・イグニッション!!








   後書き

   ふう、ということでvs闇の書の闇なのですが・・・RPGよろしく第二形態に移行w 姿はガリューが凶悪になったイメージでww

   ラスボスにしてはあっけなさすぎたのでもうちょっと暴れさせたいなーと思ったらこんな事に・・・

   次回は第二形態が大暴れするぞー。しかし所詮やられ役。次の話で決着かな?

   ともあれ、後二、三話でA's本編も終了。その後は後日談という形を予定中・・・


   あとはまた出てきた新魔法の解説ー

   前回説明してい無かったディバインセイバーもここで解説。


   ディバインセイバー

   刀身に魔力を込め、それを斬撃として放つ近代ベルカ式の遠距離切断型魔法。レーザーみたいなのが飛んで行く。

   切断能力があるのはその先端のみで、あとは全て純魔力。切断を逃れたら次は砲撃もどきを喰らう事になる二段構えの魔法。

   もうぶっちゃけ某騎士王の持つ聖剣。


   グランドクロス

   対象の上空から切断能力のある巨大な十字光を放つ古代ベルカ式空間攻撃魔法。

   が、発動が結構遅く効果範囲も極めて狭いから当てにくい。しかし当たれば必殺の威力を持つ。


   グランシャリオ

   古代ベルカ式円形魔法陣から放たれる七連魔力砲。防御関連の魔法を全て貫通する特殊効果を付与されている。

   威力で言うなら陣耶の現時点で使える魔法の中ではダントツの威力を誇る。

   なので今回はなのは達と共に巨大な防衛プログラムを破壊するのに使われた。

   「最初から使えよ!」と思った人。バリアなどを抜いた後はどうしても威力が落ちるので、やっぱりバリアを抜いた後でないと有効な

  ダメージを与えられないという・・・








作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板

に下さると嬉しいです。