―――白い

  ただ白が広がるだけの空間。ここにはおそらく、何も無い。

  虚無という名の白が満ちた世界・・・

 

 

 

  ここはどこだ?

 

 

 

  漠然とした疑問。

  自身がなぜここにいるのか、その理由がまったく分からない。

 

 

 

  ―――意識が白に埋められていく

 

 

 

  深いまどろみが襲ってくる。

  瞼が、重い。

 

 

 

  どうしようもなく、眠い―――

 

 

 

  堕ちていく意識の中で・・・・

  白の中で、何かを見た。

 

 

 

  それは、遠い日の記憶―――

 

 

 

 

  魔法少女リリカルなのはAs 〜もう一つの魔導書〜

                         第十三章「絶望の聖夜」

 

 

 

 

 「ディアボリック・エミッション―――闇に、染まれ」

 「光よ撃ち抜け―――ディバインバスター」

 

  解き放たれる二つの魔法。

  闇の塊が空間を呑み込み、白銀の閃光がそれを押し返す。

 

 

  だけど、それはその人だけに言えること。

 

  闇の塊は周囲の空間を全て呑み込もうと膨張していく。

  当然―――至近距離にいた私たちも例外ではない。

 

 「広域型!?」

 「っ、フェイトちゃん!!」

 

  防御の薄いフェイトちゃんならあれだけでも墜される!

  装甲が余計薄いソニックフォームの状態の今は余計に危ない!

 

  とっさにフェイトちゃんの前に出てシールドを展開する。

 

 『Round shield

 

  フェイトちゃんを守るためにも大きめに展開する。

  次いで、大きな衝撃が襲ってきた。

 

 「うっ、くうう・・・・!!」

 

  重い―――! 少しでも気を抜けば、すぐにでも破られそう―――!!

 

  けれど、次の瞬間には闇とは全く別の―――白銀の閃光が視界の半分を覆った。

  闇の中であの人―――白夜の書さんはディバインバスターでこの魔法を押し返していた。

  現に、あの人の所だけ魔法が及んでいない。

 

  威力は拮抗しているようで激しい衝撃が辺りを震わせる。

 

 

 

  そして、大きな爆発が私たちを襲った―――

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

  ―――なのは達が交戦している場所から少し離れたビル街。今僕はそこを飛んでいる。

 

  (この辺りの筈なんだが―――)

 

  目を凝らしながら一つ一つビルを確かめていく。

  そして―――

 

 (いた―――!)

 

  目的の奴らが見つかった。

 

 

  仮面の男。

  この闇の書事件に突如介入してきた謎の二人組。

  それが今、僕に気づく様子もなく会話している。

 

 「持つかな? あの二人は」

 「暴走開始の瞬間まで、持ってほしいな」

 

 

  ―――少しばかり、ためらいがある。

 

  真実を知ることが、少し怖い。けれど―――

 

 

  あらかじめ用意していた魔法を、発動させる。

 

 「―――っ!?」

 「これは―――!?」

 

  突然の拘束。

完全に不意を突くことができたおかげか、二人は抵抗するがいつものような余裕がない。

 

 「ストラグルバインド―――」

 『っ!?』

 「相手を拘束しつつ、強化魔法を無効化する―――あまり使いどころの無い魔法だが、こんな時には役に立つ」

 「っ! ぐああああああああああああ!!?」

 「―――そして、変身魔法も解除する」

 

  目の前で青の光が舞い、仮面が落ちる。

  そこにいたのは、紛れもなく―――

 

 「クロノ、こんのぉ・・・!」

 「・・・こんな魔法、教えた覚えてなかったけどなあ」

 「一人でも精進しろと教えたのは、君たちだろう。アリア、ロッテ・・・・・」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 「―――相変わらず、その学習機能は驚異的だな。砲撃の適性があるわけでも無いだろうに」

 「威力は半減だ。先ほどの攻撃とて最低限必要な防御をこなしたにすぎん」

 「だが、それでも脅威であることに変わりはない」

 

  そして、羽ばたく。

 

 

  遥か空へと舞い上がった二人は、もはや互いしか認知していない。

  互いの意識は、ともに互いの打倒にのみ注がれている。

 

 「私は主の願いを―――愛しき主語騎士たちを傷つけた者たちを、破壊する」

 

  結界が発動し、街を覆い尽くす。

  それは撤退を許さない物。これよりこの街は、外界とは隔絶されたものとなる。

 

 「そうはさせん。私が―――お前を止めるのだから」

 

  白の魔力が迸る。

  それは眩く、月のように白く輝く。

 

 「いくぞ―――」

 「来い―――」

 

 

  そして、黒と白の閃光が空を奔った。

 

 

  ここに―――決戦の幕は開いた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 「・・・・・」

 

  空を見上げる。

  視線の先には二つの閃光。

  まばゆい光のそれは魔力であり、それを放つ人たちは今戦っている。

 

 

  はやてちゃん、陣耶くん・・・・・

 

 

  何で、こうなったんだろう。

  何で―――あんな悲しい眼をしているのかな。

 

 「なのは!」

 「フェイト!」

 

  と、私たちを呼ぶ声が聞こえた。

 

 「ユーノくん、アルフさん!」

 

  ユーノくんとアルフさんがこっちに飛んできていた。

 

 「大丈夫かい二人とも」

 「うん、なんとか。でも―――」

 「この結界―――」

 「前と同じ、閉じ込めるやつだね」

 

  これで私たちは籠の中の鳥。脱出することもままならない。

  いや、陣耶くんを置いて脱出するつもりなんて毛頭ないけど。

 

 「今、クロノが対策法を探している。援護に向かっているんだけど、まだ時間が―――!」

「それまで、私たちで何とかするしかないか」

 「―――」

 

  もう一度、戦っている人たちを見る。

  そこには変わらない、哀しい眼――――――

 

 「・・・なのは」

 「! っ、大丈夫。やろう!」

 

  あの人たちを止めないと、きっととても多くの人が悲しむ。

  それはたぶん、あの人たちも一緒。

 

 

  だから―――

 

 「あの人たちを、止めよう―――!」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 「リーゼ達の行動は、貴方の指示ですね。グレアム提督―――」

 

  ただ静かに、事実だけを確認する。

  グレアム提督は、変わらない表情でこちらを見ている。

 

 「違うクロノ!」

 「あたし達の独断だ! 父さまには関係ない」

 

  けれどロッテ、アリア。

いくら庇っても、グレアム提督は他人に罪を着せるような人ではない。

 

 「ロッテ、アリア、いいんだよ。クロノはもう、あらかたの事は掴んでいる。違うかい―――?」

 「・・・・・十一年前の、闇の書事件以降―――提督は、独自に闇の書の転生先を探していましたね」

 

  空中モニターを操作して資料を表示する。

  映し出されたのは―――今回の事件の鍵を握る人物たち。

 

 「そして、発見した。闇の書の在り処と、現在の主―――八神はやてを」

 

  それはおそらく、もうずいぶん前の事だろう。

 

 「しかし、完成前の闇の書と主を抑えても、あまり意味はない。

主を捕らえようと、闇の書を破壊しようと―――すぐに転生してしまうから」

 「うん」

 「だから干渉しながら、闇の書の完成を待った。その最中に発見したもう一つの魔導書とその主―――」

 

  最近知り合って共に戦うようになった者。

  異常なまでの成長速度を見せたあの―――

 

 「皇陣耶と、白夜の書―――」

 「・・・知っていたんだね」

 「僕も最初は、闇の書の事を調べていましたから。その時の古い文献に―――」

 「そうか―――」

 

 

  白夜の書―――

 

  夜天の書が闇の書とされ、その脅威を奮い始めたころ―――それに対をなす物としてもう一つの魔導書が作られた。

  それが白夜の書。

  闇の書のように相手からリンカーコアを吸収してページを増やすのではなく、自身で学習することによってページを増やしていく。

  当時の闇の書には、すでに膨大な魔法データが蓄積されていた。それに対抗するためだ。

  そのための機能が高速学習機能。

  あらゆるものを高速で解析、学習しそれを自身の物とする。

  ゆえに、一度見てしまえばどんな魔法だろうが見事に再現して見せるだろう。

  それも本人の魔法資質によるが―――

 

  そして、闇の書に対抗するために作りだされた白夜の書の目的―――

  当然のこと、闇の書の完全破壊。

 

 

 「だけど、白夜の書単体では限界がある。現に今まで何度か交戦したという文献がありましたが、そのどれもが時間切れ」

 

  つまりは、闇の書の暴走。

  暴走してしまったら最後、全てが終わる。

  世界は闇の書に取り込まれ、消滅する。

  そうなる前に、白夜の書は転生を行ってきた。

 

  ようするに実力が拮抗している。だからこそ短時間での決着もつかない。

 

 「だからこそ、そのための手段も探した―――見つけたんですね。闇の書の、永久封印の方法を」

 「―――両親に死なれ、体を悪くしていたあの子を見て、心は痛んだが・・・運命だと思った。

  そして、陣耶くんを見つけた時もそう―――孤独な子であれば、それだけ悲しむ人も少なくなる」

 「あの二人の父親の友人を語って、生活の援助をしていたのも―――提督ですね」

 

  よく考えればそこからおかしかった。

  普通、いくら故郷の世界だからといって人が死んだという情報はここには入ってきにくい。

  それが管理街の世界であればなおさらだ。

 

 「永遠の眠りにつく前くらいせめて、幸せにしてやりたかった―――偽善だな」

 「封印の方法は闇の書を主ごと凍結させて、次元の狭間か氷結世界に閉じ込める。そんな所ですね」

 「そう。それならば、闇の書の転生機能は働かない。上手くいけば、その隙に白夜の書が闇の書を完全に破壊する」

 「っ・・・」

 

  けれど、それじゃあ―――

 

 「これまでの闇の書の主だって、アルカンシェルで蒸発させたりしてんだ! それと何にも変わんない!」

 「クロノ、今からでも遅くない―――あたし達を解放して。凍結が掛けられるのは、暴走が開始する数分だけなんだ」

 「その時点ではまだ、闇の書の主は永久凍結をされるような犯罪者じゃない―――違法だ」

 「そのせいで! そんな決まりのせいで、悲劇が繰り返されてんだ。あんたの父さんだって、それで―――!!」

 「ロッテ」

 

  ・・・・・もう、あまり時間はない。

  闇の書の暴走までもうあとわずかな時間しかないだろうし、何よりみんなが心配だ。

  何もできないかもしれないけど―――行かないと。

 

 「・・・法以外にも、提督のプランには問題があります。まず、凍結の解除はそう難しくないはずです。

  どこに隠そうと、どんなに守ろうと、いつかは誰かが手にして使おうとする」

 

  僕だって、そんな時期はあった。

  ただひたすらに、がむしゃらに力を求めた時期が・・・けど、

 

 「怒りや悲しみ、欲望や切望、そんな願いが導いていしまう―――! ・・・封じられた力へと」

 

  執務官の仕事をしているうちに、そんな場面は何度も見た。

  その悲しさも、虚しさも―――

 

 「―――現場が心配なので、すみません。一旦失礼します」

 

  部屋を出ようと扉へ向かう。

 

 「クロノ」

 「はい」

 

  が、呼び止められた。

  何だろうか。

 

 「アリア、デュランダルを彼に」

 「父さま―――」

 「そんな」

 「私たちに、もうチャンスはないよ。持っていたって役に立たん」

 

  そうして、一枚のカード・・・デバイスを渡された。

  白いカードの中心に菱形の蒼い宝石。

 

 「どう使うかは、君次第だ」

 

  グレアム提督なりの励ましだろうか。

  これは、このデバイスは―――グレアム提督たちが切り札として用意したであろう物。

 

 「氷結の杖、デュランダルだ」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

  曇天の空の下で、その矛先を交える影が二つ。

  それを―――

 

 「はあ!」

 「ふっ!」

 『!』

 

  ユーノくんとアルフさんのバインドが捕らえた。

 

 「・・・砕け」

 『Break up

 「この程度―――」

 

  っ、砕かれた。けど―――

 

 『Plasma smasher

 『Divine buster. Extension

 

  こっちの準備はもう終わっている!

 

 「ファイア!!」

 「シューート!!」

 

  二つの閃光が放たれる。

  それは瞬く間にあの人たちに接近して―――

 

 「盾」

 『Panzerschild

 「ラウンドシールド」

 『Round shield

 

  それは片手で容易く止められた。

  まったく動じることなく、こちらを見むきもしないで・・・

 

 「刃もて、血に染めよ―――」

 『Bltiger Dolch

 「光来りて、刃となれ―――」

 『Leichte Klingen

 「!!」

 

  紅い短刀と光る短刀が出現した。これは―――

 

 「穿て、ブラッディーダガー」

 「切り裂け、ライトブレイズ」

 

  打ち出され、迫る短刀。

  その半分は互いが相対する者に、その半分は私たちに迫ってきた。

 

 「くう!」

 

  とっさに防ぐけど、爆発で吹き飛ばされた。

  あの人たちは、私たちなんて眼中にない。

  今は、互いしか見えていない―――

 

 「?」

 

  と、魔法陣が展開された。

  私たちが主に使う、ミッドチルダ式の魔法陣。

  そして―――

 

 「咎人達に、滅びの光を―――」

 「星よ集え。全てを撃ち抜く光となれ―――」

 「あれは―――!?」

 「まさか―――!?」

 

  収束する魔力。

  集う魔力がまるで星のように光るその様。

  あれは、まさか―――!

 

 「スターライト、ブレイカー・・・・・!!」

 

  驚愕で声が出ない。

  まさか、そんな―――

 

 「っ、アルフ、ユーノ!!」

 「うん!」

 「あいよ!」

 

  いち早く、ユーノくんとアルフさんが退避して行く。

  そして私も、フェイトちゃんに抱えられてその場を離れていた。

 

 「え、ちょ、フェイトちゃん、こんなに離れなくても―――」

 「至近で喰らったら、防御の上からでも落される! 回避距離をとらなきゃ―――!!」

 

  ・・・えっと、あれ? そんなに物騒な魔法だったかなあ。ディバインバスターのバリエーションのはずじゃあ・・・・

 

  そうしている内にも、二つの星はその輝きを強めていく。

  それに比例するように徐々に大きく、大きく。

 

  確かに、あれをまともに受けたら落とされるかも・・・

 

 『左方向300ヤード、一般市民がいます』

 『同じく』

 「ええっ!?」

 

  ここはいま結界で封鎖されている筈なのに・・・何で!?

  けど、このままじゃあ巻き込まれてしまう!

 

 「フェイトちゃん!」

 「うん。バルディッシュ」

 『距離80、70、60・・・』

 

  早く見つけないと。普通の人が魔法なんて受けたら・・・それもスターライトブレイカーなんて・・・

 

 『18、17、16・・・』

 「なのは、この辺で・・・」

 「うん」

 

  フェイトちゃんの手が離れ、重力に従って体が自由落下する。

  着地の勢いを止めるためにアスファルトを滑り、体にブレーキを掛ける。

 

  物凄い煙が上がったけど、摩擦熱は全く無かった。

今更だけど、バリアジャケットって凄いなあ・・・

 

  空を見上げる。

 

 「―――っ」

 

  二つの星は、致命的なまでに肥大化していた。

  幸いなことにあの二つの星は私たちを狙ってはいないけど闇の書さんは広域型。

  魔力拡散による被害が及ばないとも限らない。

 

 『18、20』

 「えっ?」

 

  近づいたり離れたりを繰り返している・・・近くにいる。

  砂煙の中、目を凝らして周りを見渡す。と、移動する人影が二つ。いた!

 

 「あの、すみません! 危ないですから、そこでじっとしててください!!」

 

  ・・・あれ? あの後姿、見覚えが・・・・・・

  そして砂煙が晴れて・・・

 

 「・・・なのは?」

 「フェイトちゃん・・・?」

 

  あ、アリサちゃんとすずかちゃん!?

  ど、どうしよう。これ見られて・・・!!

 

 

  空の彼方で、星が放たれた―――

 

 

それは予想通り、こちらにも影響を及ぼしにくる。

 

 「―――っ!! フェイトちゃん!!」

 「うん。二人とも、そこでじっとして!」

 『Defenser plus

 

  光の膜が二人を覆う。

  そしてフェイトちゃんがその前に出てシールドを張る。

 

 「レイジングハート」

 『Wide area protection

 

  私は更にフェイトちゃんの前に出てシールドを張る。

  フェイトちゃんの防御は薄い。私が少しでも負担を減らしてあげないと危ない。

 

 

  迫る光。

  私たちは、瞬く間にそれに飲み込まれた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 「―――」

 

  魔力が収束していく。

 

  なるほど、スターライトとはよく言ったものだ。

  小さな星々が集い、大きな星を作り上げる。

その輝きは本当の意味での星と言える。

 

 「貫け―――」「閃光―――」

 

  最後の詠唱が紡がれる。

 

  星はいまにはち切れんとばかりに巨大化し、その獲物を狙っている。

  相対するのは闇の書。

 

 (―――まだか)

 

  心の中で一人ごちる。

  ここまで遅いとあるいはもう飲まれてしまったのかもしれない。

 

 (どうする―――)

 

  だが、考える間もなく、体は勝手に動き始める。

  迫る脅威を迎撃するために。

 

 「スターライト」「ブレイカー」

 

 

  そして、星は放たれた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

  スターライトブレイカー同士のぶつかりあいによる衝撃は想像を絶するものだった。

  街に張られた強固な結界そのものを揺るがしているほどである。

 

  あわてて念話を送る。

 

 (なのは! なのは、大丈夫!?)

 (フェイト!?)

 (くっ、・・・・こ・はちょ・・・)

 (アリ・・す・・・中に―――!)

 

  魔力が充満していて念話がうまくいかないのか、とぎれとぎれで会話が聞こえる。あの余波の真っただ中にいるみたいだ。

  どうやら無事のようだけど、フェイトの速度ならあの範囲外からは退避できている筈。

  何が―――?

 

 (なのは、フェイト! どうしたの!?)

 (アリサちゃ・・・すず・・・・・!!)

 (結界・・・・とじ・・・!!)

 

  っ! うまく聞き取れなかったけど・・・聞くからにまさかアリサとすずかが結界の中に!?

 

 「エイミィさん!! 結界の中に一般人が!!」

 「分かった! 余波が収まり次第安全な場所まで転送するから、持ちこたえて!!」

 

  くっ、なのは。どうか無事で―――!!

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 「くっ、う・・・・・・」

 「っはあ、はあ・・・・」

 

  私もフェイトちゃんも、消耗が激しい。

  スターライトブレイカーの余波は、想像以上の物だった。

  これは・・・ちょっと、まずいかも・・・・・・

 

 「もう、大丈夫だから・・・・」

 「すぐに、安全な所まで送ってもらうから・・・・」

 「あの、なのはちゃん、フェイトちゃん・・・」

 「ちょっと、コレ―――っ!?」

 

  アリサちゃんの言葉は転送されて途切れた。

 

  ・・・・・

 

 「・・・見られちゃったね」

 「うん」

 

  どう説明しようかな。

  これはもう、隠してられるような状況じゃないし・・・・

 

 (ユーノくん、アルフさん。二人を守ってあげて)

 (アルフ、お願い)

 (でもフェイト!)

 (・・・・・行こう、アルフ。気がかりがあると、二人が思いっきり戦えない)

 

  ・・・ありがとう、ユーノくん。

  正直、周りを気にしていられるほど、今は余裕がないんだ。

 

 (けど・・・無理だけは、絶対にしないで)

 (―――うん、ありがとう)

 『なのはちゃん、フェイトちゃん! クロノくんから連絡!!』

 

  エイミィさんからの通信。

  耳を傾ける。

 

 『闇の書の主と白夜の書の主―――はやてちゃんと陣耶くんに、投降と停止を呼びかけてって!!』

 「はい!」

 

  そうだ。とにかく話し合いをしないと、始まるものも始まらない。

 

 (闇の書さん! それに白夜の書さん!! 止まってください!!)

 (こんなことをして、何の意味が―――!!)

 「我が主は、この世界が―――自分の愛する者たちを奪った世界が、悪い夢であって欲しいと願った―――」

 

  ・・・そうだ。はやてちゃんは、自分の家族を―――

 

 「我はただ、それを叶えるのみ。そして、そいつには呼びかけるだけ無駄だ―――」

 (え・・・?)

 

  無駄って・・・

 

 「そうだな。我はただ、闇の書を滅ぼすためだけにここにいる」

 (そんな―――)

 

  そんなことって・・・

  けどそれじゃあ何で、そんなに悲しい眼を・・・

 

 「我は主の願いを叶える・・・邪魔をするならば、永遠の闇へと!」

 (闇の書さん!!)

 

  どうして! どうしてこうなるの!?

  何でみんな、悲しむようなことを・・・自分を傷つけるようなことをするの!?

 

 「・・・お前も、その名で私を呼ぶのだな」

 (え?)

 

  それは・・・

 

  その直後、突然触手か蛇か判断がつかないものが大量に召喚されて私とフェイトちゃんは瞬く間に拘束された。

 

 「っ!? これは!」

 「きゃあ!?」

 

  くう、動けない・・・!

  どうにかしないと、またあの二人は・・・・!!

 

 「私は、主の願いを叶えるだけだ。そしてその障害となる・・・」

 「私を排除する、か・・・」

 

  二人の魔力が、膨れ上がる。

 

  届かない・・・届かないの!?

  私は・・・こんな悲しい結末は―――!!

 

 「願いを、叶えるだけ・・・!? そんな願いを叶えて・・・それで! はやてちゃんはほんとに喜ぶの!?

  心を閉ざして、何も考えずに、主の願いを叶えるための道具でいて―――貴方は! 本当にそれでいいの!?」

 「我は魔導書。ただの道具だ」

 「だけど、言葉は使えるでしょ!? 心があるでしょ!? じゃなきゃおかしいよ・・・」

 

  道具だって言うなら・・・何で・・・

 

 「ほんとに心が無いんなら・・・泣いたりなんかしないよ!!」

 「この涙は、主の涙。私は道具だ。悲しみなど・・・・無い」

 「貴方も・・・何で闇の書を破壊するの!!」

 「私は、そのために生み出されたものだからな・・・止められん。仕方がない」

 「っ! バリアジャケットパージ!!」

 『Sonic form

 

  フェイトちゃんのバリアジャケットが弾け飛ぶ。

  その時の魔力放出によって触手が弾け飛び私も拘束から逃れる。

 

 「悲しみがない? 仕方がない? そんな、悲しい顔で言ったって・・・誰が信じるもんか!!」

 「貴方たちにも心はあるんだよ!! 悲しいって言って良いんだよ!!

貴方たちのマスターは・・・はやてちゃんと陣耶くんは! きっとそれに応えてくれる・・・優しさを、知っているから!!」

 「だから、二人を解放して!!」

 

  必死に呼びかける。

  けれども、それは突然の地響きで止められた。

 

 

  次々と、火柱が立ち上っていく。

 

 「早いな、もう崩壊が始まったか。私もじき、意識を無くす。そうなれば、すぐに暴走が始まる。

  意識のある内に、主の望みを―――叶えたい」

 『Bltiger Dolch

 

  私たちの周囲に先ほどの短剣が出現する。

  至近距離―――!!

 

 「闇に、沈め―――」

 

  短剣が射出される。

  けどそれより早く、フェイトちゃんが私を抱えてよけていた。

 

 「この―――駄々っ子!!」

 『Sonic drive

 

  ソニックフォームが起動する。

 

 「言うこと―――!!」

 『Ignition

 「聞け―――!!」

 

  凄まじいスピードで接敵するフェイトちゃん。

  それを―――

 

 「お前も、我が内で眠るといい―――」

 

  書が開き、障壁が展開される。

  それが―――

 

 「はあああああああ!!」

 

  書によって、防がれた。

  その次の瞬間―――

 

 「っ!?」

 「フェイトちゃん!?」

 

 

  フェイトちゃんの体が発光して・・・・

 

 

 「全ては、安らかなる眠りのうちに―――」

 『吸収』

 

 

  フェイトちゃんが・・・・・・消えた。

 

 

 「フェイト、ちゃん・・・・?」

 

  何が・・・

  突然の事に、思考が停止する。

 

 「仕方がない」

 「っ!?」

 

  白夜の書さん! いつの間に!?

 

 「すまないな・・・」

 『吸収』

 「えっ・・・」

 

  私の体が発光する。

  これ、フェイトちゃんの時と同じ・・・・!

 

 

 「あいつを・・・・頼む」

 「えっ?」

 

  懇願するような、切望するような言葉。

  その言葉を最後に、私の意識は白く染まった・・・・・・













   Next「白夜の王」

   この悲しみの連鎖を、断ち切るために―――!! ドライブ・イグニッション!!













   後書き

   はーい急展開ー。まさかのなのは吸収ー。これ予測できた人いるかな?

   明かされた白夜の書という物。しかしまだ行動には謎が多いですがねー。

   つーか今回主人公の出番が全く無いww

   定期テストが目の前の今、ひじょーにピンチです。結果が怖い・・・・・

   オリジナルな魔法、ライトブレイズについてですがブラッディーダガーの光属性版ということで。

   一気に加速する物語。もうクライマックス目前です。

   では最後に、久々に来たありがたい拍手のレス返しを・・・・・・


   ※続きを楽しみに待つことはそんなに悪いことなんですか!!

   >あ、ありがとうございます! まさかこんな駄作でも楽しみにしてくれる人がいるとは・・・・ゥゥ


   ※今後にも期待!

   >ありがとうございます。けど自分の腕でちゃんと応えられるかどうか心配デス。頑張ります!!


   それでは、また次のお話で。







作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板

に下さると嬉しいです。