とある日の昼下がり、変わることない日常の中に俺たちは居る。

 

ここのところは何事もなく平和な日々が続いている。

  守護騎士たちも大きな動きを見せることはなく、俺たちもつかの間の平穏を堪能している。

  そんな日々の中を、俺はクロノや恭也さんとの修行に明け暮れながら過ごしていた。

  今日も学校が終われば恭也さんとの修行の予定だ。

 

 「ねえジンヤ」

 「何だフェイト?」

 「ジンヤならどれが良いと思う?」

 

  そう言って示されたのは様々な機種が載った携帯のパンフレット。

  どうやら携帯を購入するので何を買うか選んでいるらしい。

 

 「うーん、俺としてはこれかな?」

 「ええっと、PN082S?」

 「ああ。これなら値段も手軽だし結構多機能だぞ? カメラにワンセグ、メールも結構セキュリティが厳重だしな」

 

  ちなみに、PN082Sとは大手メーカーが売り出している物なんだがとある人が売り込みに来た物らしい。

  かなりの天才頭脳を有する女性らしいのだがその素性は明かされていない。

  なんでもいかにも怪しい黒いコートとサングラスを纏って売り込んできたのだとか。

  そんな物だからあまり公には公開されず結構コアな人しか知らなかったりする。

 

  ちなみに俺は何でも安く手に入れるためにかなり情報をあさくっているのでこんなことも知っている。

  一人暮らしの都合上携帯など必要がないのだがパソコン機器を勉強している内に自然と知識が蓄えられていった。

 

 「うん、ありがとう。参考になったよ」

 「それは良かった。まあ適当にな」

 

  日常は過ぎてゆく。

  非日常と隣り合わせのこの危ういこの日常は、一体いつまで続いてくれるだろうか。

 

 

魔法少女リリカルなのはA’s 〜もう一つの魔導書〜

第九章「仮面」

 

 

 「ありがとうございましたー」

 「はい、どうも」

 

  購入手続きを済ませたリンディさんが戻ってきた。

  フェイトもリンディさんから購入したものを受け取って戻ってくる。

 

 「おまたせ」

 「ううん。いい番号あった?」

 「うん。ええっと・・・これ」

 「へえー、それにしたんだ」

 

  番号、というのは携帯の機種番号のことだ。

  携帯が欲しいと言ったフェイトにあっさりとOKを出したリンディさんには驚いたがな。

  そもそも、あんな高額なものを維持できる金があるかが心配だったりする。

  するだけ無駄だと思うが。

 

  それにしても最近の子って進んでいるな〜。小学三年生から携帯とか俺じゃ考えられん。

  さて、俺はそろそろ恭也さんのところに行きますかね。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 「甘い!!」

 「があ!!」

 

  打ち払われた右腕から木刀が落ちる。

  それとともに突きつけられた恭也さんの木刀は、俺の敗北も意味していた。

 

 「・・・参りました」

 「よろしい」

 

  ここ数日間はずっと恭也さんと戦り合っているが一撃も届くことは無い。

  それどころか逆にひたすらボコられているのが現状である。

 

 「あー、くそ。掠りもしない」

 「当たり前だ。いくらなんでも剣を始めたばかりの素人に一撃貰ったとなると俺の矜持に関わる」

 「ごもっとも」

 

  大の字になってバッタリと倒れこむ。

  冷えた床が心地良い。

  ふと隅に置いた腕時計を見れば時刻はもう午後7時。

  いつもはもっと早めに終わるのだが今日はフェイトの買い物に付き合っていたためにこうなった。

 

 「むう、さすがに帰らないと拙いか」

 「どうせならまたここで食べていくか? それなりに遠いのだろう?」

 「ありがたいですけど、遠慮させてもらいます。そう何回もお世話になる訳にはいきませんし」

 

  俺の返事に恭也さんはただ“そうか”、と言葉を返すだけでそれ以上は何も言ってこなかった。

  俺と同じで責任感強そうだしな、この人。

  似たようなことがあるからあまり強く言えないのだろう。

 

 「それじゃあ、俺はこれで失礼します」

 「ああ。またいつでも来るといい」

 

  荷物をまとめ、道場を後にする。

  その足で門へ向かい、玄関から軽く挨拶をして帰るのが俺の最近の日常でもある。

 

 「それじゃあ俺は帰りますんで! お邪魔しました!」

 「はーい! またいつでも来てねー!」

 「また明日ねー!」

 

  そうして、高町家を後にする。

 

  閑静な住宅街であるここは、夜になると余り街灯りが存在しない。

  なので、都市部と比べると比較的暗く、そして静かな場所だ。

  人や車で溢れかえっている都市部に比べて、静かな住宅街は俺好みだった。

 

  ―――吐く吐息が、白く染まる。

 

  月も12月。本格的に冬となって来た今では所々にクリスマスの色が見て取れる。

  もうあと二週間で聖夜の日だ。

  子どもたちは皆、サンタクロースを待ちわびて夢を見るのだろう。

  楽しいクリスマスパーティーを開いて、幸せそうに笑うのだろう。

 

  だが―――

 

 「俺は―――どうしようもなく独りだな」

 

  確かに、友達は増えた。

  なのはやフェイト、クロノやユーノ、アルフといった素晴らしい人たちにも出会った。

 

  けど―――それだけだ。

 

  あの事件以来、俺の心にはポッカリと穴が開いた。

  何も無い、空虚な穴。

  そして、誰一人として、この空虚な穴を埋めることは出来ない。

 

  家族を喪った悲しみは、決して他人では癒されない。

  自身が自身の手で乗り越えるべきものであって、決して他人よがりにしてはならないものだ。

  そして、その穴が埋まらない限り、俺はいつまでも独りである。

 

 

  所詮―――過去を彷徨っているだけの俺には、未来を生きるあいつらと居られる訳がないのだから。

 

  決して本心を見せることなく生きていく。それはまるで、仮面を被った道化の様―――

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 『ユーノ、頼みがある』

 『何?』

 『無限書庫で闇の書に関して調べる際、それに関する様々な逸話も見ると思う。

どんな些細なことでもいい。それを僕に教えてくれないか』

 『別にいいけど・・・何かあるの』

 『―――少し、な。気になることがある』

 『分かった。けどあまり期待しないでくれよ』

 『ああ。ありがとう』

 

  これが、つい数日前に交わされた僕とクロノの会話だ。

  これまでの事件で詳細が知れている以上、あまり逸話は頼りにならないと思うのだが・・・

まあそれはあいつの言いだしたことだし、おそらくは何かあるのだろう。それに関しては信頼している。

  あいつが何を探っているのかは知らないが僕も負けちゃいられない。

  前線に赴くなのは達を助けるためにも、少しでも情報を集めないと。

 

  幸い、グレアム提督の使い魔にしてクロノの師匠であるリーゼロッテとリーゼアリアが手伝ってくれているので少しは楽だ。

  基本的に本を読み漁くるだけで済むし。

 

 「そーれにしても凄いね、君んとこの魔法」

 「? 何がです?」

 「そんなに一気に書物を読んじゃってさ、しかもスピードが尋常じゃないし」

 「あはは、それが僕の一族の専門分野ですから」

 

  とは言っても、さすがは無限書庫。全次元世界の歴史が収められていると言われるだけの事はある。

  その貯蔵量は他とは比べ物にもならない程に多く、そして貴重だ。

  取り扱いにも気を使うし、何より探し物を探すのにも手間がかかりすぎる。

  これなら年単位で調べるというのも納得がいく。

  僕のようにこんな事に特化した魔法でも持たない限り、かなりの重労働だろう。

 

 「ん?」

 「んにゅ? どした?」

 「え? いや、別に大したことないですよ」

 

  と言いつつとりあえず読んでみる。

 

 (うーん。これも一応逸話なのかな?)

 

  とりあえずは送っておこう。

 

  そう決めて内容を記録した。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 「たっだいまー!」

 「おじゃましまーす」

 

  玄関を勢いよく開け放ち挨拶をする。

  片手には誤うことなきビニール袋、もとい買い物袋を抱えてリビングへと進む。

 

  今日は休日ということもあってハラウオン宅に遊びに来た。

とエイミィさんが買い物に行くとのことで俺も付き合って近くのスーパーに買い出しに行った。

 

 「お帰りー」

 「お帰り、二人とも」

 「うん? 何買って来たんだい?」

 

  迎えてくれたのはなのは達だ。

  アルフは仔犬モードでくつろいでいる。

 

  ちなみに買ってきたのはピーマンやらトマトやらカボチャやらカレールーやら。

  どうやら今夜のハラウオン宅の夕食はカレーらしい。

  買ってきた食材を新鮮なうちに冷蔵庫へと放り込む。

 

 「艦長、もう本局に出かけちゃった?」

 「うん。アースラの武装の追加が済んだから、試験航行だって。アレックス達と」

 

  アースラというのは次元世界を行き来する船のことらしい。

  俺がそれを聞いた時に浮かべたのは某宇宙戦艦と某人口精霊が乗る宇宙船。

  感じ的には後者のほうが近いらしい。

 

  ていうか、武装の追加?

  船ってことは相当なでかさなんだろうが・・・そんな物に武装付けてどうするよ?

  おそらく魔導師ですら歯が立たないんじゃないか? 規模的に。

 

 「武装っていうと・・アルカンシェルか。あんな物騒なモン、最後まで使わずに済めばいいのに」

 「ちなみにどれくらい物騒なんですか」

 「うーん。この海鳴市一帯が消し飛ぶね」

 

 

  ――――――はい?

 

 

 「ちょっとエイミィさん。今何と?」

 「だから、撃っちゃえばこの海鳴市が全部消し飛ぶような代物なんだって」

 「ってコラ!! んな物騒なモンここで使うな!!」

 「そ、そうだよ!! そんな事したらみんな―――!!」

 「だーかーらー、こっちとしてもそんなモンは撃ちたくないんだよ。だから頑張って調査しているんでしょ」

 

  う、至極その通りである。

  そんな周りに甚大な被害を及ぼすようなものがそうそう使われるはずもない。

 

 「えっと、クロノ君も居ないですし―――戻るまではエイミィさんが指揮代行だそうですよ?」

 「責任重大」

 

  アルフや、ドッグフード頬張りながら言っても説得力は無いぞ?

 

 「それもまた物騒な・・・まっ。とはいえ、そうそう非常事態なんて起こる訳が―――」

 

 

  ヴィーッ、ヴィーッ、ヴィーッ

 

 

 「・・・・・・お?」

 

  鳴り響くアラート音に緊急事態を知らせる光信号。

  そして空中に映し出された画面にははっきりと“Emergency”の文字が・・・

 

  ゴトリ、と音を立てて、エイミィさんが持つカボチャは虚しく地に落ちた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 「文化レベル0。人間は住んでいない砂漠の世界なんだけど―――」

 

  今、俺たちの目の前の画面には別の世界の光景が映し出されている。

  そこにいるのは先日戦闘を行った守護騎士の二人に違いなかった。

 

  桃色の髪をポニーテールで括った女性が―――シグナム。

  アルフと同じ半獣人の姿をしている男が―――ザフィーラ。

 

  二人は怪獣映画に出るようなゲテモノと矛を交えていた。

 

 「結界を張れる局員の集合まで、最速で45分。ああ、マズイなあ・・・」

 

  画面に映る二人をしばし見つめ―――フェイトとアルフに顔を向ける。

  俺と二人の視線は交差して―――強い意志と共に、二人は確かに頷いた。

 

 「エイミィ」

 「ん?」

 「私が行く」

 「私もだ」

 

  フェイトとアルフによるシグナム達の足止め。

結界を張れる魔導師が来るまでの時間稼ぎとしては、これ以上の手はない。

 

  そんなことを抜きに、二人には別の目的があるのだが―――

 

  エイミィさんも暫し逡巡した後

 

 「うん。お願い」

 「うん」

 「おう」

 

  全幅の信頼と共に、許可を出した。

 

 「なのはちゃんと陣耶君はバックス。ここで待機して」

 「はい」

 「了解です」

 

  まだ守護騎士全員が出てきている訳でもないし、何より先日の仮面の男のこともある。

  何かあった時のために俺たちも待機しておいた方がいいのだろう。

 

 「それじゃあ、行ってきます」

 「ああ。気をつけて行ってこい」

 

  まるで散歩に行くかのような軽い挨拶。

  それでも、それが俺たちには丁度良い。

 

  そして、フェイトとアルフは別の世界へと飛んだ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

  転移した先ではシグナムがミミズ? の様な生物に拘束されていた。

  そしてそのシグナムを拘束している生物は今にもシグナムに食らいつきそうな気配だ。

 

  このままじゃあ危ない。

 

  そう考えたら、頭より先に体が動いた。

 

 『Thunder Blade

 

  即座に放たれた雷の剣は、シグナムを襲おうとした生物を次々に刺し貫いていく。

  そこから帯電する電気によって生物の動きが鈍くなる。

 

  そこに、追い打ちとばかりに止めの一撃を見舞う。

 

 「ブレイク!」

 

  キーと共に、次々と放たれた剣は爆発する。

  体中で爆発する衝撃に耐えられず、ついにその生物は息絶えた。

 

  巻き上げられる砂塵の中で互いの存在を確認する。

  彼女は、疲労一つ見せずにそこにいた。

 

 (フェイトちゃん! 助けてどうするの、捕まえなきゃ!)

 「あ、ごめんなさい。つい・・・」

 (まあまあ、落ち着いてくださいよエイミィさん。別に悪気があった訳でも無いんですし)

 

  今は別世界にいる仲間と友達から念話が届く。

  確かに、あのまま疲労を待ってからの方が楽だったかも・・・?

 

  いや、そんなことはありえない―――

 

 「礼は言わんぞ、テスタロッサ」

 「あの、お邪魔でしたか?」

 

  こういうことを無下に扱う人ではないのは知っているけど、それでもやっぱり不安だ。

 

 「・・・収集対象を潰されてしまった」

 「まあ、悪い人を邪魔するのが、私の仕事ですし」

 「そうか。悪人だったな、私は」

 

  レヴァンティンにカートリッジが装填される。

  そして裂帛の気合と共に、私たちは構えをとった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

  再びけたたましくアラート音と映し出される“Emergency”の文字。

 

 「なっ、もう一か所!?」

 

  エイミィさんが操作をすると同時にもう一つ映像が映し出される。

  そこには、闇の書を抱えたヴィータがいた。

 

 「こっちが本命―――!?」

 

  計らずとも、大方予想通りの展開ではある。

  なにしろ、俺たちはこのためにここに残ったのだから。

 

 「俺たちが行きます。いいな、なのは」

 「うん」

 「お願い」

 

  了承を得た俺たちはそろって頷いて転送ポートに向かって駆け出す。

  その最中、俺は体の中で疼く熱を感じた。

 

  待ってろよヴィータ。

  こないだの借りを返してやる。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

  照りつける日光。焼けるような砂漠。

  人がいない代わりに異形の生き物が住むこの管理外世界。

  何も無い。どこまでも砂漠が続くこの世界で―――

 

  その真っ只中で、私たちは向かい合っていた。

 

 「―――」

 「―――」

 

  闇の書の守護騎士、シグナム。

  彼女とは何度か剣を交えたことがあるが、今だその手の内を全ては見せていない。

 

  彼女は強い。

  下手に動くものなら瞬く間にやられてしまうだろう。

  仕掛けるならば最初から全力で。

  持てる全てをぶつけなければ勝てない。そう確信できる。

 

 「預けた決着は、出来れば今しばらく先にしたいのだが―――速度はお前の方が上だ」

 

  剣が構えられる。

  その眼に宿る苛烈な闘志は出会った時から衰えることはなく、むしろ逆に膨れ上がっている様にも思える。

 

 「逃げられないとあっては、戦うしかあるまい」

 

  ―――私も構えを取る。

  その体に、彼女に負けないくらいの闘志を漲らせて。

 

 「はい。私も、そのつもりで来ました」

 

  空気が張り詰める。

 

  互いの視線は動かぬまま、確かに相手を捉えている。

  押しつぶされそうなプレッシャーの中、互いの魔力が高まった時―――

 

 

  戦いは、幕を開けた―――

 

 

◇ ◇ ◇

 

  眼下に広がる広大な森林。

  昼間でも見える巨大な星々が、ここが地球ではない別の世界だということを語っていた。

 

  その地球の常識が全く通用しない所に、今俺たちは居る。

 

  空に浮かぶことはつい最近できたことだ。

  最初こそこんな感覚には慣れなかったものの、そこら辺、人間は巧くできているらしい。

  何度か経験している内に、すぐに慣れた。

  こうやって人は、何事にも慣れていってしまうのだろう。それはどんなことにでも当てはまる。

  例えば歩くこと、話すこと、勉強すること、力を揮うこと、人を殺すこと―――

 

  きっと、人間なんてそんなものだ。

  何事にも慣れていくから生きていける。

 

  俺が、両親の死という現実に慣れてしまったように―――

 

  今の俺たちはとある人物を待ち構えている。

  やつは強いのだが、今はまだ相棒たるデバイスを起動させてない。

  なのは曰く―――

 

 “この前、ヴィータちゃんが言ってたでしょ? 和平の使者なら槍は持たない。だったら、武器さえ持っていなければお話聞か

 せてくれるかな”

 

  とのこと。

 

  できることならば話し合いで解決したい。それがなのはの意見だ。

  それも一重に、なのはは相手を傷つけたくないから。

  なのはは決して諦めないだろう。言葉は、決して無力ではないと、無意味などではないと知っているから。

  だが、相手も必死だろう。

  必死な奴ほど、話に耳を傾けないことが多い。

 

  だからこそ、いざ戦闘になればなのはより俺が戦るつもりだ。

 

  そしてしばらくして―――はたしてそいつはやって来た。

 

 「―――!」

 

  立ちはだかる俺たちに気付いた奴は急ブレーキを掛けて停止する。

 

  鉄槌の騎士ヴィータ。

 

  俺やなのはをこの事件に巻き込んだ最初の人物にして守護騎士の一人。

  俺もなのはも、あいつには結構な目にあわされた経緯がある、浅からぬ因縁がある相手である。

 

 「高町なんとかと皇陣耶!!」

 「なっ!? なのはだってば! な・の・は!!」

 「・・・・・」

 

  いや、ヴィータよ。お前そこまで頭は悪くないと思っていたんだがな?

  やっぱ外見と同じでおつむもちっty

 

 「なんか言ったか」

 「い、いや何も・・・」

 

  目が怖!!?

  や、やめよう。冗談抜きで殺される・・・

 

 「ヴィータちゃん、やっぱりお話し聞かせて貰う訳にはいかない?

もしかしたらだけど・・・手伝えることとか、あるかもしれないよ?」

 

  あくまで、なのはは手を差し伸べる。

  もしも世界がなのはほど優しかったのなら・・・こんな事は起こらなかったのだろうか。

 

 「っ! うるせえ!! 管理局の連中の言うことなんざ信用できるか!!」

 「私、管理局の人じゃないもの。民間協力者だよ」

 「一応、俺もな」

 

  俺は管理局に保護を受けている形ではあるが、この事件の前線で関わっているために民間協力者の位置づけになっている。

  なのはは前にもこういった経験があるらしく、自分からこの事件に関わることを望んだ。

 

  しばしの沈黙。

  なのははあくまで無防備に歩み寄ろうとしている。

  だが、肝心のヴィータは警戒を解く気はない。

  いや、徐々にだが魔力が膨れがっている―――?

  見ればヴィータのグラーフアイゼンを握る手に力が籠められて―――!

 

 「なのは!」

 「ブッ倒すのは―――また今度だ!!」

 

  魔法陣が展開されヴィータの左手に魔力球が現れる。

  それは高い唸りを上げて―――!

 

 「ふえ!?」

 「くっ!!」

 

  何をする気か知らないがとりあえず防御を―――!!

 

 「吼えろ! グラーフアイゼン!!」

 『Eisengeheul

 

  グラーフアイゼンが魔力球に振り下ろされる。

  その瞬間―――

 

 

  凄まじい閃光と音が、辺りを埋め尽くした。

 

 

 「くう!!」

 「きゃ!!」

 

  余りにもの閃光と音でまともに状況が把握できない。

  くそ、目的はこの場からの離脱か―――!

 

 「く・・・」

 「うう・・・あっ!」

 

  ようやっと閃光と音が収まった頃には、ヴィータは遥か遠くを飛んでいた。

  だが―――

 

 「なのは、打ち合わせ通り頼むぞ」

 「まかせて」

 

  あれくらいなら、まだ間に合うはずだ。

  こっちに居るのは砲撃手だということを忘れるな。

 

 「それじゃあ―――やるぞ!」

 「うん!」

 

  そして、俺たちの追撃劇が始まった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 「よし。ここまで離せば攻撃も来ねえ」

 

  遥か遠くにあの二人の姿が見える。

  完全に引き離した訳じゃないけど、この距離なら攻撃を受ける前に逃げきる自信がある。

  とっととシグナム達の救援にも行かねえとな。

 

 「次元転送―――」

 

  魔法陣が展開されて転送の準備が瞬く間に行われていく。

  いける。これなら―――

 

 「ん?」

 

  ふと、あいつら二人に動きがあった。

  片方―――皇陣耶の方はいきなり視界から消えた。

  そしてもう片方―――高町なんとかの方は・・・

 

 「まさか・・・」

 

  デバイスの形状が変化していた。

  そして展開されている魔法陣、収束する魔力から見てまず間違いなく攻撃を仕掛けようとしている。

 

 「撃つのか!? あんな遠くから!?」

 

  非常識にも程がある! あんな遠くからの砲撃なんて届くはずが―――!

  けど、直感が警報を鳴らしている。あれはマズイと。

  そう理性では理解しているはずなのに、突拍子もない事態のせいで体の反応が追い付かない。

 

  そして、それが致命的だった。

 

  収束された桜色の魔力が放たれる。

  それは瞬く間に迫ってきて、反応が追い付かない私は為す術もなく光の奔流に呑まれた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

  手応えあり! けど―――

 

 「ちょっと、やりすぎた?」

 

  そうなのだ。あまりにもあっさりと当たってしまったのがビックリだ。

  ヴィータちゃんの事だからあのくらいなら大丈夫たと思ったんだけど・・・この距離からじゃあさすがに驚いちゃったのかな?

 

 『いいんじゃないでしょうか』

 

  うん。相槌を打ってくれるのは嬉しいけど、ちょっとヴィータちゃんに酷くない? レイジングハート。

 

  徐々にディバインバスター直撃による爆煙が晴れていく。

  そこに人影は―――二つ!

 

  そこには無傷のヴィータちゃんと、新たに現れた仮面の戦士さんがいた。

  おそらく、私が放ったディバインバスターはあの人が防いだんだろう。

  ディバインバスターを無傷で防ぐなんて・・・けど、

 

 「ここまでは陣耶君の予想通り。私たちも頑張るよ」

 『Yes, my master

 

  そう、予想通り。

  陣耶君は、あの仮面の戦士さんが出てくることまで予想していた。

  そんなこと、私たちだけじゃあとても無理だっただろう。

  けど、今の私たちには陣耶君という心強い仲間がいる。

  だから―――!

 

 「私たちも、負けてられないよね!」

 『その意気です』

 

  今度こそ絶対、お話聞かせてもらうからね! ヴィータちゃん!

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

  やっぱり出て来たな仮面の男。

 

  俺はここに来る前にあらかじめなのはと作戦の打ち合わせをしていた。

  内容はこうだ。

 

 『なのは。もしもヴィータが逃走を図ったなら、遠慮せずに砲撃をぶち込んで無力化してくれ』

 『元よりそのつもりだけど―――』

 『・・・・・まあ、つっこまないでおくとして。もしかしたらその時にこの前の仮面の男が出てくるかもしれない』

 『あの人が?』

 『ああ。あいつの厄介なところは武術の達人の上に魔法も半端ないってところだ。

俺と戦闘中にクロノにバインド掛けるぐらいだからな』

 『ああ。だから俺はもしもに備えて最初から突っ込む。もしも出てきたときは俺が相手をするから、なのははヴィータを頼む』

 『うん』

 『それと狙い打つ時は―――』

 

  とまあこんな感じだ。

  そしてクイックムーブでの移動中に案の定、仮面の男は現れた。

  その手にはカードのような物を持っている。

  カードには魔力を感じる。あそこからロングレンジバインドをかますつもりか―――!

 

 「させるか!!」

 「!」

 

  バインドを使わせまいと斬撃を繰り出す。

  が、やはり障壁で安易に防がれる。

  だが結果としてなのはへのバインドを防ぐことができた。

  そしてそのなのはは今もヴィータを狙って発射準備を整えている。

  ここに、役者はそろった―――

 

 「また会ったな、仮面の戦士」

 「―――」

 

  対するは無言。だがその気配には焦りが見て取れる。

  それはなのはへのバインドを防がれたことか、俺というイレギュラーに対してか。

 

  だが、そんなことは関係ない。

 

  相棒を構える。

  それと同時に仮面の男とヴィータも戦闘態勢をとる。

 

  仮面を纏った男の表情は分からない。

  その表情を決して他人に見せることなく、心を見せることなく、偽りのままに生きていく。

  何か、俺に似ていると思った―――

  だが、今は―――

 

 「こないだの借り、ここで纏めて返させて貰おうか!!」

 

  今は、為すべき事を為す!

 

 

 

  ―――仮面

 

  それは素顔を隠す物。

  それは意志を隠す物。

  それは本性を隠す物。

  それは―――心を隠す物。

 

  それを纏った男の真意は、いまだ誰にも分らない。

  その仮面の下で何を思うのか、それ本人にしか分らない。

  愉悦に哂うのか、苦しみに歪ませるのか、無感動に凍りついているのか。それとも―――

 

  仮面の男。謎に包まれたその男は、天秤を持つ審判者に他ならない―――

  運命の天秤はどちらに傾くのか、そんな事、審判者はとっくに決めていた。

 

 

 

  仮面、それは偽りの象徴――――――



   Next「交錯する信念の剣」

   負けられない、だからこそ―――ドライブ・イグニッション!!



   後書き

   やっと書き終えたーーー!!

   長いこと書いてなかったのでスランプに陥ってないか心配で心配で・・・

   ところで、冒頭に出てきた携帯を売り込んだ女性、分かった人いるかな?

   ヒントは会社に売り込めるくらいの年齢の天才頭脳の持ち主。(ヒントになってないかw)

   物語もやっと後半に入ってきました。フェイトサイドは変わりなかったですがなのはサイドはバインドが陣耶の手で阻止されました。

   それにより砲撃も可能となりヴィータの脱出が難しく。

   次の話はバトルパートが結構あると思います。ヘタですがww

   投稿ペースはもう落としたくないなあww








作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板

に下さると嬉しいです。