ストレニアス・ライフ







 ロード・ディアーチェ、我が家の長女役は家事万能である。

王様気質ではあるが、家では誰よりも家族の面倒をよく見ている。掃除や洗濯、買い物や料理も進んでやってくれている。

スケジューリング力も卓越しており、何時どのくらいの時間をかけて実行するか、頭の中で完璧に計画を立てて実行している。


目指す姿は何か、どのような家庭を描いているのか、理想を叶えるべくするべきことは何か明確にしている。


「父よ、相談がある」

「どうした、ディアーチェ」

「父の国ではバレンタインデーと呼ばれる日があると聞いている。その日に倣って、聖地でも祝祭を行おうと考えている」

「バレンタインは起源が明確ではないにしろ、宗教が関係しているのにいいのか」

「異教だからといって根絶しているようでは発展もしない。
父の後継者として今後聖地を治めていくのであれば、民のことを考えて自ら進めていかなければなるまい」


 バレンタインの起源については諸説あるが、それでもバレンタインデーは今や世界各国で特別な日として定着している。

女の子達は浮かれる中で、恋愛でさえも政治として捉えている女の子は、世界でもこの子くらいではないだろうか。年齢は不明ではあるが。

おしゃれなレストランのディナーに出かけるというような贅沢もせず、今日もディアーチェは難しい顔をして相談してくる。


まあこの子らしくはあるので、耳を傾ける。


「祝祭というのはどういった内容なんだ」

「聖王教会ではその昔、信仰が落ちるという理由で信者同士の結婚を禁止していた時期があったようだ」

「初耳、というよりも眉唾な風習だな」

「古代ベルカ時代より宗教はデリケートなものであった。
まさか我が統治する地で悩むことになるとは思わなかったが、父の子として新たな生を歩むのであれば逃げる訳にはいくまい」


 確かバレンタインデーの由来にも似たような話があった気がする。

あれも確か宗教関連のエピソードだったと思うが、俺もそこまで関心があるわけではないので覚えていない。


ただディアーチェは真剣に考えており、聖地の民の為に政策を練っている。


「そこでバレンタインを見習って、祝祭の開催を考えている。
聖王は結婚の神ではないが、誕生を祈願する祭りを開催するつもりだ。

あまり堅苦しくはせず、民には恋愛と関連づけて扱われるくらいでちょうどよい」

「なるほど、愛を誓う日として市民に浸透させていく考えか」


 先程も言った通り、バレンタインデーは今や世界各国で特別な日として定着している。

国が違えば過ごし方もさまざまであり、日本ではバレンタインデーに男性から女性へ贈り物をするのが一般的とされている。

夫婦や恋人が二人きりで過ごすという国もあるようで、世界はこの日華やかな時間を過ごしている。


ディアーチェは自分自身の恋愛ではなく、愛を育んで人々により良い時間を与えるべく張り切っていた。


「後の世ではお前が聖人として敬れる歴史となっているかもしれないな」

「何をいう。父という偉大な存在があるからこそ、我が成り立っているのだ。
父の名を世に継いでいく事が我の使命だ」


 胸を張ってそう言う少女は、愛よりも輝かしく誇っている。

実の親子ではないが、それでも頭を撫でるくらいの愛があってもいいだろう。


甘い時間なんて、俺達には似合わないかもしれない。















<終>







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