くちびるに歌を







 ――新年。


昨年暮れに起きた、フィル・マクスウェルによる第三世界大戦。聖王のゆりかごが起動し、多数の人型兵器が跋扈する戦争が勃発してしまった。

対応したのは俺が率いる特務機動課。時空管理局と聖王教会の精鋭達が集い、白旗やCW社全面支援の下で総力戦となった。

終には聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトや冥王イクスヴェリアまで復活する事態に発展したが、辛うじて俺達が勝利して戦争は終結した。


世界規模にまで発展した戦争を収拾させるのに年末までかかり、皆がようやく腰を落ち着けるようになったのは新年を迎えてのことだった。


「目標がない?」

「はい、教育プログラムそのものは双方共に優秀な成績を収めております。
ただ進路を聞かれると黙り込んでしまい、仮釈放が出来ない状態です」

「ええい、新年早々頭を悩ませやがって」


 ディアーチェが作ってくれたお雑煮を食べながら、オルティア副隊長から状況報告を聞かされてしかめっ面をする。

戦争の当事者となった聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒト、冥王イクスヴェリア、そして生体ユニットのイリス。

黒幕はフィル・マクスウェルではあるが、戦争の主力であり主要メンバーとして加担した者達は戦争犯罪者として厳しく罰せられることになった。


とは表沙汰には出来ない面子ばかりなので全員揃ってミッドチルダより追放、惑星エルトリアへ流刑処分となった。


「12月――この一ヶ月間で処分まで決定するのは、異例の速さだな」

「此度の戦争を無事集結させた英雄であらせられる隊長ご本人が、戦争時における全責任を負われたことが何より大きいです。
戦争犯罪者となった三名を隊長ご本人がエルトリアへ護送するとあっては、時空管理局や聖王教会含めて各方面も流石に気を使います。

この一ヶ月間、彼女達の事を集中的に取り調べた上で教育プログラムに専念させ、必要な諸手続きは全て終えております」


 オルティアはこう言ってくれているが、彼らの本音としては一刻も早く問題の種を追い出したいのだろう。

イリス一人であればどうとでもなるが、聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトや冥王イクスヴェリア程の人物であれば扱いにさえ困ってしまう。

生存が明らかになれば聖王教会や他宗教団体がこぞって騒ぎを起こすだろうし、彼女達程の強者を隔離できる刑務所はどうしても限られてしまう。


そもそも過去の偉人が現代で戦争を起こしたとなれば、あらゆる恐怖の蓋が開いてしまうだろう。だからこそ、人の目の届かないエルトリアは理想とも言うべき極刑なのだ。


「一応申し上げておきますと、隊長ご本人は折を見て戻って頂けるように確約しておりますのでご安心下さい。
あくまで此度の処置は世論を落ち着かせる為の一時的な決定であり、隊長に罪がない事は誰の目にも明らかですので。

世間は隊長を称える声で満ちておりますので、拍手万雷でお出迎えいたしましょう」

「こっそり帰るつもりだから、やめてくれ……まあ俺が帰る頃には落ち着いているだろうけど」


 なにせ今の惑星エルトリアは問題点が山積みである。何しろ政府が見捨てた場所であり、人間が生存できる環境ではないからだ。

生まれ育ったアミティエやキリエは美しくも頑強な肢体に鍛え上げられているが、彼女達の両親は過酷な環境に耐えきれず病状に付している。

生命を育む大地は削がれており、生命を生み出す大自然は枯れ果て、生命を維持する環境は壊れている。まさに世界そのものを想像しなければならない難業だ。


当然だが、これから向かう予定の俺達だって耐えられる環境ではない。


「無防備に出向けば俺達もやばいからな、スカリエッティ達の準備は整っているか」

「隊長の目論見は見事に当たりました。惑星エルトリアという世界創造を訴えますと、ジェイル・スカリエッティは目を輝かせて協力を約束いたしました。
生体ユニットであるイリスのボディデータを分析して、戦闘機人達に惑星エルトリアの環境に耐えうる改良手術を施しております。

アミティエさんとキリエさんの協力も得て、白旗や各組織の方々にも人体に施すナノマシンやワクチンを注入して、環境適合処置を行っている最中です」

「俺も療養して自身のナノマシンやユーリより与えられた生命力を適合させたから、何とかエルトリア内でも活動は出来そうだ」


 世の中が年始年末で賑わっている中で、俺達は新年に向けた新しき世界への出発に向けて準備を進めていた。

ようやく迎えた新しき年になって各準備も整いつつある中で、各人員も年始年末休まずに余念なく頑張ってくれていたようだ。


となると、取り残されているのは残り二人か。


「オリヴィエは気が狂っているけど俺と一緒なら無害だからいいとして、イクスヴェリアとイリスはまだ落ち込んでいるのか」

「施設への隔離と教育プログラムの実施は法によって制定された処罰なのは間違いないのですが、説明しても聞き入れませんね。
このまま解放しても悪事は働かないとは思いますが、文字通り何もしないまま生きていくことになってしまうかと」

「それが分かっているから、教育プログラムを終えても釈放できないんだな。ちっ、面倒くさいガキンチョ共だな。
よし、ここは一つ俺が日本の伝統を奴らに叩き込んでやろう」

「日本の伝統――聞いたことがあります。世に難題が突きつけられたその時、隊長自ら祖国の伝統を振るって世に活を入れるのだと!」

「そんな馬鹿な事をお前に言ったのはシュテルだろうから後で殴っておくとして――とにかく、最後の教育監督官は俺がやるから手配してくれ」

「承知いたしました」


 こうして新年早々はるばるミッドチルダまで出向し、彼女達がいる隔離施設まで足を運ぶ羽目になってしまった。

正直なところアイツラにやる気がなくたって紐で引きずってでもこの世界から追い出すつもりだが、その光景をユーリ達に見られたら何言われるかわからないからな。

あの二人の扱いには施設も困っていたのか、オルティアの手続きは簡単に済んで、彼女達のいる施設へ案内された。


重傷を負わせたイクスヴェリアは退院まで長かったが、今では施設でイリスと席を並べて座っている。どっちも俺の顔を見るなり複雑な表情を浮かべるが、知ったことではない。


「新年あけましておめでとう、諸君」

「し、新年……?」

「えーと、何の話でしょうか……」

「斉唱!」


「「し、しんねんあけましておめでとうございます……」」


 言わされた感がすごいが、気力を失っている本人達は言い返す事も億劫なのか適当に挨拶を述べる。

元気がないと引っ叩いてもいいのだが、最近の教育現場は体罰に厳しいのでやり過ぎると各方面からクレームが飛んでくる。


仕方なく納得してやって、俺はオルティアに目配せをして、彼女達の机に準備を整えた。


「新年最初にして君たちに送る最後の授業は、書初だ!」

「まだなんか言い出したし、こいつ……」

「ど、どういった授業なのでしょうか」

「オルティア、説明してやれ」

「承知いたしました」


 書初とは日本の年中行事の一つとされているが、元々は宮中で行われていた正式な儀式なのである。

庶民にまで広まったのは江戸時代以降であり、書き初めで書いたものを燃やせば、その炎が高く上がると字が上達するといわれている。

新年になって初めて毛筆で字や絵を書くことで、自分の未来や目標を形にして一年を始める第一歩を踏み出す儀式なのだ。


オルティアが説明すると二人は顔を見合わせて、小さく息を吐いた。


「アンタの、やりたいことは分かったけど……書くことが思いつかない」

「あなたが直々に足を運んでくださったご配慮には感謝しています。貴方の決定に従いますので、どうぞ何なりとおっしゃって下さい」


 二人の返答は多少なりとも差こそあるが、基本的に言っていることは同じである。

やる気が無いのではない。罪悪感に押しつぶされて、自分の未来なんで何一つ見えないのだろう。

大勢の人たちに迷惑をかけてしまったのだ、自分一人が今更前に進むなんて出来はしないのだと高を括っているのだ。


少女が持つには重すぎる責任感、抱えようとする意思には感心するが同時に馬鹿げている。


「お前達は幾つか勘違いしている」

「? どういう事よ」

「まず1つ、お前達の罰はもう決まっている。エルトリアに追放して、あの惑星の開拓を汗水流して手伝ってもらう。
それでお前達が迷惑をかけたと思っている人達は納得しているし、お前らが今更あれこれ言ったところで何も変わらない」

「ですが、それでも――他になにか償えることがあれば!」

「そしてもう一つ、書初とは筆始めだ。目標や未来と言っても、遠くにある明るい先の話じゃない。
今お前達が記すべきは、目の前だ。まず何をやりたいか、何をするべきか、そこに記すんだよ。

お前達の未来を導くのは、大人である俺の仕事だ。ガキ共はまず、自分のやりたいことを考えればいい」


 こいつらにしても、なのはたちにしてもそうだが、最近のガキ共は将来のことを具体的に何でもかんでも重く考えすぎる。

子供の頃なんてパイロットになりたいとか、漫画家になりたいとか、それこそ剣を振り回して悪人をやっつけたいとかでもいいんだ。

大抵は大人になるにつれて夢は破れていくのだが、形そのものは崩れ去るわけではない。妥協をしたって、最初の想いはまだ残っているものだ。


年の初めに記された想いは、その一時を永遠にしてくれる。


「その書道セットはお年玉代わりに、お前達にやろう。出所するまで、硯の使い方を覚えておくように」

「えっ、教えてくれないの!? この白紙の紙にどうやって書けばいいのよ!」

「硯というのはこの真っ黒な石のことですよね、その使い方が分からないのですが」

「お前達の書く抱負を楽しみにしているぞ。俺からの授業は、終了だ」

「起立、礼」

「こいつ、強引にまとめてる!?」

「いくらなんでも横暴ですよ、教官!」


 ガキ共がワイワイ騒ぎ始める声を背に、俺は機嫌よく去っていった。

まあ、あの元気があるなら大丈夫だろう。何だかんだ責任感はあるし、書くまで必死になるだろうからな。

なのは達との生活による経験でわかる。ああいう頭のいいガキンチョは考えさせたらだめなのだ、何かさせればそれに集中するはずだ。


――後日、直筆で書かれた感謝と苦情の手紙が執念で届けられて、ユーリ達に笑われた。くそう、あいつらやりやがる。















<終>







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