軽佻浮薄なる霊の者ども







 ――高町なのはとフェイト・テスタロッサ、彼女達はクリスマスをあまり祝わないとの話。


子供というカテゴリーで言えば、子供らしいといえるし子供らしくないとも言える。考え方は大人に近く、価値観は子供に近い稀有な存在である。

思春期であれば当然とも言える繊細さだが、彼女達は生憎と小学生の部類に入る。誰が見ても子供達の仲間入りをしている二人が何故クリスマスを喜ばないのか、何となく想像がつく。

クリスマスが特別な日である事は承知しているが、あくまでも知識の範疇でしかない。周りが賑わっているから自分も楽しく思えるという影響を受けているだけだ。


ようするに、自分で楽しむ事が苦手なのだろう。


「それで?」

「クリスマスの喜びを教えてあげなさい」

「どうして俺があいつらとクリスマスを祝わないといけないのか、聞いたつもりだ」


「アタシは命令しているのよ」

「主人は俺なのに!?」


 俺の推測には大いに納得したくせに、俺の結論は全く聞き入れてくれなかった。アリサは大掃除の邪魔だと、明らかな理由を告げて俺を家から蹴り出した。掃除はメイドの領分、俺では勝てない。

まだクリスマス・イブだと言うのに、もう準備しろと抜かしやがる。財力に物を言わせて派手なパーティでもしようかと思ったが、うちの財布はアリサが握っている。

子供のクリスマスと言えばサンタクロースの出番だが、一人にやると他の子供達がねだってきやがるので悩ましい。俺には娘や妹達が勢揃いしているので、枝葉を伸ばすのはやばい。


毎年クリスマスプレゼントに悩むのは嫌なので、今日は趣向を変えてみる事にした。


「クリスマスパーティを行う」

「なるほど、それで私をミッドチルダから呼んだのですね。お手伝い致します」

「フェイトちゃんと一緒に、なのはも一生懸命手伝うね」


 立派なパーティ会場をセッティングすると激しく遠慮するマセた子供達なので、主人に事前にお願いして高町家をお借りする事にした。

ひと声かけただけでノコノコやって来たフェイトと、ひと声かけただけでニコニコやって来たなのは。金に困った誘拐犯は、こいつらに声をかければいいと思う。

早速手伝おうとする子供達を無理やり椅子に座らせて、準備。普通は客が来る前に準備するものだが、今回の趣旨はクリスマスを楽しませる為のもの。

あくまで俺個人の感想でしかないのだが、パーティとは準備する所を見るのも含めて楽しむものだと思っている。


では早速、あの子達を喜ばせるパーティの準備を――


「あの、おにーちゃん。一つ、聞いてもよろしいでしょうか?」

「どうした、なのは」


「――実に迫力のある、その山羊の首がとても気になるのですが」


「藁で編んだヤギだ、古代ゲルマンのクリスマス祭だぞ。お前達を見守っていてくれる」

「先程から盛大にヤギの目がなのはを睨んでおります!?」


 北欧のクリスマスはユールと呼ばれており、藁で作ったヤギを飾る風習がある。現地から取り寄せたかったが、海外から取り寄せるとロシアのマフィア達もセットでやってくる。

だからこそ祝いの気持ちも込めて自分で作った力作なのだが、なのはがフェイトの影に隠れて悲鳴を上げている。何故だ、俺の会心作だぞ。

微笑ましい動物だと迫力が足りないので、視線に人を殺せる迫力を込めている。この眼力は自信があったのだが、真正面に座るなのはがひたすら怖がっていた。


贅沢な奴だ、渋々力作のヤギは片付ける事にする。


「リョウスケ、私からも聞いていいかな」

「いいぞ、フェイトちゃん。何でも聞いてくれ」

「リョウスケが私をそんな風に呼んだことは一度もないよね!? えーと、そうじゃなくて」

「うむ」


「そのクリスマスのヤドリギ――動いているように見えるけど」


「カイキセイヨウヤドリギだ、クリスマスの日に部屋に飾るんだぞ。お前達をあらゆる恐怖から守ってくれる」

「怪奇の名のつくヤドリギの方が怖いよ!?」


 欧米では、クリスマスの日にヤドリギを室内に飾る習慣がある。ヤドリギは宿り木とも呼ばれるが、寄生木という名もまた存在する。

どうせなら本格的なものがいいと、嫌がる那美に頭を下げてお願いしたのだが、フェイトは微笑みつつも汗をにじませている。現代っ子は贅沢である。

渋々片付けようとすると首を絞められたので、反撃。三十分の死闘後、何と片付けた時はフェイトやなのはから疲れた顔で労を労われてしまった。


これには、異を唱えたい。


「ヤドリギの下で出会った男女はキスをしてもよいとする習慣があるのだぞ、お前達」

「えっ、おにーちゃん!?」

「リョウスケ、積極的……!」

「ロマンティックだろう、少女たちよ。フフフ」


「クリスマスプレゼントをキスで済ませるつもりですね、おにーちゃん」

「経済的だね、リョウスケ」


 あっさり見破られてしまって、舌打ち。そういうところが子供らしくないのだと言われるんだぞ、お前達。

宗教的中立の観点から祝ってやろうという親心と、経済的余裕が無いので安く済ませようとする思惑。簡単に見破られると、舌打ちするしかない。

戦術的思想を主とする魔導師達には敵わない。白旗を上げて、ヤドリギを片付けた。やはり金をある程度かけないと駄目らしい、残念だ。


祝う気持ちを、込めてやるとしよう。


「お前達のために、プレゼントを用意してやったぞ」

「ほ、本当ですか、おにーちゃん。ありがとうございます!」

「子供なんぞと手加減せず、俺でも抱えきれない大きなプレゼント箱を用意してやった」

「そんなに盛大なプレゼントなのですか!? 嬉しいです、リョウスケ!」

「少し待っていろ。ユール・ゴートではサンタクロースではなく、妖精がプレゼントを持ってきてくれるんだ」


「ミヤちゃんの小さい体では不可能だと思います、おにーちゃん!?」

「アギトには持てないよ、リョウスケ!?」


 何故、その二人に頼んだと分かった!? なのは達を喜ばせる為だと必死で説得して、ミヤとアギトに運んできてもらう筈だったのに!

日本では魔法は禁止だとロマンチックに注意したのだが、それが仇となったのか、連絡を取った時二人は路上で潰れてしまっていた。道端で遭難である、やれやれ。

それでもきちんと運ぼうと努力してくれる辺り、やはりいい奴らであった。なのは達も焦ってこそいたが、気持ちは伝わったようだ。


二人して顔を見合わせて――笑顔で、立ち上がった。


「何の準備もいらないですよ、おにーちゃん」

「クリスマスの日、こうしてリョウスケが一緒に過ごしてくれるだけで十分ですから」


「むっ……」


 だからそういうところが子供らしくないのだと呆れてしまうが、彼女達の笑顔の押しには負けてしまった。

思えば、いつもそうだった。結局、何だかんだでこの子達の押しには誰も勝てなかったのだ。だから大人達は弱り、それでいて愛してしまう。


――亡霊のようにつきまとう、クリスマスの風習。子供らしさという、習慣。



彼女達は、そんなものには負けない強さを持っている。



「では、改めて」

「「メリークリスマス!」」


 聖なる日を祝福するなのはとフェイト、二人は子供らしく笑っていた。
































































































<終>







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