未来の破片 エピソード2 兄と妹、男と女 第3話
「あの男」から「先輩」に、「アイツ」から「ティアナ」に変化して――剛なる心に、柔らかな涼風が吹いた。
笑顔が増えたのも、その頃から。熱過ぎる努力は健やかな熱意へ姿を変えて、俺と接する機会が増えた。
事あるごとに俺に挑戦し、なのはに苦笑される日々。
模擬戦は遊びではない――基礎練習の大切さと事件に対する危険性を分かっているから、彼女は常に本気だったのだと思う。人を嫌い続けるのは苦手なのだ。
理由は単純で疲れる上に、いつまでも嫌な感情を胸に抱きたくなかった。人生は一度きり、何が悲しくて面白くもない気分をずっと抱えなければならんのだ。
ティアナとの関係の変化は、喜ばしい事だった。
挑戦されるのはうんざりだが、顔を合わせる度に嫌な顔をされるよりはずっといい。
プライベートで会う時間も増えて、仕事以外の話をするようになった。本当に他愛のない話を、明るく。
勝負を挑まれる回数も次第に減るのと引き換えに、ティアナより向けられる笑顔の数は増えていく――
そんなある日、恋の女神から贈り物が届いた。
クラナガン都市部に誕生した超近代的な総合レジャービル『セントピア』の優待チケット。
常に変化し続ける世界の本質を見極め、そこに暮らす人々の新たな憩いの場所として誕生した。
沢山のスポーツ施設にショッピングコーナー、世界各国の名物料理が出揃う飲食店――ゲームセンターなどの遊戯場に医療施設と、地域密着型の総合レジャービルである。
多種多様な文化と人種が集う都市の躍動をコンセプトとしたこのビルは大々的に宣言され、今年来たるべきオープン日を迎えた。
その優待チケットが、アリサの元へ贈られてきたのだ。
お客様としてか、別の付き合いがあるのか――聞くのは怖いので止めておく。恐るべき人脈だった。
遊びに出かけるのは好きだが、アリサは人混みを嫌う。前世の悲劇的な結末が、無数の他者を拒んでしまう。
ミッドチルダは次元世界の中心地――奇跡で成り立つアリサの存在に気付く者がいないとも限らない。
アリサは快く俺に譲ってくれた、のはいいんだけど。
――さて、困った。
俺だって人混みは大嫌いだ、大勢の人間がたむろする場所なんぞ行きたくない。一人で剣でも振っている方が有意義というものだ。
海鳴町へ辿り着いて色々勉強させて貰ったが、孤独を好む精神まで変わらない。
かといってチケットを破るのは、アリサの好意を踏み躙る事になる。十年も付き合っていれば情も移る、今更アリサを手放す気にはなれなかった。
悩んだ末にふと、ティアナの顔が浮かんだ。
訓練の毎日、休みもトレーニングの真面目な女の子。
この前もなのはとトラブったらしいし、気分転換に誘うのも悪くないかもしれない。
機動六課に出向いて本人に確認したところ、珍しく困り顔。俺とのデートを嫌がっているのかと最初思ったが、どうも休日を取るのが難しいようだ。
早速、俺は異世界の部隊長殿へ確認を取ってみる――
<続く>
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