未来の破片 エピソード2 兄と妹、男と女 第1話
次元世界ミッドチルダの首都、クラナガン。
広大な次元世界の中心地と呼ばれる都市で、時空管理局本部が存在する。
高層建築が建ち並ぶ精密度の高い都市だが、辺境地域には豊かな自然が生命を育んでいる。
世界規模の交流が盛んに行われているこの都では様々な人種が存在し、価値観と文化を持ち生活を営んでいる。
彼らを統一しているのは、自由な意思と不自由な法律。
管理局が定める正義が世界を管理し、巨大都市に住む人々の平和と安全を約束している。一つの都市が一つの国家を形成し、一つの世界を生み出す。
多世界を平定するミッドチルダ――平和と平等、経済と文化の都クラナガンを知らない人間はいない。
クラナガンへの上京は若者の憧れであり、ミッドチルダでの成功は裕福な将来を約束されたも同然である。
彼の地は夢の都――輝かしい夢は世界に光を照らし出し、人々を魅了する。高度に発達した文明を持つこの世界において、名を馳せる意味は大きい。
良くも、悪くも――
「……流石先輩ですね、私尊敬しちゃいます」
「……至近距離で釣り目を尖らせるな、怖いから」
俺は自分でも分かるほど引き攣った笑みを浮かべる。
隣に座る少女の純粋無垢な微笑みが眩しい。
目鼻立ちの整った容貌なだけに、笑顔が綺麗で――恐ろしく映る。
「本当にビックリしました。あ、大丈夫ですよ。コレが先輩の仕業だなんて、私思っていませんから」
「あ、ありがとう、信じてくれて。お前に信頼されるのが一番嬉しいよ、俺は」
「私は全っ然、先輩に信頼されていませんけどね。今日の約束も守って頂くのにとても苦労しました、うふふ」
凶悪な微笑を浮かべる女の子、ティアナ・ランスター。
磨き抜かれた意思に輝く瞳、通った鼻筋、形の整った薄桃色の唇。同姓でさえ見惚れる凛々しい横顔に、強く惹き付けられる。
十代特有の未成熟さが少女の危うい色気を誘発させて、確かな存在力と魅力を放っている。
今日のデートの相手なのだが、不機嫌にさせてしまったらしい。だって、世間体ってもんがあるだろう。
――十歳以上、年下の女の子とデートなんて。
我が家のメイドさんや忍辺りが聞けば容赦ないツッコミが来そうな言い訳を、こっそり胸の奥で呟いた。
口に出せば、大人の主張が返って来そうで怖い。
「ところで先輩――素直に告発すれば、今なら軽い刑罰で済みますよ。安心して下さい、自首扱いにしますから」
「信用してねえだろう、これっぽっちも!」
「今すぐ黙らないと、貴様らから撃つぞ!」
<続く>
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