To a you side 外伝4 漆黒の戦乙女と孤独の剣士(後編)



※この物語はTo a you side本編を先に読まれると、よりお楽しみ頂けます。




 口コミで広がっているのか、開店前から翠屋に人が集まり始めた。

御馴染みの客や休日のカップル、主婦達が並んでいる。


――あんな暇な騎士達とは違う、本物の客。


俺の給料が群れとなって集まっているかと思うと、ちょっとだけ心が和む。



…何しろ、頭痛の種が俺の隣に並んでいるからな。



「…何でお前が手伝いに来たんだよ」

「むぅ…おにーちゃんは、なのはが来ると迷惑ですか?」

「うん」

「そ、そんな事はないよって言って下さると、嬉しいのですが…!?」


 高学年になって身長も伸びてきているなのはだが、こういう性格面は変わらない。

本気で慌てる素直さが可愛くて、何度からかっても飽きない。

ヴィータの奴にからかわれた鬱憤が晴れた。


「実際問題、何でわざわざ来たんだ。
お前今日確か塾だろ?」

「夕方からなので、時間は空いてます。
おにーちゃんとフェイトちゃんのお手伝いがしたかったので」


 反対側の金髪さんが、少し震える。

心の底から申し訳なさそうな顔をして俯くこいつも、ちょっと挙動不審だった。


「…何でフェイトが今日此処の手伝いをするって知っていたんだよ、お前」

「そ、それは、その…」


 今度はなのはが顔を真っ赤にして、モジモジする。



…聞いてたな。



直感だが、ほぼ間違いない。

俺様人脈は数が多いので、電話連絡に忙しくて周囲に目を向けてなかった。

確かなのはを風呂へ入らせている間だったから、風呂上りにでも聞いたのだろう。

話を聞いて仲間外れにされたとでも思ったか、俺とフェイトが一緒なのが嫌なのか――



――ま、どっちでもいいか。



「立ち聞きとは趣味が悪いな、未来の管理局員殿」

「はぅぅ…」


 愉快痛快。

優等生のなのはがポカをするのは珍しいので、突っつき甲斐がある。

あまり苛めると後の戦闘訓練が怖いので、程々が肝心。

俺はなのはの耳に口を寄せる。


「…お前、フェイトを苛めたな。あんなに怯えて、可哀想に」


 ヒソヒソ声に、なのはらしい小声が返る。


「ご、誤解です!?
フェイトちゃんは接客が初めてだと聞いたので、心得を教えただけです」

「心得…?」

「はい。お客さんには笑顔で挨拶とか、ありがとうございますを忘れずに――とか。

それと、発声練習もしました。

フェイトちゃん声が小さいので、ついつい指導に熱が…」

「…納得」


 この仕事、フェイトが進んで引き受けたんじゃない。

俺がゴリ押しして、渋々手伝いを承諾したと言っていい。

何の覚悟もない内気な少女が、翠屋の鉄則と桃子直伝のなのはの指導を受けたらビビって当然だ。

なのははこっそりフェイトを見ながら、俺に尋ねる。


「でも、不思議です。
フェイトちゃんはこういうの、嫌がるかと思ってました」



 …嫌がりましたよ、ええ。



無理やり連れてきたとは言えないので、曖昧な笑み。

愛想笑い可能とは、俺も丸くなったもんだ。

なのはは顔を俯いて、



「…おにーちゃんがお願いしたから、かな…」



 どこか遠い目で、なのはは呟く。

俺も同意するように頷いた。


「素直な奴だからな、あいつ」

「うー、合っているようで間違えているような…」


 とりあえず背後関係は分かったので、フェイトの元へ。

傍目で見て分かるほど、フェイトは緊張していた。

戦場では華麗なフォームでバルディッシュを振るう身体が、ガチガチに固まっている。


「…大丈夫か、お前」

「は、恥ずかしいです…」


 ――開店後卒倒するんじゃないか、こいつ…?

不安になってきたので、なのはを手招き。

三人で顔を寄せ合って作戦会議。


「役割分担しよう。

なのは接客、フェイト会計、俺商品の梱包」

「こ、個々の長所を生かす作戦ですか…」

「なのはが前線で頑張ればいいんだね」

「うむ。

お前の笑顔とフェイトの演算能力、剣で鍛えた俺様の手さばき。

完璧なフォーメーションだ」

「が、頑張ります…」

「このチームなら、誰にも負けないね!」


 ――ガッチリ手を組む俺達三人。


何かが間違えている気がするが、気にしない。



こうして、喫茶翠屋の新商品販売が始まった。 















 高町桃子、彼女の経営する店は海鳴町でも評判が高い。

店長本人も人徳者で、彼女の人生に汚点は何一つない。

陰口の叩き様のないこの世でも数少なく、桃子は間違いなくその一人に入る。

毎日仕事に精を出し、御近所付き合いも忘れず、子供達の世話もする。

休む暇もない人生だが、彼女は楽しんで生きていた。

そんな桃子が作る御菓子には、沢山の想いが詰まっている。

客は御菓子を通じて桃子から元気を貰い、日々の糧にする。

本日発売の御菓子も、朝早くから御客さんが買いに来てくれた。

店員と客の隔てりが薄いこの店では、客がよく話しかけてくる。



これがまた、俺にとっては迷惑で――






「よう、坊主。とうとう店を継ぐ決心をしたか」

「長男・長女がいるだろ、この店」

「あら、今日はなのはちゃんの他に可愛い店員さんがいるのね。
宮本君の御友達?」

「なのはの友達かどうかまず聞かないか、普通!?」

「アニキー、ロリはやばいっすよ、ロリは」

「帰れ、てめえ! あ、シュークリームは最低五個は買ってけよ」

「あ、あの…しゃ、写真撮影、いいですか?」

「シュークリーム十個でなのは。百個でフェイト――


――冗談だから真剣に怒るな、デバイス共!?


なのはもいちいち落ち込むな!」

「ちょっと聞いてくださいよー、良さーん。近頃あいつむかつくんっすよー」

「女子高生の熾烈な争いは後で聞いてやるから、コーヒーでも飲んでけ」



 無論こんな御近所連中だけではなく、ちょっとした知り合いもいる訳で――



「やっほー、良介君。先生割引とかあるよね? よねー?」

「…何故俺が今日バイトだと知っている、鷹城教師」

「レンちゃんに聞いたの。先生として、可愛い生徒の近況はいつも気にしているのです」

「素直に暇だったと言え」

「…反省文、書かせようかな…」

「卑怯だぞ、お前!?」



「よう、店員。エプロンが実によく似合っているぞ」

「すげえ皮肉られてる気がするぞ、真雪先生」

「那美が気にしてたぞ。申し訳ないことをしたって。
わざわざ見に来てやったんだから、サービスに一個寄越せ」

「そのサービス許したら、寮の連中が押し寄せてくるからやだ」

「ちぇ、宣伝してやろうと思ったのに」



「こんにちは、良介君。うふふ、エプロンつけているのね」

から聞いて来たのか…庶民の味は合わないと思うぞ、さくら・・・

「美味しさに階級や国境は関係ないわ。

…折角買いに来たんだけど、やめようかしら」

「いらっしゃいませ。貴方のご来店を心よりお待ち申し上げておりました」

「…世渡り上手ね、良介君。写真撮影、いいかしら?
忍に頼まれたの」

「…本人が来ない辺り周到になってきたな、あいつも」



「およ、どうして良介が働いているのだ?」

「そっちこそ店はいいのか、美緒」

「休憩中。良介、煮干しとこれを交換しないか?」

「…せめて、等価交換にしてください」

「ケチな奴なのだ」



「なるほど…フェイトちゃんを味方につけたんだ、やるね」

「人望の勝利って奴だ、エイミィ」

「ところでそのフェイトちゃんが小銭落として慌ててるようだけど、大丈夫?」

「げっ。
だ、だから少しは落ち着けって、フェイト」

「あはは、お邪魔様」



「忙しそうですね、良介さん」

「お、槙原先生。久遠の事では世話になったな」

「いえいえ。また寮の方にも遊びにいらして下さいね」

「…リスティと真雪がいない時にでも、ええ」

「さすがの良介さんも、あの二人は苦手なんですね…」






 ――午前シフト、終了。






疲労困憊。

暇人が多すぎるぜ、この街。

変人――人間かどうか限りなく怪しい奴等ばっかりだけど。

なのはの接客とフェイトの懸命な作業で、最初の山場は越えた。

昼休憩時間なので、先になのはを行かせる。

あいつがいるとフェイトと話も出来ない。


「どうだ、初めての接客業は」

「…平気…」


 緊張の連続で膝が笑っているぞ、金髪少女。

見つめる俺の視線に気付いてか、フェイトの瞳が鋭くなる。


「わ、笑わないで!」

「笑ってないぞ、失敬な」

「満面に笑みを浮かべてる!」


 冷静なフェイトも、店頭商売の最中では興奮もするらしい。

普段は軽く流す俺の言葉も、顔を赤くして食って掛かる。


「悪い、悪い。でも、慣れてきたんじゃないか?」

「思うようにはなかなか…」


 一流の魔導師も群集の目には弱いようだ。

機械の操作は簡単に覚えたが、本人が緊張していたら意味がない。

小銭を落としたり、数え間違えたりと、なかなか大変だった。

計算ミスをしないのは流石と言える。

弱り切ったフェイトを笑って励ましていると――馴染みの客が来た。

電話した以上、絶対に来ると予想していた。



御人好しランキング首位を争う、この二人――



「こんにちは、良介さん。
…ごめんなさい、今日は御手伝いが出来なくて」

「フェイトちゃんが手伝ってくれてたんか、良かった。
本当はわたしも行きたかったんやけど…」


「はやて、フィリス先生も」


 車椅子に乗るはやてを押して、フィリスがやって来た。

私服に白衣と、実に分かりやすい格好の二人。

足の診断の帰りなのだろう。

フェイトには教えてなかったので、二人の来客に驚いている様子だった。


「どうや、お客さん来てるか?」


 店先を覗き込むように、はやては楽しげに語りかける。


「お蔭様で。
フェイトのエプロン姿に、男性客が殺到しています」

「…恥ずかしいからやめて…」

「良介さん、フェイトさんを苛めては駄目ですよ。

――でも、本当に可愛いですね」

「うんうん、携帯で写真に取りたいわ」

「せ、先生!? はやてまで、もう…」


 見知らぬ客より、身内の方が羞恥心は増す。

フェイトの頬は林檎のように真っ赤だった。

凛々しいフェイトが素直な感情を見せるのは新鮮で、俺としては御満悦だった。

はやても同じく、ホクホク顔。


…嫌なところで、家族の繋がりを感じた。


「昼飯まだだろ? 二人とも喫茶店で食ってけよ。
フェイトもついでに休憩入っていいぞ」

「え、でも…」


 従業員にも寛大なのが、桃子のお店。

客に混じって食事を取っても、桃子は笑って許してくれる。


「お客さんとの親睦を深めるのも、仕事の一環。
行って来いって」


 ? …な、何だよ…はやて、それにフィリスも。


休憩を促した俺に、二人は優しげな微笑みを向けている。

その表情は俺への合格点が示されていた。

何故だ。


フェイトは考え込んでいたが――


「…うん。ありがとう、リョウスケ」


 嬉しそうに笑って、フェイトははやての方へ。

俺に一言二言挨拶を交わして、三人は仲良く店の中へ入っていった。

なのははまだ帰ってこないので、俺一人。

接客業は大の苦手だが、最低限の挨拶だけして売り出していく。

クレームが来ない事を祈るしかない。


愛想笑いって身内には何とか出来るけど、苦手なんだよな…


内心愚痴をこぼしながら、売れたシュークリームの数を点検。



今日の報酬に思いを馳せながら、天気の良い空を堪能――うげっ。



――表向かい側沿いの、靴屋さん。



黒のブーツがシンボルマークの粋な店の屋根に、御注目。



屋根の影に身を潜めて隠れている、烈火の将。

広大な蒼穹の空を滑空する、空色の髪・・・・の少女。



偉大なる騎士と天下人の妖精が、揃いも揃って店の様子を伺っていた。


――正確には、俺の様子を。


周囲には気付かれていないが、泣きたくなる程修羅場を潜った俺には分かった。



…ごめん、嘘。普通に目立ってる。



軽く手招きするとシグナムはバツが悪そうに、ミヤは人目を忍んでミニ本を担いで飛んで来る。


「うえ〜ん、この街広過ぎますですぅ…」

「また迷ったのか、お前」


 眠っている隙に押入れに閉じ込めたこいつを、ヴィータが解放。

怒りまっしぐらに向かっていたようだが、一人ぼっちの不安に負けたようだ。

迷子の子供をあやすように、泣いて飛び込んで来たチビスケをポケットに入れる。

ランクアップしても、チビスケの泣き虫は変わらない。

俺のポケットは定位置だった。

案内役のシグナムは、どこか気まずそうだった。


「…すまない、盗み見るつもりはなかったのだが…」

「あー、何となく理由は分かるからいいよ。
他に助っ人が見つかって、何とかやれてる」

「そ、そうか。…申し訳ない事をした」


 手伝えなかった事を心から申し訳なく思っているようだ。

他の連中に、この義理堅さを見習わせたい。

今日のシグナムは普段着だが、凛々しい佇まいは失われていない。


「途中、迷子のミヤを見つけて同行させた。泣きながら、お前の名を呼んでいたぞ。
少しは大切にしてやれ」

「口煩いからな、こいつは。俺の行動にいちいち指図するし」

「当たり前ですぅ! 貴方はミヤがいないと駄目なんですから」


 ポケットの中で胸を張るな、小人。

手伝う気満々なのか、翠屋のエプロンを自分で作り出している。

無駄な力を使うなと言いたい。

自由行動がある程度可能なので、存在が非常に厄介だったりする。


「朝っぱらからシャマルとヴィータも来たぞ。
あいつらの行動を監視しておいてくれよ」

「…昨晩から熱心でな…止めようがなかった。

今朝も、大変だった…

ヴィータはお前に一矢報いたと大喜び。
シャマルはシュークリームを眺めて始終ニコニコしている」


 …不気味な光景である。

はやて家にはしばらく立ち寄らない事を誓う。


「ザフィーラも怖がって、影で主はやての護衛に専念している」


 奴の防衛本能の高さに感心する。

問題があるとすれば、俺の危機に直面すると容赦なく逃げるあの非情さだ。

何にしても、あんな奴らを仲間に持つシグナムの気苦労に同情。

俺は一旦厨房へ戻り、出来立てのシュークリームを渡した。

シグナムは目を丸くする。


「ま、待て!? 今日、私はお前から貰う権利はない。
お前に苦労させてしまった上に、こんな…」

「シュークリーム一個だ、気にするな。
普段世話になっている礼だと思ってくれ」


 シグナムの場合、下手に遠慮すると譲り合いになる。

戦闘では豪傑な剣を振る彼女だが、フェイトに似て私生活は奥ゆかしい女性なのだ。

無理に袋を渡すと困惑した様子で、



「…シャマルの気持ちが分かるな…」



「? 何が?」

「…いや。有難く頂いておく」


 ちゃんと受け取ってくれた、よしよし。

シグナムは礼を言って頭を下げて、ゆっくりと歩み去った。



――対立していたあの時が嘘のような、穏やかな関係…



人間関係は嫌いだが、あいつとの繋がりは悪くなかった。


「…シグナムには優しいですねぇ…うきゃっ!?」


 エプロンポケットのマスコットを叩いて、午後からの仕出しの準備。

程なくして、フェイトとなのはが戻ってくる。

仲良く話をしていた二人は俺のポケットに気付いて、歓声を上げた。


「ミヤちゃん、来ていたの!?」

「…こんにちは、ミヤ」

「えへへ、リョウスケの御手伝いをするのがミヤの役目ですぅ」


 ――でもお前、今日其処が定位置だぞ。


この街の愚民共に、最近はすっかり顔が売れている俺。

手出し・口出し・顔出しの激しいこいつの存在も、知り合い連中は殆ど知っている。

不細工ならともかく、チビスケは誰からも愛される可憐な妖精。

なのはやフェイトにも可愛がられていた。


「はやて達は帰ったのか」

「はい。リョウスケに頑張って、と」


 余計な御世話と言いたいが、あの二人は心から俺にエールを送ってくれている。

笑顔に裏のない人間達だ。

素直に受け止めておく事にしよう。






この街の人間は奥が深い――















 午後のシフトに入り、フェイトも少しずつ慣れて来ていた。

今日一日だけの金髪の看板娘に、御客さんからの人気も高い。

女学生や奥さん方に歓声を上げられて、恥ずかしそうに――小さく笑って、御礼の言葉を述べていた。

無論世界が違っても暇人は多く、何処から聞いたのか仕事を抜け出して見に来る始末。

ミヤはフェイトやなのはを見て、ニコニコ顔。

楽しい空気が大好きなのだ。

騒がしい時間は瞬く間に過ぎて――夕方となった。



高町家の御嬢さんは任務終了。



真面目ななのはには珍しく、塾に行くのを最後まで悩んでいた。

兄貴として、俺は優しく言ってやる。


「安心して行って来い。後の事は俺達でやるから」

「そ、そうですね。わたし、今日は無理に入った身ですし…でも」

「ユーノ達が後でフェイトの健闘を労ってくれるそうだから、心配するな。
皆と一緒に派手に騒いでくる」

「えー!? き、聞いてないです!?」

「お前、塾だろ」

「た、楽しそうです…ミヤちゃん、フェイトちゃん」


 助けを求めるな。

求められた二人は善人、申し訳なさそうな顔をする。


「ご、ごめんなさいですぅ…あぅ」

「な、なのは…大丈夫だよ。
わたしも参加はしな――」

「主賓は強制参加だ。

安心しろ、なのは。
写メールをリアルタイムで送ってやる」

「嫌がらせじゃないですか、それ!?

おにーちゃんの馬鹿ー! 苛めっ子ー!」


 負け惜しみを言って、なのは退場。

それでもサボらないのが、あいつの強さだろう。

誘惑に負ける心を宿していない。

この場合強い精神を持っているから苦しむんだけどな、あっはっは。

俺はミヤをポケットから出す。


「なのはについててやれ、チビスケ」

「…もう、仕方ないですねぇ〜」


 文句一つ言わず、チビスケはなのはの後に続く。


――俺の心情や行動を的確に察してくれるミヤ。


単独行動大好きな俺が疎ましく思わない、貴重な存在だった。


「なのは、可哀想…」

「甘やかすと調子に乗るから、あれくらいで丁度良いんだ。
俺も辛い」

「…嘘ばっかり。喜んでる」


 フェイトと話そうとすると、邪魔ばっかりしやがったからな…

お陰で、今日は殆ど二人で話せなかった。



兄離れしない妹め。



ようやく二人っきりになった為か、フェイトの言葉に他人行儀が消える。

夕焼け空の下で俺達は二人、客の少ない店頭に立っていた。



騒がしくも、あっと言う間だった一日。



温かな夕日が、仄かな日常を優しく演出してくれていた。



「…貴方が、少し羨ましい」



「どうした、急に?」


 ――フェイトは呟くように言う…

茜色に照らされた横顔に、少しだけ寂しさが宿る。


「沢山の人が…貴方を慕ってる。
色んな想いに満たされて、貴方は生きている。


――私には眩しく見える…」

「そういうもんかね…」
 


 ――最後に一人になったのは何時だったか、もう思い出せない。



好きで選ばなかった人生が、今の俺のど真ん中を貫いている。

一人は、今でも好きだ。

孤独な感情は、生涯消える事はない。

他人を拒否する心は、今も根強く俺の中に存在している。



変わったと気付いたのは、何時だっただろう…?



多分――


「――俺には、お前が眩しく見えるけどな」

「ど、どうして…? 私は、そんな――」





「俺よりずっと笑えてるよ、お前は」






 だよな、アリサ…?






接客は、笑顔が命。

満点の微笑で、フェイトのアルバイトは終わりを迎えた。








































































<終>







小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。


<*のみ必須項目です>

名前(HN)

メールアドレス

HomePage

*読んで頂いた作品

*総合評価

A(とてもよかった)B(よかった) C(ふつう)D(あまりよくなかった) E(よくなかった)F(わからない)

よろしければ感想をお願いします













戻る


Powered by FormMailer.