To a you side 外伝5 運命の女神達と孤独の剣士 戦乱の女神



※この物語はTo a you side本編を先に読まれると、よりお楽しみ頂けます。



 巷で呼ばれる『噂の人物』とは、大きく3種類に分かれる。

その1:自分で噂を広げていくタイプ。

その2:他の人が噂を広げていくタイプ。

その3:他の人から聞いた噂を、自分で広げていくタイプ。

大抵は2で広がっていき、3は特殊と言えよう。

噂は荒唐無稽であっても信憑性さえあれば、集団的錯覚すら生じる。

ある個人の噂が他の個人に伝わり、それがまた逆に伝わるという循環的なリアクションによって劇的に広まっていくのだ。

クロノ執務官との戦闘時、俺が用いた戦法もこの影響力を利用したと言える。

噂があらゆる個人に相互的に作用しあって、ますます強烈になり、一旦広がりを見せると感染していく。

その多くは集団の中で閉ざされて風化していくが、時にウイルス以上の感染力を発揮する場合がある。


個人を超えて、社会を超えて――世界を超えて。


噂に感染された人物は、群衆の中で個人に取って代わった何者かに変化する。

それはある種の催眠状態と同じで、少しの契機で容易に行動へと駆りたてられる。

集団の中で分析力や個性が喪失してしまい、個が全となって噂の性質が圧倒的になる。

噂の人物に屈服した諸個人の集合体と言い換えられるかも知れない。

噂に支配された群衆は集団的精神によって支配され、個人の意思を無視して人物像を作り出す。

英雄となるか、犯罪者となるか、噂が持つ属性と人物の行動次第――

ただ噂に感染された群衆は極端から極端へ走る傾向があり、相互作用の結果としての諸個人の行動を取る。

微弱な権力には常に反抗しようとしているが、強大な権力の前では卑屈に屈服するのが一般庶民。

群衆の中の個人は自分の意志を持って自分を導く力が無くなり、多数の人々が少数の指導者によって扇動されるという事態も生じる。



夜天の主八神はやて、烈火の将シグナム、湖の騎士シャマル――リンディ・ハラオウン。



この事件の結末は、彼女達に導かれた。















 正義と法の守護者――次元世界の治安を守る時空管理局。

約150年前に成立された正義の組織は、次元世界から質量兵器の根絶とロストロギアの規制を働きかけた。

管理局システムが及ぼす影響範囲は広いが、無限ではない。

ミッドチルダなど各々の世界を含む最も上位の構造が主で、俺の世界は管理外に位置する。

次元世界有数の巨大組織といえど、まだまだ発展途上――

社会的機能が成り立たない国や自然環境が荒廃した世界、文明が発達しない土地にまで治安維持を行うのは難しい。

リンディ提督の案内の下、俺の転送先はその一つだった。

広いだけの土地、自然の少ない台地、科学要素が見えない世界――

見晴らしがいいと言えば聞こえはいいが、ようするに何もない所である。


名も無き世界――人類未踏の地。



「――って、何処なんだ此処はぁぁぁぁぁ!」



 壮大な前振りを終えて、俺は広がる地平線に向かって叫んだ。

すげえ……全方位何処を見渡しても果てがまるで見えねえ。

罅割れた大地は人が想像する荒野を連想し、男のロマンを感じさせる。

一匹狼の旅路として相応しいが、あくまで一人限定の場合だ。



「……すげぇ気合入ってるな、チャンピオン」

「かのベルカの騎士を倒した男だぜ。血が騒いでるんだろうよ」

「俺達に負けられないな!」



 誰なんだよ、お前らは!!

砂糖に群がる蟻のように、俺を中心に荒野に凄まじい数の群集が集まっている。

人、人、人……男も女も、子供も年寄りも、人種も種族も、大よそ考えられる類の人間が群がっていた。


彼らに共通するのは――制服。


種類こそ違うが、所属する組織の象徴がその胸に刻まれていた。

正義の証『時空管理局』のエンブレム――陸海空を含めた各部隊の誇りが燦々と輝いていた。

規律正しい指示や号令が飛び交う中、哀れな民間人は呆然と佇むしかないのであった。


「来てくれたのね、リョウスケ。待っていたわよ」


 まるでデートの待ち合わせのように、向こうから手を振って歩み寄る女性。

翡翠の髪が美しい彼女の名はリンディ・ハラオウン――

俺をこんな軍隊カーニバルに招いた張本人である。

妖精の如き麗しき女性は俺の顔を見るなり、悪戯が成功した子供のように笑う。


「うふふ、やっぱり驚いたかしら?」

「驚くに決まってるだろ!? 何なんだ、この連中! 何処だよ、此処!?」


 完全武装した皆様と、草一本生やさない不気味な荒野を指差して叫ぶ。

人外魔境の本拠地であるさざなみ寮をようやく攻略したのに、次は世界の果てかよ!

美人提督の挑戦を受けた一時間後にこの展開――誰か、俺に安らぎを。

鼻息荒く詰め寄っても、うら若き未亡人は皺一つ浮かべない。


「リョウスケの希望を叶えてあげたのよ。追跡が届かない場所へ」

「せめて、地図に乗っている場所にしてくれよ……」

「彼女なら追いかけて来ると思うわよ」


 ――納得。絶対に尻尾を掴まれる、間違いない。

冷静に考えれば今回の騒動は俺の責任ではない気がするのだが、事情聴取の名の下に行われる説教も御免だった。

顔を合わす度にウダウダと言いやがるからな、あの女刑事は。

自動販売機もない場所だが、何も無い方が却って落ち着くかもしれない。

特に、今は女の顔は見たくもない。

さざなみ寮を出て、指定されたポイントで長距離転送――極めて強引な旅路だったが、そう考えると気分も良くなる。

この世界こそ俺が望んだ理想郷だ。


――誰も居なければ。


「……それで?
あの女と同類の制服を着ている方々はどちら様ですか」

「もう、リョウスケ。顔がすごく怖いわ」

「怒ってるの! 睨んでるの! 明らかに待ち伏せじゃねえか!?
俺を売りやがったな、アンタ!!」


 誰がどう見ても時空管理局の皆様に、猛然と抗議する俺。

しかも、一つや二つの部隊ではない。

地上部隊だけではなく、本局や空の連中まで続々と歴戦の兵が集っている。

魔力充実、デバイス準備完了、最新兵器搭載の完全武装の精鋭部隊。

どれほどの広域指名手配犯なんだよ、俺は!?

次元世界崩壊レベルの災害でも、こんなに人は集まらねえよ!

海陸空の縄張り意識は何処へ行った!?

優しい母の皮を被った裏切り者の胸倉を掴む。

――圧倒的な胸の柔らかにも惑わされない。


「落ち着いて、リョウスケ。そうだ! 一緒に御茶でも――」

「こんな状況で飲めるか!?」

「う〜ん、残念。折角親子水入らずで、久しぶりにゆっくり話しかったのに」

「ギャラリーが腐るほどいるだろ!」


 ――落ち着け、落ち着け。リンディのペースに嵌まっているぞ。

出逢った頃から見せられ続けた巧みな話術に、あっさり飲まれるな。

のほほんとした顔をしているが、若い身空で提督に登りつめた女性だ。

彼女独特の空気が人の心を掴み、時に惑わす。

根は良い人なので余計に性質が悪いんだよな、このお母様は。


「一から説明しろ。この面子は何処から連れてきた」

「私が連れて来たんじゃないわ。安心して、貴方に危害を加える為でもないの。
そもそも貴方を捕まえるならば、彼女本人を此処へ連れて来れば済む話よ。

こんな大部隊、大袈裟――とも言えないかも知れないわね、貴方の場合は」


 ……どういう意味ですか、お母様。

どいつもこいつも、人様をトラブルタイフーンのような言い方をしやがって。

花を愛で、歌を愛する風流な男なんだぞ。

そんな俺の戯言はともかくとして、リンディの今の説明は頷ける。

あの女は既に追跡を開始したのだ。

わざわざ罠を張る必要はない。

待ち伏せをするにしても、確実に自分一人で堂々と構える。

姑息という言葉が何より似合わない女だ。

リンディは気合漲る大部隊を一瞥して、言い放った。


「この人達はね――貴方と戦う為に此処へ来たの」

「……は?」


 戦うって貴方――人数、三桁余裕で超えているんですけど。

この人達、時空管理局員ですよね?

私のような風来坊と戦って、彼らに何の益があるというのか。

困惑する俺を楽しげに覗き込んで、そっと囁いた。


「貴方が海鳴町で宣言した公約は、此処に居る皆さんが知っているわ」

「ちょっ、ちょっと待て! お願いしますから、冷静になって下さい!?」

「……冷静になるのは貴方の方だと思うけど」

「集まったメンバーの中に、むさ苦しい男共の顔ぶれがあるじゃねえか!?
女性局員も確かに結構な数いるけど、子供や年寄りまでいるぞ!


ホモにロリコンに年増好き、勿論同世代も歓迎さ――ってどんだけオールオッケーなんだよ、俺は!」


 選り取りみどりにも程があるわ、アホンダラ!

つーか何、皆俺と付き合いたいの? 冷やかしだよね、頼むからそうだと言ってくれ!

会った事がないどころか、生涯縁が無さそうな人達がてんこ盛りですよ。

困り顔の俺を見つめて、リンディは綺麗な人差し指で頬をつつく。


「リョウスケ、もてもて〜」

「やかましいわ!」

「どの子が好みなのかしら? 
顔写真や簡単な経歴が貴方が持っている名簿に並んでいるから、一度見ていて。

特殊な電子ファイルだから、エイミィがデータを都度更新しているはずよ」

「ぐああああ、そういう仕組みか。あの野郎!」


 エイミィから最初受け取った時、中身は顔見知りだけだった。

それはそれでウンザリなのだが、一度確認した事実に安堵してしまった。

その時その時の戦況でスタイルを適応させていくのが、俺流の戦い方――

同じ部屋で過ごした女だ、全て分かっていて俺を驚かそうと企んだに違いない。

今頃驚愕に震える俺を想像して、思い出し笑いを浮かべているだろう。

妙に親切だと思ったが、おのれ……全部終わったら嫌というほど泣かせてくれる。


「うふふ、冗談よ。貴方との交際を望んで集まったのではないわ。
もしかしたら中にはそういう人もいるかもしれないけど……大多数は、純粋に貴方との模擬戦を望んでいるの」

「部隊を規模にした大演習って事か? 俺個人を対象に選んだ理由はなんだよ。
時空管理局には、バケモノのように強い連中ゴロゴロいるだろ」

「深刻な人材不足なのよ、管理局は。

それにバケモノとは言わないけど――優れた強さを持つはやてちゃんやシグナムさん達に勝利した貴方の実力を、皆買っているの。
元々貴方は多くの事件に関わって来たから、名も知れている。
きっかけさえあれば、噂は簡単に広まるわ」

「だからって、この人数はおかしいだろ!? 
部隊規模だぞ、部隊規模!

常識的に考えて、俺個人の為に簡単に動くわけないだろ!」

「噂に多少、尾ひれが付いているようね」

「絶対、多少じゃねえし!?」


 シグナム達と戦ったのは本当だけど、勝ったのではなく敗北を認めさせたのだ。

真剣勝負――殺し合いは別にして、純粋に自分の技能を試す模擬戦ならば確実に負ける。

今回の場合俺の勝利と言うよりは、祖国の歴史がベルカに勝ったと言うべきだろう。

その話はどのような過大解釈されたのかは――この軍団の規模を見れば見当がつく。

しかし時空管理局が保有する全戦力ではないにしろ、現実問題陸海空の部隊が一堂に会するのは前代未聞だ。

混乱どころか、異様に統率が取れている。

演習でこれほど一致団結出来るならば、次元世界から犯罪が消えるんじゃないか?

世界の治安に関わる俺様の疑問に、リンディが答えてくれた。


「はやてさんを中心に、シグナムさん達がそれぞれの部隊に自ら出向いて仲介してくれたの。
指揮官や部隊長、上層部にまでかけ合ってくれたのよ。
噂を聞いて、貴方との力比べを求める声が高まる一方だったから。

後何人来るか分からないまま、連日連夜相手にしてられないでしょう、貴方だって」

「そりゃそうだけど、一人で相手に出来る訳ねえよこんな人数!」

「大丈夫。御弁当を用意しているわ」

「ええい、このバカ母は!」


 運動会に応援に来た母親か、畜生!

運動会だったらチーム戦だけど、この演習は一対多数だぞ!

日本の伝統が奥深いとはいえ、限度があるわ!

第一こんな何もない荒野だと、環境がまるで生かせない。

俺個人の実力で勝てる奴って、この中でごく少数だろうな……

ミヤも剣も手元にないのだ、ハンディ戦どころではない。

流石に全員でボッコボコにされる訳でもねえだろうが、一人一人相手にしてたら何日かかるか分からん。


ならばいっそ負けてしまえば――と考えるのは、浅はか。


万が一この中に恋人希望者が居れば、敗北した時点で俺の人生が奪われる。

対戦相手一人一人戦う動機を尋ね回るのも疲れる。

誰がどんな思いで此処へ来たのか分からない以上、迂闊に譲るのは危険だ。

逃走もあまり賢明とは言えない。

こんな大部隊が何時までも維持出来る筈もなく、演習を放棄すれば自然に解散するだろう。

ただそうなると、リンディも言ったが一人一人バラバラに戦いを挑まれる羽目になる。

何時まで続くか分からないチャレンジャー螺旋も、真っ平御免だ。

ここで一気にケリをつけた方がいい。

ミッドチルダに流れた噂はエイミィが、海鳴町に流れる噂はアリサと忍が消してくれる。

主要メンバーはほぼ片付けたのだ、この有象無象共さえどうにかすれば実質この騒動は収まるだろう。


むしろ火種が飛び火する前に、一箇所に絞ってくれたリンディ達に感謝しよう。


「……なるほど、概ね理解出来た。
でも時空管理局承認なら、何でナックル女が出張るんだ?」

「リョウスケの迂闊な発言で、これほどの騒ぎに発展したからでしょう。
……本当に、私も驚かされたわ。

貴方のたった一言が、時空管理局全体を揺るがしたのよ」

「事態に取り残されているのは、他ならぬ俺なんですけどね。
――どうでもいいや、もう。

敵の規模と戦力を知りたいから、はやて達を呼んで来てくれるか?
俺も名簿見ながら、対策を練る」

「最高評議会からも直接、貴方個人に説明を求めて来ているけど――」

「追い返せ。相手している暇はねえ」





「――あら、冷たいですわね……」





 ――骨の髄まで響く、冷たい声。

魂すら凍てつかせる空気を纏い……一人の女が、俺の前に立った。


「少しだけ、御時間頂けませんか? 貴方とは是非一度、ゆっくりお話したかったんです」


 無邪気で優しく――けれど、何処か冷たくて。

最高評議会・・・・・から派遣された女性が、微笑を浮かべて俺を見つめた。




















































































<戦闘終了 孤独の剣士△――○翡翠の大和撫子

敗因:お母さん

ポイント:さざなみ寮→大規模演習地

負傷:頬にキスマーク(ガーゼ)・全身に埃・両手の平負傷(麻痺)・全身負傷痴漢中汚水
心の古傷・両腕損壊(緩和しました)、凍傷、貧血

装備:カップ酒スルメ柿の種はやてグラーフアイゼンクラールヴィント
アイスクリーム女の子文字・・・・・で書かれた番号とアドレスメモチビリイン(ミヤ)
   ミヤの歯型メロン・御土産酢昆布・黒のショーツ、レイジングハート(待機モード)
 


(※エイミィ・リミエッタより、以下の支給品を授かりました)



・携帯電話(ミッドチルダ製)
・耐刃防護服
・エイミィさん手製対戦者名簿・・・・・





謎の世界:




リンディ:(彼が来た事を報告)

はやて:(ウキウキ気分で彼の元へ→見知らぬ女性と話す場面に遭遇)

シャマル:(ドキドキ気分で彼の元へ→見知らぬ女性と話す場面に遭遇)

シグナム:(やれやれ気分で彼の元へ→見知らぬ女性と話す場面に遭遇)





謎の組織:




謎の研究者:(送られてきた男の顔写真を見ている)

謎のナンバー1:(ポットの中の少女に指示)

謎のナンバー5:(顔写真を見て、不敵に微笑む)





謎の寮:




なのは:(にゃー、またおにーちゃんがいなくなってる!? レイジングハートまで!?)

リスティ:(延期になった勝負に、複雑な苦笑い。オイルをそっと撫でる)





謎のマンション(正面玄関)


エイミィ:(今頃慌ててているであろう彼に、悪魔な微笑み)

謎の秘書:(今の主の状況を知らないので不機嫌)

月村:(隠れて様子見)





謎のマンション(駐車場)


謎の麗人:「忍の相手は私がするわ。貴方はどうするの? 貴方の意思で選びなさい」

ノエル:「――忍お嬢様と良介様を守るのが、私の仕事です」

※グラーフアイゼンを装備しました






謎の上空→地上へ:




謎の捜査官:(管理外世界で危険な戦闘行為を行った二人を、厳しく説教中)

謎の黒衣の少女:(頭にタンコブ、正座で半泣き)

ザフィーラ:(頭にタンコブ、服従のお座り)





謎の九州:





???:(突然、上空から消えたトラックに目を擦っている)

謎の運転手:(別区域にトラック駐車。気絶)





謎の同僚:(捜索願いの出ていた守護騎士を発見、保護)

ヴィータ:(バインドされて気絶)

※守護騎士システムに、飲酒属性が追加されました。











オイル:さざなみ寮

剣:高町家





被害状況:自然公園水没・翠屋営業停止・ミッドチルダ演習地(半壊)・ゴミ収集場(崩壊)
グラーフアイゼン(時空の彼方)・マンション前(半壊)・月村邸(絵画・家具・窓ガラス)、ノエルのメイド服、少女の涙>








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