To a you side 外伝5 運命の女神達と孤独の剣士 砲撃の女神



※この物語はTo a you side本編を先に読まれると、よりお楽しみ頂けます。



 高町なのは、小学生。


母親譲りの柔らかな髪と優しい性格、愛らしい容姿で皆に好かれる女の子。

温かい家族の元で生まれ育った平凡な少女が、ある日小さな事件に襲われた。


純粋無垢な美少女に向けられた、古き伝統に縛られた凶刃――


涙も悲鳴も切り裂く刃から少女を助け出したのが、形無き剣だった。

気高い信念も、理想に満ちた未来も、何一つ映し出されていない刃――

守るべき少女さえ放り出して、無残に相打って終わっただけの虚しき事件。

老人の意志に共感せず、震える女の子の恐怖も和らげず、自分勝手に幕を閉じさせた。

俺は少女を守る騎士にも、老人の意志を受け継ぐ剣士にもなれなかった。

自己満足な酔っ払いを、少女の純真な瞳がまっすぐに見つめ続ける。

あの時なのはが何を感じ、何を胸に残したのか――それは今でも分からない。


それから二ヵ月後。


再び訪れた事件で、少女は自らの意志で戦う決意を固めた。

人を斬る鋭い刃ではなく、人を守る優しい杖を手にとって。


高町なのはは――魔法少女となった。


欲したのは悪を倒す究極の『力』か――悪を救う確かな『言葉』か。

彼女の心に輝く光を、俺は誰よりも良く知っている。


俺と繋ぎ合った、暖かな手。

少女が照らしてくれた、確かな心――


無上の信頼と天下無敵の親愛を乗せて、俺は叫ぶ。

こざかしい念話など、必要はない。





俺は科学技術に塗れた魔法を越える――『言葉』を知っているから。















「なのはーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」















「ぐす……おにーちゃん、おにーちゃん……えぐ……」

「……うぐぐ……レ、レイジングハート。こいつ、宥めてやってくれよ」

『マスターを悲しませた貴方に責任があります』


 日頃クールなレイハ姐さんだが、今日は御立腹のようだ。

先程から事情説明を求めているのだが、冷たく返されてしまう。

俺は心底困り切って、行き場の無い手を伸ばす。


――俺の胸の中で泣き濡らす、小さな少女の背に。


「いい加減泣き止めよ、お前……

助けを呼んだ俺が何故、助けに来た奴の涙を止めなければならんのだ」

「だって、だって、おにーちゃんが生きてて……ぐす……すごく安心して……」

「勝手にお前の中で死んだ事にするな!? 

――俺の声がちゃんと聞こえただろ」

「うぐ、ひぐ……は、はい……おにーちゃんの、温かい声が聞こえて……嬉しくて……


おにーちゃん……ふえぇぇぇぇぇぇん!」


「あー、もう、ごめんごめん! 悪かった、悪かったって!」


 泣き喚く女の子に、理屈など求めてはならない。

大人に取っては些細な理由でも、子供には人生を揺るがす程の衝撃を心に与えるのだ。

こういう場合感情的にならず、謝って励ましてやるしか出来ない。

二十歳を超えても親に縋る馬鹿な若者に比べれば、なのはは余程しっかりしている。

桃子達すら驚かせる考え方を持ったり、リンディ達が目を見張る行動力を見せたりもする。

精神年齢がずば抜けて高く、現実を見据える強い女の子――高町なのは。


――でも、それは表の顔に過ぎない。
 

生まれてすぐ後に大事な父親を喪い、幼い頃片親で寂しい家庭環境を過ごしたなのはが育んだ女の子像。

手間のかからない子供として、母親や兄姉に心配させないように見せ続けた優しい少女の顔。


俺にとって大事なのは――強い心に隠された、小さな弱音。


感受性が高く、些細な事でも一喜一憂する素直な女の子。

勿論、大事なのは表でも裏でもない。

表も裏も含めて、素直な涙を見せるなのはが可愛――くないよ、うん。

ミヤが聞いたらズッコケそうな言い回しに、我ながら苦笑する。

とにかく、俺に懐く妹として受け入れてはいる。


「でも実際問題、俺が死んだってデマは何処から流れてるんだ……?」


 なのは関連なら、海鳴側よりむしろ管理局側が怪しい。

俺一人罠に嵌める為に、ミッドチルダ演習地を借り切る無駄な行動力を持つ連中だ。

面白そうな噂が流れれば、あっという間に広まる。


『貴方と守護騎士達との戦闘内容を、マスターは聞き及んでいます。
鉄槌の騎士ヴィータのギガントシュラークに、素手で対抗した事も含めて――

――貴方の生存に、私も驚かされました』

「あー、なるほどね……」


 いい感じに焼け野原になった演習地を思い出す。

直接見たならともかく、人から聞いた話では真偽を疑って当然だ。

ヴィータのギガントは破壊力bP、鉄壁の防御力を誇るなのはのシールドさえ粉々に破壊する。

バリアジャケットすら纏わず、生身で戦って勝てる相手ではない。

俺だって当事者でさえなければ、ギガントシュラークを生身で食らって生きていたと聞いても信じないだろう。

よく生きていたもんだ、俺。

日本の伝統を駆使したとはいえ、身を挺して庇ってくれたシャマルに感謝しておこう。

――抗議は受け付けない。

俺の生存に純真に安堵して涙を浮かべるなのはを、俺は身を屈めて抱き締めた。


「馬鹿だな……俺がそう簡単に死ぬ訳無いだろ」

「でも――おにーちゃんはいつも怪我して……

ヴィータちゃんもすごく強くて、おにーちゃんの事は真剣で……なのはは心配で……」


 ……なのはも噂の事は聞いたようだ。

俺に挑むのではなく、俺の身を案じるとはなのはらしいな。

諍いは数多くあったが、ヴィータが俺の事を大事にしてくれているのは分かる。

好きだと言った気持ちは本当だと思うし、鉄槌の騎士として正面から挑んでくれた姿勢は剣士としても光栄だった。

気持ち一直線なヴィータはたまに突っ走り過ぎるところはあるが、百戦錬磨の戦士なのだ。

彼女の強さを一番良く知っているなのはが、心配するのも無理は無い。


「嘘はついた事あるけど、肝心な約束は破った事は無いだろ。

お前が応援してくれる限り、俺は誰にも負けたりしねえよ」

「っ――はい!」


 よーし、やっと泣き止んだ。

目を真っ赤にしながらも、笑顔を見せてくれたなのはに安心させられる。

ニコニコ元気ななのはの微笑みが、俺のような冷血な男の心すら癒してくれるのだ。

一人ぼっちの親友を救ったなのはの優しさは、天下一品だった。


「……和んでいるところ悪いけど」


 兄妹の微笑ましい語らいに、ゾッとするほど優しい声が響く。

恐る恐る顔を上げると――バスタオル一枚の美女が、笑顔を浮かべて俺を見下ろしている。

ちょっとした仕草が艶やかで、視線が惹きつけられてしまう。

内面は邪悪なのに、容姿端麗なので性質が悪い。

なのははようやく第三者に気付いたのか、もぞもぞ俺の胸から顔を出して――目を見開いた。


「リ、リスティさん!?」

「Hi、ちびちゃん。意地悪なお兄さんに振り回されて大変だね」

「あ、あの――は、は、裸で!?」

「此処は風呂場だよ。玄関から真っ直ぐ駆け込んで来たから、ビックリしたよ」

「はぅっ、なのははその……おにーちゃんに呼ばれて……あっ。

ど、どうしておにーちゃんがリスティさんと風呂場にいるんですか!?」


 悲しみが癒えて心が落ち着いたのか、至極当然な疑問に辿り着く優等生。

なのはを呼んだ時からこの展開は予想済みだが、涙で真っ赤に濡れた目で睨まれると怖い。

思わず怯む俺に、リスティはわざとらしく豊満な胸元を押さえる。


「君の愛しのお兄さんが、シャワーを浴びていた私に突然襲い掛かってきたんだよ」

「デマカセ並べるな!」

「許可無く、風呂場に押しかけてきたのは事実だろ?」

「おにーちゃん!!」


 計画通りの展開だけど――怖いっす、この妹さん。

プンスカ怒って詰め寄ってくる高町さん家の末っ娘に、俺は低姿勢で弁明する。


「待て、なのは。これには深い事情があって――」

「いいから早く出て行ってください! リスティさんも濡れたままじゃないですか!?」

「この方が色っぽいだろ? 大人の魅力を――」

「そのままだと、風邪を引いてしまいますよ!? 服を着て下さい!」


 俺を外へ押しやって、リスティを風呂場の奥へ押しやる電光石火の早業――

俺達の策略など、なのはの良識には通じない。

なのはの中立効果に満足しつつ、これ以上叱られない内に俺はその場を離れた。















 守護騎士戦のような直接対決ではなく、頭脳戦となると勝敗の判定は難しい。

特にリスティのような策略家は、退路を断つ罠を仕掛けてくるので性質が悪い。

俺のように口先ではなく、心理まで絡めた戦術を駆使してくるのだ。

ヴィータ達のように相手が潔く敗北を認めれば話は早いが、俺もリスティも諦めが悪い。

――ストレートに言えば、同類なのだ。

俺と違う点があるとすれば、リスティは正面からでも戦える実力を秘めている事――

腹が立って仕方ないが、日本の治安を守る高度な頭脳と才気を持った女性なのだ。

ク−ルビューティな彼女の罠にかかって、生き延びた人間はいない。

口先で誤魔化したところで、先を見通した戦術と状況証拠で逃げ場を失う。


そんな圧倒的不利な状況を覆すには――神風を吹かすしかない。


諸外国の脅威を吹き飛ばした日本の神風。

姦計を張り巡らした罠を粉々に吹き飛ばす、正統派魔法少女。

策略を練るタイプには苦手な存在――公正な審判。

悪党な俺でさえ切り札悪辣な陰謀を打ち砕く正義のヒロインが、悪代官を裁く。

敬遠の仲の晶とレンすら捻じ伏せるなのはの言葉の強さには、悪党の俺でも叶わない。

加えて、俺はリスティの弱点――クールな美貌に似合わない、子供や子猫の類には優しい性格を見抜いている。

効果は倍増と言うわけだ、ふははははは。


「また俺の勝利か……ふっ、自分の才能が怖いぜ」

『……』


 テーブルの上で無言のまま置かれているレイジングハートが、猛烈に気になる。

――なのはは今、リスティと一緒に風呂に入っている。

なのはの乱入で場は完全に乱れ、チェックメイトだった勝負も無効化された。

興が殺がれた俺達は、なのはの説教も加わって仲直り(?)する羽目に。

俺が生きていて安心したのか、なのはもバリアジャケットを完全に解除。

何故か薄汚れた病院服だったので、身体が冷えたリスティと一緒にシャワーを浴びている。

「にゃーっ!?」とか「くすぐったいです!」とか悲鳴が聞こえてくるのは、御愛嬌だろう。

風呂場を見事に追い出された俺は、誰も居ないダイニングでレイジングハートの番をしている。


――すまん、言い間違えた。


高町なのはのパートナーであるレイハ姐さんに、見張られていた・・・・・・・


「……さーて、ちょっとトイレに行こうかな」

『御手洗いでしたら、私も連れて行ってください』

「何でトイレにデバイスを持っていく必要があるんだよ!」

『マスターより、貴方を守るように御命令を受けています』

「トイレ中襲い掛かる奴がいたら変態だろうが!


――うおおおおお、折角エイミィが癒してくれた悪夢が蘇る〜〜!?」


 先日痴漢に襲われた惨劇を思い出して、身の毛がよだつ恐怖に襲われた。

ぜいぜい……二度と、女になんぞ変身しないぞ俺は!

俺はテーブルの上に置いた小さな赤い宝石を見下ろす。


「俺の行動を逐一監視する理由は何だよ」

『風呂場にさえ行かなければ、私は何も干渉しません』

「覗くつもりは無いって言ってるだろう!」


 この問答の繰り返しである。

席を離れようとすれば、自分も連れて行けの一言。

無視して出かけようとすれば念話で通報の気配を見せて、無闇に行動も出来ない。

レイジングハートは何をどう勘違いしているのか、俺がなのはの入浴を覗くのを必死で阻止しようとしているのだ。


――確かに風呂場に用があるのは本当だ。


目的は女の裸ではなく、風呂場に置いてあるオイル。

リスティがなのはと風呂に入っている今が、絶好のチャンスなのだ。

即効で奪い取って悲鳴を上げられる前に逃げれば、ベスト!

このままずるずると寮に長居すれば、自動的に宴会まで連れて行かれるのは目に見えている。

早く行動に移してこんな魔王城から逃げたいのに、レイジングハートが許してくれない。


『先程女性が入浴されている風呂場へ無断で押しかけた貴方を、とても信用出来ません』

「誤解だって! 

――今日は珍しく不機嫌になってないか?」

『貴方はマスターを悲しませました』


 ……お前らは何か、俺がヴィータを倒したらそんなに変だと言うのか!?

ギガントシュラークを受け止めた事実が信じられず、死んだと勝手に誤解する方が失礼だろ!


……うん、まあもう一度実証しろと言われたら全力で拒否しますけどね。


レイジングハートは、人間で表現すれば高潔な女性だ。

デバイスという形を取っているが、俺が数少ない尊敬している人物の一人である。

彼女の助言に救われた事は一度や二度ではない。

それゆえに、彼女の信頼を失ってしまったのが痛かったりする。

この分だと、素直にオイルの件を話しても許可して貰えないだろう。

どうしたもんか……と悩んでいる矢先に――エイミィに持たされたミッドチルダ製携帯電話に着信。

空間モニターがその場で展開される優れ物である。


発信相手は――



『リンディ・ハラオウン』



――美人ママさんの名前に、俺は猛烈に嫌な予感を覚えた。




















































































<戦闘終了 孤独の剣士×――×白い悪魔

敗因:高町なのは

ポイント:さざなみ寮

負傷:頬にキスマーク(ガーゼ)・全身に埃・両手の平負傷(麻痺)・全身負傷痴漢中汚水
心の古傷・両腕損壊(緩和しました)、凍傷、貧血

装備:カップ酒スルメ柿の種はやてグラーフアイゼンクラールヴィント
アイスクリーム女の子文字・・・・・で書かれた番号とアドレスメモチビリイン(ミヤ)
   ミヤの歯型メロン・御土産酢昆布・黒のショーツ
 


(※エイミィ・リミエッタより、以下の支給品を授かりました)



・携帯電話(ミッドチルダ製)
・耐刃防護服
・エイミィさん手製対戦者名簿・・・・・





謎の寮:




なのは:(うにゃー、くすぐったいです!?)

リスティ:(楽しそうな微笑みを浮かべて、背中を洗ってあげている)





謎のマンション(正面玄関)


エイミィ:「な、何があったのよ……?」

クロノ:「一日中、狂戦士化した収集員と……。生身の男相手に、ここまでてこずったのは初めてだ……。
魔力が……魔法が効かないとは。信じられない」

謎の動物:「もうイヤだ……戦いはイヤだ。ボクはもうゴメンだ。戦いたくない……」

収集員:(気絶)





謎のマンション(駐車場)


謎の麗人:(到着。周辺の空間の歪みについて調査)

謎の秘書:(エイミィのマンションを見て、複雑な顔)

ノエル:(マンション近くに落ちていたグラーフアイゼンを拾う)

月村:(思わぬ拾得物に、悪戯っぽい微笑み)




謎の地上本部:




はやて:(演習参加部隊長と協議。噂の中心人物を写真と共に紹介中)





謎の中将:(地上本部を騒がせる噂の人物・・・・の調査、場合によっては逮捕を命令)

謎の親友:(一度破られ、貼り合わされた男の写真に苦笑→一人の女部下・・・・を調査任務へ)








謎の航空部隊:




シグナム:(演習参加部隊長と協議。出立時刻を決めている)

※主人公について、以下の内容を話しています。
(例:ギガントを空手で防いだ、シグナムの剣を受け止めた、オ−バーSランクの魔導師相手に素手で勝利)





謎の本局:




シャマル:(演習参加部隊長と協議。出立時刻を先延ばししている)

※主人公について、以下の内容を話しています。
(例:守護騎士全員が愛の奴隷、難事件の数々を一人で解決、管理外世界の支配者)





謎のトラック:





ヴィータ:(トラックを担ぎ上げて、上機嫌で飛空)

謎の運転手:(やんややんやと、拍手合切)

???:(空飛ぶトラックに目を見開いて、急ぎ追跡開始)

※守護騎士システムに、飲酒属性が追加されました。

※九州に入り、酔っ払い運転で街中へ入りました。






謎の上空:




ザフィーラ:「殺さずに済ます自信はない。この身の未熟を、許してくれるか」

謎の黒衣の少女:「かまいません。勝つのは…わたしですから」





ミヤ(……後でシグナムに言いつけてやるです)











オイル:さざなみ寮

剣:高町家





被害状況:自然公園水没・翠屋営業停止・ミッドチルダ演習地(半壊)・ゴミ収集場(崩壊)
グラーフアイゼン(時空の彼方)・マンション前(半壊)・月村邸(絵画・家具・窓ガラス)、ノエルのメイド服、少女の涙>








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