To a you side 外伝5 運命の女神達と孤独の剣士 白銀の女神



※この物語はTo a you side本編を先に読まれると、よりお楽しみ頂けます。



 魔力弾が纏った衝撃波が襲い掛かり、周囲に余波を撒き散らす。

躊躇すれば致命的と察して、足を止めず駆け抜ける。

数発の魔力光が耳元を鋭く引き裂いて過ぎるのを尻目に、踵を蹴って中空へ。

こちらへ照準を定めていた――攻撃型スフィアを叩き落す。



『#3撃破、1点』

「低っ!? 今のレベルだと5点はあるだろ!」

「足を止めては駄目です!」



   幼さの残る警告に、疑問の余地も無く素早く屈む。


――頭上を貫く、魔力の光条。


裕も与えない血の色に染まった光線が、頭上を駆け抜けて廊下の奥へ消えていく。

一瞬後――空色の髪が俺の頭上を通過して風のように飛んでいく。

その横顔は凛々しく、真っ直ぐな眼差しで敵を補足している。



「刃もて、血に染めよ」



 空を華麗に舞う妖精の手に広げられた、見事な装飾の本――


小さき妖精の詠唱に従って、空間に魔力が鋭利に研ぎ澄まされる。

少女は光が襲い掛かった方向へ、小さな指を突きつけて叫んだ。



「穿て、ブラッディーダガー!」



 空色の少女の周囲に展開する、紅の魔力刃。

心の臓を射抜く必殺の刃が主の命に従い、無慈悲に発射――

廊下を容赦なく駆け抜けて、天井に張り付いていたオートスフィアに刃が突き刺さる。


――爆発。


激しい戦闘が終わり、束の間の静寂に満たされる。

次の瞬間――廊下に設置された監視カメラから、麗しき女の声が明るく響く。



『#11撃破、ミヤちゃん可愛いから10点』

「わーいです!」

「容姿なんぞ関係ねえだろ!? 差別だぞ、コラ!」


 破壊した対象が全く同じなのに、点数に差のあるこの現実。

カメラの向こう側で呑気に採点している美人試験官を、忌々しく睨む。

こっちからはレンズしか見えないので、腹が立つ一方だった。

俺は舌打ちして、得意げに胸を張る少女に目をやる。


「……チビ、お前今何点だ?」

「現在の採点は75点ですー! うふふ〜、100点まであと少しなのです!
リョウスケこそ、今何点ですか?」


 頼みもしないのに、律儀に数えているくせに。

鼻高々なピノキオ野郎に、俺は渋々教えてやった。


「……マ、マイナス155点……」

「家具を壊しすぎですよ、リョウスケは。
階段前の窓ガラスを割って、折角稼いでいた点数を全部没収されたじゃないですか!」

「あの女、階段のレリーフの中にミニサイズの発砲装置仕込んでたんだぞ!
咄嗟に避けられるか、あんなもん!」

「ミヤを盾にしたじゃないですか、プンスカです!」

「……お前が避けたせいで、背後のガラスに直撃したんだよな……」


 俺が躊躇わず盾にする事を先読みして、チビらしい敏捷性で奇襲を回避。

盾にして時間を稼ぎ、回避出来たのはいいが器物破損で減点。

高価な窓ガラスだったらしく、見事に御叱りを受けた。

ミヤは呆れたように嘆息して、俺の肩に留まる。


「どうするんですか? 
このままですと、制限時間が来れば忍さんが御嫁さんになっちゃいますよ」

「……くっそ、俺の人生大ピンチ」


 歯噛みしながら、俺は先程のやり取りを思い出す。





思えば、この屋敷へ招かれた事から既に罠が仕掛けられていたのだ―― 















 黒の高級車に乗せて貰って、快適な乗り心地に安らいでいた俺――

静かな早朝の景色を堪能しながら、ミヤやノエルと話しながら傷付いた身体を癒していた。


やがて日が昇り始めた頃――大きな屋敷が見えてくる。


由緒正しい月村家の御嬢様・月村忍が住まう、門構えのある豪邸の前に車が停められる。


「……相変わらず、でけえ屋敷だこと」

「立派じゃないですか! ミヤも遊びに来ていたんですよ。
こ〜んなに大きなベットで、忍さんと二人で一緒にお休みしたです!」

「――お前が気持ち良く眠っている間、俺はお前の主や仲間に襲われまくっていたんですけどね」


 痛烈に皮肉を述べて差し上げると、少女は申し訳なさそうに顔を曇らせる。

守る義務はないのに、責任感の強さと俺の傷付いた身体を見て落ち込んだようだ。

ミヤのこういう素直で優しい性格は、御伽話の妖精を思わせる純粋さを感じさせる。

俺は冗談だと手を振って、ノエルがガレージに車を停めている間ぼんやりと忍の屋敷を見つめる。


(……色々あったよな、この家とも……)


 苦笑する。

考えてみれば、初めて招かれた時も御飯を御馳走になった。


コンビニの残飯を漁って飢えを誤魔化していたあの頃――


怪我をした忍を――今でも理由が分からんが――助けて、賞味期限が切れた寿司を台無しにされた。

目鼻立ちの整った美人でも、俺は容赦しない。

ただ怒りより先に久しぶりの寿司が駄目になった事に嘆いていると、忍が御礼代わりにこの家へ招待してくれたのだ。



あの頃は本当に貧乏で――弱かった。



情けないが、今だって充分に弱い。

ただあの時の俺は、自分が弱い事さえ知らない愚かにも程がある馬鹿者だった。

この家を見た時も、金持ちと貧乏の差に嘆いていただけだ。

大きな屋敷に忍とノエル――二人だけの生活に、疑問すら挟まなかった。

どうでも良かった、他人など。

俺一人が強く、正しく、俺が俺でいられれば満足だった。

飯さえ御馳走になれば、未来永劫会う事はないだろうと思っていた。


――なのに、今もまた此処へ帰って来ている。


朝ご飯に招かれて、何の躊躇もせずに足を運んだ。

忍との再会に気負いはまるでなく、俺の脳裏に親しい人間だけに見せる忍の微笑みが浮かんでいる。

飼い慣らされた猫のように甘えてくる仕草を、悪くないとさえ思っている。

この屋敷には、良い思い出ばかりではないと言うのに――





(――わたしは、存在する価値があるのでしょうか……?)





(……人間として生きる為に、アタシは……)





 ――寂しげに木霊する少女と、鮮烈に燃える女性の声。


思い返してみれば、嫌になるほどあの二人は似ていた。

きっと彼女達は自分の価値を求めていたのだ。



――最後の、最後まで。



憎めれば、どれほど心が楽になれるだろう。

海鳴町へ来て、桜が散って――俺は、どれほどの人間の心に触れたのか。

痛手を被って、血涙を流して、ズタズタになった心を引き摺って、戦い続けた。

二人の存在は、俺に苛烈な宿命と濃厚な死を匂わせる事件を招いた。

何故今生きているのか、不思議で仕方ない。



あの二人と出逢わなければ、少なくとも辛い思いはしなかっただろうに――



「――思い出しているのですか?」

「忘れられねえよ……」



 蒼い空の髪をふわりと流して、ミヤは俺の頬を撫でてくれた。

この少女もまた、俺と一緒に戦って――泣いてくれた。



「きっと――リョウスケに出逢えて、二人は良かったと思ってるです。

二人とも、笑っていたじゃないですか」

「――どうだろうな……」



 ミヤの懸命な励ましに、俺は口元を緩めて空を仰ぎ見る。

朝陽の白い光が淡く照らして、俺は目を細めた。

あの二人には、本当に世話を焼かされた。

でも――逢えて良かった、そう思う。



ありがとうと言いたくても、二人はいない――



ミヤも分かっているからこそ、これ以上何も言わずに俺と一緒に空を見つめている。

気持ちを共有出来る人間さえいれば、苦難が遭っても乗り越えられる。

痛いほど身に染みた、事実だ。

寂寥に身を震わせる前に、ガレージからノエルがゆっくりとした歩みでやって来る。


……いやに遅かったな、ノエルの奴。


主の大切な客人を待たせる従者なぞ、一文の価値もない。

厳しい意見だが、貴族社会では常識以前の話である。

ノエルは俺達の前へやってくるなり、深々と頭を下げた。


「御待たせいたしました、良介様。ミヤ様。深く御詫びいたします」

「い、いや、別にいいけどよ……」


 他の人間なら容赦なく罵声を浴びせるが、俺もノエルには弱い。

ノエルは忍に仕えるメイドで、絶対的な職業意識を持っている。

自分がメイドである事に心から誇りを持ち、他者への敬いに一欠の濁りもない。 

月村家に正式に迎えられた俺に対して、ノエルは心からの忠誠を誓っている。

土下座しろと言えば、簡単に平伏するだろう。

卑しさではなく――真心から。

だからこそノエルに、美しい外見と磨かれた内面を美の女神は与えた。


「何か理由があったんだろう。車でも故障したか?」

「いえ、準備と事前確認に時間を取りました。申し訳ありません」


 大方一度家へ戻って、キッチンへ調理の確認にでも行ったのだろう。

突然押しかけておいて、準備も出来ていない事に文句を言うほど俺は理不尽ではない。

ここでノエルに怒鳴ったら、立派に俺が悪者である。


「だからいいって。俺達もいきなりの訪問だったんだ。
美味しい朝飯御を馳走になるだけで充分だよ。

御飯が出来上がるまで、忍とゲームでもして遊んでいるさ」

「……優しい御心遣いに、感謝します。
御嬢様も貴方様を出迎えるべく、ゲームの準備を整えておりました」


 もう準備しているのか、あのゲーム女王!?

金持ちの分際で、庶民のテレビゲームが大好きなのだ。

見目麗しい容姿の女の子がゲームセンターに足を運ぶだけで、有名になってしまう。

巷では女王として敬われ、数ある雑誌に隠し撮りされる人気者だ。

やれやれと、俺は肩を落とした。


「どうせ、また新しいゲームソフトでも買ったんだろ?
何か買えば、すぐに俺を呼ぶからな。

百戦錬磨のなのはに鍛えてもらっても、あいつに勝つのは至難の業だ」

「今回御嬢様が用意されたゲームは良介様もきっとお気に召されると、忍御嬢様が仰っております」

「ほほう……自信タップリだな……
幾多の実戦を経験した俺を、果たして満足させられるかな」


 経験したというよりさせられたんですけどね、あはは。

……軽い笑いで我が過去を誤魔化しながら、俺はノエルを見やる。


ノエルはコクっと頷いて――宣言した。


「良介様の御承諾を得られましたので――



只今より忍御嬢様主催第一回『朝御飯争奪戦』を開催致します」



「わー、パチパチパチ」

「ぱちぱちぱち――って、何だそれは!?」


 突然の美人メイドの開幕宣言に、俺は目を剥いて詰め寄る。

取って付けた様なシンプルなネーミングに、底知れない嫌な予感を感じた。

ゲーム内容を容易く理解出来るようで……奥が深そうだった。

語気を荒くして迫る俺に、ノエルは淡々と説明を開始する。


「ゲームの内容は簡単です。


屋敷内の各所に設置されているポイントターゲットを、破壊して下さい。
破壊を確認した時点で、参加者の御二人にポイントが加算されます。

制限時間は十五分――

時間内に加算したポイントで、朝ご飯の献立が決まります」

「ちょ、ちょっと待て!?」

「屋敷内の家具や調度品、建物に被害が出ればポイントはマイナスとなります。
ポイントも妨害攻撃に出ますので、御怪我にはくれぐれも御注意を。

制限時間を越えて、ポイントがマイナスの場合――」


 ノエルは、俺を真っ直ぐに見つめる。

その揺るぎない瞳に凛々しい意思を宿して、ノエルは言い放った。





「良介様は敗北。
忍御嬢様と、婚礼の儀を行って頂きます」

「うおおおおおおおおおいっ!?」





 のどかな朝ご飯が、戦慄の宴に切り替わる。

聞いていないのオンパレードに、俺は目を剥いて絶叫した。


「何なんだ、その悪条件は! 
何で俺が負けたら、あいつと婚約しなければいけないんだよ!?

ざっっっけんな!!」


 俺の啖呵に、今更怯むノエルではなかった。

むしろ俺の怒気を簡単に受け流して、涼しげな鋭さを表情に浮かべる。

ノエルは俺から目を逸らさずに、言い逃れられない確約を口にした。


「貴方様が仰った御噂は御嬢様も、私も耳にしております。


貴方様を相手に勝利した女性を御選びになると――


まさかとは思いますが、良介様は一度口にされた御約束を破られるのでしょうか?」

「うぐぐぐぐ……」


 男の尊厳と、俺個人の信念がせめぎ合う。

こんな馬鹿な話に乗るなと理性が警告しているのだが、本能が逃げようとする俺をせせら笑っている。


少し気を緩めただけで、すぐに立ち塞がる因縁――


フィリスやフィアッセがゲームに乗らなかったので、他も大丈夫ではないかと油断していた。

甘い、砂糖菓子より甘い。



月村忍は――宮本良介を、心から愛している。



詳しい経緯は思い出したくないので省くが、お陰様で離れられない関係になった。

あいつの想いは、本物である。

今仮に突然押し倒しても、あいつは身を任せるだろう。


シャマルとは温度の違う――夜の冷たさを宿した、愛。


忍は万全の態勢で、俺を待ち構えていたのだ――



悩む、非常に悩む。



ルールを聞けば単純に見えるが、問題は妨害を仕掛けてくるポイントの数々。

子供の遊戯ではないのだ。

攻撃と名のつく限り、容赦ない洗礼が待っている。


忍には力がある。


一生を慎ましく暮らせる遺産に――彼女自身が手に入れた、莫大な資産。

彼女が慕う綺堂さくらと、我が家のメイドが結び付いているのだ――

恐るべき罠が待ち構えているに違いない。

剣はなくともミヤがいるが、ノエルはミヤも参加者の一人に加えている。

ノエルがゲームと称してミヤのやる気を促進しているのだ。


――融合を、防ぐ為に。


二人一組枠という形を取れば、俺達の融合はルール違反となってしまう。

俺の特性とミヤの性格を知り尽くした、忍の戦略だった。

ここはやっぱり断った方が――





「尚制限時間内に100点を獲得しましたら、高級メロンを進呈します」

「――やる!」





 日本男児である以上、挑まれた決闘は断固果たさねばならないのだ!

俺は雄大に胸を張って、ゲームの参加を熱く決意した。
















――そして、十分経過。現在、マイナス155。

残り五分以内で最悪でも0に戻さなければ――人生の墓場入りが決定する。

五分以内で……?


倍の十分で、豪快にマイナスになったのに……?



「無理に決まってるだろうがぁぁぁぁぁ!」

「ど、どうするんですかぁぁぁ!?」



 俺達の絶叫を聞きつけたスフィアの大群が、襲い掛かってくる。

ヘ、ヘルプミー!!




















































































<戦闘開始――鮮血の聖女・白銀の従者VS孤独の剣士・蒼天の妖精。

ポイント:月村邸

負傷:頬にキスマーク(ガーゼ)・全身に埃・両手の平負傷(麻痺)・全身負傷痴漢中汚水心の古傷・両腕損壊(かろうじて動作)

装備:カップ酒スルメ柿の種はやてグラーフアイゼンクラールヴィント
アイスクリーム女の子文字・・・・・で書かれた番号とアドレスメモ、チビリイン(ミヤ)



(※エイミィ・リミエッタより、以下の支給品を授かりました)



・携帯電話(ミッドチルダ製)
・耐刃防護服
・エイミィさん手製対戦者名簿・・・・・





月村邸:




謎の対戦相手:(残り五分に胸を高鳴らせながら、鼻歌でパソコンを叩いている)

ノエル:(着替えている)






謎の空間


収集員:(テートリヒ・シュラーク[生ゴミ袋ストライク])

クロノ:(謎の動物に蹴り返されて、激突。鼻血ラッシュ)



謎の組織内:




謎の魔法少女:(寝巻き姿のまま、病院を出て行く)

シグナム:(はやての指示に従って、航空隊へ緊急出動)

はやて:(陸・海・空の部隊動向に驚愕。陸上部隊へ緊急連絡)

ザフィーラ:(心拍数が20・・を切りました)

シャマル:(シグナムに殴られて、渋々参加。海との連携を取る為に、本局へ)





謎の外国:




謎の秘書:(……何かあったのか、心配になってきました)

謎の麗人:(心配する秘書を励ます)






謎のトラック:





謎の運転手:(生き急いだ末に、アクセルを踏んだまま安らかに熟睡)

ヴィータ:(頬を撫でる凄まじい風に、目が覚める)

※居眠り運転の為、最高速度で直進中。

(トラック便:海鳴町→九州・・





謎の家:




謎の黒衣の少女:(思い出の友人に、虚ろな目で話しかけている)










オイル:さざなみ寮

剣:高町家





被害状況:自然公園水没・翠屋営業停止・ミッドチルダ演習地(半壊)・ゴミ収集場(崩壊)
グラーフアイゼン(時空の彼方)・マンション前(半壊)・月村邸(大乱戦)>








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