To a you side 外伝5 運命の女神達と孤独の剣士 蒼天の女神



※この物語はTo a you side本編を先に読まれると、よりお楽しみ頂けます。



『――ミヤ、これ以上俺に付き合う必要はねえんだぞ。
お前だって、連中と戦うのは嫌だろう』


 物陰から様子を伺いながら、俺は重々しく息を吐く。

痛手を被った身体に、冷えた空気が染みる。


――最早、後戻り出来ない道を選んだ。


絡められた運命に殉ずる道ではなく、切り裂いて進む道を求めて今歩いている。

後悔はない。



斬られた脇腹が――切り裂かれた心が、痛いだけ。



『お前もだ、――。運命に逆らう事が正しいとは限らない。
むしろ……連中の言い分が、正しいだろうな。

あいつの命を救うには、それが最善だろう。

これから先は俺の我侭だぞ、いいのか?
下手をすれば時空管理局どころか、全世界を敵に回す羽目になるかもしれねえ』


 ミヤと共に俺の傍を離れない存在に、俺は問いかける。

多分今度、もう二度と聞く事はないだろう。


――尊い誓いを問い返すなど、無礼以外の何者でもない。


冷たい結晶の舞う世界で――天使が、温かく微笑みかける。


『本当は嫌で嫌で仕方ないんですけど……一緒に居ると、約束しましたから。
ミヤは義理堅いのです!

それにミヤがいないと、貴方は駄目駄目じゃないですか。

最後までちゃーんと、世話をしてあげるです! ですよね、――?』

『――』


 ……馬鹿だと、思った。

俺に付き合って散々痛い目にあった筈なのに、健気に手助けをしてくれる。

主は俺ではないと明言しているのに、俺の手助けを止めようとしない。

ミヤが微笑みを向けると、少し間をおいて――は小さく頷く。


――心の優しい、無垢な女の子。


ささくれた心が、次第に高揚していく。

たとえ世界をどれほど敵に回しても、ミヤさえいれば誰にも負けない気がした。





ミヤがずっと、俺の傍にいる限り――















「ミヤ……」


 涼しい風に頬を撫でられながら、俺は唇を噛む。

  朝日が昇り始める時刻、駅前のロータリーに人の気配はない。

朝靄に満ちた空気は静謐を演出して、人の心を孤独に濁らせる。

白み始めた空の下で、俺達は小さな少女を中心に向かい合っていた。


ノエル・綺堂・エーアリヒカイト――昨晩電話で救援を願い出た女性。


月村忍に忠誠を誓うメイドであり、彼女を通じて俺達の関係は友好的に築かれた。

助けを呼べば律儀に駆けつけてくれる義侠心の強い女性で、外見も内面も恐ろしいほど綺麗に磨かれている。

普段は仕事用のメイド服を着用しているが、外出の際にはきちんと着替える。

そんな彼女の清潔な手の平に――小さな女の子が横たわっていた。


晴れ渡った青空のような髪と、主譲りの可愛いリボン――


見る者の心を奪う可憐な顔立ちをした少女が、無残な有様で固く瞳を閉じている。

白い頬は煤けて、髪は乱れ、三十センチの身体は泥だらけ。

ランクアップして装着が可能となった彼女特製のジャケットも破れている。


「――ゴミ収集場で倒れておりました」

「ゴミ収集場……?」


 疑問符を浮かべる俺に、ノエルは静かに頷いて事情を説明する。


「忍御嬢様の招待により、ミヤ様は邸へ遊びに来られておりました」

「それは知ってる」


 異世界の演習地で手に入れた情報を元に、今俺は事態を収拾すべく行動している。

喫茶店で迂闊にも吐いてしまった俺の戯言を真に受けた女達を撃退する為に、俺は二つの武器を必要としていた。


剣と魔法――生き残る為に必要な、俺の力。


恋人関係なんぞ真っ平御免な俺は自分の存在意義をかけて、武器を手に戦う決意をした。

剣の奪還はクロノに邪魔されて不可能となったが、もう一つの力はまだ健在。

要となるミヤを求めて、奴が御主人様を置いて遊びに行った月村邸へ向かう途中だったのだ。

ノエルは淡々と説明する。


「良介様から御電話を頂戴して、私とミヤ様は御約束の場所へ向かう折――ミヤ様が突如車を降りられました。
デバイスからの要請で、ゴミ収集場へ救援に向かわれたのです」


 ゴミ収集場……? デバイス……?


――まさか!


俺は血の気が引くのを感じた。

先程襲撃を受けたマンション前の死闘――犯人はゴミ収集員だった。

ヴィータ愛用のアームドデバイス・グラーフアイゼンを装備して。

これほど確かな情報が、ただの偶然である筈がない。

そして、あの親父は――


――グラーフアイゼンは、俺に憎悪を抱いていた。


俺はノエルに詰め寄った。


「ミヤが――ミヤが、襲われたのか!?」

「……私が向かった時には……既に……



申し訳ありません、良介様」



 沈痛に顔を俯かせて、ノエルは心からの謝罪をする。

滅多に感情を表に出さない女性が、悔恨に声を詰まらせて――


――そんな……嘘だろ……


神妙な顔でノエルより手渡されて、俺はそっと両手で少女を包み込む。

傷だらけで横たわる少女は、まだ――仄かに温かかった。

固く閉ざされた瞳は開く事はなく、幻想の妖精は安らかな眠りについていた。

俺は無言で煤けた頬を綺麗に指先で拭い、乱れた服装を丁寧に整えてやった。

……ミヤは綺麗好きで、御風呂が大好きだった。

特に泡風呂が彼女の大のお気に入りで、アリサとはよく一緒に入っていた。


手の中の少女は、軽かった――


重さをまるで感じさせない小さな身体に、強い意志と――果てしない優しさがあった。

この娘の明るい笑顔に、どれほど救われたか……












『……ぐるじい…ですぅ……』



 ――真っ白な頁から誕生した、純真無垢な妖精。



『貴方は、卑怯者ですぅ!

マイスターはやての好意に甘えて、何もかも押し付けて!

自分さえ良かったら、それでいいのですかぁ!?』



 ――罪があれば、母親のように叱ってくれた。  



『泣かないで下さいぃ……貴方は悪く……ないですぅ……』



 ――悲しみに満たされれば、友達のように一緒に泣いてくれた。



『貴方が成功すれば、何の問題もないです。
本当は嫌で嫌で仕方ないですけど、ミヤも協力してあげます。

だから、だから……絶対、成功させて下さい。

生きて……いて、下さいです……』



 ――勇気に奮い立てば、妹のように励ましてくれた。 



『"こっ――此処にいます!
ミヤはずっと、ずっと――いつまでも、貴方の傍にいますです!

貴方は一人じゃないですよ、グス・・・・・・

ミヤは・・・・・・貴方の味方ですから』



 ――恐怖に怯えれば、恋人のように抱き締めてくれた。



『この世にイレギュラーで生まれたわたしは、貴方にミヤと名付けられて――


――本当に、楽しかったです。


迷って、悩んで、苦しんで・・・・・・それでも頑張る貴方が、ちょっとだけ・・・・・・好きでした』



 ――敗北に屈せば、姉のように守ってくれた。



『大丈夫ですよ。リョウスケは駄目な人ですけど、ミヤがちゃんと守ってあげますから』






 ――いつも、一緒に戦ってくれた……












――あの幼さの残った無邪気な声を聞く事はないのだ。

もう、二度と。

いつも傍にいてくれた可憐な妖精の存在がこの世から消えて、俺は喪失感に目の前が真っ暗になった。


何度も味わったこの感覚は、死ぬまで慣れない。


手の中に在る少女の亡骸だけが、最悪な再会を果たした俺に与えられる。

唯一の救いは、死んだミヤの静かな表情が安らぎに満ちている事。

まるで熟睡しているように、あどけない顔をして瞳を閉じていた――
















「……zzz……うにゅ……zzz……」
















「――って、寝てるだけじゃねえか!」

「はにゃっ!?」


 シリアスに浸ってる俺の耳に届いたムカつく寝息に、俺は豪快に地面に寝惚け娘を叩き付ける。

ノエルが紛らわしい事を言うから、焦ってしまったじゃねえか!

コンクリートの地面に背中から激突して、チビは飛び起きる。

寝起きの衝撃に目を白黒させていたが、自分を見下ろす視線に気付いたのだろう。

ミヤは驚いた顔で俺を見上げる。


「リョ、リョウスケ!? リョウスケじゃないですか!」

「久しぶりだな、この野郎……驚かせやがって」


 ビビっただろうが、一瞬。

――流石に二度目ともなれば、天才剣士たる俺でも多少恐怖してしまう。


脳裏に思い浮かぶのは、ミヤが――た瞬間。


銀蒼色の髪に黒いドレスの少女は、この世から永遠に姿を消した。


――忘れられない、あの日の悪夢。


嘆息する俺の心境なんぞ露とも知らず、ミヤは一瞬喜びに瞳を輝かせて――コホンと、咳払いする。


「ひ、久しぶりですね!
ミヤがいなくて寂しかったですか? ――あ、やっぱりそうですか!

べ、別にミヤは貴方がいなくても寂しくも何ともなかったです。

ただ貴方があまりにも愚かなので、ちょっと様子を見に行こうかな〜と思っただけです」

「どっちなんだ、お前は」


 一ヶ月以上会っていなかったが、ミヤさんは相変わらず正直者だった。

喫茶店で吐いた戯言以来はやて家一同と共に留守にしていたので、本当に久しぶりだ。

ミヤはそのまま立ち上がろうとして、顔を苦痛に歪める。


「うう、背中……背中が痛いです……」

「地面に叩き付けたからな、さっき」

「何てことするですか!? ミヤは女の子なんですよー!」


 うがーと顔を真っ赤にして、俺の眼前に飛翔して指を突きつける。

傷だらけの身体だが、妖精さんは元気一杯だった。

一瞬でも心配した俺がアホらしくなる。


「貴方のそういう女の子への態度が大いに問題なのです! 改めるのです!」

「へーい」

「返事はハイです!」

「はいはい」

「ハイは一度です!」

「ほーい」

「ムキー!」


 空中で器用に地団太を踏むミヤが、微笑ましくて仕方ない。

年単位の付き合いになるが、こいつとの会話は飽きる事がない。

人間関係をあれほど否定していた俺でも、ミヤの存在は貴重だった。

アウトフレーム・チビサイズの女の子は怒り心頭だったが、俺の顔や手の怪我を見て顔色を変えた。


「ど、どうしたですか。この怪我!?」

「……私も先程から気になっておりました。
良介様、何か事故にでもお遭いになられたのですか」


 ノエルも心なしか心配そうな表情で、俺を見つめている。

絶世と評するに相応しい容貌の彼女に、悲しみに曇った表情は貴重と言えた。

約束の時間を半日以上過ぎてしまったのだ、心配させて当然だった。


待たされた自分より待たせた相手を思い遣れる女性――それがノエル・綺堂・エーアリヒカイトだった。


ミヤも怒りを簡単に消して、不安げな眼差しで俺を見上げる。


「――もしかして、アイゼンさんですか?」


 嘘をついてもばれるので頷くと、ミヤは顔を俯かせる。


「……ごめんなさいです」

「何でお前が謝るんだよ」

「アイゼンさんが凄く怒ってて、ミヤが説得しようとしたんですけど――止められませんでした。
必死で止めてくださいって御願いしたんですけど……」


 ミヤは……こういう女の子なのだ。

ミヤの正当な主は八神はやてで、俺への協力ははやてに対する義理立てのようなものだった。

本来助ける必要もないのだが、はやてが家族と認めているので渋々一緒に戦っている。


俺が死ねば、はやてが悲しむから――


アイゼンの事も監督不届きだった俺に責任があるのに、ミヤは助けられなかった自分を恥じている。

たとえどれほど小さくても――ミヤもまた、誇り高き守護騎士だった。

誰が認めなくても、俺が認めてやる。


「充分だよ。確かに襲い掛かってきたけど、本来のキレはなかったからな。
お前に色々言われて迷ってたんだろ。

今頃時空の彼方で反省しているさ」

「時空の彼方……?」

「ああ――お前やノエルにも心配かけたし、これまでの事情を説明するよ」


 今まで一緒に戦ってくれた戦友や、俺に忠義を立ててくれる女性に応える義務はある。

折角なので、今回の顛末を説明した上で対策を話し合うのも良いかもしれない。

ミヤは俺より遥かに状況分析能力に優れ、ノエルは俺の一万倍頭が良い。

戦力も申し分ない、力になってくれるだろう。


「でしたら、御屋敷の方にいらっしゃいませんか? 朝食を御用意致します」

「お、いいね」

「わーい、朝ご飯です!」


 食いしん坊二匹がノエルの申し出に飛びついた。

昨晩は朝まで酒飲んでいたので、スッキリした朝飯が食いたかった。

はしゃぐ俺達を前に、ノエルは車の準備に移る。


ミヤは定位置である俺のポケットに入ろうとして――訝しげな顔をする。





「……他のデバイスの匂いがします」





 うげっ、しまった。

最近小煩いチビスケが傍にいなかったので、すっかり忘れてた。


――こいつの、独占欲を。


ミヤが即座に俺の周囲を回って、クンクン匂いを嗅ぐ。

子犬のような可愛らしい仕草だが、怜悧な警察犬並に鼻が鋭い。

ピクッと何かを嗅ぎつけて、ミヤは険しい顔で俺を睨む。


「リョウスケ、また他のデバイスを使いましたね!」

「つ、使ってないですよ……?」

「リョウスケは嘘をつくと敬語になるので、すぐに分かるです!

使っては駄目だと、あれほど言ったじゃないですかーー!!」


 バレバレだった。

ミヤは空中でスカイターンを華麗にこなして、俺の頬に手を当てる。

コツッと、重なり合う額――


「いいですか、リョウスケ!
その胸に手を当てて、よく考えてみて下さいです。

――今までリョウスケを助けてきたのは、誰ですか?」

「……ミヤさんです」


 こう言わないと未来永劫同じ質問を繰り返すので、渋々答えてやる。


「そうです、ミヤです!
リョウスケの力を最大限引き出して、ミヤが一生懸命サポートしてリョウスケがやっと戦えるです。
良介は才能が全然なくて、魔力も鼠以下の駄目駄目魔法使いですが――


――ミヤが傍にいて守ってあげてるので、リョウスケは何とか勝利を手に入れられたのです。


こんな事、他に出来るデバイスはいますか!?」

「……いません」

「ですよね? そうですよねー!
だったら、もう他のデバイスを使わないで下さい!

分かってますか?

ミヤが、リョウスケを、守るんです! 他のデバイスに用はありません!
手元に持っているなら、すぐに捨てて下さいです!!」


 エ、エイミィに没収されていて良かった……心底そう思う。

クラールヴィントを今でも装備していれば、デバイス同士の第二戦が始まっているところだった。

アイゼンに負けたばっかりだが、懲りずにまた戦いを挑むのは間違いない。

俺の事を嫌いという割に、俺が他のデバイスを使うと目を剥いて怒るんだよな……


――あ、そっか。だからエイミィの奴――


まだ今度の戦いが続くのに、無理やりクラールヴィントを取り上げた理由が分かった。

流石我が親友、ミヤとの合流も視野に入れていたのか。

納得しながら、半泣きで怒り続けるミヤをポケットに入れた。

俺を誰かに取られたくない――その気持ちは嬉しかった。


「分かってる、もう他のデバイスは使わない。

何せ今は、次元世界で一番頼りになる奴が傍にいるんだからな」


 ミヤは目を見開いて――白い頬を夢の様な薔薇色に染めて、微笑んだ。


「はいです! ミヤがちゃんと守ってあげますよ!」


 懐かしき故郷へ帰還して、頼もしい相棒を取り戻した。

後は逆転劇に乗り出すだけだ。




見てろよ……お前達の想いを乗り越えて、俺が勝つ。




















































































<ポイント:駅前のロータリー→月村邸

負傷:頬にキスマーク(ガーゼ)・全身に埃・両手の平負傷(麻痺)・全身負傷痴漢中汚水心の古傷・両腕損壊(かろうじて動作)

装備:カップ酒スルメ柿の種はやてグラーフアイゼンクラールヴィント
アイスクリーム女の子文字・・・・・で書かれた番号とアドレスメモ、チビリイン(ミヤ)



(※エイミィ・リミエッタより、以下の支給品を授かりました)



・携帯電話(ミッドチルダ製)
・耐刃防護服
・エイミィさん手製対戦者名簿・・・・・




謎の空間


収集員:(ラケーテンハンマー[粗大ゴミクラッシュ])

クロノ:(謎の動物シールド)



謎の組織内:




謎の魔法少女:(眠りから覚めて兄の死を再認識。フラフラ出て行く)

シグナム:(眠りから覚めて現状を再認識。はやての元へ行く)

はやて:(時空管理局内の騒動の発展を再認識、動いている部隊を調査)

ザフィーラ:(心拍数が30・・を切りました)

シャマル:(眠りから覚めて現実を再認識。夢に出た子供の名前をメモ)





謎の外国:




謎の秘書:(空港へ向かう車の中で、何度も携帯を確認してはムスっとしている)

謎の麗人:(クスクス笑って、秘書の頭を撫でる)






謎のトラック:





謎の運転手:(この世の理はすなわち速さだと酒が囁いて、アクセル全開)

ヴィータ:(眠りから覚めて、寝惚け顔でキョロキョロ)

※飲酒運転の為、加速率が急上昇しました。

(トラック便:海鳴町→九州・・





謎の家:




謎の黒衣の少女:(眠りから覚めて、友人との思い出に浸っている)










オイル:さざなみ寮

剣:高町家





被害状況:自然公園水没・翠屋営業停止・ミッドチルダ演習地(半壊)・ゴミ収集場(崩壊)
グラーフアイゼン(時空の彼方)・マンション前(半壊)>








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