To a you side 外伝5 運命の女神達と孤独の剣士 月夜の女神



※この物語はTo a you side本編を先に読まれると、よりお楽しみ頂けます。




マンションから出ると、夜の真っ暗な海に仄かな光が照らしていた。


のぼる太陽の朱色と空の紺色――


自然に恵まれた優しい町をライトアップしてるかのように、蒼白い光を注いでいる。

午前四時、早朝に差し掛かりつつある時間帯。

寝静まった町は次の日を夢見ながら、新しい時間を静かに過ごしている。

寝室の窓の外は未だに暗いままだったのだが、空はようやく白み始めていた。


「ダベってる内に朝になっちまったな……」


 かつて過ごしていたマンションの一室で、親友と一晩――


ワインの甘酸っぱい匂いと彼女の温もりに包まれながら、賑やかな夜を過ごした。

エイミィと過ごす夜は大抵時間を忘れてしまう。

他人と接するのが苦手な俺だが、彼女と話すのは苦ではない。


……幼女時代に貰った電話とアドレスのメモを追及されたのは、激しく参ったが。


誤魔化し続けたのだが、風呂で裸を見た罪を糾弾されて俺は白旗を上げた。

素直に事情を話せば大笑い、女の子になってもモテる男に乾杯された――舐めんな。

結局痴漢に襲われた恥部と御風呂を一緒にした罪は許してくれたが、慰謝料を求められた。


――湖の騎士シャマルのデバイス・クラールヴィント。


敵の探知や長距離転送等で大いに役立ってくれた相方を、正式に取り上げられた。

もう一つ持ってきた武器は時空の彼方で、執務官殿と戦っている。

魔法も剣もない状態に戻されたが、弱みを握られているので泣く泣く要求を呑んだ。

エイミィとの相性も良いらしく、今後の諜報活動を生かした上で本人に返還するようだ。

黙って持ち出したので返してくれるのは都合が良いが、ガックリである。

とはいえ、俺とて泣き寝入りはしない。

どれほどの状況に陥っても、活路を見出してこそ人間――

絶望に濡れる泥沼の中に、美しい宝石が眠っている場合もある。

海鳴町に来て泣きたくなる程数々の難事件に巻き込まれたが、得た物だって沢山あった。

エイミィに弱みを握られたのは最低だが、同時に会う事が出来たのは僥倖だ。

唯一の女の親友に、俺は素直に頼み事をした。


『情報操作……?』

『一ヶ月程度だが、管理外世界で流れてる俺の噂が異世界に浸透しているんだ。
しかも、俺の発言内容が刻一刻と相手の都合の良い方向へ変化している。

これ以上広まらない内に、芽を摘んでくれ』

『ほほう……それはようするに――

まだ俺の事を好きな女の子が沢山いるんだが、彼女達の相手をするのは大変だ。
僕の身体が一つなんだ、皆を愛する事は出来ないぜベイベー。

――って事か、こいつぅ〜!』

『何時の時代の何処の生まれだ、てめえは!?
何で知らないが、お前の所属する組織が馬鹿話に乗ってるんだよ!

噂に乗じて俺を抹殺しそうな勢いだから、その前に噂を消してくれ。
情報操作出来るだろ、お前なら』


 最終的に誰が許可を出したのか知らないが、はやて達に規模の大きな演習地を用意している輩がいる。

……まあ大体、予想は付く。


日本土産大好き艦長と、眼鏡の似合うお姉様の顔が浮かぶ――


近頃呼び出しが無かったので変だと思っていたが、積極的にはやて達を応援しているのは間違いない。

俺の戦力分析も当然兼ねている。


――法術絡みで、時空管理局とは一時期凄い事になったからな……


アースラ通信主任兼執務官補佐殿の手腕が頼りだ。

両者と親しい間柄の上に、能力面の功績も多く積み重ねている。

情報収集能力は天下一品で、俺も随分助けられた。

俺が拝み倒すと、エイミィは仕方がないと苦笑しつつ引き受けてくれた。


『このまま放置してても面白いけど、本当に困っているなら仕方ないか。

――初めから相談してくれれば、もっと早く動けたんですけど』

『二晩でこんな騒ぎに発展するとは思わなかったんだよ、俺だって!?』

『……多分リョウスケが認識している騒ぎと、あたしが認識してる騒ぎじゃ規模が違うと思うな。
本人、分かっていないみたいだからいいけど。

一つだけ聞いていい?』

『何だよ、改まって』


 ワインで舌を滑らせると、エイミィは俺に顔を向ける。

……酔っているせいか、瞳が濡れていて、頬も染まっていた。


『勝つ負けるは置いておいて――皆、真剣に告白してる。
リョウスケと恋人になりたいって、願ってるの。

皆の気持ちを、受け止める気はないの……?

この騒ぎを止める解決策を教えてあげる。

――リョウスケが一番好きな人が誰か、打ち明ければいい。

誰かを恋人に選べばいい』

『……それは』


 それは、そうだ。

面白がっている奴はさて置いて、ヴィータ達の気持ちは本物だ。

シャマルだって常に愛を告白しているが、想いは真剣だろう。


俺が選ばないから、機会を狙って戦いを挑む。


エイミィの言う事はもっともだった。

俺はワインを飲んで――静かに語った。


『……この町で出逢った女達も、異世界で出逢った連中も――皆、佳い女ばっかりだ。
テレビや映画に出て来る美女達も、こいつらの前では霞んでしまう。 

――でも色恋沙汰に、興味はねえ。

皆の気持ちは嬉しいし、売られた喧嘩は買うさ。
でも、人の幸福とか命とか――俺の懐にはでか過ぎる。

戦いではなくて真剣に告白されたら断るよ、俺は』


 リスティ辺りに言わせるなら、俺はお子ちゃまなんだろうな。


ガキが映像の向こうのヒーローに憧れる時代――


地球の平和を守る為怪人と戦う三分間ヒーローが、色恋に目覚めれば興醒めだろう。

俺はどっちかと言えば怪人側なので、よっぽど酷い。


地球の征服を――

世界で天下を取る為に、剣を振るう。


天下の意味は、この町に来て既に変わってしまったけど。

エイミィは不満そうに俺を見ていたが――くすっと、笑った。


『ふふん、気持ちはあの時と変わってないか。

――こーんなに悩める美女を置いて、戦いに出て行ったもんね。

負けるって分かってたくせに』

『立ち直ってたじゃねえか、お前も。――背中も押してくれたしな』


 苦い過去では一人では辛いが、二人では――懐かしい思い出に変わる。

二人して真っ暗な寝室で大声で笑い合い、俺達はじゃれあった。

狭い部屋の中でキャーキャー乱闘騒ぎ。

終わった時には互いに息を吐いて、背中を縺れ合わせて力なく頬を緩めていた。


『……いいよ、協力してあげる。その代わり、断るなら誠意を持って断る事。

そして――絶対に勝つこと。

ケジメはつけなさいよ。
誰かに負けて恋人になったら、あんたに負けた娘が泣くんだから。


全員に勝って――孤独になりなさい』


 何処の世界に、孤独を押し付ける奴がいるんだよ。

ほんと……お前みたいな奴が、異世界にいるなんてな……

俺と仲良くなれる奴なんてこの世界に絶対いないと思ってたが、あの確信はある意味本当だった。


――別の世界に、いたのだから。


勿論、俺の答えは一つだ。


『当然だ』


 高々にグラスを掲げて――盛大に鳴らした。

これから朝日が昇れば、また戦いが始まる――その勇気ある夜明けに乾杯を。

エイミィと固く約束して、俺は安らぎの一時を終わらせた。















 感傷は朝焼けの眩しさに薄れてしまう――

懸念していたマンション正面玄関の破壊の痕跡は、修復作業を終えて静まり返っていた。

警察か、時空管理局か――いずれにせよ、執務官殿の健闘に期待するしかない。

俺はマンションから出て、駅前へ向かって歩く。

今更過ぎるが――ノエルとの待ち合わせがある為だ。

俺の救援要請を受けて車で迎えに来てくれたとすると、約束の場所に来ない俺を心配するだろう。

探し回っているに違いない。

ノエルの怒った顔は想像出来ないが――心配に顔を曇らせる姿は想像出来る。

エイミィと騒ぐ前に連絡を取ればよかったな……

自分の馬鹿さ加減に嘆息して、俺は重い溜息を吐いて歩き続ける。

ゆっくりと動く雲、そして刻一刻と明るくなっていく夜明け――

空の雲間から今にも消えそうな夜明けの月が、夕べの星の軌跡をなぞって描いている。

朝焼けと夜明けの月――深い味わいを感じさせる日本的な美。

健やかな空気に包まれて、俺の気分も和らいでいく。


静まり返った住宅街を抜けて、人通りのない歩道を歩き――俺は駅前のロータリーに出る。


始発にはまだ早過ぎる時刻。

タクシーやバスもおらず、人の気配はない。


薄白の朝靄が覆う景色の中で――黒い車が一台停まっていた。


車の前に立っているのは、一人の女性。

女性には悲しみに表情を曇らせて、自分の手の平を広げて見つめている。


美しい女性の手には――可憐な妖精。


傷だらけの横顔を見せて、小さな少女は――死んだように目を閉じていた。





「……ミ……ヤ……?」





 少女は目覚めない――

















































































<ポイント:エイミィ・リミエッタの寝室→駅前のロータリー

負傷:頬にキスマーク(ガーゼ)・全身に埃・両手の平負傷(麻痺)・全身負傷痴漢中汚水心の古傷・両腕損壊(かろうじて動作)

装備:カップ酒スルメ柿の種はやてグラーフアイゼンクラールヴィント
アイスクリーム女の子文字・・・・・で書かれた番号とアドレスメモ



(※エイミィ・リミエッタより、以下の支給品を授かりました)



・携帯電話(ミッドチルダ製)
・耐刃防護服
・エイミィさん手製対戦者名簿・・・・・




謎の空間


収集員:(シュワルベフリーゲン[燃えないゴミヴァージョン])

クロノ:(異様な応用性に驚愕。吹き飛ばされる)




謎の組織内:




謎の魔法少女:(泣き疲れて眠っている)

シグナム:(傷を癒す為に眠っている)

はやて:(行方不明者の捜索中)

ザフィーラ:(心拍数が40・・を切りました)

シャマル:(夢の続きを見る為に眠っている)





謎の外国:




謎の秘書:(帰国を急がせている)

謎の麗人:(急がせる理由に微笑みながら、了承。朝一の便を手配)






謎のトラック:





謎の運転手:(ドライブインへ。朝日を前にビールを1杯)

ヴィータ:(荷台で眠っている)

※飲酒運転の為、危険率が上がりました。

(トラック便:海鳴町→九州・・





謎の家:




謎の黒衣の少女:(待ち続けて眠っている)










オイル:さざなみ寮

剣:高町家





被害状況:自然公園水没・翠屋営業停止・ミッドチルダ演習地(半壊)・ゴミ収集場(崩壊)・ミヤ(生死不明)・グラーフアイゼン(時空の彼方)・マンション前(半壊)>








小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。


<*のみ必須項目です>

名前(HN)

メールアドレス

HomePage

*読んで頂いた作品

*総合評価

A(とてもよかった)B(よかった) C(ふつう)D(あまりよくなかった) E(よくなかった)F(わからない)

よろしければ感想をお願いします













戻る



Powered by FormMailer.