To a you side 外伝5 運命の女神達と孤独の剣士 過去の女神



※この物語はTo a you side本編を先に読まれると、よりお楽しみ頂けます。




 エイミィ・リミエッタが住むマンションは、海鳴町では高級に分類される。

健康で快適な室内環境が保証されており、住み心地は抜群。

天井埋め込み式エアコンやTES式温水床暖房、プッシュブルドア――

共用部・専有部にセキュリティが整備されており、一人暮らしの女性には安全快適な生活空間が用意されている。

彼女は現在、この部屋に一人で住んでいるのは知っている。


……当然だ、以前寝泊りしていたのだから。


表札こそかかっていないが、この部屋はエイミィと俺が住んでいた部屋だった。

間取りも正確に覚えていて、歩いていると不思議な感傷に襲われる。

あの時はエイミィも俺も切羽詰っていたが、互いに支え合って生きていた実感が蘇って来る――



――暇もないわ、この状況で!!



「汚れた服は籠の中に入れてくれていいよ。洗っておいてあげる」

「い、いえ、そんな……」

「子供が遠慮なんてしないの。
お姉ちゃん、こう見えてお洗濯とか大好きなんだよ」


 嘘つけ、交代でやってただろうが!

朗らかな笑みに惑わされず、俺は心の中で猛烈に抗議を入れる。

エイミィの手に引かれて、戸惑う俺は結局洗面室のある浴室間へ連れて来られた。

逃げる暇もなければ、拒否する為の口実もない。

御風呂に入れない事情を考える暇すら、エイミィは与えなかった。

女性と女の子が一緒に風呂に入る事に、普通に考えれば何の不都合もない。

加えて俺は先程痴漢に襲われて下着まで脱がされた上に、汚いトイレの床に転がって気絶したのだ。

身も心も清めるという意味でも、エイミィが気を使ってくれているのは分かる。



分かるんだが……根本的な意味で、その配慮は間違えている。



俺は立派な日本男児で、エイミィと同じ年頃なのだ。

変身魔法で外見は変化しているが、内面は日本の将来を背負う輝かしい男。

エイミィにとっては他人であり、異性だ。

俺自身も男に憧れる初心な子供ではない。

男としての本能は多分人並み以上に備わっていて、男女に密接する深い間柄もちゃんと知っている。

加えて、この状況では最悪な事に――


――エイミィ・リミエッタは佳い女なのだ。


目を逸らそうとしても、エイミィの綺麗な素肌が目に飛び込んでくる。


少女という範疇から、大人の女へと移行しつつあるエイミィの肢体――


華奢な肩の線、白く眩しい胸の谷間。

服を脱がずに硬直している俺に、一糸纏わぬ姿で屈んで俺に視線を向ける。


「一人で脱げる? お姉ちゃんが手伝ってあげてもいいけど」

「へ、平気です! 大丈夫です!」


 優しいエイミィの仄かな甘い匂いを感じて、俺は慌てて服を脱いだ。

わたわたと急いで下着まで脱いで、籠に入れて即座にバスルームへ飛び込む。


「ミドリちゃん、そんなに慌てて走ると転んじゃうよ」


 やかましいわ、無自覚に男の煩悩を刺激するな!

俺に触るな、近づくな!

このままだと、本能で変身魔法を解除して襲い掛かってしまいそうだ。 

ただでさえ、今は微妙な時期。

女達の襲撃を受けて、愛の告白をされまくっている状況だ。

俺にとっては迷惑の一言だが、恋愛成就の手段が戦闘であるならばまだ回避は出来る。

だけど、本当に手を出してしまえば即座にゲームオーバーだ。

今まで苦労して戦い抜いたのが無駄になる。

早く風呂に使って、とっとと上がってしまおう――おうわっ!?


「あはは、だから言ったのに。可愛いな〜、ミドリちゃんって」


 ツルツルのタイルに仰向けに転がる俺に、エイミィは覗き込むように笑顔を向けていた。















 湯船の側に肩膝をついて、手桶に湯を汲んで左右の肩から一回づつ浴びる。

広々としたバスタブに肩まで浸かって、適温に設定された御風呂を心から堪能した。

不謹慎かもしれないが、気持ち良かった。

ヴィータに襲撃を受けた夜から戦い続けて、風呂なんて入る暇もなかったからな。

病院で疲労はある程度回復出来たが、入浴はまた格別だった。


「ふんふんふ〜ん……ミドリちゃん、湯加減はどう?」

「は、はい。気持ち良いです……」


 背中を向けている風呂場から聞こえる声に、俺は何とか普通に返答する。

俺が入る前に温度調節をしてくれたエイミィは、コルクを捻って髪を洗っている。

視界に入らないように頑張っている俺の努力を知る由もなく、エイミィは御機嫌でシャワーのノズルを向けている。

地獄なのか、天国なのか、もう理解不能だった。

エイミィの声を聞く度に動悸が激しくなり、白い湯気でさえ艶を感じてしまう。

頬が上気して、俺は口までお湯に浸かってブクブクと泡立てる。

気でも紛らわさないと、熱気に本能まで蕩けてしまいそうだった。

頃合を見計らって、湯船から出よう。

女の子でも風呂が浅い子はいるだろう、別に問題はないはずだ。


「ミドリちゃん、髪の毛洗ってあげるからこっちにおいで」


 ――ええい、この親切女!

本当は俺の正体知ってて、狙ってやっているんじゃないのか!?

でも狙ってやっているんなら――誘われているのと同じだ。

それとも、俺が女を襲う度胸もない甲斐性なしとでも思っているのか?


……ないな、過去のこいつとの関係からして。


知らないからこそ、純粋に俺との交流を求めている。


「い、いえ……じ、自分で洗いますから……」

「遠慮しなくていいよ。
ミドリちゃん、髪綺麗だから丁寧に洗わないと駄目だよ」


 多分こいつ……フェイトと同じ感覚で扱っているんだろうな、俺の事。

あいつも確か、髪を洗うのが苦手だった筈だ。

エイミィに以前一緒に入った時一度断られて困ったと、苦笑混じりに聞いた覚えがある。

このまま押し問答しても、時間が無意味に経過するだけだ。

月村に及ばないが、エイミィもなかなか押しが強い。

俺は顔を俯かせたまま湯船に入れていた脚を引き抜いて、風呂場の床に降り立った。

何とかエイミィを見ないように頑張るが、限界はある。

彼女の前に座って頭を向けた際に、少しだけだが目に焼きついてしまった。


――髪を濡らしたエイミィ……


瑞々しい肌がお湯を弾き、珠のような水滴が白い裸体を滑り落ちている。

柔らかに実った胸の合間にも、水滴は余す所なく滑り落ちていく。

罪悪感を感じる繊細さは俺のような無法者にはないが、エイミィの顔を今まともに見るのは不可能だった。

そんな俺をどう捉えたのか、明るい声が耳に届く。


「やっぱり恥ずかしいかな……?
お姉ちゃんも実はちょっと恥ずかしかったけど、ミドリちゃんはお友達だから」

「友達、ですか……?」

「うん、友達。友達だから、信じられる。
お姉ちゃんとは、友達になれないかな……」


 ――友達……


白い湯煙に映し出されるように、以前の光景が蘇る。





"フェイトちゃんが信じられないの? だったら――"





 ……エイミィを蹂躙しそうな熱い欲望の渦が、急速に冷えていく。

あの時――傷の痛みに魘されていた頭が冷えたのと同じく。

エイミィの心からの言葉が、俺に突き刺さった。



「……おねーちゃんは……友達、だよ……

……大切な、わたしの友達……」



   そういえば……言ってなかったな。 



あの時・・・……助けてくれて、ありがとう……

お姉ちゃんがいなかったら……きっとわたし、駄目になってたと思うの」



 過去からの、メッセージを伝える。

正直になれなかった昔の自分からの、心からの気持ちを。



「な、何か照れちゃうな、はは……あ、あたしたまたま通りかかっただけで……

で、でも、ミドリちゃんを助けられたから良かったかな、ははは」



 ――いいや、違う。

俺にとっては――あの時通りかかったのがお前で、心から良かったと思ってるんだから。



出会ってくれてありがとう、エイミィ。



――髪を撫でる彼女の手が、とても暖かくて気持ち良かった。















「――って事があったの、おにーちゃんとは」


 最悪と連呼する割に懐かしそうに目を細めるエイミィに、俺は心の底から嘆息した。

自分の噂話を、自分とも知らずに話す親しい人を前にどうしろというのか。

最早思い出したくもない恥部なだけに、始末が悪い。

エイミィは写真を手に取ったまま、子供のように頬を膨らませる。


「この写真に負けないくらい、大怪我してたんだよ?
大人しく寝ていればいいのに、無理しちゃって――
お姉ちゃんの首をぎゅって絞めちゃうんだよ、酷いよね」


 同意を求めるな、見知らぬ幼女に。

クラールヴィントで変身している酷い事をした俺としては、強張った笑みで頷くしかなかった。


  エイミィ・リミエッタと天才剣士の、馴れ初め。


世間一般から見れば、確実に最低最悪だと断言出来る出会い方を俺達はした。

出会い頭にエイミィを押し倒して、首を絞めて脅迫。

現在痴漢容疑で逃走中の執務官殿に、あの時は逆に追われて大変だった。


いやさ……俺も俺で、それなりに事情があったんだよ。


倒れる間際は豪華な宮殿、起きたら時空を旅する戦艦の中だなんて想像出来る奴いないだろ?

どんな場面転換なんだよ、一体。

B級映画だってジャンルの基本は守るぞ。

俺はあの時時空管理局どころか、ミッドチルダの存在を知ったばかりの一般人だったんだ。

魔法と聞けばファンタジカルな世界をイメージする、夢見る少年だったのさ。

煌びやかな城のような宮殿から、科学武装された艦に移り変わって動揺しない人間なんぞいない。

特にあの時は巨人兵との戦闘後で、前後不覚の大怪我を負ってたんだ。

あの時気づかなかったが、怪我の炎症で派手に高熱も出ていた。

――レンやフェイトがとにかく心配で、俺は一刻も早く脱出する事しか頭になかった。

たまたま通りかかったエイミィを人質に取って、脱出するプランが至極現実的ではないかと主張したい俺がいる。

人質さんは災難だったけど。


「――でね、おにーちゃんとお姉ちゃんの関係が始まったの。
アース……お姉ちゃんの職場の寝泊りする部屋にお姉ちゃんを連れ込んで、そのまま上着を引き裂――」


 わー!? どこまで話すんだ、貴様は!

異世界に属する単語や知識を省いているくせに、状況説明がやけにリアルで困る。

流石は執務官補佐でリンディの右腕的存在、幼女にさえ把握出来る状況の説明を完璧に行えている。

子供相手に無用なスキルである。

つーか、大人の世界をこれっぽちも知らない赤の他人に何を話しているんだ、この馬鹿。

俺は慌てて口を挟んだ。


「お、おねーちゃん……お話はそろそろ……」

「あ、そうだったね。ごめん、ごめん。
疲れているもんね、ベットで一緒に寝よっか」


 しまった、藪蛇だったぁぁぁ!?

身悶えしたい程の後悔の念が襲うが、後の祭りである。


――風呂上り後、二人して部屋でくつろいでいた一時。


テレビを見たり、ゲームをしたり、エイミィは面倒見の良いお姉さんとして俺に接してくれた。

お蔭様で途中退室出来ず、終いには一緒に寝ようとまで言い出した。

ピンチどころの話ではない。

理性を保つ自信なんか、これっぽちもない。

俺は咄嗟に写真を指差して、おにーちゃんの話を聞かせてほしいと誤魔化したのだが無意味に終わってしまった。

エイミィは絶望に拉がれる俺を自分のベットに寝かせて、携帯電話を取り出す。

素早く操作して、呆れたように嘆息した。


「あいつめ……また携帯してないな、もう……
駅まで見に行ってあげたのに、何処にも居なかったし。
こんな面白そうな事に、どうしてあたしを誘わないのかな。

折角ひとが親切に色々教えてあげようと思ったのに……」


 なのはちゃんとか今大変なのに――エイミィはブツブツ言って、携帯電話を閉じた。

駅に……?

まさかこの女、あの時駅に居たのは――俺を、探していたのか……?

クロノが喫茶店に居たんだ、ありえる話だ。

当然、痴漢騒ぎをリアルタイムで見ていたに違いない。

あの時の状況を見て、俺とクロノのどっちに味方するかなんて、いちいち考えなくても分かる。

同時に、エイミィが俺の変身に勘付いていない事も完璧に分かった。

くっそぉぉ〜〜、携帯電話さえ持っていればエイミィを味方に出来たのか!

俺の不注意から、事態は今余計にややこしくなっている。

ここで変身魔法を解除して俺の正体をばらせば、風呂の一件を言及されてしまう。

自分の判断ミスに嘆いている間に、エイミィは携帯電話を机に置いて電気を消す。

そのままゆっくり俺の隣に潜り込んで、上目遣いに俺を見つめる。


「……おやすみ、ミドリちゃん」

「……おやすみなさい、エイミィさん」


 初めて俺が名前を呼んだ事に嬉しそうに目を細めて、ゆっくりと目を閉じた。

陽光の残り香に満たされた暖かい布団に包まれて、エイミィは静かに寝息を立て始める。


……寝付きが良いところも昔と同じか……


そして、人を思い遣る優しいところも。

エイミィは結局、幼女の俺の事を何一つ聞かなかった――

両親も家も居ないと言った俺の事を追求せず、警察に届け出る真似もしない。

安心していい等と気休めも言わず、姉妹のように接してくれた。

もし俺が痴漢に襲われた本物の幼女なら、エイミィにさぞ心を許していただろう。


心から、癒されていたに違いない――


無防備な寝顔を向けるエイミィは、風呂に入っていた先程より目を惹いた。

心に滲む切ない思い出に刺激される――

隣にエイミィが眠っている現実が、心を震わされる。

鼓動は高鳴るばかりで、気づけば彼女の寝顔ばかり見つめている自分が居た。

そっと手を伸ばして、彼女の髪を撫でる。

くすぐったそうに頬を小さく緩めるエイミィに、俺は甘い衝動に動かされるように唇に――!?



"旦那様"

"――分かってる。距離は?"

"300。急速に接近"



 ――負の感情に満ち溢れた殺意。

闇を冷たく震わせる脅威が、俺の感覚を鋭く唸らせる。

禍々しい気配は隠そうともせずに、こちらへ一直線に向かっていた。

離れた距離から敵意を感じさせるとは、只者ではない。

閑静な住宅街に蔓延る通り魔の類とは程遠い。


何よりこの敵は――魔力を放っている。


流石に距離までは分からなかったが、索敵能力に優れたクラールヴィントが頼りになった。

エイミィは眠ったまま。

表面には出さなかったが、職務と俺への気遣いで疲れていたに違いない。

俺はベットから降りて、彼女の頬をそっと撫でる。



「あの時の借りを、まだ返してなかったからな……

……お前は……俺が守る、必ず」



 俺はそのまま後にする。

思い出に満ちている、昔の部屋を――

















































































<戦闘終了 親友の管制官△――△孤独の剣士

敗因:過去

ポイント:エイミィ・リミエッタの御風呂場→マンション前へ

負傷:頬にキスマーク(ガーゼ)・全身に埃・両手の平負傷(麻痺)・全身負傷痴漢中汚水・心の古傷

装備:カップ酒スルメ柿の種はやてグラーフアイゼン・クラールヴィント(不許可所持)
アイスクリーム女の子文字・・・・・で書かれた番号とアドレスメモ


謎の寝室


エイミィ:(玄関の扉が閉まる音に目を覚ます)




謎の駅前


フィアッセ:謎の警察官に相談する為に、さざなみ寮へ。


謎のメイド:彼の居所を探知出来る謎の妖精を探しに、ごみ収集場へ。




謎の喫茶店


謎の店長さん:一応自宅へ連絡。

クロノ:謎の動物の探索魔法を頼りに、捜索を開始。




謎の組織内:


謎の魔法少女:(救助隊が駆けつけて、病院へ搬送)

謎の黒衣の少女:(救助隊が駆けつけるが、行方不明)

ヴィータ:(救助隊が駆けつけるが、ボロボロのまま逃走)

シグナム:(怪我を負った身で、救助隊に事情を説明)

はやて:(謎の艦長と共に、救助隊のサポート中)

ザフィーラ:(集中治療室へ)

シャマル:(救助隊が駆けつけるが、幸せそうなので判断に迷う)





(謎の組織全部署に、救助隊より『エース及び守護騎士達を病院送りにした・・・・・・・男』の噂が流れる)






オイル:さざなみ寮

剣:店長さんのロッカーの中





被害状況:自然公園水没・翠屋営業停止・ミッドチルダ演習地(半壊)・ゴミ収集場(崩壊)・ミヤ(生死不明)・グラーフアイゼン(行方不明)>








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