To a you side 外伝5 運命の女神達と孤独の剣士 勝利の女神



※この物語はTo a you side本編を先に読まれると、よりお楽しみ頂けます。




 鳴動する大地――



女神の怒りに震えているかのように、緑の草原を震わせる。

吹き荒れる魔力の波動に、土煙が濃厚に舞う。

平和な世界が今、神の怒りに触れて消滅の危機にあった。


――可哀想な程、とばっちりだった。


「ヴィータの奴、此処にはやてがいるってのに」


 天空を覆う紅の魔方陣に、巨大な角柱状の鉄槌。



グラーフアイゼン・ギガントフォルム。



小柄な体格に備わる強大無比な魔力で、巨大化した破壊のシンボル。

最大威力は烈火の将シグナムすら上回る、最強の攻撃フォルムだ。

普段は小生意気なだけのガキだが――


――敵に回せば、これほど恐ろしい相手はいない。


地上からは小粒程度にしか見えないが、ヴィータの眼光が俺に鋭く突き刺さる。


凍てついた――蒼い、炎。


鉄すら溶かす熱い想いを瞳に宿して、青き瞳を俺に向けている。



最早――他の誰も、眼中に無い。



破壊の女神は、俺だけを真っ直ぐに見つめていた。


「よせ、ヴィータ!? 主はやてを巻き込む!」

「――駄目だ、シグナム。最早、ヴィータは聞く耳を持たん。
止めるぞ」

「待て、お前ら!」


 殺意の陽炎を漂わせて、上空で攻撃態勢に入るヴィータ。

己が武器を手に同志を止めんとするシグナムとザフィーラを、俺が制止する。

俺はそのまま親指を立てて、背後へ向ける。


「はやてを連れて逃げろ。

アイツは、俺が相手をする」

「何だとっ!? 貴様、正気か!」


 常日頃寡黙なザフィーラが、鋭い狼の瞳を向ける。


驚愕と困惑、二つの感情を乗せて――


「今のヴィータにお前の言葉なぞ届かん。

お前を倒す――ヴィータの頭にあるのは、それだけだ。

全力で、お前を叩き潰しに来るぞ」

「上等だよ」


 不敵な笑みを向けながら、俺は上空へ視線を向ける。

俺の視力でも薄っすらとしか見えないが、ヴィータがカートリッジを消費する瞬間が見えた。

ギガントフォルムから圧縮した魔力を行使する技――


間違いない。


強大な結界やバリアをガラスのように砕く、天下無双の攻撃。

耐えられる人間は、平行世界全てを巡っても存在しない。



俺、以外は。



「――今度こそ、決着をつけてやるさ。
白黒ハッキリさせて、俺には勝てない事を思い知らせてやる」


 逃げても、必ず追いかけてくる。

露払いを任せたシャマルがどうなったか――愚問である。

時間を稼いでくれただけでも上出来かな。


「どうするつもりだ。剣も魔法もない今、お前に戦う術は無いだろう」


 常に精進のシグナムには珍しく、俺を案ずる声。

主第一ならば一刻も早く逃げるべきなのに、大切な身を背負ったまま足踏みしている。


多くの敵を屠った歴戦の戦士に生まれた、小さな情――


はやてとのかけがえのない生活で育まれた温かさが、今俺に向けられている。

純粋に、それが嬉しかった。


ゆえに――その心配を吹き飛ばしてやりたい。


恭也のように男らしくなるのだと、決めたのだから。


「俺の祖国を甘く見るなよ、シグナム。
日本の侍は己が武器を持たずとも、戦う術を持っているもんさ」

「状況を理解しているのか!? 策は通じないと言っている!
今のヴィータはお前が倒れるまで、絶対に戦う事を止めない。

私の時のように、ヴィータのグラーフアイゼンは受け止められない」


 あんなもん、白羽取りしたらミンチになるわ!?


俺の軽く十倍を超えるスケールだ。

受け止めるには最低でもなのはレベルの防御が必要だが、生憎今の俺様はすっぴん。

両手どころか、全身で受け止めても蛙のようにペチャンコになるだけだ。


本当に珍しく――シグナムは激昂していた。


絶対的危機に陥った俺が軽い態度なのが我慢ならないのだろう。

背より見つめるはやての瞳も心配に曇り、ザフィーラも厳しい顔。

一度は俺との真剣勝負を望んだ面々が、他の誰よりも身を案じてくれている。

ヴィータの実力と俺の非力な状況を相互的に見つめ、彼らは結論を出している。


カッコつけている場合ではない、今すぐ逃げるべき――と。


多分、他の誰もがこの状況をそう判断する。

決して、間違えてはいない。


だからこそ――


「ザフィーラ、シグナム。お前達は先程言ったな。

主に相応しい男か確かめたい、と――

ならば、黙ってこの戦いを見届けろ。
俺が夜天の主に愛される器である事を証明してやる」


 その愛を受け止めるかどうかは別問題だけど。

心の中で白々しく口笛を吹きつつ、俺は真面目フェイス。

不安が一転し、はやては歓喜と恍惚の眼差しで頼もしげに俺を見つめる。


ビリビリ震える大地、最早猶予は少ない。


シグナムはしばし俺を凝視し、フッと表情を和らげる。


「主の祝福を得るには、我らベルカの騎士の剣を預けるに相応しい男でなくてはならない。
大きく出たな、宮本」

「湖の騎士、盾の守護獣、剣の騎士には勝ったんだ。
後は、鉄槌の騎士殿との決闘に勝利すればいい。

さ、早く行け。もう時間が無い」

「分かった。

わた――主を悲しませるなよ、宮本」


 返答を待たず、シグナムははやてを背負って退避。

ザフィーラは一度だけ俺を一瞥し、何も言わずに後追いする。

砂塵の中へ消えていく者達を見送った後、俺は上空に視線を向ける。

準備が完了したヴィータは、破壊に満ちた大槌を振り上げる。


「轟天――爆砕!!」


 ミッドチルダが、恐怖の悲鳴を上げる。

天から飛来する美しき破壊神の降臨に怯え、大地を熱く震わせる。

草花が揺れ、土が舞い上がり、辺境地帯の空気に濁す。

視界を遮られた状態で、俺は口と目を覆って次のアクションに身を備える。


シグナムやザフィーラの言う通りだ。


ヴィータが本気で攻撃すれば、たとえ防御魔法を展開しても敗北は免れない。

小さな体格に圧倒的な破壊力を秘めて、突撃ポイントを粉砕する。

結界を破壊する力に、生身はガラスのように脆弱だった。



生身で受ければ、の話だが。



ほくそ笑む。

愛する祖国に、俺は今こそ感謝を捧げたい。


思い知れ、紅の鉄騎。


最強に相応しいお前の実力でも、打ち破れない壁があるという事を見せてやろう。

如何にお前のハンマーでも、日本の伝統の重みは壊せない!



「ギガント――」



 地面を、蹴る。



「――シュラーク!!」



 天からの強力無比な一撃が、頭上から圧倒的な質力を持って粉砕した。

全てを簡単に、飲み込んで――
















「ハァ、ハァ、ハァ……」


 噴煙を上げる大地。


帯電するヴィータの魔力が空気に混じり、濃密な魔素を撒き散らして平和な世界を汚染する。

膨大な魔方陣が目標に衝突した瞬間、破壊を拡散して果てた。

大地に濃厚に刻まれたクレータ―。


その中央に、紅のドレスを艶やかに纏った少女が息を荒げている。


「や、やった……アタシは、勝った――リョウスケに勝ったんだ!」


 勝利を確信して、高らかに叫ぶ少女。

長年連れ添った相棒を高々と掲げて、勝利の余韻に心を震わせる。

その確信は過ちではない。

あれほどの攻撃力を全身に浴びて、生きていられる人間などいない。


「これで……リョウスケは、アタシのもんだ……

も、もう、不安に怯えなくていいんだ……はは、は……

リョウスケ――もう、離さねえからな……ずっと、一緒……



……。



……リョウスケ?」



 破壊の中心地で、少女は初めて気付いたように顔を上げる。

きょとんとした顔で、周囲を一瞥。

目をパチパチして、もう一度呼びかける。


「リョ、リョウスケ……ど、何処だよ……?」



 そう――



ヴィータのギガント・シュラーフを生身で食らって、生き延びられる人間は存在しない。

少女は驚愕に身を震わせて、静寂に耐え切れずに叫ぶ。


「ど、何処にいやがるんだ!? 隠れたって、無駄だぞ!


……う、嘘だ……そんな……


ま、また逃げたんだろ! そうなんだろ!?」


 返答などある筈が無い。

自分の犯した所業により、大地は叩き潰された。

小規模のクレーターが、何よりの証。



残されたのは――孤独だけ。



鈍い重低音を立てて、主の手から離れたグラーフアイゼンが落下。

呆然とした顔で、少女はその場にへたりこむ。


「ア、アタシ……アタシ……」


 ガクガクと震え、両手で頭を抱えるヴィータ。

縮こまって座り込み、虚ろな眼差しでポロポロ涙を零す。


「こ――殺したのか……アタシ、あいつを……あ、あ……」


ああああああ!!!!!」


 浸透する悲しみ、結果に焦った悲劇の結末。

重すぎる現実は少女の心を蝕み、抉る様な痛みを与え続ける。


大切な者を喪う痛みほど、辛いものは無い――


癒される事は未来永劫ありえず、苦痛と絶望が永遠に心を引き裂く。


守護騎士ヴィータ、誉れ高き鉄槌の騎士。


荒れ狂う悲しみにのた打ち回るその姿は、一人の女の子でしかない。

完全に心が折れ、騎士の誇りを失っていた。



――今が、チャンス。



「あう……あぐぅぅぅぅ……リョウスケ、リョウスケェ〜〜〜」

「……反省してるか?」

「うん、うん……アタシ、何て、事を……」

「俺が生きていれば、素直に負けを認めるな?」

「当然だろ! 生きてさえいれば――





――へ……?」





 窮屈に圧し掛かる土砂を蹴り飛ばして、俺は地面の下・・・・から這い上がる。

さ、流石に今回ばかりは死ぬかと思ったぞ……

我が人生、まさか土砂の海で泳ぐ羽目になるとは思わなかった。

全身ボロ雑巾、体中泥と擦り傷でズタズタ。

新鮮な空気を吸いながら、思う存分咳き込む。



だけど――俺は何とか、生き延びた。



ヴィータは涙と鼻水に顔を濡らしたまま、茫然自失。


「俺の勝ちだ、ヴィータ」


 俺は血塗れの顔を何とか笑みにして、言ってやる。

ヴィータは俺を頭の上から爪先まで見つめ――顔をグシャリと歪めて……


「リョウ、スケ……リョウスケェェェェ!!!」


 驚愕と歓喜に表情を満たして、俺の胸の中に飛び込んだ。


やれやれ、普段もこうなら可愛げがあるんだけど……


むせび泣く少女の頭を撫でてやりながら、終戦の余韻にしばし身を浸した。



















































































<戦闘終了 鉄槌の騎士×―○孤独の剣士。
 
敗因:日本の伝統 その4・・・

ポイント:ミッドチルダ辺境地域(結界破壊・クレーター)

負傷:頬にキスマーク・全身に埃・両手の平負傷・全身負傷

装備:カップ酒スルメ柿の種はやて、グラーフアイゼン(ちゃっかり拾う)


謎の組織内:


謎の魔法少女:兄の死(誤認)に涙、流れる星の如く出撃

謎の黒衣の少女:友人の訃報(誤報)に涙、荒れ狂う稲妻の如く出撃

謎の執務官及び動物:管理局→海鳴町へ

シャマル:土砂に埋もれて、目を回している

オイル:さざなみ寮(酒宴準備中)

被害状況:自然公園水没>








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