To a you side 外伝5 運命の女神達と孤独の剣士 剣聖の女神



※この物語はTo a you side本編を先に読まれると、よりお楽しみ頂けます。




 魔法にはミッドチルダ式とベルカ式が存在する。

守護騎士達が用いるのは後者で、かつてミッドチルダ式と次元世界を二分する勢力を誇っていた。

特徴として遠距離戦をある程度切り捨て、近接系に特化した力を持っている。



とはいえ、近距離戦限定かと言えば無論そうではなく――











「うわわわわっ!?」


 地中から噴き上げる白光の柱に、踏鞴を踏む。


範囲型の拘束魔法――


俺の逃走ルートを妨害する白光が、俺の視界を焼いた。

翻弄されながらも、踵で一歩踏み込んで軸を回転。

左方向へ転換して、俺は華麗に逃走を図った。


「無駄だ」


 冷徹なアクショントリガーに寒気を感じて、咄嗟に右へ逃げる。


――刹那、地の底から浮上する光条網。


俺の周囲を取り囲む白き光の檻に、目を剥いた。


これ以上無い程、全力投球。


数十メートルに達する拘束条は圧巻で、俺は戦慄に唇を噛む。


「鬼ごっこは終わりやな、良介」


 俺は舌打ちして、可憐な少女の声の元へ目を向ける。


遥か上空に位置する獣――


俺の頭上から見下ろす少女と野獣の目は、完全に本気だった。

逃走劇は僅か十秒で終了、情けない。


「主の真摯な想いを前に、逃げの一手とは不甲斐ない男だ」

「俺の気持ちを無視してるくせに、何言ってやがる」


 剣も魔法も無いんだぞ、こっちは。

あるのは安いカップ酒とツマミだけ。

どう戦えというんだ、これで。

山のように積もる俺の不平不満を軽く無視して、ザフィーラは朗々と語る。


「主の婿となる男は、我ら守護騎士にとっても主同然。

忠義を示すべき器かどうか、その身を持って確かめさせてもらう」

「何ではやての婿選抜になってるんだ、この野郎!?」


 しかし考えてみれば、はやての婿となる男も気の毒である。


今はまだガキだが、将来有望な容姿と能力を持っているはやて――


性格は温厚で家族を大切にする、優しいお母さんになるのは間違いない。

旦那となる男の幸福は約束されているが、問題は彼女の周りに居る従者。

美人の良妻賢母を手に入れる為には、偉大なる守護騎士四人に認められる器が必要。

四人の心を掴み、奴の言う忠義に報える人物でなければならない。

その上ではやてに愛される事が絶対条件――



――次元世界全てを探しても、滅多にいないぞそんな奴。



過保護な守護獣を見上げて、俺は声を張り上げる。


「俺の実力を試したいなら、男らしくてめえの拳で来いよ」


 遥か上空から誉れ高き言葉を吐きやがる獣に、挑発的に手招き。

絶大な格闘能力を有する守護獣が、珍しく遠距離戦を仕掛けて来ている理由は――


「あかんで、ザフィ−ラ。このままの距離でええ。
男らしくなんてカッコええ事言うてるのは、困ってる証拠やから」

「承知」


 殴りてぇぇぇぇ!!


あの余計な知恵を授ける夜天の主を、頼むから殴らせてくれ。


  ・・・・・・はやての言う通り、今の状況は絶体絶命。


俺の周囲を取り囲むこの光の拘束条は、"鋼の軛"。

AAランクに匹敵する魔法で、対象を容赦なく妨害・束縛する。

数は十。

一つでも絡まれば、俺は問答無用で再起不能になる。

自動的にザフィーラの勝利となり、武田信玄論ではやての手柄となる。


・・・・・・人生の墓場一直線の危機――


いっそ、諦めた方が幸せかもしれない。


はやて一家と一緒に、ミットチルダへ永住――


新しい環境での生活は苦労も多いだろうが、はやてやヴィータ達と一緒なら乗り越えられる。

はやてが恋人なら、シャマルやヴィータも文句は言わないだろう。

俺だって、はやては嫌いじゃない。

万が一あいつが嫁さんになれば、俺のような人間でも妻子共に大切に出来るかもしれない。





――だけど。





俺の身体の奥から燃え上がる、反骨心。

常に自由を抱く旅人の性が、強制された幸福を否定する。

絶体絶命の境地でも、地獄の閻魔に舌を出す馬鹿な意地を捨てない。


上等だ・・・・・・


こうなったら、死んでも真剣に戦ってやらねえ。

負けも認めない。

俺流の戦法で、かつて世界を畏怖したロストロギアを相手に勝利してやる。


「はやて、ザフィーラ。話がある」

「・・・・・・気をつけや、ザフィーラ。
あの顔は絶対何か企んでるから」

「・・・・・・存じております、我が主。
あの男の甘言に篭絡された事、一度や二度ではありません。
有無を言わさず、攻撃します」

「ええ心掛けや。
戦いの最中、良介相手に心を許したら痛い目に合うから」



 ――実は俺の事嫌いだろ、お前・・・・・・?



戦場では非情な指揮官に変貌する少女に、畏怖する俺。

人の言葉を素直に信じられないとは、何と心貧しき者達か!

一人の友人として、俺は悲しく思う。

"汝、隣人を愛せよ"という言葉を、彼らに送りたい。



・・・・・・運命の女神どころか、キリスト様にまで嫌われそうなのでこの辺にしておこう。



「まあ、聞けよ。
俺は勝利の条件を確認したいだけだ」

「条件の・・・・・・確認?
そんなん、普通に戦って勝った方やろ」


 訝しげな顔をするはやてに、俺は得意げな顔で人差し指を振る。


「違うね、それだけじゃない。

この勝負――


はやてがザフィーラから落ちて・・・も、負けだ」

「なっ、何でや!?」

「馬鹿げた事を・・・・・・!?

主、この男の言葉に耳を傾けてはいけません!」


 愚か者共め。

狼狽している時点で、既に俺のペースだ。

見てろ、立場を引っくり返してやるぜ。

嫌味なほど高々と手を上げて、俺は叫んでやった。


「八神はやてにしつもーん。

天下分け目の決戦で、迂闊にも落馬・・する騎馬隊に手柄を与えられるでしょうかー!」

「――!?
で、でも、誰にだって失敗は――」

「落馬した武士を騎馬・・とは呼ばないと、ボクは思いまーす」

「そ、それは・・・・・・そうやけど・・・・・・うう」


 これもまた強引な屁理屈だが、理屈は理屈。

その証拠に、最初に提案したはやてが迷っている。

強引に押し切れば、俺の勝利間違いない。

勿論、主一徹の頑固者にも根回しは忘れない。


「それとも何だ〜?

主一人満足に背負えないってのか、ベルカの騎士・・・・・・殿」

「貴様……!」


 おー、声が震えてる震えてる。

俺を八つ裂きにでもしたいだろうが、プライドが許さない。

安い挑発に乗るなと、戦場で積み重ねた戦士の本能が叫んでいるに違いない。

寡黙で冷静沈着なザフィーラが、この程度で陥落しないのは承知済み。

俺は最後ににこやかに、はやてに呼びかけた。


「はやてはザフィーラを頼りにしてるから、平気だよなー。

あれれ、それとも……実は、信用してなかったり?」

「そ、そんな事はあれへん!?

わたしはザフィーラを心から信頼してる!」

「やっぱりそうだよな!

お前ら二人の絆があれば、この程度の条件を呑んでも全ッ然問題ないか!」

「当然やんか!



――あっ」


 しまった、とはやては口元を押さえるが手遅れ。

俺は鼻歌を歌って、軽くスキップ。

これで俺の勝率は格段に上がった。

ザフィーラは怒るに怒れず、ワオーンと嘆きの鳴き声を上げた。



……ワオーンって、お前……まあいいけど。



「・・・・・・ごめんな、ザフィーラ。わたし、つい――」

「お気になさらずに。我らの有利は変わりません。
下種な策を弄したところで、あの男の不利は変わりません」


 地中深くよりそびえ立つ、白光の柱――


俺の周辺を隙無く包囲した鋼の軛は、奴の命令一つで俺に猛襲する。

加えて相手は上空、素手の俺に攻撃が届く事は無い。

防御不能、逃走経路遮断、攻撃不可。

勝利条件を一つ加えたところで、悪足掻きに過ぎない――


奴はそう言いたいのだろう。


「御命令を、主。
貴方の一言で、私は貴方を勝利に導いて見せます」

「ザフィーラ・・・・・・、ありがとうな」


 ――異世界ミッドチルダで、人情劇を見せ付けるな。


完全に俺を敵役にして、盛り上がる騎士と主様。

麗しき主従愛を展開するのは結構だが、勝った気になるのはまだ早いぜ。

素晴らしい劇を見せてくれた礼だ。

貴様らにも見せてやろう。



日本の伝統技――その2を。



――この技の恐ろしさは、相手に直接触れる事無く精神に深い傷を与える点。

知名度は脅威、日本人なら誰でも一度はガキの頃味わっているであろう。

技の使用は容易、それでいて絆すら断ち切る効果を持つ。



・・・・・・はやて、許せ。



世間の厳しさを教えるために!

俺は心を鬼にして、今お前を倒す!

俺の魂の慟哭に応えるかのように、はやては凛々しき表情で号令をかける。


「ザフィーラ、御願い!」

「終わりだ、宮本良介。鋼の――!」


 グッバイ、はやて!

お前との日々は楽しかった。

心で血の涙を流しつつ、俺は人差し指を掲げて――





――明後日の方向へ向ける。





「あっ!? あんな所に久遠・・が――!」

「なっ!? 久遠殿・・・!?」





 ザフィーラは瞬時に獣人形態へ移行。

カッと目を見開いて、何故か襟元を整えて直立不動――



――空中に投げ出されるはやて。



当然――



異世界にも、重力は無情に存在する。



「ひゃああああああああぁぁぁぁーーーーー!!!」



 俺は満面の笑みで、両手を広げる。


――タッチの差で、腕の中に優しく収まる女の子の感触。


あんぐりと口を開けたままの、主を見捨てた狼さん。

俺の腕の中で、同じく呆然としたままのはやて。





――決着である。















「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 何が久遠殿だ!?」

「久遠が、いない――と、繋げるつもりだったんだ。
早とちりしたのは、お・ま・え」

「ふざけるな! もう一度勝負しろ!」

「嫌だね。負け犬に興味ねえ。
あの程度で集中力を乱すとは修行が足りんな、ふははははは」

「・・・・・・許せん・・・・・・

これまで数多くの敵と相対したが、これほどまでに敵に憎悪を抱いた事は無い!」

「よかったな、人生初だ」

「その二枚舌を引っこ抜いてくれる!」

「それはいいけど・・・・・・

お前の愛する主が、お前に何か一言あるみたいだぞ」

「――うっ、あ、主・・・・・・」


 勝負終了後、当たり前だが鬼のような形相で俺に掴みかかるザフィーラ。

そんな彼が冷や汗をかいて振り返った先に――



――満面の微笑みを浮かべたはやて。



地面に下ろされた彼女は何も言わず、小さく手招き。

怖っ。


・・・・・・可哀想なほど、ザフィーラは恐怖に震えて主の前で土下座する。


「申し訳ありません、主! 貴方に恥を――」

「ええねん、ええねん。仕方ないわ。
良介の提示する条件に乗ったわたしも悪いんやから」

「しかし、それでは私の気が済みません!
どうぞ、私に罰をお与えください」

「うーん、しゃあないな・・・・・・


ほな、一ヶ月ご飯抜きで」



 ――やっぱり怒ってるだろ、お前・・・・・・?



鬼のような仕打ちに、ザフィーラは硬直。


「なっ――! 


・・・・・・しょ、承知しました・・・・・・」


 ――流石にちょっぴり可哀想な気がする。

男泣きする守護獣に敬礼、立派な生き様だった。

俺はザフィーラの肩を叩き、袋から柿の種とスルメを差し出す。



はっとした表情で俺を見るザフィーラ。

何も言うな、と黙って首を振る俺。



――見つめ合う事、数秒。



友情が誕生した瞬間だった。

本来施しなどいらんと突っぱねるザフィーラも、一ヶ月の絶食を前に思考が狂っていた。

大人しくザフィーラは獣形態に戻って、最後の晩餐を食する。


スルメを齧る守護獣・・・・・・何も言わないでおこう。


絶食一ヶ月は死ぬ気がするが、スルメと柿の種パワーで何とか生き延びるだろう。

友情パワーで怒りも相殺、一応メデタシである。

美味そうに食っている獣は脇に置いておいて、俺ははやての元へ歩み寄る。

地面に座り込んだままのはやては、俺を見上げるなり溜息。


「ハァ・・・・・・、折角のチャンスやったのに」

「再チャレンジしても受けないぞ、俺は」

「・・・・・・分かってる、わたしかてそこまで見苦しい真似はせえへん」


 深く嘆息して、はやては顔を俯かせる。

ザフィーラに罰を与えはしたが、自分の敗北を素直に受け止める。

騎士達の主は優しくも、高潔な魂を宿していた。


「別にそこまで落ち込まなくてもいいだろ。
たかが引越しで」

「良介にとってはそうかもしれんけど・・・・・・わたしにとっては――


良介がどんな人か、わたしは知ってる。


知ってるから――怖い。

いずれ、離れていってしまうんちゃうかって・・・・・・」



 ――はやてと出会って、もうどのくらい経っただろうか。



幾つもの出会いと別れ、困難な人生の旅路を繰り返して俺達はこうしている。

ここまで来る事は決して、簡単ではなかった――


――やれやれだ。


「よっと」

「わっ。りょ、良介・・・・・・!?」


 座り込んでいたはやてを、軽く背中に担ぐ。

後ろから素っ頓狂な声を上げて、はやては動揺していた。


「まだまだお子様だな、はやては。軽い、軽い」

「な、何やねん突然!? 恥ずかしいやんか!」

「ザフィーラの方がいいか? なら、降ろすけど」



  「・・・・・・良介は、ほんま意地悪や・・・・・・」



 そう言いながら、はやては俺の首に手を回す。

温もりを求めるように、強く、強く――

はやてから甘い匂いが零れて、俺も頬が緩む。


「そんじゃ、帰ろうか。
守護騎士軍団も全滅したし、他に誰か来る前に――」





「――そうはいかん」





 足を、止める。

緩んだ空気を引き締める、鋭い声。

醜悪な殺気を微塵も感じさせない、高貴な戦意。

はやてを担いだまま、俺は前方を睨む。


剣を携えて現れた、長髪長身の麗人――



「――シグナム・・・・・・」

「今の言葉。
私を倒してからにしてもらおう、宮本」



   守護騎士達のリーダー。

麗しきベルカの騎士――烈火の将・シグナム。

最強の剣士が、俺の前に敵として姿を現した。



――厳しい眼差しで互いを睨み合いながら、戦力分析。



誤魔化しの通じない相手。

ヴィータの時のように誰かを盾にしても、遺恨を残すだけ。

フェイトですら及ばない程の達人に、素手では話にならない。

騎士道精神を貫く武人に、冗談は通じない――





――と思うのは、俺以外の凡人共。





俺は真剣な表情を見せつつ、心で笑う。

残念だったな、シグナム。

お前は確かに剣の達人、管理局でも有数の実力者。

だが、あえて予告しよう。



お前は、自分から俺に敗北を認めるだろう。


このカップ酒。





そして――日本の伝統によって。


















































































<戦闘終了 夜天の主・盾の守護獣×―〇孤独の剣士。

敗因: 
夜天の主:武田信玄
盾の守護獣:尊敬(?)

戦闘開始 烈火の将VS孤独の剣士(勝利宣言)

ポイント:ミッドチルダ辺境地域
(ザフィーラの魔法で、地面は穴ボコ)

負傷:頬にキスマーク・全身に埃

(後にはやてが洗濯・介護・・ダメージ100)

装備:カップ酒・スルメ柿の種・はやて(背中)



戦闘終了 鉄槌の騎士△―△湖の騎士



  状況:

ヴィータ、事態収拾に来た謎の魔法少女による説得・・で逃走→ミッドチルダへ

シャマル、事態収拾に来た謎の黒衣の少女を逆説得。口紅をプレゼント。

その後現場へ急行した知り合いの警察・・に、迷惑料にオイルを渡して逃走→ミッドチルダへ

オイル→さざなみ寮へ

被害状況:自然公園水没>








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